Top > SCA-Seed_SeedD After◆ライオン 氏_第03話
HTML convert time to 0.007 sec.


SCA-Seed_SeedD After◆ライオン 氏_第03話

Last-modified: 2008-12-07 (日) 19:01:07

『お待ちくださいウォフ様! 私にもう一度出撃の許可を与えください! 今度こそ私が奴に勝って癸韻虜造髻帖帖
「下らんことを何度も言わせるな。貴様の機体は整備中だ。
 そもそも片腕しかないアシャで貴様が奴に勝てると思うのか? 命令は待機だ。復唱しろ」
『しかし! 奴をこの手で焼き殺してやらねば! 私のプライドが! どうかわたしめに――』
その言葉を聞き終えることなく、男はディスプレイの電源を切った。

 

その男は、部下からの報告を一通り目を通し終えると椅子を反転させ、
執務机から二メートル程度離れて立つ自分の秘書を見上げた。
オゾン集が充満する暗闇に、モニタースクリーンの燐光が知的な風貌の秘書の顔をぼんやりと浮かび上がらせている。

 

執務室にいるのはその男と秘書の二人。いらだちが場の空気を支配していた。

 

「……アシャにもう一度初期化(フォーマット)を施せ」
「いいのですか? これ以上のフォーマットを行えばアシャの体は数日と待たずに……」
「かまわん。どうせ奴はただの連合から買い取った出来のいい生体CPUだ。
 数合わせのメンバーなど、いつどこでどうなろうが知ったことではない」
「了解しました。では研究所のものにそう伝えておきます」
 秘書は一礼し、長くきめ細やかな長髪をなびかせながら自動ドアの向こうに消えて行った。

 

それを確認すると、男は独り言を漏らした。

 

「……しかし流石『最強兵士』とも言えるな。
 MS一個大隊を単機で壊滅させた後、我らの中でも屈指の実力のアシャを半壊にまで追い込むとは……。
 もっとも……奴の機体とシステムの開発費と維持費にはすでに戦闘艦数隻分の金がかかっている。
 あんな出来そこないにやられるならば、拍子抜けするというものだ」

 

 ふん、と鼻を鳴らした男の口調には、いくつか余裕が混じっていた。
 だがすぐに元の厳格な表情へ戻り、コンピュータのデスクへ向き直る。

 

「……ガルシア市長へと連絡を取れ」
『了解(イエス・サー)――回線をつなぎます』

 

男が手元のマイクで指示を出すと急にモニターの画面が切り替わり、その向こうには執務机にかけた一人の男性が写るようになる。

 

「久しぶりだな。ガルシア市長。あの選挙の時以来か? その汚らしい髭面は相変わらずだな」
『は……はいぃ! ご無沙汰しておりますマナフ補佐官! こ、今回はいったいどのようなご用件で……!?』

 

画面の向こうでヘリオポリス2市長、ガルシアはひどく怯えていた。
普段は市民の前でふんぞり返っているひげ面も今は冷や汗でギラギラてかっており、卓上に組んだ指先はカタカタと震えて落ち着きがない。

 

「先ほど報告があった。貴様……ミネルバ隊所属のルナマリア・ホークの元で、少女が一人預けられていると知っていて
それを我々『クリエイター』に報告しなかったそうだな。何故だ?」

 

ガルシアはその重みのある一言一言が耳に入るたび、すくみ上がった。
日ごろ、常に他人を見下すように見やるその目はどこかあさっての方向を向かせている。

 

『い……いえ。確かに一人、少女がいるとミネルバ周辺を調べさせていた部下から聞いてはいましたが、どうやらただのナチュラルのようでして……。
あなた方が求める『獅子の後継者』なるものには程遠いものだと……報告するに値しないと思い、そのまま……。』
「フン。どうやら貴様は、事の重大さが飲み込めていないそうだな」

 

ウォフ・マナフは、市長の怯えた表情の合間に一瞬見せた不服従の色を見逃さなかった。

 

「何度でも言ってやろう。貴様のそんなくだらんナチュラル軽視のせいで、宇宙には上がっていないと踏んだ我々の、
地球上を15年間しらみつぶしに探させた労力、時間、そして莫大な予算を、すべてパァにしてくれたんだ!」

 

『ひぃっ!! しかし――』

 

電子変換された市長の恐怖におののく声を、殴りかかるような怒気をはらんだ声がかき消した。

 

「先の失態、我らが主はたいそうご立腹だ! 当然のごとく、その責任を取ってもらう。」
『お、お待ちを! いったいあなた方はそのナチュラルの少女にいったい何を恐れているので――!!』
「貴様には知る由もない。せいぜいその小汚い椅子を尻で懸命に磨いているがいい」

 

男は面倒くさそうな表情で手を動かし、プツンとモニターの電源を切った。
不愉快そうに鼻を鳴らし、やれやれと首を左右に振るその背後に連絡を終えた秘書が詰め寄る。

 

「ウォフ様。泳がせておいた海賊たちが動き出したそうです」
「……手配の方は完璧だろうな? 」
「はい。仲介者を通じてMS『ゾロ』を数機とヘリオポリス2常駐軍配備状況の情報を与えておきました。
現地では監査員数名に記録を取らせるつもりです。
……それと『ラシュヌ』を派遣させ、基地の情報網を数分間掌握させておきます。」

 

ご苦労。男はハイバックの背もたれに悠然と上体を預けて、言った。

 

「さて、踏みつけることになるのは野良猫の尾か、それとも獅子の尾か……見せてもらおうか」

 

 
 

ガンダムSEED DESTENIY AFTER 〜ライオン少女は星を目指す〜
        第三話「野次馬少女と司令の息子」

 
 
 
 

――ヘリオポリス2 大通り

 

「でさぁ〜、昨日の天罰のグリグリが本当もう痛かったの。これが」

 

昼前の雲ひとつない青空の下、ステラはげんなりした顔でつぶやいた。
その紅い瞳が、どこかをうつろにさまよっている。
短い金髪が歩調に合わせてさらさらと揺れていた。

 

ホーク家の玄関先でばったり出会った同級生のナナリー・リブルは
怪訝そうな顔で隣を歩くステラの表情を眼鏡のレンズ越しに心配そうにうかがう。
肩まで伸びた三つ編みが、歩く度ぴょこぴょこ跳ねていた。

 

「大丈夫ですか? 頭の痛みは怖いとよく聞きますし……」
「あぁ、大丈夫大丈夫。子供のころ二日間コロニー内を大冒険して帰ってきた時の天罰比べたら、こんなの序の口だよ。
 ……まぁ、そんときの頭プッツンした母さんにアルゼンチンバックブリーカーの体勢で頭から川にポイって放り投げられた時は
 本当に死ぬかと思ったけど……」
「か、川……!? はぁ、そうですか。……怖いお母さんですね」

 

 同級生は、ズレた眼鏡をかけ直しとりあえず同意しておいた。話を聞くたび、ただ驚いてばかりだ。

 

「でしょ? けど悪いことをした時に叱ってくれる、構ってくれるっていうのはその相手が好きってことじゃない?
 だからあたしもそんな母さんが好きだよ。 ……もう少し優しくてもいいと思うけどな〜。年増なんだし」

 

この休日の朝、ステラはバイト先の宇宙港、ナナリーは宇宙港の付近にある図書館を目指している。
この二人が並んで歩いているのは、バッタリ会った時両方の目的地が近かったため「じゃあいっしょに行こう」とステラが誘ったからだ。

 
 

周りは休日を持てあましている人であふれている。
ふと話が切れたことに気付き、ナナリーは次の話のタネになりそうな話題を振った。

 

「ところで、ホークさんのアルバイトってどんなことをしているんですか?」
ふとステラは考え込むように顎に手をやり、
「ホークさん、じゃなくてステラでいいよ?
 うんとね。MSを操縦して、物資を搬入したり道路工事を手伝ったりとかいろいろ!
 あたしのテクはすごいよ〜? なんなら今度、学校に持ってきて見せても――」
「い、いいです……というより、ナチュラルなのにMSの操縦ってすごいですね。元々コーディネイターの人用の機械なのに」
「あ〜、うん。あたしには夢があるからね。そのための第一歩がMSの操縦ってワケだから、かなり頑張った。
 ほら、あたしバカだから最初は慣れなくて……。ナナリーにも夢、ある?」
「夢……ですか?」

 

 その言葉にナナリーは黙り込んだ。
 その目はステラを見つめ、小さくブツブツとつぶやいている。
 一瞬、何かを迷っているようなそぶりをみせたが、ついに意を決したようにカバンをまさぐると
 ナナリーはノートの切れ端の束を差し出した。
 その一番上の表紙にはかすれかけた文字で『ジェス・リブル・レポート』と書いてある。

 

「私の夢は……これです」
「……何これ? 歴史の勉強?」

 

 ステラがペラペラとページをめくると、そこには今まで授業で習ったようなコズミック・イラの歴史についてびっしり書かれている。

 

「私には叔父がいました」

 

 ナナリーは語り出す。

 

「その叔父は世間では『野次馬』と言われているジャーナリストで、何度か会った時いろんな国の話をしてくれることが私は大好きでした。
 ですが数年前、コロニーの建設現場の取材中の事故で亡くなってしまい……。
 その時の叔父の遺品の中にあったのが、このレポートなんです」
「ふむふむ」

 

どこをどうめくっても眠くなるような文章がびっしりと並んでいる。
こめかみを押さえ、ステラは文章から逃げる様に目をそらした。

 

「叔父は書きかけのレポートの冒頭で言っていました。
『この世界は、出来すぎている。何かとんでもない真実があるのかもしれない』と」
「……ぐぅ……」
「当時は気にしていませんでしたがこのレポートを初めて読んだ時、まるで体中に電流が走ったようでした。
 ……絶対にこの世界には何か裏があるんです!
 私の夢はその謎を解き明かして、このレポートを完成させることです! ――って歩きながら寝ないでください! 」

 

 肩を揺さぶられて、片足を突っ込んでいたまどろみから抜け出したステラは慌てたように、

 

「あ、ああゴメン。あたし昔から歴史ってものが苦手でさ。この紙束見てるとなんか眠く……
 でも人間は前だけをまっすぐに見るように目が正面についてるって近所の子が――」
「屁理屈をこねないでください! だいたい、それは歴史が苦手な人の常とう文句じゃないですか!
 だいたいあの時のテストだって『A・D時代末期に大流行したものは何か?』の問いに
 大きく汚い字で『ジェットボード』とか書いてましたよね!? 確かに大流行したそうですけど!!」

 

ナナリーは顔をトマトのように真っ赤にして怒っている。(注:正解は『S2インフルエンザ』)

 

「ゴメンってば〜。前のテストだってアレでも前の休憩時間に勉強頑張ったほうなんだから……」

 

 そんな会話を続けながら歩くこと数分。二人の視界に大きな建物が見えた。
 工場のような外見で、広場にはせわしなく作業用のMSが歩きまわっているそこは、
 ステラがバイトしている宇宙港の重機置き場だった。

 

「あ、もうこんなとこか。じゃああたしはバイトに行くから、それじゃまた!」

 

 くるりとひるがえし、にぱっと屈託のない笑顔を向けた。まわりの視線もかまわず大きく手を振る。

 

「はい! 今度学校で歴史をまんべんなく教えてあげますねからね!」

 

 ナナリーにそう言われると、それはかんべん〜、と渋い顔をしながらステラは駆けだしていった。

 

「さて、と」

 

 図書館に向けて踵を返そうとしたその時、ナナリーの視界に一人の男が映った。
 建物の角に張り付いて重機置き場の正門の方角を凝視しているその男は、よく見ると以前近代の歴史について相談をした学校の先生だ。
 この時期のコロニー内温度設定には似つかわしくない大柄なコートを羽織り、何やら口元がかすかに動いている。
 ……何かを、つぶやいているのだ。
 何をしゃべっているのかまではわからなかったが、先生は急にこっちの視線に気づくとギョッとした表情でどこかへ走って行った。
 なんだったんだろう、という疑問は数秒後にはナナリーの脳内から蒸散していた。

 

「あ、飛行機」

 

 ふわりと吹いた風が気になってふと上空を見上げると、上空で二枚の翼を持った飛翔体が飛んでいる。軍の戦闘機だ。
 舞うように飛行する銀色のそれを見てナナリーは綺麗、と感想を漏らした。

 
 

「……とんだ茶番だな」
『どうしたんですか? ザラ坊ちゃん何か問題でも?』
「いや、なんでもない。次はどうしたらいい?」
『はい、では今度は違う飛行パターンでお願いします。』

 

 ヘリオポリス2内でテストを行っている戦闘機コアスプレンダー靴離僖ぅ蹈奪函
 アレックス・ザラはモニター上のデータを読み取りながら操縦桿を操っていた。
 ヘルメットの奥にはあどけなさが残る少年の顔がある。顔に垂れかかる前髪は青く、その間にのぞく目はエメラルド・グリーンの色だった。
 その瞳の先には休日の朝ということもあり人通りが少なくなっているコロニーの市街があった。

 

 元はオーブのコロニー、ヘリオポリスを修復、再建造したこのコロニーは、アスハの反乱での敗戦で
 オーブがプラントの保護国になったこともあり、プラントのコロニーの一つとなった。
 プラントのコロニーには、クライン議長が掲げるナチュラルとコーディネーターの融和の一環として地球からナチュラルの移民が多く入ってきたが、
 やはり戦争での両者の確執などが残っておりその結果、地球から移住したはずのナチュラルはこのコロニーに大量移入した。
 結果的にプラントのコロニー群の中でもナチュラルの比率が特に高い所だと人々には知られている。

 

 こんな辺境に飛ばされた自分がやっているのは……キャリア作りだった。
 将来ザフト軍最高司令官である父の後を継ぎ、プラント軍事を担う存在として期待されている自分を、
 万が一、海賊・レジスタンスの戦闘で命を落とさないようにと父は後方で経験を積めと言ってきたのだ。
 それは少年にとっては屈辱であった。小さなころから偉大な父と見比べられ、どれだけ努力しても父の威光が背後にある。
 反乱勢力相手に戦っている同胞の後ろで自分だけのうのうとこんなことをしていることに、腹が立った。
 ……父にではなく、未だに父の影響力を超えられない未熟な自分に対してだ。

 

『坊ちゃん? 動きが単調ですよ、どうしましたか?』
「なんでもない……それより『坊ちゃん』はやめてくれ。俺はアレックスだ。
 今このコックピットの中では司令の息子じゃない、ただのテストパイロットだ。別に媚びへつらっても何も出ない」

 

 小さな咳払いの後、
『それは失礼しました。ではザラ君、ミネルバのMSと模擬戦を行いますので基地の方へ帰投してください。
 ……それとも何か不調でも?』

 

 不調はほとんど見受けられなかった。当たり前だ。ほとんどテストが終わってる機体の最終試験だけ自分が担当するのだから。
 もはやこれはテストというより普通は工廠で行うトラブル出しの作業に近かった。
 司令の息子という難しい立場の自分を疎ましく思う者のささやかな嫌がらせなのかもしれない。

 

 その矢先である。

 

 「不調はない、これより帰還――」
 ……そう素っ気なく言うはずだったそのセリフをかき消すような爆音が平和なコロニーに響き渡った。
 続いて二発、三発目と同じように爆音がとどろく。
 その市街地から巻き起こった黒煙が機体をすっぽりと覆った。

 

「な……なんだ今の爆発は!? 司令部、状況を報告しろ!」

 

 そのアレックスの声は悲鳴に近かった。

 

『大変です坊ちゃん! テロリストが急きょコロニー内に出現し、この基地と市街地周辺に布陣し始めています!
 それが連中はレーダーどころか監視カメラにも映らず、熱源反応の自動迎撃装置も作動しません! 信じられない! 』
「――!? 何を言っているんだ? そんな装備聞いたこと……」
『?! お逃げください坊ちゃん! この敵は普通じゃ――』

 

 その言葉を最後に、通信機の向こうから爆音が響いた。その後も新品の通信機は壊れたように砂嵐を流す。
 アレックスは悪態をついてチャンネルを変えるが、どこにもつながらない。
 ただその合間には民間の避難警報がまじっており、今までのこの事態が演習ではないという現実を教えてくれた。

 

『我々はプラント義勇軍である! 下等なナチュラルによって汚染されたこのプラントのコロニーを開放すべく立ったのだ!』
 斜めに傾けた機体のキャノピーからはビルの合間の道路でテロリストが機体に設置されたスピーカーで声高々に叫ぶのが見えた。

 

――こちらに注意を向けなければ市街が!
 アレックスは応戦の意味と、機体の重量を下げるために主翼に申し訳なく程度につけられたミサイルを放った。

 

弧を描いたように発射されたそれは、敵の背部に命中した。
だがそれは模擬弾であり、べちゃべちゃと赤いインクがカーキ色の装甲を染め上げる。

 

『我らの理想を邪魔するうるさいハエめ!』

 

地上を席巻するカーキ色の巨人がこちらに気付いたのか悪態とともに、手にしたライフルから自機に向けて数条のビームを放った。
アレックスはスティックを傾け回避に成功するが、近くにあったシャフトが一本溶け、誘爆する。
もし直撃していたらこの機体ではタダでは済まなかっただろう。
ビームなんて模擬ビームしか受けたことがない。受けるとすれば、戦争のときだけだ。

 

「クソっ……なんで……」

 

アレックスのそれは、ぼやきだった。しかし……

 

『なんでこんなこと……戦争がしたいの!? アンタたちは!』

 

そのぼやきは大音量の憎しみのこもった叫び声により消え去る。

 

眼下の工場らしき建物から一機の作業用MSが飛び出し、敵の腰部めがけてにタックルを仕掛けたのはその声とほぼ同時であった。