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SCA-Seed_GSC ◆2nhjas48dA氏_ep2_第23話

Last-modified: 2008-10-18 (土) 23:15:55

「コミュニケーション・タワーをブッ倒したのは拙かったな、シン」
「あのまま放っておいた方が拙かった。足元に人が大勢いたんじゃ、撃ち合えないだろ」

 

 組み合ったザクウォーリアとM1アストレイを横目で見つつ、シンが538に反論した。
ジャンク屋ギルドのマークが入った整備服を着た人々が、破壊された通信塔や物資集積場
に集まって話し合っている。時折シンが乗っていたザクを指差し、肩を竦めた。

 

「けどな、この辺りはまだ通信がダメダメなんだ。タワーを壊すって事は、コロニーで
暮らしている人間にとっちゃソーラーパネルを叩き割るようなものなんだぜ」
「……解ってる」

 

 変声機を通した掠れ声に、シンは視線を落とす。落とした後、今回の件は機体性能で何とか
出来た事なのだろうかと思考を巡らせた。デスティニー兇あれば、もっと被害を縮小出来た
のだろうか?彼の答えは否である。
 力が、技能が足りていない。これでは全く同じだった。自身の無力を嘆いたあの時と。

 

「ま、お前は良くやったよ。考え無しに銃を撃ちまくるよりは余程被害が抑えられた。
ガベージ・エイトの警備隊も対応が遅れまくってたからな。今確認したが、死人もゼロ。いやはや、
英雄は伊達じゃないってわけだ」
「誰も死ななかったのは……半分は運が良かったからだ。目では確認したけど、もしあの
ゴミ捨て場みたいな所に人がいたら、どうなってたか」

 

 耳障りな笑い声を上げ、538は背を反らした。ミラーシェイドにぼやけた太陽の光が滲む。

 

「結果が全てさ。2年前、歌姫の騎士団がデュランダルを失脚させた時と同じくな。じゃあ、
そういう事でお前のザクは売っ払うから」
「ああ、任せるよ」

 

 軽く手を振り、538はシンに背を向けて歩き出す。5秒もしない内に、猛烈な勢いでシン
が追い縋ってきた。

 

「ど、どういう事だよ!ザクを売り払う!?何で!?」
「だーから、さっき言わなかったっけ?通信塔を壊すってのは重罪なんだよ。本当なら
ジャンクヤードでネジを数えさせてやる所だが、さっき言ったようにお前は英雄、金的の
シンに恥じないファインプレーをやってのけた。だから、ザクを売るだけでコトを収めよ
うっていう話さ。ギルドの了解は取ってある。よかったな、シン」
「良くない! 全然良くない! ジャンク屋ギルドは情報も売買いしてるって聞いたぞ!
俺からMS戦闘を取ったら、何も残らないって知ってるだろ!」

 

 シンが食って掛かる様に、行きかう人が足を止める。

 

「あれが金的のシンか」
「可哀想に。まだ若いよな。あの歳で金的なのか」
「安心しろ、シン。別の機体を用意してあるって、お前の上司が言ってたから」
「な、なんだよ。ビックリした……ちょっと行ってくる」

 

 538から手を離し、シンは若干ふらついた足取りでエコー7の所へ向かった。

 
 

「今回は貴方に礼を言わねばなりません。今回もというべきでしょうか」

 

 ジャンク屋らしき1人の男と話を終えたエコー7が、やってきたシンに淡々と語りかける。
何時も通り笑みを見せない彼女だが、今のシンにとってはそれが恐ろしい。

 

「あ、いや、済みません。来た早々トラブルを起こして……」
「大した問題ではないのです、シン。当初はマーケットにそれとなく、上客として入り込
む筈でしたが、こうなった以上は逆に目立たせる事で情報を集めるべきでしょう。多少計
画は狂いましたが、修正不可能なレベルではありません。いえ、確かにシンがあのような
行為に及ぶとは私も考えていませんでしたが、それは指揮官である私の不手際ですので」

 

 聞いているうちにシンの背筋がどんどん丸くなり、眉を寄せて人差し指を擦り合わせた。

 

「それはその……あいつが地面に向けて撃ち始めたらどうしようと思って……」
「とにかく、ミハシラからの部隊が此処に来たという事は遠からず知れる事となるでしょ
う。運が良ければ、『最後の50人』の方から近づいてきてくれる可能性もあります。運が
良ければ。普通は身を隠すでしょう。私達と戦う理由はありませんから。とはいえ、先程
も申し上げた通り、これは指揮官である私の責任であってシンは悪くありません」

 

 取ってつけたようなフォローを繰り返され、とうとうシンは近くの空き箱に腰を下ろし
た。乾いた冷たい風が頬に当たって痛い。ザフトに居た頃は、今考えてみれば戦場がお膳
立てされていた。目につく物は大抵壊して良かったし、その損害を補填するなど考えた事
すら無かったのだ。

 

「さて……シン。貴方のザクはギルドの物になってしまったので、別の機体が必要です」
「何でしょうか、俺の機体は。ジンとか、ストライクダガーとかでも驚きませんよ」

 

 意気消沈した彼の言葉には答えず、エコー7は近くの倉庫へと入る。部屋の照明を点け、
目の前に置かれていた箱を開けた。中から薄い装甲板で補強されたブーツ、グリーブ、
チェストガード、グローブを次々に取り出して地面に置き、最後にMSのスラスターを
そのまま小型化したようなジャンプパックを台に載せた。
 シンが首を捻る。『機体』と称されるのはMSだけではないと知ってはいるが、今広げら
れている物体と、自分の新しい機体に、どのような繋がりがあるか理解できないのだ。

 

「MI-006リーパー。ダイアモンドテクノロジー社が開発した、最軽量かつ最高
の機動性を持ったパワードスーツです」

 

 赤い単眼を備えたヘルメットを最後に箱から取り出し、エコー7は続ける。

 

「シン、貴方のザフトアカデミーにおける成績を以前チェックした事があります。白兵戦
にも秀でているそうですね。パワードスーツを着た事は?」
「あります。移乗白兵戦の訓練で、負け無しでした。あ、でもあれはルナが張り切ってた
からな……陸戦隊に入れば良かったのに、何でMSパイロットになったんだろ、アイツ」
「スコアに書いてある通りですか。よろしい」

 

 コーティングしかされていない、灰色の防具を一瞥したエコー7が、隣のケースを開け
る。同じくダイアモンドテクノロジー社製のサブマシンガンを取り出した。

 

「銃火器の扱いは?」
「ハンドガンとサブマシンガンを良く訓練してましたね。長距離射撃は、銃座かMSに乗
ってやるものなんです、ザフトでは」
「なるほど。爆発物は?」
「手榴弾は数えるくらいしか訓練してません。プラスチック爆弾は一応実物を触った事が
……あの、エコー7。俺の機体を教えてくれるんじゃないんですか?」

 

 その言葉に振り返った彼女は、シンへと歩み寄って肩に手を置いた。

 

「現代戦におけるパワードスーツ兵の役割は、吹聴されている以上に大きな物です。特に
私達の任務で最も重視されるのは調査であり、戦闘は二の次なのです。解りますね、シン」
「は、はあ」
「貴方の役割は機体を換えた事によって、より大きくなるのです。これまで通り、いえこ
れまで以上に奮闘して頂かなければなりません」
「いや、だから俺の機体は何なんです?」

 

 エコー7が、黙ったまま視線を右に逸らす。それを同じように目で追ったシンが、目を
見開いて口を金魚のように動かした。

 
 

 ガルナハンから戻ってきた研究員は、2つの問題に頭を悩ませていた。1つは勿論、ネオロゴスの
代表であるモッケルバーグをも動揺させた、ロード=ジブリールの遺産についてである。アドゥカーフ・
メカノインダストリーの社長にコンタクトを取り、協力を取りつけたのだが進展が無い。

 

「先輩。僕なりに調べてみたんですが、ユニウスが落ちてからのジブリールは、丸っきり
パラノイアですよ。知識も無いのにロゴス系企業から勝手に人材を引き抜いたり、出来上
がった成果を個人で秘匿したり。何でこんな男を放置しておいたんでしょう?」
「先代メンバーは余計なトラブルを抱え込みたくなかったんだろう。今の女性陣と違って。
腫れ物に触るように扱っていたら、何時の間にか取り返しのつかない事にってのは良くあ
る話だ。……だから、遺産が見つかってないんだけどな」

 

 溜息をついて、冷めたコーヒーに口をつける。彼は開発者であって探偵ではない。色々
な場所にコネがあるという事をアズラエルに察知されてしまい、保安部の手伝いをさせら
れているのだ。

 

「フクダさんの方はどうなんですか? 『遺産』開発の責任者だったんでしょ?」
「だからさ、データはジブリール個人が握ってたから、そこから探さないといけないんだ
よ。遺産その物も、別々の部署に造らせたパーツを繋ぎ合せて使うらしい。今の段階だと、
名前くらいしか解らん」
「名前が付いてるんですか、どんなのです?」

 

 後輩の問いかけに顔を上げた研究員が、ややあって厳かに1つの単語を発声した。

 

「……希望<Hope>」
 一瞬、言葉を失った後輩が視線を彷徨わせた。研究員が気まずそうに咳払いする。
「ホープ……良い、センスですね……」
「だろう?」

 

 頷き合う2人。その時ブザーが鳴り、研究員が通話スイッチを押す。

 

「どうした?」
『ドムトルーパー3機の搬入、終わりました』
「お疲れ。スローネ……じゃないオファニムの方は何と言ってきている?」
『1時間後にポートから出たいとの事です』
 軽く舌打ちする研究員。壁時計を見遣って席を立ち、作業用のジャケットを羽織った。
「解った。デスティニー兇鬟船Д奪する。そう伝えろ」
 電子音と共に通信が切れ、後輩も立ち上がった。空気が抜ける音と共にドアがスライド
し、2人は早足で細長い廊下を進む。
「いきなりエンジンが動き出したんですよね」
「そうだ。第一発見者のMs.ハーケンに事情を聞いたが、気が変わったんだろうとか何と
か。確かにラクス=クラインのコピーだからな。何を思いついたんだか……」
「キラ=ヤマトなら乗せる気になるんじゃないですか? 今、来ているんでしょう?」

 

 後輩の言葉に、渋面を浮かべた研究員が唸った。シン=アスカで駄目ならキラ=ヤマト
をとりあえず乗せてはどうかと提案したのは、モッケルバーグとジブリールだった。アズ
ラエルが猛反発したのは間違いなかったが、カネと時間をかけて開発したデスティニー
がまともに動かなくなった以上、発言力の減退は著しい。
 今や機体全てを掌握したエミュレイターが、ラクスのコピーであるという事。彼女は強い者を
求めるという事。今の強化されたキラ=ヤマトが、シン=アスカと同等かそれ以上
の技量を有している事などを突き付けられ、了承せざるを得なかったのである。
 分厚いドアが左右に開かれ、格納庫へと足を踏み入れた。外部コンソールを操作してい
たサイ=アーガイルが顔を上げた。

 

「ああ……チーフ」
「連合軍の戦艦からせっつかれちゃってさ。どうだ? 随分時間かかってるけど」
「キラはコクピットに入れたんだが、それより先に進めない。OSを書き換えて、立ち上
がらせようとしてる」

 

 サイの言葉に、研究員は大きく身を引いた。直立状態でメンテナンスベッドに固定され
たデスティニー兇鮓上げる。OSやAIは、エミュレイターの言わば聖域なのだ。

 

「強化されても相変わらずフリーダムだな。……良いのか? 奴に機体を弄らせて」
「昔の事は、仕事に関係ない。この機体を元通りに動かせれば、誰であろうと構わないさ」

 

 眼鏡をかけ直したサイが小さく笑う。その時、デスティニー兇離張ぅ鵐▲い光った。
固定器具が外れ、モーター音と共に一歩前進する。

 

「な、何だとォ!?」
「乗ってるのはキラ=ヤマトですよね! じゃあ、パイロットとして認めたのか……!?」
 研究員とその後輩が呆然と機体を見上げる中、溜息をついたサイが苦笑いを浮かべる。
「お前は何時もそうなんだな、キラ」
『まあ当然の結果だよね。AIとはいえ女の子でしょ? シンみたいなみすぼらしい安物の
コーディネイターじゃなくて、僕みたいに生まれつきゴージャスな……あれ?』

 

 外部スピーカーをオンにして豪語していたキラの声が止まった。縦方向に固定したメン
テナンスベッドから一歩離れたデスティニー兇、ゆっくりと膝を突く。次いで両手も格
納庫の床に突き、土下座するような格好になった。

 

『あれ?』

 

 ハッチが開け放たれた瞬間、キラが腰かけていたシートが高速で射出される。

 

「へっぷぁ!」

 

 奇怪な声を上げて床面に叩きつけられた。シートが飛んでいき、尻だけ高く掲げたキラ
が残される。殆ど同時に、2階部分のドアが開いてアズラエルが入ってきた。

 

「早くキラ=ヤマトを下ろしない。私はまだ具体的な許可を出していませ……」

 

 食当たりしたようにキラを吐き出したデスティニー兇鮓下ろし、少女の言葉が止む。

 

「人体ってあんまりバウンドしないんですね、先輩」
「……搬入準備を始めよう。誰なら乗れるのか、さっぱり解らなくなったがな」
「だ、大丈夫か! キラ!」

 

 慌てて彼の方へと走っていくサイを横目に、研究員はインターフォンでメカニックマンを
呼び出しにかかった。

 
 

「じゃあ、私お先に失礼しまーす」
「おお、いつも御苦労さん! 彼氏と仲良くやりなよ!」

 

 赤毛のツインテールを揺らした少女がキッチンから出てくるのを横目で見つつ、シンは
ミートソーススパゲッティをフォークで攪拌していた。といっても、ミートソースもパス
タも本物ではない。
 調味料と調香料で味付けした芋と豆類に、サプリメントを合成させてあるのだ。隣席の
ディーがフォークとナイフで食べているライス付きハンバーグも、目の前のベルが摘んで
いるポテトサラダを挟んだサンドイッチも同様だった。
 ガベージ・エイトの食糧事情が劣悪な訳ではない。これが地球の、否今となってはプラ
ントまで含めた地球圏のスタンダードなのである。

 

「流石に……今回ばかりは、本当にがっくりきた」

 

 申し訳なさそうな顔を浮かべて小さくなったベルが、上目づかいになりつつシンのグラ
スに水を注ぐ。消毒剤の匂いが気になる再利用水だが、飲み水は何処でも貴重なのだ。

 

 ガベージ・エイトのほぼ中央に建つ食堂。窓際席に座ったシンは、憂鬱を隠そうともし
ない顔でガラス越しに外を見る。作業員が引き上げて傾きかけたままの重機、汚れにまみ
れて膝立ちになったMS、灰色の空で揺らぐ太陽。すり鉢状の居住区には小さな沢山の窓
に明かりが点き、取り付けられた鉄製の外廊下をまばらな人が通り、蜂の巣のようなこじ
んまりとした住居に入っていった。

 

「MSから降ろされるなんて……パワードスーツだぞ、しかも」

 

 ザフトで戦闘訓練を受けたシンには、どうもMSとそれ以外の兵器に決定的な差を感じ
てしまうのである。そして当然ながら、MS同士で戦っている中に突入しなければならな
い時が来るだろうと、容易に想像できるのだ。

 

「私のツェドに乗り換えますか? アスカさん」
「そんなの、俺の危険をベルに肩代わりさせるだけだろ。絶対駄目だ」

 

 疲れていながらもはっきりとした口調に、俯いた少女がサンドイッチの端を咥える。
ディーが掌で顔を仰ぎ、額を拭ってみせる。

 

「まあ、良いじゃありませんか。別に暴れ回りたいわけでは無いんでしょう?」
「当たり前だろ。暴れてる奴を大人しくさせるのが俺の仕事なんだ……その筈、だ」

 

 今日の惨状を思い出し、シンの声も小さくなった。

 

「あ、そういえばコニールは? エコー7と一緒か?」
「はい。私達が住む部屋を探してくれているみたいです」
「拠点とか、住むとか……腰を落ち着けて良いのかな」

 

 落ち着かないシンが、上体を動かしてあちこち見回す。ディーが笑って手を振った。

 

「慌てても事態が好転するわけではないでしょう。大体最後の50人だか30人だか解りま
せんが、シンはその内1人でも素性を知っているんですか? エイプリルフール・クライシ
スで家族を失っているというだけでは、探しようがありませんよ」
「解ってるよ。アンタって、悩み事とか無さそうだよな」
「……人生、そっちの方が楽しいですから」

 

 膨れ面をしたシンの言葉に首肯するディー。エイプリルフール・クライシスと聞いたベ
ルが、サンドイッチを咥えたまま溜息をついた。ふて腐ったシンの視線が、何気なく壁に
貼られた写真に向いた。椅子を蹴倒して立ち上がる。

 

「こいつは、ガルナハン基地の……今は、ストライクフリーダムに……何で!?」

 

 3人の子供と2人の男女が映っている。畑をバックにして、左側に映った成人男性に、
シンは見覚えがあった。くすんだ金髪をオールバックにし、頬に土を付け妻らしき女性に
寄り添われて笑い返し、幼い少女の両肩に手を置いている。断片的な言葉を吐いた後、
壁から写真を剥がしたシンは厨房を切り盛りしている初老の男を見つけ、身を乗り出した。

 

「こっちの男! アンタとどういう関係だ!? 片側はアンタだろ! 今何処にいる!?」
「勝手に店のモンを……兄ちゃん、ソイツを知ってんのか? 何処で会った! 何時だ!?」

 

 シンと食堂の主は互いに睨み合い、問い掛け合う。取り残された2人が首を傾げた。

 
 

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