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SCA-Seed_GSC ◆2nhjas48dA氏_ep2_第02話

Last-modified: 2008-01-18 (金) 20:44:18

 真夜中。デスティニー兇肇疋爛肇襦璽僉3機が連合軍駐屯基地へと帰還した時、空は
分厚い雲が垂れ込め、遠くで雷が鳴り響いていた。滅多に無い暴風雨を予期し、整備兵や
当直の歩哨までもがかり出されて機材を運び込んでいる。
 格納庫のメンテナンスベッドに背中を近づけると、アームが伸びて機体を固定する。
デスティニー兇離魯奪舛魍き、黒と赤の生体CPU用パイロットスーツを着たシン=
アスカが身を乗り出した。ヘルメットを脱いで脇に抱え、虚ろな瞳と表情が抜け落ちた
顔が露になる。機体の足元に、白衣姿の男が2人やってきた。襟元の、青い菱形が3つ
横に並んだバッジはダイアモンドテクノロジー社の従業員である事を示している。
「お疲れ様でした、アスカさん。早速ですが今日も『治療』の方へ」
「よう。今日も大活躍だったらしいな! 金的の」
 2人の後をついていこうとしたシンは、背後から掛かった声に振り返る。連合軍兵士が
3人、おどけた仕草で敬礼してみせた。
「MS隊の奴らがぼやいてたぜ。金的のシンがいるから、自分達は移動、待機、帰還しか
させて貰えないってよ。たまには手抜いて、仕事をくれてやったらどうだ?」
「無理だ」
 首を横に振り、シンは彼らに背中を向けた。そのまま格納庫を出て行く。ドムに乗った
3人組も続いた。空気の抜ける音と共にドアが閉まり、兵士の1人が溜息をついた。
「お高くとまってるってわけじゃねえが、変わっちまったな……シン=アスカ」
「変わったのは態度だけじゃない。シミュレイターで戦った奴に話を聞いたが、今の奴は
まさしく化物だそうだ」
 メンテナンスベッドのコンソールを操作していた整備兵が、話に加わってきた。
「空間認識能力が異常に発達してる上に、動体視力と反射神経が人間の域を超えてる。
自分を狙ってるMSの1機1機を識別して、スラスターの光、銃口の向きは勿論、挙動を
全部見てる。要するに……次に何が起こるかを読み取って動けるんだ。10機以上相手にな」
「嘘だろ……」
「本当だ、俺はデータを見たんだ。シン=アスカはもう人間じゃない……そう」
 草色の作業着のポケットに手を突っ込んだ整備兵は、小さくかぶりを振った。
「ああいうのを、英雄って呼んだんだろうぜ……昔から」

 

 倉庫を改装したスペースに、生体CPUの調整用機材が詰め込まれていた。中央には
灰色のベッドが置かれている。パイロットスーツを着たままのシンが横たわると、小さな
モーター音と共にシンの身体に合わせて変形した。ヘッド部分から樹脂製のドームが姿を
現し、シンの顔を覆う。表面に緑色の光が走った。
 『ゆりかご』の普及型である。ダイアモンドテクノロジー社が、兵士達の『調整』用に
開発したものだ。既に副作用を抑えた改良グリフェプタンも当局の審査を通過し、半年後の
実用化へ向けて最終フェイズのテストが行われている。
 全連合軍所属のMSパイロットに施せる強化処置。アズラエルによって提案されていた
プロジェクトは、崩壊した時点で再生が始まっていた新たなロゴスのバックアップを受け、
2年という僅かな期間で結実しようとしていた。生来の強化兵士ともいえるキラ=ヤマトを
確保し実験体に使用した事も、完成を速める一因となった。
 戦火の魔女達によって率いられたネオロゴスの手は、再び地球連合全体に及んでいた。
彼女達の謀略によってラクス=クラインは失墜し、ラクス自身の手によって生み出された
エミュレイターによってザフトは事実上消滅し、オーブをも民主化の名の下に併合した
地球連合に、もはや勢力としての敵は存在しなかった。
「アスカさん、どこにも違和感はありませんね?」
「大丈夫です」
「よし、始めよう」
 ゆりかごの周辺機械が低い唸りを上げる。虚ろな瞳が閉ざされ、シンの両手から力が
抜けた。呼吸が徐々に深くなっていく。
「個人を認識できない……か。兵器として生きる彼に、個人という概念は不要だと思うが」
「仕方ないですよ、お嬢様の命令なんだから。それ以前に治療できるんでしょうかね?」
 建物を叩く雨音に、クリップボードを持った男が天井を見上げる。雷が鳴った。近い。
「確かにな。それに、今の人間離れした戦闘技術と何らかの関係があった場合……」
 轟いた爆音に、白衣姿の2人は咄嗟に身を伏せた。テロ支援企業に長年勤めていると、
学術研究には必要ない習慣が身につく。金属板を引き裂くような音が、続けて響いた。
「落雷か……敷地の中に落ちたな」
「今日は中止しましょう。有り得ないとは思いますが、ゆりかごに万一の事があれば……」
「そうだな。パワーを切れ」
 鳴り響いたアラームに、男が振り返る。コンソールのサブモニターが赤く染まっていた。
シンの瞼がきつく閉じられ小刻みに震える。両手が握り締められ、手首が折れんばかりに
外側へ曲げられていた。壁際から伸びた電源ケーブルが火を引き、放電しつつ跳ね回る。
「クソ、馬鹿なッ!!」
「何で……何でケーブルが壊れたのに、セーフティが働かないんだ!?」
「手動で止めろ! 矯正装置が暴走してるぞ!」
 コンソールに緊急停止コードを打ち込む。承認の文字が浮かび上がったが、ゆりかごは
止まらない。シンの顔を覆うドームの表面に回路上の赤い光が走り、シンの口が開かれた。
「か、はっ」
「緊急事態だ! 医療チームを寄越せ! ……電源はどうした!」
「カバーが開きました。何時でも落とせます!」
「すぐにやれ! 今やるんだ!」
 腹に響く音と共に照明が消える。代わって非常灯がつき、部屋を薄暗く照らした。
「さて……場合によっては俺達、死ぬより酷い目に遭うだろうな」

 

 自分の名前を呼ぶ声に、シンは其方へ振り返った。白く光る人物が映っている。別の
声が聞こえる。振り返ったが、同じように光る人々が此方を見ているのみだ。真っ白な
空間の中で、シンへと呼び掛けている。服装も、顔も、声すらも違いが解らなかった。
 特に慌てる事は無かった。これがシンの常態だからである。誰にも近づけない、誰も
強く想う事が出来ないからこそ、彼は全てを分け隔てなく救う事ができる。不意に、白い
空間に黒い線状の模様が入った。何度となく現れ続けるそれは、稲光にも似ている。
 足元の『白』が裂けた。跳び退く間もなく、シンは虚しく右手を伸ばして落ちていった。

 

 砂嵐混じりのテレビを見ているように霞んだ視界の中で、シン=アスカの意識が戻る。
暗い部屋の中で、仰向けに横たわっている事が解った。起き上がろうとするが、両の手と
脚が動かない。光量が足りず、どうなっているかは解らない。自分が横たわっているのが
柔らかいベッドの上だという事と、何も着ていないという事を理解した瞬間、背筋に氷を
押し当てられたような不快感が襲ってきた。胃の辺りが沈み込むように重い。
 辛うじて自由である頭を狂ったように動かして、視野を確保しようとするが、叶わない。
不意に、ある映像が脳裏に浮かんだ。同じく暗い部屋の中、後ろ手に拘束されたまま逃げ
惑う自分。壁にぶつかり、痛みと共に蹲って背後を振り返る。浅い呼吸で視界が揺らぐ中、
目に入ったのは長く艶やかな黒髪と、血のように赤い唇。近くまでやってきた時、女性の
身体だと解る。しなやかな白い手指が自分の服に掛かり、着衣を破り捨てた。
 身を捩って背中を向けようとするが、その前に喉へと手が伸びて締め上げる。苦痛を
与えつつも窒息はさせないという絶妙な力加減を維持しながら、女性は唇を笑みの形に
歪めた。長身の彼女は、シンを壁に押し付けつつ身体を持ち上げていく。
「はあ、はあ……はあっ」
 映像は其処で途切れ、再びシンはベッドの上にいる。不意に正面のドアが開き、誰かが
入ってきた。柔らかい金髪が揺れ、蒼い瞳が見えた。薄手の着衣と身体つきで女性だと
解った途端、シンは激しく身を捩った。洗い立ての白いシーツに皺が寄る。
 スプリングがたわむ音に、シンの瞳はベッドに上がってきた少女へ釘付けになった。
「やめ……」
 拒否の声を上げるも、右手の細い注射器に声が引っ込んだ。其処で初めて認識する。
今自分を襲っている不快感の正体。それは、失われた筈の『恐怖』。光る針先に顔を背ける。
 首筋に触れた冷たい感覚によって、シンは再び真っ白な部屋へと引き戻された。
光る人々が並んでおり、安堵の吐息を零す。しかし次の瞬間、恐怖で表情が引きつった。
何体かの人型から光が消え、その姿と、何者であるか脳が認識する。
「ひっ」
 女性、女性、女性。把握できたのは女性ばかりだった。彼女達の双眸がシンへと集中
した時、シン=アスカの精神は限界を迎える。
「うわああぁあっ! ああああぁっ!!」

 

 自分の絶叫で目覚めたシンはベッドから跳ね起きた。自分が拘束されていない事を確認
した上で、胸や膝に触れて服を着ている事を理解する。噴出す汗が気持ち悪い。
「……はぁっ」
 常夜灯の光で、此処が自分に宛がわれた連合軍の宿舎であると認識した後、シンはまた
ベッドに倒れ込む。目に浮かんだ涙を拭い、時計を見ようとした所で正面のドアが開いた。
 入ってきたのはヒルダ=ハーケン。ヘルベルト、マーズと共にシンをサポートする、
手続き上の部下である。常に女性らしさとは無縁である彼女だが、今日ばかりは違って
いた。オレンジがかった赤毛を下ろし、ファッション以上の価値が無いアイパッチを外し、
タンクトップとホットパンツを身に着けている。
「シン、さっき連合軍の部隊から聞いたんだけどね……」
 その、女性である事を主張する外見を紅の瞳で捉えた瞬間、シンの喉が鳴った。
「来るな……其処で止まれ、来るなっ!」
「は?」
 メモリスティックを指先で弄んでいたヒルダは、その言葉に顔を上げる。1ヶ月前に
発生し、終結したエミュレイターの反乱以降、シンはまるでMSのパーツだった。戦う為、
MSに組み込まれる高性能の部品。単に面倒を省くという理由で、自分の部屋への自由な
入室をヒルダ達3人に許すような男だった。
 断じて、ブランケットに包まりベッドのヘッドプレートに後頭部を擦りつけ、両手を
一杯に突き出し小刻みに震えるような男ではない。
「ぁあ、悪かったよ。けどアンタは入って良いって言ったし……そんなビビらなくても
良いだろ? 取って食うわけじゃない」
「取って、食う……?」
「何だ? 食っても良いのかい?」
 ヒルダの冗談に必死で首を振った後、シンは全身を硬直させた。良く考えてみると、
自分が怯える理由は何処にもない。彼女達に入室を許可したのは自分だし、見られて困る
事をしていたわけでもない。というより、今の彼女のような格好で目の前に立たれる事は、
嬉しいとは言わないまでも不快であったり、恐ろしがったりする事ではない。
「俺は……俺は、何で」
「例の治療で、トラブルがあったみたいだねえ。雷が落ちてさ」
「トラブル……」
「ゆりかごとかいう装置が故障したんだろ?」
 何故自分がこうなってしまったのか、ヒルダの言葉を繰り返しつつ記憶を掘り返す。
ゆりかごに入った時、何かを見た気がする。白い部屋、個を認識できない人々。そして
黒い裂け目。それを思い出した時点で記憶が混濁した。
「ヒルダ……部屋から、出てくれないか?」
 シンの言葉に、ヒルダの左眉が持ち上がった。
「? あんた、名前……」
「名前、間違ってないだろ!? 良いから出て行ってくれ! 色々と……準備、そう準備が
あるんだ! シャワーを浴びたいし、着替えないと。それに……」
「ごゆっくり、シン」
 再び取り乱しかける自分の隊長に重ね返事を返し、両掌を胸の前に出しつつヒルダは
部屋を出た。ワインボトルとトランプの束を持ったヘルベルトとマーズと出くわす。
「凄え声が聞こえたが、どうした? ヒルダ」
「出て行け、とさ。大事な話だったんだけどねえ」
「ほう。あのシンも、虫の居所が悪くなるんだな」
 酒臭い息を吐き出し、マーズが小さく笑う。シンの部屋の前を立ち去りつつ、ヒルダは
後ろを振り返った。シンが壁に手を突きつつ自分達とは反対側の方向へよろよろと歩いて
いく。途中、書類を抱えた女性兵士とすれ違った時、ヒルダは見た。壁に身を擦り付けん
ばかりに、兵士を避けるシンの姿を。
「虫の居所が悪いってより……」
 独り呟き、ヒルダは首を捻る。続いて何かを思いついたように顔を上げ、危うげな笑み
を浮かべる。ヘルベルトとマーズの後ろを歩き、表情を悟られないよう目を伏せた。

 

「アスカさんの所在地が掴めました、お嬢様。彼らを追随していた我社の従業員の位置を
確認したと言った方が正確ですが」
「どういう事です?」
 ダイアモンドテクノロジー社研究所の廊下を歩くアズラエルは、その言葉に黒服の方を
振り返った。機動兵器の開発を一任している研究員から、ベイオウルフの開発が進んだ事、
そして開発中だったデストロイMk兇一応完成した事を聞き、視察に訪れたのである。
 押印とサインが主な職務となりつつあった彼女にとっては、息抜きのような物だった。
「アスカさんとその部下は、現在連合軍との協同作戦を行っておりまして……機密保持の
観点から、情報を公開できないのです。勿論、我社のスタッフも同様に」
「なるほど。それで?」
「中東のエネルギー拠点であるガルナハン付近を哨戒しつつ、反体制派の武装組織鎮圧に
あたっているようです。作戦の終了時期は不明」
 細い腕を組み、少女は青い眼を細めた。
「現地スタッフに、通信で指示を送る事は?」
「可能です……が、それをアスカさんに伝える事は難しいかと。何せ、規則上情報交換を
禁止されていますので。それに、彼らは生体CPUの開発部隊です」
「困りましたね。せめて彼らが……」
「ようこそいらっしゃいました、お嬢様!」
 スリッパを鳴らし、向こうから走ってくる研究員を一瞥し、アズラエルは嘆息した。
「……この人くらい大胆なら良いのですが」
「なにか?」
「ベイオウルフの開発に、変更があったそうですね?」
 研究員の質問に答えず、少女は話題を変える。歩きつつ廊下の窓の方を向き、犬型の
頭部パーツを持ったMSが並ぶ様を見遣る。
「その通りですお嬢様。ストライカーパック方式ではなく固定式に変えろと、軍が」
「アクタイオン辺りからの横槍でしょうか?」
「有り得ますね。連中、我々が主力量産機を取ったのが気に食わないのか、ストライク系
と思しき新型を売り込んでましたから。ま、新パックの開発が遅れてて良かったですよ」
 軽く笑い飛ばす研究員を半眼で睨むアズラエル。
「それで……デストロイMk兇完成したとか」
「デストロイではありません、お嬢様」
 指を振る化石が如きリアクションで勿体をつけた研究員は、アズラエルと共に昇降機の
前に立つ。ドアが開き、乗り込んだ。
「装備こそデストロイを元にしていますが、外見は大きく異なっています。3つの都市を
次々と焼き尽くしていった戦略級MAと同一視されるのは拙いし、今や連合は地球圏の
チャンピオンです。敵を殲滅する圧倒的火力は邪魔にしかなりません」
 階を示すカウンターが、最下層のB3を指す。しかし降下は止まらない。耳に違和感を
感じた黒服2人が、無意識に唾を飲み込んだ。
「必要なのは破壊でなく管理、統制、防衛。連合軍も言っている事です。火器や変形機構
は極力排除し、防御性能に注力しました」
「守りを固めたところで、進めなければ意味がないのでは?」
「無論です。なので、他のMS隊との連携を前提とした運用を考えています」
 エレベーターが停止し、3重のドアが右、左、上へと開いていった。一歩足を踏み出した
アズラエルが、その場で止まって眼前の巨人を見上げる。頭上のライトが機体を照らした。
「ご覧下さいお嬢様! デストロイMk供帖沈擬位松痢■妊イザーです!!」
 MSの2倍程もある全高。広い肩幅はデスティニー兇離▲汽襯肇僖奪を思わせる。
脚部も同様で、足部後方にはランディングギアが設置されていた。
 黒、白、赤で塗り分けられたボデイ。金の頭部アンテナは、兜飾りと見紛う程に派手だ。
両肩と両膝の可動式装甲から六角型のパーツがその姿を覗かせており、背負った逆三角形型の
大型ロケットブースターが、ライトを反射し輝いた。
「……」
 ダイナミックな毛筆体で書き込まれたネームプレートを見遣り、アズラエルはひとつ
頷くと研究員に歩み寄って、渾身の力で彼の向こう脛を蹴り付ける。
「……この後もっと怒るんじゃないかなあ、お嬢様」
 情けない悲鳴をバックに、作業を進めていた研究員の後輩は深く溜息をつくのだった。

 
 
 

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