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SCA-Seed_MOR◆wN/D/TuNEY 氏_第02話

Last-modified: 2008-11-03 (月) 23:27:57

時は遡り、CE73年。
あの月での決戦の後、シンはオーブ慰霊碑においてラクス・クライン一派と和解した。
ラクス・クラインやキラ・ヤマト、アスラン・ザラはシンの境遇と想いに一定の理解を示した。
驚くべきことにプラント、ザフト(しかも赤服のまま)に残る事を許されたのだ。
シンがその提案を受け入れたのには理由がある。
一つはデュランダル議長のDPが潰えた以上、ザフトに残るのが、力の無い人達を守るにはもっとも良いと思ったからだ。
二つ目は彼等が根っからの善人だったからである。
彼等の頭にあるのは平和と自由。 
裏返せば自身の平穏と束縛されない事。
独善的ではあったが、利益追求に邁進し、戦争すら食い物にする寄生虫ロゴスに比べたら遙かにましだとシンは思っていた。

 

……だが歌姫の騎士団の全てが善人では無かった。
前議長の懐刀であったシンを、新議長ラクスの取り巻き(戦前には議長に媚び諂っていたり、不遇を囲っていた連中)
はシンに『危険思想分子』の汚名をきせ、プラントから追い出し、地球のザフト駐屯地へと転属(と言う名の左遷)にしたのだ。

 

ルナマリアとはその時にろくに挨拶もせずに別れた。
元々成り行きの関係であったし、何より一度でも愛した彼女を自分の厄介事に巻き込みたくは無かったのだ。
地球でカーペンタリア基地に配属されたシン。
基地指令や現地の部隊は概ねシンに同情的だった為、特に問題なく部隊に馴染んでいった。

 

そして配属より数ヶ月の後。 カーペンタリア基地にオーブ軍と歌姫の騎士団、ザフトの合同演習命令が下った。
機材の故障により遅れた部隊に先行し、単機で演習予定地に向かったシンは、演習の予定地に充満する殺気を感じた。
それに気付いたシンは機体を一目散に反転させる。
プラントにいるザフト上層部はカーペンタリアには全く知らせずに地中海、オーブ攻略戦での被害で恨みを持つオーブ軍にシンを生け贄として差し出したのだ。
歌姫の騎士団とオーブ軍が牙を向いた。
演習仕様で武装の無いグフでは如何ともし難く、速度に勝るムラサメ隊の攻撃で四肢を奪われ、じわじわとなぶり殺しにされていく。

 

「クソっ! こんな所で……!」

 

既に両脚と左腕を失い、飛ぶのがやっとのグフに幾重ものビームが掠る。

 

「相手はあの鬼神シン・アスカだ。 下手に近づくなよ、落とされるぞ! 一撃離脱に撤しろ」

 

部隊指揮官の的確な指示がシンを追い詰めて行く。
現在シンを追っているのはムラサメが一個中隊、12機。
しかもオーブ全軍からシン・アスカ抹殺の為に集められた最精鋭。
それを指揮するのはオーブ艦隊旗艦タケズミカヅチの生き残りにして、小隊を率いてベルリンでカオスを撃墜したイケヤ三佐。

 

「トダカ一佐の仇。 この場で討たせて貰うぞ!」
「友の無念、今晴らす!」

 

怨念にも似た声がグフの装甲を、シンの気力を削り取っていく

 

「バビだったら、とっくに撃墜されてるな……いや、バビなら逃げ切れたか?」

 

現実逃避しかけている自分に気付いたシンは自身を笑い飛ばし、意識を現実へと引き戻した。
もし、あの時ああしていれば、なんて、仮定に意味は無い。
今やるべき事はこの状況から生き延びる事だ。
生き残ってもザフトにはもう戻れないだろう。
だが、生きてさえいれば、誰かを守る事ができる。 戦う事ができる。
全てを失ったシンにはもう、それしか残されていない、より正確に言うならばそれだけが生きる理由となっていた。
シンの目は未だに怯える獲物の目にはなっていない。
寧ろ、自身も知らない内に、目の前の獲物だけを狙う獰猛な肉食獣の目から、虎視眈々と機会を伺う、狡猾な狩人の目へと変わりつつあった。

 

「いい加減、しつこいんだよッ!」

 

部隊の中でもっとも若いパイロットが血気にはやり、変形し、接近戦を仕掛ける。

 

「やめろ! 突出するな」

 

イケヤの叱責も空しく、ビームサーベルを構え、切りかかるムラサメ。

 

「隙だらけだっ!」

 

突貫してくるムラサメをいなし、残された唯一の武器。 右腕のスレイヤーウィップで胴を絡め取る。

 

「しまった!」

 

生きているスラスター全てを吹かし、機体を制御、絡め取ったムラサメをハンマーのように振り回す。

 

「うぉおぉおおー!」
「何だと!」

 

先走った僚機を援護しようとした二機のムラサメが振り回された僚機に衝突し、主翼をへし折られ墜落していく。
だが流石に精鋭と言うべきか、すぐさま変形し、スラスターを吹かしながら海面へ軟着水する。

 

「まだだ、行けぇーっ!」

 

衝突の衝撃でバランスの取れなくなったグフ。
シンは只放すのも惜しいとばかりに絡め取ったムラサメを近づく小隊へと投げつけた。

 

「くっ、避けきれんか!?」

 

隊長機だけが辛うじて反応し、回避する。
残った二機は独楽のように回って飛んでくるムラサメを避けきれず、そのまま激突。
三機は先程の二機と違い、もつれ合うように海面へと落下していった。

 

「……なんて奴だよ、化け物か?」
「また貧乏くじですか」
「隊長、呪われてるんじゃないですか?」

 

第二小隊を率いるオシダリ一尉、その部下ワダ三尉とヤマダ三尉は他には聞こえない秘匿通信にて言いたいことを口にする。
だがオシダリ小隊、別名オシダリと愉快な仲間達は一瞬の隙を突き、五機を戦闘不能に追い込んだシンに畏敬に近い念を抱いていた。

 

「見事だ」

 

イケヤもまたシンの動きに感服していた。

 

「四肢を失ったMSであそこまでやるとは……」

 

キラ・ヤマトやアスラン・ザラのような華麗さなど微塵も持ち合わさない武骨さ。
あの二人が名工に打たれた業物ならアイン・アスカは実戦で鍛えられた無銘の蛮刀。
鉈のように鋭く、強靭な刃。 それは決して名刀とは言えない。
だがイケヤやオシダリのような叩き上げのパイロットにとって、それはある意味理想の姿だった。

 

「たっ、隊長……!」

 

タケズミカズチ以来の部下、ニシザワの上擦った声がイケヤを現実へと引き戻した。
ムラサメ隊が茫然としている間、既にグフは反転し、逃走を計っている。

 

「全機斉射用意」

 

イケヤは一言、命令を下した。
既に損害は中隊の半分近い。 ここが戦時であれば壊滅とされ、後方で再編成だ。
彼にも軍人としての意地があった。 ここまで追い詰めて逃げられたという訳にはいかない。

 

「二小隊照準ヨシ」
「三小隊照準ヨシ」
「全機標準照準完了」

 

部下からロックが終了した通信が届いた。
後はイケヤが命令を告げれば、あの男の命運は尽きる。

 

「……惜しい才だがな。 いや、やめよう……撃ち方用意」

 

イケヤが命令を下そうとした、その瞬間。

 

『見殺しにするには些か惜しいな』

 

凛とした女性の声が全周波通信で全ての機体に届いた。

 

「じょっ、上空から何か来ます!」

 

長距離レーダーを装備したムラサメ、ゴウの機体から悲鳴に近い通信が入る。

 

「何だと!? 構わん。 撃てっ!」

 

僅かに聞き覚えの有る声に一瞬動揺を見せるイケヤ。 だが瞬時に迷いを振り切り、吼えるように叫んだ。
残存七機のムラサメに搭載された全火器が半壊したグフへと集中し、解き放たれた。

 

「避けきれないッ!?」

 

シンが死すら覚悟したその瞬間、黒い機影がグフを狙う射線上にまるで庇うように立ちはだかった。
周囲の爆炎が晴れ、そこに立ちはだかったもの。
黄金の機体フレームを、黒い甲冑のような装甲で覆い、デザインの違う右腕に巨大な実体盾。
左腕に光波シールドを装備し、頭部はアストレイタイプの改良型。
モノアイのついた追加装甲は見る者に兜のような印象を与えた。
腰部にサーベルを持ち、ハイヒール型の足、背部にマントのように見える装備を備えた様は、古の将。

 

「あの機体、まさか……?」

 

イケヤは息を飲む。
あの声、そして失われたはずのあの機体。 
あの機体を駆るのは今現在、この世にただ一人。

 

「所属不明機、データにありました」
「所属はアメノミハシラ……機体名称はアストレイP01ゴールドフレーム天M。 搭乗者は、搭乗者はロンド・ミナ・サハク!」

 

旧五大氏族、生き残り二人の内の一人。
軍事を司るサハク家現当主。
未完成の軌道エレベーター、アメノミハシラ、宇宙の居城にいる筈のロンドがなぜここに?
オーブ軍の混乱をよそにアマツは光波シールドを待機状態へと戻し、グフへと向き直る。

 

「……あんたは味方なのか?」

 

戸惑いと警戒を隠さずシンはアマツへと問い掛けた。
噂だけならば聞いたことがあった。
連合やプラント、オーブにすら従わない孤高の女王。
旧五大氏族、サハク家の遺児で自ら戦場に出て、金色のMSを駆るその様を表し、オーブの影の軍神、又の名を漆黒のアテナ。
噂を聞いた時は、はっきり言ってアスハと変わらないと、カガリと同じ猪武者だと思っていた。
だが、言っては悪いがカガリ・ユラ・アスハとは役者が違う。
そこにいるだけで感じる無言の威圧感。 王者の貫禄とでも言えば良いのだろうか?
人の上に立つ為に生まれ、その為に育てられ、自らそれを望み、生きてきた者だけが出せる風格。
シンはその風格に飲まれかけていた。

 

「……気安く口をきくな、下郎」
「なッ!」

 

ミナから帰って来た答えを聞いた瞬間、久々にあの慰霊碑の時以来、心の奥底にしまい込んでいた腹の底から湧き出る怒りを感じていた。
ならば叫ぶべき言葉はただ一つ。

 

「あんたは一体ッ! 何なんだーッ!」
「…………」

 

シン渾身の叫びにも何一つ反応は無い。

 

「無視かよ、じゃあ俺もそうさせてもらう!」

 

このままでは埒があかないと判断したシンは逃走を計るべく機体を反転させる。
幸いムラサメ隊も動きが取れないでいる。

 

『待て、しばらく大人しくしていろ』

 

その瞬間、音声のみの接触通信でミナから通信が入ると同時に、アマツの手刀がコックピットに突きつけられた。

 

「あんた、一体何言って……」
『この場から逃がしてやると言っている』

 

混乱するシンを後目に、ミナは不敵な笑みを浮かべる。

 

『動くなよ。 死ぬぞ?』
「死ぬぞってあんた……」

 

シンが全てを口にする前に、アマツの右手がグフのコックピットを貫いていた。