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SCA-Seed_GSCI ◆2nhjas48dA氏_第44話

Last-modified: 2007-11-30 (金) 19:41:21

 ナスカ級の格納庫にMSが運び込まれた。両手、両脚、頭部、推進機関を全て破壊され、すっかり小さくなってしまった機体の傍に、黒い遺体袋がそれぞれ1つずつ置かれている。
「殺されたんです……私の仲間は、あのテロリストに殺されたんです!」
 目を赤く腫らした緑服姿の青年が黒服を着た副長に猛然と食ってかかり、アプリリウスワンの議会を映す中継モニターを指差した。ステージ用の衣装を着たラクス=クラインと、FAITHバッジ付きの白服を身に纏うキラ=ヤマトが、プラント市民からの歓声に笑顔で手を振っている。
「……キラ=ヤマト様は、コクピットを破壊していない」
「即死させなかっただけだ! こんな状態にされた機体を戦場で放置すれば、乗っているパイロットがどうなるか理解できる筈だ! 彼には、解っていた筈だ!!」
 絶叫に、機体を回収したパイロット達が、整備兵が、そして副長が皆視線を落とす。
「あの方は……人の未来を殺す、デスティニープランを……」
「私の仲間は死んだんだ!! しかも……しかも、極悪人ギルバート=デュランダルの手先として、正義の味方『歌姫の騎士団』に殺されたんです! キラ=ヤマトが殺した!!」
 喚き散らす青年が嘆いているのは、物事の不公平性に対してではない。部隊の仲間を救えなかった事、自分だけ生き残った事に、彼は絶望していた。
「誰にも、回収されないまま……エアが……無くなるまで……」
 身を屈め、嗚咽し始める。モニターの向こうで、壇上のラクスが演説を始めていた。
「彼らが勝ったからですか? ザフトを蹂躙するほどの力があったから、彼らはあそこに立って平和を謳っているのですか?」
「そうだ。彼らは勝者だ。戦争が終わり平和になったと、そう歴史に綴ったのだ」
 青年に背中を向け、副長は深呼吸し感情を押さえ付ける。
「……そして帰還次第、君を除隊させるよう国防委員会からの通達があった。度重なる『反平和的活動』は、同胞に悪影響をもたらしかねないという理由だ」
「雑音を殺して……あのお2人に、快適な暮らしを提供しようって事ですね。プラントの税金を使って」
「君には、非公式ながら厚い生活保護が支給されている」
 踵を返し、格納庫を後にする副長。
「世界は平和になった。……平和に、なったのだ」
 青年は、ごく普通の人間だった。仲間の無残な死に涙し、眼前で繰り広げられる不条理に憤っても、真実を叫ぶ為に戦う行動力も勇気も無く、同じ隊だった恋人の仇を討つ力量も無く、また、自殺して彼女の後を追うという生存本能を超えた愛も、抱く事が出来なかった。
 彼は、ただ無力だった。

 つけっ放しのテレビからは、今日もラクス=クラインの活動を讃える放送が流れている。
アパートの室内にはゴミが散乱し、ひと月以上もクリーニングに出していない布団に青年が包まっていた。
トランクスとランニング一枚のみ身に着け、ザフトを除隊させられた彼はぼんやりと天井を見上げている。
右手に握り締めた、液状の薬剤が入ったビニール袋を口に近づけた時、玄関から物音が上がった。
電子ロックがハッキングツールで開錠され、ダークスーツ姿の男が入り込んでくる。
だらしなく口を半開きにした彼の前で、特殊警棒が伸ばされた。
「来い。抵抗するな」
 その言葉に、青年は嘲笑で応えた。

 何処をどう移動したのか解らない。頭から袋を被り耳栓されたまま、気づけば椅子に縛り付けられていた。乱暴に袋が剥ぎ取られ、同時に強い光を顔面に浴びせられる。
「ぅ……」
 耳栓が外されても、状況はさっぱり解らなかった。遠くで換気ファンが回っている。
『手短に済ませるわ。復讐心は、まだ残っているの?』
 女性ベースの合成音声が響き、何故かドラッグ漬けだった彼の意識が急速に覚醒した。
「復讐……?」
『平和の歌姫への憎しみは、怒りはまだ残っている?』
「あのアイドルもどきには、別に……私の仲間を直接殺したのは、キラ=ヤマトですから」
 目を閉じたまま、青年は答える。何故か、酷く冷静でいられた。
『お前を此処に連れてきたのは、私達がお前の望みを叶えてやれると思ったから。お前が、私の目的を達成させる為の便利な道具になると思ったから』
「ああ……じゃ、私は用済みですね。さっさと殺して下さいよ。クラインは余り恨んで無いし。強いて言えばキラ=ヤマトを殺してやりたい……ん、いや」
 ハンドガンのセーフティが外される音を気にかけず、青年は首を傾げた。
「殺さなくて良いや。私と、同じ目に遭わせてやりたかったな」
『そう。なら、お前は私の道具になれる。どうする?』
「んー……別に構いませんよ。でも、私は至って凡人ですが……わかってます?」
『ええ。お前の中に僅かでも非凡な何かがあれば、そうは醜くならなかったもの』
 幼さを感じさせる口調に、青年は頷く。
「なら、やります。生活保護を受けてるから、これ以上生きていても税金の無駄ですし」
 生きながら腐る生活の中で、彼は自己保存本能を忘れていた。全てが、空虚だった。
『必要な装備を受け取って。指示は後で出すわ。……ああ、コードネームは必要ね』
 眩い光に照らされ、ドラッグの影響で酷い頭痛に苛まれながら、青年は『再生』する。
『私の名前から1文字取るわ。通信では、『D』と名乗りなさい』

「大変申し訳ありませんでした、キラ様。担当の者に代わり、お詫び申し上げます」
 深々と頭を下げる『D』に、帰還したキラは当惑して首を傾げた。ラクスも振り返る。
「何が、ですか?」
「実は、作戦前に行われたストライクフリーダムの整備で、致命的なミスが発生していたようです。何か……問題ありませんでしたか?」
 その言葉にキラは沈黙する。確かに、自分の機体は大破に近い被害を被った。しかし。
「運動能力と、照準性能が著しく低下していた筈との報告を受けているのですが」
「それでか!」
 キラに続いて降りてきたナスカ級の艦長が大きな声を上げ、視線を集めた。
「おかしいとは思っておりました。まさかキラ様が、テロリストのMS1機にあそこまで手を焼く筈が無いと。整備不良だったのか……」
「……そう、だったのか」
 自分の技術に問題があるかも知れない。その疑問の欠片が、2人の言葉によって完全に消え去ってしまった。4年間、賞賛しか知らずに生きてきたキラである。無理も無い。
「後ほど報告書を提出致しますが、ともかく、並のパイロットであれば真っ当に機体を動かす事もままならなかった筈。ご生還され、何よりでした」
 再び頭を下げる『D』に、ナスカ級の艦長が厳しい視線を向ける。
「しかし整備班の責任は重大だな。キラ様の御身に万一の事があれば……」
「メンテナンスロボットのセンサーに反応しない、極めて稀なケースだったようです」
「人によるチェックが作業工程に含まれているだろう。理由にならん」
「お2人とも……」
 2人が向かい合った所で、ラクスが口を挟んだ。
「ひとまずは、良いではありませんか。キラが無事だったのだから」
 その言葉に彼女へと向き直った両者は、踵を合わせて敬礼する。
「ハッ、今後このような事が無いよう原因を突き止め、改善します」
 『D』の言葉にラクスが微笑み、キラもつられて笑う。三度深く頭を下げた『D』も、口元を歪めた。

「機体の不備だと?」
「なわけ無いでしょう。大事なキラ様なのに。あっさり信じてくれましたけどね」
 人通りの無い議会の廊下を歩む『D』と、ナスカ級の艦長。
「『ファクトリー』のポジションを、ミハシラ軍に嗅ぎ付けられたようだな」
「問題無いでしょう? あの区画は破棄するって、前々から決めてあった。彼らがあの場で何を発見しようと、貴方がたの計画には指一本触れられませんよ」
 肩を竦める『D』。その脇腹にナスカ級艦長のハンドガンが押し当てられても、顔色1つ変えなかった。むしろ、困ったような笑みすら浮かべて見せる。

「ファクトリーが一基しか無いわけじゃない。エンブレイスとセレニティの整備も万全。心配する必要は無いはずだ」
「貴様は、信用ならない」
 小さな笑い声が上がる。
「そっちこそ50人で押し掛けてきて、何言ってるんですか。前から言ってるでしょう。私は、ザフトで上手くやりたいだけなんです。カネと名誉が欲しいんですよ」
「嘘だな」
 『D』から笑みが消える。横目でナスカ級の艦長を一瞥した。
「たとえ信用ならない存在だろうと、嘘をついていようと……私は貴方がたに必要だ。 だから、撃たない。違いますか?」
「……」
 ハンドガンがホルスターに収まり、『D』は満足げに頷く。
「ご心配なく。エミュレイターも、ラクス様のご指示通りに開発されていますよ。そう、ご指示通りにね。件のファクトリーで使う予定です」
「それで良い」
 ナスカ級の艦長が、『D』を追い越し歩み去っていく。それを見送り、青年は口元に手を当てた。
「さて、良いんですかね……本当に」

 この時、オクトーベル3近辺で小さな事故が起きていた。物資を積んだシャトルが突然制御不能に陥り、コロニーに取り付けられていた『保安装置』に衝突。
 死傷者こそ出なかったが、コロニーの循環系を守る為に設置された保安装置の外装が剥げ、内部機器が露出したのだ。
 異様なほどの手際の良さで歌姫の御手らがシャトルを救助し、現場を封鎖して事を収めた。だが、外壁補修員の1人が破損箇所を撮影していた事を、彼らは混乱の最中で見落としてしまう。
 その映像が元オクトーベル3の警備隊員である1人の女性兵士に手渡され、彼女からR1資源衛星の補佐官に送られるまで、そう時間は掛からなかった。
 偶然が重なって起きたこの事故が、後にプラントの運命を大きく変える事となる。

「素晴らしい仕上がりです。流石は、我社の研究開発スタッフの長ですね」
「恐縮です。まあ、代用品としては及第点ではないかと考えております」
 アークエンジェルに乗り込んだアズラエルに賞賛され、研究員は軽く頭を下げた。0Gブロックにいるので、余り激しく動きたくない。彼らの視線の先には格納庫があり、改修されたデスティニー兇佇んでいる。

 アサルトパックによって腕部と脚部を換装したデスティニー兇蓮元の機体に輪を掛けた異形と化していた。
 まず、胴部と頭部に比例して腕部が大きい。大きすぎると言っても良いだろう。両肩はそのほぼ全てが大型スラスターと化し、肘、前腕にも姿勢制御用のアポジモーターが多数搭載されている。
 左腕の、長銃身を有する対PS装甲用アサルトライフル『シュレッダー』、右腕に装備された全長15メートル、刀身部は10メートルにも達する重厚な剣型近接兵装『クリーバー』そして、背部ウィングユニットがまともなサイズに見える程だ。
 特にクリーバーを持った右腕は左腕に対し2割ほど大型化しており、左右非対称の姿は見る者に生理的な嫌悪感を与えるだろう。
 脚部もまた、腰から全て取り替えられている。連装ミサイルランチャーとランディングギアの機能を持った野太い脚に加え、足部の先端は鳥類のように二股に分かれている。
 そして、胴部にはカメラアイを取り付けた胸甲が装備されていた。瞳孔が縦に裂けた猫目を思わせる単眼が、胸の中央で底光りしている。
「本当ならばヘッドガードも取り付けたかったのですが、なにぶんG型の頭部は特殊です。アンテナに干渉してしまうので、取りやめました」
「必要ありません。あの顔はあのままが良いのです」
 歳相応とはいえないが、夢見る乙女の目でデスティニー兇貿い視線を送るアズラエル。
咳払いひとつして、研究員が横から口を出した。
「あのぅ……何でこんなのがOKで、プランAが駄目なのでしょうか」
「ところで、研究開発予算に少々不明瞭な点が見つかったのですが、後ほど詳しくご説明頂けるのですよね?」
「…………ッ」
 研究員の生白い顔が更に青ざめた時、丁度シンがやってきた。少女の表情が一気に綻ぶ。
「あ、どうも。アズラエルさん……うわ。やっぱりデカいな、ソードが」
「アスカさん、クリーバーの起動時は高収束のビームシールドが展開されます。攻撃力は元より、理論上は戦艦のビーム射撃も叩き斬れますよ!」
「叩き斬りませんよ、そんなの……」
「シン、きちんとお休みになったのですか?」
 研究員を容赦無く突き飛ばしてガラス窓にへばりつかせつつ、アズラエルが床を蹴って近づく。さりげなく彼の手を取り、上目遣いで見上げた。
「たっぷり寝たから大丈夫ですよ。アズラエルさんこそ、避難した方が良いんじゃ?」
「私もお邪魔になると思ったのですが、作戦は一刻を争う状況のようです。降りる間も無く、こうして連れて来られてしまった次第で……」
 何か言いかける研究員の後輩を歳不相応の視線で封じ込めつつ、少女は溜息をついた。
「何処に行くにしても監視つきです。仕方ない事ですけれども、私、不安です……」

「軍事機密っていうのがありますからね……でも、平気ですよ」
 連合軍のパイロットスーツを借りているシンが、少女の肩へ手を置いた。
「監視されるのは仕方ないけど、この艦は大丈夫です。作戦を早く終わらせて、直ぐに帰れるようになると思いますし」
「……そう信じて、待たせて頂きます」
 胸の前で手を握り、少女は小さく頷いた。鼻の頭を赤くした研究員が、額に手を当ててかぶりを振る。
『MS隊に伝達! 間も無く作戦エリアに入る! 総員配置に着け! 繰り返す……』
 放送を聞き、シンは天井を見上げた。ヘルメットをかぶり、フェイスプレートを降ろす。
「じゃあ、行ってきます。本当に色々と有難う……助かります、アズラエルさん」
 ドアから出て行くシンを見送って、アズラエルは小さく微笑んだ。

『諸君らには、クライン派の力の源である『ファクトリー』を捜査して貰う』
 苦い表情を浮かべたアークエンジェルの艦長に、シンが頷いた。
「よく見つかりましたね。『ファクトリー』」
『……そうだな。君らの司令官からの情報だから、私にも解らん。大体、これは非正規の作戦行動だ。海賊行為と言っても良い』
「そうなんですか?」
 シンのあけすけな問い掛けに、艦長のこめかみが引きつった。
『……ブラックとは言わないが、限りなくグレーだ。本作戦での報告は公的記録に残らないだろう』
 プラントに程近い中立地帯の片隅。マップに存在しない筈のエリアに赴き、存在しない
筈の施設を調べるのだ。しかも、戦争の勝利者である平和の歌姫に縁深い場所である。
『作戦の成功を期待するとは言えん。だが、君達の生還は期待する。……幸運を』
「はい!」
 敬礼する艦長に、シンも返礼する。
『デブリ密度が濃いので、カタパルトが使えない。注意してくれ。以上だ』
「了解。ヒルダ、そっちの準備はどうだ?」
『問題無い。命令通りアンタの次に出るよ、隊長』
 隻眼の女に頷き、シンは操縦桿を握り直す。
「シン=アスカ、デスティニー供行きます!」
 ツインアイと胸部の単眼が輝き、格納庫内部を細い光が照らす。カタパルトの細路にぶつからないよう慎重に機体を操り、艦の外へと抜け出た。
 ローラシア級の物とおぼしき残骸に着地し、アークエンジェル越しに後方を振り返って彼方の地球を見遣った。
 やがて、デスティニー兇倭鵑版鬚糧しい星に背中を向ける。準備を整えたドム3機を従え、陸戦隊を乗せた小型艇2隻と共にデブリ海を進んでいった。

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