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SCA-Seed_MOR◆wN/D/TuNEY 氏_第17話

Last-modified: 2009-06-14 (日) 03:00:39

アーモリー1地下
再びジープに乗り、車を走らせること既に一時間、元来気の短いシンの我慢は限界に近づいて来ていた

 

「……随分長いですね」

 

病院の白衣から、病院においてあったザフトの赤服に着替えていたシンは流れ行く風景を見ながら呟く。
最初はもう目にすることの出来ないと思っていた光景、久しぶりの光景に飽きる事等なかったが、
いい加減に飽きてきた。移動多すぎだ。
「あと、五分位で着く」
どっかのフェイスとは違い、シンのあしらい方を熟知しているコートニーは必要な情報だけ与え、黙らせる。
行動パターンを読まれているようで(実際読まれているのだが)シンとしては面白くない。
こちらが何か行動すれば、何らかの反応のあるアスランとはえらい違いだ。
記憶の中のアスランと目前のコートニーを頭の中で見比べながらながら、シンはふと思う。

 

IF、もしに意味はないがコートニーやリーカが、
ついでのおまけでマーレ(悔しいが腕は認めざるを得ない)がミネルバにいたなら、
今とは違う未来が合ったのだろうか?

 

少なくとも、シンの負担(精神的にも、肉体的にも)が一億倍ほど減り、
艦隊戦がすさまじく楽になっていたのは間違いない。
「なんだかな……」
過去を振り返る事自体は構わないが、過去を後悔するのは意味がない。
それは過去に生きていた人達を侮辱するようなものだ。

 

……というか思い出そうとすると寒気がした。
我ながらよく生き残れたものだ。 とシンは苦笑する。 
二代目空飛ぶ棺桶(初代は不良品じゃなかったけど)ことウィンダムを設計した
太平洋連邦技術陣の皆々様には一万回礼を言っても足りないくらいである。

 

(特にインド洋、1対30で生き残れる……筈無いだろうが! 普通担当が逆だろ! 
 何考えてたんだアスラン! 畜生、やっぱり一発ぶん殴っとけば良かった)

 

風景を見ながらこめかみをひくつかせ、シンは舌打ちする。
今更そんな事を言っても後の祭りと言う奴で、1時間ほど前に戻らなければ不可能である。

 

ちなみにこの時の歴史的な大敗、キルレシオ30:0によって、MAを主力機とする上層部の決定と、
MAを主力とする為にわざとカタログスペック通りの性能を発揮できないモンキーモデルを作っていた
軍需産業にやる気を無くしかけていた技術陣に、憎悪なんだか狂気なんだか何だかよく分からない
情熱の炎を点し、結果血と涙と汗と変な腐敗臭のする汁と怒りと狂気の結晶、
ウィンダムIIを完成させ、改悪型改良機と大西洋連邦技術陣が呼ぶ民間企業製ウィンダムMK2を
コンペで大差をつけ降し、再びMSを主力機に返り咲かせる事となった。
だがシンにそんなことを知る由は無い。

 

それは兎も角、軽く欝が入った気分を変えようと胸ポケットを叩き、中を探る。
「ん……」
首を傾げながら、 反対側を、腰ポケットに手を突っ込む。
「どうした?」
不審に思ったのか、コートニーはシンに声を掛ける。
「あ、いや別に……そうか、シャトルの中か。 タバコ」
目当ての物を、シャトルに脱ぎ捨てたスーツのポケットの中に置き忘れたのだと気付いたシンは一人頷く。
「何だ、タバコか……プラントで環境汚染は感心しないな。 飴でも舐めていろ」
コートニーは自身のポケットを弄ると、ビニールに包まれた飴を投げた。
シンが口寂しいので、口の中に入れると、プラント製品にしては珍しく人工甘味料ではなく
砂糖の甘さがした。
「人工甘味料0のプラントでは貴重品だ……しかしお前がタバコを吸うようになるとはな」
意外そうな顔のシンにニヤリと笑うと、しみじみとコートニーは言った。
「そうは言っても、俺も21ですよ。 まぁ、タバコは咥えてるだけですし」
シンにとってタバコは、四年間の傭兵生活の中で自然に覚えていた。
気分転換と余裕がある風に見せられるという事、礼代わりなどで色々と重宝していた。
「私やリーカにとって、お前はまだ子供から毛が生えた位のイメージしか無いからな」
「そんなもんですかね?」
にやりと微笑むコートニーを見ながら口の中で飴を転がし、少し不満そうにシンは聞き返す。
「そんな物だ……もうすぐ着くぞ。 局長も待ちわびているだろう」
コートニーの言葉に、前を見ると工廠の建物が見えた。

 
 

「来たか、コートニー、局長が首を長くして待ってるぞ。 そして、久しぶりだなシン!」
「親父さん! 何でここに?」
車を降りたシンの前に現れたのは元ミネルバ整備班長マッド・エイプス。
「ああ、辞令が出てな、工廠に移ったんだ。 今はヴィーノがミネルバの整備班長(仮)だ」
「(……整備班長(仮)? )ミネルバ? だってミネルバは」
沈んだはずの艦、家でもあった場所の名前に驚きの表情をシンは見せた。
「正確にはミネルバIIか……新造艦だ。 旧ミネルバの連中は殆ど戻っている。 艦長はあのアーサーだ」
「ええっ! 大丈夫なんですか!」
「その言い方は酷くないか?」
「まぁ、アビーやルナマリアが上手く補佐して何とかやってるみたいだがな」
アーサーの名前を聞いて驚くシンに、コートニーは苦笑し、マッドは肩をすくめた。
「おっと、局長に用事だったな。こんなとこで足止めするわけにはいかんな。 
 後でミネルバにも顔を出せよ……皆心配してたんだ」
ふと思い出したのか、マッドはシンの肩を軽く叩くと片手を上げ、工廠内へと戻っていった。
「……はい」
深く頷いたシンは、先に歩き出したコートニーに続いてエレベーターへと歩み始めた。

 
 

地下行きのエレベーターを降りた先にそれはあった。
灰銀色の待機状態でメンテナンスベッドに固定された、何処かで見覚えのある鉄騎兵。
ツインアイが特徴的なGタイプモビルスーツ。 その足元に立つ一人の男。

 

「フン、来たか。 シン・アスカ……歓迎しよう、盛大にな!」

 

その場に、灰銀の鉄騎兵の前で白衣を靡かせ、両手をポケットに突っ込み、悠然と立ちはだかる初老の男。
若い頃は黒一色であっただろう髪は灰色に染まり、髪を逆立てていた。
身長は高く、180cmはある。 体格もがっしりとしており、鍛え上げられている。
その目は、一見技術者とは思えないほど生気、活力に満ち溢れ、

 

……というかはっきり言おうゴリラだ。 
どこからどう見てもゴリラだ。 人間ではなくゴリラだ。 白衣を着たゴリラだ。

 

「あんたは……」
「あんた? フン、相変わらず口の聞き方を知らない奴だな」
呆然とするシン、ゴリラに似た男は口調は荒いが、寧ろ機嫌良く鼻を鳴らす。
「失礼、貴方は一体何者ですか」
此処数時間ほど、知り合いとだけ話して、フランクな口調になっていたか自省するとシンは咳払いをし、
口調を正した。
「……やっぱり貴様が敬語だと、気持ち悪いな。 もっとフランクでいいぞ」
「あんたは一体! なんなんだァっ!」
あんまりな言い方のゴリラに、シンはキレた。 当然である。
「落ち着けシン。 ゴリ…ゴホンゴホン!……局長もからかわないで下さい」
鼻息荒いシンを宥め、コートニーは局長へと向き直り、咳き込むと目を細めた。
「ふむ、軽いジョークだったのだがな……
 それより変わったかと思ったが、内面はあまり変わっとらんな小僧?
 ……忘れているが俺と貴様は二、三度会った事があるはずだぞ」
「えっ……」
ニヤニヤと笑みを浮かべ、局長と呼ばれたゴリラはシンを見た。

 

「貴様の元愛機、インパルスを設計したのは俺だ」
「あっ! 思いだした。 ヴェルヌ設計局の……」
思い出しかけた記憶を辿りながら、言葉に詰まるシン。

 

「名前など、どうでも良い……呼び方に困ったなら、局長とでも呼べ」
頭を捻るシンの様子にも意を介さず、局長は鼻を鳴らす。
「でも、なんであんたが此処に?」
「まだ気付かないか?」
首を傾げるシンに、呆れたようにコートニーが指し示したのは先程の銀灰色のGタイプMS。
「あれは……まさか!」
シンは目を見開き、それに近づく。

 

薄暗さと遠くからだった為に見え辛く、各部のデザインが少し変わった為分かり辛かったが、
近づいたら良く分かる。
それは、その場でハンガーに固定されているMSは、ロールアウトから始まり、
ザフト時代に一番長く乗った、かつてのシンの愛機、インパルス。

 

全体的にインパルスのイメージをそのまま残したその機体、一目で変わったところを上げるなら。
頭部ブレードアンテナが四本からデスティニーに良く似たV字タイプに変更され、
近接防御機銃が追加されていた。
胴体は、よりスマートで鋭角的なデザインに変更され胸部機銃の口径、砲身が大きくなり、
MS相手にも有効な打撃が与える事が出来そうだ。
しかし、腹回りが変わっていない所を見るとやはりコアスプレンダーが入っているのだろう。
肩もよりエッジの効いたデザインに変わり、腰部サイドアーマーにはハードポイントが設置され、
腕部には増加装甲とデスティニーのビームシールドに似た発生機。
脚部はかつてのインパルスそっくりだが、足の踵にあたる部分に二本のビームブーメランが装備されていた。

 

「シン・アスカ。 我々が貴様に用意した、現状で考えられる限り最高の機体だ
 コードネーム『アスラーダ』 新型の、インパルスを超越したインパルス……インパルスエクシードだ」
局長は驚きを隠せないシンを見ながら、満足げな笑みを浮かべていた。

 
 
 

同時刻、アーモリー1港湾部。

 

アーモリー1軍港の一角にあるザフトの倉庫ビルに彼らはいた。
明かりの一つすら付けずに大型のカメラや観測器機を据え付けている。 
数は7、8人といった所か。

 

「そういえば、アスカ君はどうなったかな?」
「さあ? しかし、まさかあっさり正体がばれるとはなぁ」

 

心配そうに呟いたジャンに気の無い返事を返すと、やれやれと言わんばかりに肩をすくめるエド。
言わずと知れたアメノミハシラのエース二人である。
「正体隠そうとした私達が馬鹿みたいよね」
双眼鏡を片手に、ゲートを見ていたジェーンが大きな溜め息をつく。
「まぁ仕方ない……アスカ君にとっては蟠りもなくなって、丁度良かっただろうさ」
観測器機を設置しながら、ジャンは苦笑混じりに慰める。
「ま、キャリーの旦那が言う通りかもな……それにしても、みんなあいつが気になるんだな」
「ああ、何というか……」
エドの疑問に答える言葉を選んでいるのか、ジャンが僅かに言いよどむ。

 

「「「危なっかしいから目が離せない」」」
ジャンを除く、その場に居合わせた全員が口を揃えて言った。

 

「何だ、みんな同じか」
ジャンはニヤリと笑みを浮かべ、周囲を見渡した。
「どうにも放っておけないのよね……目が離せないというか」
ジェーンは腕を組ながら、困ったような顔を見せる。
「確かにありますな、何だか自分の子供みたいで、どうにも……」
元連合軍にいた軍曹は、年季とシワが刻まれた顔を歪ませると頬をかいた。
「ああ、なんとなく分かるな」
「旦那……老け込むにはまだ早過ぎるぜ」
軍曹の意見に頷いたジャンに、エドは軽口を叩く。
「……そうは言うがね。 私も50近いのだ。 老けもするさ」
エドの軽口に、大げさに肩を竦めてみせるジャン。
「「えっ?」」
「何だ、しらなかったのか?」
ジャンの発言に耳を疑う、エドとジェーンにジャンはあっさりと言った。
「てっきり30半ばくらいかと」
「ねぇ……」
エドやジェーンが勘違いしたのも無理は無いだろう。
一般的なパイロットの絶頂期は、30半ばだと言われている。
技術の成熟と体力限界のバランスがとれた、いわゆる油が乗った時期だ。
40代でMSに乗り始めた、パイロットとしては遅咲きに過ぎるジャンは、
操縦訓練や実戦でかなり身体に負荷をかけていた。
それに自身の信念、不殺を行う為の技能の向上、工学博士としての研究等で
精神、肉体への負担は多大なものと言える。
それこそ、並みのコーディネイターでは耐え切れないほどに。

 

「ハレルソン隊長、キャリー隊長。 艦隊が入港して来ます」
大型の双眼鏡を覗き、プラントの出島と港湾部を繋ぐ接続部を監視していたミハシラ情報員が
その場にいた人間に声をかけた。
「おっ、どれどれ?」
「案外早かったわね」
エドとジェーンは情報員の言葉に手に持っていた双眼鏡を覗き、ジャンは観測機器を起動させる。
そもそも、こんな所にいるのは、連合軍(今となってはその名称さえ怪しいが)艦隊の
戦力調査の為だった。
アーモリー1軍港に続々と入港する艦隊、その光景は観閲式、大規模合同演習さながらで、
見る者が見れば興奮の余り鼻血を噴出さんばかりの様子だった。

 

「先ずは東アジアか」
エドの目が甲板に向けられる。 パフォーマンスだろうか?
ネルソン級戦艦の甲板に立つライゴウ二式、テンジン(量産型ハイペリオン、ヘリオスの東アジア仕様)
ウィンダム東アジア仕様、それに多数の護衛艦艇。
「雑多と言うか、節操が無いと言うか」
旧式、新型のMS、どう見てもかき集めたとしか思えない艦艇群に、呆れたようにジャンが呟く。
実際、東アジア共和国の艦隊は急遽かき集めたのだろう。 
動きも何処かぎこちなく、所属艦艇、艦載MS部隊の所属がまちまちな事からもそれが分かった。
「主力機の筈のライゴウの数も、艦艇数もあまり多くはないな」
ジャンの言うとおり甲板に立っているMSが全てでないにしても、
主力機であるライゴウの数は9機に1機程度の割合で他の機体で水増ししている印象だった。

 

「チッ、ユーラシアが来るぜ」
舌打ちしたエドの後、続いて入港したのは東アジア艦隊とは違い、艦艇の動きも違和感無く、
ヘリオスMKIIで統一されそれらを甲板に並べたユーラシア連邦艦隊。
その内の一機、指揮官用に背後に大型アンテナを、頭部側面にケモノの耳状のセンサーを装備し、
肩には月に向かい吠える犬のパーソナルマークをつけた隊長機がエド達のいるビルを見た後、指差した。

 

『隊長? どうかしましたか?」
急に動いた隊長機に横にいた部下、スリー・ソキウスは通信を入れた。
「いや、昔の教え子がいたみたいなんでな、ちょっとした挨拶代わりだ」
隊長機に乗る男、『月下の狂犬』モーガン・シュバリエは笑みを浮かべ、スリー・ソキウスに答える。
「隊長、余り勝手な事はしては後で問題に……」
「相変わらず固いな、お前は。 ま、多少なら問題はないさ」
続くソキウスのお小言を通信を切る事で避けると、何処か懐かしそうにモーガンはビルを見ていた。

 

「げっ……」
「どうしたのよ」
急に頭を下げ、窓の下に隠れるエドに怪訝な顔を向ける。
「マッドドッグのおっさんがいたんだよ……しかもこっち指差した」
「そんな訳が無いだろう。 常識的に考えて」
窓から外の様子を伺うエドにジャンは訝しげに、エドを見ていた。
「本当だって!」
「エド、少し黙って、本命が来たよ」

 

多数のユークリッドをタグボード代わりに入港して来たのは大西洋連邦艦隊。
先頭を行くのはAA級が3隻、メタトロン、サンダルフォン、アクエリオン。
メタトロンとサンダルフォンはドミニオンと同じ灰色のカラーを奔るグリーンの電路が特徴的だった。

 

アクエリオンは……なんとも形容しがたい。 
アークエンジェルと同じ白をベースに、各部を赤青緑に塗られた斬新極まる迷彩塗装が施されていた。
それも、その筈で現在の塗装はロールアウト時の各部の検査用塗装のままなのである。
本来ならば僚艦と同じカラーに塗装されるはずだったのだが、公試の後そのまま慣熟航海に入り、
月基地に帰還した途端にプラント開放連合艦隊に組み込まれてしまった為、
塗りなおす暇が無かったのである。
だが他国の人間には知るすべも無い。
その為、白をベースに各部を赤青緑に塗られた斬新極まる迷彩塗装がこの戦役の後、
各国宇宙軍艦艇で大流行する事になる。
今までの国とは違い、甲板にMSは並べておらず、大国の威厳のようなものを感じさせた。

 

旗艦、メタトロン士官用控え室に、表情を歪ませた女性がいた。 
黒髪を頭頂部に纏め、左頬にある桜のような痣が特徴的だった。
「気分がお悪いようですが、大丈夫ですか?」
大尉の階級章をつけたパイロットスーツを着た男が心配そうに声を掛ける。
「気分も機嫌も最悪ね。 大尉、貴方はコーディネイターの家にお呼ばれして平気でそこに入れる?」
表情を歪ませたまま、中佐、『乱れ桜』レナ・メイリアは意地の悪そうな声で大尉へと問いかけた。
「私は中佐と違いブルーコスモスではありませんので」
済ました表情、もっともヘルメットで表情は見えないのだが。 で答える大尉。
「残念だったわね。 私も違うわ。 ……それにしても何故艦内でパイロットスーツを着ているのかしら?」
文句を言って少しは気が晴れたのか、先程よりも落ち着いた声でレナは大尉に聞く。
「乙女座の男は我慢弱く、落ち着きの無い男だと定められているのですから仕方ありません」
「はぁ、君はエキセントリックな発言を抑えれば、もう少し出世できるわよ。
 腕も指揮能力もあるのだから」
大尉のなんとも言い難い表現に溜息をつくと、老婆心からの忠告をする。
「遠慮しておきます。 私は生涯現役です。 この果てしないそらにそう誓ったのですから」
外に見える漆黒の宇宙に恍惚の表情を浮かべると大尉は言う。
「はぁ……勝手になさい」
「では失礼します」
再び溜息をつくと手をひらひらと振り、退室を促し大尉は敬礼と共に立ち去る。

 

大尉の後姿を見ながらレナは思う。 
部下と教え子に恵まれないのは自分の天性のものか、と。

 
 
 

アーモーリー1工廠地下

 

「何突っ立っているこっちに来い」
想定外の事態に口を半開きにしたまま呆然と立ち尽くすシンに局長は自身の方へと手招きをした。
ちょっとゴリラのドラミングぽいなとシンが思ったのはここだけの話である。
「は、はぁ……」
気の抜ける返事を返すとシンは視線をインパルスへと向けたまま歩き始める。
見た事はないが、鳩が豆鉄砲喰らった時の顔とはこんな感じか。 
ふと、そんな事を考えながらコートニーも後に続く。
「さあ座ってくれ」
シンの顔を愉快そうに見ながら、局長は簡素な作りの机と椅子への着席を促す。
「あの、こいつは一体? なんでインパルス?が……」
「まぁ、待て、茶ぐらい出してやる。 話はそれからでも遅くはあるまい」
ようやく冷静さを取り戻したシンは、疑問の答えを得ようと、矢継ぎ早に質問を投げかけるが、
やんわりと静止される。
「……はい」
またしても曖昧な返事を返すしかなかったシンは、不満げな表情を隠さず渋々席に座る。
コートニーはそんなシンを横目に砂糖とミルクを取りに行っている。
「出涸らしの茶で悪いが飲んでくれ」
金属製のポットから言うとおり薄い紅茶をカップへと注ぐ。
「いただきます」
素直にシンは応えた。

 

「さて、早速で悪いが本題を話そうか、……巡を追って話すから余計な口は挟むなよ」
ある程度シンが紅茶を口にして、一息ついたのを見計ると、
局長は大型のディスプレイを机の前に持って行き、口を開き始めた。
「はい、お願いします」
既に抵抗する事を諦めたのか、素直に頷くシン。
「先ずはこいつから説明しよう。 
 NZMF−X13コードネーム『アスラーダ』 インパルスエクシード…
 …一応プロトプロトガルバルディって事になっている
「実際にはコイツが本命でガルバルディはデチューンモデルだ」
ディスプレイに映るインパルスの設計図を指差しながら進める局長の説明に、コートニーが補足を加える。
「ガルバルディを元にした。じゃなくてインパルスが元なんですか?」
局長の言葉に、シンは驚きと共に声を上げた。
「だから余計な口を挟むなと……まぁいい、質問の答えはイエスだ
 上には言い訳に色々言ったがガルバルディはインパルスエクシードの予算捻出の為の副産物だ。
 基礎設計はほぼ同一で外装や構成素材を変え……オプションを外しただけだ」
微妙に釈然としない表情で、一言、二言呟くと局長は答えた。
「予算捻出って……だいいち、基礎設計いつからやってたんですか?」
「んー、いつからだったかな?」
呆れたようなシンの問いに、思い出そうとにも思い出せず局長はコートニーへと投げる。
「原型なら、デスティニーと同時期に。 全く同じ物はここ一年程ですね」
「そうだったか。……やれやれ、年の所為か物忘れが酷くなっているな」
携帯端末を見てデータの参照をすると事もなさげにコートニーは答え、局長はやれやれと頭を振った。
「ま、兎に角、アスカ。 貴様の戦闘データを元に無駄な機能を省き、リジェネイト寄りに再設計し直した
 真のシルエットシステム対応機。 それがインパルスエクシードだ」
「真のシルエットシステム? リジェネイト寄りにとは?」
力説する局長の言葉に首を傾げるシン。
「シン、俺が以前話した事を覚えているか?」
「ええ……まさか完成したんですか? ドラグーンフライヤーが!」
助け舟を出したコートニーの言葉に、シンはコートニーの語ったインパルスシステムの完成系、
その重要な中核を思い出す。

 

前々大戦、ヤキン・ドゥーエ戦役において、ワンオフの超高性能機と一騎当千のエースによって
戦況が決した事例から、戦場の一つの可能性として研究が進められてきた。
研究開始以前から、戦術レベルであれば兎も角戦略レベルでの勝敗を覆すのは不可能だと分かりきっていた
旧ヴェルヌ開発局局長を中心とするメンバーは、あくまで戦術レベルに焦点を絞り、
一つのコンセプトを纏め上げた。
即ち、あらゆる局面において単機での局地制圧を実現する究極の万能機である。
機体のベースには2機のMSが選ばれた。
一機は敵の戦術に対応するあらゆる兵装を装備した武装の万能化ではなく、
特化された武装を交換することにより柔軟に戦術を変化させることで多大な戦果を上げた
名機ストライクのコンセプトをオマージュしたテスタメント。
もう一機はいくら撃破されても、本体がやられない限り各部位を交換する事で
無限に等しく再生する機体リジェネイト。
この二機の長所を併せ持つ……敵にとって衝撃(インパルス)を与える機体。 

 

だが長所を併せ持つと言う事は短所も同じと言う事である。 
つまり、単機では武装の交換が出来ず、破壊された部位が近くにない場合再生できない。
それらを補うべく計画されたのが、インパルスシステムの中核、ドラグーンフライヤー。

 

この無線誘導型無人航空機は、全てのパーツを、ドラグーン・システムでリンクし、
母艦のサポートによらず単独自由自在にでパーツの換装やエネルギー補給を行う媒介として計画された。
だが、設計段階で空間把握能力適正の問題とコストの高さが問題視され、
単純な命令のみをこなすシルエットフライヤーへと変わり、インパルス本体もユニウス条約に規定された
「MSの保有数の制限」の規制をパスする目的から3つのパーツからなる分離・合体機構を採用したため、
インパルスはインパルスシステム対応機としては未完成に終わってしまったのである。

 

「そうだ! 技術的ブレイクスルーにより、ドラグーンフライヤーは適正、コストの面も改善した!
 ドラグーンフライヤー完成により、チェスト、レッグの飛行機能は不要になった。
 そもそもいらなかったけどな! 
 よってリジェネイトの様に各部位のフレキシブルな運用が可能になったのだ」
バン! とディスプレイを軽く拳をぶつけると、局長は声を荒げ叫んだ。
「装甲素材はVPS複合装甲。 バイタルパートだけラミネート装甲を使ってる。 
 固定武装として『頭部12.7mm近接防御機銃』 
 通常装甲、中距離戦闘用に『胸部50mm対MS用長砲身高初速機関砲』
 腕部にソリダス・フォルゴールの流れを組むビームシールド、ビームソード兼用の
 ビームドライブユニット『ビームカタール』
 肘にもちょっと仕込んであるが後でのお楽しみだ。
 脚部に装備されていたフォールディングレイザーは撤去され、
 膝装甲裏側に、射出可能な超高速電磁加速PSパイルバンカー『ベルゼルガ』を新たに装備。
 さらに踵にあたる部分に新型ブームブーメラン『ライトニングエッジ』を2本づつ装備!
 白兵戦においては、まさに無敵のMSだ!
 ……突っ込まれる前に言うが、遠距離戦は各シルエットでカバーするぞ」
「全身武器の塊ですか。 防御力はどうなんです?」
局長の熱の篭った解説と機体スペックに感心しながらシンはふと沸いた疑問を投げ掛けた。
「ああ、装甲は当てにするな。 避けろ。 受けるならビームカタールで、だ。」
「……ん? 待ってください、VPS装甲があてにならないんですか?」
装甲をあてにするな。ビーム兵器が標準装備となった現在では珍しくは無かったが、
わざわざ協調する局長の言い方にシンは引っかかりを感じた。
「昨今はビーム兵器が標準化されてるからな。 装甲は無意味だ」
「一寸、スペック表見せて下さいよ」
何故かシンを直視しようとしない局長に業を煮やしたのか、シンは白い目でスペック表を要求する。
「ほら」
シンとコートニーからの冷たい目線に耐え切れず、あからさまに嫌そうな顔で携帯端末を渡した。
「…………バッテリー機なのに随分出力がありますね」
「機体各部にコンデンサとバッテリー仕込んであるからな。無論新型デュートリオンシステム搭載だ。
 そこらの核動力機相手にしても引けはとらん」
「へぇ……」
「どうだ? 何も問題あるまい?」

 

「軽い……」

 

(気付いたか)
ぼそりと呟いたシンの一言に、コートニーは局長には見えないように口元を歪ませた。
「VPS装甲使ってこの重さは……ガルバルディと変わらない筈無い。
 局長、装甲厚どれぐらいあるんですか?」
「……」
シンの追求に、局長は何も言わず、人差し指と親指で厚さを表現する。
「それで分かりますかい」

 

「5cm……」
普段では考えられない、まるで別人のようなSっ気たっぷりの冷たい目に晒された局長は
観念したのか具体的な数字を口にする。
「はっ?」
「5cmがVPSの厚さだ! 後はハニカム構造の軽量特殊合金だ。
 ……そんな目で見るな!  仕方なかったんだ!」
装甲厚5cmと聞いたシンの見ただけで人を殺せるような目つきに、局長は必死で目線を外し、
コートニーは乾いた笑みを顔に張り付かせる。

 

「許してやってくれ、軽量化と機体剛性、耐久性、防御力を確保して、両立するには
 VPSと軽量特殊合金の複合じゃないと破片や機銃、実弾ダメージ、質量兵器の衝撃を殺せないんだ」
「あ、謝らないでください……えっと」
局長に変わり、頭を下げるコートニーに、シンは慌てて頭を上げるように言う。
「……すまん。 一応強度は保証する。 理論上は対艦ミサイルスレッジハマーを喰らっても墜ちない」
「本当に大丈夫なんですか?」
平静を取り戻した局長も頭を下げ、ディスプレイに装甲防御力と計算式を表示させる。
「少なくとも、デスティニーみたいにPSダウンする事はない」
頭を下げたまま、デスティニーとの比較画像を見せる局長。
シンが、局長に頭を上げる様に言わなかったのは、キラにも見せた意地……と言うかなんと言うか。

 

「あ、局長、一つ聞きたいんですけど」
「ん、何だ?」
ふと思い出したように言うシンに局長は頭を上げる。
「プロトガルバルディに積んであったユニットRB。 あれ、何なんですか?」
「……ユニットは、パイロット補助用の……バイオコンピューターだ」
「本当ですか?」
「ああ、そうだ。 元々はこの機体のためのデバイスだ。 既に積み替えてあるがな」
歯切れ悪く答える局長にシンは再び問いただし、局長はゆっくりと頷いた。
「まぁ、だったら良いんですが。 ああ、そういえばインパルスなら、シルエットもあるんですよね」
「おお、よく聞いてくれた。 とりあえず3つ。 
 プロトガルバルディに装着されていた中距離高機動型クロスフォース、
 近距離格闘型アシュラソード、遠距離砲撃型ヘッジホッグブラスト」
気を取り直し話題を変えたシンに、局長は大画面モニターを指し示して
インパルスエクシードの完成図を見せる。
VPSの起動したインパルスエクシードは、白い機体色をベースに所々を青に塗られた
レーシングカーかコンセプトモデルをイメージさせるものだ。
「クロスフォースはもう使ったから知ってるな? 
 ロングライフルに、マイクロミサイル、高機動ウイング。ベーシックな中距離戦主体のシルエットだ
 エクシードではそれに加えてサイドアーマーにレールガンを追加し」
 それまでの高機動型の弱点、バランスが良い反面、パンチ力不足である所を補う為、
 火力の底上げと手が塞がってる時用だ。 後は肩に追加スラスターを追加してる」
「なんか、フリーダムっぽいですね」
デスプレイの完成予想図を見るとシンの言うとおり、レールガンと翼、それにカラーリングの所為か、
何処かキラ・ヤマトのフリーダムを思わせた。
「……気に入らんなら外せるぞ?  プロペラントにする案もある」
微妙に不満げなシンの様子にコートニーは声を掛ける。
「レールガンを外すなんてとんでもない! 両腕がやられた時どうするんですか!」
コートニーの言葉に、机を両手で叩き、勢いよく立ち上がるとシンは血涙を流しながら訴える。
「す、すまない。 余計な事を言ったようだ」
「わ、分かった。 そのままにしておくから落ち着け」
シンの鬼気迫る様子に、コートニーは素直に謝り、局長も興奮したシンを宥める。

 

「じゃあ、次はアシュラソードか。 インパルスの横に実物があるから、それを見たほうが早いな
 横にあるのが主兵装たるビーム対艦刀、MA−1018、ロンゴミアントだ」
局長の指差す先、インパルスエクシードの横には、確かに二本の片刃の対艦刀が無造作に置かれていた。
ただエクスカリバーやアロンダイトに比べれば斬機刀と言っても良いほど短く、
重斬刀の様に厚みがあった。
「んー、なんていうか、なんか短くないですか?」
シンは戸惑っているのか言葉を選び言いよどむ。
確かに対艦刀を名乗るには少し短かった。 
だがその刀身には重量感があり、見掛けからも対艦刀の名に相応しい威力がある事は分った。
その辺りの微妙な感覚がシンを言いよどませたのだろう。
「いいんだよ! 対艦刀、特にザフト製。 いや! もっと言えばMMI製対艦刀と言えば、
 長い、細い、薄い、良く折れる」
「う……」
シンの疑問にムッとしながら声を張り上げ、局長は叫ぶ。
確かに言う事は一理あり、シンもまた戦闘中に折れた経験があるので、言葉に詰まる。
ちなみにMMIとはマイウス・ミリタリー・インダストリーのことで銃機の老舗と呼ばれ、
MS開発初期からMS用銃器の開発に関ってきた民間メーカーである。
だが、重斬刀の老舗であるMA(マティウス・アーセナリー)のシェアを奪う為に作られた
テンペストビームソードのザフトへの正式採用により近接兵器にも手を伸ばしていた。
「MMIは馬鹿じゃないのか!? 短くして、太くして、厚くすれば良いのによ。
 エクスカリバーが折れるって意見出しても懲りずにアロンダイトも細くしやがって
 しかも伸縮なんてさせるから強度はガタ落ちだ! 馬鹿野郎どもが! 銃器屋は鉄砲だけ作ってろ!」
どうもMMIへの怒りはかなり私怨が混じっているらしい局長の罵倒は未だ止まらない。
「でも、言いすぎじゃないですか?」
「局長、それは暴言じゃないかと」
シンとジャンは口を揃えて局長に批判的だ。 というか一人で怒り狂ってるだけなのだが。
「……シン、お前対艦刀何回折れた?」
吹いたりの批判に、局長は不満そうに口を尖らせるとシンを睨みつけた。
「折れない武器が一番ですね!」
即答だった。 エクスカリバーやアロンダイトが折れるのは、余程らしい嫌な思い出らしい。
「そうだろ? MAに特注で作らせたコイツなら間違いなく折れん!」
シンの言葉に頷くと、局長は顔の前で拳を握り締め、ロンゴミアントを指し示す。
「言い切りましたね」
「フン、なにしろレアメタルを大量に使っている上に、MAの技術の粋がつぎ込まれてるからな。
 煽りまくった甲斐があったと言うものだ」
半ば呆れたようなコートニーの口調に、邪悪な笑みを浮かべるとほくそ笑んだ。
どうもMAに茶々を入れて、技術屋根性を煽った後、作らせたらしい。

 

「そういえば、肝心のシルエットがありませんね」
局長の邪悪な笑みと問題発言を華麗にスルーしたシンの言う通り、
 回りには、銃身とアンカーユニットのついた増加肩アーマーはあるが、肝心の背負い物が見えなかった。
「アシュラソードシルエットのバックパックは調整中だ。 
 本体は仕上がっているんだが、それに付随するアームユニット、
 ドリル、バイス、ウィップ、ライトニングの4つが未調整でな」
なにやらブツブツ言っている局長を無視し、シンの疑問にコートニーが答える。
「まぁ、調整やら直ぐに終わる。 これからやれば……なんだ!」
コートニーがシンに向かい、振り向いた瞬間、周囲に甲高いサイレンが鳴り響く。

 

「何だ! 何があった!?」
自分の世界に入り込んでいた局長は我に返り、慌てて電話を取り、地上との連絡を取る。
「なんだと?……本当か!……分かった」
「局長」
「どうだったんですか」
シンとコートニーは局長へと真剣な眼差しを向ける。

 

「最悪だ。 哨戒ラインが突破された……敵が来るぞ」

 

局長の言葉に、シンは自身の心臓の鼓動が高まるのを確かに感じていた。