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SCA-Seed_GSC ◆2nhjas48dA氏_ep2_第18話

Last-modified: 2008-07-05 (土) 18:47:47

「はあーぁ」

 

 先陣切って突撃したシンが、前のめりになったまま瓦礫に埋まったザクの機内で溜息を
つく。デスティニー兇鮃澆蠅討らというものの、さっぱり良い所がない。

 

『大丈夫ですか?見事に埋葬されていますが』
「葬られちゃいない」

 

 底意地の悪いディーの笑みに仏頂面で言い返して、シンは操縦桿とペダルを動かす。
僅かにモーター音が上がってコクピットが震え、止まった。再び溜息をつく。

 

「あのAIが、俺の邪魔をしなけりゃ……」
『デスティニー兇力辰任垢?』
「ああ」

 

 何かを投げ出すように両腕を開き、シンは身体を転がしメインモニターに横たわる。戦
闘中に叩きつけられても割れない程度の耐久力はあるのだ。左に顔を向けてディーに視線を
やった。頬にモニターの光が当たる。

 

「やっぱりラクスのコピーだからだろ?戦ってる俺が気に入らないんだ」
『キラ=ヤマトも見事に復活したようですしね』
「フン、キラは乗れたりしてな。デスティニー兇魯ラにこそ相応しいですわーとか」

 

 口を尖らせ、高い声でラクスを真似てシンが舌打ちする。鼻を鳴らして笑い、ディーは
コンソールに肘を突いて身体を反らした。

 

『シン、今の貴方にデスティニー兇鮠茲蠅海覆擦襪隼廚い泙垢?』
「はっ?」

 

『戦闘記録を簡単にチェックしましたが、デスティニー兇瞭阿は化物じみていました。
特にエミュレイター事件が終わった後のデータは……貴方に、あれが出来ますか?』

 

 ディーの問いに、シンの喉が鳴った。視線を彷徨わせる。

 

「それは……それが出来ないなら、俺に合わせるのがAIの仕事だろ。何で俺がAIの機
嫌を取らないといけないんだよ」
『凡百のパイロットが乗れる程度に調整したデスティニー兇鮖箸Δらいなら、ザクの方
がまだ戦力になるでしょう。フルスペックを引き出さないカスタムMSなど、単なる欠陥
機でしかありません』

 

 眉間に皺を寄せたシンが、目を閉じてこめかみの辺りを指で揉む。

 

「俺はデスティニー兇望茲觧餝覆無いって言いたいのか、アンタは!」

 

 一夜にして英雄と謳われるに相応しい力を、あの燃えるような輝きを伴う感覚を失った
自分が直ぐデスティニー兇望茲譴弌◆愡故死』も有り得るだろう。そう解っているからこ
そ、他人に言われると腹立たしい。

 

「AIにそんな気を遣って貰ったって、嬉しくも何ともないねってああぁ!?」

 

 岩の塊が動く音が響いた直後、ザクが倒れ込む。機内でシンの身体が毬のように跳ねて、
メインモニターに後頭部を打ち付けた。

 
 

「如何でしたか?標的に不足は無かった筈ですが」

 

 崩落を起こした峡谷の映像が消えると、プロジェクターのスイッチが切られて室内の照
明が復活する。円卓に着くのは連合軍高官達と、ダイアモンドテクノロジー社の生体CP
U開発主任。紙コップに入ったコーヒーは冷めきっていた。

 

「普及型強化、か。しかし第4軍7中隊のMSパイロットはコーディネイターのみで構成
されている。ナチュラルより優れた動体視力、反射神経という要素もあるだろう」
「お言葉ですが、ギムレット隊の機体は完全にナチュラル仕様です。そしてOS、AIが
発達した現在、両者の身体能力差は最早無視できるレベルにまで縮まっています」

 

 自信に満ちた表情で答えた主任が胸を張る。2ヶ月後に全部隊で試用が始まり、半年後
には本当の意味で実用化される一大ビジネスだ。

 

「この強化処置を全軍に行き渡らせれば、地球連合軍に死角は無くなるでしょう。物量は
元より、ソフトウェアで部隊間ネットワークを確立し、更に兵士個人の戦闘能力まで高め
る。先程ご覧頂いた戦いぶりが、今後の連合軍におけるスタンダードとなるのです」

 

 数人が居住まいを正して咳払いする。程度の差はあれ、誰もが戦闘映像に見入っていた。
奇襲をかけたとはいえ、数頼みの自軍が、同数の敵を明らかに押していたのだ。
 1人の将官が手を上げ、胸の勲章が揺れる。

 

「強化処置の内容だが……グリフェプタンを使っているな。ロドニアのラボで粗製濫造さ
れた兵士達のようにならん保障はあるかね?」
「基本的な化学構造は同じですが、副作用を抑えた改良型です。それにお言葉ですが、あ
そこは拾ってきた子供を、短期間で無理やり戦力にする場所です。前提が異なります」
「ふむ、そうかね。加えて、ゆりかごによる心的矯正措置……これは?」

 

 待っていたとばかりに、主任は一歩進み出た。照明が部分的に落ちて、プロジェクター
に再び映像が投影される。人型のCGモデルが表示された。

 

「まず兵士の恐怖、他者を攻撃する事への躊躇を抑え込みます。完全に除去するわけでは
ありません。また自我を弱め、集団への帰属意識を高めます。主として新兵、若年兵に高
い効果を発揮する事が予想されますが、ある程度までのベテランにも有効です」
「ある程度まで、というのは?」
「本システムは、いわば痒い所に手を届かせる事を目的としているのです」

 

 軍人達の笑い声が収まるのを待ち、主任はまじめくさって話を続ける。

 

「敵と向かい合うのがやっとの新兵を、その場で戦力にします。自分の限界を知り始めた
ベテランのタガを外し、エースパイロットとなり得る力を与えます。しかし、既に戦闘が
身体の一部となっている真のベテランおよび、特殊なセンスを持った天才には逆に害とな
ります。本システムの強化とは、ある水準を満たす兵士の安定供給を意味するのです」
「その水準というのが、先程のアレか」
「先程のアレです」

 

 主任の首肯に将官達が唸る。確かに画期的だった。しかし、画期的過ぎる。

 

「しかし、我々連合軍は攻めるばかりではない。むしろ守る側である事が多い。つまり、
戦闘開始のタイミングを選べんという事だ……この問題にはどう対処する?」

 

 最も年老いた白髪の将官が、指を組んで上目づかいで主任を見上げる。

 

「20分間の強化でおよそ6時間持続します。ローテーションを組めば、未強化のまま出撃
という事態には陥らないかと思われますが」
「ローテーションを組むと言っても限界がある。軍において、指揮官が20分間不在になる
というのは深刻でのう……試用期間中に解決策を見つけるしかない、か」

 

 深い皺が刻まれた表情のまま、老人は俯いた。嫌な空気を感じ取った主任が顔を上げる。

 

「い、医療スタッフの充実によっても解決できる問題かと。当社の協力企業とも契約を結
んで頂ければ、設備などのリース面で色々努力させていただきま……」
「どのくらい?」

 

 やおら身を乗り出す老人。引く主任。

 

「ええと……5%引きくらい?」
「どーんと20%でどうじゃろ。どうせ我々が採用せんと、カネにはならんだろ?」
「会社が潰れますよ!ほ、ほらさっきの戦闘を見たでしょ!?あのクオリティが……」

 

 八百屋と主婦のような会話になりかけた時、ドアが開いて若年の将校が入ってくる。

 

「失礼します。『ミスターA』が『秘密基地』に到着した模様です」

 

 余りに間抜けな報告に主任が吹き出すが、並みいる高官達は重々しく頷いた。

 

「よろしい。乗艦の完了をもって彼を特務少佐とする。伝えたまえ」
「ハッ!」
「あ、あの、ミスターAって?」

 

 完全に蚊帳の外だった主任の言葉に、白髪の将官が振り返った。

 

「……ちょっとな」

 
 

「お嬢様!モッケルバーグ理事から秘匿回線が!」

 

 ガルナハン郊外に設置されたダイアモンドテクノロジーのキャンプに戻り、慌ただしく
着替え終わったアズラエルの所へ、研究員が飛び込んでくる。

 

「ロード=ジブリールの遺産についてお訊ねです。でもあれって確か」
「ギムレット隊がシン達を襲撃したというのは、本当ですか?」
「あ、はい」

 

 少女に話の腰を一刀両断され、勢いで頷いてしまう研究員。タクティカルゴーグルを
外す手を一度止めて、少女は壁に片手をついた。

 

「どうして……悪い事というのは連続するのでしょう。私はシンに何と言えば……」
「確かに、下手をするとイメージダウンは必至ですよね。それより、遺産ですが」

 

 無造作に研究員を手払いする少女。此処まで余裕を失った彼女は、そう見られない。

 

「アドゥカーフ・メカノインダストリーの元社長にお話をうかがって下さい」

 
 

「フクダさんですか?あの人、連絡つくかなあ」
「今はアニメ監督やってますよ。深夜アニメだけど、売れてます」

 

 後ろから顔を出して会話に加わった後輩が、アズラエルのデスクに紅茶を入れたコップ
を置いた。物憂げな表情を変えないまま、少女は重い、重い溜息をつく。

 

「SFモノなんですが、3回に1回入浴シーンか着替えシーンが入るR指定アニメで、色気
描写の為にストーリー進めてる感じですね。作画は良いけど、僕は認めてないですアレ」
「出たよ『僕は認めない』発言。アニメオタクってのは変わらんな」
「そんな事、どうだって良いでしょう」

 

 アズラエルの平板な口調が2人の漫才に冷水を浴びせかける。ゴーグルをデスクに置き、
少女は両手で顔を覆った。

 

「連合軍の基地に行った以上、ギムレット隊と我が社の繋がりを知られたと見て間違いな
いありません。我が社の新装備を使っているのですから。この上カイザーに乗った事が発覚
すれば、シンに対する私のイメージは、決定的なまでにッ……」
「でも事故なのですからっていうか、Gカイザーの方がダメージ大きいんですか……?」
「そうですよ。大体お嬢様のイメージって元々」

 

 後輩の鳩尾に肘をめり込ませる研究員。消え入りそうな咳を繰り返して蹲る後輩。

 

「シン=アスカの管理は、ムルタ=アズラエルの娘である私の責務、私の使命。コーディ
ネイターの増長を食い止める為……青き清浄なる世界の為に、私は他の誰よりもシンの近
くに居なければなりません。私はあくまで、か弱い保護対象であらねばならないのです」
「はあ」

 

 双眸に冷たい炎を燃やすアズラエルに、研究員は疲れた声で相槌を打った。

 
 

 劣悪な舗装の為された崖上の道路を、連合軍の大型ジープが走っている。2列の後部座席
にシン達4人が座っているのだが、最後尾のベルは肩を落としていた。

 

「やっぱりあの部隊は、アズラエルさんと関係があったわけか……」
「まあ関係があったっていうか、第7中隊の隊長が強化計画に特別前向きだったのさ」

 

 ジープを運転する連合兵士が、バックミラーを一瞥してシンに答えた。ディーが片方の
眉を持ち上げる。

 

「どういう方なんです?その隊長さんって」
「それがスカンジナビア王国の王子で、第一王位継承権者なんだよ。だからよく王子
<prince>って呼ばれてる。階級は中佐だったかな?」
「へえ?コーディネイターなんですか」

 

「身体能力は俺達ナチュラルと変わらないんだが、遺伝病治療の時にやった調整が当時、
違法でも合法でも無かったらしくてな、コーディネイターって事になったんだと」

 

 車のライトで照らされた向こうに、ガルナハンの街が見えた。転がっていた石ころに
乗り上げたか、車体が大きく揺れる。街灯のない夜道は、とにかく暗い。

 

「王子が連合軍に入隊したのは、ま……古典的な人質ってとこだそうだ」
「それほどまでに、スカンジナビア王国は侮れない存在だと?」
「逆さ。今時その程度で済むほど、王国が軽く見られてるって事」

 

 兵士が小さく笑い、また車が揺れた。エコー7が後部座席を振り返る。

 

「大丈夫ですか?ベル」
「はい、大丈夫です……」

 

 この場で唯一ザフト兵の制服を着た少女は、蚊の鳴くような声と共に頷いた。

 

『同じコーディネイターなのだから、話し合える』

 

先程、連合軍の基地でついうっかりこう発言してしまった彼女は、ギムレット隊の隊員
達に思うさま罵られ、怒りをぶつけられ、その上エイプリルフール・クライシスやブレイ
ク・ザ・ワールドが地球上にもたらした実際の被害を知り、地上のコーディネイターがど
ういう目に遭ったかを1時間以上に渡って訴えられ続けたのだ。
 通り掛かったシンと基地司令が割って入らなければ、どうなっていたか解らない。去り
際に言い捨てられた『貴様達と一緒にするな』という言葉が、胸に突き刺さっていた。

 

「ま、根性は見せたな」
「えっ?」

 

 連合兵の言葉に、ベルは顔を上げる。

 

「他のザフト兵は全員居直るか、嘘だと言い続けた。真正面から受けとめたのはお前さん
が初めてだよ。適当な言い逃れもせずに。大したもんだ」
「まったくですね」

 

 その場にいなかったディーがしたり顔で頷いて、シンが髪に手をやってかぶりを振る。
やがてジープが止まり、ドアロックが解除された。

 

「あんた方の機体は、こっちで整備しておく。ザフト機に詳しい奴も多いんでな」
「お願いします」

 

 車から降りたエコー7が軽く頭を下げる。ツェドや陸戦グフのスペックを暴かれる可能
性があったが、それはロンド=ミナ=サハクそして補佐官と、地球連合軍部との間で合意
が形成されていた。

 

「うっ!?」

 

 シンが一歩後ずさる。懐中電灯の光が2つ近づいてきていた。コニール=アルメタが笑
顔と共に手を振る。研究員にライトを持たせたアズラエルが微笑んだ。

 

「シン=アスカ!久しぶり!」
「こ、コニール……」

 

 何故か正面から向き合えず、シンの身体が僅かに傾く。それに構わず、駆け寄ってきた
コニールがアズラエルを指差した。

 

「この人凄いんだ! 社長さんなのに、MSの倍以上あるロボットに乗っちゃって!」

 

 アズラエルの微笑が歪む。顔色を失くした研究員のライトを奪い、スイッチを切った。

 
 

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