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SCA-Seed_GSCI ◆2nhjas48dA氏_第40話

Last-modified: 2007-11-30 (金) 19:39:35

 アメノミハシラとアークエンジェルから離れ、青と白の地球を背に負ったデスティニー供
それを見つめていたキラは目を閉じ、俯く。数秒後に目を開いた時、彼の瞳からは焦点が失われていた。
 スーパーコーディネイターである彼の強み。それは、自分の意思でSEEDを発動できる事にある。
他者を寄せ付けない反射能力と鋭い感覚を自在に操る事で、彼は反撃を受けず一方的な砲撃を繰り返し、大軍をも殲滅するのだ。
 自機のSフリーダムも装甲を極力排除し、己の反応速度に追従できるよう調整してある。
ウィングユニットに格納された機動兵装スーパードラグーンの機動性は、並のパイロットでは補足できない。
何が起こったかも解らないまま、彼らの殆どは敗れ去るのだ。2年前のシンも例外ではなかった。
 FCSが黒と赤の悪魔を捉え、規則正しい電子音が繰り返し響く。マルチロック。Sフリーダムの火器全てがデスティニー兇望判爐鮃腓錣察発射準備を整えた。
自軍のザフト艦は動かない。
ミハシラ軍とアークエンジェルの眼前でSフリーダムがデスティニー兇魴眥討掘彼らの戦意が崩れ去る瞬間を待っているのだ。
「この一射で終わらせる……全て!」
 焦点を失った瞳のまま、キラが叫ぶ。トリガーを引き絞った。Sフリーダムの翼が開き、8機のドラグーンが青白い光の尾を引いて発進。
自機の周囲を駆け巡り、全機、突撃する。
両腰のレール砲が前方に跳ね上がり、両手に持った2丁のビームライフルの銃口が輝いた。
「当たれええぇっ!!」

「駄目だ……」
『シン! 何をしている、動き続けろ……死ぬぞ!!』
 目の前で展開される大火力。距離を詰めて来るドラグーン。Sフリーダムが持つ黄色のツインアイ。
全てがシンを萎縮させる。自分の家族を殺し、オーブの空に舞った蒼き天使。デストロイの胸部を刺し貫いた自由の象徴。
それを前にした瞬間、みなぎっていた戦意が消え失せてしまった。
「俺じゃ、勝てない」
 過去に味わった全ての挫折、恐怖、絶望がシンを押し潰す。警報が響き、ほぼ全方位からロックされた事をシンに伝える。
しかし動かない。2年前のように、都合良くSEEDも発動しない。
「やっぱり……」
 デスティニー兇慮翼が弱まる。Sフリーダムのレール砲とビームライフルが発砲され、光芒が視界一杯に広がった。
必殺の威力を乗せた砲撃が禍々しい悪魔を撃ち貫く――
――前に、軽く右脚を振って慣性をつけたデスティニー兇身を捩って回避する。

「ぁ……れ?」
 Sフリーダムに右半身を向けたまま血色の光翼を再展開し、ドラグーン1発目を前方に、Sフリーダムから見て右側に動いてかわす。
身を屈め、膝裏と両腰からスラスター光が噴出しバック宙で2発目を避け、捻りを加えてSフリーダムに背面を見せつつ最大加速で3発目と4発目をかわし、再び発射されたレール砲の弾丸を右肩のスラスター噴射のみで回避。
「遅い?……いや」
位置取りをやり直したドラグーンが5発目を撃とうとした時、デスティニー兇呂發β興茲砲い覆ぁ
巨大な光翼とスラスター光を引きずって、Sフリーダムの相対的下方へ『落ちて』行く。
8条のビームが空しく地球の蒼に吸い込まれ、ドラグーンはエネルギーを使い果たして母機に帰還した。
 闇の向こうで紅光が旋回した。翼がたわめられ、大きく力強くはばたく。Sフリーダムの腹部ビーム砲が光を放ち、2丁のライフルを連結してパワーがチャージされる。
真紅の大出力ビームが腹部より放たれ、翼をはためかせたデスティニー兇回避した直後、連結ライフルによる長距離射撃。
「こいつ、何を狙ってる……」
 緑のビーム光が左膝を掠めて火花を散らす様を、シンは何処か現実離れした心地でぼんやりと見送る。
右腕のビームライフルがSフリーダムへと向けられ、加速。ツインアイが残光を引く。
鉤爪を持った左手が一度握り込まれた後、紅光と共に開かれてビームクローを形成した。
ケーブルによって上腕に接続され、本体から直接エネルギーを供給された大柄のライフルが吼える。
光の粒子を纏わり付かせ、Sフリーダムの腹部ビームに迫る程の出力を持った光熱の矢を、蒼翼の天使は軽々と回避し、ライフルの連結を解いて両手に構えて連射した。
 紅眼の悪魔も、肩と腰の大型スラスターから噴射光を覗かせてビームの雨を掻い潜る。前進の速度を緩めないまま、真正面に放たれた最後のビーム光を羽虫でも叩き落すようにクローで弾き、肉薄する。
ドラグーンを使おうにも、余りに距離が近すぎて母機であるSフリーダムを誤射する危険があり、射出できない。キラは歯噛みし、素早くキーを叩く。
 武器をホルダーに戻す時間は無い。Sフリーダムはライフルを手放し、腰のサーベルを掴んで逆手に構えた。ビーム射撃を受け流したクローを左のサーベルで受け止めた。
 ビーム刃同士が擦れ合い真っ白なスパークを散らす。Sフリーダムの腹部ビーム砲を貰わないよう左半身に斬り掛かったので、右腕のライフルが向けられない。睨み合う両者。
「ふざけるなよ。遊びに来たのか? ……キラ=ヤマト」

『何で……どうして、こんな!?』
 Sフリーダムの上体が捻られ、腹部のビーム砲を向け右手のサーベルを振おうとする。
しかし力の均衡が崩れた一瞬、デスティニー兇留Φ咾跳ね上がり、回し蹴りが脇腹に突き刺さった。
『くうっ!』
 追加装甲が施された脚部による蹴りで、2機が離れる。サーベルを戻したSフリーダムが、ドラグーンを射出。自機の周囲に留めてデスティニー兇鮓制しつつ、捨てたライフルを回収した。
デスティニー兇發泙殖咼侫蝓璽瀬爐寮橘未卜たないよう、光翼を広げて旋回しつつ、右腕のライフルをSフリーダムの方へと向ける。
 ザフトの部隊は、動けなかった。キラが乗ったSフリーダムが自軍に参加しているというのに、恒例のワンサイドゲームが始まらない。始まる気配さえない。
 防衛側も動けなかった。敵と味方が陣形を組んでいるど真ん中で、しかもSフリーダムが張る弾幕を前にしてはどうしようも無い。
何より、彼らは信じられない物を前にしている。
 ストライクフリーダムが、1機のMSを突破できていない。ドラグーンなど持たず、圧倒的な火力も無く、今までのぶつかり合いではビームシールドを使ってもいない。
それなのに互角か、見ようによっては互角以上の戦いを繰り広げているのだ。
『どうして……?』

 ヘリオポリスで戦闘に巻き込まれGAT-X105ストライクに搭乗した時、キラの置かれた状況は最悪だった。
自軍側のまともな機動兵器がストライクとメビウス・ゼロ以外に無く、敵はストライクと同等の性能を持ったXナンバー4機に加え、ジンなどのMSを際限無く――キラ達の状況から見れば、という意味で――送り込める。
 生き延びるだけでなく、全長420mの巨艦アークエンジェルを護衛せねばならず、また敵の中には親友がおり、しかしアークエンジェルにも友人がおり、何より軍事教練の経験も無い。
艦内唯一のコーディネイターとして疎外感を覚え、他の連合軍人からは敵としてうとまれ、息つく間も無くコーディネイター達『ザフト』に攻撃され続けた。
 だが、ノイローゼ寸前まで追い詰められ、ヒステリーを起こしかけながらもキラは戦い抜いた。スーパーコーディネイターだからこそやり遂げられた事だった。
 MSパイロットとしての技量も際限無く向上し、彼はザフトレッド4人相手に有利な戦闘を展開できる程となった。極限状態がキラの才能を開花させたのである。
 しかしアスランが乗ったイージスの自爆で機体を失った後、彼の周辺状況は一変した。

 ラクスに託された最新鋭機フリーダムに乗ったキラは、培った操縦技術もあいまって怪物じみた力を振う事となる。
連合の強化兵士ブーステッドマンやラウ=ル=クルーゼなどの強敵はいたが、圧倒的な物量差に恐れる必要は無くなった。
 何より彼にとってマイナスだったのは、周囲を良き理解者が固めてしまった事だ。精神的負担こそ生物としてのキラ=ヤマトを研鑽する要素だったのである。
1つ目の悲劇だった。
 そして戦争が終わって2年が経過し、再び新たな火種が世界で燃え上がった時、キラは戦場に舞い戻った。再度の戦争を止める前の戦いは、しかし事のほか容易く進む。
何故なら、彼と同等の技術を持った者が哀しいほど皆無であり、劣勢を覆す試行錯誤も死に立ち向かう覚悟も必要としなかったのだ。
当然だが、通常の人間は必要にかられなければ研鑽などやらない。
 またキラは、目的にも関わらず孤立無援では無かった。オーブやスカンジナビア王国から援助され、立場を保障されたも同然であり、常に安全な場所に立つ事ができた。
 正しい事をやっていると信じ込み、戦えば敵無し。周囲は惜しみない援助と賞賛を送り、誰も彼らに対し批判的な言動をとらず、苦悩も苦労も無い。
このような状況に置かれた青少年が一体どういう精神構造を持つか、想像に難くないだろう。2つ目の悲劇である。
 そんな中、幸運の女神はキラに最後の微笑みを向ける。機体性能、パイロット技能共に自分より劣るシン=アスカに敗北した。
無敗のシンボルだったフリーダムも大破させたのだ。しかし、またもキラを悲劇が襲う。彼はこの時戦闘に集中できておらず、自分の操縦技術を疑わなかったのだ。
 そして、この悲劇を駄目押しする事件が起こった。ストライクフリーダムの受領である。
その時点で他のMSを遥かに上回る機動性、火力を持つ超兵器を手にしたキラは、シンのデスティニーをあっさり撃退。
他のザフト兵や連合兵など、言うまでも無かった。正式な訓練を受けないまま歪な進化を遂げたキラの技術は、確かに一定未満の技量しか持たないパイロット達に対し絶大な効果を発揮した。殆ど無敵と言って良い。
 更に悪い事に、『一定』の水準を満たした数少ないパイロットだったレイ=ザ=バレルは、キラの言葉で意識を掻き乱され、実力を発揮できないまま敗れた。
そして現在に至る。
 4年間ものあいだ、キラの技術は停滞していたのである。当たり前だ。誰も彼もが先制のフルバーストで沈んでしまうのだから、技術が向上する筈が無い。
キラの前に現れる敵は、みな『一定』を越えていなかった。技術は更に歪み、彼は強敵への対応を忘れてしまった。
 精神的な重圧も批判も無く、身体が傷つく心配も無い。しかも高い地位は保障済み。
一見すれば理想の姿。実際は悲劇の産物。キラに起こった出来事の内、どれか1つでも好転していれば防げた事態。彼にとって、シン=アスカはまさに悪夢だった。

「今だ! 今しかない!!」
 ナスカ級ブリッジに響いたアーサーの大声に、クルー達が一斉に振り返った。
「トイレですか? 早めに帰って来」
「ちがうよ攻撃だよ攻撃! エンジンスタンバイ! ローラシア級に通信を!」
「えっ!? で、でも、せめてキラ様が優位に立ってからの方が……」
 アビーの言葉に、アーサーは人差し指を立てて振り、舌を打った。余りに似合わぬ仕草にブリッジの雰囲気が気まずくなる。
「え、ええと……ね? バート君、アメノミハシラの構造図あるよね?」
「あ、はい」
 索敵担当のバートが手元のコンソールを操作すると、軌道ステーションの設計図がブリッジのサブスクリーンに浮かび上がった。
その中で、3つの区画が赤く表示される。
「それぞれ発着デッキ、エネルギーブロックのバイパス、通信施設だ。ステーションの主要施設であり、此処を破壊すれば無力化したと言えるだろう。
そしてナスカ級の火力なら、おおよそ2分間で破壊し終える。つまり、任務を完了できる」
 思わずアーサーと図面を交互に見る一同。確かに、完全無欠の宇宙要塞などは存在せず、必ずと言って良いほど、セキュリティリスクが一点集中するポイントが存在する。
だがまさか、『あの』アーサー=トラインがそれを指摘する日が来ようとは思わなかったのだ。
「ですが艦長……我々は今、あのアークエンジェルを前にしています」
 操艦担当のマリクが不安そうに表情を向けられても、アーサーはうろたえなかった。
「問題無い。最初期の航空戦艦であるアークエンジェルには、致命的な弱点がある」
 火器担当と操艦担当の2人を前にして、アーサーは深呼吸し言い放った。
「艦体底部に、殆ど火器がついてない」
「うっそ、マジで!?」
「マジで。エンジェルダウン作戦があったろ。あの時に調べたんだ、へへ」
 得意げに鼻の下を擦った後、アーサーは右手を前に突き出した。
「アークエンジェル最強の砲であるローエングリンは固定装備だ。ナスカ級の機動力で、こう、螺旋状にというか樽の内側に沿って進む感じで陽電子砲を避けて……」
「艦底部に密着する! ……コンピューターは、出来ると言っています。成功率85%!」
 手首を返し、くねらせて説明するアーサーにマリクが頷いた。
「し、しかし後方で待機しているイズモはどうします? 元々航宙艦のあれは……」
「そこは、アメノミハシラ自身を盾にする。要は、2分稼げれば良いんだ。それに」
 今や全ブリッジクルーの視線を一身に集め、武者震いと共にアーサーは続ける。
「ロンド=ミナ=サハクはひとかどの人物だ。その彼女の指揮下にあるイズモが、軌道ステーションから遠ざかった場所にいる。シャトルが発進して随分経つし……」

 顎に手をやって、アーサーは薄い笑みを浮かべた。
「彼女にとって重要な物は、もう残ってないんだろう」
「通信、繋がりました!」
「あ、格納庫のMS隊も呼んでおいてくれ」
 アビーの声と同時に、スクリーンにローラシア級の艦長が現れた。
『おぉ、どうしたアーサー。トイレか?』
「違いますよ!! 今からアメノミハシラに突撃します。チェックしてみて下さい」
 顎髭をたくわえた、見るからに逞しい艦長は、送られたプランを横目でチェックする。
『……まあ、悪かねえな。で、俺に何しろってんだ』
「火砲援護をお願いします。アークエンジェルとは軸を合わせないようにして下さい」
『任せろ。しくじるなよ!』
 通信が切れ、次に格納庫に立つMS隊の隊長が表示された。
「緊急だ。全機出撃してくれ! ただし本艦の前には出ない事。回り込んでくるMSの迎撃に当たって欲しい。戦闘時間はおおよそ2分!」
『良いのか? キラ様のご活躍を差し置いて』
「だからさ。相手の意表を突ける。彼ら、僕達を虎の威を借るキツネだと思ってるし」
 獰猛な笑みを浮かべる隊長に、アーサーは笑い返した。
「それに、ザフトは実力主義だ。白服さんのご機嫌を伺うつもりは無いよ」
 顔を上げ、黒服の艦長は席を立った。制帽を被り直し、右掌を正面に翳す。
「B区画まで減圧急げ! 総員、スーツの気密チェック! 全砲門開け……全速!前進!」

『シン、ナスカ級とローラシア級が1隻ずつ動き出しました! MS隊を展開しています!』
「キラが、俺を仕留める前に? 本当か……」
 イージスブランのシホからもたらされる報告に、シンは眉を寄せる。
「サハク司令と、エコー7は?」
『どういうわけか、イズモと同様に通信できません。レーダーでも確認できず……』
「何やってんだよ、あの人達は。俺達の基地なのに……くっ!」
 ロックオン警報が響くと同時、シンはコントローラーを倒し、ペダルを踏み込んでドラグーンを回避する。細いビーム光が縦横無尽に降り注ぐ中、悪魔が舞い踊った。
武器の射程と火力がデスティニー兇糧罎任鰐気ぐ幣紂敵の優位性はまだ崩れていない。
「とにかく、そっちを頼む。俺はキラをこ……」
 背筋を寒気が走ったのは、レール砲の弾が直ぐ傍を掠めていったからではなかった。
「……キラを、押さえておく」
 押し殺した声で告げ、シンは通信を切った。予想外の戦況が、彼の心を揺さぶっていた。
「落ち着け。目的を、忘れるなよ……シン=アスカ」
 自分に言い聞かせ、シンは自由の名を冠した天使を睨み付けた。

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