Top > SCA-Seed_GSC ◆2nhjas48dA氏_ep2_第08話
HTML convert time to 0.009 sec.


SCA-Seed_GSC ◆2nhjas48dA氏_ep2_第08話

Last-modified: 2008-03-19 (水) 23:31:56

「ストライクアドバンス……開発チームは、単にストライクと呼んでいるそうだ」
「またストライクですか?」
「アクタイオンの象徴だからな。元を作ったのはオーブのモルゲンレーテだが、あそこは
ストライク……もといGAT系のリメイクで息を吹き返したんだ」

 

 ライプツィヒ・ラボの休憩室で、研究員の後輩がPDAのディスプレイを覗いていた。
アクタイオン・インダストリーが連合軍に売り込んだ新型の詳細情報が映し出されており、
機体の映像が添えられている。白、青、赤でペイントされ、全身の各所をダークグレーの
外装フレームで補強した、その姿。

 

「105そのものですね。キラ=ヤマトが初めて搭乗したMS……」
「軍や企業の中には、彼が只の学生だった事を疑っている者がまだ多くいる。それくらい、
ストライクが挙げた戦果は凄まじかった。……伝説的といって良いかもしれん」
「伝説、再びってとこですかね」
「そういう宣伝効果も狙っているんだろう」

 

 後輩の言葉に頷いて、研究員がPDAを操作する。機体がフレームだけになり、各部に
線が伸びて様々な数値が表示された。

 

「武装は換装式でなく、固定。ビームライフルと2本のビームサーベル、頭部と胸部には
機銃を2門ずつ。左手にはシールド。……シンプルだな」
「基本性能はどうなんですか?」
「まあ待て……そうだな、これは……」

 

 低く唸った研究員がキーを叩いて次々に表示を変え、時折1つ前の画面に戻して数値を
比較していく。丁度1分後、大きく息を吐き出して瞬きした。

 

「ストライクと銘打ってはいるが、似ているのは外側だけだ。中身は寧ろ、俺達のデステ
ィニー兇剖瓩ぁG廟元 帖弔い筺一部を切り取って言えば改良機だな」
「基幹技術はこっちの物を使ってるって事ですか!?」
「ああ。ヴォワチュール・リュミエールとか、ライフルとサーベルのエネルギー収束技術
とかな。飛行能力こそ無いが、こいつのスペックなら単なる『跳躍』で殆ど事足りる」
「信じられない! そんなの盗用じゃないですか!」

 

 後輩の怒りに、研究員は彼の方を振り返った。唖然とした表情でしばし見つめていたが、
ややあって頭を振る。

 

「そうか。お前大学出て直ぐ、俺の部署に来たんだっけ。じゃあ知らないな」
「……何が、ですか?」
「技術とかの特許は、ネオロゴス系企業全体で維持してるんだ。つまり、一社で飯の種を
抱え込むなんて無理なんだよ。アクタイオンはウチの技術を使えるし、逆も然り」
「そ、そんな事できるんですか? 知的所有権の問題とか……」
「非常事態下、だからな」

 

 いわゆる成績優秀者として就職してきた後輩は、研究員の言葉に首を傾げる。

 

「ニュートロンジャマーによって引き起こされた災害に加え、ユニウスセブンの片割れも
落ちた今となっちゃ、企業間の公正な競争なんてやってる場合じゃない。談合でも何でも
良いから、とにかく雇用を維持しろ……今の政府はそう言ってる」
「それは聞いた事ありますけれど……」
「エイプリルフール・クライシスもブレイク・ザ・ワールドも、ネオロゴスの婆さんズに
とっちゃ、ビジネスチャンスに早変わりするのさ」

 

 肩を竦め、研究員は口端を吊り上げて皮肉気に笑う。プランAやGカイザー開発に燃え
る、あるいは萌える普段の彼とはまた別の一面を見せられ、後輩は曖昧に首肯した。

 

「もし興味があるなら、ウチのライブラリで調べてみろよ。ネオロゴスが……おっとっと、
連合が地球上のどのエリアをどういう風に復興させているか。もちろん仕事の後で、な」
 研究員はそう言って、休憩室の窓の向こうを見遣る。後輩もそれに倣う。グレーと
ネイビーブルーの痩躯にほっそりとした狗面を持った、制式量産仕様のベイオウルフが全身を
アームとケーブルで接続され、ツインアイが青白い燐光を放っていた。

 
 

「シンの訓練データを、其方に回せと?」
『サハク司令官サマにお願いすれば良かったのかも知れないけど、瑣末な事なんでね』

 

 アメノミハシラにて。軽装パワードスーツのヘルメットを脱いだエコー7は、若干眉を
顰めつつ通信モニター越しのヒルダに応対していた。彼女の背後では、同じようなスーツ
を着た実働部隊員が、訓練施設の壁に凭れて座り込んでいる。負傷のリハビリの為に一般
訓練に参加したエコー7だったが、自身の権限を使ってトレーニングメニューを強化した
のだった。訓練用の弾丸が装填されたサブマシンガンのセーフティを確かめる。

 

「私がシンの再訓練を担当するかどうかは定かでありません。MS戦は専門外ですし、彼
に白兵要員としての訓練が必要かと訊ねられれば、別に……」

 

 常に探るような笑みを浮かべるヒルダ=ハーケンを、エコー7はいまいち好きになれな
かった。ファッションの為だけに眼帯をして戦闘に臨むのは非効率的である。仮に視界を
遮らないように作られているといっても、余計な事をするべきではない。
 ヘルベルト=フォン=ラインハルトとマーズ=シメオンを組み込んだ三位一体のフォー
メーションは脅威であり、恐らくMSで彼らと立ち会えば勝機はないという事実も、ロン
ド=ミナ=サハクの懐刀としては面白くない。彼らは結局の所戦いたいだけ―もっと言え
ば、よりシビアな環境を己のスキルで愉しみ、ついでに報酬を得られる格好の遊び場に居
続けたいだけ―であるというのが、エコー7の認識だった。
 シン=アスカに起こった変化を知った時、彼女はまずヒルダ達の行動を疑ったのである。

 

『シンが復帰した時、どの程度の実力になっているかを知りたいんだよ。解るだろ?』
「どうでしょう? 配置を変更されているかも知れません。シンは貴重な戦力ですから」

 

 無いと解ってはいるが、腕を組んだエコー7は素っ気無く答えた。顔を逸らし、肩を揺
らして笑うヒルダが流し目を送る。

 

「とはいえヒルダ、貴女の要求は合理的です。訓練の担当者に提案しておきましょう」
『どーも』

 

 砲撃戦に優れ、重装甲と高機動性を併せ持ったドムトルーパー3機は、接近戦に強いデ
スティニー兇留膰遒忘播だという事も解る。ドムのデータを手に入れシミュレイターで
『試乗』を行った時、エコー7には機体の制御が精一杯だった。
 だからこそ軽薄で、堕落したフリをし続けるヒルダと彼女の仲間が気に入らないのだ。

 

「承りました。では、こちらも任務中ですので」
『はいはい、お邪魔し』

 

 言葉の途中で通信を切断したエコー7は、へばっている隊員達の方に向き直る。

 

「どうやら貴方がたには、基礎的な訓練が不足しているように思われます。索敵行動は精
度が劣悪で、確認頻度も低い。会敵時の反応も哀れなほど鈍い。次の模擬戦でその部分を
入念にチェックしましょう」
「いや、ちょっとエコー7、あと5分休もう」
「なぜですか?」
「な、なぜですかって、え、本気で今から始めるの?」

 

 会話を続けつつも、エコー7が3つのカメラアイが三角に配置されたヘルメットを被り
直そうとした時、ステーション全域に放送が入った。

 

『14番シャトルがBポートに接近。当該ブロックの通常通路を封鎖』
「休憩します。リハビリ中なので」

 

 一方的に通告して訓練施設を後にするエコー7に対し、力なく敬礼した隊員の一人が
無重力に身を任せる。

 

「本当にリハビリ中なんですか、彼女」
「自己申告では、そうだな」
「でも、どうしたんでしょう?」
「14番シャトルにはシンが乗ってる筈だ。司令官に何か言われてるんじゃないの?」

 
 

『シン!』
「な、なに?」

 

 ハッチが開いてタラップが降りる。与圧され直したドックに足を踏み入れたシンは、ま
ず自分の名前を呼ぶ大声に顔を上げた。目の前のドアがスライドし、銀髪のおかっぱを
揺らす男が流れてきた。

 

「イザーク?」
「シン、今回の件で気に病む必要はない! 俺はお前がインパルスに乗っていた時から知っ
ている。こんな所でへこたれるお前じゃない」

 

 再び顔面を横断する痕を刻まれるに至ったイザーク=ジュールが、暑苦しくシンの手を
取って握手する。ドア口に立ったディアッカ=エルスマンが額に手を当てて頭を振った。
 隣で片手にPDAを持ったシホ=ハーネンフースが、小さく溜息をつく。

 

「良いかシン、くじけるんじゃないぞ。俺に出来る事なら何だって手伝ってやる!遠慮無
く言え。完全復帰する前に、俺の隊に入るのも悪くない!」
「う、うん。そうかもな」
「それだけだ! じゃ!」
「え、それだけ? ちょっと、ジュール隊長?」

 

 一息で喋り終えたかのようなイザークは、入ってきたのと同じ勢いでドックを飛び出し
て行った。肩にぶつかられ、綺麗に一回転したディアッカが無重力空間の壁に降りる。
慌ててイザークの後を追うシホの背中に苦笑いし、壁を軽く蹴ってシンに近づいた。

 

「……相変わらずだな、イザークは」
「お前みたいなってワケじゃないが、奴も色々悔しい思いをした事があるんだよ。だから、
ひとこと言いたくなったんだろ。悪いね、騒がしくて」
「そんな事」

 

 ディアッカに首を振るシン。目元には依然暗い影が落ちていたが、唇は久しぶりの笑み
を形作っていた。

 

「まあそれはそれとして……残念だったな、シン。色々と」
「残念っていうか、そうだな……こんなもんかって思ったよ」
「ん?」

 

 首を捻るディアッカ。シンの笑みが自嘲のそれに変わった。

 

「いや。結局、エミュレイターと戦った時の俺は……その、無くなったんだなって」
「んな事ぁわからないだろ? 今のお前は病気なんだって聞いたぜ」
「確かにそうかも知れない。けど俺の実力って事だけを言えば……」
 視線を落とし、シンは自分の両掌を見つめる。
「今のが、俺の本当の姿なんだって。もう、今までのようには戦えないって」
「シン……」

 

 ディアッカが眉根を寄せる。シンの心深くに宿る本当の望みを感じ取っていた彼は、そ
の苦悩を推し量る事が出来た。

 

「……キラみたいに、俺は強くなりたかった。ラクスのように、何か喋れば皆が平和にな
るようなカリスマが欲しかった。アスハみたいに、沢山の人を守る権力が欲しかった。ア
スランみたいに、どうすれば一番得をするか解るような本能があれば、皆が幸せになれる
ように出来る……全部じゃなくて良い。どれかひとつでもあれば……あいつらに及ばなく
ても、何かそれに近いものが俺にあれば……」

 

 両手をきつく握り締め、シンは目を閉じる。

 

「俺にはどれも無い。無いからあいつらを頼った。『改心』して従った……って言えば謙虚
に聞こえるだろうけど……アテにしただけだ。手に入ったと思い込んだキラみたいな強さ
も、今は……無い」

 

 肩を小刻みに震わせて、シンは笑う。咳き込むようにも、嗚咽を堪えるようにも見えた。
口を開いた事で、胸の中で押さえ付けていた不安と悲しみがこみ上げてくる。

 

「ディアッカ、俺は……ッ俺は、こんな程度なんだと思うよ。でなきゃあ……自分を負か
した奴らに、あんな簡単に従うわけないだろ? 俺はさ、結局ブッ!?」

 

 言葉は最後まで続かなかった。ディアッカの両手がシンの頬を挟み込み、唇から歪な破
裂音が上がる。

 

「っな、何すんだよ!」
「悪い悪い。ちょっと苛々して」
「い、苛々って……ごめん」

 

 更に落ち込んで、シンは意味も無く荷物のベルトを弄くる。確かにディアッカにとって
何の関係も無い話だったのは事実であり、同性から延々と泣き言を聞かされるのは鬱陶しいに違いない。

 

「だってさ、お前が嫉妬してる奴ですら4人がかりなのに、どうしてお前は1人で対抗し
ようとするんだよ。お前は何者だ? 少年コミックに出てくるラスボス的な誰かさんか?」
「……違うけど」
「単なる人間だろ? しかも色んな奴の世話になってんだろ? なあシン、お前はどう思っ
てるか知らないが、ザフト抜けた後のお前を……」
『ディアッカ貴様アァ!! 何時まで油を売っている! 出発するぞ!』
『ジュール隊長、濫りにステーション放送を使わないで下さい!』

 

 ディアッカが続けた言葉は、イザークの怒声で掻き消された。両耳を塞いだディアッカ
が、肩を竦める。シンに背中を向けて床を蹴った。

 

「じゃ、俺行くわ」
「き、気をつけてな」
「ありがとよ、シン」

 

 閉まるドアを見つめ、シンは視線を天井に向ける。シャトル収容プロセスを終え、照明
がゆっくりと弱まっていく。

 

「1人で……か」

 
 

「出頭いたしました、司令官」

 

 執務室のドアが開いてパワードスーツを着たままのエコー7が入室した時、
ロンド=ミナ=サハクは丁度何者かとの通信を終えた所だった。モニターが消え、
室内の光が強まる。
 敬礼するエコー7に対し、ミナは笑みを深めた。

 

「楽にしてよい。用件は幾つかある」

 

 彼女は足を肩幅に開き、両手を後ろで組んだ。最も傍近くに仕える実働部隊員である事
を自負してはいるが、礼を欠かす事は無い。

 

「シン=アスカが帰還した。彼には再訓練が必要だ」
「はっ」
「教官にはエコー7、お前が相応しい。任せる」
「は……ですが司令官、MSの操縦技術ならば、シン=アスカは私を上回っているかと」

 

 ミナの簡潔な命令に対し、エコー7の視線が揺らいだ。

 

「操縦訓練ばかりではない。お前の指導には定評があってな……まるで、実戦のようだと」

 

 眉を顰めるエコー7。

 

「……誰がそのような事を?」
「誰が言ったかについては問題ではない。これは大多数からの意見だ」
「了解。訓練内容の組み立て方については?」
「お前に一任する。ただし、シン=アスカを命令系統から外す事はない。理解できるな?」
「はっ!」

 

 短く肯定した後、エコー7は目を伏せる。実際の所、教官としての彼女のキャリアは短
いし、大した実績も未だ挙げていない。指名された理由が分からなかった。

 

「ただし。現在のシン=アスカは精神に重大な疾患を負っている可能性がある。本格的な
訓練開始時期は、当ステーションの医師の診断に従うように。……さて、もう1つだが」

 

 ミナは一旦言葉を切って、両腕を組む。目を細めて口の端を吊り上げた。困難だが興味
深い問題に取り組む時の仕草だった。

 

「現プラントの議長代理が、部下を地球に降下させるらしい。新型MSに乗せて、な」
「ツェド、ですか」

 

 エコー7もまた、新型機のデータに目を通していた。今のプラントに軍事機密は無い。

 

「あれをどう見る? 旧パーツを寄せ集めた急造機体だという事だが」
「既存機体のパーツを使っている事は事実です。しかし……急造と呼ぶには余りにも」

 

 エコー7はしばらく顔を上げ、柔らかい照明の光を見つめる。もしあの機体が量産ライ
ンに乗れば、プラントの防衛能力は2倍以上に強化される。自分達にとっては毒にも薬に
もならないが、連合軍にとっては新たな脅威となり得るだろう。

 

「当機は一度、ミハシラに立ち寄る手筈となっている。詳細な……虚飾のないデータを
収集せよ。方法は任せる」
「了解しました」
「そして最後に一点。アメノミハシラは今や、様々な人間が出入りしているわけだが……」

 

 エコー7が頷く。ネオロゴスと接点を持って以来、確かに外部からの人間が増えた。活
動資金を出資してくれる企業の経理担当や、ネオロゴス系企業のエンジニアなどである。

 

「警戒せよ、エコー7。今まで以上に、彼らから目を離すな」
「司令官、それはどういう……?」
「アズラエルから、情報がもたらされた」

 

 緩く息を吐き出し、ミナはエコー7の言葉を遮る。

 

「ネオロゴスにとってシン=アスカは最早、人の形をしている必要はないそうだ」

 
 
 

】 【】 【