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SCA-Seed_GSC ◆2nhjas48dA氏_ep2_第11話

Last-modified: 2008-04-27 (日) 18:53:58

 エミュレイターの反乱以後、アークエンジェルはまともな整備を受けていなかった。近々
の廃艦が決まっている船を完全に整備するようなゆとりが連合軍には無かったし、油断も
あった。ザフトやオーブ軍など、自分達に盾突いていた者達は全て消し去った。まして、
連合軍艦隊が厚い防衛網を敷く地球の衛星軌道上の、短期哨戒任務である。
 敵襲などあるわけはない。そんな無鉄砲な真似をする連中ごとき、君の指揮で跳ね返せるだろう。
問題点を訴えたアークエンジェルの艦長に、高官達は笑いながらそう答えた。

 

「後部左舷ラミネート装甲、排熱が追い付きません! 敵のビームが集中しています!」
「エンジン2番、4番大破!旋回軸修正!」
「ジェネレーターに異常!出力40%低下!」
「ヘルダート、半数が沈黙!」
「後部火器管制をオートに設定し、乗員を居住区側に避難させた後、撃ち続けろ!既に
護衛のモビルスーツ隊を見捨てている!我々が死ぬわけにはいかん!」

 

 メトロノームで合わせたような震動と、クルーから入ってくる悲鳴混じりの報告に耳を
傾けつつ、旧世代の船乗りを思わせる浅黒い肌を持ったアークエンジェル艦長の檄が飛ぶ。
 彼を含めた全乗員は既にノーマルスーツの着用を終えており、艦内は減圧済みだった。
アンチビーム爆雷の防御膜を通し減衰したビーム砲撃が、絶え間なく艦体に突き刺さる。

 

「被弾は左舷に集中か……敵は此方の整備情報を入手しているようだな。第4艦隊との合
流まで、後どれほどか!?」
「270秒です!」
「何とか間に合うな……ミネルバと違って、敵には陽電子砲がない」

 

 艦長席のコンソールを叩き、後部カメラの映像を呼び出す。細部まで視認できるほど
の近距離から良いように撃ち込んでくる深紅のセクメトと、それに寄り添い青白い光の尾
を引きつつ、こちらにビームやレール砲弾を撃つ4機のフリーダムが見えた。
 セクメトには、開発母体となったミネルバにはない改造が加えられていた。艦首上下に
槍のような鋭く尖ったパーツが装備され、後部が膨れ上がって見える。エミュレイターの
反乱では見られなかったので、新兵装と推測できた。
 セクメトの艦体上部から光線が放たれ、MSの1機に当たる。デュートリオン送電シス
テムにより随時エネルギーを補給する事で、MS隊を浮遊砲台として使っているのだ。

 

「バリアント2番、破損!」

 

 接近しての砲撃戦故に、アークエンジェルもセクメトも螺旋状の軌道を描いて被弾の軽
減を図っているのだが、セクメト側に目立ったダメージはない。火力、装甲、機動性全て
において高い水準で現在のアークエンジェルを上回っているからだ。
 砲撃はセクメトを掠めるに留まり、後部発射管からのミサイルは悉くCIWSで撃墜される。
一方、装甲と対空防御力の改善が図られていないアークエンジェルは何発もの直撃を許していた。
 不沈艦時代の操舵手アーノルド=ノイマンでもいれば話は別だったかも知れないが、生憎
彼は司法取引によって、二度と軍務に復帰できない。それに、もしそうでなくともこの
ピンチに駆けつけてくれはしないだろう。

 

「本艦を襲撃する為だけに、こんな場所で戦闘を仕掛ける筈がない!敵の目的は間違いな
く地球への降下だ!戦況は五分と五分!相手は……間も無く時間を使い切る!」

 

 席を立ち、彼は通信回線で全セクションに叫ぶ。ブリッジの至近をセクメトのビームが
走り、メインスクリーンにノイズが走った。

 
 

 MA形態に変形した青と白のオオツキガタが、アメノミハシラから次々と飛び立ってい
く中、ステーションの大型ハッチが左右に開いて黄と黒で塗装されたアマツもドックから
緊急発進する。

 

「アークエンジェルとセクメトはどうだ?」
「両艦とも最大戦速で衛星軌道上を進んでおり、合流の遅れが予想されます」

 

 艦長席に腰掛け足を組むミナに、傍らのアルファ1が上体をやや屈めて答えた。

 

「先行させたジュール隊は、間も無く交戦可能距離に入るでしょう。後続のオオツキガタ
さえ到着すれば、敵は撤退せざるを得ません」

 

 側近の言葉にミナは頷く。対艦攻撃力を有する長距離レールガンを備えた10機のMSに
狙い撃ちされては、セクメトといえども長くは保たない。

 

「各部隊には、本艦を待たずに攻撃をかけるよう指示いたします。よろしいでしょうか?」
「構わぬ。セクメトの撃沈よりも、アークエンジェルの救出を優先せねばな」

 

 言って、ミナは薄く笑った。自分達のような海賊を嫌うアークエンジェルの艦長がどう
反応するか、容易に想像できる。

 

「司令!後方から接近する反応があります!MS……に見えます」
「に、見えるとは?そして所属は?」

 

 オペレーターの声に、ミナは眉を上げてみせた。

 

「それが、通常の機体には考えられない姿勢をとっているので。識別信号は連合軍です」
「スクリーンに出せ」
「えっ、出すんですか?」
「命令だ」

 

 彼女からの質問に訝りつつ、ミナは有無を言わさず言葉を重ねる。
 正面のスクリーンに、低画質ながら機体の外見が表示される。

 

「……」
「……」

 

 大型シールドの上下端を持った腕を突き出し、膝を折り、相撲の力士のようなガニ股の
まま猛スピードで此方に向かってくる、ストライクに酷似した機体。ミナとアルファ1は、
しばし沈黙した。

 

「何かを抱えているな。まあいい、撃ち落とせ」
「い、いえ、友軍機ですので!あ、機体から通信が入りました!」

 

 スクリーンの画面が分割され、パイロットらしき姿が表示される。手足などに拘束用の
金具が取り付けられた白いスーツに、MSの頭部パーツのような保護ヘルメットを被った
人物から青年の声が響いた。

 

『ロンド=ミナ=サハクってのは、誰かな?』

 

 腕を組んだミナが心持ち顔を上げる。それだけで分ったのか、青年は頷いた。

 

『へえ?歳の割に美人ってのは本当なんだ。ま、愛らしさでは僕に敵わないけどね』
「通信チャンネルを調整し直すが良い。お前に似た男が寝言を垂れ流しているぞ」

 

 真顔で切り返すミナに、青年は手元のキーを幾つか叩いた。言葉通りに取ったらしい。

 

『これで良し、と。連合軍のパイロット3人を預かって貰って良い?そっちから見える
だろうけれど、荷物抱えてるんだよね。ハッチが開かないって言われちゃって……』

 

 機体が接近して映像がより鮮明になると、青年の言葉が真実である事が分った。両手で
横に構えたシールドと胴部の間、広げた両脚の股間部に、ウィンダムかダガーLの胸部が
合計3つ挟み込まれている。ビームサーベルで斬ったのか、切断面が焼け爛れていた。
 勿論、通常のMSに取れる姿勢ではない。青年は3機のMSを一目見て救助方法を見出
し、OSをその場で書き換えて、自機にその見苦しく失笑を誘うポーズを取らせる事に
成功したのだ。3つの胸部の体積と必要なスペースを短時間で把握する、優れた空間認識能
力も備えていると推測できる。

 

「前部ハッチを開ける。相対速度を合わせ、収容して良い」
『どーも。このままアークエンジェルを助けに行かなきゃならないと思ってたよ』
「なるほど、目的は同じか。階級と姓名を名乗れ」

 

 大げさに身体を仰け反らせ、青年は両肩を竦めて見せた。

 

『このセレブの僕を知らないっていうの?君、テレビとかネットとか見ない方かな?』

 

 オペレーターの何人かが顔を見合わせる。その声に聞き覚えのない人間は、地球圏には
殆どいない。既に過去となった筈の英雄だ。口調も人格も、変わり果ててはいるが、彼は。

 

「取るに足らぬ二流のセレブリティは幾らでも湧いて出る。お前など知らぬな」
『ま、話し方からして世事に疎そうだね。僕はキラ=ヤマト。備品だから階級はないよ』

 

 ヘルメット越しに目を細め、キラは喉を鳴らした。

 

「せいぜい活躍する事だな。余の記憶から抜け落ちぬように」
『励ましの言葉を有難う。ファンは多いほど良いもんだね』

 

 キラはそう言って、一方的に通信を切った。イズモのブリッジを覗き込むようにして
ストライクアドバンスが加速し、艦首へと飛ぶ。ただ一度のブレーキで相対速度を合わせ
ると、大型シールドを持った両腕を上げて3つの胸部をハッチの中へと漂わせた。衝撃を
吸収するネットに当たるまで、中の乗員は僅かな衝撃さえも感じないだろう。
 ガニ股だった両脚がすらりと伸び、シールドを左手で持ち直す。右腰部のホルダーから
大型のライフルを掴み、野太く力強いスラスター光を引いてイズモから離脱していった。

 
 

「アメノミハシラより、戦艦を含む中規模の部隊が発進。先発のMS5機は、40秒程度で
有効射程距離に入ると予測」
「得意の『矢じり』、ね」

 

 右腕の義手をひっきり無しに動かしながら少女が報告し、それを聞いた褐色肌の女性艦
長が頷いた。海賊狩りを行うミハシラ軍の基本戦法だ。接近戦、近接格闘戦に優れた部隊
を前面に押し出し、敵陣に突撃させる。
 同時に後方から長距離射撃で援護をかける事で、敵にどちらから対処すれば良いかを迷
わせる。攻撃が始まった後、一瞬でも迷えばミハシラ側の勝ちはまず揺るがないのだ。
『矢じり』とは、固まった尖兵と、彼らを援護するため逆弧状に展開した射撃部隊の陣形
を指す。精鋭が集まり、常に先手を打てるミハシラ軍だからこそ可能な芸当だった。

 

「ストライクフリーダムの合流時間は?」
「護衛の部隊に足止めされて、大分距離を離されたから……同じく、後40秒前後」
「こちらが負けているようね」

 

 ありったけの砲撃を叩き込まれ、破片を航路に残しながら逃げるアークエンジェルを
一瞥し、彼女は短く感想を述べる。今の自分達は、華々しく攻めているだけだった。

 

「アークエンジェルに最後の攻撃をかけつつ、大気圏突入シークエンスを開始」
「ストライクフリーダムは?」
「間に合って貰うわ。彼にはそれが出来るのだから。MS隊は、セクメトの甲板へ」

 

 オペレーターを務める数人が、抑揚のない平板な声で指示を伝える。

 

「艦首展開。トリスタン3番、発射用意」

 

 ミネルバにはなかった兵装を彼女が口にし、オペレーターが復唱する。彼らに命令系統
は存在しない。無論、同胞意識もない。彼らにあるのは一体感でなく、同一感だ。

 

「後部ロケットクラスター点火。非常出力を投入し、最大戦速へ」

 

 セクメトの上下艦首に取り付けられていた、鋭く巨大な槍の穂先が無理矢理噛み合わせ
るかのごとく切っ先を中央に向ける。後部で爆発にも似た光が膨れ上がった。

 

「各砲塔は射撃を継続。ランチャー1から10にナイトハルトを装填、順次発射」

 

 2門のトリスタンと1門のイゾルデ、そして宙戦用ミサイルを乱射しつつ、アークエン
ジェルとの回転軸を合わせたセクメトが速度を増す。

 

「総員、対ショック防御。……突撃」

 
 

「敵艦、更にスピードを上げました!」
「損傷率、40%を突破!左舷ラミネート装甲、機能停止!これ以上は、もう!」
「まだ余力を残していたとは……!ミハシラ軍をアテにする以外に無いか」

 

 アークエンジェルの艦長は舌打ちし、制帽を目深に被り直した。

 

「艦長!非常用のロケットエンジンは健在です!」

 

 クルーの言葉に頷き、艦長は右手を上げた。

 

「逃げ切れん速度ではない!これより……」

 

 直後、モニターの端に表示されたセクメトを見遣った彼の動きと声が止まった。艦首に
何か変化が起こっている気がする。ビームやミサイルが絶えず掠めるカメラなので画質は
悪いが、何かがおかしい。

 

「敵、尚も接近!早くご指示を!点火準備は完了しています!」

 

 しかし、彼はまだ動かない。指示を出しあぐねている風には見えなかった。浮かんだ汗
がヘルメットの中を漂い、眼尻を吊り上げ見る者を射殺さんばかりに睨みつけている。
 激震がブリッジを襲う。距離が詰まるという事は、命中精度が上がるという事だ。装甲
が砕け散り、破壊されたエンジンがもげて焦げた残骸を撒き散らした。

 

「艦……」
「10秒後に逆噴射だ!」

 

 螺旋の軌道を描きつつアークエンジェルに迫るセクメト。後半周で追いつくその時、艦
首の槍状パーツが開いて真紅の巨光を生んだ。艦首上下から生まれた光は巨大なビームの
刃となる。緊急制動用の炸薬ペレットが艦の各所で光り、ラミネート装甲を完全に無力化
した脆い左の船腹に突き刺さらんとする。
 しかし次の瞬間、アークエンジェルの前面に増設されたスラスター全てが光を放った。
根本が抉れた機銃砲塔が千切れ、焼け焦げた白い装甲表面を転がって虚空に消える。軌道
修正するセクメト。しかし間に合わず、船腹には赤熱した鉤裂きを残すに留まった。
 ビームラムが前部の双胴に突き刺さり、同時に艦首中央のビーム砲が火を噴いた。水平
翼を千切り、フレームをひしゃげさせ、焼き斬る。両舷のリニアカタパルトとゴッドフリート
が全壊し、前半分を?ぎ取られた。が。

 

「焦ったな……セクメト!」

 

 ブリッジ前面の展望窓一杯に迫る敵艦の血紅色に、艦長は不敵な笑みを浮かべる。
セクメトとアークエンジェル両艦長の経験差が物を言った。彼は賭けに勝ったのだ。

 

「残存火器を叩き込めッ!艦首及び艦底部に攻撃を集中させろ!撃<て>ええぇッ!」

 

 勢いをつけて振りぬかれる右手と共に、ミサイルと機銃弾がセクメトに殺到して昼間の
如くブリッジ内を照らす。回り込もうとしたフリーダムのシールドが一瞬で吹き飛び、
セクメト艦首下部のビームラムが根元から粉砕された。

 
 

『あ、アークエンジェルが!』
『すごい耐久力……ナスカ級ならとっくに爆発しています。でも!』
『チッ、ディアッカ!砲撃準備を急げ!シホは索敵だ!』

 

 シンとベルを加えたジュール隊が戦闘宙域に進入したのは、丁度その時だった。真空中
では、各機のスピードを一定に保てる。5機が殆ど制動をかけずに密集隊形を保って飛べ
たのは、全員の操縦技術が一定以上の水準に達している事を意味する。
 10秒もしない内に、全員のレーダーに敵を示すマーカーが映る。情報戦に優れたシホの
イージスブランが、素早く情報収集を終えたのである。

 

『索敵終了!エルスマン、データはどうですか?』
「OK!いつでも良いぜ」

 

 球形のレーダーに映る5つの光点を見つめるディアッカ。それらが一瞬でマルチロック
され、移動速度や相対距離など詳細な数値が目まぐるしく入れ替わる。フリーダムの翼が
折り畳まれ、左右の腰、肩から砲身が伸びてフルバーストモードにシフトした。

 

『ジュール隊長!』
「5カウントだ!ディアッカの砲撃に合わせて突っ込む!シン!」

 

 左端に表示された通信モニターに向かって、イザークは噛み付くように叫んだ。

 

「お前はそのザフト兵と共に、シホを援護してくれ!」
『だけど……』
「弾避けなど要らん!ディアッカ!」
『弾幕だろ?当たるなよイザーク!』

 

 上下左右、小刻みに動きつつフリーダムが全砲門、火器が斉射される。輝くビーム、弾
道の見えないレール砲弾がもつれ合ったセクメトとアークエンジェルへと向かい、青白い
スラスター光が4筋と少々の爆発を起こす。MSの方には回避されたようだ。
 ペイルブルーとホワイトのインフィニットジャスティスが、背部のリフターを切り離し、
飛び乗る。機体の上下に強力な推進機関を得たIジャスティスは、稲光のような光を漆黒
に刻み、フリーダムの砲撃を縫ってセクメトへ向かっていった。

 

『これは……ジュール隊長!新たな敵機です!こんなスピード……正気じゃない!』
「イージスを頼む!」

 

 シホの言葉が終らぬ内に、シンは操縦桿を押し込んだ。ザクウォーリアの左足が虚空を
蹴って、凄まじい速度で戦場を駆け抜ける光の尾へと突っ込んでいく。

 

『アスカさん!単機では……』
「この速さ、覚えがある!こいつを、アークエンジェルに近づけさせちゃ駄目なんだよ!」

 

 少女に叫び、シンは光目掛けてビーム突撃銃を連射した。全弾、相手の後方を虚しく
貫くに留まった。FCSが追い付かない。不意にその光がシンのザクへと向いた。一瞬で
接近し、ストライクフリーダムの姿がシンの視界に飛び込んだ次の瞬間、光る関節を持つ
その機体が幾重にも分身し、ザクを押し包むかの如く一斉に襲い掛かった。

 
 

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