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SCA-Seed_GSC ◆2nhjas48dA氏_ep2_第06話

Last-modified: 2008-03-19 (水) 23:29:05

「よし、当たっ……いや、外した! このタイミングで!?」

 

 岩塊の隙間から覗いていたビームライフルの銃身が引っ込む。ホバー推進で土煙を上げ
る3機のドムトルーパーと、緊急着陸したM1アストレイをモニターに映しつつ、シンの
機体を狙撃したゲイツRのパイロットが舌打ちした。焼け付く大地から立ち上る陽炎が、
4つの機影を揺らめかせる。銃口を下に向けたライフルに、制式装備には存在しない長距
離狙撃用のスコープが取り付けられ、船外作業用テープとワイヤーで補強されていた。

 

『やはり奴か? 専用MSに乗っているという話だったが』

 

 通信スピーカーから、ノイズ混じりの声が入ってくる。崖際から上半身を出したダガー
Lが、背負っていたドッペルホルン無反動砲を起動させた。2つの砲身が水平にセットされ、
根元の照準器が淡く光る。各部から砂と塵が零れ落ち、長い間待ち構えていた事が伺える。

 

『ドムを3機連れている小隊といえば、シン=アスカに相違ない。ちょっとした小遣い稼
ぎが、一攫千金のトレジャーハンティングに化けたな。奴には賞金が掛かっている』
「やれると思うか?俺達に」

 

 3人目の男が通信に加わってくる。彼の機体は崖下にあって、姿を見せない。

 

『フン、戦場の風説には尾鰭が付く。当たり前だが……それに、奴はどういう訳か、あの
専用機に乗っていない。かつ、デスティニー兇郎鯣嫐楫發気譴討い襦
「乗り換えたのは今朝か午前中……つまり、機種変更訓練を行っていない」
『その通りだ。性能差も大きい。恐らく実力の半分も出せまい。狙撃を避けた辺り、腕は
鈍っていないようだったがな。勝てない相手ではない』
『しかし、ドムがいる』

 

 その言葉には、低い笑い声が返ってきた。

 

『確かに、ドムトルーパーの重装甲と高機動性は脅威だ。だが、ホバー推進の真価は二次
元機動、平面移動で発揮される。なら』

 

 崖下から、ジェットエンジンの咆哮が轟く。MA形態に変形した赤、白、黒の機体が、
後部から青白く長い噴射光を引いて太陽へと駆け上がった。

 

『このムラサメ相手に、どう戦うだろうな?』

 

 後世の歴史家は、ラクス=クラインとカガリ=ユラ=アスハが地球圏を支配したC.E.74
年から90年末までを『ダークエイジ』と一般的に呼称している。2度の大戦で疲弊しきっ
ていた各勢力による生活基盤の復旧は遅々として進まなかった。地球と宇宙に存在した
数々の通信不能エリアには、正規軍並の武装を持った非合法組織のアジトが配置され、ま
た既存の政治組織への信頼性が著しく損なわれた故に、地球連合は次々に登場しては消え
る勢力との様々な交渉に追われていた。
 国家同士の激突による大火は生じなかったが、先行きを照らす灯火も一向に見えて来な
い。明けない夜の中で、人々はじっと息を殺して災難をやり過ごすしかなかった。

 
 

『ヤバい』

 

 崖下から飛び出し、真上へと急上昇していくムラサメを捉え、ドムトルーパーに乗った
ヒルダが小さく呻いた。数の上では4対1で此方が有利だが、自分達は今何の遮蔽物もな
い平地の上に立っている。敵はといえば、1機は空を縦横に駆け巡り、2機は崖と岩場に
半分以上身を隠し、ビームライフルと無反動砲で此方に狙いをつけている。
 工事で足場でも造ったか、天然の地形なのかは定かでないが、回収できず放置された
ストライクダガーやトレーラーの残骸が、幾つか朽ちて散っているのを見る限り、よく
襲撃に使われる、あるいは襲撃部隊の足がかりとなるポイントである事は解った。

 

「ムラサメの相手は俺がやる! ヒルダ達は、隠れてる2機をやってくれ!」
『待てよ、シン。シュライク装備のM1とムラサメじゃ、機動性が違いすぎる。独りで
突出したって勝てやしねえ』

 

 シンのM1が、死角を補い合って固まる3機のドムの横を抜けようとしたが、ヘルベル
トの声が飛んだ。シールドを前面に構えさせ、連合軍機風にペイントされたM1の中で
舌打ちするシン。昨日まで、昨晩までの自分なら、この程度は物の数では無かった。否、
何機来ようとどんな相手だろうと、彼には関係なかった。

 

「ムラサメとは何度も戦った事がある! 大した敵じゃない!」
『お前だけじゃ無理だ。引き寄せて4機で叩く。ムラサメは集中攻撃でやるべきだ』
「ッ……俺は、あのキラを墜としたんだ! エミュレイターにだって勝った! 俺が前に
出れば、ドムも動く易くなるだろう!?」
『今は待つ』

 

 声を荒げたシンだったが、副隊長代わりのヒルダに切って捨てられるように言い放たれ、
沈黙する。操縦桿を握り締める手の爪先が白くなった。部下3人の反対を押し切って単独
行動をとる事は出来なかった。自分でも、無謀だと思ってしまったからだ。
 エミュレイターとの戦いを終えた後のシンは、まさに無敵の英雄だった。常人の域を
遥かに超えた空間認識能力は未来予測じみた先読みを可能とし、デスティニー兇旅發
機動性とあいまって、あらゆる敵を寄せ付けなかった。どれほどの敵に囲まれようとも、
彼にとっては1対1で相手をしているに等しく、MSのどんな小さな挙動さえ見落とさな
い動体視力と反射神経によって、言わば相手の2倍のスピードで戦えていたのである。
 そういうシンにとって、今の自分はMSに慣れただけの凡人としか思えなかった。自分
自身が信じられない。しかし、英雄だった頃の意識は健在なのだ。空を旋回するムラサメ
は隙だらけで、今にも墜とせそうに見える。ダガーLとゲイツRが構えるビームライフル
と無反動砲の向きがはっきりと解る気がしてくる。
 ドムトルーパーの本業は砲撃戦である。自分が前に出るのは当然の事だ。自分は、前に
出なければならない。そう、シンの意識が固まっていく。
続いてこう囁きかけた。
 前に出ねば、部下が死ぬかも知れないぞ、と。

 

「待っていたって、やられるだけだ!!」
『シン!? 何言って……おい、馬鹿!』

 

 シュライクのローターが唸り、スラスター光を吹き上げてM1が飛び上がる。MA形態
のまま、大きく旋回して様子を見ているムラサメに突っ込んでいった。
 機首を翻し、旋回を止めたムラサメの各部スラスターが小刻みに吹かされ、M1へと向
かう。垂直尾翼傍のビーム砲を連射するが、正面からの斉射で被弾するようなシンではな
い。シールドを構えさせつつ、機体を上下左右に振って回避する。

 

『敵が3機しかいない保証はないんだよ! 戻りな、シン!』
「俺が前に出るんだ、俺が勝って……皆を守るんだ! 守ってきたんだ!!」

 

 シールドの左縁と、右肩を緑のビーム光が掠めた。火花が散って青空に消える。M1の
ツインアイが輝き、ビームライフルをムラサメに向けた。

 

「そこだぁっ!」

 

 全身を巡る、熱い感覚が蘇った。一瞬が引き延ばされ、シンの意識がムラサメの『次』
を示す。機体を捻りつつ、自分の左肩を掠めて逃げる。見え透いた手だ。口元に笑みが
浮かぶ。機首の先端にビームライフルの狙いをつけ、トリガーを引き絞った。

 

「あ、あぁッ!?」

 

 灼熱のビームが放たれ、空の片隅に浮かんでいた千切れ雲を貫いた。全ての幻覚が消え、
シンの乗るM1の真上を、MA形態のムラサメがトップスピードで素通りした。シンは
読み違えたのだ。読み違えたという事に、射撃が終わるまで気付けなかった。

 

「そんな、嘘だ。俺が……?」

 
 

「狙撃をかわした時、もしやと思ったが……」

 

 通り過ぎた瞬間、ムラサメのパイロットは左側のレバーに手をかけ、引き寄せる。翼の
下から両腕が突き出し、MSに変形する。各部姿勢制御用スラスターが蒼い弧を描き、速
度を保ったまま180度旋回した。

 

「シン=アスカでは、無かったようだな」

 

 真後ろは取ったが、回転の勢いがつきすぎていた。振り向きざまのビームライフルによ
る射撃がM1を撃墜する事はなく、シュライクの右側に着弾する。破片がもう片方も破壊
し、切り離された直後爆発。こちらを追おうと振り返るM1を一瞥し、MAに再度変形さ
せ、嘲笑うように一度旋回すると崖の方へと飛んでいく。

 

「M1のシュライクを破壊した。3機のドムのデータ、其方へ行ったな?……やれ」

 
 

『……大丈夫か? あいつ』
『駄目だろうさね! シミュレイターより腕が落ちてる。このままじゃ』
 マーズの声に荒々しく返したヒルダが、唐突に言葉を止める。崖下の方から、腹に響く
砲音が上がった為だ。ドムのランチャー音よりずっと重い。彼らには聞き覚えがあった。
『来る……!』

 
 

 密集隊形をとっていたドム3機の至近に、8発の砲弾が立て続けに突き刺さって爆ぜる。
轟音と爆炎の中、胸部スクリーミングニンバスを展開した3機が飛び出した。

 

『ザウートかよ! シン、聞こえてるか! とにかく動けっ!』
『チッ……正確過ぎるじゃないか! 1発目でこんな命中率、あるわけない!』

 

 ヒルダ機のモノアイがレールの中を動き回る。ある一点で止まり、崖上を旋回するムラ
サメがレンズに映り込んだ。

 

『まさか、あいつ!』

 

『回避されたぞ、B地点へ急げ』
『わりぃ、風向きがいきなり変わってな』

 

 崖下の谷を戦車形態のザウートが2機、全速で移動しつつ上体を旋回させる。履帯が砂
と岩を噛み、重苦しい音を立てて両肩の2連装キャノン砲に次弾が装填された。

 

「へっへ、随分見やすくなったもんだ」
『最新のOSとサポートAIらしいからな』
「30人とやらに感謝感激ってわけか」
『50人、だった気がするが。まあどうでも良い』

 

 モニターには、指揮官用のソフトウェアを積んだムラサメから送られる、崖上の映像が
映っている。オレンジ色の放物線を、シュライクを失ったM1に合わせた。突き出した
岩影に隠れつつ、ビームライフルと無反動砲を撃つ味方を巻き込まないよう、角度を微調
整する。ザウートの両肩に据え付けられた砲台の基部が上がって、砲口が殆ど真上を向く。
 慢性的な電波障害に悩まされる戦場において、連合軍の新しいMS用OSとサポートA
Iは戦術の変革をもたらす筈だった。部隊員の各々が収集した情報を、全員が共有する事
が出来る。いちいち高次の司令者を介し、ディレイに悩まされる事は無くなるのだ。
 MSの機動、火器を制御するAIもまたリアルタイムで進化し、砲撃機であれば一射ご
とに予測射撃が正確になり、命中率が上がる。非合法武装組織との戦いにおいて、連合軍
は数だけでなく、チームワークの面でも有利に立てる……筈だった。

 

「行くぜ、そらっ!」

 

 砲音が谷間に響き渡る。ザウートの機体が地面に押し付けられて減速し、衝撃によって
周囲の粉塵が舞い上がり、機体を煙が包み込んだ。

 

『こいつらっ……正規軍のソフトを入れてやがるのか!?』
『ああ! ザフト機にもオーブ機にも使えるように……自分達で改良したんだろうよっ!』

 

 回避行動を取る3機のドムとM1を、砲弾による爆発が追いかける。隠れる場所のない
乾ききった大地にクレーターが穿たれ、視界が利かない所に無反動砲とビームライフルに
よる射撃で畳み掛けられる。敵は、一体となっていた。

 

「くそぉっ!」

 

 必死に逃げ回りつつ、シンは叫んだ。自分が、先走らなければ。飛行ユニットのシュラ
イクを失いさえしなければ、此方をモニターしつつ牽制射を加えるムラサメに対し、有効
な手段を取る事ができたかも知れなかった。そう思い込めば、意識はより集中しなくなっ
ていく。息苦しくなって、ヘルメットを脱ぎ捨てた。

 

「何で……何でこんな!」
『諦めるには早いよ、シン! 近くに別の連合軍部隊がいた筈だ! もうすぐ……』

 

 装甲の薄いM1を庇うように動いていたヒルダ機が、突然減速して前のめりになった。
クレーターを乗り越える際、スピードが落ちた所を、連射されたゲイツRのビームライフ
ル1発を偶然貰ったのだった。太い右脚にビーム光が吸い込まれ、ドムトルーパーがゆっ
くりと倒れ込む。シンが乗ったM1の前で黒と紫の大型機が転がった。
 シンの瞳が大きく見開かれる。M1がスラスターを使って小ジャンプし、ドムを跳び越
える。転倒したヒルダ機を追撃しようと、ダガーLが無反動砲を向けた。殆ど同時に、右
の砲の根元、照準器と弾装がある場所に、緑の閃光が突き刺さる。内部爆発を起こし、
右腕と頭の半分を失ったダガーLがよろめき、膝を突いて倒れた。
 M1が着地する。ビームライフルの銃口に残光と薄煙を宿していた。衝撃で黒髪が揺れ、
シンの紅い瞳が右を向く。トリガーを引いた。

 

『貴様!』

 

 僚機をやられ、遮蔽物から飛び出したゲイツR。後付の狙撃用スコープのレンズに、2
発目のビームが直撃する。筒状のパーツが竹のように弾けてそのまま貫通し、ゲイツRの
モノアイまで撃ち抜いた。頭部パーツが爆発し、仰向けにひっくり返る。

 

『ど……どういう事だ』

 

 ムラサメに乗って、勝利を確信していた男の声が引きつる。一瞬だった。ドムの1機を
転倒させ、実質3機となった敵を相手に距離を詰めようと、そういう指示を出そうとした
瞬間、M1が前に飛び出し、2発でこちらの2機を無力化させた。勿論、超高速で動いた
わけではない。まるで意識の隙間を縫うような動き。英雄シン=アスカの、動き。
 そして、既に距離を詰める事を決めていたレバーとペダルを操る手足は、脳の命令を実
行してしまっていた。小ジャンプでゲイツRが隠れていた岩塊へと跳び乗ったM1が、ス
ラスターを全開させて此方に迫る。距離が、急速に縮まった。

 

『うっ……ぉおっ!!』

 

 間一髪、MSへの変形が間に合った。ムラサメがビームサーベルを掴み、斬り下ろす。
M1もビームライフルを捨て、サーベルを掴んで突き上げた。ビーム刃が交差し、そのま
ま素通りする。M1の頭部が光刃によって斬り飛ばされ、ムラサメの右肩が浅く抉られる。
 推力を振り絞り、何とか崖上まで戻って膝を突くM1。スピードはそのまま、地面に降
り立つムラサメ。其処に、ヘルベルト機とマーズ機のギガランチャーが突き付けられた。
 ジェットストライカーパックの轟音が、遠くの空から複数近づいてきていた。

 
 

『そう、か……』

 

 夕刻。連合軍基地の通信室でヒルダからの報告を受けた、アメノミハシラ代表ロンド=
ミナ=サハクは、ひとつ頷いて顎に手をやった。

 

『つまり今のシン=アスカは、実戦で使いものにならないと』
「そういう訳じゃないよ、司令官。シンは実際今でも強いさね。ただ……ムラがあり過ぎ
る。自分で自分の能力を制御できてないし、何より戦闘の意識が現実に適応してない」

 

 最後の戦闘で、シンのM1はムラサメとビームサーベルで斬り合った。サーベルを受け
止められる機種は限られている。シンは間違いなく、デスティニー兇望茲辰討い榛△里
もりになっていたと、ヒルダは確信していた。序盤の無理な突撃も然りである。

 

『それで、再訓練か』
「最低でも25時間のシミュレイターと、50時間の実機研修。そうすりゃ、M1とかその
くらいのMSには問題なく乗れるだろ」

 

 自分の経験も交え、ヒルダはそう言った。首に巻かれた包帯は軽く捻挫した為である。
ドムトルーパーを乗りこなしてきた彼女にとっては屈辱であったろう。
「最後みたいなファインプレーが何時出るか解らないし、何時珍プレーを繰り返すかも
解らない。……まだ、あいつには死んで欲しくないしね」
『よかろう。余の指示によって、シンをアメノミハシラに戻す。本人にもそう伝えよ』

 

 ミナはそう言って、薄っすらと笑った。

 

『ただし、ヒルダ=ハーケン。シンの訓練期間については、此方で判断する。余らの組織
は常に人不足だからな。場合によっては、荒療治も有り得る』

 
 

「そうか……そうだよな」

 

 自分の処分を聞かされたシンは、ヒルダが思っていたのとは裏腹に抵抗しなかった。

 

「あんたは今、ちょっと厄介な病気にかかったようなもんだ。本当なら有り得ない病気に」
「なるべく……早く治すよ」
「元気でな」

 

 マーズが頷き、軽くシンの肩を叩く。ヘルベルトが小さく笑った。ヒルダが背中を向け
ると、2人も従った。歩き出す彼らに、シンが声をかける。

 

「気をつけてな……3人とも」

 

 背を向けたままのヒルダが軽く右手を上げる。忙しなく走り回る整備兵が、シンの直ぐ
横を通り抜けていった。起動しない事を確認し、オーバーホールに備えて核エンジンの封
印処置が為されたデスティニー兇悗畔發澳鵑襦

 

「……」

 

 赤と黒の装甲を身にまとい、光が消えたツインアイを持った機体をシンは見上げる。
力が自分の全てだと信じ、救う為に力を求め、英雄となったシン=アスカは今、実質的な
戦力外通告を受けた事になる。彼は壁に身を凭れさせ、両手で顔を覆った。

 
 
 

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