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SCA-Seed_GSCI ◆2nhjas48dA氏_第63話

Last-modified: 2008-02-26 (火) 11:07:09

「デスティニー供機能停止! 核エンジンの安全装置が作動した模様です!」
「パイロットのバイタル、正常! 胸部コクピットを殴られていたら、即死だったでしょうが……しかし、応答ありません!」
「くそ、パイロットがああでなけりゃ……」
 アークエンジェルの艦内。ダイアモンドテクノロジーに宛がわれたモニタールームで、次々とスタッフ達の悲鳴が上がる。
 アズラエルは未だ何の反応も示さない。ディスプレイに視線をやったまま、殴りつけられ動きを止めたデスティニー兇鮓つめている。
 このままでは自分達の身も危ない。アークエンジェルが敵陣に向かって前進しているのだが、シンに誰よりも入れ込んでいる少女を考えると脱出さえ言い出せない。
「ストライクフリーダムとドム3機じゃ、エンブレイスは倒せない……遠距離攻撃に強いあいつを倒すには、懐に飛び込める戦力が必要なのに!」
 コンソールに拳を叩き付ける後輩を見て、研究員が窓ガラスに額を押し付けたまま立ち上がった。目を見開いたまま、しわがれた声を発する。
「システムのセーフティを、全て落とせ」
「……先輩?」
「リミッターを解除すれば、核エンジンの安全装置も無力化できる。5秒間隔で再起動のシグナルを送り続けろ」
 コンソールへと向かいつつも、研究員の目はセレニティの一部へと向けられている。
右翅によって沈黙させられる寸前、弾けた紅と蒼の電光が網膜に焼き付いていた。
「ですが、それじゃあ!」
「コクピット周りのシールは万全だ。放射能汚染はまず起こらん」
「セーフティを落として、万一暴走したらどうするんです!」
「暴走させるんだ。……この意味、お分かりですね? お嬢様」
 その言葉に場が凍りついた。据わった目つきの研究員が、アズラエルと対峙する。彼女にこのような態度で接した従業員は、彼が最初で最後だった。
「ついさっき、ヴォワチュール・リュミエールの全容を知りました」
「なるほど。重大な違反行為ですが、罪をお認めになった事はご立派です」
「全てご存知の上で、シン=アスカさんの乗る機体にアレを搭載したのですね」
 アズラエルは何も言わない。黙ったまま、唇の両端を持ち上げた。
「……よろしいですか? お嬢様」
「構いません」
 プラチナブロンドの髪をかき上げ、魔女はサファイアブルーの瞳を細めた。
「この状況で朽ち果てるような幸運を、シンは持ち合わせていないのですから」

 

 暗い、どちらを向いても光を感じられない闇の中、目をつむったままのシンが漂う。
 至極居心地が良い。まるで誰かに抱き締められているかのように暖かく、優しい。

 
 

「シン」
 その温もりが、優しさが唐突に終わる。あちこちが裂けて焼け焦げたパイロットスーツを着る少女が目の前に現れた。
 痛いほど冷たい水に濡れ、ツヤを失った金髪で目元が隠れ、張り、生気のない肌がシンのパイロットスーツに触れた。
 想い出は、彼に安息を与えなかった。
 デストロイに搭乗したステラ=ルーシェを救えず、目前で死なせたシンは彼女の遺体にウェイトを括り付け、凍てつく湖に沈めた。
 猟奇的とも言えるその行為に至った理由はシンプルだった。彼女に触れさせたくなかったからだ。
 彼女を生ける兵器として改造した地球連合軍にも、サンプルとして調べようというザフトにも、彼女との約束を果たせなかった自分にも。
 全ては、シンが犯した罪の結果だった。
「シンは、皆の『明日』を守らなくちゃいけなかったんだよ」
 色白の右腕が1本、ヘルメットの後ろを撫でた。右腕『のみ』が何本も集まり、それはパイロットシートのヘッドレストと化す。
 闇より現れ、ざわめく右腕の群れ。次々にシンにまとわりつき、シートその物、アームレスト、フットペダルを形成していく。
 肌色と継ぎ目が消え、無機質な灰色に変わった。2本の右腕が、それぞれシンの片腕を取る。その腕達もまた、シンの罪。無力ゆえに守れなかった妹マユの右腕。
 幽鬼のようなステラが、口元に笑みを浮かべシンを抱き締める。全身の冷気がスーツを通してシンの精神を侵略し、眉が寄った。ヘルメットの一部が呼気で曇る。
「だから、皆の明日を守れなかったシンは、何処にも行けないの」
 シンの操縦棹を握らせたマユの右腕。その手の甲がぱっくりと裂け、傷口が広がる。赤い血が滴り、真紅の瞳が覗いた。
「『起きて』、シン。『視て』、シン」
 シンの瞼が震え、薄目が開く。濡れて頬にへばりついた金髪に隠れていたモノを見つめ、穏やかな微笑みを浮かべた。

 

「……ッ」
 薄煙たちこめるデスティニー兇涼罎婆椶魍个泙靴織轡鵑蓮機体各部をチェックする。
 ふと視線を左隅へとやれば、明滅するキーが見えた。
「非常……出力? 外部からの信号……そうか」
 躊躇い無くそれを押し込む。機内に警告音が鳴り響き、モニターにアラートメッセージが表示された。シンの白い顔が、文字の色に染まる。
『コンディション、オールイエロー。即刻機関を停止させてください。ヴォワチュール・リュミエールユニットに深刻な障害が発生しています』
「動け」
 応える者がいない事など解っている。シンの瞳が焦点を失い、漆黒の宇宙が映り込む。
「俺は、何処にも行っちゃいけないんだ」
 何かが砕け散るような音が聞こえた。シン=アスカのみに。

 

『片側だけでも貰い受けるつもりだったが』
 エンブレイスからSフリーダムが跳び退る。至近距離でビームを回避し続けた為に、機体各部が放電していた。装甲の継ぎ目から溢れ出す金色の輝きも衰え始めている。
 右腕は肘から先が無く、翼も半分を失っていた。緋色のツインアイの先には、3ユニットに分離したエンブレイスが浮かんでいる。
 左右の翅に装備されたビーム砲はそれぞれ2門に減り、右翅のモノアイ3基のうち2基は破壊されていた。
 3機のドムトルーパーは、中破といって良いだろう。それぞれ頭部、右腕、脚部を失い、戦闘能力を著しく欠いている。
 デスティニー兇吹き飛んだ一瞬の隙を逃さず、互いに防御を捨て撃ち合った結果だった。手傷を負わせはしたが、それでもエンブレイスは化物だった。
 Sフリーダムのレール砲は、両側とも撃てる状態にはない。最高のタイミングで撃ち込んだ最後の一射は左翅の動力ブロックに牙を突き立てたが、そのまま食い破るには
射角が浅すぎた。
 相性の問題もあった。Sフリーダムもドムトルーパーも、遠距離攻撃主体のMSである。
 そして、遠距離攻撃であればエンブレイスに分がある。1対4という数の差を覆すに足る強力なハードウェアとソフトウェアを併せ持った彼女に、『50人』さえもが屈した。
『力及ばなかったな』
『アンタと心中したかなかったけどねえ』
 頭と左脚を失ったヒルダ機が、砲身が焼け付きかかったギガランチャーで狙いを付ける。
 サブカメラ越しの射撃ほど心許ないものはない。
『アスカ君が我々を守ろうとしなければ結果は違っていたかもしれん。もはや手遅れだが』
『どんな物でも捨てられないんだよ、うちの隊長は』
『そのようだな』
 男の声に静かな怒気が混じる。ガルナハン基地で命を救われた時の記憶が蘇った。
『所詮は捨てられないだけであって、守り抜く事は……なにっ』
 エンブレイスの光翼が一際大きく膨れ上がり、ある一方向に揺れた。男の視線が光の流れを追う。その先に、セレニティへ叩き付けられたデスティニー兇有った。
 紅の光が、男の瞳に飛び込んでくる。左のウィングユニットからのみ溢れ出す巨大な光は、蝙蝠羽のように先端へ行くほど千切れ、尖り、反り返っていた。
 エンブレイスが、ゆっくりと其方を向く。両翼がはばたき、更にその面積を増した。羽毛の如き光の粒子が飛散する。
『何だ……これは。何が起きている』
『よくわかんないけど』
 声の端を震わせる男へ、ヒルダが間延びした口調を向ける。
『シン=アスカを所詮、で片付けて良いかどうかは、まだ解らないんじゃないかい?』

「予定を早めるだと? この状況でか?」

 

 セレニティ発射まで7分を切ったところに通信を入れられ、アスランは顔を顰めた。
『リングを破壊し戦略砲の精密射撃能力を封じるというのが大まかな作戦でしたが、砲口の向いている先に数多くの、無力化された友軍機が漂っているのです。その救出に費やす
時間も考えると……』
「4分欲しい、か。解った。この機体の自爆装置を準備しろ」
 シールドを失ったムラサメが、スラスターを吹かし第3リングの方へ向き直る。
『命を捨てる覚悟ができたという事で?』
「全員が生き抜く為だ。タイマーを40秒にセット。……急げ」
『了解……カウント5!』
 その言葉に、アスランが目を閉じる。
『3、2、1、マーク!』
 瞠目。モニターにタイムリミットが表示され、翡翠色の瞳から焦点が失われた。

 

『こちらジュール隊! 第1リングを無力化させた! 次は何処へ回れば良い!?』
『第3リングの守りが厚い! 最後のスタビライザーが……な、なんだあのムラサメは!』
『第4リングの無力化に成功した。次の指示を』
『第5リングへ向かえ! 割り当てた戦力が一番少ないんだ!』
「ベイオウルフ隊を下がらせ、本艦の護衛に回せ! その場所では包囲されるぞ!」
 ばらばらに入ってくる通信は、自分達が少しずつ勝ち始めている事を知らせてくれた。
 ノーマルスーツ姿のアークエンジェル艦長が、減圧を終えたブリッジで指示を飛ばす。
 周囲にオペレーターの姿は無い。艦内中枢に位置する安全な指揮所に移り、戦況を最も詳細に把握せねばならない艦長のみが、いつ直撃を貰うか解らないこの場所にいた。
『本当にやれるんですか艦長! 本艦でスタビライザーを狙い撃つなどと……』
「それが最も確実な方法だ! 出て行ったバスターノワールの状況はどうか!」
『確認、取れませ……』
 激震に、身体がシートから浮かび上がった。舌打ちし、旧時代の船乗りを思わせる艦長は操舵手の席に飛び移ってコントローラーを握り締める。
「こちらで舵を取るぞ! バリアント装填急げ!」
『り、了解! エンジンに被弾し、出力が上がりません! このままでは!』
「ベイオウルフ隊が戻ってくるまでもたせろ! 対空防御……」
 直後、ブリッジの天井を破って大破したグフが降ってきた。数秒前まで座っていた席を左腕が完膚なきまでに押し潰し、コンソールの破片がヘルメットの右脇に擦過痕を残す。
「……無作法な。次はドアから入りたまえ」
『ブリッジ大破!? 艦長! 艦長ッ!?』
「うろたえるな! バリアント1番2番、撃てぇッ!!」
 第2リングの一部が大爆発を起こし、内側の輝きがゆっくりと失われていった。

 
 

『後退してください、司令官! 味方の増援を待って……』
「何処へ後退せよと言うのだ?」
 冗談交じりで通信に応えつつ、ミナはレーダーに視線を落とした。上下前後左右、敵の反応でひしめき合っている。
 一点突破を図ろうとしたところ、第4リングを護衛していた敵機にまで殺到されてしまった結果なのだが、どうにも格好がつかない。
 頭部パーツの左半分が破壊され、両脚を破壊され、背負った大鎌マガノイクタチは右側を失った。
 もはや黒でも金色でもないアマツがとどめを刺されないのは、その位置ゆえである。
 リングの要であるスタビライザーを背負っているのだ。迂闊に遠距離攻撃をかけられない敵機は、徐々に包囲の輪を狭めつつある。
 大分弱まったとはいえ、広域散布されているミラージュコロイドも、プログラムでのみ動く敵無人機に攻撃を躊躇わせているのだろう。
「なんとも……自爆装置が似合うシチュエーションだな」
『し、司令官……』
「冗談だ。ただ何時までもこうしているわけにもいかん。発射まで5分を切ってしまった。それにしても、派手に壊されたものだな。まともに使える武器が……1つもない」
 トリガーを引いたりペダルを踏み込んだりといった操作を一通り試した後、ミナは深く溜息をついた。手前のボードを開き、幾つかキーを打ちこむ。
『サーペントテールが向かっています! 何とか持ち堪えて下さい!』
「座標を確認しているが、それより早く……」
 ミナが言いかけた時、真横から迫ろうとしていたザクの胸部が装甲片を散らしつつひしゃげた。
 もう片方の側にいたゲイツRが接近を止め、周囲にビームライフルを向ける。
 その頭部モノアイに銃弾が突き刺さり、無様な後転を披露した。
『サハク司令官……遅く、なりました』
 弱々しい声に、紅を差した唇の片端が上がった。
「待ちかねたぞエコー7。だが、埒の開け方を思いついた」
 小爆発を起こす2機に挟まれ、アマツの右腕が高く掲げられる。掌部の、ビーム兵器にエネルギーを供給するコネクターが火花を放ち、光る球体を生んだ。
 表面が雷を放つ。
「プロトアストレイシリーズには、共通の欠陥があってな……!」
 出力が落ち、咳き込むように噴射されるスラスターを使って、アマツが180度旋回する。
 掌の上に浮かぶ光を、リングのスタビライザーに叩き付けた。
 バスターノワールからの狙撃に援護されつつ、爆風に吹き飛ばされるにまかせ、アマツが敵機の前から姿を消す。
 残ったエネルギーを掻き集め、光熱に紛れつつミラージュコロイドの収束率を戻したのだ。
「さて、この後はどうなるか……」

 無力化した第3リング付近で友軍機の救助に当たっていたザクウォーリアが、モノアイを其方に向ける。搭乗する少女兵が、肉眼で確認できる2つの翼を見て胸元に手をやった。
「アスカさん……」

 

 研究員の予測は、部分的に的中した。全幅40メートル超にまで拡大した光の片翼を羽ばたかせるデスティニー兇瞭阿は、ダメージを受ける前よりむしろ良くなっている。
 しかし同時に、小破したエンブレイスも不調は見られない。互いの核エンジンが、互いの翼がエネルギーを与え合い、低下した出力を補い合っている。
 コロイド場を利用した高出力ビーム兵器を利用する両者。ぶつかり合う度に、光翼が残像を生み出し、スターゲイザーに見られたような光輪が純白の輝きを放って幾重にも撒き散らされ、セレニティの砲身にうっすらと赤熱痕を刻む。
「くそっ! 何が起きてるんだ!?」
 仲間を巻き込みかねないそれに歯噛みしたシンが、エンブレイスから離れ宙返りを決め一気に加速。セレニティの砲口縁を蹴った。
 死角に入られ、エンブレイスも再合体し後を追う。戦略砲は発射態勢を整えかけていた。その前で対峙し、金の光に半身を照らされたデスティニー兇両掌の光を弱めた。 エンブレイスは再び3ユニットに分離し、死角へ回り込むべく隙を伺う。両機の翼が近づくたび、白い光がその中間に生まれて散った。
『損傷しているとはいえ、MS1機でこのエンブレイスと対等に戦うとは……』
「好きで1対1に持ち込んでるわけじゃないけどっ!」
 両腕の鋭く尖った積層装甲は開ききり、内側からは呼吸するように紅い光を吐き出し続けている。
 エンブレイスの胸部が開き、大型ビーム砲の光が溢れ出した。相互干渉によりエネルギーが増幅された砲撃が、傘の如く広がる。
 シンの虚ろな瞳もまた染まるが、考えるより先に手が動いた。
 両掌が球を形作り紅光が膨れ上がる。引き寄せて腰だめに構え、目一杯突き出す事で放出されたコロイド場がビーム砲身の役割を為し、大出力の一撃を放った。
 新パーツによって備わった武装である。光撃がぶつかり合い、弾けて消える。
『セレニティ発射まで3分です! 全機、射線から退避してください!』
 シホの声に、シンは犬歯を剥き出し叫んだ。
「こうするしか無いのか、アンタと俺達は! アンタは沢山物を考える! 頭も良い! 俺達の事だけを考えてくれてる筈だ! なのに何で!?」
 分離し、加速して突撃するエンブレイスに対し、デスティニー兇領松犬らソードが伸びる。背の片翼と等しい長さのそれを左右に振り抜き、此方も突貫した。
 両者の思考は同じ。相手よりもただ、速く、迅く、疾く。
「俺達をこうやって呼びつけて戦わせて、自分が何を考えてるか一言も喋りもしない! 何でだ!? 俺達が邪魔だっていうなら、どうして俺が来るまでセレニティで待ってた!」
 虚ろな瞳のまま、二振りのソードと共に言葉を叩き付ける。それぞれ両の翅に発生したビームシールドに受け止められた。
 左翅が僅かに揺らぐ。中央ユニットの両脇からビームが連射され、右脚が光の中に消える。射出されたドラグーンが掠め、左眼を焼いた。
「そうやって黙ったまま……たった1人で『人類』を助けようっていうのかよ!?」
 シンの瞳に涙が滲む。エンブレイスのモノアイが瞬く。金色の輝きが僅かに強まった。

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