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SCA-Seed_MOR◆wN/D/TuNEY 氏_第11話

Last-modified: 2009-03-05 (木) 03:59:41

カーゴスペースの中で横たわっていたのは二機のMS。
一機はワインレッドに塗装されたガルバルディα(プロトタイプ)。
もう一機は全身を白で塗られた細身のアストレイタイプ。
頭部アイセンサーを保護するように嘴のようなバイザーがあり、
マスク部分はつるりとした曲線で構成され、二つの山なり放熱口がなかった。
胴体はまるで戦闘機の機首を折り畳んだ様な形。
左腕には小型のシールドを装備していた。
機体各部は胴体周りに最低限の装甲、
それ以外の四肢にはフレームに申し訳程度の装甲板が付いているだけ。

 

「……ヤタガラス、軽装高機動型。 完成したんですか?」
白いアストレイタイプを前にシンは目を大きく見開く。

 

ヤタガラス。 アメノミハシラにて四年前、CE73から開発されていた二機種の内、
ムラサメベースに発展させた機体である。
各部にブロック構造を導入し、整備の手間を減らし、パイロットの練度、癖に合わせられるように
軽装高機動型 標準型 重装高火力型の三機種が用意され簡単に換装できる。
可変機の弱点である構造の脆弱性を補うため、一部のフレームと装甲を一体化させているのも特徴だった。

 

「ああ、既に生産ラインに乗っているよ」
「もう一機はザフトの新型……ジン?」
シンはジャンの言葉にうなずくと、もう一機を見ると首を傾げた。
「ザフト次期主力量産機、先行試作型ガルバルディαだ。 
 改良量産型インパルスとでも言う機体で、操縦系もほぼ同じだそうだ」
ジャンの説明を聞き終えると、ごく自然にコックピットの中へと潜り込みOSを起動する。
確かに胴体にはコアスプレンダーがそのまま収められている為、
シンの知るインパルスのコックピットに良く似通っていた。
OSが起動し、モニターに良く見知った起動画面が映る。
操作関係を斜め読みする限りでは操作系はインパルスとほぼ同一、ならば問題はない。
後は性能がどれほど上がっているかがシンにとって気になることだった。
「カタログスペック通りなら、一部性能はデスティニーを超えてるのか……技術革新ってのはすごいな」
スペック表を眺め、はあーと感心しながら、最低限の最適化を行う。
「おっ、最初からシルエット装備してるなんて、気が利いてるじゃないか」
モニターに映っているのはフォースシルエットを思わせる赤と黒のXの形に広がった
スラスタータイプのシルエット。
クロスフォースと書かれていたシルエットは形状から判断しても、
間違い無くフォースシルエットの後継だった。

 

このときのシンに知る由もなかったが、トライフォースシルエットの試作型とも言える存在で、
設計者が搭載したある機能とじゃじゃ馬な性能な性で正式採用から省かれ、
ガルバルディの地上でのテスト運用に用いられていたのだった

 

「そちらはどうだね?」
背等を考えていたシンモニターにジャンの顔が映る
「スペックは良い感じですが、実際乗ってみないと何とも言えませんね」
ジャンからの通信にシンは少し難しい顔を見せた
「ヤタガラスはどうなんですか」
「既に実戦投入済みだから問題は無いよ……っ揺れが激しくなってきたな、行けるかね?」
自信に満ち溢れたジャンの言葉にシンは静かに頷いた。
「……やってみます」
「よし、では行こうか!」
ジャンの言葉を合図としたかのように二機のMSがゆっくりと立ち上がる。
「キャプテン後部を切り離せ」
「りょーかい」
間延びしたの操縦士返事の後、モーターの駆動音、ジョイントが切り離された音だ。
「赤鬼、私が先に行く後から来てくれ」
「了解」
ヤタガラスは膝装甲裏からのビームサーベルを抜くと天井を切り裂く。
「ヤタガラス、ジャン・キャリー出る!」
「クロスフォースガルバディ 赤鬼発進する」
スムーズに、駆動するヤタガラスとは対象的にぎこちない動きでコンテナから這い出るガルバディα。
すぐさま敵影を探し、辺りを見渡す。

一目散に逃げるシャトルを無視し、後部コンテナの周りを飛び回る機体が6機。
「出来損ないか」
忌々しく『出来損ない』とシンが呼んだ機体群は上半身がMS下半身にメビウスのスラスターを装備した
テロリスト、海賊御用達の機体だった。
戦場に廃棄された機体を組み合わせて、武装を施せば出来上がる簡易性。
脚部がMA用大型スラスターであるため速度を生かした一撃離脱を得意とすることを買われ
ブルーコスモス、ザラ派問わず用いられる悪い意味での傑作機。
各軍のMS乗りからは出来損ないと呼ばれるも、輸送船や民間商船からは足が無い事、
ダークブルーの機体色、神出鬼没な事からゴーストと恐れられていた。
またテロリスト達からは足無し、ドラッツェと呼ばれていた。
6機の内、4機のジンベースの内2機が偵察型ジン。 
隊長機と思われる2機がザクファントムベースの機体だった

 

「何か、妙な動きだ……」
此方を攻めるでもなく、ただ周囲を旋回する敵機に警戒し、
コンテナの中から武装を取り出しながらシンは疑問の声を上げた。
「確かに……もしかしたら無人機かも知れない、油断はしないようにな」
そう言うとジャンはガルバディを庇うように前へ出る。
するとそれを待っていたかのように、ドラッツェは三機ごとに前後に小隊を組み突っ込んでくる。
「了解」
シンは短く答えると、コンテナの中にあった幾つかの武器の中からロングライフルを掴む。
データによると連射と砲撃、狙撃の三形態体があるようだ。
とはいえ使い勝手は使わなければ分からず、地上用OSによるズレも撃たなければ分からない。
(結局、出たとこ勝負か)
一瞬グフクラッシャーを空間戦使用にして持ってくればよかったと思うが、
ふとコニールに起動キーを預けた事を思い出す。
こんな状況で女の事を思いだす事から考えて案外余裕があるらしい。
自身に内心苦笑しながら狙い定める、
出たとこ勝負ではないにしろ敵情が分からない仕事など山ほどやってきた。
10倍以上の数の敵とも戦った事もあった、怪しげな試作MAと戦った事があった、
依頼自体が敵の罠だった事もあった。
それを考えればOSの不利なんて、ハンデにもならない。
「……行けっ!」

 

砲撃形態で放たれた粒子のシャワーが前方の小隊を掠めた。
部隊の編制が一瞬乱れ、前方と後続の小隊に遅れが生じる。
「ジャンさん! 今です!」
「しかし……分かった、前方の小隊は任せる!」
シンの叫びに一瞬躊躇しながらも、隙を見逃さずジャンのヤタガラスはMA形態へと可変し、
後続の小隊へと突撃をかける。
「調整不足か? 地上用の補正が掛かっているなら、マニュアルで……」
シン・アスカとは違う、傭兵赤鬼が冷静沈着に状況を判断、FCSを経由せずに腕部と操作を直結する。
ガルバルディの腕を繊細とも言える程微小に操作、
先程撃った砲撃の弾速、敵小隊の速度、反動による僅かなブレ、
考え得る要素を推定、考慮し未来位置を確定、静かに落ち着いてトリガーを引く。

 

「……っ! 当たれ! いや、当たる!」
「クッ……! おのれっ!」
反動で機体が制御を失い、元の位置に戻ろうと溺れたかのように手足をばたつかせるガルバルディ。
マニュアル操作でどうにか元の体勢へと戻しながら、シンは敵を見た。
正面の隊長機には避けられた物の、右側のドラッツェを撃破、左側の半身を吹き飛ばした。
「おいおい、まだ突っ込んで来るのか」
ライフルを連射に切り替え、胸部頭部の迎撃機銃、クロスフォースのミサイルで弾幕を張る。
「思っていたよりもやるな……だが動きが鈍い! 
 地上戦用のOSで空間戦用のドラッツェを落とせると思うな」
豪雨のような弾幕を易々と掻い潜り、ドラッツェが迫る。
「舐めるな! こっちは好きで戦争屋やってんだ! OS程度、足枷になるかよ!」
認識を改めなければいけない、敵は只のテロリストじゃない。
動きだけで此方を地上戦用と見抜く判断力、あの弾幕を潜り抜ける腕、
恐らく開戦前からのベテラン。 プロフェッショナルだ。
ちらりと、ジャンの方を見ると飛行形態からMS形態へと戻り、三対一の格闘戦の最中だった。

 

「裏切り者のコーディネイター、ジャン・キャリー! 貴様の命運も此処までだ!
 我等が同志が眠る冥府に堕ちろ!」
ザクタイプのドラッツェが左手のビームサーベルを大きく振り上げる。
「悪いが、三途の川の渡し舟の船頭に嫌われていてね。 君の同志達には会ってやれないな」
左手のシールドを掲げ、斬撃を防ぐとカウンターに蹴りを叩き込む。
「チィッ!……ほざけ!」
一度回転し、衝撃を受け流すと、後方に控えた二機が前に出てジャンに休む間を与えない。
「すまんシン君、援護は出来そうにない」
幾らアメノミハシラのエースと言えど、三対一では流石に余裕がない。

 

「余所見をするとは余裕じゃないか」
男の声に我に返ると、何時の間にか対峙していたドラッツェが目前まで迫ってきていた。
「チィッ……シールドが無い!?」
サーベルを振り被るドラッツェに、シールドを掲げようとするも、コンテナの中に忘れてきたらしい。
「畜生! 成る様に成れ!」
シンは捨て鉢になりながら叫ぶと、ロングライフルを腰後部のラッチに引っ掛け、
左腕の袖口からサーベルを引き抜いた。
「自棄になったか! ……何ィ!?」
非実体剣である為、鍔迫り合いになる事無く、すり抜けるかと思われたドラッツェのサーベルは
ガルバルディのサーベルと激しくぶつかり合い、コロイド同士の衝突による強烈な閃光と火花を発生させた。
『自身の常識』ではありえない光景に、ドラッツェのパイロットは驚きの声を上げる。
「技術の進歩に乗り遅れてるな!」
(やっぱり反発コロイド型ビームサーベルだったか……)
相手には大口を叩きつつも、内心冷や汗をかき、ほっとため息をついた。
もっともシンが知っていたのは偶々アメノミハシラでそういう技術のサーベルを開発中だと
小耳に挟んだだけだったのだのだが。

 

反発コロイド型ビームサーベルとはビームシールドの技術発展の際にできた
ミラージュコロイドに対して反発する性質を持ったコロイドを利用したサーベルである。
このサーベルの開発により従来では不可能であったサーベル同士による鍔迫り合い、
ビームを切り払う事が可能になった。
正式配備後シールドによる重量増加つまり機動性の低下を嫌う一部ベテラン、エースの中には
シールドを持たずに出撃するものも現れたと言う。

 

「クッ、ここは一旦距離を取る」
「逃がすかよ!」
「……何ィッ、狙撃だと!?」
距離を取ろうと下半身のバーニアを吹かしたドラッツェの左下半身が閃光と共に破裂した。
爆発の衝撃で機体が右側に回転しながら吹き飛んで行く。
それでも強引に体勢を立て直そうと、残った右半身のスラスターを全開に吹かし、無理やり回転を止める。

 
 

「ん……外れた」
デュークは狙撃用のバイザーを外しながらぼそりと呟いた。
「外れた。 じゃないだろう」
「仕方ねーだろが、そう言う時もある!」
プルデンシオの不満そうな声を聞いたデュークは無駄に自信たっぷりに言い放った。
「そこまでだ。 当てただけ上等よ(私じゃ当たんないし)二人とも私に続きなさい!」
「「了解!」」
三機のガルバルディはそれぞれの距離を絶妙に保ちながら、戦闘空域へと接近していく。

 

「……味方か!?」
シンは頭部を新手の三機へと回し、モニターを拡大する。
戦闘はシンのガルバルディよりも暗い赤色のガルバルディα。
それに続くように、ブレイズ装備のβ、ブラストに似たシルエットのβ。
シンと対峙していたドラッツェを狙撃したのは装備からして最後の奴だろうとあたりをつける。

 

「あれ? 何でガルバルディがあそこに……それに、あれはオーブのムラマサ?」
「(ワインレッドのカラーリング。 大気圏内運用試験中のプロトガルバルディを上げたのか? 
  しかし、トライフォースに似た見た事の無いシルエットは一体……) 」
最新鋭機であるガルバルディをザフトではなくアメノミハシラの人間が操っていることに
疑問の声を上げるプルデンシオ。
一方ルナマリアは、一目で大気圏内運用試験中の筈のガルバルディである事を看破していたが、
その背にあるX字のウイング、クロスフォースには見覚えが無かった。
正式採用機にはルナマリアのガルバルディが装備しているトライフォースの採用が決定されており、
それ以外のフォース系シルエットなど有り得ない筈なのだ。
「どうなっているんでしょうか、隊長。 なあ、デュー」

 

「……違う!」

 

困惑したプルデンシオがルナマリアに疑問を投げかけ、デュークに賛同を得ようとした時、
今まで何かを考え込んでいたデュークが通信モニターを叩き叫んだ。
「あの機体はアメノミハシラのヤタガラスだ! それに、あのカラーリングはアメノミハシラのトップエース。 
 煌めく凶星J、ジャン・キャリーだ! スゲェ!本m」
「解説ご苦労様……さて、通信を入れますか」
最低限の情報を得たところで、テンション高めで叫び続けるデュークからの通信を一方的に遮断し、
ルナマリアは通信用ワイヤーの届く範囲に入ろうと、二機に近づいた。
「……アメノミハシラの方ですね? 
 アーモリー1駐留試験飛行隊隊長ルナマリア・ホークです。 これより援護に入ります」
接近してきたルナマリアはジャンとシンの機体へ向け音声通信を送る。
「アメノミハシラのジャン・キャリーだ。 感謝する」
突っ込んできた二機の無人機の残骸を蹴り上げ、ジャンは返答する。

 

「(ホーク……だって?)
             同じく傭兵、赤鬼だ。 礼を言う」
通信機から流れてきた聞き覚えのありまくる声に、シンは背中にツララを差し込まれたような感覚を覚えていた。
思わず唾を飲み込み、体が硬直する。

 

「……隊長! 前方より敵輸送艦接近、艦載機が出てきます」
幸いにもプルデンシオからの通信でシンの緊張は気取られずにすんだ。
だが、その通信は緊張以上に厄介な事が起きようとしている証でもあった。
「機種と数は?」
「MSが6機……グフとドワッジが一小隊ずつです……この距離なら先手を打てますが」
デュークのスナイパーβは最大望遠で敵艦がMS部隊を吐き出す様を映し出していた。
「待て、一応警告は出すわ。 ……面倒だけれど決まりだから」
   こちら、アーモリー1駐留試験飛行隊ホーク隊、イーグル1。、正体不明機に告げる。 
   本空域はアーモリー1の主権空域である。 速やかに退去せよ
   なお返答が無い場合、交戦の意思ありと判断し、積極的自衛権を行使し、貴官らを排除する」
ルナマリアは決められた手順で、形式めいた警告文を告げる。 
テロリストである事が分かっていながらなんと馬鹿馬鹿しい事か、
しかし定められたルールは守らなければならない。
後方のアーモリー1に身内以外がいなければ、すぐさま撃墜させても構わなかったのだが。
『かつてはデュランダルの懐刀でありながら、魂まであのピンク売女に売り渡したメス犬が良く吼える……
 排除だと? 出来る物ならやって見るが良い!』
ジャンと敵対していたドラッツェはジャンから離れ、年配の男の声で広域音声通信で叫んだ。

 

「!!」
「!?」
「……」
ルナマリアにはデュークとプルデンシオが通信機の向こうで怒りに震えているのが分かった。
信頼する自分の上司を馬鹿にされて、嬉しいものなど滅多にいない。 
……だが、自分の事にも関わらずルナマリアは冷静であった。
最初からまともな返答を期待していなかったルナマリアに思うところは無かったし、
指揮官たる立場上、激昂など以ての外だ。
指揮官は部隊で一番冷静であれ。 
小隊戦闘において、重要なのは指揮官の判断力。
……そして、怒りは判断能力を鈍らせる。r
数年前ならいざ知らず、今や胸に刻み込まれた師匠、ヒルダ・ハーケンの言葉が
ルナマリアに感情的になる事を許さなかった。
だからルナマリアは、『この4年間で、良く聞き慣れた罵倒』に対して、
静かに出来るだけ感情を抑えて、部下に一言だけ告げる。

 

「正体不明機、アルファ、ブラボーを現時点を持って敵対勢力と判断。 
 これより我が隊の全戦力、全力を持って『殲滅』する。
 ……この空域から生かして返すな」

 

ルナマリアの言葉を待ちかねていたかのように、二機の濃緑のガルバルディは
鎖の取れた軍用犬にも似た統制された動きで暗黒の宇宙を駆けた。
「アメノミハシラ、我々は増援をやる。 残りは頼む!」
言うが早いか、三機は新たに現れた一個小隊づつのドワッジとグフに突っ込んで行く。
残りと言うが、6機の内4機は戦闘不能に追い込み、残る2機の隊長機も手負いだ。
ひとまずジャンの方へと向かおうと、シンがガルバルディを動かそうとしたその時。
シンの視界に何かが飛来してくるのが見えた。
「……えっと、赤鬼さんでしたか? 敵増援、更に追加、そっちに行きます。
 機数三機、ウィンダムです。気ィ付けてください!」
小隊の後方にいたことでいくらかの余裕のあったデュークからの通信にシンは、
緩み掛けていた気を再び引き締める。
「赤鬼、私も其方に行く! 持ちこたえろ」
ジャンの言葉と共にヤタガラスの胸部が持ち上がり、機首へと変形。 
腕部を折り畳み、脚部のスラスターを推進方向へと偏向させることでMA形態への可変を完了する。
「行かせるか、貴様の相手はこの俺だ! ジャン・キャリー!」
ヤタガラスの行く手を遮るように、右腕を失い、下半身すら失った状態のドラッツェが立ちふさがる。
瞬間的に反応が出来ずに、一瞬の遅れを見せたジャン。
その隙はコンマ単位、日常であれば瞬き程度の時間。
だが同程度の技量同士の戦闘において、その隙は致命的ともいえる一瞬だった。
瞬時に背後へと回りこむと、死角である機体上部へと飛び移り、
唯一残った武器であるサーベルを右腕ごと主翼へと突き立てた。
「ええい! しつこい!」
ドラッツェを振り払おうと、MSへ戻ろうとするが、右腕がフレームへと食い込み変形する事すら適わない。
その間にも、ウインダム小隊はシンへと接近してくる。

 

「……ったく、最高だな」
口からは漏れ出るのは悪態ではなく、自分への皮肉。
4年前、ミネルバにいた当時、嫌と言うほど落としたウインダムが恐ろしく感じるとは、
皮肉以外の何物でもない。
ウインダムの小隊は、ガルバルディを射程距離に捕らえると、すぐさまライフルを連射。
シンは機体を左右へと振り、溺れるかける限界、マニュアル操作で戻せるギリギリまで機体を動かす。
だがその程度では回避にはならず、狙いをぶれさせる程度しか期待できない。
目くらまし代わりにロングライフルを乱射、先ほどとは違い、3機全てが有人機であるようで、
その動きは的確で鋭い。
「糞、このままじゃ……」
左の肩アーマーが吹き飛び、バランスを失ったガルバルディが後方へと流される。
クロスフォースのスラスターを吹かし、体勢を維持するも分は悪い。
ウインダム隊はガルバルディの動きから不具合に気付いているかようで、一定の距離から近づこうとせしない。
シンに狙い撃つ間を与えないように3機の連続した攻撃がガルバルディの装甲を削り取っていく。
ホーク隊は新手の二個小隊を相手に、ジャンは取り付かれた機体を振り払うのに手こずっており
援護などは期待できない。

 

そんな絶対的危機の中、シンの駆るガルバルディの奥底で何かが動き始めていた。

 
 

状況D−8発生……ユニットRB起動。
システムオンライン。 OS確認。
現状不明の為、周辺状況把握開始。
………………把握完了。
状況をD−8よりD−9へと変更。 
機体及び搭乗者、ユニットにとって危機的な状況と判断。
プランAに従い、ユニットによるOSの大幅な変更を開始。
これより敵性戦力殲滅までの間、能力限定解除。
機体制動、火器管制……調整中。
────────────────────────────────────────

 
 

「聞こえるか、此処は引くが良い……
 貴様の機体には統括システムが載っているからな、鹵獲でもされたら厄介だ」
ウインダム隊の隊長機が無機質な声でシンと対峙していたドラッツェに通信を入れる。
「……礼は言わん」
一瞬、ヤタガラスの上部に組み付いているドラッツェをちらりと見る。
その表情はバイザーに覆い隠され、窺い知る事はできない。
だが、一瞬の躊躇の後敬礼をすると、輸送艦に向け、撤退を始めた。
「撤退するのか」
「隙だらけだ!」
一瞬、撤退するドラッツェに気を取られたシンに、隊長機であろう先頭のウインダムは、
右手に持ったビームライフルをガルバルディへと向けた。
「しまった……避けきれない!」
ライフルの射線は確実にコックピットを狙っていた。
ウインダムが刹那の後、引き金を引けば間違いなくシンは消し炭と化し、機体はデブリとなるだろう。
死すら覚悟したシンは、反射的に地上戦用のOSで有ることを忘れて、回避運動を取った。
閃光がガルバルディの脇腹を掠め、そのまま流されていく。 
衝撃で頭を強く打ちつけ、一瞬シンの意識が遠のく。
地上戦用のOSのままであるガルバルディは空間戦用OSなら自動的に行う
AMBAC、スラスターによる姿勢制御が出来ない。
マニュアル操作で姿勢制御をしない場合、無重力の宇宙では姿勢制御も出来無いまま、
溺れてる様にもがき続ける。
どうぞ的にしてください。 とでも言わんばかりの光景は冗談にもならない。

だが、溺れる筈だったガルバルディはシンが何もしなかったにも拘らず、
AMBACで元の体勢へと戻って見せた。
クロスフォースシルエットに装備された4対のスラスターが、それぞれ別々に、
しかし驚くほど自然に稼動し、バランスをとったのだ。
「何だ? 急に動きが良くなった……まさか、起動したのか!? ユニットが!」
隊長機が困惑の声を上げると3機のウインダムは攻撃の手を止め、距離をとった。
「何が……起きたんだ?」
困惑しているのは、シンも同じだった。
溺れたまま狙い撃ちにされるはずだった機体はそれが当然であると主張するように
全身の姿勢制御スラスターから淡い光を放ち、悠然とそこにいた。

 

「機体制動、正常に制御。 おはようございます。 
 独立型戦闘補助システムユニットRBです。 今後ともよろしく」
モニターを中止していたシンは、左端にunit‐RBと描かれたアイコンが表示されたのに気付いた。
と同時に機体スピーカーから聞いた事は無い筈なのに何故か聞き覚えのある声が聞こえた。
「独立型戦闘補助システム? 話に聞く学習型コンピューターを利用したパイロットサポートシステムか?」
「イエス。 ドライバー、貴方の名前は」
シンが小声で呟くと、RBはそれを質問と取ったようで短い答えと質問を返す。
「赤鬼、傭兵だ。 どうでもいいが、俺は正規のパイロットじゃないぞ?」
「問題無い。 赤鬼、……シン・アスカはドライバーとして登録されている」
「はっ!? どういう意味だよ?」

 

赤鬼の正体がシン・アスカという事を知っている人間は数少ない。
アメノミハシラの親しい人間とその他の勢力に分類される人達、
そしてガルナハンの一部の人間しか知らないはずなのだ。
「話は後にしよう、ドライバー。 敵がくる。 既に機体は空間戦闘に対応している。 
問題があれば言ってくれ、私が補佐する」
「(今は目の前に集中するべきか)……言うじゃないか、仕方ない。 やるしかないなら、やってやるさ!」
少々の思考の後、考えをまとめ、話を打ち切ると操縦桿を握り直す。
目の前に迫るはダークブルーのエールウィンダムが三機、やはりザクドラッツェは後退したらしい。
「自然の摂理に反する宇宙の化け物がッ! デブリ帯の塵へとなるが良いッ!」
三機はシンのガルバルディ目掛け、全火器を指向する。
ライフルから幾重もの閃光が奔り、とエールストライカーに懸架されたミサイルポッドが無数の煙を吐き出す。
「機体が万全なら! ウィンダムIIやIIIなら兎も角! 
 GATの面汚し、初期型ウィンダムなんて、相手になるか!」
叫びながらあえて突っ込み、ウィンダムに接近する。 
ビームを余裕を持ってかわし、ミサイルを迎撃機銃を持って撃墜する。
OSと内部を改良され、信頼性を向上させたウインダムIIや、機体の軽量化をはじめとする全面改修を行い
生まれ変わったIIIと違い、初期型ウインダムは連合兵にさえ『空飛ぶ棺桶』と揶揄され不評だった。
一部では旧式機である筈の105ダガーを改修し使い続ける部隊があったほどなのだ。
これにはさまざまな原因があったのだが、初期型のウインダムの性能ほどあてにならないものは無いというのが
この時代のMS乗りの共通認識であった。

 

シンは機体を操りながら思う。
ユニットRBの言う通り、先程までとは比べ物にならない動き。
悔しいが、パイロットサポートシステムは有効だ。
手足の僅かな動きに合わせ全身のスラスターが繊細に動き、体勢を維持する。
OSの書き換えもなんら問題ない。
新人でもこのシステムを使えばベテラン並みの動きが出来るだろう。
だが、シンの胸の中には何故か喉に支えた小骨のような違和感があった。
「弾幕だ! 弾幕を濃くしろ!」
高速で接近してくるガルバルディに先程とはまるで違う、恐慌じみた声で指揮官が叫ぶ。
「ユニット! 制御スラスターをもう少し絞ってAMBAC早めにしてくれ、
 それとクロスフォースはもっと出力上げろ」
「どうせならRBと呼んでもらいたいのだが。 2秒待て」
「……良く喋る奴だな」
シンが鼻を鳴らし、妙に感心したあとすぐ、きっかり2秒後にクロスフォースへの出力が増大し、
更に速度が上昇する。
「今更、遅い!」
腰後部にマウントしたロングライフルを構え、連射モードで適当に狙いをつけ、ばら撒くように撃つ。
隊長機に従い、小隊が同一方向に回避運動を取る。
OSの自動回避パターンの稚拙さから回避方向をある程度絞っていたシンは狙撃モードで隊長機を狙い撃った。
粒子の矢に貫かれ、ウインダムの胸部にぽっかりと穴が開き、糸の切れた操り人形のように動きを止めた。
 バッテリー駆動のウインダムは推進剤に引火する事が無ければ爆発する事は無い。
左右の機体が一瞬動きを止める。 その隙に更にシンは前進する。
再びロングライフルを腰後部へと戻し、腕を前方にクロスするようにすると
両腕の袖口から二本のビームサーベルを引き抜いた。

 

「隊長機がやられた程度で動きを止めるとは。 残りの二機は素人のようだな」
RBからの余計とも思える一言に、何も言わず頷くシン。
見知った友人のような態度だが、何故かシンには気にならなかった。
散発的にライフルを撃ってくるが、統率の取れない攻撃はもはや牽制にもならない。
シンが更に速度を上げ、ガルバルディと二機のウインダムが交差した一瞬の後、二機のウィンダムは上下に分かれ、爆散した。
「ふぅ、他は……」
「待て、今モニターに回す」
相手をしていた三機の撃破を確認し、シンは周囲を見渡す。
ジャンは組み付かれた敵隊長機を振り払い、コックピットを残し、無力化。
ザフトのホーク隊も数で上回る相手を全機撃墜し、こちらへと戻ってくる途中だった。
「敵輸送艦、離脱していきます」
デュークが、目視にて敵艦の離脱を確認し全機体に告げる。
「一機逃がしたか……」
シンと交戦していた手ごわいドラッツェは敵艦と共に撤退したらしい。
悔しそうにアームレスを叩くシン。
「元々迎撃戦闘だ。 仕方ない」
そんなシンを励ますようにRBは声をかける。
「そうだな……で結局、お前は何なんだよ」
内心でAIの癖に。と思いながらもなぜ自分をシン・アスカと知っているのか、答えを聞き出そうと疑問を投げかけた。
「敵性戦力の殲滅を確認、状況終了。 ユニットRB、スリープモードへ移行、ドライバー赤鬼、お疲れ様でした」
「あ、てめえ! 逃げんな、こら!」
シンの言葉になど耳を貸さず、嘲笑うようにRBはとっとと休止状態に入る。 
モニターを叩いてみるが反応すらない。 
「……畜生、アンタは一体何なんだ!」
シンの叫びがコックピットの中に響いた。

 

「(何一人で騒いでるのかしら?)……赤鬼さん、キャリーさん。 一先ず、アーモリー1へとお連れします。 バッテリーはまだありますか」
通信モニターが開いたままだった為、シンの叫びを聞いてしまったルナマリアは怪訝そうな顔で二人へと近づいた。
「ああ、大丈夫だ」
気を取り直し、シンは言う。 ちなみに畜生……からの叫びが見られていたのには気付いていない。
「こちらも問題無いが、荷物を回収したいのと、捕虜を何とかして欲しい」
ジャンは冷静にシンの惨状をスルーしつつ、ヤタガラスでシャトルから切り離されたカーゴブロックを指差す。
「分かりました。 部下に捕虜を連れて行かせ、荷物は我々で回収しましょう」
「イーグル2、3。 捕虜を連れて先に戻りなさい。 私は彼らとシャトルの積み荷を回収する」
「「了解」」
ルナマリアの言葉に二機のガルバルディがゆっくりとジャンへと近づいていた。
(あの声、間違いない、ルナマリアだ……まだザフトにいたのか。)
(とっくに辞めたと思ってたんだが……なんか面倒な事にならなきゃいいんだけどな)
万が一正体のばれたときの事を思い、身を震わせるとシンは大きな溜息をついた。

 
 

一方、撤退した輸送艦内
「ドラッツェ帰還!」
「損傷は!?」
「左プロペラント破損、ボディに若干の歪みが有ります」
「統括システムのみ回収して破棄しろ、その後ミラージュコロイドを展開、アプリリウスへと帰還する」
格納庫での喧騒を後にしてシンと対峙していた若いパイロットはブリッジへと向かっていた。
「お疲れさん、大分手こずったようだね……飲むかい?」
その途中、ブリッジクルー用のノーマルスーツを着た隻眼の男に声をかけられ、パイロットは振り向く。
「結構。 私は紅茶党だ」
首を振り、否定の意を示す、その表情はスモークのかかったザフト緑のヘルメットに阻まれ見えない。
「それは残念……自信作だったんだが」
隻眼の男はオーバーに首を竦め、残念そうに言う。
「貴様の自信作は当てにならん」
男の態度を無視すると、パイロットは床を蹴りブリッジへと向かう。

 

「しかしハデにやられたねぇ」
付いてきた男は格納庫を指差し呟いた。
「油断したと言わざるを得ない……今のザフトにあそこまでの腕利きがいるとは思わなかった」
隻眼の男の顔をけして直視しなかったパイロットは、初めて男の顔を直視した。
「最初から居た方か、それとも後から来た方、どちらだい?」
「両方だ。 より脅威だったのは最初から居た方だがな。 
 後から来た三機は隊長機以外はまだ若いようだが、従来のザフトにはない連携で技術を補っていた。
 只の一個小隊として見るのは危険だな。 最初の二機は文句の付けようがない。 単純に手強い。 
 単騎での戦闘だったが状況判断、能力、技術、全てに優れたベテラン。 いや、トップエースだ」
「随分と誉めちぎるね」
「事実を言っているだけだ」
パイロットは再び真正面を見る。
「ま、当然だがね。 後から来たのはアーモリー駐留部隊のエース部隊、ホーク隊さ」
「ミネルバの生き残り、フレスベルクか? 手強い訳だ。 先にいたのは?」
「ワインレッドのガルバルディは知らないが……あの白いのは見覚えがある。 
 PMCアメノミハシラのエース、ジャン・キャリーだ」
「そうか、あれが煌めく凶星J。 だがPMC?」
パイロットは顎に手をやり、頷くと首を傾げて見せた。
「知らなかったのかい? アメノミハシラは4年前、メサイア戦役の直後オーブから
 正式に権利を買い取り、PMCになったんだ」
「……それは知らなかった。 この数年間廃棄コロニーの中に潜んでいたからな」
「彼は手強いぞ。 直接見た僕が言うのだから間違いない」
「ふん、貴様なら知っているだろうさ。 砂漠の虎アンドリュー・バルドフェルド」

 

若いパイロットが睨みつけるように隻眼の男、アンドリュー・バルドフェルドを見ると
かつて砂漠の虎とさえ呼ばれたザフトの名将、ラクス・クラインの腹心 『だった』 男は
何も言わずに不敵な笑みを浮かべるだけだった。