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SCA-Seed_19◆rz6mtVgNCI 氏_第10話

Last-modified: 2008-10-19 (日) 08:01:49

10、紅の瞳

 
 

「なんで、あんなところで、こんな時間に戦闘している?」

 

 移動式の簡易司令室で司令は怒鳴りたいのを必死にこらえながら、オペレーターに問い掛ける。
 もっとも、オペレーターにしても問われても応えられない。先ほどから必死に特別捜査官の乗機であるインフィニットジャスティスに通信を繋ごうとしているが、通信妨害が酷いのか通信を故意に遮断しているのか繋がらないのだ。

 

「ダメですっ! ジャスティスと通信つながりません!!」

 

 半分涙目になりながらオペレーターは司令に答える。
 そう答えている間にも、デトロイド郊外で流れ弾に民家が巻き込まれたとの報告が飛び込んでくる。

 

「疫病神がっ!」

 

 司令は誰にも聞こえないほどの小声で悪態をつく。
 もっとも、そんな事をしても何の解決にもならない事は司令自身にもわかっていた。
 元々、難しいタフなミッションであった。
 コーディネーター系テロリストグループ“天空の雷”はブレイク・ザ・ワールド直後から当局がマークしていた危険な組織だ。
 ブレイク・ザ・ワールド直後におきたMSによる同時多発テロにも関与したと言われ、もっとも有名な3人の少年少女にMSを供与したのもこの組織だと言われている。
 それほど危険な組織にも関わらず、当局はこれまで手が出せないでいた。
 理由は3つ。拠点としている幾つかの施設が都市近郊に極めて近く、戦闘になった場合デトロイドが巻き込まれる可能性が高いこと。
 ザフトやジャンク屋から供与あるいは購入したMSを最低20機は保有している事。
 そして、グループに軍事訓練を積んだコーディネーターが多数いる事。

 

 拠点を叩こうにも、下手をすれば都市が巻き込まれる。
 そのジレンマの中、2年間にわたる情報部の根気強い内偵により、何とか正確な拠点と装備を割り出した。
 そして、虎の子であるミラージュコロイド搭載型ステルス機の投入による電撃作戦が計画された。
 すでに3機のミラージュコロイド搭載機は極秘にデトロイド近郊に配置されており、工作部隊と同時に突入、稼動前にMSとテロリストをできる限り破壊、その後討ちもらした敵は遠距離よりブースター搭載ジェットストライカー装備のダガーLで強襲、鎮圧する予定であった。
 だが“ごり押し”で作戦に参加をねじ込み、“勝手”に暴行事件を起こし作戦から外された特別捜査官が、“独自”にデトロイド近郊に偵察飛行に出るなどとは予想もしていなかった。
 しかも、テログループがそれに対し迎撃に出るなどと想定外もいいところだった。

 

 もっとも、テログループの視点に立てば迎撃もやむ得なかっただろう。
 これがウィンダムやダガーL等と言った連合内で使われているMSであれば、態々迎撃に出ずにやり過ごすことを選択した可能性もあった。
 だが、やって来たのが騎士団が使用するジャスティス系のMSだったのだ。
 騎士団の評判はとにかく悪い。
 時には民間人の犠牲を無視をする。
 自分たちの主張する自由と正義、平和の為に悪と認定したものを理不尽に破壊する歌姫の狂信者。
 幹部であるキラ・ヤマトやアスラン・ザラはそういった行為をとがめているとの噂ははあるが、それで実際に改善されたという話も聞かない。
 まして、彼等とはお世辞にも良好な関係とは言えない大西洋連邦領内での事だ、連中が都市を気にするなどとは思えない。
 生き延びるには早い段階で迎撃に当たるしかないと、テログループが考えるのも仕方の無い事であった。

 

「パイロットは至急MSに搭乗、緊急スクランブルの指示を出せ」

 

 司令はそこまで考えると、指揮下の部隊にスクランブルの指示を出す。
 しかし、そんな司令に対しオペレーターの返答はやや想定外であった。

 

「パイロットはプリン・ゼロワンからプリン・ゼロシックスまで搭乗済です。あとは司令の次第でいつでも出撃可能です!」

 

 その言葉に、司令は刹那の瞬間だけ呆然とし、次の瞬間ニヤリと口元だけ微笑む。
 独立愚連隊、あるいは問題児部隊と呼ばれる第17MS独立部隊ではあったが、素行はともかく腕と士気だけは他の部隊のは負けない。その事を司令は誇らしく思いながらも、厳しい口調で指示を出す。

 

「まったく、命令違反よ。まぁ、いいわ。プリン・ゼロワン……サイくんを呼び出して」
「はい」

 

 オペレーターが指示に従い隊長機であるプリン・ゼロワン、サイを呼び出す。
 モニターにコックピット内で待機していたサイの姿が映し出される。

 

「サイくん、状況はわかっているみたいね」
「はい」

 

 司令の言葉にサイは頷く。司令の指揮前に司令が予め必要とするだろう説明はオペレーターより受けていた。
 命令違反の越権行為だが、司令は態々咎めない。
 ある意味そういう事を平然と行う問題児ばかりを集めた部隊であるし、そういった連中を乗りこなす為に自分はこの部隊の司令に任命されたのだ。

 

「んじゃ、プリン・ゼロワンからゼロスリーまではゼロワンの指示に従い先に市街に入っているゼリー隊と共に避難誘導の護衛と都市内に進入したMSの排除。ゼロフォーからゼロシックスは空で暴れている疫病神どもを都市から引き離す。
 細かい指揮と指示は随時出します」
「了解」
「馬鹿のおかげで都市に既に被害が出ているわ。他の部隊にもスクランブルが出ているけど貴方達が一番早い。1秒を無駄に出来ない、すぐに出ろ」

 
 

「そういうことだ。皆聞いていたみたいだけど質問は?」

 

 サイの言葉に、指揮下のパイロットたちが次々に了解と返事をする。中には今一やる気があるのかどうかと思う声もあるが、この連中の素行を一々気にしていては身が持たない。

 

「たいちょー。このコールサインは何とかならないんですかー?」
「後で司令に言え!」

 

 自身でもこれは無いんじゃないのかと思っている点へのツッコミに対し、サイは半ば怒鳴り気味に答える。なんだってプリンなのかというサイだって思っているのだ。
 他の隊員のクスクスという笑い声が通信機越しに聞こえてくるが、とりあえず無視して深呼吸をする。スーハーハー。

 

「ほかに無いなら出るぞ」

 

 了解と、今度は先ほどとは違い真剣な声が聞こえてくる。
 出撃前の雑談は終わった。
 ダガーLの足元で出撃可能を表すランプが灯る。
 僅かに滲む汗を無視する。
 操縦桿に力を込める。
 システムはオールグリーン。既に夜に行われる作戦を前に機体の調整は済んでいる。
 後は自分たちの腕次第だ。できる、信頼出来る仲間たちだ。
 サイは軽く息を飲むと、力を込めて叫んだ。

 

「サイ・アーガイル、ダガーL出るぞ!」

 

 シン・アスカが目の前で炎上するレストランを見て呆然としていたのはほんの僅かな時間であった。
 シンはすぐに、自分の腕の中にも一人の少女がいた事を思い出す。
 嘆き悲しんで、足を止めるわけにはいけないのだ。
 その温もりがシンに使命を思い出させる。

 

「ごめん……」

 

 シンは小さく呟く。それは見捨てていかなければならない、少女の亡骸への謝罪。

 

「シッポ。すぐにこの場から離れるぞ」
「あ、うん・・・」

 

 シンの言葉に、シッポは心あらずな状態で答える。
 目前で突然起こった惨劇に、心がついていってないのだ。
 だが、それではまずい。いまだ上空ではインフィニットジャスティスと数機のMSがドックファイトを繰り広げている。
 先ほどのビームをどの機体が撃ったのかはわからないが、再びこの場所に流れ弾が来る可能性は高い。それで無くとも、剥奪したパーツに当たるだけで人の命は簡単に失われる。
 せめて、この場所から離れなければ。
 だが、いかに引っ張ろうともシッポの足は動かない。
 まずい、それではまずいのだ。シンは意を決してシッポの頬を軽くひっぱたく。
 ペシリ
 そんな軽い音が響くが、ドラマのようには上手くいかない。シッポは呆然と燃えるレストランだけを見つめている。

 

「くそ、こんな事をしている場合じゃないんだぞ。しっかりしろ、シッポ。エセライター、貧乳、幼児体型、ずん胴、暴力娘、電子レンジ爆破犯……」

 

 ペシペシと先程よりも力を込めて頬を叩きながら、シンは思いつく限りの悪態をつく。
 衝撃に、シッポの目も焦点が戻っていく。
 その事実にシンは安堵しながらも、同時に僅かにだが身を構える。普段のシッポなら蹴りの一つ、拳の一つでも飛んできただろうから。
 だが、ある意味そんな拳よりも重いモノが少女の口から飛び出した。

 

「なんで……何でなんですか……、いきなりこんな」

 

 フォト・ジャーナリストのジェスの押しかけ弟子となって以来、何度か戦闘も見ているし、戦場跡にも行った事がある。自分でも慣れたと思っていた。
 だが、それは鋼の巨人同士の決闘であり、もう既に悲劇が終わった後の場所であった。いや、ジェスが故意に、安全な場所にしか連れて行かなかったのだ。

 

「なんで、いきなりこんな、あんな女の子が……」

 

 少女のそんな独白に、シンは苛立ちながらも答える。

 

「何時だってそうなんだよ! 理由なんてなくても、力が無い奴が理不尽に奪われるのはっ!!」

 

 父に、母に、マユに、あの少女に、死ななければならない理由なんてあっただろうか?
 ステラが……いや、エクステンデットの少年少女があんなボロボロにされて死ななければいけない理由なんて果たしてあったのか。
 レイが、生まれながらに絶望しか与えられなかったあいつが、それでも未来に希望を抱いた親友がその短い天寿すら真っ当できなかった理由が果してあったのか。
 この両手を自らの意思で真っ赤に染めてきた自分は今だにのうのうと生きているというのに、優しかった人たちは、優しい世界で生きるべきだった人たちは皆死んでいく。
 自分のようなロクデナシだけが、のうのうと生き延びている。
 それがこの世界なのだ。

 

「そんなっ!」

 

 シンの言葉に少女の表情に怒りの火が灯る。
 だが、そんな少女の怒りもシンの次の言葉にかき消された。

 

「認めたくないなら調べろよ! 発表しろよ! 理不尽に抗ってみせろよ! それがあんたの仕事だろうっ!!」

 

 これはやつあたりだ。
 守る力を求めていながら、なに一つ守れずに負け犬に成り下がった自分が、倦怠と諦めの泉に身をどっぷりと浸したシン・アスカが、未来への希望に溢れる少女に何を言う。
 偉そうな講釈をたれる資格なんて何一つ無いはずだ。
 だが、止まらない。一度砕けた“諦めの心”は、もうシンの願い……いや、意思を縛る事など出来ない。
 ナチュラルと大差が無い身体能力しか持たないシンがエリートコーディネーターを押しのけザフトのトップエースまで上り詰めたのは、この強靭な意思があってこそだ。
 解き放たれた真紅の瞳を、縛れるモノなど無いのだ。

 

「守ってやるよ、あんたが理不尽に抗うならっ! 俺が守ってやる!」
「し、シン……」
「文句は後で聞いてやる。今はこの場を逃げるぞ!」

 

 そう言うと、シンは少女の返答も聞かずに前だけを見て強引にその腕を引っ張った。だから、この時少女がどんな表情をしていたのかは気がつかなかった。