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SCA-Seed_GSCI ◆2nhjas48dA氏_第31話

Last-modified: 2007-11-30 (金) 19:35:18

 カガリ=ユラ=アスハのスピーチが他国に与えた衝撃は微々たるものであった。2年前の戦いで、世界の支配者たる彼ら彼女らがどれほど手段を選ばなかったかは周知の事実であり、テロリスト報道が事実であろうが無かろうが、世界の敵となるのは海賊まがいの非合法武装組織だからである。
 むしろ彼女の発言はオーブ国内を、とりわけ軍部を揺るがした。連合軍との協定をサボタージュまでして破談させたのは、ラクス=クライン擁する私兵集団と工作部隊『クライン派』に戦略的な価値を見出した
からである。トダカ一佐が敢えて自艦隊を壊滅させ、部下をアークエンジェルへやったのもその為だ。
 クラインの力を軽視していたセイラン家によって軍部が2つに割れ、ロゴス狩りのとばっちりでザフトに攻め込まれるというハプニングがあったものの、結果を見れば、オーブはつつがなく『勝者』になれた。
 アスハ系軍人がカガリに従っているのは、彼女がクライン派の核となるラクス=クラインとのパイプを持っているからに過ぎない。それほどまでに、ラクス達は万能すぎたのだ。
 なのに、戦後から2年しか経っていないというのに、カガリはラクスと意見を異にした。物資も権利も求めず、ただ賛同だけしていれば『歌姫の騎士団』による決定的な暴力を提供する存在に、背を向けたのだ。
 当然だが、オーブの理念というのは建前に過ぎない。中立国というのは何処にでも味方し、古い主を躊躇いなく裏切ってかつ、自分達の損害を最小限に抑えて国際情勢を乗り切るのだ。
 オーブ軍人にとって、今回のカガリの発言は重要な意味を持っていた。少数ながら常識外れの武力で圧倒的多数を捻じ伏せ、対等以上の外交関係を結ぶ事の出来るラクス=クラインを利用するか、強大なバックボーンを持ち、物量が豊富で地盤がしっかりした地球連合の旧主力連中を利用するか。
 困難な選択である。前者は負け知らずだが、パワーが個人に集中しており危険である。後者は組織が磐石だが負けが続き、あらゆる意味で規格外のラクス達に美味しい所を持っていかれた。
 声明が発表されてから6時間、軍部内部では休み無く会議が続けられた。リスクを回避すべきという意見と、勝っている今の内に、少しでも利益を掻き集めるべきという意見が衝突した。
 会議が始まって6時間後、プラントのスポークスマンを通じて『アスハ主席の発言を遺憾に思う』という、ラクスの短いコメントが発表され、会議は終了した。
 彼女の動きは速い。意見を合意に持っていく余裕すら無く、直ぐにでも決断せねばならない。2つに方針が割れたまま、彼らは活動を開始した。

「悪いなイザーク。来て貰って」
「気にするな。テロリストの認定が解除されたとはいえ、俺達の復隊は未だ許可されていないし、お前達は非合法の武装組織……海賊、だ。騙し討ちの可能性は否定できん」
「どっちかっていえば、俺達が騙し討ちしないといけないんだけどな」

 オーブに向かうメンバーは、当初の予想を超えた大所帯となった。最初は呼び出されたシンと、周辺の偵察と連絡役を務めるエコー7だけだったのだが、危険を冒してでも真実を伝えに行くという筋書きにイザークが食い付かない筈も無く、結局ジュール隊が丸ごと参加となった。

「チーフ、バスターノワールのスナイパーキャノンがFCSとリンクしないんですけど!」
「イージスブランのビームシールド、機内じゃテスト出来ません!」
「先輩Bブロックに来て下さい! そんな図面見てないで! 何ニヤニヤしてるんです!」

 大型輸送機の格納庫に響く喧騒。アズラエルがディアッカとシホに渡した機体の整備に、メカニック達が走り回る。輸送機も整備施設もスタッフもダイアモンドテクノロジーから提供されているので、止む無くアズラエルの要求を呑む事に――つまり社のPR活動に協力する事に――なったのだ。

「新型を貸してくれるのは有難いが、乗り換えの問題は困りものだ……ところでシン、お前は知っていたのか?」
「ん?」

 格納庫に置かれたベンチに座っていたシンは、イザークの方を振り返る。

「『最後の50人』なる連中の事を、だ」
「いや、全然。ただそういう連中はいるだろうと思ってたよ」
「俺達が住んでいたプラントには……そういう話は、まるで伝わって来なかった」

 コーヒーの空き缶を握り締め、イザークは眉を寄せた。

「核兵器を使えなくなった事だけが強調され……人的被害については、何ひとつ教えられなかった」
「だろうな。エイプリルフール・クライシスは酷かったから」

 シンは頷き、自分の持っていた缶をゴミ箱に放る。

「丁度あの後だよ。コーディネイターはナチュラルを浄化して、地球を資源衛星の1つにしようとしてるとか、宇宙の化物っていう呼び方が世界中に広がったりとかしたのは」
「『50人』は、俺達コーディネイターの……否、プラントの罪が形を成した物という訳か」
「そうかもな。でも、探し出して追い回す気にはなれないね。そんな暇も無い」

 肩を竦めるシン。輸送機のエンジン音に、眼を閉じた。

「俺の目的を邪魔するんなら、退いて貰う。それだけだ」
「目的、か」
「今はともかくオーブに行ってガルナハン基地の誤解を解いて、ミハシラ軍を元の姿に……今まで通り、海賊を専門に狙う海賊に戻す。俺はまた、中立エリアで暴れる奴らを襲う海賊になる」
「ハ! つくづく身の程を知らん男だな」

 シンの言葉を一蹴し、イザークは鼻で笑った。

「何が。別にアスハを糾弾するとか、クラインに叛旗を翻すとかじゃない。控えめだろ?」
「気付かないのか? そもそもお前の目的自体が……」
『間も無く、オーブ上空です。各要員は所定の位置に移動して下さい』

 降ってきた放送に、シンとイザークは瞬時に同時に立った。軍人教練の賜物である。

「じゃあ」

 軽く手を振って去っていくシンに、イザークは腕を組んで独りごちた。

「人の命を救う為、か。……身の程知らずの愚か者。傲慢にして欲深い事この上無い」

 言葉とは裏腹に、イザークの口元には笑みが浮かんでいた。

「だが、何故かな? 不快にはならん……」

「カガリ様、今からでも遅くはありません。先程の声明を、訂正して頂けませんか?」

 ソガ一佐の声に、護衛の兵を2人連れて行政府の廊下を歩いていたカガリが振り返った。彼の背後にアマギ一尉と他7名の姿を認めた上で、素っ気無く返答する。

「そのつもりは無い。理由も無い」

 かつての腹心に冷たい声と視線を浴びせ、彼女は言葉を続けた。

「尚、アスラン=ザラの軍籍を剥奪した。彼の意識が戻り次第、伝えるように」
「何故です、カガリ様! ザラ一佐はご友人であり、ラクス様の……」
「勿論だ。しかし私を裏切った。無断で私の名前を使い、無断で討伐隊なる武装組織を作って、無用の戦闘行為で民間企業を脅かした。裏切り者で、犯罪者だ。情状酌量の余地は無い」

 静かに、しかし胸の内に滾る想いを押し隠してカガリは告げる。眉間に僅かに皺を寄せ、細めた金の瞳でソガとアマギを睨み、口元から犬歯を覗かせる。
 獣じみた何かを感じ取り、兵士の幾人かが固唾を呑んだ。

「し、しかし相手は海賊であり、テロリストです。ザラ一佐はそれを討つ為に……」
「ミハシラ軍を必要とする場所もある。それに、ガルナハン基地の報告書は内容が一方的であり、信用に値しない。これからロンド=ミナ=サハクと会う為、空港へ向かう。同行の必要は無いぞ」

 そう言って背中を向きかけたカガリだったが、ふと思い出したように視線を落とした。

「私は……お父様に傾倒しすぎていた。平和や中立といった言葉の上辺だけにとらわれ過ぎた。その犠牲は大きく、この手でセイランを排し……国を間違った方向に進ませてしまった」

 兵士の視線が集まる中、カガリは下唇を噛む。

「償っていかねばならない。今度こそ私は、民を守り……」
「であれば、2年前にそう選択されるべきでしたな」
「ッ!?」

 声を落としたソガの手には、ハンドガンが握られていた。後ろの兵士も同様だ。

「セイラン家と契り、オーブを1つにして連合と結ぶ。確かに有効な選択でした。だが、カガリ様はそうされなかった。クライン派を利用するという選択を下した」
「ち……違う! 私はあの時、何も考えずに……」
「既にウズミ様は亡くなられていた。全てを考えておかねばならなかったのです、あの時から。それは理由になりません。あれは国家元首としての決断だったのです、カガリ様」

 ソガはかぶりを振り、銃を持ったアマギが進み出る。

「ラクス=クラインとそのクライン派は劇薬です。強力だが扱いが難しい。貴女は、その劇薬を今、扱い間違えた。ですから申し上げているのです。手遅れになる前に、劇薬が猛毒に変わる前に」

 ソガの言葉にカガリを護衛する2人が離れる。彼らもまた、『中立国の兵士』なのだ。

「もはや奇麗事を語る時ではない……カガリ様は成長なされた。ですから、我らもまた本心で、全てをお話ししているのです。我らオーブが、いかにして中立を保ってこられたのかを」

 銃をカガリに突きつけるソガ。全身を小刻みに震わせながら、仁王立ちするカガリ。

「お願い申し上げます、カガリ様。犠牲となるのは、ミハシラ軍のみではありませんか」
「それでも、駄目だ!!」
「止むを得ませんな。オーブの、為……なッ!?」

 カガリの背後、曲がり角に走り込んだ、動力付きのヘヴィ・ボディアーマー姿の兵士2人に、ソガの目が見開かれる。スタングレネードが投げ付けられ、それが炸裂する寸前に彼は発砲した。
カガリの左頬を掠め、鮮血が尾を引いてカーペットを汚す。
 閃光と轟音が爆ぜて、兵士達が床に這いつくばった。

「オーブ全軍に伝達!! ミハシラ軍の工作員によりカガリ様が襲撃された! 空港に向かい、速やかに彼らの機動部隊を無力化せよ! 殺害も許可する!」

 目も耳も利かないアマギが通信機に向かって怒鳴るのを尻目に、兵士の1人が動けないカガリを抱えて背負い、サブマシンガンのセーフティを外した。アサルトライフルを持った2人目の兵士が、オーブ兵達に銃口を向け、追撃する能力が無い事を確認して背中を向ける。

『クライン派の動きが早かったな』
『かつ、多数派だ。だが問題は無い。予定が早まっただけの話だ』

 念を入れ、外部音声ではなく内蔵された通信機で会話する『50人』。廊下を走り、非常口のドアロックをサブマシンガンで破壊して、避難通路の階段を駆け下りる。

『カガリ=ユラ=アスハ……獅子には、なりきれなかったという事か』
『ただ1つの決心だけで変われるほど、人は優れていない。当然の結果だ。……アスハを安全な場所に移せば、此処での我々の役目は終わる。作戦は、最終段階に入る』

 輸送機の格納庫からデスティニー兇発進する。真昼のオーブに黒と紅の機体が降り立ち、緋色のツインアイが瞬いた。続いてイザークが乗ったブルデュエル改が姿を現す。万一戦闘になった際は市街戦となるだろうという彼の推測に基づき、肩のグレネードキャノンは外されていた。

『ディアッカ、シホ! どうした!』
『悪い悪い、武器がちゃんと動かなくてよ……』
『出力系が上手く調整できなくて……あと少しで出られます』
『急げ! 状況は始まっているぞっ!』

 何時も通り、大声で部下を叱咤するイザークに苦笑し、シンはヤラファス島の空港から見える行政府に機体を向けた。カガリ達とはこれ以上付き合いたく無いが、自身の目的の為には仕方ない。

「そんな慌てなくて良いんじゃないのか? 戦闘があるわけじゃないし……」

 同行させなかったヒルダ達の事を思い浮かべる。ドムトルーパーの主武装は炸裂兵器であり、市街地で使って欲しくない。そして、退屈した彼らがオーブ軍相手に揉め事を起こす事を恐れ、戦闘は無いからと何度も言い聞かせて、アズラエルの乗るハンニバル級の警護をさせる事にしたのだ。

「冷静に……冷静になれよ、シン=アスカ。余計な事は言わずに……」
『シン、油断しないで下さい。オーブ軍に、妙な動きが見られます』

 通信機越しに入ってきたエコー7の声に、シンは片眉を上げた。輸送機からムラサメ偵察型が現れて、デスティニー兇遼気卜つ。

『MS隊が幾つか、この空港に向かってきています。足が速いので、ムラサメ隊でしょう』
「ああ。そろそろ司令官が来るし、出迎えじゃ無いんですか? ……あ、来た」

 レーダー上に光点が映り、シンは顔を上げた。オノゴロ島から出発したらしい部隊が、真っ直ぐ向かってくる。
 突然、機内にアラームが鳴り響いた。ロックオンの警告メッセージがモニターに浮かぶ。

「なぁっ!? ……迎撃する!」
『俺達は輸送機を守るぞ! ディアッカぁ!』
『ごめん、もうちょっと!』
『待てんわ!!』

 紅の光翼を広げ、デスティニー兇青空に飛び立つ。左右の掌部から光弾を放ち、MA形態のムラサメがそれを回避した所で加速した。一瞬の交錯でムラサメを踏み付け、バランスを崩させる。

「チッ、ヘタに墜とすと下の民間機が……降下ポッド!?」

 煙を引いて落ちてくるそれに目を向けるシン。上空からの侵入者にムラサメ隊も180度旋回してMSに変形した。減速用のブースターが切り離され、外殻が割れる。黒と金に彩られた姿、一瞬垣間見えた。
 ムラサメ隊のビーム射撃が集中し、ポッドが破壊された。爆炎がオーブの空に咲く。

「ぁ……!」

 デスティニー兇旅い機体に、ポッドの破片が当たって乾いた音を立てる。直後、爆発に背中を向けたムラサメが唐突にバランスを崩した。青空の一部が変化し、黒い一対の大鋏が機体を挟み込み、激しく放電させる。青く光るツインアイと、額部のモノアイが浮かび上がった。

「サハク司令官!」
『シンか。こうしてまみえるのも久方ぶりだな』

 二振りのビームクローをかざし、デスティニー兇アマツの背後に回り込む。

『この者ども、攻撃して構わなかっただろうか? 反射的に手が出てしまったが』
「はい、俺達に襲い掛かってきました。……多分、正規軍ですが」

 覆い被さっていたムラサメを足蹴にし、アマツは跳躍した。マガノイクタチを翼の如く広げ、降り注ぐ陽光を遮った。

『降り掛かる火の粉か。ならばよし』

 黒と金、黒と紅。禍々しき鋼の巨人達が、『平和の国』の蒼穹を穢す。

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