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SCA-Seed_GSCI ◆2nhjas48dA氏_第55話

Last-modified: 2007-11-30 (金) 19:46:28

 メインモニターが、漆黒の宇宙と遠くの星のみを映し出している。ザフト艦隊の場所は
まだ遠い。機体を制御できるぎりぎりの速度を保ったまま、5機のMSと1隻の戦艦が
併走していた。デスティニー兇硲患,劉フリーダム、それにミネルバ級セクメトである。
「……なあ」
 機内で、シンが声を上げる。セクメトにあっさりと追いついたデスティニー兇世辰燭、
向こうは攻撃してこなかった。ロックオンすらされない。存在を感知していないとすら
思える程だ。無駄だと理解しつつも、先程まで戦っていたフリーダムに通信を送る。
「誰が、エターナルを墜としたんだ?」
 セクメトのブリッジ真下が開き、デュートリオンビームが短く4連射される。純白の
天使達が隊列を組み直し、腰部の―人間で言えば、臍の反対側の―受容器でビームを
受け止め、エネルギー補給を終えた。
「ザフトは、MAなんて造ってたんだな。でも、何でキラが止められなかったんだ?」
『最早、彼の手には負えない存在だからだ』
「……!」
 突然返答され、シンは危うく操縦桿をあらぬ方向に倒しそうになった。モニターでは、
ガルナハン基地で戦った男が仏頂面で映っている。
『宙間戦闘用モビルアーマー、エンブレイス。全長50mと大型ながら、3基の核エンジン
と3基のヴォワチュール・リュミエールによって並外れた機動性を持つ。3つのユニットに
分離可能で、全方位、全距離に対して攻撃手段を有し、積層式PS装甲とアンチビーム
コーティングによって鉄壁の耐久力を誇る。再び混迷する世界を救う為、ラクス=クラインが
用意した切り札だ』
「相変わらずとんでもない物持ってくるな……」
 開いた口が塞がらないシン。手元のカタログを読み上げるような口調で、男は続ける。
『機体スペックもさる事ながら、操縦している者も尋常ではない。キラ=ヤマトの根源を
強化し、更にラクス=クラインの信念をも併せ持ったAIだ』
「AI……!? そんな物が造れるのか!?」
『我々はエミュレイター……模倣者と呼んでいるがな。ロンド=ミナ=サハクは君に何も
伝えていないのか? 彼女は知っていた筈だが……まあ良い。問題はそこではない』
 男の言葉に、シンはゆっくりと首を振る。ふと、オーブ行政府でカガリ=ユラ=アスハ
から内密に手渡された黒いメモリスティックが記憶に浮かび上がったが、今その事を彼女
に確認する時間は無かった。
『侮るな、アスカ君。キラ=ヤマトのAIとはいえ、君が知っている彼ではない。地球の
衛星軌道上で君が打ちのめしたような……』
「冗談じゃない、あれは機体性能に助けられたんだ。大体、あの時のキラは本気じゃない。
2年前の俺しか知らなかったから、遊び半分だったんだ。でなきゃあんな無様な……」
『……とにかく。アレとは比べ物にならん。単体で勝てる者など存在しない』

「本気になったキラならやれるさ。何でもアリだから、あいつは」
『無理だ。例外は無い』
 男に断言され、シンは押し黙る。モニターに映る景色は依然変わらない。計器に視線を
やらなければ、前進しているのか停まっているのかすら解らなくなってくる程だ。
「何で俺にそんな事を教える?」
 急に話題を変えられ、通信モニター越しの男が眉を上げる。
「何で俺を攻撃しないんだ? 敵だったろ……一応」
『理由は2つある。1つは、君に教えても問題ない情報だから。もう1つは、私が君を
この上なく憎んでいるからだ』
 シンの、紅の目が細まった。
「……ガルナハンで、俺がアンタを助けたからか?」
『それもある。だが何より、君の欲深さと傲慢さが憎い。全ての命を救うだと? その
手でか? 数多の敵を葬ってきたその手で? 数多の贄を見定めてきたその瞳で?』
 男の口調は変わらない。自らの言葉で昂ぶる事も無い。憎悪と怒りから不純物を除き、
鋼鉄と化した視線が、シンの狂気とぶつかり合う。
『君には戦いしかない。戦いは我々のような者を阻みはするが、平和と幸福を前進させは
しない。君が救えるのはあくまで生命活動……体内器官の化学反応であって、人ではない。
人の心ではない。それは理解している筈だ』
 男の言葉に、シンははっきりと頷く。彼が命を救うのは、己の欲望を満たす為だからだ。
『エンブレイスの攻撃で即死するなどというハッピーエンドは認めん。だからこそ、君に
スペックを教えた。単機で突撃した所で、状況は何ら改善しないという事も。最低でも、
自分は何も出来ない、何も救えないと自覚してから死にたまえ。でなければ許さん』
「……困ったな。それは難しい」
『なに?』
 苦笑いするシン。男に問われ、笑みを浮かべたまま告げた。
「だって、死ぬなって意味だろ?」
『……』
 男が沈黙したまま、通信を切断する。ブラックアウトした画面を切って、シンは正面に
視線を戻した。
「アンタ達がいる限り、俺は戦ってアンタ達を邪魔しなくちゃいけない。そう考えると、
アンタ達みたいな連中が、俺に生きる意味を与えてくれるんだな……」

「不愉快だわ」
 腕組みしたまま、セクメトの女性艦長が男に告げた。
『喋りすぎた事がか? 別に今更問題はあるまい』
「いいえ、あのデスティニー兇離僖ぅ蹈奪箸。殺したくなくなってきた」

『まだ殺すべきではない。エンブレイスに何が起こったか、詳細不明である以上はな』
「それにしても、ラクス=クラインのコピーが、何故彼女を攻撃したのかしら? 安全装置の
類は、なぜ作動しなかったのかしら?」
『解らん。此処から先は我々の予想範囲外。知り得ぬ未来だ』
 艦長の傍にいる少女が、右腕の義手にそっと触れる。
「もう1つ、不安要素があるの」
 男の言葉を聞いた後、女性艦長は静かに告げた。
「戦略砲セレニティへのアクセスが断たれ、状況が掴めなくなったわ」

「く、こんな……っ」
 ストライクフリーダムの機内でキラが呻いた。縦横無尽に機体を操り、エンブレイスの
攻撃を回避するも、回避しか出来ない。純白の巨体を照準に捉えようとしても、機体の
向きを変えようとする度に何処からかロックオンされてアラームが鳴る。
 ドラグーンならば攻撃できたかもしれないが、そもそもドラグーンを背負った状態では
全方位から絶え間なく襲い掛かる猛攻を避けきれない。両腕のビームシールドは、既に
その発生器から火花を散らして機能停止している。装甲の継ぎ目から溢れる金の輝きも、
次第に弱まりつつあった。内部フレームに掛かり続ける負荷が、制御不能なレベルにまで
達しつつあるのだ。
 分離した3ユニットと、高出力スラスターを後部に増設したドラグーン6機、計9つの
機動兵器がSフリーダムを包囲し、その全火力を集中させている。海中の魚群のように
滑らかで有機的に動き、同時にではなく牽制射を繰り返し、敵機を誘導した所で本命の
射撃を行い、外れると再びフェイントに戻る。
 フリーダムを操りシン達と戦った際、エミュレイターは彼らの連携攻撃をその身に受け、
学習していたのであった。
『受け入れなさい、キラ=ヤマト。今の貴方では私に勝てません。独りなのですから』
「僕は……僕は独りなんかじゃない!」
 ラクスの声が、彼女に精神と思考を依存しきっていたキラを磨耗させる。3方向から
撃ち込まれた青白いビームを、機体をロールさせて回避する。2丁のビームライフルを
向けようとするも、既に射線上には何もいない。そして後方、複数方向からのアラートが
鳴り響く。
 信じ難かった。覚悟を固め全力を出した時の自分は、誰にも負けなかった筈だ。喩え
単機だろうと、雲霞の如き敵部隊を前にしようと、必ず勝ってきた。勝った後は、皆が
自分達の意思を尊重し、賞賛してくれた。賞賛は彼にとって不要だったが、それでも、
ラクスの訴える平和を為す為の剣として戦う自分が誇らしかった。
 築き上げた物が崩れ去っていく。しかし、此処で倒れる訳にはいかなかった、自分が
やられれば、付いて来てくれたザフト艦隊に牙を剥くかも知れない。

 彼らだけは守らねば。決意と共にキラは真正面を睨み付ける。乱舞する輝きを見定め、
反撃のチャンスを―
『援護しろ!』
「……えっ?」
 直ぐ左脇を抜けていったのは、緑の光だった。ザクウォーリアなど、MSに装備された
ビームライフルの光。後方カメラの映像を表示させる。ナスカ級とローラシア級、それに
艦載機のゲイツRやザクなどのMSが、此方を向いている。そのビームライフルや艦砲の
照準は、紛れも無くSフリーダムを捉えていた。見間違いではない。アラートが鳴り止まないからだ。
「どうし、て……」
『エンブレイスはラクス様の代行者だ! あれはラクス様だ! 援護しろ!』
 白服クラスのザフト兵は、エンブレイスとエミュレイターについてある程度の情報を
持っていた。彼らの指示により、ザフト艦隊から雨あられとビーム、ミサイルが降り注ぐ。
 ザフト兵が従っていたのは、ラクス=クラインとその歌姫の騎士団がもたらす絶大な
戦力だった。その象徴であるエターナルが破壊され、Sフリーダムは反撃もままならない。
今や彼らにとって、生身のラクスやキラは過去の存在だった。2年前、彼らが元最高議長
ギルバート=デュランダルを裏切って歌姫の騎士団に従った時と同じである。
『貴方は独りです、キラ=ヤマト』
「やめて……やめてくれ」
『ラクス様の為に!』
『ラクス様の為に!』
 機内に、広域回線を開いたザフト兵達の大合唱が飛び込んでくる。エンブレイスからの
攻撃が止んだが、最早反撃できなかった。心が、折れてしまっていた。生存本能の赴く
ままに、ザフト艦隊からの攻撃を惰性で回避し続ける。
 キラ=ヤマトは、本当に何も知らなかったのだ。自分達が何をしてきたのか、周囲が
どのような理由で自分達に従ってきたのか。もし彼やラクスがほんの僅かでも自己保身を
考え、今の権力や安全を維持したいと望んでいたら、結果は変わっていただろう。
『ラクス様の為に!』
『独りでは、私には勝てないのです』
「もうやめてくれ!」
 裏切る事への後ろめたさを多少なりとも感じているのか、合唱は止まない。ビームが
至近を掠め、右の上腕部が焼け焦げた。
『ラクス様の為に!』
「やめろっ!! やめてくれえぇっ!!」
 機体から溢れ出る金色の輝きが完全に消滅し、鈍い真鍮色の内部フレームが露になった。
キラの精神も臨界を迎え、四散する。その背後に、合体したエンブレイスが舞い降りた。

 両の翅を広げ、胸部の大口径ビーム砲の顎を開く。中心に光が生まれ、砲口の縁が光と
同じ色のスパークを放って輝きを強めた。キラは、最早何も出来なかった。彼の全ては今瓦解し、
自身の存在する意味すら理解できない。涙を流し、自分を受け止めてくれていた女性の名前を
呟くのみだ。
 彼は未だ、何故このような事態になったのかすら解っていなかった。無理もない。
『キラ=ヤマト。貴方を、平和の敵として排除します』
 その輝きが膨れ上がって爆ぜる寸前、エンブレイスの8つのモノアイが瞬く。両翅を
前方に向け、加速用ブースターロケットを点火しつつ全速で逆噴射。彼方から雷光に似た
光が駆け、磁力で加速された必殺の弾丸が抜けていった。ビーム砲のエネルギーを開放
する。巨大な蒼光が虚空を薙ぎ払った。
『何を、やっているんだ』
 ミネルバ級のセクメトが、急速に接近してくる。その艦首部分、ビームシールド発生器
の目の前を踏みしめ腰を落とし、発砲したばかりの雷を帯びる長大なシュレッダーを
下ろしたデスティニー供その機内で、紅の瞳を細め犬歯を剥きだしたシンが叫ぶ。
『何をやってるんだ! アンタ達はぁっ!!』

 デスティニー兇了僂鬟メラで捉えた瞬間、エミュレイターの思考にノイズが混じった。
歓迎できない筈の、想定外の結果。しかしこの想定外こそ、自分が待ち望んでいたもの。
彼女が想い描く『人間』の性。彼女はこのノイズを、『歓喜』と定義した。
『全てのザフト兵に告げます。貴方がたは2年間、間違った主人に仕え過ちを繰り返して
きました。しかし、もう彼らには何の力もありません。貴方がたは解放されたのです』
 ラクスの声は、ザフト艦隊と連合軍艦隊双方に伝わっていく。
『これからのプラントは、より優秀な指導者によって導かれなければなりません。もし、
この私を新たな主と理解する事が出来たならば……』
 エンブレイスの眼が、自分に向かってくるデスティニー兇鯊える。自分と対極の色を
持つ機体。流れ出したばかりのような鮮血の紅に、宙の闇を溶かして創ったかのような黒。
『私を阻んだこの機体と、搭乗する者を討つのです』
 全部隊にデータを送信した。艦隊戦力の85%以上が、命令を受領したとばかりにデスティニー兇悗
向き直り、標的をロックした。大部隊でも何でもない、1機のMSだ。主を乗り換えた
ばかりの彼らにとって、これほど楽な獲物も無いだろう。
 指示に従った部隊のコードを収集して整理し、エミュレイターの『意識』は彼方へと
飛んだ。

 岩塊に偽装した、クライン派の所有するファクトリーがカモフラージュを破り、純白の
姿を漆黒の闇に晒す。5つのリングと、それらを貫く巨大な砲。リングが回転を始めた。

 互い違いに回り、内側が金色に輝きだす。無数の姿勢制御スラスターが光を噴き出して、
ゆっくりと砲口の側へ移動していった。
『エネルギー充填率、70%まで上昇。ターゲットデータ入力開始』
 砲口が開く。花弁の如く8つに拡がり、内部に一本の光線が生まれた。それと直角に
2本目の線が走り、2本の中間に輝きが走る。それを繰り返し、瞬く間に砲口は光で満たされた。
砲身フレームの継ぎ目に同じ色をした、金の輝きが駆け巡る。
『エネルギー充填率100%……ターゲット、最終確認……完了』
 リングの回転速度が上がって輝きが増す。砲口に溜まっていた光が、奥へと引っ込んだ。
『セレニティ、発射』
 光の洪水が迸り、5つのリングを通過して闇に消えていく。
 セレニティは、ジェネシスやネオジェネシスのようなガンマ線を放出する武器ではない。
単体では、只の高出力で遠くまで届くビーム砲である。連合軍の戦略砲レクイエムに使用された、
ビーム偏向装置を搭載する5つのリングを使用する事で、真価を発揮するのだ。
 放たれた金色のビームが曲がって行く先を変え、次の瞬間10以上に枝分かれする。光は
収束し、互いに絡み合い、弾けた。

「光? 光が……」
 エンブレイスの『頭上』が金色に照らし出されるのを、デスティニー兇望茲襯轡鵑
捉える。まるで太陽が生じたような錯覚を覚えた後、迫るそれは渦を巻き、『降り注いだ』。
艦砲射撃クラスのビームが、純白の巨体を掠めるように幾筋も走る。金色の光に照らされ、
両翅を広げたエンブレイスが神々しく輝く。
 身構えて回避機動を取ろうとしたシンだったが、金のビームは一発もデスティニー兇
向かう事は無かった。エミュレイターの命令に従い、デスティニー兇鯀世辰討い神鏨蓮
MSに突き刺さる。爆発が咲き乱れ、ザフト艦隊が蜘蛛の子を散らすように逃げ始めた。
組織だった後退行動ではない。総崩れだった。
 光輝を浴び君臨するエンブレイスが、それを見上げる黒と紅の悪魔に両翅を差し出した。
ウィングユニットを回転させ、我が子を包み込もうとするように開かれる。
『シン=アスカ』
「俺の……名前?」
 スピーカーから伝わるラクスの声に、未だ呆然としたままシンが呟く。
『貴方が為すべき事を、為すのです。喩え独りでも、貴方だけはそうせねばなりません』
 その言葉に息を呑むシン。視線を鋭くし、機体を一度後退させた。シュレッダーの銃口を
エンブレイスに向け、クリーバーを振り抜きビーム刃を起動させる。スコープとツインアイ、
胸部の単眼が同時に輝き、目元のラインが新たな血涙を流した。
「当然だッ!」

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