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SCA-Seed_MOR◆wN/D/TuNEY 氏_第21話

Last-modified: 2009-10-21 (水) 00:10:49

前回(request20.5)のあらすじ。

 

BGM:ライオン
エザリア(フリフリの服)「胃が痛くなる♪ 頭痛が酷い♪ 小皺増えていく〜♪
           この騒動終わるまで〜♪ 私、眠れない〜♪」
遺作「は、母上!?」
シン(うわぁ……) 
ルナ(ヤケクソね……) 
レイ(誰得……?)

 
 

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最後まで残存していた唯一の有人機ザクスピードの撤退により戦闘は終息をむかえていた。
捕虜と撃破、撃沈した残骸回収の為の後続艦隊到着と同時に来た輸送船にシェダー隊を乗せ、
ミネルバ隊と支援に来た連合部隊は後退しようとしていた。
「各隊は部隊毎に一機ずつ着艦してください」
全ての機体が戦闘により殆ど推進剤を失っていた為、やむなくミネルバへの着艦が許可された。
「大西洋連邦所属、フラッグリーダー着艦するぞ」
両腕の無い黒いウィンダムが器用にスラスターを吹かし、機体を制御すると自身の母艦であるかのように、
軽やかに格納庫へと滑り込む。
「凄いですね。 一回のアプローチで成功しちゃいましたよ」
「うちの若いのにも見習って欲しいね」
慣れない、一度も訓練のした事が無いだろうザフト艦への着艦を難なくこなす大尉にアビーは感嘆する。
アーサーは警戒の為、辺りを旋回する艦載機隊を見ながら、苦笑いを浮かべていた。
もっとも、プルデンシオ、デュークと連合各隊ではキャリアが違いすぎるので
比べるのは酷と言うものだろう。
ウィンダム隊の着艦の後、オーブ、ミハシラ、
リーカ・シェダーのザクR2FW(迎えの輸送船に空きスペースが無くミネルバに着艦)も
ベテランらしく問題無く着艦していく。

 

問題があったのは寧ろ、ミネルバの方だった。
「おーい、俺はどこに入れば良いんだ?」
「すまない、ウイングが当たっているから畳んでくれないか」
「あ、申し訳ない……ヤマダもっと離れろ」
「狭いんだから無理ですよ」
「ウィンダムはもう少し奥に詰めて貰え! 身内は後だ!」
バケツをひっくり返したような騒ぎに、ヴィーノの怒鳴り声が格納庫に響く。

 

ミネルバには先代から続く悪しき伝統があった。
即ち、艦載機隊が定数に満たない。 つまり、格納庫が満載になった事が無い。と言うものだ。
ミネルバの定数は三個小隊9機である。
これに予備機3を足して12機で満載になるわけだが、一度もそんな数を積んだことが無い。
進水当初の予定では、インパルスにザクとゲイツRが二機ずつ、アビス、カオス、ガイアで8機。
調整の遅れたセイバーを加えて9機で定数、
セイバーと同時に、3機の予備機を載せて、満載12機となる“筈だった”
ところが、初っ端セカンドシリーズの3機が奪取され、ゲイツ2機が撃墜。
思わぬ大気圏突入、開戦に、機体の補充も出来ずにいたところ、無理を通してセイバーとグフを補充。
再び5機編成に戻るも僅かな期間の内にグフとセイバーが撃破され再び3機に戻り、
その後、最後まで定数を満たす事はなかった。
ミネルバIIが完成し、旧ミネルバクルーが搭乗した後は、デュランダル派の生き残りのレッテルを張られ、
冷遇から一小隊、3機分の確保がやっとだった為
ミネルバのジンクスはまことしやかに語り継がれていくことになった。
だが、その反面、ミネルバ艦載機隊のパイロットの質は非常に高かった。
いや、高くなくては生き残れなかったと言うべきか。
ミネルバであまり活躍の出来なかったルナマリアが後にスーパーエースと呼ばれる事を考えれば、
他部隊との戦闘密度の差が分かるだろう。

 

(ああ、神様、羽鯨様、ジョージ・グレンさま。 俺が何か悪い事をしたのでしょうか?)
今までの無かった事態にヴィーノは完全にパニくっていた。
「班長、自分達はどこに入れれば良いんですか?」
休む間も無く、後で良いと言った身内、ガルバルディβの二機が着艦する。
「お前ら外!」
プルデンシオの問いに思案する間も無く即答するヴィーノ。
「んな無茶な……」 
一方的に言い放つヴィーノに不満げな声を漏らすデューク。
「しょうがないだろ、12機満載の倉庫に14機積めないんだから!
 甲板にワイヤーで固定しとけば、損傷も無いんだから大丈夫だよ!……降りる時どっか飛んでくなよ!」
「へーい」
「了解です」
ヴィーノの言葉に二人は渋々格納庫から機体を出す。
2機露天駐機し、ウィンダムが3機、ムラマサが3機、ミハシラが3機にザクR2FWで10機。
残ったのは2機、シンとルナマリアだ。

 

『ガルバルディα、戻ります』
オペレーターの鈴の音のような声が格納庫に響き、次いで赤いガルバルディαが
スラスターを咳き込ませながら格納庫に滑り込む。
普段割合派手に着艦するルナマリアにしては珍しく静かに着艦したのにヴィーノは首を傾げた。
だが、その疑問は直ぐに解けた。 
正面から見れば、殆ど損傷が無いように見えるが、その背中は酷い有様だった。
トライフォース3本のフィンスラスターの内、上の2本は完全に吹き飛び、
各部のバーニアが焼けついていた。
「また派手にやったな、ルナマリア」
修理(この分だと取り替えたほうが早いだろうが)の手間を頭の中で算段しながら、
思わずヴィーノの口から溜息が漏れ出る。
「言われないでも分かってるわよ……悪かったわね」
言葉少なくルナマリアは謝る。
顔は見えないがおそらくコックピットの中で口を尖らせ、頬を膨らませているのだろう。
「本体からしてかなり痛んでるし、トライフォースはもう駄目だな……
 シルエット破棄して、手前のハンガーに行ってくれ」
ルナマリアの顔を想像し、誰にも分からないように含み笑いをしながら、
ヴィーノは笑っているのが悟られないように手前のハンガーを指差す。
「りょーかい」

 

「さて、ようやく最後か」
ハンガーに機体を固定するルナマリアを眺めながらヴィーノは呟く。
辺りを見渡すと先に着艦した機体の固定が終わり、やることの無くなった暇なパイロット達が
キャットウォークや床で物珍しそうに艦内を眺めている。
一瞬、ヴィーノの頭の中に軍事機密とか部外者観閲禁止等の単語が頭に浮かんだ。
「流石新鋭艦、イズモ級と比べると広いな」
「イズモ級は狭いからなぁ」
「AA級とも違い洗練されている」
「対立関係にあったとは言え、学ぶべき点も多いですね」
(放って置いて良いのか、アレ?)

 

「インパルスエクシード、着艦するぞ。 進路空けてくれ!」
「 ! インパルスが来るぞぉ! パイロットと機材退かせ!」
怒鳴るようなシンの声に今まで考えていた事を頭の片隅へと放り投げ、
ヴィーノはすぐさま頭を切り替え、自分の仕事へと戻る。
整備員と屯していたパイロット達に指示を出し、インパルスの進入経路を確保。
「進路良し。 入れるぞ」
手元の通信機でオペレーターへと連絡を取る。 
『進入経路クリア。 着艦どうぞ』
オペレーターの声が聞えた直ぐ後、インパルスエクシードが左手に長槍を携えながら格納庫へと入る。
ミネルバIIの床に足をつけた瞬間、エクシードがバランスを崩し、
倒れこむような体勢で静止ロープと防護ネットに受け止められる。
記憶の中では着艦に梃子摺った事の無かったシンの姿に、ヴィーノは首を傾げるが、理由はすぐに分かった。
「シン、長物を仕舞って……右腕やられたのか」
思わぬ光景に、唖然とすると床を蹴り反動を付け、インパルスに近づく。
旧ミネルバに於いてインパルスがダメージを負ったまま帰還するのは稀であった。
理由は二つ。 戦場で破損したパーツを取り替えられるインパルスの機体特性とシンの腕によるものだ。
ルナマリアが被弾するのが珍しいことでもなかったのが、
インパルスに乗った途端そんな事がなくなったのが前者のいい例だろう。

 

「アスカさん。 そのままじゃ入れないでしょうから対艦刀持ちますよ」
格納庫での様子が見えたのか、甲板上でワイヤーでの固定を待っていたプルデンシオのガルバルディが
格納庫に顔を出す。
「ああ、すまない」
立ち上がったインパルスが片手で器用にロンゴミアントをガルバルディへ渡す。
ロンゴミアントを受け取った瞬間、ガルバルディが揺れ、バランスを崩し掛けた。
「あっ、大丈夫か?」
「……ええ、すみません」
(重い。 対艦刀連結させたよりも遥かに。
 こんな、持ってるだけでバランスを崩しそうな物、普通に振り回してたのかよ……)
顔には出さなかったが、プルデンシオは内心、軽々と振り回すインパルスエクシードの性能と
平然とそれを操るシンに驚愕していた。
「シンこそ大丈夫か? 顔色悪いぞ」
通信モニターの青ざめたシンの顔に気付いたヴィーノはシンに声を掛ける。
「ありがとう。 大丈夫 ちょっと疲れたんだ」
「そうか、なら……良いんだ」
明らかに憔悴した笑みを浮かべながらも、目にだけ力の篭ったシンに
ヴィーノはそれ以上何も言えず黙り込む。

 

「シン君、何かあったのか?」
「ジャンさん……」
パイロットスーツを着たまま、キャットウォークからインパルスのコックピット上へと飛び移ったジャンは
接触通信を繋ぐ。
「知っていたんですね、ユニットの事を。 ロウさんがギガフロートにいた理由がやっと分かりましたよ」
諦観にも似た、今まで表に出さなかった感情と声をシンは上げた。
ロウはユニットの大本、GGユニットを所持しており(所持と言う言い方は正確ではないが)
ユニットにも多少通じている。
ロウがギガフロートにいたのはRBユニットの為だと推測が出来た。
「気付いたのか。 すまない。 私はunitRBの“正体”を知っていて黙っていた。
 それに関しては言い訳はしない。 ただ、一つだけ言わせてくれ。
 RBユニットに関わった人間は、ロウ・ギュールも局長も、悪意を持っていた訳ではない。
 それだけは、それだけは信じてくれ……」
シンの言葉に表情を引き締めるとジャンは頭を下げた。 
「……分かってます。 ただ、理解は出来ても、納得は……出来ません」
「そうか」
変わらぬ表情のまま、シンは僅かに感情の炎が宿った、困惑の色が隠せない赤い瞳でジャンを射抜く。
様々な感情の入り混じった複雑な表情を浮かべジャンはインパルスから離れた。
「(キャリーさん?) シン、立ち止まってどうかした?」
ジャンと入れ替わるように来たルナマリアが、首を傾げながらインパルスへと接触する。
「あ、ルナ……。 後でちょっと時間作れるか?」
ルナマリアの姿を視認したことで、シンの瞳の中の炎が僅かに沈静化して行く。
「え? ええ、構わないけど。 今じゃ駄目なの?」
「……悪い、二人だけで話したいんだ」
「うん、分かった。 降りたら控え室で待っていて、私はブリッジに用があるから」
シンの何処か切羽詰まった様子に気付いたのか、怪訝そうな表情でルナマリアは静かに頷いた。

 
 
 

パイロット控え室

 

パイロットスーツを脱いだアンダースーツ姿のシンが、
他のパイロット達から離れて簡素な作りの椅子に腰掛けていた。
そわそわと落ち着かない様子で、体を動かし、手に持ったパックコーヒーを口にする。
「相変わらず、プラントのコーヒーは香りだけだな……」
何事か、訳の分からない事をブツブツと呟きながら、ただ一心にコーヒーを啜る。
「酸味も苦味も素っ気もねぇ……」
文句言うなら飲まなきゃ良いのだが、その目に何も映す事無く虚空を見つめる。
周囲を全く気にしない程集中し、思考の渦にのまれながらシンは状況と事実を纏め上げていた。
一つの事象に対し、一人で悩み考え込むのは4年前から変わらないシンの悪癖だが、
思考を纏め上げ今後の指針を纏める為に一人思案するのは傭兵赤鬼としてのものだ。
だが、考えれば考える程シンの中に行き場の無い感情が蓄積していく。

 

「何かあったのか、シンの奴?」
「さぁ、知らないわね。 キャリーさん近くにいたんですから何か知りません?」
「……まぁ、色々あってな」
「まったく、何か考え込むと周りが見えなくなるんだから……昔っから変わらないわねえ」
「昔って言うと……セカンドシリーズのテスト時期ですか?」
「なんつーか、話しかけ辛いっすね。 ってか無理っす」
「そんな道理、私の無理でこじ開け……」
「隊長、暫く黙ってましょう」
「空気読みましょうぜ」
「自重しねえなぁ、あの人」
「ま、話しかけ辛いのは確かな訳で」
「いっそ行かせてみます?」
周囲の人間を近づけさせない雰囲気を纏ったシンに、周囲の人間も声が掛けられず遠巻きに見るしかない。

 

「あれ? ずいぶん静かね」
扉が開く音と共に、空気を読まないのん気な声が室内に響く。
その場にいた全員の視線が声の主、ルナマリアへと向かう。
着替える暇がなったのか、パイロットスーツはそのままに胸元を開けている。
視線を向けられたルナマリアは空気を読まないのか、あえて気にしないでいるのか。
いずれにせよ、表面上には見せることなくアホ毛を揺らしながら、不思議そうな顔でシンへと近づく。
「お待たせ、人目に付かない方が良いなら私の部屋で良い?」
ルナマリアのあくまで軽い調子の声に、シンの思考が断ち切られ、憂鬱としていたのが削がれる。
「ああ、悪い」
軽く頷き、何処か気の抜けた声を出すとシンは立ち上がり、確認したルナマリアは出口へと歩いていく。
その途端、室内に充満していた緊張感が消えたのにシンは気付く。
今までそんな空気にも気付かず、自分がその空気を作っていたことに気付いたシンは
頭を下げると気まずそうにルナマリアの後を追った。

廊下へと出たシンはルナマリアの後を追いながら、ふと窓に映った顔を見る。
(うわっ、ひでぇ顔だな……)
額にしわを寄せ、吊り目がちな目が更に吊りあがり、人を殺した後の殺人鬼のような顔になっていた。
「はぁ……」
あんまりな自分の顔に思わず、シンの口から溜息が漏れ出る。
「どうしたの? 溜息なんか付いて?」
何時の間にか居住ブロックに入っていたらしく、歩きながら部屋番号を確認していたルナマリアが振り向く。
「自分の馬鹿正直さを改めて再確認して、反省してる所だ」
憮然とした表情でシンは答えを返す。
「ふーん……ま、いいけどね」
今更気付いたのか、と言わんばかりに言わんばかりに鼻を鳴らすと、部屋のロックを解除。
振り向くことなく手をひらひらと動かす、続けて入れと言う事らしい。

 

「一人部屋か」
「これでもミネルバ艦載機隊の隊長だから」
旧ミネルバでアスランが使っていた部屋に相当するのだろう高級士官用の室内は案外広い。
意外に居住ブロックの狭い艦内で個室を与えられるのはそれなりの地位立場にいる証拠であった。
室内はルナマリアにしては珍しく整然としていた。 と言うよりも必要最低限の物にか置いていなかった。
生活感のしないその部屋は、シンにかつての戦友、レイを思い出させた。
「その辺に座ってよ」
「椅子無いからベッドに座るぞ?」
書類が大量に置かれた机から椅子を引き出しルナマリアは座り、シンはベッドへと腰掛け手を目の前で組む。
「で、話って何? あんたがそんな顔してるって事は、よっぽどの事でしょ?」
足を組み、何時の間にか手にしていた飲料パックにストローを挿しながらルナマリアは問い掛ける。
「ん……分かるか?」
ルナマリアの言葉にシンは少し驚いたような顔を見せる。
「なんとなく、ね」
苦笑しながら言うルナマリアにシンも僅かに笑みをこぼす。
だが、その笑みはすぐに消え、シンは言葉を口にするのを躊躇う。
ルナマリアもそんなシンをせかすようなことはせずにシンの言葉を待つ。

 

「レイが、レイが生きてた。 正確にはレイの脳が、だけど」
時間にして1分ほど過ぎた時、意を決したようにシンがゆっくりとしかし、力強く口を開く。

 

「えっ?  ごめん、言ってる意味が分からない」
「……インパルスエクシードの中にあった戦闘支援システムRBがレイだったんだ」
「ちょっと待ってよ、どういう事!?」
シンの放す衝撃的な内容──かつての戦友レイ・ザ・バレルの生存、しかも脳のみ─に
思わず声を荒げるルナマリア。
「俺に聞くな! 俺だって分からないんだ! っ……悪い、これじゃ八つ当たりだ。 
 クソっ、4年も経ってるのに、一枚剥げば未だにガキのままか。 情けねぇ」
キラに会った時と違い、壁に八つ当たりをしなかったのは自重した為か。
「あんたのそういう所は分かってるから、気にしてないわよ」
「それは嫌味かよ? 多分だけど局長なら、全てを知っている」
諦めたように言うルナマリアにシンは僅かに眉をひそめ、答える。
「ならアーモリー1に着き次第、局長の首根っこをとっ捕まえて、問い質すってことね?」
「ん……そうなるな」
言うと同時に立ち上がった、やたらとアグレッシブなルナマリアに軽くひきながらシンは頷く。
元々ポジティブではあったが、シンのいなかった4年間になにがあったのか、呆然とルナマリアを見ていた。

 

「な、何よ……人の事じっと見て」
シンの視線に気付いたのか、ルナマリアは怪訝そうな顔を向ける。
「いや……なんか、雰囲気変わったなぁと思ってさ」
「そりゃ変わるわよ。 4年も経ってるし、人間だもの」
自身の知るルナマリアと今のルナマリアの違いに戸惑うような声をあげるシンに、
ルナマリアは肩を竦めて見せた。
「あー、なんていうのかな? あれだ……良い女になったって奴?」
「…………馬鹿! 何言ってんのよ!」
シンの言葉に一瞬固まったルナマリアは内容を咀嚼し終えると顔を赤くし、シンの脛を蹴り上げた。
「痛っ! 蹴るなよ、冗談だって!」
脛の痛みに悶絶しながら、シンは立ち上がったルナマリアを見上げる。
「まったく……」
腕を組み、鼻息荒いルナマリアは仁王立ちしながらもその頬を赤くしているようにも見えた。
「まぁ、私にだけ話してくれたって言うのは信用されてるって考えて良いのかしらね?」
気を取り直したルナマリアは椅子に座りなおすと、からかうように鼻を鳴らす。
「いや、違うよ、信用じゃない。 信頼してるんだ。 心の底からさ」
「なっ! あんたはもう……その内、後ろから刺されても知らないんだから」
平然とした顔と表情で言い放つシンに、ルナマリアは一目で分かるほど顔を赤く染める。
呆れたように口の中でモゴモゴと呟くと拗ねた子供のみたいに顔を逸らした。
「そりゃ傭兵は恨み買う職だからな、万が一の為に防弾防刃用チョッキは常に身に付けてるよ」
「あー、いや、そうじゃないんだけど……ま、いっか」
自信満々に言ってみせるシンにルナマリアは諦めたような苦笑を浮かべる。
「? ルナが良いなら良いけどさ」
何を言っているのか分からずシンは思わず首を傾げる。
「さて、そろそろ落ち着いた?」
先程からシンの様子を伺っていたルナマリアは頃合いかとゆっくりと立ち上がる。
「……ああ、大分頭も冷えた。 戻ろう」
まったく、本当にイイ女になったよ。 一人聞えないように呟くとシンも立ち上がった。
頭の中で戻った時の言い訳を考えながら。

 
 

休憩室へと戻ったシンとルナマリアを待ち受けていたのは、冷たい視線ではなく、生暖かい視線だった。
「「……ん?」」
シンとルナマリアは室内の異様な雰囲気に首を傾げる。
「なんですか、ニヤニヤして?」
手近な所にいたエドを捕まえるとドスの効いた声で問いただす。
「いや、別に……」
タイチョウーナニヤッテンスカ?
「なんでもないわよ」
オタノシミデシタネ!
「今更格好つけるなー!」
ウルサイ、ダマリナサイ! ギャー!
シンに詰め寄られながらも、にやけるエドに後ろから野次を浴びせるジェーンにリーカの年長女性組。
別の所では部下にからかわれたルナマリアがデュークに飛び蹴りを浴びせている。
(嫌な感じだなぁ)
「災難だな、シン君」
眉をひそめるシンに苦笑しながらジャンが近づく。
「あ、ジャンさん……さっきは八つ当たりみたいな真似して、すみませんでした」
「いや、黙っていた私にも非はある。 気にするな」
頭を下げるシンの肩を叩くと、爽やかな笑みで微笑みかける。
「はい」
「しかし……」
頷くシン、ジャンの視線はシンの後ろを見ていた。
ヒィー! ギブギブ!  ヤメテタイチョウ! ソレイジョウハシンジャウ!
その後ろではルナマリアが部下二人にストンピングを見舞っており、ゆさゆさと揺れていた。
「しかし、なんですか?」
振り向いたシンは僅かに上の方へ目を逸らし、
ルナマリアの足元のかつて人間だったボロクズは見ないようにする。

 

「あれは、良い……いや素晴らしい胸だ!」

 

ジャンの言葉にオシダリと大尉を除く周囲の男集が同意するように頷き、
次の瞬間エドが顔面を歪ませ、吹き飛んだ。
ジェーンに顔面を思い切り殴打された為だ。 
よほど強く殴ったらしくジェーンの拳からは蒸気が吹き上げていた。
「おっさん共め。 ってかジャンさんそんなキャラだったんですか……」
シンはようやく現れた信じられそうな年長者に裏切られた気がした。
その時シンの後ろから手が伸び、肩を叩かれる。
シンが振り向くと、連合製の遮光バイザー付きへルメットを被ったままの大尉が
何も言うな、と言うかのように首を横に振っていた。

 

人は見かけと表面上の態度で判断してはいけない。
シン・アスカ21歳、人間としてまた一つ(駄目な方向に)大きくなった気がした。

 
 
 

アーモリー1、軍港

 

「……殺されるかも知れんな」
「シンにですか?」
深刻そうにに呟いた局長の言葉に、コートニーが聞き返す。
「ああ、俺はそれだけの事をした。 事実を知ったと時、あいつがどう動くか分かっていながらな」
アーモリー1へと帰港したミネルバが接岸した区画の前で、局長はコートニーと主にシンを待ち続けていた。
その顔に決意と覚悟を秘めながら。
大音量のサイレンと共に与圧区画から灰色と朱色に塗られた戦艦が入港する。
所々の対空火器が損壊し、表面装甲にも生々しい傷痕がはっきりと残り、戦いの激しさを物語っていた。
接岸と同時に資材搬入用の桟橋が岸から伸び、続いて人員用のタラップがミネルバIIに接続された。

 

「……よう」
最初に降りてきたブカブカのパイロットスーツをきたシンの姿を確認した局長は、
シンが岸に降りたところで軽く手を上げる。
「局長、どうしたんです? そんな顔して」
局長の深刻そうな顔を見たシンは、きわめて平常な態度で聞いた。
「顔見た瞬間、殴られるのを覚悟してたからな」
憮然とした感情を見せない顔で局長は答える。
「四年前なら、顔見た瞬間、間髪入れずに殴り飛ばしてましたね」
精一杯の皮肉な笑みを浮かべるとシンは鼻で笑って見せた。
局長の横にいたコートニーはシンの顔を見て大きな溜息を付いた。
考えていた最悪の事態─シンが局長を殴り殺す事─にならなかった事に安心したのだろう。
「大人になったって事か?」
コートニーにしては珍しく、疲れを表面上に見せた顔でシンに聞いた。
「さあ? 少なくとも物事を多面的に見れるようにはなったんじゃないですかね」
「あの小僧が言うようになったものだ」
フフン、と鼻を鳴らすシンに局長は感慨深げに言った。

 
 

「ふぅ……」
そしてミネルバII内部にも最悪の事態を回避したことに安堵している男が一人。
「どーしたんだ旦那。 溜め息なんかついてー」
顔を原型が留めないほど変形させたエドが、外を見ながら溜息を付くジャンに話しかける。
「ふざけて見せた甲斐はありましたね?」
エドの首根っこを掴んだジェーンが窓を見下ろしながらジャンへと顔だけ向け問い掛けた。
「ばれていたか。 そうだな、今は安心しているよ」
ジェーンの核心を突いた言葉を受け、恥ずかしそうに頬を掻くと優しげな顔でシンを見つめた。

 
 

「あっ、いた! さあ、局長話してもらいますよ」
シンと局長、コートニーが話し込んでいる所に響くやたらテンションの高い声。
ルナマリアがタラップを駆け下り、3人へと走りこんでくる。
「小娘、貴様は関係あるまい。 はっきり言おう、どっか行け!」
ルナマリアの顔を見た途端局長は嫌そうな表情をその顔に浮かべ
「何を言いますか。 昔から我が戦友の事は、私の事も同じと言うじゃないですか」
「言わねぇよ! あれか、アホ毛が脳にまで達しt」
ノーモーションで放たれたルナマリアの高速ローキックが局長にクリーンヒット。
「こ、小娘ぇ……」。
骨まで響く打撃音が局長を貫く。 ボロクズと化した部下二人とシンで威力は折り紙つきだ。
「人の髪型について、とやかく言っちゃダ・メ!ですよ♪」
局長に指差すルナマリアにシンとコートニーは揃って目を逸らした。 巻き込まれたくないのである。

 

「あー、そろそろ本題入りませんか?」
とは言え、このままでは何も始まらない、意を決したコートニーが口を開く。
「なら、この場で話そう。 つか動けねえ」
何とか立っている局長は脛を押さえながら、辛そうに言った。
「んー、立ち話もなんですから中でどうです?」
後ろから聞こえた声に、4人は一斉に振り向き声の主を見る。
「艦長!」
「何時から聞いてたんですか?」
声の主、アーサーの出現に、ルナマリアは驚きの声を上げ、シンは冷静に聞き返す。
「……四年前なら。 辺りからかな」
「「「殆どじゃないですか!」」」
シンとルナマリアとコートニーの声が自然にハモり、一斉に突っ込みを入れた。
「はぁ、仕方あるまい……茶の一杯位は出してくれるんだろうな?」
そんな様子を見ていた局長は諦めたのか、意地の悪い声でアーサーへと問いかけた。
「ええ、紅茶に五月蝿い副長がいますから、とっておきの一杯を出しますよ」
局長の言葉にも全く動じず、アーサーは笑顔で答えた。

 

「くしゅん!……風邪ですかねぇ。 お茶の準備でもしておきますか」 

 
 

「お取り込み中のところ、失礼」
話が纏まり、ミネルバへと戻ろうとした所でまたしても声が掛けられる。
「えっと、連合とオーブの……」
「大尉とオシダリさん……でしたっけ?」
未だにヘルメットを被り、連合のパイロットスーツを着た大尉と
オーブのスーツを着たオシダリがそこにはいた。
名前の出てこないアーサーにすかさずルナマリアがフォローを入れる。
「この辺りで失礼しようかと思い、声を掛けさせていただいた次第でして」
オシダリの言葉に、ミネルバを見ると資材搬入用の桟橋からMSを運び出している。
姿の見えない部下4人はそちらにいるのだろう。
「あっ、援護感謝します。 ありがとうございました」
思い出したようにアーサーは感謝の言葉を述べると肘の折り畳まれたザフト式の敬礼をし、
ルナマリアと(反射的にやってしまった)シンが続く。
「いえ、お気にせずに……それではこれで」
「失礼します」
オシダリと大尉はそれぞれ別の敬礼を返すと、別の方向へと立ち去っていった。

 
 

「まさか、シン・アスカが生きてたとはなぁ……。 全部の艦に外出禁止令でも出すか?
 いずれにせよ、馬鹿が先走らねぇようにしないとな……煙草吸いてぇ」
ふらふらとポケットの煙草を漁りながらオシダリは一人呟く。
やらなければならない事をどう始末すべきか考えながら。 

 

「中尉、本隊に至急連絡を取れ、
 シン・アスカの生存確認。 憲兵陸戦隊を組織する用意をされたし。 とな」
ある程度距離を置いた大尉はヘルメットに仕込んである通信機を起動させ、部下への直通回線をつなぐ。
「憲兵陸戦隊ってMPですか?」
「ああ、シン・アスカはかつての敵だ。
 この状況で逆恨みしてる馬鹿が先走って襲撃なんてすれば、我々は鼻摘み者だ。
 それに、彼は軍人として命令に従い、戦い、生き抜いただけだ。
 戦中の行動が原因で元敵国の軍人に殺害される。そんな馬鹿げた事があってはならない。
 それだけは……同じ軍人として許すわけにはいかない」
中尉からの疑問に大尉は遮光バイザーに隠された瞳に吊り上げ、両手に力を込め握り締めた。
「了解!」
中尉からのしっかりとした返答に、大尉は満足そうに頷くと今一度ミネルバの方向へと振り向いた。