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SCA-Seed_GSCI ◆2nhjas48dA氏_第43話

Last-modified: 2007-11-30 (金) 19:40:53

「ザフト艦隊、撤退しました……」
「僚艦は見捨てたか。妥当な判断だな」
 アークエンジェルのブリッジで報告を受けた艦長は、小さく唸った。
「各ブロックの損害を確認せよ。君、大丈夫かね?」
 エチケット袋から口を離した女性オペレーターが、青ざめた表情のまま頷く。
「はい、申し訳ありません。あんな風に戦うMSを見た事が無く……」
「ふむ」
「まるで、人間が殺し合っているようで……『思い出して』しまいました」
 軽くため息をつき、艦長は制帽を脱いで髪を掻き乱す。
「実際、殺し合っていたのだがな?」
「申し訳、ありません」
 執拗に敵機を追い掛け回し、ライフルを棍棒のように何度も振り下ろして痛め付ける。
戦術的行動と無縁の戦い方は、確かに不気味でグロテスクだった。彼女ほどではないが、
他のブリッジクルーも幾人か気分が悪そうにしていた。
 無理も無い。彼らは、生の戦闘というものを殆ど経験していないのである。
「君達の精神までも縛る軍規は、存在しない。だから幾ら気分が悪くなろうとも構わんし、
吐いても良い。……掃除して貰うが。あと、なるべく私の服にはひっかけないように」
 弱々しい笑いがブリッジに生まれた。
「しかし、任務は確実に遂行したまえ。君達の情報伝達が遅れれば、艦を守る兵士が死ぬ。
……移乗白兵戦の凄惨さは、先ほどの比ではないぞ」
 再び押し黙る艦内に艦長は嘆息する。優秀なクルーだが、彼ら彼女らにとっての戦闘は
あくまでスクリーン越しの出来事なのだ。それもそれで、長所とはなるのだが。
「まあ……確かに、おぞましい光景ではあった」
 キーを叩く音、艦内からの報告に応対する声に身を任せつつ、艦長はデスティニー兇
見遣った。虚空に漂う、黒と赤の人型。
「やはり、海賊は海賊だな」

「デスティニー桐僂離僉璽弔鮴僂鵑瀬轡礇肇襪、オーブから発進したそうです。合流は約1時間後」
「しばらく寝られんなぁ」
 アークエンジェルの格納庫で、ダイアモンドテクノロジーの研究員とその後輩が同時に
肩を落とす。戦闘終了から8時間が経過し、デスティニー兇僚ねが進んでいた。
「お嬢様も乗っていらっしゃるみたいですね」
「え!? 何で!?」
「正規じゃない商品を扱うから、いちいち使用許可を出さないと駄目なんだそうです」
「やりにくいな。お嬢様とはセンスが合わないからなぁ」

「ところで、デスティニー兇硫修パーツですが……どんなのなんです?」
 後輩の言葉に、研究員は得意げに胸を張った。
「まず、ベイオウルフ用の新型ストライカーパックについて述べよ」
「空戦、高機動戦用の『ランナーパック』に、砲戦用の『アーティラリーパック』です」
「3種類目が存在するのだよ。いや、正確に言えば最初期に開発したんだが。まだ、ベイオウルフに
核エンジンを積む方向で、プロジェクトが進んでいた頃に……な」
 眉間に皺を寄せて、後輩が口を挟む。
「2年以上前じゃないですか。そんな旧式をいまさら引っ張り出すんですか?」
「いや、改良は続けていた。私の独断で、予算を少しずつかすめ取って」
「何度も思うし言ったけど、よくクビになりませんね先輩」
「『アサルトパック』。そういうシンプルな名前がついていた」
 後輩の言葉を無視し、研究員はメンテナンスベッドに横たわる機体を見上げた。
「パックとは言ってもアレは……喩えればMS用のエグゾスケルトンだ。無重力戦闘及び
月面などの低重力下戦闘を想定して開発されたもので、1G下では使えん」
「で、役に立つんですか?」
「ああ。ただな……」
 一度口ごもり、研究員は顎に手をやった。
「ウィングユニットとの干渉を何とかせねばならない。単純な作業だが。あと、見た目がちょっとな」
「格好悪いんですか?」
 後輩の問いに、未練がましくかぶりを振りつつ研究員が答えた。
「というより、気色悪い」
「プランAよりも?」
「あれは格好良いだろう!!」
 後輩を一喝し、彼は白衣を揺らして再びデスティニー兇鮓上げた。
「……アサルトパックは両腕両脚を換装する。胴体部分の修繕を急ごう」
「はい。でも、シン=アスカに扱えるんですかね? その新装備」
 格納庫の床を蹴って流れる研究員を追いかけつつ、後輩が訊ねる。
「大丈夫だろう。データをPDAに送ってあるから、もうシミュレーターで試してる筈だ」
「いや、今頃はまだ休んでるでしょう? 激戦を潜り抜けた後なんだから」
 その言葉に、研究員が壁際の出っ張りを掴む。呆れ顔で後輩を振り返って、肩を竦める。
「それは本気で言っているのか?」
「はい?」
「君には、シン=アスカが、戦いに疲れて休憩しそうに見えるのか?」
 いまいち意味が飲み込めない後輩は、ただ首を傾げるばかりだった。

「見ろよ、7時間ぶっ通しでやってるぜ。シン=アスカだったっけ?」
「次の実戦まで待ちきれないって奴か。海賊って、皆ああなんだろうな」
 連合軍によって接収された際、アークエンジェルに設置されていた浴場が取り除かれ、
代わりに最新式のシミュレータールームが建設された。真新しいその施設の片隅で、1台の
マシンが動き続けている。
 開かれたダストボックスの中には、薬を収めていた銀のフィルムが無数に散乱している。
水の入った2本のボトルが傍に置かれ、1本は中身が半分ほどに減っていた。
「このライフル、反動が凄い。3連射じゃないと駄目だ」
 マシンに入り、青白いモニターの前で呟くシン。キーを叩き、自分用のPDAに結果を反映させる。
「ソードの方は……データ、大丈夫か? 15メートルの長物をこんな風に振れるなんて」
 指が絶え間なく動き回り、何十回と繰り返したシミュレーターのデータを読み出し、PDAに入れて
比較する。紅の瞳がモニターの強い光を受け、瞳孔が収縮した。
「もう一度、ミサイルを試すか……ん?」
 PDAのディスプレイを消し、シミュレーターのコンソールを操作したその時、卵殻の
ような天井のカバーが開いた。
「シン、休んで下さい」
「大丈夫ですよ、エコー7。トイレには行ってますから」
 シートから起き上がったシンに笑いかけられても、エコー7は笑い返さなかった。
「薬物は万能ではありません。貴方には休息が必要です」
「けど、俺には戦闘態勢を整えておくっていう責任が……」
「命令です、シン」
 エコー7の言葉に、シンは口をつぐんでじっと彼女を見つめる。紅の瞳に浮かぶじっとりとした澱みに、
エコー7は大きく息を吸い込んだ。
「その命令は……サハク司令官からの?」
 俯き加減のまま、やや上目遣いにエコー7を凝視するシン。周囲で見物していた連合軍人達が、思わず
一歩後ずさる。黒髪紅眼の青年に、嫌悪と恐怖の視線が集まった。
 別に、彼が不快な行為に及んだわけではない。滲み出す狂気が、周囲の空気を蝕むのだ。
「そうです。貴方は戦力。実戦以外で無闇に消耗するのは好ましくないという、司令官の判断です」
「そう。じゃあ、仕方ないですね」
 エコー7から視線を離したシンは、マシンから這い出して水の入ったボトルを手に
取った。手元のPDAを掴む。

「そのPDAも渡して下さい。貴方への命令は、『休息』です」
「渡すのも、命令ですか?」
「こちらは『お願い』です」
 再び沈黙が訪れる。ややあって、シンがエコー7に歩み寄り小型端末を手渡した。
「解りました。シミュレーションデータ、バックアップを取っておいて下さいよ」
「了解しました」
 座り通しだったからか、多少ふらつきつつシミュレータールームを後にするシン。後に
残されたエコー7は、周囲の視線を気にせずマシンに入り、データに目を通す。
「シン……」
 モニターに表示されたスコアを見て、そっと名前を呼ぶ。
「何時でも戦えると……そういう事なのですね」
 声には、悲しみが混じっていた。

『納得できません!』
『別に納得しなくて良いよ。君は連合軍人で、これは命令だから。それとも抗命するかね?』
 イズモの通信室に座るロンド=ミナ=サハクは、眼前で繰り広げられるアークエンジェルの艦長と
連合軍高官とのやり取りに苦笑いを浮かべる。
『そうは仰いますが、どう考えてもマトモではありません! 海賊共の本拠地を守ったと
思えば、次は協力して作戦行動にあたれと!? あまつさえ、ザフトの捕虜とまで……』
『今は、何処もかしこもマトモでないのだよ。我々は、利用できる全てを利用せねば
ならん。ラクス=クラインの脅威に対抗する為にな』
『む……』
 押し黙った艦長に笑みを向けつつ、ミナは口を開いた。
「クラインの力の源である『ファクトリー』。その在り処が明らかとなった以上、調査する必要があろう」
『その情報の出所は? サハク代表』
「それは言えぬ。少なくとも通信では」
 手元のメモリスティックを―オーブ行政府で、シンがカガリから直接に、内密に手渡されたそれを―
そっと包み込み、微笑む。
『フン、海賊などというのは信用できませんな。大体サハクといえばヘリオポリスで……』
「その先は言われるまでもない。しかし、今は互いに力を合わせねばならぬ」
『ならば答えて貰いたい。どのレベルまで力を合わせるつもりなのか?という事を』
 軍人より政治家が似合いそうな将官が、深々と溜息をついて艦長の方を向いた。船乗り
を思わせる短髪に浅黒い肌を持つ彼に、咳払いひとつして言葉を向けた。

『理解しているだろうが、君に戦略上の決定権は無い』
『理解はしております。小官の危惧するところは、クラインが倒れた後にサハクの……』
『では、下がりたまえ。通信を切断してよい』
『ハッ』
 ウィンドウが1つ消え、部屋の闇が増した。
『……あんな感じだが、能力に問題は無い。安心したまえ、サハク代表』
「戦歴に目を通したので、知っている。先程の危惧も的確であった」
 低く笑い、ミナは目を細める。彼女が嫌うのは反対者ではなく、無能者だからだ。
『コーディネイター嫌いだが、ブルーコスモス思想も等しく嫌っている男でね。戦時中は
さぞ窮屈な思いをしたと思うが、余り気にしておらんようだな』
「ああ。連合軍は去年からコーディネイターの入隊を許可したようだが、許可に最後まで
反対したのも、軍内部でのコーディネイター差別に最も目を光らせているのも、あの男
だと聞く。全く、不器用な事だ」
『うむ。言っている事もいちいち正しい。連合軍が海賊に肩入れするなど、ネオロゴスの
ご婦人方の圧力が無ければ有り得ん話だからね。……見返りが期待できるかは、謎だが。
ファクトリーに行って調べるというのも、結局は……な』
 ミナと老軍人が視線を合わせ、どちらからともなく笑みを形作る。
『私もサハク代表も、彼女達の道具という事だね』
「同時に我々にとっても其方にとっても、ネオロゴスは便利な道具。全ては、何かの為の
道具であろう。ラクス=クラインや歌姫の騎士団とて、その繋がりの一部に過ぎん」
 世界の暗部に通じてきた彼女は、そう言って光の中に真っ白な左手を翳した。
「それを解さぬ者が、分不相応な力を持てば……」

 通信を終えた後、ミナはプロジェクターにメモリスティックを差し込んだ。スクリーン
に2つの姿が浮かび上がる。
 4枚の翼でずんぐりとした胴を抱え込んだ純白の大型モビルアーマー。両端から矢印
が伸びて、夥しい数の武装が書き込まれていく。頭部と思われる場所には、ジンのような
モノアイとトサカ状のアンテナが突き出していた。視線を右に動かすミナ。
 5つの、互いに重なり合う真鍮色のリングを貫く巨大な砲。リングと砲身には姿勢制御用
スラスターが多数取り付けられ、砲の出力や全長など、詳細データが加わっていく。
「大型機動兵器『エンブレイス』、戦略砲『セレニティ』……」
 最後に表示された名前を読み上げ、ロンド=ミナ=サハクは小さく息を吐く。
「『抱擁』に、『静穏』か。まさしく、平和の歌姫に相応しい」
 薄闇の中、彼女は唇の両端を吊り上げた。

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