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SCA-Seed_GSC ◆2nhjas48dA氏_ep2_第07話

Last-modified: 2008-03-19 (水) 23:30:32

 プラントを地球連合の傘下に入れ直し、オーブを『民主化』し、歌姫の騎士団を消滅さ
せた以上、ネオロゴスの魔女達に課せられた問題は最早、自らの利益や名声を求めず、た
だ全世界に混乱と諍いを生み出し続けんとする『最後の50人』、そして野蛮人であるテラ
ナーをこれ以上宇宙へ進出させまいと暗躍する火星政府の2つだけだった。
 ネオロゴス代表モッケルバーグは、マーシャンの脅威レベルを低と位置づけた。現在の
地球圏に宇宙進出の余力などは無く、地盤を固め直さねばならない時期だからである。つ
まり目下の課題は、プラントを降す為に擬似的な同盟を結んでいた『50人』をどう裏切るか、
であった。長期的協力などは『50人』の選択肢に無い。そして一度裏切りを始めた時は、
彼らの息の根を可及的速やかに止めねばならない。1人残さず皆殺しにする必要がある。

 

 『50人』は、名の通り寡兵であり、連合軍の物量をもって押し潰すのが最上の策である。
しかし1人1人があらゆる分野に対し極めて高い能力を有し、改ミネルバ級戦艦セクメト
という母艦を持ち、量産型フリーダム4機、そして強化されたストライクフリーダム1機
で武装し、クライン派が情報源として活用していた『ターミナル』と多数かつ未確認の『フ
ァクトリー』を掌握する彼らが相手では、単純に物量をぶつけた所でいたずらに消耗する
だけであり、下手をすると押し潰す前にピンポイント攻撃で逆襲される事は明らかだった。
 無論、物量は必須である。しかしその中核に据える、『50人』に劣らない程の人材が必要
不可欠だった。アズラエルが事実上掌中に収めたシン=アスカは、まさにその役割を担う
に相応しい男だったのである。人命を救う事を最上の使命とし、比類無き力を手に入れ、
またそれ以外の欲望を持たなかったのだから。

 

『で? お気に入りのあの子が立たなくなっちゃったってわけ?』
「詳細については調査中ですが……少なくとも現在は、休息期間という事に」
『まあ、金的のシンじゃ仕方ないわねー』

 

 ダイアモンドテクノロジー、本社ビル。アズラエルのオフィスにて、グレーのツーピースを
着た少女が、分割されたモニターの右側に返答した。刺し殺すような視線を視界の左端に
向ける。機動兵器部門の長である研究員と、生体CPU及びバイオロジーを統括する
主任、つまり社の言わば中核の男2人が、直立不動のまま虚ろな目で部屋の蛍光灯を見上
げていた。さながら死刑宣告を読み上げられる罪人である。否、実際それに近かった。
 モニターの右側に映ったジブリールが、燃えるような赤毛を揺らして鼻で笑う。

 

『だからあたし言ったでしょ? あんなね、大量生産された安物に目をかけたって、何時か
は馬鹿を見るって。コーディネイターを使うなら、最初から良い物を選ばないと』
「シンは、スーパーコーディネイターと呼ばれたキラ=ヤマトに、勝利しました」
『そりゃあそうだけど、その後アスラン=ザラにやられちゃったじゃない? やっぱり欠陥
品だったんじゃないのぉ?』
『その辺りでおやめなさい、ジブリール』

 

 何か抗弁しかけたアズラエルだが、左側に映っていた老女の言葉でそれを飲み込む。

 

『アズラエルちゃん。シン=アスカ君の事だけれども……元通りになる見込みは立ってい
るの? つまり……もう一度、役立つようになりそう?』
「それはほぼ間違いありません、お婆様」

 

 即答したアズラエルに対し、モッケルバーグは柔らかく微笑んで頷く。

 

『では、何時ごろ治るのかしら?』
「…………」

 

 少女の視線が宙を泳ぐ。傍らで立たされる研究員と主任の目も、更に虚ろになった。

 

『1週間? 2週間かしら? 1ヶ月? 半年? それとも1年?』
「……起こり得ない状況で発生した事故なので、具体的な数字は……」
『解らない?』

 

 優しい声に、アズラエルの瞳が僅かに震えた。

 

『つまりシン君は、貴女の玩具はいつ元通りになるか解らないし、元に戻す方法もまだ解
らない。その上、コーディネイターという種を存続させる可能性のある生殖能力を持つ、
というわけね?』

 

 老女の瞳が深い光を宿した。何もかも探ろうという、その眼を正面から受けた人間が無
関心でいられなくなる目つき。無意識の内に、アズラエルは執務机の端を掴んでいた。
 モニター越しにジブリールが咳払いする。あくまで悪ふざけの域を出ない彼女と違って、
モッケルバーグの言葉には一片の容赦も無かった。

 

「は、い……」
『けっこう。シン=アスカ君への対応については別の機会に議論しましょう。ジブリール、
貴女はL9施設にいるんだったわね?』
『え? は、はい』

 

 すっかり笑みを引っ込めたジブリールが、急に話題を振られて首肯する。

 

『代用品の準備を早めてちょうだい』
『ほんとに良いの?お婆ちゃん。機体は出来上がってるみたいだけど、中身が……という
か、アブナイ実験を繰り返した所為で、人格が原型留めてないらしいけど』
『構わないわ。私達が『彼』に要求するのは戦う力だけ。最後の50人を押し留めるための
暴力だけ。それは衰えるどころか、むしろ高められているのでしょう?』
『ええ。これ以上無いってくらい、徹底的に。……解った。それじゃあね』
『よろしく。私からも特に言う事は無いので、通信を終えるわ』

 

 モニターが消え、少女の顔に影が落ちる。目を閉じ、大きく1度深呼吸した。ややあっ
て、ゆっくりと2人の方を振り返る。

 

「現在の状況を、把握して頂けましたか?」

 

 無言で、小刻みに何度も頷く研究員と主任。

 

「シンの『治療』にあたった2人のスタッフについては、責任を問いません。あれは元々
私が命じた事ですし、それに……」

 

 一拍置いて、アズラエルは左手を胸に添えた。

 

「普及型『ゆりかご』は、あと2ヶ月で全連合軍兵士に使われる事になります。この時期
に不具合が発覚するなどという事は、あってはなりません。現在行われている人体実験を
全て中止させ、原因究明に努めてください」
「はっ」

 

 畏まって頷く主任。彼にしても、今回の事件はショッキングだ。落雷如きで狂うような
人格調整装置など、アズラエルの言葉通り、あってはならない。

 

「そしてデスティニー兇侶錣任垢……」
「サポートAIのアンインストールは、適切な方法ではないかもしれません、お嬢様」

 

 話を振られた研究員が、珍しく遠回しな語調を使った。アズラエルの眼が細まる。

 

「今は、貴方の好奇心を満足させている余裕はないのです」
「勿論です。私が言いたいのはそういう事で無く、サポートAIとして機能している……
あの、『エミュレイター』の影響力が、今や機体の隅々にまで及んでいるという事です」
「つまり?」

 

 少女の追及に対し研究員は一度言葉に詰まったが、軽く被りを振って頭を上げた。

 

「サポートAIは、デスティニー兇貌眤△気譴織縫紂璽肇蹈鵐献礇沺璽ャンセラーと、
メインエンジンに干渉する権限を手に入れています。そう進化し、成長したのです」

 

 室内に、無音の緊張が走った。其方方面に明るくない主任が、青ざめた表情で研究員を
振り返る。

 

「ちょっと、待て。それじゃお前、エミュレイターの機嫌次第で……」
「キャンセラーとエンジンを暴走させ、機体を核爆弾と化す事が出来る。何時でも」
「外部からの封印処理は、どうなっているのです?」
「実質的には無意味です。核動力機は万一の場合に備え、パイロットが全てを手動で操作
できるよう、非常用デバイスが設置されているのです。そこを……乗っ取られています」

 

 沈痛な面持ちで報告した研究員が、更に重々しく言葉を続ける。

 

「更にこちらは未確認ですが、接続してある機械から軍のネットワークに不正接続した
痕跡も見られるそうです。……恐るべき速度で、自己進化しているのです」
「馬鹿な……コピー元のエミュレイターにだって、そんな事は出来なかった筈だ!」
「サイ=アーガイルは、元のサポートAIを書き換えて融合した際に、何かの突然変異が
起こったのではないか、と推測しいる。調査中、だがな……」

 

 溜息をついた研究員が、ポケットから出したハンカチで額の汗を拭う。

 

「お嬢様、エミュレイター自体ラクス=クラインのコピーです。何をしでかすか解らない
という、非常に愉快な、あ、いやいや! 非常に不安定な状況でして……」

 

 主任とアズラエルからの視線に対し、両手を振りつつ訂正する研究員。

 

「……解りました。では、デスティニー兇痢慊敢此戮魑泙い撚爾気ぁ最優先で」
「ハッ! お嬢様用のスーツの完成が、少々遅れてしまいますが」
「そんなものは……」

 

 手で払って一蹴しようとした少女だが、ふと動きを止めて瞑目した。先程の、モッケル
バーグから言われた事を思い出したのだ。役に立たず、危険な要素をネオロゴスがどうい
う風に扱うのか、少女は当事者側として知っていた。

 

「……いえ、其方もなるべく遅れないように。私からは以上です。仕事に戻って下さい」

 

 彼女にとって最も近しい2人の男は、同時に深く頭を下げた。彼らが部屋を後にすると、
アズラエルは手元にあるインターフォンのスイッチを入れる。

 

『保安部です』
「アメノミハシラのサハク代表に通信を繋いでください。2重暗号の、秘匿回線で」

 
 

「それで、彼は紛れも無く最強の男になったわけね?」
「理論上はその通りです、ジブリール様……いえ、ジブリール広報。シミュレーションの
結果の上ですが、1対1のMS戦闘で彼に勝つパイロットは、最早地球圏に存在しません」

 

 壁も階段も天井も白い、長い廊下を2人の男女が歩いている。燃えるような赤毛が揺れ、
胸元が開いたスーツから2つの豊かな膨らみを覗かせる娼婦のような女性の斜め後ろを、
白衣姿の男が歩きつつ説明する。ジブリールの外見に心揺れる様子は無い。欲情するには
余りにも抜け目が無さ過ぎ、凄味があり過ぎる事を理解しているからだ。第一興味もない。

 

「でも、どうしてそんな風に出来たのかしら? 最後の実戦では悲惨な事になってたけど」
「それこそ、彼の元の人格が災いしていたのです。本来彼は人類最高の存在となるように
設計されて創られ、成功した唯一の実験体。アスラン=ザラと相打ちになったり、まして
シン=アスカに敗北したりする事自体、有り得ない話だったのです」

 

 突き当たりのエレベーター前に立ち、男がパネルを操作する。

 

「人格が?」
「はい。この施設に来るまでの彼は、中途半端に人間的でした。時に迷い、時に悩み……
現在はその余分な物を取り除き、モッケルバーグ代表のご指示通りの強化を施しました」

 

 エレベーターが上ってきて、開く。2人が乗り込むと透明な樹脂製のドアが閉まり、降下
し始めた。ジブリールが微かに笑みを浮かべる。

 

「要するに、元から人間じゃないのに人間らしい暮らしをしていた所為で、本当の実力を
発揮できていなかったという事?」
「その通りです。他者への思いやり、守るべき者への責任感、友人との絆……生物として
不要なそれらを教えられた彼は、無意識の内にギャップで苦しんでいました。いわば獣が
口枷を填められ、四肢を鎖で拘束された状態で狩りをしていたようなもの……」
「ケモノ、ね。だから自分より強い者も危険も無かった2年間で、衰えきったと」

 

 エレベーターが最下層に到着した。空気が抜ける音と共にドアが開き、やはり白い通路
が続く。冷たい照明が降り注ぐ中、2人は再び歩き出す。

 

「実験の数々は成功裏に終わりました。我々は、ユーレン=ヒビキ博士の偉業、を……」

 

 男はそこで言葉を止め、背筋を震わせる。自分で自分の言葉に酔ったのだろう。横で聞
いていたジブリールが肩を竦めて笑う。彼は血のバレンタイン前にブルーコスモスに加入
したコーディネイターの科学者であり、初期ブーステッドマンやエクステンデッドの開発
に関わってきた。
 自らを新人類と謳いながら、ナチュラルと変わらぬ独立運動に燃える同胞に失望し、出
来てしまった生ゴミを処理、あるいは再利用する為に力を貸すと公言して憚らないマッド・
サイエンティストである。

 

「偉業を引き継ぎ、今ようやく、博士が目指した方向へと軌道修正を始めた段階にありま
す。彼はそういう意味で、私達の希望……目指すべき星の光なのです」
「ああ、そう。で、実際彼の性格っていうか、道具としての扱いやすさはどうなのかしら?」

 

 話の腰を折られても、自分の言葉で興奮する男は機嫌を損ねなかった。忍び笑いを漏ら
し、口の中で何事か呟く。

 

「……ええ。原則として、安全なエサを与える者には従順ですね。彼を裏切ろうとしたり、
騙して働かせようとすれば……それなりの代償を支払う事になるでしょう。誰であっても」
「見抜く、という事? それはやりにくいわね……今、会える?」
「勿論! 今、彼がいる所へ向かっていますので……ただ、いささか無礼な言動を繰り返す
かと思われますので、ご気分を悪くなさらないよう……あ、左側をご覧下さい」

 

 ガラス張りの廊下に差し掛かる。ジブリールが言われた方を振り返ると、MSが1機、
メンテナンスベッドに横たわっていた。白、青、赤でペイントされ、随所にダークグレー
のフレームが填め込まれたGAT-X105ストライクを思わせる……というより、ストライク
に酷似した機体。

 

「アクタイオンから軍に渡された機体は、あれかしら?」
「はい。なんでも、デスティニー兇防づ┐垢覽‖寮能だとか。私は専門外なので、詳し
い事は何も。で、彼の使い道なのですが……正直に申し上げまして、防衛任務には適して
おりません」

 

 下層へと続く階段を降りる中、男が告げる。

 

「獰猛にして怠惰。まさに人間以上の知性を持つ肉食獣ですので、強襲あるいは奇襲作戦
で最大効果を発揮するかと思われます」
「まあ、それはかえって好都合だから。それより訓練は問題ないの? 2年間で鈍った腕が、
1ヶ月で戻るとは考えにくいのだけれども……」

 

 得意げな表情で男は首を横に振る。最下層まで辿り着き、重い扉が開いた。

 

「それは並の人間の話です。彼は違う。4年前の戦争で、既に戦闘能力のベースは出来上が
っているのです。有害な異物を取り除けば、あとはその驚異的な適応能力で、何処までも
実力を伸ばせるのです。まったく、ラクス=クラインが何故そうしなかったのか……」

 

 ブザー音が上がり、男は言葉を止める。MSの足元にあった卵型のシミュレイターがゆ
っくりと割れ、上蓋が立ち上がっていった。

 
 

「あーあとちょとだったのに! 負けた負けた! 彼は人間じゃないね、僕以上に!」
 唐突に声が上がった。縁に手をかけ、中に入っていた青年が身体を起こす。両脇に控えて
いた保安要員が、斜め後ろからサブマシンガンを突きつけた。乱れた薄茶色の髪、深い蒼色の
瞳、銃口を見遣って愉しげに笑みを零す桃色の唇。

 

「恐らく、絶頂期のシン=アスカのデータと対戦していたのでしょう。未だ、一度も勝て
ていないようですが。まあその彼が変わってしまった以上、先程も申し上げた通り……」
「キラ=ヤマトが、最強」

 

 ジブリールがその後を引き継ぎ、男が無言で頭を垂れた。彼に視線を向けず、ジブリー
ルは機械から出てきた青年に歩み寄る。ミネラルウォーターのボトルを取り、プラスチッ
クのコップに注ぐ青年を見つめた。
 ザフトに所属していた時と同様、キラは白い着衣を纏っていた。発信機と懲罰用の電気
ショック装置を兼ねた、金属製の白い首輪。実験する際、暴れないようベッドに拘束する
為の金具が両腕、両手首、両膝、両足首に取り付けられた白い拘束衣。

 

「で……君、誰?」

 

 コップの水を飲み干したキラが、口元を手で拭ってジブリールに視線を向ける。珍しそ
うに彼女の赤い髪と、開いた胸元を無遠慮に眺め回した。

 

「貴方の主人よ。そろそろ社会復帰して貰いたくって」
「ふーん。社会復帰活動って、道端のゴミを拾ったり地味な椅子を延々と作ったりするん
でしょ? 僕、あんまり工作は得意じゃないんだけど……冷たいね、手」

 

 差し出されたジブリールの右手を取って、キラは軽く握る。

 

「いいえ、そういうのじゃないの。……あなたの得意な仕事は?」
「ええと、一番得意なのはMSを使った殺し合いだけど……ああ!」

 

 初めて気付いたように、キラは何度も頷いた。

 

「1ヵ月くらいやってたこのお遊戯って、職業訓練だったの」
「そうよ。これから色々やって貰いたいの。どこかへ行って何かを壊したり、誰かを怪我
させたり、殺したりとか。MSに乗ってね」

 

 ジブリールの言葉に、キラはいい加減に頷きつつ2杯目の水を飲み干す。

 

「楽しいと良いなぁ……ま、よろしくね」

 

 挑戦的な笑みを浮かべ、彼はコップをシミュレイターの上に置いた。

 
 

 連合軍が所有するシャトルポートで、シンは手荷物を確認した。元々彼の私物は殆ど無
い。日曜生活品は支給された物を使うし、しいて言えば妹の携帯電話の破片を包んだハン
カチ程度である。
 腕時計に眼を落とした。もう直ぐアメノミハシラからのシャトルが着く。非公式な便な
ので、アナウンスは無い。見送る者もいない。ヒルダ達には、時間を無駄にするなと言っ
てある。背中を丸め、シンは正面ゲートへと歩いていった。

 
 
 

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