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SCA-Seed_SeedD AfterR◆ライオン 氏_第00話

Last-modified: 2009-07-05 (日) 22:54:07

――CE93年。オーブ首長国連邦・近海。

 

今ここに、地上に侵攻し続けるプラント軍と地球において反旗を翻したゲリラ軍との
オーブを巡る攻防戦という、歴史に残るであろう戦いの火蓋が切って落とされた。

 

強大な軍事力を誇るプラント軍に対し、ゲリラ軍の装備や練度は一歩二歩も劣っている。
決戦の行方は予断を許さないべきであると言いたかったが、
双方の指揮官は自軍の勝利かたくなに信じていた。
もっとも、ゲリラ軍を指揮する若い指揮官にとっては
「勝利を信じざるを得なかった」と言う方が適切であったが。

 
 

――作戦開始より四一三六秒後。

 

軍を指揮する立場として、ウィリアム・ラミアスは艦長席の隣の席から
モニターの向こうに展開する光のパノラマを黙って見つめていた。
巨大な人型兵器・モビルスーツが爆散することによって戦場に咲くその光は、
人間同士の醜悪な争いが創造したものとは思えないほど儚い美しさを持っている。
そう感じた瞬間、彼は心が波立つのを感じた。
あの光のいくつかは自分が指揮することによって散って行った英雄たちの命の光だと知っているからだ。
そう意識するたび、腹のあたりがキリキリと痛み出す。

 

「ルーディ隊全機シグナルロスト……!? フラガの御曹司……じゃない、艦長!
 右翼のオーブ軍の被害増大しました!」

 

艦長席の背後に座る副官が悲鳴のような声を上げた。

 

「だから父の名は出さないで下さいよ……。グロウスター隊を右翼に回してください」
「り、了解。さっそく――あれは!」

 

レーダーに新たな機影が多数映るのと副長が再び動揺するのはほぼ同時であった。

 

「……まずいですねぇ……まったくもう。なんでこんな時にあの機体が来ますかね?」

 

ウィルアムは愚痴るように呟いた。再びキリキリと痛みだした胃が痛くてしょうがない。

 

ブースト光を引きながら自軍のMS部隊に突貫してくる蒼い天使のようなMS。
敵の旗艦より発進したそれはこの世界において畏怖の象徴たる存在、フリーダム。
無論、旧大戦よりもその姿は依然発展しており、その戦闘力は一個艦隊ですら手玉に取れる。

 

「各機、フリーダムを近づけるな! 艦砲射撃用意! てぇ――――!!」

 

自陣から一斉に放たれた光の奔流は、海面を蒸発させ雨のように蒼き天使に降り注いだ。
襲い来るビームはその速度を落とすこともなく凄まじいエネルギーを伴って
目前より進撃するザフト軍のMSを刺し貫く。
すぐ後方にいたザフト軍のMSが一瞬にして爆発し、洋上を赤々と照らしだす。
その光輝が消えた時、ウィリアムは我が目を疑った。
――フリーダムと、その近くにいた親衛隊は何事もなかったかのように洋上を飛行し続けている。
白を基調とした機体には傷ひとつなく、それどころかさきほどから変わらぬ勢いで
こちらの艦隊に肉薄してくるではないか。

 

『ふぅ……やめてよね? 君たちみたいな雑草が、新人類であるこの僕にかなうわけないだろ?』

 

オープン回線にて聞こえたその肉声は、幼さを残す少年の声そのものであった。
艦砲射撃の直撃に平然と耐えるような出力のビームシールドが解かれたその刹那。
フリーダムと、それに追従する親衛隊の量産型フリーダムが全身の砲門を展開する。

 

「面舵15! アークエンジェル、艦首ビームシールド出力全開! エネルギーはすべて艦首に――」

 

ひ弱な第一印象だった副長は、その時だけはやけに頼もしく感じられた。

 

『安心してよ。何度吹き飛んでも、僕たちは花を植えるから……君たちを刈り取った後にねぇ!!』

 

その瞬間、通常のものとは明らかに異なる振動と閃光がブリュンヒルデの艦橋に充満した。
前線の真っただ中でフリーダムの集団は死の閃光を吐き出し続け、
その閃光にのまれて四散したイージス艦の爆風は強烈な振動となって
後方で指揮を執っていた旗艦の艦橋を軋ませる。
ウィリアムは歯を食いしばり、目を細めライブカメラに目をやると思わず「え?」と声を漏らしてしまった。
そこにはフリーダムのフルバーストに巻き込まれ、次々とミンチと化して爆散する
何隻もの友軍艦とモビルスーツの補正映像が映っていたからである。
まさに悪夢だ。津波のように押し寄せていた自軍の大規模艦隊が、
たった一個小隊ほどのMS数機に完全にせき止められているのだから。

 

「そ、そんな……!? 艦長! 新たな敵影多数、距離2000!」

 

オペレーター席に座る女性通信士が、絶望を顔に滲ませながら報告をした。

 

「――そろそろ、覚悟をするときですかね? ……副長」

 

ウィリアムは思わず息をのんだ。前線の向こう側より、新たな部隊が接近しているのがわかったからだ。
的確な判断ではある。
わざと部隊を真正面から当てさせ、ゲリラ軍が疲弊しきったところに戦略級MSフリーダムを投入、
そして増援部隊によるとどめの一撃を加えようというのだろう。
もうすでにザフト側がさし向けたフリーダムによって前線はほぼ壊滅状態である。
そこに新たな部隊が攻撃を加えれば、雌雄を決する決定的な打撃になるやもしれない。

睨んだモニターの向こうでは撃ち漏らした機体を雑草を刈るように蹂躙し、
撃墜していくフリーダムの姿がある。
もし幸運が幾重にも重なりそれを退けたとしても、はるか前方より押し寄せる増援部隊に
散り散りになったところを各個撃破されるだけである。
クルー全員の顔に悲愴な表情が浮かんだ、その時であった。

 

「――!? オーブ本国より入電? これは……」

 

絶望を打ち破るように、突如オペレーターのこみあげるような歓声が響いた。

 

「艦長、――彼女です! 『暁の戦女神』が来てくれました!」
「やれやれ……いつまで待たせるつもりなんですかあのバカは……」

 

胃の痛みが治まったウィリアムは、目を向けた先のライブカメラに映るMS部隊を見据える。
海面をスレスレで飛行するMSのそれぞれが深緑の装甲に覆われたものや紫に彩られた機体、
さらにはバックパックを背負った戦闘機の姿も見えた。
しかし、そのMSの先頭に立っているのは――1機の白いMSであった。

 
 

「どうやら間に合ったみたいだね。アークエンジェルは大丈夫? え〜と……デコッパゲ」
「俺たちの家は無事だ。けどいい加減、名前くらい覚えてくれ……俺の名前は――」

 

戦場を見まわした白色の機体の通信回線から漏れた呟きに、脇の黒いMSの主が突っ込みを入れる。
遥か向こうで行われている戦い。
少なくとも白色の機体を操る少女には、友軍が劣勢に追い込まれていることは一目でわかった。

 

ザフト軍は戦力を惜しみなく投入し、ゲリラ軍を圧倒している。
オーブ本国が後ろにある限りこのままでは全滅はないにしても全面潰走は十分あり得るだろうと、
黒いMSから補足の通信が入った。
だがその後は市街が戦場になり、見るも無残な地獄が生み出されることとなる。
普段からバカバカとさんざん言われている彼女にも、ゆっくりと状況が飲み込めてくると同時に、
少女の体の奥底から怒りが湧き上がってきた。

 

――――おとうさんとおかあさんが守ったあの国を、やらせはしない!

 

「剣を……スティング!」
「おうよ!」

 

掛け声と同時に、機体上空を飛行していた二機の戦闘機の片割れが
機体下部にマウントしていた巨大な実体剣をパージした。
落下してくるそれを受け取り、重々しく天高く掲げ、正面に構える。
剣自体は武骨な出来と表現すべきだろう。荒い使い方をしているのか柄の部分は傷だらけだ。
だが刃の部分だけは違う。その掲げた刃にはわずかな歪みも、一片の曇りさえもない。
陽光が照らし出したそれは、いかなるものも一振りで両断できそうな金色の大剣だった。

 

「……で、命令はまだなのかよ? 我らが『暁の戦女神』どの?」

 

上空を飛行する戦闘機から茶化すような通信が入る。
同時に幼馴染のニヤニヤとしまりのない面がモニターにでかく映る。
ふと剣の構えを解き白色の機体が振り返ると、そこには信頼しうる仲間たちが自分の言葉を待ち構えていた。

 

景気づけに、一声。

 

「敵の親玉へ突撃するよ! オーブを守るんだ! お願いみんな、あたしに力を貸して!」

 

ここで白色の機体が手にした大剣を天に掲げた。
すると機体の全身にエネルギーが行き渡り、黄金に発光。
そして同時にまばゆいばかりの光の翼が展開。
それはまさしく旧世紀の画匠が描いた伝説の戦女神のような光景である。
コーディネイタ―でもない彼女が生まれつき備わった素質があるとすれば、
それはMSの操縦でもどんな物事にも動じない胆力でもなく、
その声量にあると主張する者もいた。
だが彼女は一度たりとも「突撃せよ」とも「攻撃を開始しろ」などと命令したことはないという。

 

若き獅子の子は、誰よりも強く光る双眸を常に前方に向けコックピット内の空気を思いっきり吸い込み、
声に意志をのせる。
そしていつもこう叫ぶことで攻撃の合図とした。 

 

「全機、あたしに続けぇぇ――――――――!!」

 

オーブ近海の海上に、大きな歓声が上がった。

 
 
 
 

ガンダムSEED DESTINY AFTER
    〜ライオン少女は星を目指す〜

 
 
 

――CE93年。
プラント理事国は突如、軍事組織と編成し直したザフト軍を行使し、地球に対する侵攻を開始した。
後に言う『第三次地球・プラント間戦争』である。
最高評議会議長ラクス・クラインのカリスマと彼女の親衛隊『歌姫の騎士団』の圧倒的な武力を
巧みに使い分けるプラントは瞬く間に地球を蹂躙。
これに対し、長きにわたる平和で腐敗していた地球連合軍は全くの無力であった。
ナチュラルがコーディネイタ―にかなうわけがない。それが彼らが一番口にする言い分である。

じわじわと地球の勢力図が書き換えられているそんな中、
地球を蹂躙し続けるザフト軍に対抗するのは民間から成り立ったゲリラ軍であった。
そしてその中には、一人のナチュラルの少女がいた。
金の髪の、風の匂いのする少女。研ぎ澄まされた刃そのものの清冽さを纏う少女。

 
 

すべての始まりは、CE74年。
悪魔と獅子の子の邂逅により、運命の歯車は今、軋み始める。