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SCA-Seed_SeedD AfterR◆ライオン 氏_第01話前編

Last-modified: 2009-03-11 (水) 01:10:59
 
 

〜ライオン少女は星を目指す〜

第1話「シンと傷ついた獅子(前編)」

 
 
 

CE74年。メサイア戦役と呼ばれた戦いから一年の時が流れようとしていたときのことである。
「シン・アスカ。参りました」
シンが踏み入れたザフト軍基地司令室には大きな机と本棚が置かれていた。
部屋の壁にはこのコロニーの周辺宙域の様子が映し出されたモニターがかけられており、
基地司令と副指令がこれを見て作戦会議をしていたようだ。
「来たか、シン・アスカ」
髭を蓄えたその司令官はぞんざいな口ぶりで若い部下を迎えた。
「自分になんの御用でしょうか司令」
そっけない、まるで人形がしゃべっているような錯覚を覚えるような声だった。
「貴様に一つ任務を与えてやろうと思ってな。おい、説明してやれ」
「ハッ」
副指令が静かに進みでた。
「さきほど、このコロニーの周辺宙域においてテロリストの巣窟となっている
 コロニーの残骸が発見された。
 シン・アスカ。貴様は今から単独で出撃し、速やかにこれを殲滅せよ」
『単独』で出撃。そんな命令を受けても、シンの表情には少しも変化が表れない。
「質問をしてもよろしいでしょうか?」
「許そう、なんだ?」
シンの問いに答えたのは目の前の執務机の上で手を組んでこちらを睨む司令官。
その口調にはまるでシンの反応を試しているかのような、あざけるような響きがあった。
「恐れながら司令。敵の規模などはわかっているのでしょうか?」
ウォッホン、と司令の咳払い。
「敵テロリストの正体はMSを軍から持ち出した脱走兵だ。数は九機というところか。
 いずれにしても旧式のMSばかりだ。
 なお、特殊装備の使用は許可しない。真正面から襲撃し、撃破せよ」
「真正面から!?」
その言葉を聞いて驚きを隠せなかったのはシン本人ではなく副指令の方であった。
モビルスーツ九機といえば、小隊を3個組める数だ。
とても単機で戦える規模ではなく、ましてやそれを真正面から挑むなど正気の沙汰ではない。

 

「言うまでもないが、軍の命令に拒否権はない。だがまぁデュランダル前議長の懐刀であり、
 ザフトのスーパーエースと呼ばれた貴様のことだ。
 その名に免じて特別に命令を拒否する権限を与えてやってもいいが?」
昔の自分なら、目の前のくぐもった笑いを上げる上官に殴りかかっているだろうなと
シンは心の中で思った。
しかし、今は違う。
「やります。やらせてください。司令官の期待に添える様に自分は全力を持って
 任務にあたらせていただきます」
「いいだろう。それと、一つ補足がある。もし周辺宙域に民間のシャトルを捕捉した場合、
 すみやかに『撃墜』せよ」
「……? お待ちください。撃墜……でありますか?」
そのときになってやっとシンの表情に変化が表れた。
もっとも、それは眉を微妙に動かしただけでありそれに気づけたものはその場にはいなかった。
「その通りだ。そのシャトルには現在、議会が認定した『異端者』が搭乗していると情報があってな。
 予想航路が丁度その廃棄コロニーの周辺まで来るとのことなので、必ずこれを撃墜しろ。
 なお、搭乗員はその『異端者』ただ一人だ」

 

プラント側では、最高評議会議長に就任したラクス・クラインがユニウス戦役終戦直後に説いた
『平和への誓い』の演説はあまりにも有名である。
世界中の多くの人々がその言葉に賛同したが、また否定的な者もいた。
そして、そのラクス・クラインに否定的な者をいつのまにか中世の宗教用語にならい
『異端者』と呼ぶようになったのである。
議会で公に認定された者は世界中、特にプラント側から非難を浴び、先日に至っては
異端者に認定された有名な政治活動家が民間人に刺殺されるという事件も起きている。
そしてさきほど挙げられたシャトルには議会で認定された異端者が搭乗している。
それすなわち問答無用だ、ということだ。

 

「説明は以上だ。せいぜい戦果をあげるがいい」
「ハッ。では失礼します」
背筋を正し、ザフト式の敬礼。回れ右。右足を一歩踏み出し、そのまま退出する。
それは文句のつけようもない、自然な動きだった。

 

シンが退出した後。
「しかし司令。何故奴にあのような命令を? 
 単機で挑むなど普通は死にに行くようなものですが?」
「まだわからんのか、奴も認定されたのだ。異端者にな」

 
 

一方その頃。プラント最高評議会議長執務室。

「ラクス様。アスハ主席がおいでになられました」
執務室のドアが開いた。
ザフトの白い軍服を着た人物と言葉を交わしていたラクスがこちらに目をやり、
カガリの顔を認めると、柔和な笑みを浮かべた。
「お久しぶりですわ。遠い所からよくぞおいでくださりました、アスハ主席」
「いや、クライン議長のほうも貴重なお時間をいただきありがたく思う。では本題に入る前に――」
はい、とほほ笑むとラクスは人払いをさせた。側近中の側近であるキラとアスランを除いて。
もしこの場に一般人がいれば、この地球・プラント同士の最高責任者が一堂に会している光景には、
驚きを隠せないだろう。

 

「――では? 地球統一連合軍主席ともあろう方がお忍びで私たちに申し上げたいこととは?」
ラクスが上滑りのような声で尋ねた。無論、こちらの要件など知ってるはずなのに。
「とぼけるのもいい加減にしてもらおうか」
カガリは投げやりにすら取れる挑戦的な口調で、言った。
親しい仲とはいえ国家間での話し合いでもあるので、立場を考えた口調でしゃべり続ける。
「そちらが提案した『アーノルディ・プラン』の地球側の抗議について、何の返答がないことは、
 いったいどういうことか!?」
室内にいたキラとアスランは彼女のケンカ腰な物言いに緊張した面持ちとなったが、
ラクスは気を悪くしたようにも見えず、首をかしげるばかりだ。
「答えてもらおう。そのために私は遥々ここに来たのだ。
 シラを切るつもりならこちらにも考えがあるぞ」
「どうしたのカガリ? どうしてそんなに怒っているの?」
「カガリ?」
彼女の弟であるキラ・ヤマトが中性的な顔で愕然とつぶやいた。
その隣にいるアスランも絶句しているのを見据えると、彼女は舌打ちした。
我慢の限界が来てしまったのだ。
「どうしたの、だと? ――ふざけるなッ!! なんだこの政策は!!」
カガリは怒りを込めて持っていた書類を床に叩きつけた。

 

叩きつけられた風圧で宙に舞った紙には『アーノルディ・プラン』と大きく書いてあるのがわかる。
それに書いてあったことは、とても政策と言えるものではなかった。

 

要約すると、
『アーノルディ・プラン』とは、世界各国に対してプラン最高評議会の長であり、
平和の歌姫とも呼ばれるラクス・クライン議長が選んだ平和の使者『歌姫の騎士団』を
各国の上層部に組み込み、恒久の平和を作ろうというものだ。
とんだ夢想じみた政策である。しかも、各国にラクスの側近を組み込むということは
実質ラクスが世界を牛耳るという考え他ならない。
さらにたちが悪いことに条文の最後には、平和を害する敵性国家に対しては
建設が完了した超大型ビーム砲をそなえた機動要塞の使用もやむを得ない、とほのめかされている

 

カガリは金の瞳を怒りに燃やしながら言いつのる。
「何を考えてるんだ、こんな!! 
 これでは地球が人質に取られたようなものだ。人が住めなくなる!」
「いいえ、カガリさん。私は争いの元が何なのか幾度も悩みぬいてきました」
動じる気配もなくラクスはほほ笑みを絶やさずにかぶりを振った。
「この行いも本当ならば行ってはいけないのでしょう……。
 ですが私たちはその平和な明日のために、立ち止まるわけにはいかないのです。
 まず決める、そしてやり通す。思いだけでは何も守れません。
 ですから、私たちはそうしてこの行いを選んだのですわ」
彼女は柔和な笑顔のままそう告げた。
そんな様子から、カガリは拳を握り締め叫ぶ。
「ラクス、これは平和の行いでも何でもない。 
 頼むから思い直してくれ、今すぐにでも撤回してくれれば――」

 

「いい加減にしろカガリ!」

 

その言葉を遮ったのはほかならぬアスランだった。
「アスラン……!?」
カガリは言葉をのんで立ちつくす。

 

「ラクスやキラがどれだけ悩みぬいて決断したかわからないから、お前はそう言えるんだ!
 どうして君はいつも物分かりが悪いんだ!!」
「けど……!!」
「それにね、カガリ。もうプラントの人々も我慢できないんだよ。
『いつも先に仕掛けてくるのは地球軍だ。彼らこそ本当に危険な存在だ……』ってね。だから……」
ラクスの傍で立つキラがそう付け加えた。

 

「そんな、ことは……」
三人の前でカガリはたじろぎ、わずかに身を引いたその時。
呼び出し音。
〈――会談中、失礼いたします。ラクス様、次の会議まで時間がありませんのでお急ぎください〉
とたんに、怒りで満ちていた空気が消去されカガリを除いた三人があわただしく動き出した。
「すみませんカガリさん。この話は、またいつか」
軽くお辞儀をした後、部屋から退出していく三人。
その周りを、随伴員が取り囲む。
「ま、待ってくれラクス! キラ、アスラァァァァン!! 」
その肩をつかもうと手を伸ばすが、随伴員に止められてしまう。

 

「なんで、こんな……。畜生――ちっくしょぉぉぉ!!」

 

そう泣く間にも地球に戻るための『シャトル』の時間が迫っていた。