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SCA-Seed_GSC ◆2nhjas48dA氏_ep2_第16話

Last-modified: 2008-06-18 (水) 19:23:21

 青い菱型が3つ横に並ぶ、ダイアモンドテクノロジー社のマークを描き込んだタイトル
画面が消え、機体各部のカメラが周囲の映像を映し出す。脱ぎ捨てた作業着を脇へ蹴飛ば
した少女が纏う、青とライトグレーのプロテクター兼トレーススーツに光が走り、両肩、
両膝、両足首、腕、肘に幾何学模様が輝く。

 

『認識中……診断プログラムの終了まで残り10秒、9、8……』

 

 右目を覆うゴーグルが薄暗い機内で淡い光を放ち、壁面からせり出した機械が両肩と両
脚にクッションを触れさせ、3センチほど後退した所で停止した。髪をアップにした少女
が目を開くと同時に、コクピット内部を照明が照らし出す。

 

『Gカイザー起動。現在、システムに深刻なエラーが発生中。メイン出力47.5%』
「避難して下さい」

 

 外部マイクを介してそう呼びかけ、アズラエルは目の前に持ち上がったグローブに両腕
を差し入れた。重苦しい駆動音と共に視界が上がっていく。

 

「カイザーが出るぞ! 道を開けろ!」

 

 企業のマークが描かれたトレーラーが、従業員と街の住民を乗せて劣悪な舗装が為され
た道路からはみ出して土煙を上げる。開いたコンテナから立ち上がっていく全長35mの巨
人が、ビームガンとカメラを備えた両眼でそれらを見下ろす。

#br
「直ぐに攻め込んできた機体を割り出せ! 俺も指揮車に行く!」

#br
 MSとは根本的に異なる、重厚な横幅を持ったGカイザーを見上げた研究員が、拡声器
を使って叫ぶ。逆三角形の大型ロケットブースター、全身に計6基装備された光波防御帯
発生器、後頭部などに接続されたケーブルが安全に外れるのを確認し、ヘッドフォンの通
話スイッチを入れた。

 

「お嬢様、先程の攻撃はロケット砲によるものです。高機動化著しい最近のMS戦では、
余り使われない武器かと」
『どこに攻撃を受けたのです?』

 

 拡声器を脇に抱え、息を切らして装甲が為された車両まで駆け込む研究員。落ち着き
払った少女の声を聞きつつ、自分のIDカードをドアコンソールに通した。

 

「住宅街の目の前です。しかし……我々の施設を真っ先に壊すと思ったのに。敵は!?」

 

 最後の言葉は、既に車内に入ってレーダーをチェックする後輩と、社の警備部隊に属す
傭兵に対し向けられた。2度目の爆音が車両を揺らし、天井のグリップを掴む。

 

「市街地の一角を破壊しました! 死傷者は不明! 敵機の詳細が出ましたが……先輩、こ
れはまずい相手ですよ!」
「ディン、か……!」

 

 周辺地形図に、南側に3つの赤い光点が表示されている。脇に小さなグリッドが生まれ、
『AMF-101』の文字が書き込まれて機体の正面図が添えられた。

 

「旧型機も良いところだが、これは……車を出せ! お嬢様、聞こえますか!」

 

 地響きが起こる。指揮車の左窓からGカイザーの右足を見上げた研究員が、車内の通信
機器で呼びかける。

 

『聞こえています。敵機のデータは? 住民の方々の避難状況はどうなっているのです?』
「東地区へは職員が近づけません。敵はディンが3機で、MSはそれだけです」

 

 スピーカーから少女の小さな笑い声が響く。

 

『その旧型ならば、私でもお相手できるでしょうね』
「それは……わかりません。とにかく会敵して、何か攻撃を仕掛けてみなければ。或いは」

 

 歯切れ悪く返答し、研究員は顎に手をやる。未舗装の路面を走る車の中で、後輩が置い
たボールペンがデスクから落ちた。

 

「飛び立つ前のディンを襲えれば、何とか」

 

『自信が無いのですか? 貴方の開発した機体でしょう……周辺クリア。跳びます』

 

 先程とは違う爆音が、再度指揮車を揺さぶる。ドライバーがハンドルを握り締め、アク
セルを踏み込んだ。青白い噴射炎と共に、土煙をもうもうと立たせたGカイザーが、夜空
へと飛び去った。飛行はできないが、いわゆる大ジャンプである。

 

「先輩……光波防御帯もありますし、装甲も従来機とは段違いなんですよ。何を心配して
るんですか? ディンなんて、どの攻撃だろうと当たれば大破させられますし」
「当たればな。元々、相手の上空を飛び回る為の機体なんだよ、ディンは」
 表情を曇らせた研究員が言葉を続ける。
「忘れたか? お嬢様はド素人なんだ。ケンカの駆け引きが上手いだけで」

 

「クソ! 遊んでやがる!」
 手近な荷物を持ち、子供の手を引いて逃げる人々。外付けしたロケットランチャーで、
彼らの逃げ道を塞ぐ3機のディン。モノアイが頭部のレール内を動き、光る単眼が暗闇に
焼きつく。ダイアモンドテクノロジー社のマークが入った作業着に身を包む数人の男達は、
助けを必要とする彼らに近づけないでいた。

 

「やるしかない……お嬢様にGカイザーでブン殴られるか、ロケット弾で吹っ飛ぶかだ」
「どっちにしろ死ぬのかよ!?」
「この状況で『命令』を無視して、生きて帰れると思うか! お前、何年社員やって……」

 

 パニックを起こしかけた彼らの頭上を、青白い巨大な光が通り過ぎる。左足の踵を崩れ
かかった建物の屋根に引っ掛け、Gカイザーが着地した。ロケットで破壊された建物が倒
壊し、土埃の中で両眼と6ヶ所の防御帯発生器がライトグリーンに輝く。

 

 何の警告も予備動作も無く、Gカイザーの眼から放たれた2条の細いビーム光が、舞い
上がる粉塵を切り裂いた。最も近くで破壊活動に勤しんでいたディンを狙ったそれは、惜
しくも外れる。鮮やかなバックステップで攻撃を避けたディンが、そのまま空中でフェイ
スガードを下ろして羽を広げ、耳をつんざくジェットエンジンの音と共に宙へ浮く。他の
2機も素早く倣い、三角形に陣を組み直した。

 

『解りました。お嬢様……敵機は最新式のOSと、サポートAIを使っています』
「なるほど、まずいですね。光波防御帯はどれほどアテに出来ます?」

 

 ゴーグルで覆われた右目。その瞳の動きを追って青い光点が踊り、メインモニターに映
るスラスターの軌跡がマークされ、モニター下のレーダーに表示される。相手の強さを見て
取ったアズラエルが、言葉とは裏腹に微笑んだ。

 

『ディンの兵装は機銃、ミサイル、ショットガン。ミサイルはともかく、弾を大量に広範囲に
バラ撒く2つの装備が、防御帯を一番消耗させるのです』
「破られますか」
『ええ、一気にパリンと壊れるわけではありませんが。チッ……せめて出力が100%なら。
ああ駄目だ! あれを使ったら街が消し飛ぶ!』

 

 通信モニターの向こうで髪を掻き乱し、頭を抱えて思考を落ち着かせようとする研究員。
そのアイデアと開発能力で社に貢献する彼だが、こういう時の瞬発力に欠ける。

 

「落ち着きなさい。一番の危険に直面しているのは私であって、貴方では無いのですから」

 

 スラスター光とマーカーが動き回る様を見遣り、少女は目を細める。まだ攻撃をかけて
来ない。Gカイザーは今までに無い類の兵器であり、向こうも作戦を練っているのだと推
測できる。ただし、このまま睨み合い続けるわけは無いが。

 

『れ、連合軍基地へは既に連絡を入れ、部隊が向かっています。それまで何とか持ち堪え、
かつ市街地への被害を最小限に出来れば……』
「わかりました」

 

 アズラエルが頷き、身を屈めて拳を握り込む。Gカイザーがボクサーのように身を引き、
両腕を折って胸の前で構えた。3機のディンが一斉に散開し、スリット越しに光る単眼が
尾を引いて猛禽のようにGカイザーの頭上を包囲した。

 

『エネルギーの半分以上を防御帯に回せば、回復力と総火力が拮抗する筈です! その状態
で街から少しずつ離れればっておおお嬢様アァ!?』

 

 踏みしめた両脚をバネのように伸ばし、Gカイザーが脚部機構のみで跳躍する。背部の
ロケットブースターが各所展開し、有り余る推進力が機体を突進させた。戸惑ったように
一瞬固まる敵機だったが、すぐさま追い縋って機銃を撃ちかける。Gカイザーが目指すの
は、正面にいた1機のみ。
 他には目もくれず、弾丸を浴びた後方の光波多層防御帯が震えて細波のような輝きを発し、
防御帯に着弾したミサイルの破片が噴射炎に巻き込まれた。

 

『ちょ……何を!』
「頑丈で大きいだけの鈍い機体を前に、敵が何を考えると思いますか。彼らは街を襲いに
来たのです」

 

 慌てふためく研究員を尻目に、左上の後方モニターを見るアズラエルは、時折身体を左
右に振る。全速前進する巨大なGカイザーが断続的にサイドステップし、後方のディンも
機体を揺らした。機銃弾や散弾は、無論避け切る事が出来ない。ただしその多くが防御帯
の外周に散らばってしまえば、力場の損耗を最小限に抑える事が出来る。
 加えてGカイザーは『鈍く』、ディンは『速い』。Gカイザーのステップに追随する為、
高出力、高機動過ぎるディンは無駄な旋回を重ね、銃口がブレる。
 アズラエルは、Gカイザーの性能に頼り切って戦っている。しかし頼り切るという言葉
通り、機体性能と受容可能なリスクを知り尽くしているのだ。

 

「そう……そうです。此方へおいでなさい」

 

 防御帯越しの被弾に、機内とプラチナブロンドが揺れる。赤い警告ランプに少女の笑み
が変容した。親指を不定期に押し込み、両眼のビームガンでディンを狙い続ける。

 
 

 MSを4機搭載出来る分銅型の突入ポッドが大気圏の摩擦熱で赤く染まった後、星が瞬
く夜空に投げ出された。底部と周囲に配置されたスラスターが小刻みに吹かされ落下角度
を微調整し、分厚い雲へと落ちていく。

 

「突入直前の磁気嵐によって、降下ポイントが僅かにずれました。ガルナハンの連合軍基
地から……6kmほど東に離れた場所へ向かっています」

 

 バスターノワールを介して突入ポッドを制御するエコー7の声が、ポッド内の3機に伝
わる。ツェドに搭乗するベル、グフイグナイテッド・ランドタイプに搭乗するディー、そ
してザクウォーリアに搭乗するシン=アスカが、状況を認識して短く返答した。

 

「市街地への落下を防ぐ為、限界までスラスターを使います。ハッチ開放から着地までの
時間が短いので、注意して下さい」
『大丈夫ですかね、この陸戦グフ。着地と同時に崩壊したりして……』
『地球へ降りるのは初めてです。ずっと、プラントの領内にいたから』
『市街地の傍か。連合軍の部隊や、民間人の施設、車列は無いんですか!?』

 

 各員が思い思いの感想を漏らす中、モニターに映ったシンが焦りと共に問いを発する。
彼に頷いたエコー7が、別の画面を呼び出して視線を走らせる。

 

「降下現場付近に施設は見当たらず、いえ訂正します。戦闘と思しき光を確認しました」
『市街戦をやってるのか!』
「地図を出します。……戦場自体は、市街地から急速に遠ざかり、峡谷へ向かっています。
くっ、降下ポイントが割り出せない!」

 

 眉を寄せ、コクピット脇のケースから引き出したキーボードを素早く叩く。しばらくし
た後、エコー7は俯いてかぶりを振った。

 

「スラスターを最大出力で噴射させ、軌道修正しつつ離脱します。巻き込まれるか、足を
取られれば大破の危険があります。ハッチ開封まで10カウント!」

 

 3人の、大なり小なり緊張を伴った返答を聞いた後で、エコー7は開放キーを打ち込む。
落下と横滑りを続けるポッドの外周に光が走り、炸薬で爆破されたドアが四方へ飛散した。

 
 

 後方から撃ってくる2機には目もくれず、目の前の敵のみを執拗に狙い続けるアズラエ
ルのGカイザー。その前進が不意に鈍った。
 追随する2機のディンも急制動をかけ、追い越してしまうのを防ぐ。被弾をまるで考慮
していない機体なので、後ろを取られる事だけは避けねばならない。結果、不必要に減速
し、またチャンスを逃さず防御帯を突き崩そうと、不必要に接近する事になる。
 両腕で前面をガードするGカイザーの胸部に、破滅の輝きが生まれたのはまさにその時
だった。ロケットブースターの左右端がそれぞれ逆方向に噴射をかけ、足部に地面が擦過
して火花を散らしつつ、その巨体がスピンした。胸部が開ききり、回り切る前から放たれ
た拡散ビームの巨光が、峡谷の崖に当たって岩肌を溶かす。回転の勢いに任せて扇状に
薙ぎ払うビームに、2機のディンが巻き込まれた。
 翼が焼き切られ、機銃と散弾銃の弾装が爆発して頭部のフェイスガードが吹き飛ぶ。手
足の関節部を超高熱で焼かれ、光の嵐の中で全身を痙攣させる。多目的ランチャーの誘爆
によって機体が跳ね飛んで、2機の残骸が崖に凭れるようにして墜落、停止した。
 瞬時に味方を失い単機になってしまったディンを、360度旋回したGカイザーが睨みつけ
る。右腕付近に螺旋状の光が生まれたかと思うと、爆光と共に肘から先が飛んだ。高度を
上げ峡谷から逃れようとするも、まさしく虚を突かれたパイロットの反応が僅かに、しか
し致命的に遅れた。ぎりぎりでかわそうとした瞬間、手甲部のスラスターが噴射され、飛
拳が軌道を変える。何重もの防備で守られた必殺の拳が、ディンの股間に減り込む。
崖下に下半身を置き去りにし、上体だけが崖上の台地に転がった。

 

『……お嬢様って、素人ですよね。本当に』
「勿論です。プロフェッショナルならば、もっと効率的に戦うでしょう」

 

 よどみ無く答え、少女は息を吐き出した。機体のダメージレポートに目を移す。前と後
からの攻撃を受け止め続けていた為、出力の上がり切らない防御帯は消耗し、周囲に細か
な粒子を散らし、表面に波のような光を絶えず走らせている。
 防御帯を抜けた攻撃により、機体表面は細かな焦げ跡や擦り傷が刻まれていた。

 

「ん? レーダーに反応……MSが、4機! 新手?」

 

 短く言葉を切り、少女は上を向く。カメラが切り替わり、夜空から降りてくる4つの光
を映し出した。
『1機がバスターノワールである事を考えると……おそらくミハシラですね』
「そう、なら良かっ……」

 

 言いかけた少女が固まる。通信を求めている事を示す光が左端に灯った。グローブから
手を抜いて、スイッチを入れる。黒髪、白い肌、真紅の瞳を持った男が表示された。

 

『他に敵は』

 

 見るなり回線を遮断し、アズラエルは視線を泳がせた。
『出ないんですか? お嬢様』
「この姿を見られる訳にはいかないでしょう。だって、シンにとって私はか弱い保護対象。
そのイメージを崩す事になれば、将来の計画が……」
『……はあ』

 

 はっきりしない返事と共に、研究員は頬を掻く。その姿に苛立ったかの如く、アズラエ
ルはアップにしたプラチナブロンドを解き、髪を空調になびかせる。

 

「街に戻ります。通信機の故障とか、理由はつくでしょう」
『了解。お疲れさまでした、お嬢様。連合軍が来る前に終わりましたね』
「帰ってその旨も報告しましょう。不可抗力であり、正当防衛であったと」

 
 

「……駄目だ、行った」

 

 崖下に降りたツェドが脚部のギアを入れ替え、昆虫のような歩き方で2機の残骸へと近
づく。油断なくビーム突撃銃を向けるシンのザクが、モノアイを左右に動かした。

 

「何だったんです? 今の」
『公式データベースによれば、ダイアモンドテクノロジー社製の重機です』

 

 ディーの陸戦グフと共に崖上を陣取っている、バスターノワールのエコー7がそう答え、
シンは肩を竦めた。巨大で幅広な逆三角形のロケットブースターを吹かして離脱していく
Gカイザーを見送る。

 

「あれの何処が作業機械ですか? どう見たって兵器ですよ、恐ろしく高性能の」
『ついでに言うと乗り手も中々です。まだ粗削りですが、磨けば光る逸材でしょう。今の
内から友人にしておきたいですね』
 ディーの軽口に笑い、シンはツェドに通信を送る。
「パイロットの安否を確かめよう。連合軍に引き渡すのが決まりだから」
『はい、アスカさん』

 
 

『市街地を襲撃したのは、ザフトの機体だったな?』

 

 前後に2基ずつ推進ジェットを備え、鳥から骨格だけ抜き出したようなMS用輸送機が、
峡谷に沿って飛ぶ。その腹部に4機のダガーLが抱え込まれ、バイザーを青く輝かせた。

 

『間違いありません、少尉。しかし、あの内の1機はGATの派生機ですが』
『知っている。バスターノワールだろう……ミハシラ軍所属だ。海賊のな』

 

 声の主は、皆一様に若い。コバルトブルー一色に塗装されたダガーLの左肩には、ライ
トレッドのマークが刻印されている。銛のような片矢印が胸側に伸び、右側に綱を思わせ
る逆S字が描かれただけの、シンプルなデザイン。

 

『奴らがプラントと取引した所で、何も不思議な事はない。攻撃を実行する』

 

 分厚い雲が、強風で吹き払われていく。輸送機から切り離された4機のダガーLが、崖
上に降り立った。ふり注ぐ月光に、左肩のマークが血のような輝きを放つ。

 

『プラントとザフト。地球圏にとって悪血であり膿でしかないこれらを滅ぼさない限り、
平和は訪れない。それらの殲滅は、連合軍に所属する俺達コーディネイターの使命だ』

 

 風が唸り、砂塵が夜空の下を舞う。訪れた静寂は、MSの歩行音によって再び破られた。

 
 

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