Top > SCA-Seed_GSC ◆2nhjas48dA氏_ep2_第14話
HTML convert time to 0.007 sec.


SCA-Seed_GSC ◆2nhjas48dA氏_ep2_第14話

Last-modified: 2008-05-24 (土) 19:18:15

『で、具合はどうかね』
「面目ありません。歳のせいか、腰にきまして」

 

 左手と左脚をベルトで固定され、ベッドごと上体を起こしたアークエンジェルの艦長が
唯一動かしても問題ない右腕を上げて敬礼する。モニターの向こうにいる連合軍高官達が、
硬い笑みで応えた。

 

『クルーの人的損失をゼロに抑えた事は評価する。しかし、ほぼ完敗だったな』
「は、全て私の責任であります。クルーはよくやってくれました」
『いや、アークエンジェルの整備状況が劣悪で不十分だった事は承知している。そして、
セクメトとそのMS隊が予想以上に優秀だった事もな。ところで、ミハシラまで回線を繋
いだのは、反省会の為ではない。……そうですね?』

 

 最も年老いた白髪の将官が、隣の男に頷いて一呼吸つき、指を組む。

 

『うむ。貴官に指揮を預けようと思うておった例の新造艦、どうしたものかとな……』
「アークエンジェル級三番、全領域戦闘母艦……オファニム、ですな」
『そうそう、最初スローネって名前つけようと思ったんじゃが、民間企業のプラモデルに
商標を取られておって……まあとにかく、オファニムじゃよ』

 

 軍の将官よりも商店街で潰れそうな駄菓子屋をやっていそうな老人の言葉に、艦長が深
刻な表情のまま小さく唸る。

 

『貴官のクルーはデキるが、若い。正しい指揮が常に行き届いていれば問題ないが、彼ら、
貴官の命令に慣れきっとるからな。実戦で下手踏んで、有望なクルーと新型を一挙に失う
のも面白うない。何より、相手はあの最後の50人……で』

 

 モニターの画面が分割され、左半分に名前のリストが表示された。視線を少し動かし、
それを確認する艦長。

 

『いわゆる海軍派の古株たる貴官なら、優秀かつ実戦経験豊かな軍人を知っておるのでは
無いかと……いや、こちらもデータベースを漁ってはおるが、実際の所が知りたくての』
「単に優秀で実戦慣れしているだけでは駄目でしょうな。対セクメト戦を想定するなら、
まず敵艦を熟知していなければならない……もしくは、セクメトの前身であるミネルバを」

 

 艦長の言葉を聞いた高官達が顔を見合わせ、何かを囁き合う。

 

「そして、平時は常に理屈に沿わねばならない。理に走り過ぎるくらいで丁度良い。かつ、
有事には状況に対応できる……アメノミハシラ防衛戦で、私のアークエンジェルに肉薄で
きたナスカ級の艦長のような」
『ああ、ザフト出身者の……ええ、アー……アドラー=クラウン?』
『彼の事だな?タリア=グラディスの指揮下でミネルバの副官を務めた……ううむ』
『黒い制服を着ていた男か。あっちは階級がないので、ややこしいですなあ』

 

 モニターの向こうで集まる、連合軍の中枢達が互いにチラチラと視線を送りつつ和やか
なムードが続く。やがて、最長老が核心を突いた。

 

『名前が出てこんの。誰じゃったかのう……』

 
 

「さっきは……悪かったな。大丈夫か?キラ」
「大丈夫じゃないよ。この大天才の頭脳を脅かした罰として、昼食全部奢ってね」

 

 シンに殴られた後、医務室で手当てを受けたキラは食堂にやってきていた。ランチ2.5人
分、水は1リットル用ボトルそのままをテーブルに置く姿に、シンは軽い眩暈を覚える。

 

「食べ過ぎじゃないか?」
「育ち盛りだからね」
「あの、大丈夫ですか?アスカさん。手、怪我していませんか?」
「あ、ああ。大丈夫……有難う、ベル」
「ねえ、ベルだったっけ。殴った方だけじゃなく、殴られた方も心配してくれない?」

 

 ぶつ切りソーセージをたっぷり入れたミートソーススパゲッティにフォークを突っ込み
つつ、キラが羨ましそうな表情を隠そうともせず、シンの手を握るベルを見つめる。

 

「大丈夫です。キラ様は、キラ様ですから」
「……なんか僕、君に嫌われる事したっけ」

 

 無邪気なベルの微笑みに思わず笑い返した後、眉間に皺を寄せるキラ。

 

「4年前、プラントを核攻撃から救って下さいました。私、狙われたコロニーの内の1基
にいたんです。ずっとお会いしたかった。有難うございました、キラ様!」
「それならもうちょっと気を遣ってくれても……なーんか複雑だなあ」

 

 キラ=ヤマトの華麗過ぎる経歴をプラント広報のみで知っているベルは、苦しんだり悩
んだりする彼など、考えた事すらないのだった。ベルにとってキラは英雄であり偶像であ
り、救世主ではあるが人間ではない。
 ちょっと末端が欠けた偶像と、拳を痛めた生身の男がその場に在れば、同じ人間として
どちらを気に掛けるかなど、決まり切っているのだ。
 否、偶像の欠損も気にする男がいた。キラの目の前に。

 

「なあキラ、大丈夫なのか?」
「しつこいなシン。大丈夫じゃないって……」
「アンタ、変だぞ」

 

 キラの言葉を遮って、シンは続ける。

 

「ブン殴って頭を壁に叩きつけた時、少しも意識を飛ばさなかった。ろくにガードもしな
いまま、モロに入ったのに。それに姿勢も崩れなかった。でも筋骨隆々って体型じゃない。
しかも……」

 

 席を立ったシンが、キラの頭を掴んで包帯を覗き込む。

 

「ちょ、シン!」
「血も、もう止まってる。後、全身熱くて薬の匂いがする……アンタ、何をされたんだ?」
「強化だよ。全身の血液、代謝量、筋肉だったかな」

 

 シンの手を煩そうに払うキラ。ボトルを掴み、コップに中身を注ぎ込んだ。

 

「スーパーコーディネイターの僕だから、耐えられたんだってさ」
「ラクスは……何も言わなかったのか?」
「ラクスって?」

 

 ベルの目が見開かれる。シンの言葉も止まった。2人の異変を見て取ったキラが、わざ
とらしく咳払いする。

 

「あ、ああラクスね!いや、昏睡状態が続いてるんだよ……確か」
「『幾ら吹き飛ばされても、僕らはまた花を植えるよ』……か」
「ん?」

 

口の周りにミートソースを付け、ソーセージを咥えたままキラは顔を上げてシンを見た。

 

「2年前にアンタが言った言葉だ。本気で言ってたんだな」
「うん」

 

 酷くあっさりした返答に、シンの喉が鳴った。

 

「カガリが失脚しても、ネオロゴスが僕の生活を保証してくれる。ラクスが意識不明にな
っても、ネオロゴスが僕にMSをくれる。アスランが君に負けてオーブを追放されても、
連合軍のパイロット達が友軍機として援護してくれる。嫌な事があっても、わざわざラク
スの所へ行って慰めて貰う必要はない。『ゆりかご』に寝転がって、起きた時は……」

 

 キラが左のこめかみに握った拳を近づけ、素早く開いて見せる。唇の左端が上がった。
シンは、キラが度々天才と呼ばれ、また先ほど大天才を自称していた事を思い出した。数
秒前まで食べる事とトイレしか気にしていなかった男の喋り方ではない。必要に応じて、
ギアを入れ替えるように思考能力を調節できる。
 それが今のキラ=ヤマトなのだと、ようやく認識できた。

 

「今じゃあ、何もかもが順調な勝ち組ライフさ。君はどうなんだい、シン。あの時君は
涙ながらに僕の手を取った。その通りだ、それが良いと一瞬でも思ったんだろ?」
「俺は……」
「まっ、君には無理だったろうけどねえ。所詮凡人だから」

 

 シンの皿からサンドイッチを強奪したキラが、歯を剥きだしてそれにかぶりつく。シン
の腰が浮きかけ、ベルが彼の手を押さえた。

 

「僕のように頭脳明晰、容姿端麗、人類の最高傑作にして大天才なら、植える花はいくら
でも向こうからやってくる。しかし君みたくラッキーパンチだけで大戦果を挙げると、後
が続かないから可哀想だ。その上、世間の評価は同じ英雄だからね」
「何を、勝手な事を……」
「そうそう。話変わるんだけどさ。君の家族を殺したのって、僕で間違いないみたいだね」

 

 爽やかな笑みを浮かべるキラに、シンの視界が一瞬揺らぐ。

 

「君に言われた後調べて、まあ……あの場で戦ってた機体の中だと、フリーダムが一番の
クロだな。勿論確証はないんだけど、この場合は疑わしきを罰するで良いと思うよ。でも」

 

 頬を掻き、キラは上体を屈めて背中を震わせて笑いを噛み殺した。

 

「すごい確率の低さだよね。僕が誤射したのも、あの瞬間君の家族があの場にいたのも」

 

 キラが声を上げて笑いだした。超有名人が来ているという話を聞いたミハシラ軍の隊員
達が、食堂に集まってくる。

「MSのビームで撃ったのに、君1人だけ生き残るってのも凄い話だしね。運命って奴だ
な。あ、そういえば君の機体もデスティニー兇世諭ハハハハッ!」
「キラ……」

 

 平板な口調で告げるシン。紅の眸を笑い続けるキラに向けた。

 

「きっと、アンタを死ぬより惨めな目に遭わせてやる、キラ。二度とそうやって笑えなく
させてやるからな……その素晴らしい頭脳の片隅に、刻み込んでおけ」
「さて君に出来るかな?凡人の君に。まあ精々、凡人どうしで寄り集まって、無い知恵を
絞るんだね。無理だろうけど」

 

 いつの間にか食べ終えたキラが、皿をカウンターに返す。野次馬を押しのけつつ、食堂
から出て行った。入れ違いに、PDAを片手にエコー7が入ってくる。

 

「シン、次のミッションですが……」

 

 周囲を取り巻く人だかり、不安げにシンに寄り添うベル、宙の一点を睨みつけたままの
シン。小さく息を吐き出し、エコー7がシンの前に立つ。

 

「ここのところ、貴方にとって思わしくない戦闘が続いている事は理解できます。しかし、
だからといって何時までも落ち込んでいては……」
「どんなのですか、次のミッションは!」

 

 頭を振り上げて噛みつくシン。エコー7が仰け反る。

 

「俺は何処へ行くんですか!誰と行くんですか!何をするんでしょうか!いつ出発す
るんでしょうか!どの機体に乗ればいいんでしょうか!」
「……これから、説明しますが」
「そうですか!今は色々と大変な時期ですからね!素早い行動が望ましいと思います!
さあどうぞ!何でもやります!何処へだって行きますし、何でも乗りますよ!」

 

 面食らい気味のエコー7にまくしたて、シンは椅子に座って両手を開いた。同僚達が
自然に笑みを浮かべて幾度か頷く。ベルが、キラが出て行った方を見遣って頭を下げた。

 
 

「こいつにお前が乗るのかい、ディー」
「ええ。陸戦型グフです」

 

 アメノミハシラの格納庫。天井部のライトが落ち、暗い影が落ちたMSの前で、ディー
とジャンク屋の女船長が立っている。

 

「ソードとウィップを改良しているそうですが、酷いんです。背中のフライトユニットを
外して、出力強化型のパワーパックに付け替えてるんですよ」
「大丈夫なのかね、わざわざ飛べなくして」
「私もそう言ったんです。そうしたらメカニックがこうですよ。『グフって名前がついた
モビルスーツはな、チャラチャラふわふわ空なぞ飛んじゃいけねえんだよ!』って」

 

 だみ声を真似るディーに、船長はからっとした笑い声を上げた。

 

「ま、そりゃ正論だけど」
「正論ですか!?……おおかた、私が逃げ出すのを防ぐ意図があるんでしょう。飛べないMS
なら、行動範囲は限られますからね」
「相変わらずお前は心配性だね」

 

 何度も何度も言われた言葉。灰色の髪に手をやったディーは、深緑色の瞳を曇らせた。

 

「私は……船長のお役に立っていなかったんでしょうか」
「んな事はないさ」
「では、なぜサハク代表に私を引き渡したんです?」

 

 女性にしてはがっしりとした体格を持った船長は、すぐに答えなかった。煉瓦色の髪を
掻き乱し、目の前のMSを見上げる。

 

「宇宙で、ボロ船に乗ってゴミを拾い続けるより……もっと広い場所を見た方が、お前の
記憶も戻りやすいと思ってね」
「しかし」
「会わなきゃならない人がいるんだろ?帰らなきゃならない場所があるんだろ?」

 

 ディーの言葉を遮った船長が、彼へと向き直った。両肩に手を置く。

 

「しかし、急いで探しようのない事です。記憶の事ですから……」
「帰った所で、誰もいなかったらどうする?お前には、そういう思いをして欲しくない」
「船長……」

 

 肩に感じる力強い手に、ディーは項垂れる。記憶を失ってからずっと、彼女と仕事をし
てきた。何もかもが不安定で掴めない生活の中、船長は雇用主というより親だった。

 

「さっさと記憶を取り戻したら、帰ってきな。またこき使ってやるからね」
「ありがとう……ございます、船長。本当に……何から何まで」
「ま、それは良いんだけどさ……地球の何処へ降りるんだい?」

 

 眼頭が熱くなりかけたディーは、その言葉に顔を上げて首を捻る。

 

「……まずガルナハンで態勢を整えた後、東の方へ行くとしか」
「ガルナハンの、東……?まあお前なら大丈夫だろうが、気をつけるんだよ」

 

 瞬きして意味が解らないままのディーに、船長は低い声で呟くように言った。

 

「あっちは、法律も警察も軍隊もあったもんじゃないからねえ」

 
 

 ガルナハンのパワープラント傍に鎮座した基地に、MSの2倍近い巨大な人型機械が
近づいてくる。黒、白、赤で塗り分けられ、GAT系に似た頭部の金色アンテナは兜飾り
の如く派手に突き出し広がったデザイン。張り出した肩と野太い両脚は、どこかゴリラな
ど、人間外の霊長類をイメージさせた。
 ダイアモンドテクノロジー社が生み出した新型兵器のひとつ、Gカイザーである。

 

『あーあーお嬢様、近くに陽電子砲の基部が残っているかと思われます』
「了解。……何で素人の私が、解体作業に従事しているのでしょう?」
『公人としてのパフォーマンスです。独裁者が赤ん坊を抱いて父性をアピールしたり、代
議士が健康被害の心配される野菜や肉を、パンやライス無しで食べたりするのと同じです』
「そちらの方が常識的ですよね」

 

 右目のタクティカルゴーグルに地形情報が表示され、アズラエルは両手を包むグローブ
を動かす。重く低い駆動音を立ててGカイザーが屈み込み、裂け目が入った外壁に両手を
差し入れた。全体を倒壊させないよう、ゆっくりと広げていく。

 

『そんなものは、何の新しさも意味もありません。我らD-techは新時代のリーダー企業
ですから、差別化、脱成熟化は避けて通れぬ道かと思われます』
「聞きかじっただけの単語を並べ立てると、頭悪く見えますよ」

 

 熱く語る研究員に突っ込み、少女は慎重に身体を倒す。Gカイザーが前進し、基地の敷
地内に入り込んだ。全身のカメラが発光し、数秒間全周囲に淡い色の光線が放射される。

 

『そもそも、ガルナハンに行きたいと仰ったのはお嬢様でしょう?援助物資を送るついで
に、同行させろと』
「ええ。少々……確認したい事が」

 

 少女が視線を右にやる。メインモニター上下に取り付けられたセンサーがポインターで
視線を読み、Gカイザーの頭部が右に移動する。Gカイザーを見てはしゃぐ子供達を押し
留める、ダークブラウンの髪をひっつめ後ろで束ねた少女に照準を合わせた。

 

『Ms.コニール=アルメタですか。彼女が地球連合軍に対する、レジスタンス活動に加わっ
ていたのは2年前……何か、お嬢様自ら確かめねばならない御不審な点が?』
「過去の事ではありません。いえ正確にいえば過去ですが……ちょっと話し合いという
か、先方の合意を要する事というか。このデストロイmk兇鮖参したのもその為です。
出力が相変わらず50%以上に上がらないとはいえ、人間相手なら大丈夫でしょう?」
『ちょ……止めて下さいよお嬢様!我が社は人道支援の為に来てるんですから!』
「ご心配なく。彼女の心がけ次第で、被害はどこまでも小さくなるでしょう」

 

 Gカイザーの背後には、機材を積んだトラックが5台程控えていた。スペースコロニー
に組み込む農業ブロックに改造を加え、地上の過酷な気候下での使用を想定した循環型の
農場である。来月からはエンジニア達の移住がはじまり、現地住民の雇い入れがスタート
する見通しだ。上下水道の再整備と、発電所の建設も順調に進んでいる。

 

『政府の活動と比べるとやはり迅速ですな。ネオロゴス系企業がこういう援助をやると』
「当然でしょう。それが取り柄なのですから」
『2キロ離れた別の地区では、未だ下水道が整わず感染症が蔓延しているそうですが』
「治安の回復が確認でき次第、そちらにも手をつける事にしましょう。確認ができたらね」

 

 アズラエルの酷薄な微笑みに対し、研究員は苦笑いしてかぶりを振った。

 

 平和は、遠い。

 
 

】 【】 【