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SCA-Seed_GSC ◆2nhjas48dA氏_ep2_第03話

Last-modified: 2008-01-18 (金) 20:43:59

 アメノミハシラの執務室。ロンド=ミナ=サハクは何時もの如く薄い笑みを浮かべ、
モニターに映った面々を見渡していた。彼らはプライマルリーダーと呼称される存在で、
それぞれ『アルファ1』『ベータ1』など、コードネームに1の数字を有するミハシラ軍の
支柱である。2年間共に歩んできた部下達を前に、ミナは口を開いた。
「我らは、最早その役割を終えつつある。否、最早要らぬ」
 各リーダー達の表情に等しく緊張が走る。誰かが言葉を発する前に、海賊達の女帝は
穏やかながら、有無を言わさぬ口調で言い切った。
「ミハシラ軍なる名で呼ばれた武装組織を、完全に解体する。既に5ヵ年計画を立てた。
これからお前達に概要を送る。余の決断の是非ではなく、プランの優劣を議論する」
『そんな、余りに唐突ではありませんか!』
 モニターの向こうで1人が声を荒げる。アルファ1以外、皆同じような反応だった。
「ゆえに、5年という期間をもった。MS、基地、輸送機といった資産を処分するのは
手間のかかる作業であり、何より人の世話がある。全員を脱退させるだけでなく、相応の
職を探さねばならぬ」
『しかし……』
 ミナが目を細めて冷たい視線を送る。若きリーダーは黙り込み、俯いて顎に手をやった。
「アスハやクラインの小娘はあらゆる権力を失い、クライン派議員はその殆どが失脚、
オーブは連合軍が占拠し、議会制民主主義を捻じ込んだ。プラントにも地球連合の力を
利用したネオロゴスの手が伸び、新たな統治を始めている」
 笑みを消し、彼女は言葉を続ける。動揺するリーダー達を見るその視線には、明らかな
苛立ちと失望が混じっていた。
「世界情勢が地球連合一色に染まりつつある中で、ミハシラ軍のような存在は害悪にしか
ならぬ。設立当初から、余はお前達に自身の行動理由を伝えていた筈だが……」
『司令官、よろしいですか?』
「何だ、エコー1」
 女性のリーダーが小さく挙手し、ミナは顔を上げる。
『ミハシラ軍を解体するという事は、将来的に地球連合もしくはオーブの国政に携わる
おつもりなのでしょうか』
「そのような可能性はゼロではない。が、組織の解体とは関わりの無い事だ。さて……」
 焦れたように会話を遮り、ミナは脚を組んで上体を椅子の背もたれに預ける。
「諸君に無駄な時間を使わせてしまった。本題に入るとしよう」

 

「Gカイザーの特徴は、防御性能だけではありません。操縦系統も、既存の人型兵器と
大きく異なっているのです。いわばソフトとハード両面の大改良、大改造という事で」
 脛の痛みから立ち直れず転がったままの研究員に説明され、アズラエルはキッチンで
蠢く黒い影を見るような視線を、その足元へ向けた。
「どうせロクなものでは無いのでしょう」
「ちょっとは自社の従業員を信頼して頂けませんでしょうかお嬢様……いたたたっ」
 蹴転がし、低めのヒールで研究員の尾底骨辺りを踏みにじる少女。
「何処をどう改良すれば、あのデストロイがこんな子供向け玩具のようになるのです。
スペックは当然、軍の要望を満たすよう調整されているのでしょうね?」
「こ、光波防御帯技術をフル活用した本機は、広範囲の破壊活動無しに部隊の速やかな
進軍を可能にします。歩兵戦に照らし合わせれば、主砲が無い分頑丈な戦車という事で」
 時折上がる小さな悲鳴を聞きつつ、アズラエルはGカイザーを再び見上げる。
「そういえば、武器が無いようですが」
「全て内蔵式です。連合軍の方からも、デストロイらしさを払拭せよと言われていたので。
頭部に2連装ビーム砲を、胸部に短射程ながら拡散式のエネルギー兵器を装備しています。
あとその……両腕部に、近中距離用の……ええと、分離式の兵器を……」
 緩く広げられたGカイザーの両腕。その肘から先には、スラスター状の大型機関が4基
取り付けられている。少女の唇の端が引きつった。
「……後で見ましょう。それで、操縦システムの方は?」
 ようやく足を離したアズラエルの下から這い出し、研究員は手元のノートPCを弄る。
「身体障害者用の、サポート用義肢からヒントを得ました。35メートルもの全長を持った
Gカイザーは、ただでさえ馴染み難い人型兵器の操作を更に難しくします。そこで」
 PC画面内が2つに分割され、GカイザーのCGモデルが右に寄る。左側にパイロット
スーツに似た何かが表示され、スーツの手足とGカイザーの四肢が点線で結ばれた。
「パイロットの動きを機械に伝えます。逆も同様……衝撃や圧力などですね」
「随分、思い切りましたね」
「このサイズの、しかも人型機械だからこそ実現可能な方式です。非人型の兵器は勿論、
現行の機動性を重視した通常のMSにも適しません。勿論、旧来のデストロイにも。あの
機体は変形機構を有している上、MSとは逆に鈍重過ぎ、人間の感覚と合わないのです」
 淀み無く答えていく研究員。彼のタチが悪いのはその狂った最終目的を果たす為、用意
周到に理論を積み上げ、行程を重ねていく所である。
「背部の推進機関は、機動性を確保するためという事ですか?」
「加えて、ほぼ全身にスラスターを装備しています。4機のマシンが変形合体するという
初期の設計構想がありまして、その名残ですね」
 何食わぬ顔で4機変形合体と言い放つ研究員を半眼で見た後、少女は溜息をつく。
「わかりました。確かに連合軍からの要望には、全て応えているようですね。この機体、
今動かせますか?」
「勿論です。というか、その為にお嬢様をお待ちしていたのです」
「わかりました。テストパイロットの方の準備が整い次第、直ぐに……」
 自分へと向けられた沢山の視線に気付き、アズラエルは顔を上げた。
「……何か?」
 周囲を見渡すアズラエルに、満面の笑みを浮かべた研究員が深く頭を下げる。
「よろしくお願い致します、お嬢様」

 

『お嬢様。新しい操縦システムは、実験以上の意味を持っているのです。皮膚感覚的に
人型兵器を操縦する事が出来る。適用できる兵器も、今後の改良で増えていく事でしょう』
 ツーピースを脱ぎ、ノートPCに表示されていたスーツに袖を通す少女がその言葉に
横目で小型モニターを見遣った。
「だから、素人の私が乗る事に意味があると?」
『短く言うと、その通りです。MSのコツを掴んだパイロットでなく』
 モニター越しの、右頬に赤い手形をつけた研究員を睨んだ後、アズラエルは銀色の
スーツの首に付いたスイッチを押す。ゆったりしていた布地が空気音と共に締まって、
少女が顔をしかめた。ライトブルーのレンズを持ったゴーグル兼ヘッドホンをかける。
「これは……ぴったりフィットする分、身体つきが強調されるのがちょっと」
『いえ、どの部位も強調されていませんので大丈夫です。お嬢様』
『黙れ、死ぬぞ。し……正面のリフトへお進み下さい』
 スピーカーに混じった後輩の声にゴーグル下の瞳が細まったが、少女は黙って指示に
従った。意味を問い質すのは今でなくても良い。リフトのバーに掴まり、そのまま上へ
昇っていく。Gカイザーの下腹部で止まると、ハッチが開いた。
「胸に乗るわけではないのですね」
『胸部は、既に大出力のビーム兵器が占領していますから』
 骨伝導フォンによって明瞭に響く研究員の声。少女が頷きつつ、Gカイザーの機内に
足を踏み入れた。薄い緑や青の光が周囲を取り巻いている。
『前方の足型に合わせて立ってください。……はい、けっこうです。ゴーグルを
起動させて下さい。左のこめかみ部分のでっぱりを……OKです。映りましたか?』
「ええ。システム画面ですね。起動させて構いませんか?」
『どうぞ!』
 ゴーグル越しに映る景色の端に、青白く光るメニューが浮かんでいる。スーツと一体化
したグローブで右上の『Activate』という文字に触れると、ハッチが閉じた。機内が突然
明るくなり、椅子のような緩やかに湾曲した背もたれが勢い良く突き上がった。プラチナ
ブロンドの髪が舞い上がる。壁から機械が迫り出し、両肩と両脚に表面のクッションを
一度触れさせた後、3センチほどの間隔を取って停止する。万一ゴーグルが破損した際の
保険なのか、目の前にメインモニターが降りてカメラが未だ起動していない事を示した。
 最後に、モニター脇から腕を入れられそうなカバーが、両脚脇からはペダルが展開する。
『Gカイザー、中枢システムに異常無し。お嬢様、何か違和感、ご不満、ご要望は?』
「シートの上がり方を、もう少しゆっくりにして下さい」
『後ほど修正します。リフトを上げつつ、メインシステムを起動させますので、しばらく
お待ち下さい。……各員、退避!』
 Gカイザー直上のシャッターが開き、黄色と黒のストライプが入った4本の柱が降りた。

 

 ライプツィヒ郊外に建つ、ダイアモンドテクノロジー社の研究施設。要塞のごとく周囲
を壁で囲まれたシャッターが開き、派手な金色の頭部アンテナを持った黒、白、赤の巨体
がせり上がって行く。やがて、震動と共にリフトが停止した。
 Gカイザーの両目が緑の光を、頭部センサーが赤い光を放つ。各部モーターが低い唸り
を上げ始めた。頭部が少しばかり持ち上がり、白い物を降らせ始めた空を見上げる。
「雪が……」
『カメラの状態は良いようですね、お嬢様』
「吹雪く前に帰りたいのですが」
『ま、まあまあ。30分程度で終わりますので……では、前進してください』
 言われて、アズラエルは足元を見た。ペダルに足を乗せる。カバーに両腕を突っ込んだ。
「確かに、どう動かすかが大体想像できる仕組みですが……まさか、歩く時はいちいち
ルームランナーのように足を動かさなければならないのですか?」
『あ、いえいえ。身体を軽く傾けて下さい。傾斜によってスピードが異なります。別に、
搭乗者の動きを正確に再現するわけではないのです……格闘家並の動きをリアルタイムで
トレースできるようになれば、それはそれで面白いMSが造れそうですが』
 何時も通り始まった研究員の妄想を聞き流しつつ、アズラエルは少しずつ前方に体重を
掛ける。Gカイザーの足が持ち上がってリフトから踏み出した。ゆっくりと、メインの
貨物搬入路を歩いていく。
『歩行は万全、と。では次!』
「えっ?」
 いきなり大きくなった研究員の声に、少女は顔を上げる。模擬敵を表示する車が眼前に
やってきて、ジンを描いたプレートを跳ね上げた。重突撃銃の銃口を目にしたアズラエルを
更に追い詰めるが如く、ゴーグルの上に赤い矢印が表示されてアラームが響いた。
『右へ避けて!』
「く……!」
 わけも解らず、右肩と右脚を保護するセンサー付のクッションに身体を叩き付けた。
同時に、Gカイザーの背部に装備されたブースターの左側が開く。青白い噴射光と共に、
巨体に似合わぬスピードで右へ跳んだ。着地し、足が雪面を削って黒い舗装路が露出する。
『……今回のように、素早く身体を傾ければ推進機関が開くわけです。というか、見事な
回避行動でした、お嬢様。今の動きだけならば実戦でも通じますね』
 絵とはいえ、向けられた銃口が脳裏に焼きついているアズラエルは無言で首肯した。
『解りやすい操作方法でしょう? ビデオゲームの仕様を参考にしたのです』
 愉しげな研究員に、少女もまた息を吐き出しつつ笑みを浮かべる。
「確かに、これではビデオゲームですね。遊びの延長線上で戦闘をさせるなんて……」
『不可能ではないかと思われますが。もうじき正式採用される一般兵の強化処置で、計画
通り戦闘の恐怖や不安を抑制する事が出来れば、戦争は今以上に面白くなるでしょう』
「ええ……次は?」
 話を打ち切るように言った後で、アズラエルは小さく目を見開いた。明らかに、自分は
愉しんでいる。研究員の思惑に乗せられているというより、戦闘への興味が抑えられない。
 頭を振る。自分の興味は、戦闘で発生する利益にのみ向けられなければいけない。
『攻撃訓練です。先程の標的を狙って頂きます。ロックオンカーソルを視線で誘導して
下さい。5秒後に識別信号を切り替えます……』
 ゴーグル越しにアズラエルの蒼い瞳が動いた。表示される十字型のマーカーが描かれた
ジンの胸部に合い、2秒後、識別信号高い音と共に赤く変わる。信号が切り替わったのだ。
『ターゲットロックを確認。実際に射撃してみてください。頭部の2連装ビーム砲を
試してみましょう。ロックを外す場合は、右腕カバーの親指部分を素早く2度、武器を
切り替える時は左の』
 研究員が説明していたまさにその時、模擬敵が粉々に砕け散った。爆発が起き舗装路が
砕け、炎に巻かれた無人車が横転して発火し、転がりながら再び爆ぜる。
『……気が早すぎやしませんか、お嬢様』
「まだ撃っていません」
 抑揚の無い声が、小さく開かれたアズラエルの唇から零れ落ちる。落ち着いている訳
ではない。事態を収拾すべく、脳をフル回転させているのだ。
『所属不明機が接近! 4機です! 奴ら、偽装ECMを!』
『くそ、最近のテロリストは贅沢すぎるぞ! 隔壁、砲台上げろ!』
『哨戒中の保安部隊を呼び戻します! 敵機捕捉……ザクウォーリアです!』
 雪混じりの強風が吹き荒れる中、飛び跳ねる4つのモノアイが白い闇の中に映える。
白とライトグレーでペイントされた4機のザクが同時に加速し、殿の1機が上がりかけた
隔壁を蹴り付けて、順次施設の敷地内に降り立つ。全機、ウィザード装備だった。
『機体から降りないで下さい! 腕をカバーに入れて、5本の指を目一杯開いて!』
 研究員の叫びに、アズラエルが素早く息を吸い込む。差し込んだままの両腕に力を込め、
Gカイザーもまた両掌を開く。両肩両膝の装甲が展開し、六角形のパーツ表面に緑の電光が
走った。2機のブレイズザクの肩からミサイルランチャーが突き出し、スラッシュザクの
ビームガトリングがゆっくりと砲身を回転させる。ガナーザクの長距離砲が剣呑な輝きを
放った。狙うは正面、全長35メートルの巨体。
『カバーごと前方に突き出して下さい!』
 Gカイザーの両腕が跳ね上がり、両手の手甲部と肩、膝が一斉に緑の光を放つ。同時に、
4機のザクがそれぞれの武器を発射した。小型ミサイル群が白い尾を引き、緋色の高出力
ビームが真下のアスファルトを溶かしつつ迸り、弱収束の速射ビームが降り注ぐ雪を蒸発させ、
大気を焼く。
 次の瞬間、Gカイザーからの光が何倍にも増幅された。巨大な弧状の光波が前方に走り、
膜となってミサイル、ビームを真正面から受け止める。大爆発が一帯の視界を塞いだ。
 やがて雪煙、爆炎、水蒸気が収まる。濃霧の彼方に、各部を光らせた巨人のシルエット
が浮かび上がる。両拳を握り締め、ゆらめくツインアイが淡い輝きを放った。

 
 
 

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