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SCA-Seed_GSC ◆2nhjas48dA氏_ep2_第01話

Last-modified: 2008-01-18 (金) 20:44:35

 夜。凍り付くような冷たい風が吹き荒れる山岳地帯で地響きが上がった。深い谷間を
進む道路に、武装、メインスラスター、右脚を破壊されたウィンダムが仰向けに倒れ込む。
それを見下ろすのは、黒と赤の悪魔のようなMS。その右腕が跳ね上がった。
指先のみを黒く染めた朱色の掌が突き出され、血色のビームシールドを展開。緑色の
ビーム光を受け止めた後、背部ユニットから光の翼が広がって左右の崖を照らし出す。
後方に輝きを背負い、真紅のツインアイが光を強める。
『うっ……』
 M1アストレイに乗ったパイロットがその姿にたじろぎ後退しようとした所で、その
真後ろに砲弾が突き刺さった。前方によろめく機体を、崖の上から3つのモノアイが捉え
ている。十字フレームの中を、赤紫の光がせわしなく動き回っていた。
 肩に担いだ大口径のランチャーが、月明かりを弾いて鈍く光る。
『な、何故! 味方は、どこへ……』
『いないよ』
 パイロットが上方の敵機に意識をやった一瞬、前方で赤い光が噴き上がった。視線を
戻した時、ツインアイとV字アンテナを持つ頭部パーツが、モニター一杯に迫っていた。
『もういない。だから、アンタも……』
『ぅわ、あああぁっ!!』
 広域回線を通して入ってくる声と、機内をも照らすツインアイの紅光に訳も解らず叫ぶ
M1アストレイのパイロット。至近距離の相手を撃とうとしたライフルが、その手首ごと
ビームクローで斬り飛ばされる。宙を舞う射撃武器が明後日の方向にビーム射撃を行う中、
背部のサーベルを掴もうとした左腕の肘に紅色の掌が押し当てられ、閃光。腕が半ばから
破壊されて道路に落下する。
 まるで此方の行動が予め解っているかのような攻撃に、竦み上がるパイロット。戦意を
失い一瞬生じた隙を突かれ、足部ビームエッジを起動させたデスティニー兇僚海蠅忘元
を破壊され、先のウィンダムと同じように仰向けに倒れた。

 

「投降をすすめたかったんだけど、遅かったな」
『結果的に投降させられると思うから、良いんじゃないのかい』
 デスティニー兇竜‘發如軽く溜息をつく男が1人。機体と同じ黒と赤の特注スーツを
身に着けている。掠れがかった女の声に、小さく頷いた。
「連合の部隊は何処まで来てるんだ?」
『あと5分もしない内に着くってさ。それにしても、最近は楽な仕事ばっかりだねえ』
「敵MSの性能が低いから、周りに被害を出さずに無力化できる」
『ごもっとも。ともかくお疲れ、シン。連合軍が来たら、帰って晩飯にしようじゃないか』
 計器をチェックしていた男は、モニター越しの女に頷いて顔を上げる。虚ろな紅の瞳。
 シン=アスカは今や英雄だった。最早英雄でしかなかった。少なくとも、今はまだ。

 

「全く、問題が山積みだな。反プラントのコーディネイター、クライン派を支援していた
火星……そして此処へきて、シン=アスカか」
 アメノミハシラに設けられたロンド=ミナ=サハクの私室。2人の女性が招かれていた。
ミナの副官、白髪の混じり始めた髪をひっつめたアルファ1と、金髪と深緑の瞳を持った、
20代半ばと思しきエコー7である。
「しかし、にわかには信じられません」
 エコー7の発言に対し、ミナとアルファ1は彼女の方を見た。
「故ギルバート=デュランダル氏は遺伝子科学者であり、DNA解析の権威と称された
人物で、かつデスティニープランの発案者です。そのような彼が、自ら引き立てたシンの
持つ資質を見逃すでしょうか?」
「見逃したか、出生率が下がり続けるコーディネイターの存続に興味が無かったか、この
2年の間でシン=アスカの体質が何らかの変化を起こしたか……」
「変化、か」
 アルファ1の言葉に片眉を上げるミナ。40を過ぎた女性が首肯する。
「放射線による影響です、司令官。オゾン層で守られない宇宙空間での長い任務を経れば、
誰しも大なり小なり被爆します。勿論、昨今の対放射線防護技術は著しく向上しており、
強い日差しを長く浴び続ける程度の影響しかありませんが」
 小さく息を吐き出し、ミナは腕を組む。
「変異のトリガーとなる可能性が無いわけではない、か。さて、どうするかだな」
「どうする必要も無いのではありませんか?」
 戸惑いがちに、エコー7が声を上げる。
「シンの精子に高い授精能力があり、ナチュラルはおろかコーディネイターもほぼ1度の
性交渉で妊娠させる事が出来るとして、一体何の……」
「ビジネスだ、エコー7。近いうちに地球でも普及するだろう遺伝子調整医療……」
 彼女の言葉を遮り、ロンド=ミナ=サハクは薄い笑みを浮かべた。
「コーディネイター唯一のネックである出生率さえ克服できれば、法規制も段階的に緩和
されよう。生まれてくる自分の子に遺伝子調整を施したいと考える者は幾らでもいる。
より美しく、より優れた子を求めて……そこで、偶然知ったシンの特性に目をつけた」
「ですが、それを医療に応用できるかどうかは未知数なのでは?」
「だからビジネスと言った。可能か不可能かの問題ではなく、アズラエルが……否、彼女が
身を置くネオロゴスが、それへの投資を考えているという事が重要なのだ。だからこそ、
入院した者の生殖能力などを調べるわけで」
 長々と喋っていたミナが、ふと黙りこくって俯く。唇の両端を吊り上げた。
「今のシンは存在しない男……つまり人権も未だ無く、余の所有物。手元に転がっていた
珍妙な宝物を、易々と他者に譲り渡さねばならぬ理由はない……そうであろう?」
 長年ミナに仕えてきた2人の女性は、彼女の笑みが意味する所を悟り同時に嘆息した。

 

「ところでお嬢様、シン=アスカさんを確保してどうされるおつもりですか?」
「それは、どういう事でしょうか?」
 ダイアモンドテクノロジー本社ビル。社長室のテーブルの周囲に座った背広姿の男達は、
保安部の人間だった。ブルーコスモスを支援してきた頃から存在する部署であり、扱う
ビジネスもまた、それなりのものである。
 質問を質問で返したアズラエルに対し、ミラーシェイド状の多目的視覚デバイスを身に
着けた男が問い方を変えた。
「お嬢様がアスカさんを確保したとして、当社には何の利益も生じない筈です。せいぜい、
他のネオロゴスのご婦人方を手助けする程度でしょう。なぜ、我々が労力を費やさねば
ならないのですか?」
「バカ、お前……」
「いたっ」
 横にいた年嵩の男に脇を肘で突かれ、男性の身体が反った。
「いやあの、ええ、聞きませんよお嬢様……アスカさんは未だ基本的人権さえ保障されて
いない方ですから、居場所さえ掴めばコトは簡単でしょう。どうぞお愉しみくださ……」
「何を勘違いしているのです、貴方がたは」
 ゆっくりと立ち上がったアズラエルを見て、黒服達の動きが固まった。冷え切った口調
で少女が続ける。
「私が、ムルタ=アズラエルの娘である事をお忘れですか?」
 据わった目つきで一同を睥睨するアズラエル。
「プラントのコーディネイターを生かしておいているのは、彼らに未来が無いからです。
次代を継ぐ能力を持っていないからです。その大前提を乱すような存在を、私が、この
私が看過するとでも思うのですか」
「では……排除するという事で?」
 同僚を小突いた男が声を落とした。暗殺もまた初めてではない。ムルタ=アズラエルの
下であらゆる汚れ仕事に手を染めてきた彼らが、表情を一様に変える。
「出来るわけがないでしょう? 幾ら基本的人権が無いとはいえ、殺害しても罪に問われ
ないとはいえ、英雄としての地位を確立した男を手にかけるのは愚かとしか言えません」
「つ、つまり?」
 問いに対し、答えが返ってくるまで数秒かかった。静まり返った部屋の中で、雨の音が
嫌に大きく聞こえる。
「シンの遺伝子的資質を発揮する機会を、与えさえしなければ良いのです。つまり彼の
全生活を管理するという事です。ムルタ=アズラエルの娘が、個人責任において、私的に」
「……今、論理がジャンプもといワープしたような」
「何か?」
 縮こまった黒服達に満足げな笑みを浮かべ、少女はソファに腰を落とした。

 

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