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SCA-Seed_MOR◆wN/D/TuNEY 氏_第14話

Last-modified: 2009-08-04 (火) 00:51:53

突如現れた二台のジープに唖然としたシン達の目の前で、
片方のジープの運転席から金髪で仏頂面の男が降りた。
「久しぶり、だな。 シン」
男、コートニー・ヒエロニムスは常に仏頂面な彼には珍しく笑みを浮かべていた。
「コートニーさん」
今にも泣き出しそうな、複雑な顔でシンは声を上げる。

 

コートニー・ヒエロニムスとリーカ・シェダーはシンにとってはMS操縦の師とも言える人物だった。
インパルスのテスト時、シンはお世辞にも腕利きとは言えなかった。
アカデミーではそこそこだったとは言え、テストパイロットとしては未熟に過ぎる腕。
周囲からの妬み、皮肉を背に受けながら、寝る間も惜しみひたすらシミュレイター、
実機による訓練を続けるシンを二人が見つけたのは偶然以外の何者でもない。
毎日倒れるまで訓練を続けるシンに、二人はその理由を問い質した。
テストパイロットとして自身の職務に誇りを持つコートニーとしては、
未熟なシンが選ばれた事が理解できなかったのだ。
リーカもまた同様にアカデミーを出たばかりの新人は足手纏いになるのではと言う懸念もあった。
当時二人とあまりコミュニケーションをとっていなかったシンは自身の境遇、戦う理由を口にした。

 

『自分の様な人間を作りたくない。 誰かを守れる力が欲しい』

 

その想い、シンの努力に思うところがあったのか、二人は短い期間ながらも自身の持つ実戦経験、
操縦技術を徹底的に叩き込んだ。
そしてその数ヵ月後にはシンは二人に比肩し得るまで腕を上げていた。
天賦の才もあったのだろうが、シン自身の努力、そして良き師に恵まれた事が幸運であった。  
アーモーリー1強襲で実戦経験の無かったシンが、互角の性能の機体を奪取したファントムペインと
互角に渡り合えた理由の一つである。

 

「俺……俺は……」
もう顔を合わせることが出来ないと思っていた相手に対面し、なんと言えば、どんな顔をすればいいか判らず
シンは戸惑っていた。
「シン! この馬鹿、みんなに心配かけて!」
感極まっているシンの後ろから首筋に腕が周り、ギリギリと締め上げられる。
やっていることは物騒極まりないがその声は出来の悪い弟を叱る様な、どこかやさしい声だった声。
「リ、リーカさん!? く、首! グヴィジバッデバス!」
「絞めてんのよ!」
白目を剥きかけたシンが目にしたのは、ウェーブのかかった茶色い髪に、眼鏡に似た……と言うより
眼鏡そのものの電子デバイスをかけた女性。
少なくとも自分を弟のように呼ぶ、世にも珍しい眼鏡をつけたコーディネイターの女性は
シンは一人しか知らない。
シンにとってのMS操縦の師のもう一人。 
セカンドステージ、ガイアのテストパイロットリーカ・シェダーである。

 

「そのあたりにしてやってくれ」
段々痙攣し始めたシンを見ながら、呆れた様な顔でコートニーはリーカをシンから引き剥がす。
「こっ、殺す気ですか!」
咳き込みながらシンが叫ぶ。
「これでも足りないくらいよ!」
リーカは鼻を鳴らしながら不満そうな顔でシンから離れた。
「……自業自得よ」
「ごめんなさい、流石に庇えないわ」
未だに目を赤くしたルナマリアはシホに付き添われ、二人して白い目をシンに向けている。
「俺にはなんとも言えん」
イザークは困ったような顔で考え込み、コートニーを見ると我関せずと明後日の方向を見ていた。
ディアッカは何か壷に入ったらしく手を叩いて大笑いしているし、
ホーク隊のデュークとプルデンシオはポカンとしていた。

 

「あー、やっぱり間に合わなかったか」
もう一方のジープからニヤつきながら降りてきたのは
浅黒い肌を持ったアメノミハシラの制服を着崩したエド。
「ま、仕方ないだろう」
エドとは逆に制服をかっちりと着こなしたジャンがエドの後に続く。
「嫌な予感、的中ね」
最後に降りてきたのはジェーン。
「そう思ったならもっと早く来てくださいよ!」
そりゃ飛び蹴り喰らったり、シャイニングウィザード喰らったり、
スリーパーホールドで落とされかければ文句の一つも言いたくなる。
「ああ、そうだ。 シン、話を聞く限りあんたが全面的に悪いよ」
「ええ! ジェーンさんまで!?」
「当たり前だよ! 他人に迷惑かけたのは勿論、女を泣かせた時点であんたが全面的に悪い!」
ジェーンは仁王立ちでシンに人差し指を突きつける。
「そ、そうですよね……」
「どなたか知りませんが話がわかる人がいて良かった」
ジェーンの発言に女性陣は賛同し、シンには更に白い視線が浴びせられる。
(何で俺が、まぁ確かに生きてるの黙ってた悪いけどさ)
男連中を見渡すと、諦めろと言わんがごとく憐憫の目線を送っていた。
(マユ、ステラ……お兄ちゃん、プラントに来て早々挫けそうだよ。 
 ……コニール、案外早く帰れるかもしれない)
女性陣の白い目線に、死んだ魚のような目で虚空を見つめるシン。
虚空の向こうに入場お断りの看板が見えた気がした。

 

「あの人も大変だな、デューク」
「今、気付いたがすげぇ」
シンを横目で見ながら、何時の間にか機体から降りてきた相方に話し掛けたプルデンシオは
デュークの様子がおかしい事に気付く。
「……何が?」
ハァハァと鼻息荒く明らかに興奮した様子のデュークに一応プルデンシオは聞いた。 
ホントは聞きたくなかったけど。
「すげぇ! 
 『南米の英雄』切り裂きエド! 
 『南米の白鯨』ジェーン・ヒューストン!
 『煌めく凶星J』ジャン・キャリー!
  元地球連合所属、現アメノミハシラトップエース三人が勢揃いだ!」

 

どう見ても軍オタです。 本当にありがとうございました。

 

((あーあ、また始まった))
急にテンション高く騒ぎ出したデュークを横目にルナマリアとプルデンシオは溜息をつく。
「すみません。 Mr.ハレルソン部下が失礼を……」
「気にしないでくれ。 それより、俺のこと知ってる奴がいるとは嬉しいねぇ……
 てっきり憎まれているもんだとばかり思ってたぜ」
ルナマリアは恥かしさからか、顔を赤く染めエドに深く頭を下げる。
だがエドは気にする様子もなく、寧ろ嬉しそうにデュークの肩を叩いた。
「ぷ、プラントでは、かつての仇敵『切り裂きエド』としてよりも祖国の為、
 強大な大西洋連邦に反旗を翻した『南米の英雄』としての貴方の方が有名です」
上官であるルナマリアが驚くほど背筋をピンと伸ばし、肘の折り畳まれたザフト式の敬礼をして見せた。

 

意外かもしれないが実際南アメリカ合衆国とプラントとの関係はさほど悪いわけではない。
CE72の南アメリカ独立戦争最終局面において象徴でもあったエドワードハレルソンンが瀕死の重傷を負い、
ナイロビ会議の結果停戦条約の一文を無視し、軍の強硬派が武力を誇示しようと総攻撃を加えた際に
『国際法に照らし合わせ』南米軍を支援して以来南アメリカ合衆国と軍強硬派大西洋連邦との中は最悪で
プラントびいきになっていた
どちらかと言えば南米に立場の近いプラントでは強大な相手に反旗を翻した英雄というのは
ウケが良いのだろう。

 

「自分は、ジェス・リブルの『英雄の真実』を読み、貴方の事を知りました。
 その上でパイロット、人としてあなたを尊敬しています」
英雄の真実。CE74年にレクイエム戦役からおよそ一年の歳月が過ぎた頃、
月プトレマイオスにある出版社から発売された本である。
ぶっちゃけて言えばアウトフレームの維持費に頭を悩ませたジェスが編集者からの誘いを受け、
(無論本人の許可を得て)取材記録を元に南アメリカ独立戦争を直接見たジェスの視点から
南米の英雄の本当の姿を真実を伝えようと書かれた本である。
若干南米よりとの声もあるが、世界中でベストセラーを記録した。
この本が売れた結果、野次馬ジェスの名は広まり、アウトフレームも手放さずにすんだらしい。

 

「すまないシン、ちょっといいか?」
話が一段落したところでコートニーはシンに声をかけた。
「……もしかして俺の乗る機体の事ですか?」
「何だ、分かってたの?」
少々の思案の後出たシンの言葉に、リーカは詰まらなそうな顔を見せる。
「碌な用も無しに、わざわざ俺に会いに来るとは思いませんよ」
「冷めてるわねえ……昔はもう少し素直だったのに」
「話が早くて助かる。 だが、君の機体を見せる前に会わなくてはならない人が居る」
肩を竦めるシンに、泣き真似をして見せるリーカ、コートニーはスルーして話を進める。
「人ですか?」
「ああ……皆さん! この男を借りていきます」
シンの疑問に頷くと、コートニーは叫んだ。
「「「「「「どうぞご自由に」」」」」」
イザークと何か話していたジャン、プルデンシオ達と話していたエド、ジェーン、ディアッカ、シホは
まったく同じタイミングでに答を返す。
「……その、なんだ、君達は実に話が早いな」
「別に良いんですけどね」
あんまりな態度になんと言えばいいか困るコートニーに、シンは半ば投げやりになっている。

 

「ああ、一寸待って……忘れ物よ、シン」
そんな雰囲気の中、思い出したようにシンに駆け寄ると、ルナマリアは胸ポケットから
ピンク色の携帯を出すとシンへと手渡した。
それは、シンにとって戦う理由の一つ、戦士シン・アスカのはじまりである。
「これは……この携帯は」
「ジブラルタルから遺品として送られてきたの。 ……妹さんの形見でしょ。 大事にしなさいよ」

 

それは妹マユの携帯だった。 
4年前、最後の出撃の際、訓練だからとジブラルタル基地の自室においてきていたのだ。
既にシンは諦めていた。 半ば忘れかけていた。 だがその携帯は家族との幸せな記憶、その証。
「ありがとう。 ルナ」
感傷を隠そうともせず、目に涙をため、携帯を強く握り締めるとシンは深く頭を下げようとした。
ルナマリアは何も言わずにそれを止め、優しげな表情で静かに首を振る。
「お礼なら後で一杯付き合って貰うわよ」
「ああ、喜んで」
シンが涙を拭ったのを確かめると、ルナマリアは微笑ながら言い、シンはそれに大きく頷いた。
プルデンシオとデューク、それにシホとディアッカが引き攣った表情をしていたのは気のせいだろう。

 

後でシンは、この時4人の表情を気に留めなかった事を激しく後悔する事になる。

 

「……でも、何でルナが持ってるんだ? しかも軍服のポケットから出したよな?」
湧き上がった疑問に、シンはふとは首を傾げた。
「べ、別にそんな事どうでもいいじゃない! ほら、コ−トニーさんも待ってるわよ」
聞かれたルナは何故か慌てふためき、コートニーを指差す。
「いや、別に私はいくらでも待つが……」
「急いでますよね?」
「早めに行ったほうが先生に何か言われないんじゃない?」
コートニーは別段急いでいるわけでもないので首を傾げるが、何故かルナマリアを庇うように
リーカとシホがコートニーを急かす。 
「(まぁ、早いにこした事はないか)そうだな、行くとしよう」
少し考えた後、軽く頷くと乗ってきたジープの運転席へと乗り込み、シンに助手席に乗るように促す。

 

「はぁ(言える訳無いじゃない、形見だと思ってお守り代わりに持ってたなんて)」
ジープが発車したのを確認するとルナマリアはそっと溜息をついた。
(まったくシンは相変わらず鈍いわねぇ) 
(本当に不器用な子達です……もっとも私も人のことは言えませんが)
リーカとシホはその様子を見て苦笑いをしていた。

 
 

コートニーと共に移動した先はコンクリートで出来た3階建てくらいの建物、
屋上には赤十字が見える。 軍病院であった。
「ここだ。 先に入っていてくれ、私は車を止めてくる」
ジープを玄関先に止めると、コートニーはシンに降りるように促す。
「ここって病院だよな」
キョロキョロと辺りを見渡しながら、自動ドアをくぐると緊急病棟の文字が見えた。
シンにはこんな所に呼ばれる覚えは無いのだが。
精密検査でもするのかと思ったが、確かコートニーは合わなければならない人間がいるといっていた。 

「ん……何だ、怪我人か? 随分ボロボロだな車にでも牽かれたのか?」
「悪いが此処は緊急病棟だ。 向こう……五分程歩いた所に通常病棟があるのでそっちに行ってくれ。
 ……此処まで歩いてきたんだ五分位歩けるだろう」
受付に人もいない為、辺りを落ち着き無くうろついていたシンに、
恐らくは医者であろう若白髪の白衣の男は一瞥するなり出口を指差した。
「いや、俺怪我人じゃないんですが」
「……どう見ても怪我人だろう」
言われてみればボロボロのパイロットスーツを着た怪しい男は怪我人に見えなくも無い。
自爆に巻き込まれ全身を強打し、飛び蹴り喰らったり、シャイニングウィザード喰らったり、
スリーパーホールドで落とされかけたりで、正直首が痛いので怪我人ではあるのだが……
生来口が達者ではなくコミュニケーション能力が高い訳ではないシンは思わず頭を抱えた。
「ドクターコースト、彼は客人だ。 通してやってくれ」
「ヒエロニムスか、話は聞いている。 ……色白黒髪で目つきの悪い赤目。 
 そうか、貴様がシン・アスカか、付いて来い」
ドクターコースト、かつてドクターの二つ名で呼ばれたザフトのエース、ミハエル・コーストは
コートニーの声に頷くと、スッと値踏みするかのごとくシンに視線を走らせる。
フン、と納得したよう鼻を鳴らすと、顎で方向を指し示すと振り向く事無く歩き出した。

 

「ICU?」
緊急集中治療室、その前でミハエルは立ち止まり、後を突いてきたコートニーとシンも足を止めた。
「ここだ。 入る前に一言だけ言っておく、よく聞いておけ」
振り向いたミハエルの力のこもった言葉にシンは静かに頷く。
「いいか! 本来は面会謝絶、絶対安静の患者なんだ。 面会など考えられない程にな。 
 まったく患者からの頼みでなければ……まぁいい」
「兎に角、中に入ったら絶対に騒ぐんじゃないぞ。 大声も駄目だ。 分かったな! 返事は!?」
「わ、分かりました」
途中独り言を挟むもミハエルの凄まじい勢いに押され、思わずシンは素直に頷いてしまった。
しかし、これほどまで念を押されるとは……
一体この先にいるシンが会わなければならない人物とは何者なのか。
「この先は消毒する必要がある……終わったらこれを着ろ」
そう言うとミハエルは殺菌室を指差し、白衣を放り投げた。

 

「いいか、開けるぞ? しつこいようだが絶対に騒ぐんじゃないぞ」
(本当にしつこいな)
殺菌も終わり白衣に着替えた事を確認したミハエルは扉の前でしつこく念を押す。
「ん? あっ、あれは……!」
中に入ったシンの目にしたもの、その衝撃にシンは思わず驚愕の声を上げ、
ミハエルからの一睨みに思わず口を塞いだ。
ガラスで覆われたその部屋で、ベッドに横たわり、瞬きすらせずにシンを凝視するその男。
「……アスラン」

 

アスラン・ザラ、この場で多くを語ることはしない。 
ただ、その名はシンにとって忘れる事が出来ない名だった。
ただし亡きハイネの顔を立てて、凄まじく好意的に判断しても良い意味と悪い意味が1:9程度の割合だが。

 

「生きていたのか、あんたがいながら一体なにやってん……」
思うところ、言いたい事は山ほど有る、生きてやがったかこの野郎!と思ってもいる。
誰の命も平等で、生きている事はそれだけで価値があると信じているシンとしては
複雑な心境でアスランの寝ている部屋へと近付いた。

 

最初に感じたのは違和感。
何かがおかしい。
アスランならシンの顔を見た途端騒ぎそうな所なのに。

 

「アスラン?」
体にはシーツがかけられ、僅かに見える体には包帯が包み、口元には酸素吸入器、
濁ったかのような目は何も映さない。 
ガラスに手を触れ、不思議そうにシンは呟く。
「無駄だ。 今の彼には見ることも聞くことも感じることも出来ない」
「えっ?」
「意識不明の重体だ。 ここに運び込まれてきた時は……既に意識を失っていた」
冷徹とも言える目でシンを見るミハエルは淡々と事実を告げる。
「何だよ……何やってんですか、あんたは……
 あんた俺を倒すくらい、DPを潰すくらい強かったじゃないんですか。 そんなあんたが」
泣けばいいか、笑えばいいか、複雑な……全ての感情をよく混ぜた後ぶちまけたかの様だ。
「そこまでだ……もう一人君を呼んだ男が待っている」
シンを心配したのかコートニーがシンの肩を叩いた。
もう一人の男。 シンは誰なのか既に見当が付いていた。
……だから、それを確かめに行こう。
「はい、行きましょう」
ゆっくりと立ち上がり、しっかりとした口調でシンは言った。

 
 

シンとその男との接点は殆どないといってもいい。
人間としての彼をシンは全く知らない。 何せミネルバ時代は機体名で呼んでいたくらいだ。

 

だが因縁が無いわけではない。

 

オノロゴ島
黒海
クレタ
ベルリン
オーブ

 

その人となりを殆ど知らないのに思わず噴出してしまうほど、接点がある。
上官を討たれ、大切な人を奪われ、理想を打ち砕かれた。
だが不思議と憎しみが沸くことはない。 ……無論思うところが無いわけではないが。
殺意を抱いたのも一度や二度ではないと言うのに。

 

ただ今は……

 

シンは握り締めた手に添えられる金色の光が見えた気がした。
4年前、ミナに助けられて以来、時折見えるようになった光。 
戦場で熱くなった時、命を助けられたときもあった。 
まるで自分に憎しみで戦うな。と言い聞かせているようだった。
(分かってるさ、ステラ。 俺は憎しみでは戦わない……あいつに言い切っちまったからな)
優しく手を開き、一人頷く。 金色の光が空気の中にとけるように消えた。

 

ガルナハンで休養をとっている時、コニールに何故戦うのかと聞かれた事があった。
戦うのは力の無い弱い人の為、過去を想い今を生きる人の為、暖かくて優しい世界の為。
誰の命も平等で、生きている事はそれだけで価値がある。 そう思っているからと答えた。
それは傭兵赤鬼、シン・アスカにとっての誓いでもあった。
兎に角行くしかない。 先に進まなければ、立ち止まっているだけでは何も進まない。
考えるのはその後で良い。 いつもシンはそうしてきた。 
だから今回もそうしよう。 シンは呼んだ男のいるという部屋の扉に手をかけ、開いた。

 

「待ってたよ……シン」
その部屋は一面白の清潔感ある部屋。 あまり物はなく、窓際にベッドが一つあるだけだった。
ベッドに横たわったのは栗色の髪、青い瞳の男。 
シンの中では線の細いイメージがあったが、今はさらに細く窶れているように見える。

 

「キラ……ヤマト」

 

その男、キラの顔を見て、声を聞いた瞬間、シンは無意識のうちに両手を血が滲むほど握りしめていた。

 

わざわざ呼びつけてごめんね。 でも、どうしても話をして置きたかったから」
キラはまず頭を下げると、ゆっくりと口を開いた。
「……ですか」
「シン?」
口の中で何か呟くシンにキラは聞き返した。
キラにとってみれば、只聞き返しただけだったのだが、
今のシンには名前を呼ばれることすら酷く不快に感じた。

 

「何やってんですか! あんた達は!」

 

我慢仕切れずシンは叫ぶ。  
怒りだけではない様々な感情が、恐らくはアスランにぶつける筈であったモノも加えられ、一気に噴出する。
「アスカ!」 「シン!」
ミハエルとコートニーはシンの今にも殴りかからんがばかりの勢い、叫びに思わず声を上げる。
「少し黙ってて下さい!」
シンは鋭い視線でミハエルとコートニーを一喝する。
「あんた、俺より強いんだろ! デュランダル議長より正しいんだろ! だったら何で負けたんだよ!」
壁に拳を叩きつけ、行き先のない怒りをキラへとぶつける。
八つ当たりであることは分かっていた。 それでもシンは叫ばずに入られなかった。
「……本当にごめん。 僕達の所為で君まで巻き込んでしまったよね」
先程よりも深く頭を下げキラは謝罪し続ける。
「っ!」
今一度壁に拳を叩きつけ、壁に大きなヒビを入れるとシンは息を吐いた。
ミハエルは鬼のような形相でシンを睨みつけ、コートニーはそれを必死でなだめている。
「……いえ、すみません。 俺こそ感情的になっていました。 それで俺を呼んだ理由はなんですか」
八つ当たりに謝罪はするが、巻き込まれたと言うことについて否定しなかったのはシンの意地だろうか。
「うん、僕らを倒した相手、今回君が戦う事になる相手について話しておこうと思って」
「あー、ちょっと待って下さい。 そもそも俺、詳しい事情聞いて無いんですが」
真剣な顔のキラを制し、シンは詳しい事情を聞いてもいないことを告げた。
「フン、それでよく仕事を受けたものだ」
明らかに怒りを隠さずにミハエルは皮肉を言った。
「それを言わないでください」
ミハエルの口調にシンは思わず眉をひそめた。
シン自身、正直壁にヒビを入れたことはやりすぎたと思っている。
「分かったよ。 じゃあ始めから説明するね」
キラはそんなやり取りに苦笑すると、ここまでの経緯を語り始めた。