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SCA-Seed_GSC ◆2nhjas48dA氏_ep2_第12話

Last-modified: 2008-05-09 (金) 21:12:58

 イズモのブリッジに、次々と戦況報告が入ってくる。展望窓の左右には随伴するMSの
青白い光跡が幾つも描かれては消え、地球の衛星軌道上で繰り広げられる戦闘の光が肉眼
で確認できた。

 

「アークエンジェル、大破しました!セクメトの衝角を受けた模様です」
「沈んではいないのだな?」
「死に体で、推進機関の殆どをやられていたようですが、一体どうやったのかセクメトを
小破させ、戦線から離脱させつつあるとの事です」

 

 ロンド=ミナ=サハクはそれを聞いて笑みを浮かべた。エミュレイターの反乱時から、
彼の手並みについては把握している。

 

「ジュール隊は既に現場に到着し、アークエンジェルを援護しています。オオツキガタの
部隊も半球陣を完成させ、間も無くセクメトを有効射程内に入れる予定です」
「艦首陽電子砲を展開せよ。可能であれば、セクメトを地球に降下させたくないのでな」
「了解!ローエングリン、エネルギー充填開始!」

 

 命令を復唱するオペレーターに頷くと、ミナは艦長席に深く座り直した。速度を上げて
飛び去っていく自部隊のMSを、退屈そうに見上げる。

 

「で、アルファ1よ。余の新型MSは何時ごろ完成するのか?」
「いえ、その……ところで司令官、よろしかったのですか?」
「何がだ。む、第4小隊の速度を落とさせろ。陣形が乱れている」

 

 中年女性の問いに、ミナは視線をそちらに向けた。横目で各部隊のステータスチェック
を行い、三次元レーダーにも気を配る。

 

「シン=アスカの事です。司令官は個人的な意味でも、彼に目をかけていたようですが。
再訓練前の彼を戦場に投入すれば、恐らくは……」
「シンに再訓練は必要ない。いや、字面通りの訓練が必要ないというべきか。実戦こそ、
彼の訓練場なのだから」

 

 ミナの口元に、サディスティックな笑みが浮かんだ。

 

「ヒルダ=ハーケンはシンを気遣い過ぎる。彼は本来、もっと乱雑に使うべき男なのだよ」
「では、弾避けといったのは?」
「彼の鼻先に餌をぶら下げてやったに過ぎん。シン=アスカは明らかに死にたがっている。
誰かを、かつ大勢を庇って死ぬような最期を迎えたがっているからな。ハッ」

 

 ミナが俯き、笑う。黒髪によって表情が隠れ、鋭い犬歯が僅かに紅い唇から覗いた。

 

「しかし悲しいかな……シン=アスカは強い。哀れなほどに、戦いのセンスがある」

 
 

「こ……」

 

 左のSフリーダムはレール砲を構え、下のSフリーダムは左腰のラックからサーベルを
抜き放つ。右のSフリーダムが左手のビームライフルを突き出した。

 

「こ、れはっ!?」

 

 淡い金色の光を纏う幾つもの分身。驚くシンだが、その身体はうろたえない。ペダルを
踏み込む。ザクが加速し、Sフリーダムの群へと正面からぶつかりってすり抜けた。
 シンのザクを取り囲みかけていた分身が一斉に消失し、頭部パーツが背後を振り向きか
ける残像が一瞬表示された。次の瞬間、直ぐ左横にビームライフルを構えたSフリーダム
が出現し、左右交互に連射する。向き合う余裕も無く、スラスターを目一杯吹かして赤い
光の雨を掻い潜るザク。
 進路に幾つもの残像を残しつつ、Sフリーダムがザクを追う。直進せず、緩く八の字を
描いて残像を散らし、黒い骨の翼から吐き出される赤い光の粒子が宇宙の黒を染めた。

 

「何だ……この装備は、知らないぞ!」
『シン、聞いて下さい!』

 

 モニター傍を掠めるビームの光条に歯噛みするシン。そこへシホからの通信が入った。

 

『分身と残像の正体はミラージュコロイドです!どうやっているのかはまだ解りません
が、コロイド場を機体周囲に投影する事で、フェイントをかけているんです!』

 

 情報戦に秀でるイージスブランは、それ自体を簡易な戦闘指揮所と化す事が出来る。膨
大な情報を把握しつつ、搭載された数多くのデバイスを使いこなせる人材として、ザフト
の技術者でもあるシホ=ハーネンフースは打ってつけだった。

 

「なら話は早い!イージスにはディテクターが搭載されてる筈だ!そのデータをこっち
へ回して貰えれば、逆に本体が掴める!」

 

 肩のシールドにビームが着弾し、黒い焦げ跡を残した。揺れる機内に舌打ちし、シンは
ザクに右足を蹴飛ばさせた。慣性が働き、Sフリーダムへと向き直りつつ左へ跳び退く。
赤いビーム光が、寸前までザクの頭部、脚部があった場所を貫いていった。

 

『それが……本体もコロイドで覆われていて、通常のディテクターは逆に役立たずです!』
「そんなに甘くないって事か、くそっ!」

 

 次々と撃ち込まれる射撃に、シンは毒づいて必死に機体を振る。デスティニー兇巴濱
した技術を使って強化されたストライクフリーダム、およびフリーダムのビーム兵器は
総じて威力が抑えられた反面、連射速度と収束率が上がっていた。エミュレイター事件の
折、ダイアモンドテクノロジー社が密かに手を回し『50人』を援助したツケが、今になっ
て回ってきたのだ。最早、利害の一致は無い。

 

『ですが、投射されるコロイドと機体を覆うコロイドでは密度に違いが出ます!それを
解析できるように、モードを変えれば……ベル、まだ攻撃しないで!』
『でも、このままじゃアスカさんが!』

 

 イージスブランを援護していたツェドが、無脚形態のまま肩のレールガンを展開した。

 

『あなたのツェドはともかく、私のイージスではあの攻撃に対応できないの!今はシン
に囮をやって貰うしか……!』
「……ッ!?」

 

 2人のやりとりを耳にしていたシンが目を見開く。赤いツインアイが、眼前にあった。

 
 

 関節部をも金色のPS装甲で補強したSフリーダムの蹴りが、胸部コクピットハッチに
突き刺さる。火花が散って、爪先で蹴飛ばされた胸がへこんだ。声さえ出せず、視界が
歪んで星灯りが光の尾を引いた。
 通信回線で誰かが叫んでいる。自分の名前を呼んでいるような気がする。淡い光で包ま
れたSフリーダムの銃口が、此方を向く。

 

「こ……んな所で……」

 

 虚ろな瞳のまま操縦桿を右に倒す。ビーム一発を避けたが、続く一撃が右足を捉えた。
震動が更にシンの意識を遠のかせ、自分の息遣いがはっきり聞こえた。

 

「こんな所で、俺は……」

 

 アラーム音と赤いランプが灯った機内で、意味もなく呟くシン。機体のバランスを取り
戻せないまま更に撃ち込まれ、肩のシールドが吹き飛ぶ。コクピットの左上で火花が散り、
白煙が噴き出した。

 

『はあい通るよ。通っちゃうよー』

 

 ピンチも悲壮感もぶち壊す間抜けな広域回線が、シンの耳に飛び込んできた。メイン
モニターの中央、シンのザクとSフリーダムの真ん中を巨大な緑の光が焼き潰す。大型
シールドを前面に構え、片脚並に大きなライフルを構えた機体が横切った。
 赤、青、白の機体各所をダークグレーの外部フレームで補強したGATシリーズ。連合
軍内部では既に伝説化しているX105ストライクに酷似したMSに、シンの唇が動いた。

 

「キラ=ヤマト……?」

 

 意識が現実へと引き戻される。通信内容にではなく、その声にだ。

 

「ふ……ッざけるなぁっ!!」
『なんだよ、いきなり』

 

 半ば錯乱していたシンは、怒りと怨嗟を込めて叫んだ。怒声で自身を取り戻すと、キラ
の不満そうな声を無視し、ストライクAへと意識を向けかけたSフリーダムを睨む。

 

「そうだ……分身と残像をバラ撒いて、こっちが捉えられない速さで動く敵でも……!」

 

 ライフルを左手に掴ませ、ザクの右手が腰のグレネードを掴む。振り返るSフリーダム
の視界から少しでも逃れるべく、左側へ回り込んだ。

 

「戦い方はある!」

 

 叫びながら、シンは自機にハンドグレネードを投げつけさせた。回避が紙一重で間に合
わず、後退するSフリーダムが爆風に巻き込まれる。金色のコロイド場が吹き払われ、
残像と分身が粉雪のように舞って消え失せた。

 

「そこだなっ!」

 

 赤い照準環がヘルメットのバイザーに映り込み、シンの鬼気迫る表情が照らし出される。
スラスターが焼き切れんばかりに青白い噴射光を吐き出し、金と赤と白の機体にザクが
追い縋った。

 
 

「情報に誤りがあった」

 

 緑色のビーム光をすれすれで回避させつつ、Sフリーダムを駆る男はセクメトに呼びか
けた。オールバックにした暗い色の金髪を、至近距離を抜けていく光が淡く輝かせる。

 

「乗機のデスティニー兇浪鬚蕕鵑、シン=アスカは未だ健在。超人でなくなっただけで、
相変わらず充分な脅威だ。拙い事になったな」
『地上でのデータを見る限り、とてもそうは思えないけれども……とにかく、帰艦して』

 

 実際の所、男はシンと戦うべきではなかった。死力を尽くしても勝てない相手と戦う事
こそ、力を失って精神が不安定になったシンに対する、最も効果的な訓練だったのだから。

 

「構わないのか?」
『ミハシラの部隊に包囲されつつある。オオツキガタの狙撃を推進機関に集中されたら、
セクメトは保たない。今は大気圏突入で逃げるべきね』

 

 不意に男が顔を上げ、機体を右へ、相対的下方へと避けさせる。不可視の射撃が2度、
周囲に展開するコロイド場を突き破ったのだ。
 機体各所のカメラやセンサーと、神経が直接繋がっているかのような反射速度で狙撃を
かわした男は、左端のサブモニターに視線をやる。ツェドと、バスターノワールだった。

 

「了解した」

 

 Sフリーダムの腹部に光が集まる。ザクが右へ避けたが、吐き出された真紅の光は円錐
状に空間を輝かせ、緑の機体を巻き込んだ。収束率を下げた拡散ビーム砲が、標的のセン
サーとカメラを一時的にではあるが麻痺させる。
 無照準で乱射されるザクのビームを避け、Sフリーダムが右足で宙を蹴って180度旋回
した。残像を引き連れ、黒い翼を広げてセクメトへ一気に加速していく。

 
 

 両舷のMS用カタパルトが根元からもぎ取られ、エンジンは半数が全壊。補助翼も片側
が千切れ、砲塔もほぼ全て焼けつき、あるいは破壊されたアークエンジェル。上部へ突き出した
ブリッジの真後ろに、セクメトから放たれ不発弾となったミサイルが刺さっていた。
 破壊された付近の電送系から飛び散った青白い火花が、ひび割れた弾頭に当たる。

 

「セクメトのMS隊も後退していきます!……このまま撤退するでしょうか?」
「陽電子砲を備えたイズモが前進してきているのだから、当然だろう」

 

 仕事をさせると優秀だが、相変わらず無駄口の多い部下に顔をしかめて見せつつ、艦長
は頷いた。彼を含め、ずんぐりとしたノーマルスーツを身に着けたブリッジクルー達も肩
から力を抜く。

 

「それにしても何とかしのぎましたが……本艦はもう、駄目でしょうね……」
「メインフレームのあちこちに、何度も致命的なダメージを受けたからな。諸君、まだ気
を抜くには早いぞ」
「ストライクフリーダムが、本艦上方を通過します!」

 

 オペレーターの言葉に再び緊張が走る艦内。艦長が展望窓を見上げた。

 
 

 緑色の巨大な光をかわしつつ、Sフリーダムがセクメトへと向かっていく。それを追う
ストライクAだったが、アークエンジェルの頭上まで到達すると艦首があった場所で動き
を止め、それ以上の追撃を行わない。
 突き刺さったままのミサイルから零れる燃料が、無重力内で粒子となって放電箇所へと
漂う。塗料が剥がれ、破片となって燃料へと近づいていく。

 

『無事か、アークエンジェル!』

 

 Iジャスティスに乗ったイザークが通信スクリーンに現れ、艦長は頷いた。

 

「今度ばかりは肝心な時に役立ってくれたな、ジュール隊。そちらに被害は?」
『フリーダムがちょっと焦げたくらいだ。問題ない』
『おいおいイザーク、全身火器のフリーダムがちょっと焦げるっていうのはだな……』

 

 何時も通り始まった漫才に、クルーの間で苦笑が広がる。艦長の咳払いが通信で伝わる
と、直ぐに止んだのだが。

 

『しかし、もう此方に僅かな攻撃も仕掛けて来ないな。潔いというか何というか……』
「『最後の50人』は、任務内ならばどれほど危険で残忍な事もやってのける。その反面、
任務に不要な破壊活動を行う事はない。だからこそ、手強い」

 

 顎に手をやり、艦長は唸る。今の地球に降ろしてしまうと、厄介な事この上ないのだ。
最早レーダーレンジからも逃れ、目視できない距離まで離れてしまった深紅の艦を思う。
 火花が大きくなった。塗料の破片に引火して種火となり、粒子状になった燃料が其方へ
ゆっくりと近づいていく。それは火球となり、ミサイルを巻き込んだ。

 

「よし、各ブロックと通路を与圧しろ。作戦終了だ」
「了解」
「新造艦への転属が早まったな。ま、諸君らにとっては良いニュース」

 

 オペレーターがキーを押し込んだ時、艦長の背後にあったドアが膨れ上がる。無音の爆
発によってブリッジに破壊の嵐が吹き荒れ、アークエンジェルの艦体が僅かに傾いた。

 

 誰も、何も出来なかった。ちっぽけな爆発がブリッジの真下で起こり、フレームをひしゃげ
させ、展望窓が砕ける。不幸中の幸いだったのが、広がった爆発の殆どは何もない宇宙空間へと
拡散した事だ。

 

「何だ!?何が起こった!」
「不発弾が……トーチを使え!」

 

 かしいだ暗いブリッジ内に光が生まれ、クルーが互いを確認して胸を撫で下ろす。
内部は殆ど破壊されていない。ブリッジの斜め後ろ下方で爆発しただけで、被害は――

 

「艦長……?」

 

 吹き飛んだドアと、根元からもぎ取られた艦長席。そこから覗いたノーマルスーツの
左手とヘルメット。何が下敷きになっているか、直ぐに解った。

 

「艦長……艦長ッ!!」

 
 

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