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SCA-Seed_19◆rz6mtVgNCI 氏_第1話

Last-modified: 2008-06-09 (月) 20:40:44

第1話『英雄の墓』
 
 サイ・アーガイルは本来なら軍にいるどころか、犯罪者としてぶち込まれても──あるいは英雄として称えられても文句が言えない、なんとも立派な経歴を持っている。
 
 今から4年前、ヘリオポリスコロニーの崩壊で難民となったサイは紆余曲折あって連合の最新鋭戦艦アークエンジェルに乗艦してそのまま志願兵となる。
 アークエンジェルは艦長代理となったマリュー・ラミアス少佐(当時は大尉)の指揮の元、宇宙でのザフトの追撃を振り切りアフリカに降下する。
 その後もザフトの執拗な包囲網を撃破、最終的に犠牲を払いながらもアラスカまで単独突破を成し遂げた。
 しかし、その後は艦長以下艦ごと脱走してオーブに亡命。果てはオーブやヤキンにて連合軍と交戦し、アークエンジェル級二番艦ドミニオンを撃沈し当時の国防産業連合理事であるムルタ・アズラエル氏を殺害する。
 
 当時は一介の二等兵だったとは言え、まともな状況なら間違っても軍になどいられない。
 だが、彼が軍にいるのには重大な訳がある……という訳でもない。
 
 元はブレイク・ザ・ワールドで生活基盤の全てを失い、半ば自棄で軍に志願しただけだった。もっとも、この時はまさか本当に入隊できるなどとは考えていなかった。
 あのころは飢え死にするか犯罪に手を染めるかしかないような状況だったのだ、犯罪を犯すよりはましだと、前歴を洗われて逮捕される事を覚悟……というか、半ば自棄で軍に志願した。調べればすぐに判るだろうと、2年前は志願兵だった事まで書いたぐらいだ。
 しかし運命とは判らない物だ。混乱の最中、担当官はろくに書類も見ないままサイを採用。もっとも、これは当時としては(サイの前歴はさて置き)珍しくは無かった。
 ブレイク・ザ・ワールドで発生した未曾有の被害は、NJの傷が癒えきっていない世界には致命的だった。しかも、なし崩し的にプラントと開戦。ろくに準備も整っていなかった連合軍は緒戦で敗北、宇宙軍を失ってしまう。
 復興と長期化の様子を見せる戦争。そんな状態に軍は若くて健康そうな奴ならとにかく採用しろ、馬鹿はこっちで殴って直すという無茶な方針で拡大していった。
 そんな訳で再び軍人となったサイであったが、当初は被災地の復興支援の日々であった。
 だが、ひょんな事からパイロットとしての適性がありと判断され、MSのパイロット候補となる。通常なら考えられない人事であったが、戦争と復興支援、プラントの支援を受けた地方軍閥による反乱と、人手が足りなかったのだ。
 一度は無断で乗り込み営倉行きとされたMSの適性があるとは……当時のサイは思わず苦笑いしたものだ。
 その後訓練を無事通過し僻地勤務のMSパイロットとして配属、数回の戦闘を経てパイロットとして頭角を現す。
 特に新人離れした度胸と、CICの経験からか戦況に関する嗅覚に長けていた。
 その功績に軍上層部が目にするのだが……、そこで彼の前歴が大問題となる。
 普通に考えれば良くて除隊、悪ければ銃殺刑ものの経歴だ。だが、優れたパイロットはとにかく惜しい。特にこの時期はザフトだけでなく地方軍閥の反乱などでパイロットの数が激減しており、さらに戦場に現れて暴れまわるはた迷惑な連中まで現れていた。
 大西洋連邦ほどの国力があろうとも、優秀なパイロットだけはそう簡単に数を揃えられない。
 捨てるには惜しいが、無視できる前歴でもない。
 結局は軍事法廷にかけられるものの、当時は正規の軍人教育を受けていない事、採用者であるマリュー・ラミアスが直々に脱走を示唆し、未成年であったサイに正常な判断ができない状態だった事などを理由に罪状を軽減、階級を降格後に再訓練、問題が無ければ実務に復帰。
 ついでに減棒6ヶ月という、厳しいんだが厳しくないんだか良くわからない処分に落ち着いた。
 もっとも、このきわめて軽い処分の影には、ある人物が事前に手を回してくれていた為でもあるのだが……。
 
 
「マジですか?」
「マジなのよ」
 
 ここ最近は馬鹿な話を良く聞くが、それは最たるものであった。サイ・アーガイル少尉は思わず司令に対しスラング交じりに聞きなおしてしまった。
 おそらくは司令も同じ思いだったのだろう。その言葉を咎めるどころか同じくスラング交じりの言葉で返してくる。
 
「──海賊の民間船襲撃に対する救助行動は評価する。だが、その為に武装を使うのは平和に対する重大な違反であり侵害である。こういった場合は言葉による説得ないし、武装を用いずに取り押さえることが望ましい……
 今回の抗議文は傑作ね」
「前回は『極力武器の使用は最小限にとどめるのが望ましい』でしたっけ? で、今回はとうとう『海賊の弾に当たって死ね』と判断して良いんですか?」
「そういう事じゃないの?」
 
 どこまでも投げやりな言葉に、サイは眩暈を感じた。
 
「MS相手に生身でどうしろと……」
「あら、オーブには素手でMS撃破する人がいるって聞いたけど?」
「そんな人類の範疇外と一緒にしないでくださいっ!」
 
 思わず悲鳴を上げる部下に軽く微笑むと、抗議文から目を離し机の片隅に置いてあった写真立てに目をやった。
 そこには4年前にヤキン・ドゥーエで戦死した妹が、家族に囲まれぎこちなく微笑みながら敬礼をしていた。
 
「まったく、彼等は4年前と2年前にやった事を忘れてるのかしら?」
「4年前は俺もあちら側でしたけど……」
「別に責めている訳じゃないわ。……でも、本当に彼らが何を考えているのかわからないの?」
「わかっているのなら、ここにはいませんよ」
 
 サイは思わずため息をついた。
 少なくとも、MSを使う海賊相手に武装を使わず鎮圧しろなどという人間の精神構想などわからない。わかりたくもない。
 ついでに言うのなら同じ軍人のくせに、自分達は核動力MSに乗りまわしながら、旧型で海賊から民間船を守った軍人に文句を言う神経が信じられない。
 もっとも、司令もサイに答えを期待したわけではないのだろう。ため息を一つつくと馬鹿げた抗議文を片付け、次の書類を机の上に取り出した。
 
「ま、そーいうことだから、今後は注意するように」
「どうやってですか?」
「現場で考えて」
「了解です」
 
 どこまでも投げやりな受け答えだが、“歌姫の騎士団”の抗議文などまともにかまってられないというのが正直な感想だった。
 
「んで、本題」
「本題は先ほどの抗議文じゃないんですか?」
「あんな馬鹿げたシロモノだけでわざわざ呼ばないわよ。暇じゃないんだし……っと、これこれ。あんた達が助けたシースワロー号からの感謝状よ」
「無事だったんですか?」
 
 書面を見ながら、サイは安堵の溜息をつく。元々“歌姫の騎士団”は周囲の被害を考えない戦い方をする者が多い上に、構成員の大半がコーディネーターの為ナチュラルを見下す傾向にある。
 その為、地球で“平和維持活動”を行う場合、『不幸』にも『戦いに巻き込まれ命を落とす』者が多いのだ。
 
「ええ、無事だったみたいね。もしかすると、手当てがつくかもしれないわよ」
 
 その時、不意にサイに何かいやな予感がよぎる。『ピキューン』と妙な予感が頭の中で警報を鳴らしたのだ。
 もっとも、なにやらいたずらっ子のような司令の笑みを見れば誰でもわかるような気もするが。
 
「次の任務が決まったんですね。しかも、とびきり面倒臭そうな」
「うん」
 
 その言葉にサイは思わず溜息をつく。
 もっとも、司令はそんな様子を微塵も気になどしなかった。
 
「まだ本決定じゃないんだけど……近々宇宙に上がってもらう事になるかもしれないから、覚悟だけは決めておいてね」
 
 そして数日後、運命が交差を始める。
 
 
 大西洋連邦少尉サイ・アーガイルが彼に出会ったのは、本当にただの偶然であった。

 その日、彼は偶々休暇であり、宇宙に上がればしばらく来れなくなると墓参りに来ていた。そして、その日は偶々雨であり、その墓に見慣れない薄汚れた黒髪の少年がもたれかかっていた。ただそれだけであった。
 
 正直今の世情では別に浮浪者の死体など珍しくも無いし、職業柄死体など見慣れていたので慌てもしなかった。死体などスラムの路地裏にでも行けば1日あれば見つけられるような──あるいは一日あれば自分がそうなっている──代物だ。かまってなどいられない。
 ただ、眉をひそめあとで墓地の管理人に連絡を取っておかなければと考え、墓地で死ぬのは効率がいいのか悪いのかと考え、かつてヘリオポリスに住んでいた……未来を、友を素直に信じられていた頃から比べて随分と磨耗したものだと自嘲の笑みを浮かべる。
 
「うあ・・・あっ・・・」
 
 その僅かな声が聞こえたのだろうか。死体だと思われていた黒髪の少年が呻き声を上げる。
 
「おい、大丈夫か?」
 
 その声に、サイは思わず少年に声をかけた。
 当人は気が付いてはいなかったが、どんなに磨耗し変わったつもりでも、人はそう簡単に本質を変得る事はできない。お人好しだったサイ・アーガイルも本質的にはお人好しのままだったというだけだ。
 サイの呼びかけに、少年はうっすらと目を開ける。
 焦点の合わない真紅の瞳がまぶたの奥より現れ……すぐに再び隠れる。
 だが、その瞳の色にサイはどこかで見たことが有るような気がしていた。
 
「おっ、おい、しっかりしろっ!」
 
 慌てて少年を揺り起こす。目立った外傷は無い。衰弱はしているようだが、ドッグタグがかけられた胸は上下をしているから呼吸はある。
 ドッグタグ?
 ふと、サイの目がそのドッグタグの名前に止まる。
 
“Shinn Asuka”
 
「『シン・アスカ』……、シン・アスカって、あのシン・アスカかよっ!」
 
 そこに刻まれていた名前に、サイは思わず小さな悲鳴を上げた。
 顔に見覚えがあるはずだ。伸び放題の髪と薄汚れた格好ではあったが、たしかにあのザフトの若きエースと同じ顔をしていた。
 一般には知らない者が多いだろうが、軍事関係者……特に、MSの運用にかかわっている者にとってはよく知られた名前だった。約2年前、当時最強を誇っていたフリーダムを性能の劣るインパルスで撃墜した、ザフトのパイロット。
 当時そのニュースを聞いたサイは、身震いをしたものだ。
 サイにとってフリーダム、そしてそしてフリーダムを駆るキラ・ヤマトは特別な名前だった。何度もニュースを確認し、掲載されていたパイロットの顔写真を穴があくほど睨んだものだ。
 フリーダムとキラ・ヤマトの伝説を『誇張されたプロパガンダだ』と考えている者は多い。
 しかし実物を知るものにとって、フリーダムの伝説は決して嘘偽りではない。アレの戦いを直に特等席で見ていたサイにとって、勝てる者がいたなどと信じがたい話だった。
 
「なんだって、ザフトのトップエースがこんな所にいるんだっ……!!」
 
 サイの口から思わず愚痴と悲鳴が漏れる。
 前任のプラント最高議長ギルバート・デュランダルの懐刀だったシン・アスカがザフトから逃げ出した理由なら容易に想像ができる。デュランダル議長を武力で叩き潰したラクス・クラインの体制下では居場所が無かったのだろう。
 やってる事はさて置き、ラクス・クライン自身は馬鹿馬鹿しくなるほどの善人だ。サイが直接知るピンク頭のお姫様なら、デュランダル議長亡き後に恭順の意を示せばそれ以上は彼を害する事などしないだろう。
 だが、仮にあのピンク頭の歌姫が何かをしなくとも、その取り巻きが彼を排除をする。取り巻きが排除しなくとも、全行頭の懐刀というだけで腫れ物を触るように彼を扱うだろう。
 いや、ソレすらも違うだろうと、サイは考え直す。
 
「いや、居られなくなったんだろうな。俺みたいにさ……」
 
 サイはもう何年も会っていない友人の顔を思い出し苦々しげに呟くと、意識を目の前の少年に切り替える。
 拾い物にしては、少々どころではなく厄介すぎる。
 これがただの行き倒れというだけならば警察にでも報告してそれで終わりだ。今だにコーディネーターへの偏見と差別、迫害は消えてないが、だからと言っていきなり殺されるほど酷いわけでもない。
 そもそも、一見すれば浮浪者にしか見えない少年の遺伝子チェックをわざわざするような物好きはいない。適当に栄養剤でも打って意識が戻ったら少量の乾パンを渡してサヨウナラだ。
 だが、さすがにシン・アスカの名前は一部にとはいえ有名すぎる。
 こんな所に倒れているということはザフトを退役したか逃亡したのだろうし、この衰弱ぶりならいきなり何かをされることは無いだろうが、今目の届かない所に送れば二度とこの少年と会う事は無いだろう。
 それはちょっとばかり面白くない。
 かつての友人を、最強のMSを撃墜したパイロットには興味があるし、話を聞いてみたい。
 そして何より、サイは思うのだった。
 自分とこの少年を引き合わせたのは、『彼女』の意思ではないか、と。
 根拠など欠片も無い。妄想かもしれない。
 だが、サイは少年が寄りかかっていた、彼以外はもう誰も来る事の無い墓を見ていると宇宙に散った彼女の訴えが聞こえる気がするのだ。
 だから、サイが連絡したのは警察でも憲兵でもなく、彼が所属する部隊の司令官だった。
 代々軍人の家系だったという司令官とは、歳も階級も大分離れているというのになぜだか話が合った。共通の知人がいた為かもしれない。偶然この墓地の一角で顔を合わせたからかもしれない。
 それに、あの聡い司令官なら悪いようにしないだろうという確信もあった。
 
「これで良いんだよな、フレイ……」
 
 シンの持たれかかっている墓石には、こう刻まれていた。
 
“Fllay Allster
 C.E.56.3.15 〜C.E.71.9.27”
 
 許婚だった、友人に奪われた、そして戦火の中で命を散らした少女。フリーダムを破壊した、見ず知らずの彼がフレイの墓にいたことを、偶然とは考えたくなかった。
 そしてなぜだろう、フレイは今泣いている……、サイはそんな気がしてならなかった。