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SCA-Seed_GSC ◆2nhjas48dA氏_ep2_第13話

Last-modified: 2008-05-24 (土) 19:17:53

 全長350メートルの赤熱する艦体が、分厚い雲を突き破って降下しつつ半壊した艦首の
ビームラムを切り離す。各部の突起が白い尾を引きずり、両舷の翼を一杯まで広げた。

 

『大気圏突入に成功。40秒後に着水』

 

 セクメトのMS格納庫でアナウンスを聞いた男は少し顔を上げた後に、正面のメインモ
ニターに意識を戻す。ハッチを開けたストライクフリーダムのコクピットに座り、機体の
出力調整や戦闘データの整理など、山積する課題をひとつずつこなしていった。
 モニターが切り替わり、先程の戦闘が再生される。1機で突っ込むシンのザクを迎え撃
った時、男が抱いたのは不満だった。何故デスティニー兇任呂覆い里、何故、勝てる気
がしないあの強敵と会えなかったのか。
 全くもって、『50人』に不要な思考だった。敵は弱いほど都合が良い筈であり、自分たち
最後の50人は、相手の弱点を探り当てる事に活動の8割以上を費やす。戦闘に限った事で
なく、様々な妨害活動、交渉でもそうである。

 

「なぜだ……?」

 

 作業の手を止めた男は掠れ声で呟く。手首を返し、両掌を覗き込み、軽く握り込む。
ガルナハン基地でシン=アスカと戦って以来、彼は変わってしまった。鋼鉄のような憎し
みに亀裂が入り、裂け目が焼け爛れて熱気を吐き出している。
 彼の身勝手な欲求に怒りを覚えたからでもある。自分と同じ絶望を味あわせてやろうと、
激しく憎んだ初めての特定個人でもある。しかし、それだけではない。
 ガルナハン基地で、男は初めて勝てない戦いに臨んだ。全て理解したつもりになってい
た。自分の敗北は計画の一部であり、負けて死ぬのが当然なのだと。元より死ぬ事には何
の異存も無い。死ねば家族に会えるのだから。

 

「私は……」

 

 しかし襲い来る敵を見て負けを確信した途端、静かな感情に全身を揺さぶられた。それ
は戦いの昂揚感。もっと戦いたい。一発でも多く敵弾を掻い潜り、一発でも多く敵機目掛
けて撃ち込み、一秒でも長く死闘に身を置きたい。
 有り得ない事だった。自分の妻と娘を奪った暴力を愛するなど。セクメトの艦長を務め
る褐色肌の女性に指摘された時は、非合理的と一蹴したのだ。
 重苦しい震動にシートから身体が跳ねる。アームレストを掴みつつ、男は絞り出すよう
な声を上げた。眉根を寄せ、苦痛を覚えるようにかぶりを振る。

 

「最早『50人』ではない……異物……そう、異物だ」

 
 

「畜生……畜生っ!最後の最後で!」

 

 アークエンジェルの艦長が負傷したと知った時、彼の指導を受けたクルーは悲しみ、
殆ど何の関わりも無かったシンは憤った。ミハシラ軍の隊員が訝るほどに。

 

「不発弾がいきなり爆発したんだ。それに、クルー全滅なんてのよりは100倍マシさ」

 

 1人の男がそう言って、座り込んだシンの肩を叩く。

 

「だけど、上手くいってたじゃないか!……そうだ。俺が、俺がさっさとあのストライク
フリーダムを片付けられれば、アークエンジェルの援護に回れた!そうすれば、不発弾を
貰わずに済んだかもしれない……」

 

 戦闘が終わって帰還し、アメノミハシラのラウンジで寛いでいた幾人かのパイロットが
肩を竦め、あるいは壁にもたれてかぶりを振る。彼らにとって、今回の作戦は100点満点
同然なのだ。連合軍の艦長も、まだ死んだわけではない。

 

「ザクじゃ無理だろ。デスティニー兇覆蕕泙◆△錣らんが」
「そうだ、俺のデスティニー供AIだかエミュレイターだかがちゃんと働けば……!」
「……シン」

 

 他の隊員に混じっていたエコー7が、溜息混じりに椅子から立ち上がる。

 

「作戦が終了した今、貴方の言葉にはまるで意味がありません」
「解ってます。でも、だからって……」
「ストライクフリーダムに対し、機体性能で劣るザクに乗った貴方は善戦し、敢闘しまし
た。それが今回の全てです」

 

 抗弁する間もなく彼女はシンに背を向け、再び椅子に腰掛ける。反対に立ち上がった
シンが、椅子を蹴飛ばしてラウンジを出て行った。ドアが閉まると、各人があちこちに固まって会話を再開する。

 

「最近変だな、シンの奴は。ヒステリックっていうか、誇大妄想気味というか……」
「半年くらい休暇をやった方が良いんじゃないか。あれじゃ駄目だろう」
「そういや、シンって休暇取った事あったっけ?」
「シミュレータに籠りっきりで、ずっと自主トレーニングしてたよ」

 

 エコー7は手元のラップトップに視線を戻す。シンの戦闘能力が数値化されたグラフを
見て、唇を引き結ぶ。ベルが静かに立ち上がり、シンの後を追った。

 
 

「ふむ……」

 

 執務室でゆったりと腰掛けるミナは、ひとつ唸って目の前の映像に向き直った。少女が
映ったモニターと、三次元モニターで投影された球体の映像を交互に見る。地球を映した
それは、まるでモザイクのようにあちこちが黒く霞んでいた。

 

「状況は思わしくないな……尤もこの所、あらゆる状況は常に思わしくないのだが」
『貴女のような方にとって、待ち望んだ時代では無いのですか?サハク代表』
「地球連合とネオロゴスも、もはや世界平和なる幻を追いかける存在ではないだろう」

 

 アズラエルの言葉に、ミナは笑みを浮かべた。地球儀の影になった所はいわゆる
未踏査エリア。エイプリルフール・クライシスによるエネルギー危機と通信妨害の影響が
除去されていない場所であり、ブレイク・ザ・ワールドによるユニウスセブン落下で
インフラが破壊され、難民キャンプや傭兵崩れのならず者が潜んでいる地域でもある。

 

「二年前まで、この影は『帯』だった……モザイク柄に変えたのは、ネオロゴスだ」
『地球連合と私達の復興計画にご不満があれば、是非とも助言を頂戴したいです』

 

 あどけない少女の微笑。ゆるく首を横に振り、ミナは喉を鳴らして笑った。

 

「お前達のビジネスに意見するつもりはない。賢い者は手に入れ、愚かな者は失えばよい
のだ。ただ……地球に逃げた『最後の50人』は、大勢の愚者に味方するぞ」
『そうでしょうね。地球人類の半数以上は、彼らを英雄視しているから』

 

 地球上は今、群雄割拠の一歩手前と言って良かった。かつて全世界を覆っていた地球連
合の威光と組織力は衰え、代わって常日頃から理事国の後塵を拝していた他の所属国家が
独立の気運を高めている。無論、主人に対し明確に牙を剥いているわけではない。
 反体制の武装組織や、国家権力を信用せず自治によって治安を保とうとする一部の戦闘
的なサバイバリストなどから自分の身を守る為、自衛力を高めようと試みるのは、ある種
当然の成り行きである。
 各国の地球連合離れを促した決定的な要因。それこそが、エミュレイターの反乱だった。
地球人類の10億を殺し、コロニーを落として幾つもの社会を物理的に崩壊せしめた稀代の
テロリストを、何故助けるような真似をしたのか。一貫して反プラント強硬策を取り続け
た事で地球全体の後押しを受けていた理事国は、世論の批判を浴びた。
 プラントが今後の地球にどういう意味を持つのか、そこにいる技術者集団をどう使うの
か、多くの人々はそんな事に関心などない。プラントの優生思想教育こそが悪であり、
コーディネイターはナチュラルと同じく人であるという事を地球連合は行為で示したが、
人々が望むのは何時の時代でも啓蒙でなく、流血と飽食である。
 利害の一致によって親プラントの立場を取ってきた一部の地球上国家は、ラクス=クラ
インの失脚とザフトの壊滅をもって即座に反プラントとなった。そこへ狙い澄ましたかの
如く、連合に不満を募らせる人々の前に『最後の50人』の存在が明らかになったのだ。

 

「地球出身のコーディネイターでありながら、最高の訓練を受けたブルーコスモス構成員。
プラント中枢に食い込んで、宇宙からの侵略者2000万人に無惨な死を叩きつけんとした
彼らは、自分達の悲劇を繰り返すまいと立ち上がった志士である……フ、呆れる程繰り返
して使われてきたフレーズだが、効果は全く衰えておらんな」

 

 モニターから視線を外し、ミナは背後の展望窓を見遣る。オオツキガタの哨戒部隊が、
青白い光を引いて方向転換するのを眺めた。

 

「しかし困ったものだ。これでは、ミハシラ軍の解体計画に遅れをきたす」
『別に今のままで構わないのでは?オーブの議会も上手くやっているようですし。ええと、
暫定政権の支持率が99%だとか。アスハ政権と同じですね』
「オーブの民は、どんな指導者でもとりあえず支持するのだ。何も期待していないからな」

 

 アズラエルが声を上げて笑い、ミナは肩を竦める。

 

「しかしどんな形であろうと、この血肉と精神はオーブに帰する。そうでなくてはならぬ。
ところで……」

 

 ミナが訝しげな表情を見せ、通信モニター越しのアズラエルを凝視した。

 

「なんだ?その……スーツは」

 

 アズラエルは、何時ものツーピースを着ていなかった。アップにしたプラチナブロンド
を揺らし、ライトグレーの胸当てにダークブルーの肩パッドとロングスリーブ、そして、
右目だけを覆う青いタクティカルゴーグルとイヤフォンが一体化したヘッドセット。

 

『これはその……弊社の新商品といいましょうか、テストなのです』
「社の代表取締役自らが、何のテストを?」

 

 らしくなく、ぎこちない答えを返すアズラエルを追及するミナ。

 

『MS……いえサイズはMAに近いのですが、このスーツでないと……』
『お嬢様!権利の問題がありますので、部外者への情報開示はちょっとお待ちを!』
『わ、分かっています。だから着替えてから通信したかったのに……』

 

 直ぐ傍にいるのだろう。スピーカーに研究員の声が混じった。少しだけ頬を染め、左を
向いた少女が言い返す。

 

『そ、それで……地球へ降りた50人に対し、どういう対策を取るべきか、こうしてご相
談させて頂こうかと……』
「秩序が乱れた地域では、情報が広範囲に行き渡らない。部隊を潜入させる事は可能だ」
『連合軍に協力を打診しましょうか?』

 

 アズラエルの問いに、ミナはかぶりを振る。

 

「こちらで部隊を編成した後、追ってそちらに連絡しよう。……今回のアークエンジェル
襲撃事件は、重く見た方が良い」
『……ええ、厄介な事になっています。これは推測ですが』

 

 少女はそこで言葉を切った。16とは思えない深い光を湛えた目を細める。

 

『彼らの目的は反連合勢力の活性化でなく、私達への攻撃かと思われますので』
「お前達が『50人』と取引していた事は、地球連合の政府高官も知っているのだろう?」
『ええ。お婆様はもう、最悪のケースを想定して動いています。それでは……』
「用心するがよい」

 

 モニターが消えた丁度その時、ドアのインターフォンが鳴った。

 

「入れ」

 

 椅子に座り直し、ミナが低くよく通る声を発する。プレートがスライドし、男が1人
入ってきた。深緑色の瞳を持った痩身の男が入ってくる。銃を突き付けられた彼は、少し
疲労を滲ませた表情で彼女を見下ろした。

 

「気分はどうだ?ディー」
「良くは、ありません……誰だってそうでしょう?」

 

 後ろでハンドガンを突き付ける2人のミハシラ軍隊員を顎で示し、ディーは苦笑した。

 

「お前の雇い主である、ジャンク屋の船長とは既に話をつけているのだが……」

 

 そこで一拍置き、ミナはディーに挑むような視線を向ける。

 

「転職する気はないか?」

 
 

 卵型のシミュレートマシンに座り込んだまま、シンは放心したかの如く俯いていた。
先程、エコー7に言われた言葉が耳から取れない。

 

「俺は戦った。戦って生き残った……それが、全て……」

 

 ザクウォーリアに乗ってストライクフリーダムと1対1で戦い、生き残った。結構な戦
果だ。誰も嘲る事はあるまい。称賛されるかも知れない。

 

「じゃあ何の為に戦ってたんだよ、俺は……ッ!」

 

 戦うだけでは不十分なのだ。勝つだけでも足りないのだ。守り抜かねばならないのだ。
力が失われ、欲望のみが残った。拳を握り締めるシン。その時、濃い匂いが鼻を突いた。
消毒液のような、甘ったるい水薬のような、病院を想像させる臭気。

 

「実際君は弱いんだよ、シン。僕と違ってね」

 

 シートから立ち上がり、赤黒い感情を隠しもしないシンが背後を振り返った。

 

「それに自由でも無いな、僕と違ってね。余りに色んな物に束縛され過ぎてる」
「うるさい……!」

 

 純白のパイロットスーツを纏い、栗色の髪を跳ねさせ、深蒼の瞳を向けてくる男に
シンは眦を吊り上げる。右の拳を握り直した。

 

「何でアンタが此処にいるんだ、キラ=ヤマト!」
「だから『彼女』は死んだ。君はトドメを刺す事さえしてやらなかった」

 

 シンが無言のままマシンから降りる。床を蹴ってキラに近づき、胸倉を掴んだ。

 

「強くもない、割り切れもしない。だから君は……」

 

 その時ドアが開き、ベルが入ってきた。

 

「アスカさん!?」

 

 シンの拳がキラの右頬にめり込み、その後頭部が壁の角に激突した。白い壁に赤い滴が散る。

 

「だから君は、独りじゃいけないんだ」

 

 頭の皮膚が破れ首筋を血が伝う中、殴ったまま呆然と立ち尽くすシンに、殴られたまま
のキラが静かに告げた。

 

「ところで、トイレどこ?」

 
 

「はいこれ、シンの戦闘データ。どうせ後で使うんだろ?」

 

 ダイアモンドテクノロジー社所有の格納庫。デスティニー兇竜‘發貌り込んだヒルダ
が、マイクのスイッチをオンにして喋る。スリットにディスクを差し入れた。

 

「2時間前にミハシラから送られたデータだ。じゃ、あたしは行くから」

 

 コクピットから出て、ヒルダは昇降機に飛び乗る。パネルに指をかけたまま言った。

 

「あんた、元々……シンのどこが気に入ったんだっけ?」

 

 マイクがひとりでに切られ、ハッチが閉まる。メインモニターに光が灯り、シンの乗る
ザクがストライクフリーダムと交戦する映像が表示される。終わると、繰り返し再生した。
 何度も、何度も。

 
 

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