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SCA-Seed_19◆rz6mtVgNCI 氏_Episode ”S & R”_第01話

Last-modified: 2009-04-29 (水) 21:58:24

 長く続いた戦争で一人息子を無くし、
夫も開発をしていた新兵器が強奪された事を悔やみ、自ら命を絶ってしまった。
婦人に残されたのは、広すぎる家と財産だけであった。

 

 うがった見方をする者は婦人を幸運だと言った。
プラントの英雄に祭り上げられた息子の補償と、
兵器強奪からなる一連のプラントの闇を隠す口実の口止め料、
それに評議員だった夫が残した莫大な遺産が、
莫大な財産が転がり込んだからだ。
まだ若い婦人が遊んで暮らすには十分すぎるほどの財産だ。
なるほど、家族を失った悲劇の女性の逸話は、
見方を変えれば若くして莫大な財産を得た幸運な女性の物語とも言える。

 

 だが、この話をした者たちは一つ、最も重要な事を忘れていた。

 

 婦人が、この事に対しどう思っていたかだ。

 

 婦人が感じていたのは、底が無い絶望だ。

 

彼女は、重職についているとは思えないほどの優しくて今一頼りない、
学者上りの夫を心の底から愛していた。
やはり線が細いが、音楽を愛し誰に対しても優しく接する一人息子を何より大切にしていた。
そんな女性が、その全てを一瞬で奪われたのだ。
それがどれだけの絶望であろう。
しかも、息子を奪った男はプラントの裏切り者の手引きで夫が開発した新兵器を奪い、
夫を自殺に追い込んだプラントの裏切り者は今やプラントの英雄だ。
こんな事なら知らなければよかった。

 

夫の死後、謝罪に来たパトリック・ザラは涙ながらに夫の墓前に頭を下げ全てを話してくれた。
彼に対しても思わないことが無いわけではなかったが、
それでも謝りにきてくれた指導者を恨む気にはなれなかった。
いや、それを言うならプラントの裏切り者のラクス・クラインも、
あのキラとか言う子供も、ザラの息子も、恨む気にはなれなかった。
それよりも何よりも、喪失感が大きすぎた。

 

 そんな時だった。
 路地の片隅で蹲った、赤い瞳の子供と出会ったのは……。

 
 

「君、大丈夫?」

 

 婦人は気まぐれに少年に声をかけた。
少年が億劫そうに少しだけ顔を上げる。綺麗な赤い瞳だ、
ただ、今の少年の瞳は暗く濁っていた。
少年は婦人の顔をちらりとだけ見ると、直ぐにまたうつむいてしまう。
そんな少年に、婦人は慌ててもう一度声をかける。
そういえば、このあたりは地上からの難民が流れてきて治安が悪いとか……。
よく見れば、この少年は殴られたかのよう跡が無いか? 顔のあちこちが腫れていないか?

 

「君、どうしたの、大丈夫。お医者さんを呼ぼうか?」

 

 なぜ、こんなにも親身になって少年に関わろうとしたのか。後になっても婦人にはわからない。
あるいは、何らかのシンパシーを感じていたのかもしれない。
そんな婦人に、少年が普通なら聞き取れないほどの小さな声を漏らす。

 

「携帯が……、無いんだ」
「携帯?」
「マユの携帯が……、マユの携帯が……、マユの形見なのに……」

 

 よく見れば、少年の手には携帯のストラップらしき物があった。
だが、それは無残にも引きちぎられており、あるべき携帯端末は無かった。
聡明な婦人は、この少年の身に何があったか薄々ではあるが推測できた。

 

 おそらくは、この少年は物盗りにあったのであろう。
マユというのがこの少年とどのような関係化はわからない、ただ、大切な人だったのだろう。
そして、その人がこの世にもういない事も……。

 

 ふいに、まったく姿形が違うというのに、少年と死んだ息子の姿が重なった。
 それが……