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SCA-Seed_MOR◆wN/D/TuNEY 氏_第19話

Last-modified: 2009-08-04 (火) 01:09:48

『まだ、まだ戦争がし足りないのか! 貴様らは!』

 

戦場全てに響き渡るシンの叫びに、全てがまるで凍り付いたように動きを止めた。

 

「インパルス……まさか、ミネルバの鬼神だとでも言うの?」
白い105ダガー、その片割れ若い女性の声でラプター2は静寂の中、誰にでもなく問いかけた。
「……ラプター2、フレスベルクは後だ。 先に鬼神モドキを潰す」
長年連れ添った公私共の相棒の声に、正気を取り戻したのか、ラプター1は淡々と告げる。
「モドキ? 本物だったら?」
「本物かどうかは、交戦して確かめる……どちらにせよ、潰す」 
ラプター2の疑わしげな声を断ずるかのように、ラプター1は力強く言い切った。
「フフフ、貴方らしいわね。 分かった、付き合うわよ……最後までね」
「すまない。 苦労させるな」
はっきりとした態度のラプター1に微笑み、そして答える。
「少佐殿、お行きください! そして我らが仇敵、あの鬼神に報いを!」
「分かった。 ここは任せる」
「後は頼むわね」
NダガーNに乗る、ヤキン・ドゥーエ以来の部下の叫びに頷くと、
2機の105ダガーはガルバルディαの包囲から離脱して行く。

 

「退いていく?……あー、なるほど。 シン狙いって訳ね……」
離脱して行く105を横目に見ながら、ルナマリアは一人呟く。
「フレスベルク、その命ここで奪わせてもらう!」
「……ふーん、私じゃ歯牙にも掛からないって? 舐められた物ね。
 だったら思い知らせてやろうじゃない!」
NダガーNのパイロットの声に耳を貸す事も無く、口元を吊り上げルナマリアは笑った
「交戦している相手に背を向けるとは……舐めるにも程があんのよ」
NダガーNが戦闘態勢に入った瞬間、シールド裏に仕込んだビームダガーを投擲、
NダガーNの右肩を斬り飛ばす。 
その瞬間、一瞬体勢が崩れた隙を突き、シールドを構えトライフォースの最大出力で突撃する。
「馬鹿め、PS装甲相手にそんな物が……」
瞬時にして距離を詰めたガルバルディを馬鹿にしながらN、ダガーNのパイロットは見た。
菱形のシールド表面が青白く光輝いているのを、そしてそれが最後に見た光景。
青白く輝く菱形のシールドはNダガーNのコックピットに深々と突き刺さっていた。
「なんだ、ゴリ……コホン局長、試作型って言ってたけど使えるじゃない」
シールドを引き抜きながら先程とは一転し、上機嫌でルナマリアは鼻を鳴らす。

 

ルナマリア機が装備していた菱形のシールドは局長が試作装備として製作した
ビームコーティングシールド・略してBCS。
実体シールド表面に、微弱なビームを纏わせる事により、
実体シールドの利点とビームシールドの利点を持つシールドである。
実体弾にもビームにも有効で、シールド自体にバッテリーが仕込まれており、
本体の稼働時間にも影響を及ぼさない。
また対PS装甲用にビームカッター、ビームガン代わりにもなる。
……分かりやすく言えばザフトの大好きな武装複合シールドの発展型である。

 

「さあ、次は誰が相手をしてくれるのかしら?」
残った二機のNダガーNへと視線を向けるガルバルディα。
NダガーNは警戒を強めたのか、容易には仕掛けようとはしない。
「来ないならいいわ。 今度も此方から仕掛ける」
再び口元を吊り上げルナマリアは笑う。
それは笑みのかつての意味、獣の牙を剥いた動作。 つまり狩りの始まりを意味していた。

 
 

『さて、派手に大見得を切ったは良いが、これからどうするんだ?』
「あらゆる局面において単機での局地制圧を実現する究極の万能機……その真価を見せて貰う」
戦場のど真ん中へと高速で移動するインパルスエクシードの中でRBとシンは会話を交わしていた。
その様子は何処か余裕すら感じさせる。
『……とは言っても、シルエットは一つ。 ドラグーンも無い、
 シルエット自体も未完成では、良い所15%が精々だかな』
「2割行かないのかよ。 だが十分だ、RB。
 今装備している対艦刀は何故対艦刀と呼ばれてると思ってるんだ?」
嫌味にも聞こえるRBの言葉に、シンは表情を一瞬歪ませると、不敵な笑みを顔に浮べる。
『ああ、成る程……戦術的にも悪くない判断だ。 だが、先にミネルバを救援すべきだろうな』
「分かってる。 ミネルバは今度こそ俺が守る」
RBからの言葉に頷くと、シンは両手を痛いほど握り締めた。
あの月での最終決戦でシンとレイが離れた為にミネルバがAAに沈められたことは
シンにとっても軽いトラウマとなっていた。
『ああ、そうだな。 今度こそ、な』
RBの言葉に僅かな疑問を抱いたシンだったが、今は他にすべきことがあると心の片隅へと押し込んだ。

 

無数の敵機がミネルバを取り囲むように飛び回る。
それはまるで巨象に纏わり付く蜂の群れのようだ。
「対空砲火急げ! 左舷弾幕薄いよ!」
蜂であればどれほど良かったかと内心思っているアーサーの悲痛とも言える叫びが
ミネルバIIブリッジに響く。
「対空砲座1、6、8番沈黙 防空性能5%低下!」
チェンの報告と共にミネルバが放っていた火線の内の数条が消え去り、
代わりにに閃光がミネルバに向け放たれる。
「アビー君、MS隊は!?」
「ホーク隊、シェダー隊共に包囲から抜け出せません!直援機は深追いする必要はありません。
 増援の到着まで撹乱を……」
「くっ! 推進部周辺に被弾!」
アーサーの問いに答え、管制を行っていたアビーの言葉は艦全体を揺らす衝撃と、
バートの被害報告に遮られる。
「足回りを潰しに来たか……」 
「くっ、直援の三機では手が回り切らない」
アーサーとアビーが衝撃から立ち直り、同時に呟いた瞬間。
「ミィィィネルバァァァ! 友の仇ィイ! 沈めえッ!」
ミラージュコロイドを使い濃密な対空砲火と直援機の防御網を掻い潜り、
ブリッジの目の前でNダガーNが大上段に対装甲ブレードを振りかざす。
ブリッジにいた全員が声も発することが出来ずに、死を覚悟した。

 

「そうは……行くかよ!」

 

全周囲に響き渡る男の声が無線機から流れ出る。
思わず体、思考すら硬直したオペレーターは確かに見た。 
白い四肢に赤い胴を持つ彼女達の世代にとっての伝説を。
「こちらシン・アスカ。 インパルスエクシード、ミネルバの援護に入る」
『シン、そのまま膝を叩き込め』
シンはRBの指示に従い、インパルスエクシードは加速したままNダガーNの脇腹に膝蹴りを叩き込む。
NダガーNが吹き飛び、体勢の崩れた瞬間、エクシードの膝裏が展開し、
PSした鋼色の杭がコックピットを貫いた。

 

「シン・アスカ! 本当に生きていたのか!?」
その光景に周辺をバラバラに飛び回っていたMS群の内、対艦装備型は後方へと退き始め、
それ以外の数機が部隊を形成する。
「鬼神が何だ! 俺がやってやる!」
だが、それを無視して単機で仕掛けるエールウインダムがライフルを乱射しながら突撃。
「無茶無理無謀。 勇気の意味を間違えて単機で仕掛けるなんて嘗められたものだな……
 もう勝ったつもりか?」
『よろしい。 ならば……教育してやるとしよう』
「勿論、そのつもりだ」
そう言うと共に飛来するビームを機体を右回りに側転させる事で避ける。
次の瞬間、インパルスの足元が輝き、4つの閃光が放たれた。
稲妻の刃の名通り、青白く複雑な軌道を描いた4つの閃光がウィンダムに襲う。
不意を付かれ、4本のライトニングエッジに四肢を絶たれたウィンダム。
通常の体勢へと戻りながらライトニングエッジを踵で受け止めたインパルスエクシードは
休む間も与えず胸部機関砲を発射。
PS装甲を持たないウインダムはコックピットを含む各所に大穴が開き、その役目を終えた。

 

ライトニングエッジは従来型のビームブーメランが
掴み、狙い、投擲するという3モーション必要としたのに対し
肩や腰から踵部分に装備位置を変え、掴むという動作を省略。
戦闘機動や回避機動の一部に投擲する動作を組み込むことにより隙を少なくすることに成功した
インパルスエクシードの中距離兵装である。

 

『4時方向新手だ。数は6』
シンはRBの警告に反応し、振り向き様に肩の増加装甲に装備されたアンカーを射出。
先頭を進んでいたダークダガーLがアンカーに捕まりインパルスエクシードの方へと引き寄せられる。
味方機に当たるのを恐れた敵機を後目に、シンはダークダガーLの位置を調整すると
前方にロンゴミアントを突き出すように構えた。
アンカーの勢いと、ロンゴミアントの硬度を合わせた運動エネルギーは装甲を貫き、
刃はダガーLのコックピットへと突き刺さった
「おのれシン・アスカ!」
無残な味方機の亡骸に激昂した5機は烈火の如き勢いでシンへと襲い掛かる。
シンは直撃のみをカタールで弾き、最小限の動作で敵弾を回避するとロンゴミアントを引き抜き
、機体を蹴り飛ばした。
「RB散弾を3発装填頼む、後はスラッグを!」
『了解だ』
インパルスが蹴り飛ばした機体を思わず受け止めた敵機にシンは肩アーマーの砲口を向ける。
ショットシェルに数十発近くの対艦船用大型ベアリングを仕込まれた弾丸が放たれた。
大気圏内では重力などの影響により、遠距離では威力の落ちる散弾も空間戦では
慣性の法則により速度を落とさず運動エネルギーが直接叩き込める。
対艦船用大型ベアリングは物理的衝撃に無類の強さを誇るPS装甲でさえ直撃を受ければ只では済まず
装甲の隙間や関節部に当たれば致命的なダメージを受ける代物だ。
そのベアリングが百発近くばら撒かれた。
特殊合金球の嵐が一瞬の内に6機の内4機。 過半数が戦闘不能に陥る。
その様子に慌てて距離を取ろうとするダガーLとウインダム。
だが、それを易々と見逃す程シン・アスカは甘い男ではなかった。
片一方の敵機へと突撃すると、もうウインダムに向け手に持ったロンゴミアントを投擲。
直撃を受けたウインダムは文字通りの串刺しになり、後方へと吹き飛んで行く。
「さぁ、あんたで最後だ。 降伏するならよし。 しないなら……」
最後に残ったダガーLはヤケになったのか、ビームサーベルを構え突撃。
『愚かだな』
インパルスは左手のロンゴミアントを収納すると、腰後ろに懸架しているビームランサーを両手で掴んだ。
右手を前に、左手を後ろで支えるように腰だめに構えると背部のスラスターを最大出力で突撃。
ダガーLはシールドを構えるも、大出力ビームの大刃にシールドごと切断され、
腰から上下に分かたれた機体は宇宙をさ迷う。
『ロンゴミアントを回収するぞ』
アンカーを打ち出し、ウインダムに突き刺さったロンゴミアントを回収すると同時に、
ダガーLは大爆発を起こし宇宙の藻屑へと変わった。

 

『周囲に反応なし、1段落ついたな』
RBの声にセンサーをチェックすると、確かに反応はない。
残りの対艦装備の機体は一時退いたらしい。 周辺を目視で確認しながらブリッジへと近づく。
「RB、念のため周辺警戒を頼む」
戦闘で昂ぶった精神を落ち着かせるために、大きく深呼吸をするとシンはコンソールを軽く叩いた。
『ああ、任せておけ』
「ミネルバ聞こえるか? 無事だったら返事を……」
「馬鹿野郎! 遅いんだよこのラキスケ! 何で生きてるなら連絡もよこさないんだよ!」
シンのミネルバへの通信はヴィーノの怒鳴り声で遮られた。
どうやらわざわざ文句を言う為に格納庫からブリッジに上がって来たらしい。
「ヴィーノか?」
「よくもまぁ、今更顔を出せたものですね。 ……と言いたい所ですが、お帰りなさいシン。」
ヴィーノに続いて聞こえたのは若干の嫌味と、多分の友愛を含んだアビーの言葉。
その後方からもざわめきと共にシンの帰還を喜ぶ旧ミネルバクルーの声が聞こえた。
「シン、聞こえるかい? あー、言いたい事は全部言われちゃったな。
 まぁ、兎に角、生きていてくれて良かったよ」
「副長……いえ、今は艦長でしたか」
最後に聞こえたのは元副長アーサーの声。
「ははっ。未だに僕も艦長と呼ばれるのは慣れないよ。 
 シン。 ここはもう大丈夫だ。 だから、君は君の仕事をするんだ」
シンの言葉に照れ笑いを浮かべ頬をかくと、アーサーは真剣な顔つきで言った。
「……はい! 行くぞRB」
『了解だ。 ドライバー』
アーサーの言葉に、シンは力強く頷くと機体を虚空へと反転させた。

 
 

「邪魔をするなぁ!」
敵艦隊を目指す進路に立ちはだかるユークリッドをロンゴミアントの一薙ぎで両断すると、
残骸を踏み越え、インパルスは更に加速する。
『前方距離600。 数3全機MAだ』
「糞ッ、数ばかり……!」
『いっその事、迂回したらどうだ?』
舌打ちするシンにRBは提言する。
先程から敵はMSを下げ、MAを前面に押し出すようになってきていた。
それがシン、インパルスエクシードを脅威と感じての事であるのは間違いなく、
シンもMA相手では多少ではあるが梃子摺り始めていた。
「駄目だ……ここで迂回するとミネルバに敵が殺到する」
『ルナマリア達がいるならともかく、シェダー隊の3機では役者不足か』

 

シェダー隊の名誉の為、明記するがルナマリア達とシェーダ隊に大きな実力差はない。
練度や連携は各国全軍を比較対象にしても上位に位置する。
なら、何故役者不足なのか。
それは単純にミネルバとの意思疎通の問題である。
艦載機隊であり、ホームとも言え、阿吽の呼吸で動けるホーク隊と
基地所属で、仮住まいどころか軒先を借りている状態のシェダー隊。
この二つの部隊では重ねて来た信頼、何処まで任せて良いのかという微妙な感覚が違うのだ。
ホーク隊は指示が無くとも、阿吽の呼吸で穴を見つけ、動けるがシェダー隊ではそうはいかない。
シェダー隊では守りきれないが、シンがあの場にいたのでは戦局の打開は出来ない。
ホーク隊、シェダー隊本隊は、遥か前方で敵に囲まれ、合流も出来ない。
「八方塞がりかよ。 こうなったら、いっその事心中覚悟で突っ込むか?」
『落ち着けドライバー、後方に反応、かなり早いぞ』
物騒極まりない事を呟くシンを静止しながら、RBのインパルスエクシードのセンサーは
アーモリー1方向から接近する機影を捉えていた。

 
 

漆黒の宇宙を裂くかの様に進む機影、灰色の三機。
オーブ軍所属の可変MSムラマサが横一直線に並んでいた。 
「いいんですか、隊長勝手に出てきちゃって」
左側に位置するムラマサに乗るワダが真ん中の隊長機オシダリ機へと問い掛けた。
「勝手じゃない……権限は移譲したし、許可もとった」
「どうなっても知りませんよ」
何かを思い詰めたような様子で言葉少なくオシダリは答え、その様子にワダとヤマダは溜息をつく。
オシダリの状況はかなり良くない。 あの銀行強盗事件とはまた違うベクトルで追い詰められている。
多少チンピラじみてはいるが、オシダリは基本的には善良
(まぁ、戦闘に巻き込まれた親子に対し、見て見ぬ振りが出来ない位には)な普通の人間である。
ただし、精神的に打たれ弱く、追い詰められると何をしでかすか分からないところがあった。
その結果が例の事件であり、二人はまた自棄になったんじゃないかと気が気ではなかった。
「そもそも、付いて来い。とは言って無いがな」
「またまたつれないなぁ。 一緒に悪さした仲じゃないですか」
悲痛な様子のオシダリを気遣ってか、若干おどけてヤマダは言った。
「でも理由位聞かせてもらいたいですね」
ワダはヤマダとは違い感情を控えめに、静かに問う。
「そうだな。 自分勝手で偽善的な罪滅ぼしみたいなもんさ」
悲痛とも言える声を隠そうともせずにオシダリは言い切る

 

国を守らなければいけなかった軍人が、一人の少年の家族さえ守れなかった罪。
軍人として命令に従って、一人の青年の未来を消してしまった罪。
それらの罪は自身の死を持ってしても償いきれないだろう。
だが、アーモリー1でシン・アスカが生きていると、一人で出撃したと聞いたとき自然に体が動いていた。
そんな事をしても間違い無くシン・アスカは許してはくれまい。
殺されるかもしれないがそれも良い。 ……自分のような小悪党には相応しい最後だ。
そしてもう一つ。 死ぬ前に、一人のパイロットとして、あの時の青年が、
あの愚直なまでの蛮刀がどうなったか見てみたかった。
「全くつくづく救いがたいな」
自嘲しながらふと横を見ると、黒いウィンダムが三機、いつの間にか併走していた。
「オーブ軍機、同行させて頂く。 拒否しても、無理にでも付いて行くがな」
「む、連合軍にオーブ軍か。 丁度いい同行させてもらおう」
通信と共に赤いリフターを背負った近接仕様Gタイプ、青い重防御Gタイプ、
マサムネとは違う白い可変タイプの機体の統一感の無い三機が後方より接近する。
その三機こそPMCアメノミハシラのトップエース、エドのカラミティ改“スサノオ”
ジェーンのフォビドゥン改“ツクヨミ” ジャンのヤタガラス重装高火力型。

 

始めの通信以降、暫くの間、不思議な沈黙が続いた
出逢う場所が違えば、戦闘になっていたかも知れない面子が揃っている
ただその場に言葉など必要ないようにも思えた。
何の意図があり腹に何を抱え込んで何を考えているかは分からない。
だが、目的は同じである事は会話を交わさずとも分かった。 今はそれだけで十分だった
「これは、簡単に死ねそうには無いですね」
「ああ、全くその通りだな」
此方を見透かしたような皮肉な笑みと共に嫌味を送ってくる部下二人に、
オシダリは同じように出来る限りの嫌な顔をしてやった。

 
 

「機影接近! 数9! 」
「シグナル確認、急いで!」
9機の機影はミネルバでも捉えられていた。
焦りを感じさせるオペレーターの声に、アビーの叱責が飛ぶ。
「……識別信号確認。  連合軍とオーブ、PMCアメノミハシラ。 味方です!」
オペレーターの嬉しそうな声がブリッジに響き、艦内の空気が変わる。
「ザフト、きこえるか! オーブ残存艦隊所属タキト・ハヤ・オシダリ以下二名! 加勢する!」
「こちら大西洋連邦宇宙軍所属特務中隊オーバーウイング。
 コールネーム、フラッグリーダー以下フラッグ2、3これより援護に入る!」
「アメノミハシラ所属ジャン・キャリー、ジャック・リッパー、エイハブ・モビーディック
 これより貴艦の護衛任務に就く」
陣営の違う三隊から通信にミネルバだけではなく、全体の士気が戻り始める。
「エ……リッパーさん、エイハブさん、ジャンさん!」
「母艦と退路は任せろシン!」 
「まぁ、任せておきなさい」 
「大船に乗った気でいたまえ」
アメノミハシラ陣営、その中でも最も信頼する三人の、三者三様の反応にシンの顔に気合が戻る。
「こちら、ミネルバ艦長アーサー・トライン。 貴隊らのご助力に感謝します」
「プラントとオーブが同盟関係にある以上当然の事」
「国家間の盟約により動いているまで。 気遣い遠慮一切無用です」
「そういう契約ですからね……それよりも管制をお願いします」
流石ベテラン揃いと言うべきか、9機は要請を受ける前にミネルバの狙われやすい位置に移動していた。
「後顧の憂いは絶てたな』
「RB正面から一気にぶち破るぞ!」
『ああ、派手にやろう』
RBの同意を合図としたかのようにインパルスの背部に火が入り敵艦隊へと向け突貫する

 

「馬鹿な単騎で斬り込みだと!?」
後ろを気にする必要なくなったシンとインパルスエクシードはまさに暴風が如き勢いで戦線を蹂躙する。
「戦線が、戦線がもたない!」
立ちはだかるMAを斬り捨て、MSを薙払うその様は正に鬼神のようだった。
『ドライバー、味方だ……どうも囲まれているようだな』
「トライガルバルディα……ルナか!」
見覚えのある機影にシンは声を上げる。
『どうする』
「当然助ける。……行き掛けの駄賃だ」

 

両手にバズーカとライフルを構えたガルバルディが回避運動に緩急をつけ、ジグザグに動く。
ルナマリア機の周囲を取り囲むのは、ユークリッドが二機にゲルズ・ゲー。
増設されたビーム砲による弾幕で、迂闊に近づけば蜂の巣にされかねない。
「もう、本当にもう鬱陶しいわね!」
不満げに叫びながらルナマリアは、自身を狙うビームカノンの弾幕を避ける。
トライフォースシルエットはクロスフォースシルエットの量産型だが、基本的にその能力はほぼ同一だ。
だが、量産に伴い安定性と扱いやすさを重視した為、最大出力推力など一部の性能では劣っている。
しかし、中速域での機動性、速度維持性能などではむしろトライフォースの方が上であり、
ルナマリアはその特性を生かし豪雨の様な弾幕かを潜り抜けていた。
「このままじゃ埒が開かないし……やってみますか」
一旦ライフルをしまい、バズーカの弾倉を散弾へと取替え、装填すると目眩まし代わりに乱射する。
陽電子リフレクターでは実弾を防ぎきれない為か三機は散開。
回避に専念するためか、一瞬弾幕が途切れ、生まれた僅かな隙に一機のユークリッドの懐へと飛び込む。
バズーカを投げ捨てるとサーベルを抜き、コックピットへを突き入れた。
動きの止まったユークリッドを蹴り上げ、次のMAへと向かおうとした刹那、
現れたゲルズ・ゲーのクローに拘束された。
「あっ、ちょっとヤバいかも……」
どこか他人事のようなあまり危機感を感じさせないルナマリアの声。
そんなルナマリアの内心などお構いなしに、ゲルズ・ゲーの砲口にエネルギーが収束し始める。
だが、ルナマリアがビームに貫かれる事はなかった。
「何やってんだよ、ルナ」
飛来した4基のビームブーメランによって、ゲルズ・ゲーのクローが切断されたからだ。
拘束が解かれた途端にガルバルディは瞬時に距離を放し、
ゲルズ・ゲーにはインパルスエクシードの胸部機関砲が叩き込まれ爆散する。
周囲を見渡すと最後のユークリッドも対艦刀により17分割されていた。

 

「シン!……べっ、別に助けてなんて言ってないんだから!」
戦友の登場に嬉しそうに声を上げるルナマリアだが、次の瞬間照れ隠しからか強気な態度をとる。
「……デレツン?」
『それはただの嫌な女じゃないか?』
「なに馬鹿な話してるのよ。艦を堕としに行くんでしょ……援護位するわよ」
気の抜けた会話を交わすシンとRBに呆れ気味にルナマリアは言い放つと
サイドアーマーのライフルを両手で掴んだ。
「悪い、頼んだ」
そう言いながらシンはインパルスを振り向かせ、機体を再び加速させる。
シンが先頭に立ち、ルナマリアが後に続く。

 

(懐かしいな)
何年かぶりのフォーメーションにシンは思わず表情を緩めた。
それは、旧ミネルバで戦争勃発以前に幾度となく繰り返し訓練した強襲フォーメーション。
ゲイル、ショーンがミネルバを守り、シンがフォワード、ルナマリアがバックス、
そしてレイが中央で前衛の指揮をとる。
インパルスが斬り込み、赤いルナマリア機が援護する。 
かつてと酷似した状況にルナマリアもシンも同じ事を考えていた。
過ぎ去った過去と喪われた命。 それらは決して戻る事はない。
だから彼は彼女はいなくなった人間の想いを背負い、この場に立っている。
それは二人に過去を思い出させるには充分で、年月を経たとは言え二人の信頼に言葉はいらなかった。

 

二機は最大出力でそらを駆ける。
インパルスエクシードの装備するアシュラソードシルエットは直線速度と瞬間加速性能に置いては、
通常時のクロスフォースをも上回る。
アシュラソードとトライフォース。 
最大速度で突貫する二機に追い付ける機体は全軍を見ても数少ない。 
そして、敵艦隊までの直線進路に、二機の行く手を阻む機体はもはや存在しなかった。
『敵艦隊の艦影を確認』
艦影をセンサー確認したRBが警戒音を発する。
「シン、私が正面から仕掛けて囮になるわ。 上手くやってよね」
ルナマリアはシンへと通信を入れ、冗談交じりにウィンクをしてみせると
トライガルバルディαが戦列から離れる。
「任せろ。 ここまで来れば……いける!」
シンはインパルスを迂回させ、敵艦隊後方を目指すと口の中で呟いた。

 

「ん? あれはシンとルナマリアね。……ガストここは一時任せる。
 プルデンシオ、デューク、インパルスを援護する目標敵艦隊中央へ向け30秒間の支援砲撃行くわよ」
敵艦隊近辺にて戦闘を行っていたリーカはインパルスとガルバルディを視認すると
部隊の指揮を部下に任せると、合流していた二人と共にシンの支援に入る。
「了解。 ここにいない隊長の分まできっちり援護します」
「覚悟しな、俺はきちっと当てっぜ」
ザクR2FWとスラッシュ、ブラストガルバルディβの砲撃がドレイク級、ガティ・ルー級を襲う。
「砲撃、味方がいるの?」
艦隊正面で囮となり、対空火器を潰していたルナマリアが飛来するミサイル、ビームに驚きの声をあげる。
「何だ、砲撃?……リーカさんか! ありがたい」
インパルスエクシードが二本の対艦刀をゆっくりと重ね合わせる。
シンはコックピットの中で過去を思い起こしていた。

 

───────────────────────────────────────────────

 

4年(正確には3年半)前
PMCアメノミハシラ 南アメリカ支部シミュレーター室

 

シミュレーターの画面上に映るは二機。 ソードカラミティ。
区別の為か、片方は赤、もう一機は緑と赤の一号機のカラーだ。
一号機は正眼にシュベルトゲーゲルを構え、もう一機は両手をたらりと下に降ろしている。
痺れを切らしたのか、一号機が正眼に構えた対艦刀を振り上げ、一気に踏み込む。
理想的な間合い、踏み込み、振り下ろし。 
全てを断ち切る筈だったその一撃は、三号機に紙一重で避けられる。
僅かな隙を見切った三号機は体勢を崩したまま対艦刀を重ね合わせ、袈裟懸けに一号機を切り裂いた。

 

「っ!」
敗北を告げるブザーに、シミュレイターに座るシンは舌打ちをする。
「まだまだだな。 それで俺に勝つなんて50年は早いぜ」
上機嫌に鼻を鳴らしエドはシンに通信を入れた。
「まだ、もう一回!」
食いつくように画面のエドに迫るシン。
「止めときなさい……今のあなたじゃ、何回やっても同じよ」
だが、そんなシンの血気は開いた、薄暗いシュミレイターの外、室内の明かりによって覚まされる。
「……そんなやってみなくちゃ分かりませんよ」
眩しそうに目を細めると、シンは不満げな顔でジェーンを睨むように見ると呟く。
「分かるんだよ」
「えっ」
シンが声の方へと向くと、エドがシミュレイターから降り、シンへと近づいてくる所だった。
「……どういうことです? やらなくても分かるって?」
今一納得のいかないシンは不満げな表情を隠そうともせずエドに噛み付いた。
「まあ落ち着けよシン。 お前、死ぬのが怖くないだろ?」
「ええ、あんまり何度も死に掛けてますから。 慣れましたよ」
シンを片手で制すると、エドは問い掛けた。
「やっぱりな。 それじゃあ俺には勝てないぜ」
「どういう事なんですか?」
納得したエドの様子に、未だ納得のいかないシンは更に詰め寄る。
「だから落ち着きなさい。 今のあなたは機械と同じってことよ」
そんなシンを見かねたのか、ジェーンはエドの言葉に補足を加えた。
「なぁシン……例えば人と機械が同じ条件で戦ったらどっちが勝つと思う?」
「機械じゃないですか? 正確です」
エドの問いにシンは答える。
「んー、俺の師匠、教官は違うこと言ってたぜ」
エドはシンを諭すように教官、モーガン・シュバリエの言葉を伝える。

 

『人と機械、同じ条件で戦ったらどっちが勝つかだと?
 考えるまでもない、人だ
 確かに機械は正確だ。 しかし機械は恐怖、死を恐れる心がない
 貴様は恐怖を捨てろと教わったかもしれんがな
 恐怖が無い奴は平気で自身の身を晒す……死が、傷付く事が怖くないからだ
 我が身を省みない攻撃は一見脅威に思える。 だがな……それは逆に言えば隙だらけと言うことだ
 だから人は機械なんぞには負けんよ』

 

「シン、貴方は死を恐れすぎているのよ。 だから敵より先に敵を倒そうとする…
 …その焦りが隙になるの」
モーガン、エドの言葉を、ジェーンは弟に話すようにシンへと伝える。
「いいかシン。 死を恐れるな、恐怖を飼いならせ」
「恐怖を、飼いならす。 ……恐れを自分の物にする?」
エドの言葉を、シンは自分なりに咀嚼しながら、呟く。
「そうだ。 それを言葉ではなく心で理解した時、お前はもっと強くなれる」
「……心で。 なんとなく分かります」
「それからもう一つ。 対艦刀を振る時は恐れず、迷わず、躊躇わず一気に振り下ろせ
 今言った事を守ってりゃ……そうだな、俺の次位には対艦刀を上手く扱えるようになるぜ」
シンがおぼろげでも理解した事に安心したのか、先程とは違い満面の笑顔でサムズアップして見せた。
「……全く、人の受け売りの癖に偉そうに」
呆れたような顔でエドを見ながら、ジェーンは苦笑する。
「いえ、ありがとうございました」
礼を言いながらシンは自分に足りなかった何かを掴んだような気がしていた。

 

モーガン、エド、シン。 
無慈悲な戦いの中、それに抗する為、培われた強き心は確かに次へと受け継がれる。

 

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重ね合わせた対艦刀を下段に構え、インパルスエクシードは宇宙を駆ける。
その心は恐れを制し、迷いなど存在せず、一切の躊躇いも無い。
「RB、回避運動は任せる!」
『任せろドライバー、お前は斬る事だけに集中しろ』
シンの目に映るものは只一つ、一心にガーティ・ルーを目指す。
「あれは、インパルス! 鬼神が来るぞ!」
「対空防御! 奴を近づけさせるな!」
「今更気付いても、もう遅いわ。 シンを近づけさせた時点でアンタ達は詰んでいるのよ」
インパルスエクシードの接近に慌てふためくガーティ・ルー級に、
距離をとったルナマリアは皮肉な笑みを浮かべる。
「デューク、アスカさんが行った。 ここは退こう」
「待て。 ……まさか、あの体勢は!」
援護を続けていたプルデンシオとデュークはその技を確かに見た。

 

「これが! 切り裂きエド直伝の……対艦刀だッ!」

 

裂帛の気合いと共に振るわれた一撃は、艦尾から動力部へと繋がり致命傷を与えると、
艦首まで一直線に斬り裂いた。
動力から弾薬に引火し、応急措置すらままならぬまま横一文字に裂かれた部分から真っ二つに爆ぜる。
艦に残っていた酸素が真空の宇宙に真っ赤な炎を吹き上げる。
その勢いを殺さぬまま、次の目標へとインパルスは跳ぶ、それは黒海クレタ沖海戦八艘飛びの再来。

 

「すげぇ……あれが、シン・アスカ。 ミネルバの鬼神か」
「よりにもよって、とんでもない奴の殺害に手を貸してたんですね。俺ら」
ワダとヤマダの声を聞きながら、オシダリはかつての無骨な蛮刀が実戦によって研き上げられ、
強靭かつ鋭利な業物へと変わったのだと悟っていた。

 

「まるで、黒海クレタ沖海戦を見ているようですね、大尉」
「ああ、あの姿を見ているとファントムペイン指揮下のウインダム30機を
 単機で落としたと言うのも 納得できるな」
「ミネルバの鬼神、中隊潰しのシン・アスカ。 月日は経てども未だ衰えずか……心惹かれるな」
黒く塗装されたウィンダムを駆るフラッグリーダー、大尉は部下の言葉に頷きながらも、
不穏極まる台詞を吐いていた。

 

「あんの野郎ぉ……名前出すな! ってあれほど念押ししたのによ……」
一方名前を使われたエドは、不満そうにブツブツと呟く。
本人も先程まで忘れかけていたが、一応脱走兵として、指名手配されている身である。
「あら、照れてるの?」
「弟子が活躍してるからって妬くものじゃないぞ」
そんな様子を見て、ジェーンとジャンはエドを楽しそうにからかう。
「それはねーよ。 それよりもお客さんが来るぜ」
口では何か言ってもエドもまた嬉しそうな表情を浮かべていた。

 
 

「これで全部か?」
ガーティ・ルー、ドレイク、アガメノン合わせて八隻を切り伏せたシンは肩で息をしながら周囲を見渡す。
『ステルスで隠れていた増援の艦隊は今ので全部だ。 まだMS、MAは残っているがな』
「よし、次はMAから潰して……」
RBからのの報告に頷くと、シンは機体を反転させようとした。

 

「……母艦が潰されたか! ラプター2螺旋で仕掛ける」
「ええ、いつでもいいわ」
インパルスエクシードの通信機が敵方の通信を捉えた瞬間、センサーが新たな敵の出現を告げる。
『機種判別。 エール装備の105ダガーだ。 だがこの速度……相当カスタムされているな』
「いずれにせよ、邪魔をするなら叩き伏せる!」
RBの言葉を受け、挨拶代わりの散弾を撃ち放つ。
「そんなものでは止まらんよ」
放射線状に広がった散弾を軽々と避けると、2機の白い105は大きく円を描きながら
時間差でライフルを連射。
シンはビームを避けつつ、ライトニングエッジを投擲するも、シールドに阻まれ直撃には至らない。
「手強い……! やはりエースか!」
ライトニングエッジをシールドで受けた為、一瞬速度が鈍った隙を突きロンゴミアントで切り込むも、
紙一重で避けられてしまう。
「無駄だ! その対艦刀の距離は見切っている!」
ラプター1はシンを挑発し、ライフルを撃つ。
それに対しシンも胸部機関砲により反撃するが、すぐさま射線軸上より退避され、空振りに終る。
「遠距離が攻撃可能な兵装も、正面しか使えないんじゃ意味がないわね」
ラプター2は一定の距離を保ったまま、ライフルによる牽制を行う。
円を描くように位置を常に変え、ラプター2が牽制し、その隙を狙いラプター1が攻撃する。
それが、元大西洋連邦軍所属のエースチーム・番いの猛禽のフォーメション螺旋である。
エド達、フラッグL、オシダリはミネルバを狙い飛来する敵機を捌くので手一杯。
リーカ達と合流したルナマリアも母艦を失い、決死の攻勢を仕掛ける敵と交戦しており、
シンの援護には行けそうも無かった。

 

(何故だ? 何故シンはSEEDを使わない?)
RBはシンの苦戦を目にし、疑問を抱いていた。
SEED。 発動させる事により反射神経、反応速度、戦闘能力が向上する覚醒状態である。
先程から一瞬、シンの瞳から光が消え去りかけるが、歯を軋むほど食い縛ることで元に戻る。 
それを幾度も繰り返していた。

 

「……邪魔だ」
『シン?』
「俺は……傭兵で、只の人間だ。 
 俺は自分の生き方で得た、人から教わった、自分の力だけで戦う……
 だから! 俺の邪魔をするな、SEEDッ!」
アームレストに拳を叩きつけ、シンは叫ぶ。

 

赤鬼を名乗ってからの4年間、シンは一度もSEEDを発動させていなかった。
シンがSEEDについて詳しく知ったのはメサイア戦後、キラに聞いてからだ。
シンにとってSEEDはきわめて不安定で、だが断ち切りがたい蜜のような甘さを持つ物だった。
しかし、常に頭の片隅でそんな物に頼っていたからアスランとの対決に破れたのではないか、
と言う疑念があった。
いざとなればあの力が発動する。 心のどこかにそんな甘えがあったのではないか。
そしてシンはあの時の戒めとして、SEEDを封印した。
傭兵になってからは更にその思いは強まった。 
様々な人との出会いがシンを成長させ、シンを強くし、ここまで歩ませてきた。

 

だからシンは誓った。 
もう二度とSEEDは使わない。 
今までの生き方で得た己の力のみで最後まで戦い抜くと。

 

『(そうか。 シン、お前は……)
 ドライバー、まだ手はある。 ロンゴミアントの真の姿を見せてやれ』
シンの姿に思うところがあったのか、沈黙を保っていたRBは突如として口を開く。
「マニュアルは読んだが……いけるのか?」
『無論だ。 パワーシリンダーmk4、リミッター解除。 ロンゴミアント接続開始』
RBの無機質にも聞こえる声と共に、インパルスは両手に手にしていたロンゴミアントを横に合体させる。
片刃であったものが幅広の両刃対艦刀へと変わり、右手で振り下ろす。
更に左手を後背部へと回しビームランスを手に取る。
それに伴い腕部の各装甲が展開し、一回りほど大きくなる。
右手に持った対艦刀の端の部分と左手のビームランスの発生器が接続され、
対艦刀は長刃幅広の槍へと姿を変えた。
インパルスエクシードは槍となったロンゴミアントをぐるりと頭頂部で数回回転させると
袈裟懸けに振り下ろす。
『パワーシリンダー正常稼動。
 結合式レーザー“対艦槍”ロンゴミアント接続完了。 各システムオールグリーン』

 

結合式レーザー“対艦槍” ロンゴミアント
通常時はサイドアーマー側面に接続された二本の短いレーザー斬機刀だが、
腰部のビームスピアと接続する事によって完成するMAの野心作。
MMIの傑作レーザー対艦刀エクスカリバーによって近接兵装のシェアを奪われたMAが
重斬刀の老舗の誇りと意地を懸けて製作した。
局長の依頼により実戦に耐えうる切れ味と強靱さをコンセプトとして、レアメタルを惜しみなく使い、
太く厚く短く設計されている。
射程圏の短さは問題であったが、二本の斬機刀と柄を接続し槍とする事で
強靱さと射程の長さを両立している。
ちなみにロンゴミアントとは、かのアーサー王が用いた長刃の聖槍の名であり、
エクスカリバーを作ったMMIへの当て付けであろう事は容易に想像できる。

 

「行くぞ!」
対艦槍と姿を変えたロンゴミアントを掲げ、インパルスはラプター2が駆る105へと突撃する。
「これは……槍? 射程は延びてもその大振りじゃ!」
驚きを隠せないラプター2だが、長さから来る大降りに難なく回避。
反撃に移ろうとした瞬間、インパルスエクシードは左膝を曲げ、こちらへと向けている事に気付く。
『ベルゼルガ射出』
次の瞬間、高速で飛来する鋼色の杭が、105の下半身を吹き飛ばした。
「しまった!」
「ラプター2!」
上下に分たれた機体を制御し、後退しようとするラプター2。 
それを援護しようとラプター1も急ぎ駆け寄る。

 

「悪いな……譲れないんだよ」

 

シンのゾッとするほど冷たい声が宇宙に響き、ロンゴミアントの刃先がコックピットを穿った。
「ラプター1、いえ・・・・ごめんなさい。 先に……行くわ」
遺言のような最期の言葉が、ラプター1の通信機から聞え、何も聞えなくなった。
「・・・・!!!! よくも! よくもラプター2を! 貴様の命で償わせる!」
ラプター1は公私とものパートナーの喪失に、彼女、ラプター2の名を叫ぶと
激昂しながらサーベルを引き抜く。
その動きに先程までの緻密さは無い。 感情を剥き出しにした決死の攻撃。
インパルスがラプター2の105から刃を引き抜いている隙に、懐まで飛び込む。
だが、確実にコックピットを貫く筈だったサーベル、いや腕自体が消え去っていた。
目前に迫るは対艦槍の白刃。 
その場に至ったラプター1は対艦槍の速度を読み間違えていた事に気付いてしまった。

 

「熱くなった時点でアンタの負けだ」

 

ロンゴミアントのレーザーが105の装甲を溶断し、パイロットに致命傷を与える。
インパルスエクシードは大型対艦刀、大型火器の装備を想定し、ジャン・キャリー協力の下、
小型軽量化されたパワーシリンダーを装備していた。
パワーシリンダーの採用は大型の装備の使用が可能になった以外にも、思わぬ副産物をもたらしていた。
即ち、有り余るパワーを生かした近接兵装の振りの高速化である。
「き、貴様は! 貴様は一体!?」
ラプター1は目を剥き、インパルスエクシードへと叫ぶ。
「通りすがりの、死に損ないの傭兵だ。 名前なんて名乗る必要もない」
シンは叫びに答えることなくロンゴミアントを後背部へとしまう。
「……無念」
推進剤に引火したのか、怨の叫びと共に105は爆散した。

 

「シン、聞えますか? 敵部隊が撤退して行きます。シェダー隊と合流し残った敵を叩いてください」
「よし、後は残敵を掃討すれば……」
アビーからの通信に周囲を見渡すと、シンによって増援艦隊とエースが撃破された事が響いたのか、
確かに敵は攻勢から撤退へと行動を変え始めていた。
『待って! まだ何か来る……あれは!』
「またか、戦力の逐次投入は馬鹿のする……何?」
インパルスエクシードのセンサーがまたしても高速で接近する機影を捉えた。

 

「あれはR2S……ザクスピード!」
リーカはその機影に見覚えがあった。
自身の操るザクR2FWと同じく元ハインライン設計局による特別なカスタマイズを施された機体。
高速化のため装甲を限界まで削り落とし、フレームすら剥き出しになった、
鳥の頭蓋骨のような頭部を持つダークブルーの超高速機動特別仕様機。
名を、R2Sザクスピード。

 

「撤退の為……時間稼ぎに付き合ってもらうぞ。 ザフト!」

 

ザクスピードから聞こえた声は、シンがプロトガルバルディを駆った際、
ドラッツェに乗っていた手強いパイロット、ファントムの物だった。