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SEED DESTINY “M”_第10話

Last-modified: 2009-02-28 (土) 04:20:55

「何だと!? 大西洋連邦との新たなる同盟条約の締結!? 何を言ってるんだこんな時に!今は被災地への救援、救助こそが急務のはずだろ!!」
 行政府、連合代表執務室に戻ったカガリは、伝えられた“急ぎの報告”を聞いて、まずは激昂した声を上げた。
「こんなときだからですよ、代表」
 閣僚の1人、タツキ・マシマが言った。
「それにこれは大西洋連邦とのものではありません。確かに呼びかけは大西洋連邦から行われていますが、それは地球上のあらゆる国家に対してです」
「…………」
 言葉に詰まりかけたカガリだったが、突然、何かを思いついたようにはっとすると、彼女らしくない、鋭く重い睨みをタツキに向けた。
「あらゆる国家、と言ったな?」
「はい、そうで御座います」
「その中にプラントは、当然含まれているんだろうな?」
「はっ!?」
 低い声で問いただすカガリに、タツキは一瞬、目を円くして、ひっくり返った声を上げてしまった。
 ウナトとユウナも驚きの様子を隠せず、顔を見合わせた。

 
 

機動戦士ガンダムSEED DESTINY “M”
 PHASE-10

 
 
 

「な、何を言ってるんですか代表! 此度の事、一体どのような経緯でこのような事態になったか、存じ上げていないわけではないでしょう!?」
 タツキは素っ頓狂な声を上げて、それから、カガリに強い調子で言い返した。
「つまり、例外があると言う事じゃないか! それでは駄目だ! 中立とはいえない、オーブの理念に反する!」
 カガリも険しい表情で、怒鳴るように言い返す。
「まぁ、まぁ……」
 ウナトは双方をいさめる様に、間に割って入った。
 ウナトは今にもタツキに噛み付きそうなカガリに向かうと、
「長い間ZAFTのフネに乗っておられた代表には、今ひとつご理解いただけないのかもしれないが、あの事件で地上が被った災害はそれは酷いものです」
 と、そう言いつつ、ユウナに手振りで指示した。
「そして、これだ」
「あ!」
 ユウナが、壁面にかけられているテレビにビデオを再生する。それを指して、ウナトは重々しく言った。
「…………」
 そこには、ユニウス7の破砕作業を妨害する、ジン・ハイマニューバIIの姿が捉えられていた。
「この画像は何処から出た? プラントからか?」
 カガリは問い質す。
「まさか。大西洋連邦からですよ。もっとも、プラントも大筋ではこれを認めていますが」
 そう答えたのはユウナだった。
「……じゃあ、誰がこれを撮影したんだ?」
「えっ!?」
 ユウナが、軽く驚いた表情になる。そして、その影で、タツキの表情はさらに劇的に変化していたが、それにはカガリも、ユウナとウナトも気付かなかった。
「私は見た! プラントを襲撃した連中は、大形戦闘艦を使っていたんだぞ! それも条約で禁止されているはずのミラージュコロイドを装備していた!」
 カガリは激情を伴った声で言った。ユウナとウナトは、面食らったように軽く仰け反る。
「ま、まさか代表は、その襲撃犯が大西洋連邦だとでも!?」
「確かに証拠は無い。だが、誰が送り出したと言うんだ。まさかプラントの自作自演だなどとは言わないだろうな!?」
 ユウナが問い質すと、カガリはきっとユウナを睨んで、言い返した。
「お待ちください代表、今はそのことではなく、ユニウス7落下のことのほうが重要です。議論を摩り替えないで頂きたい」
 ウナトが淡々と、しかし強い調子の声でそう言った。
「だからあれはほんの一部のテロリストが起したことだ! 事情を知って、デュランダル議長やZAFTはその破砕作業に全力を挙げてくれたんだぞ! そうでなかったら、地球は、今頃…………」
「それは解っています。だが実際に被災した何千万という人々にそれが言えますか?」
 感情的な口調で言い返すカガリに、ユウナが落ち着いた口調で嗜めるように言う。
「言っていくしかない。解ってもらうしかない。そうでなければ、それこそ地球は壊滅していたんだからな! それがオーブの理念を守ることにも通じる!」
「…………!!」
 ユウナは再び、驚いた表情でカガリを凝視した。そして、ウナトと顔を見合わせた。
「そ、それでは代表、今度はこちらの映像を見ていただきたい」
 タツキはそう言って、別のビデオの再生を準備し始めた。

 
 

 ミネルバはドックに入る為、最低限の人員を残し、乗組員とMSパイロットには休暇が与えられた。その多くの者が始めての地上に、こぞってオーブの街に繰り出した。
「おーい、ミレッター」
 早くも閑散としている艦内で、ゲイルがルームメイトの名前を呼んだ。
「あ、ゲイル。それにルナも一緒か」
 私服姿で、これから出かけます、という装いのミレッタは、いまだ制服姿の2人が駆けてくるのを見て、言葉に出した。
「2人は街に出ないの?」
「それで探してたんだってば」
 ミレッタが訊ねると、ゲイルが即座に言い返した。
「良かったら、オーブを案内してもらえないかと思って」
「え、ボクが?」
 ルナマリアの言葉に、ゲイルは軽く驚いたような、苦い顔で答えた。
「うーん……まぁ、いいか……」
 渋々と言う感じで、頭を掻きながら、ミレッタは承諾した。
「ありがと。あと、ショーンとヴィーノ、ヨウランも一緒だから」
 ルナマリアは笑顔で、あっけらかんとそう言った。
「ボクは修学旅行の引率者か」
 苦笑してジトリと汗をかきながら、ミレッタは言った。
「ところでマユは?」
 ミレッタは姿勢を軽く直してから、2人にそう訊ねた。
「さあ」
 ゲイルは肩を竦める。
「なんか、気がつかないうちに先に出かけちゃってたのよ。つれないのよね」
 ルナマリアも、目を閉じて指を頬に当て、そう言った。
「まぁ、マユはボクより因縁深いからね、この国には……」
 ミレッタは哀しげに苦笑して、そう言った。
「ふーん……」
 ルナマリアが、感心なさげな声を出した。

 
 

 オノゴロ島の旧市街は、現在は慰霊のための、記念公園になり、巨大なモニュメントが立っている。
 それとは別に、そこから程近い岬にも、白い慰霊碑があった。
 道路の走る堤防から、その岬に向かって、マユは階段を下りる。
 すると、慰霊碑の前に、1人の男性がいた。
 年恰好は、少年と青年の境の頃。
「…………」
 マユは見つめて、立ち止まった。
 兄・シンが生きていれば、ちょうど同じぐらいの年頃だろうか。
 マユはじんわりと目じりが熱くなってくるのをこらえ、ゆっくりと歩みを再開する。
 すると、その人物は気配に気がついたのか、振り返って、視線を向けた。
「貴方も、慰霊……ですか?」
 マユは慰霊碑に近づきつつ、男性に向かってそう訊ねた。
「ん……ああ……」
 男性は、穏やかだが、どこか気の抜けたような声で返事をした。
「良くは知らないんだけどね……ここにこうした形で来るの、始めてだから」
 男性は、優しげに薄く微笑んで、マユにそう言った。
「…………」
 マユは、僅かな間男性を見つめた後、慰霊碑に向かった。
 白いコンクリート製の慰霊碑を、花壇が取り囲んでいる。花は爛漫と咲いていたが、どこか元気を失いつつあるようにも見えた。
 マユはかがんで、その様子を観察した。
「折角花が咲いたけど、波を被ったから枯れちゃうね……」
 男性は、穏やかだが、どこか物悲しげにそう言った。
「誤魔化せないって、事なんじゃないでしょうか?」
 マユは男性に顔は向けず、そう言った。
「え?」
「この花、綺麗だけど、どれも海岸には咲かないものばかりでしょう。人が勝手にこんなところに植えて……本当に海岸に咲く花なら、波を被ってもすぐには枯れたりしないのに」
 反射的に聞き返してきた男性に、マユは顔を合わせないまま、そう言った。言ってから、腰を上げて、男性に視線を向ける。
「人は……自分達の都合で花の咲き方まで変えてしまう」
「…………」
 マユの言葉に、男性は目を細め、僅かに沈黙した。
 男性は、マユを一瞥する。 アウターキャミソールに、マイクロミニスカートという出で立ちは、大人びてはいるが、どう見てもローティーンの子供だった。そんな少女からそのような言葉を聞いて、軽く戸惑いを覚えていた。
「君、……いくつなの?」
 男性は、口調は優しげだが、不躾に、聞いてきた。
「11、ですけど……それが、何か?」
 マユは、内心むっとしたが、それを表情には出さず、答えた。
「いや……ずいぶん大人びたことを言うんだなぁ、って思って……あ、ごめん」
 男性は、正直に気持ちを言ってから、それが失礼に当たるように感じて、謝った。
「…………2年前に」
「え?」
 ボソリ、とマユが言ったのを、男性は反射的に聞き返した。
「いえ、何でもありません」
 マユはそう言って、男性から顔を背けた。
「そう……」
 男性は、少し気落ちしたように声を出す。
「トリィ!」
 声がして、マユはキョロキョロと辺りを見回す。
 緑色の、鳥形ペットロボットが飛んできて、男性の肩にとまった。
「それじゃ……僕は行かなきゃならないから」
「はい。私ももう、戻ります」
 そう言って、男性とマユは別れた。
 もと来た階段を上がっていくとき、何処からか、誰かの歌声が聞こえてきた。

 

 優しげで穏やかな歌声なのに、マユにはそれが、とても不愉快なものに聞こえた。

 
 

 ビデオの内容は、見るに堪えないものだった。
 ユニウス7突入の被害で街が焼け、焼け出され家族を人々が、次々に怨嗟の声を上げる。
 コーディネィターを抹殺しろ、プラントを討て、と。
 このビデオを見せられたら、まるで、プラント討伐、コーディネィター抹殺が地上の人間の総意のように見えるだろう。
 だが────
『ナチュラルとコーディネィターという括りに囚われ過ぎていませんか?』
『ナチュラルがみんながみんな、私達を憎んだり、そうしなかったりするはずは無いと思います』
 カガリにはそれは、出来の悪い映画にしか見えなかった。
「このビデオも、出所は大西洋連邦なんだろう?」
 その内容のあまりの酷さに、額に血管を浮かせ、腕組みをして今にも掴みかかりそうになるのを堪えながら、カガリはタツキに問い質した。
「はっ……? そうですが……」
 タツキはカガリの本心を図りかね、間の抜けた声を出してしまう。
「代表。今これを見せられ、怒らぬ者など地上にはいません。幸いにしてオーブの被害は少ないが、だからこそ尚、我等は慎重にならなければならないのです」
「慎重にならなければならないのに、性急に大西洋連邦と条約を結ぶのか?」
 何とかカガリを説得しようとするウナトに、カガリは半ば思いつきで、八つ当たりの混ぜっ返しを入れた。
「代表! 理念も大事ですが、我等が今、誰と痛みを分かち合わねばならぬものなのか、代表にも充分そのことを考えていただかねば……」
 ウナトは戸惑いつつも、説得を続ける。
 閣僚の皆が困惑していた。確かにカガリは、義父ウズミ・ナラ・アスハの残した理念に対して、表面的に強情ではあったが、実際に閣僚達に対してここまで頑なに抵抗することなど無かったからである。
 カガリは椅子を蹴飛ばしそうな衝動を堪え、すっと立ち上がった。
「誰と痛みを分かち合わねばならないか、か。なら、私の意見を言わせて貰おう、それはプラントだ!」
「なっ!?」
 カガリの発言に、閣僚達は面くらい、どよめいた。
「ZAFTは正体不明の、しかし連合の関与が濃厚な大形艦に襲撃を受けてダメージを受けているにもかかわらず、ユニウス7の破砕に尽力した! テロリスト達との戦闘で僅かとは言え犠牲も出している! にもかかわらずこのような言いがかりに等しい罵声を向けられているんだぞ! その尻馬に乗るのがオーブのあり方としてふさわしいのか!?」
「これはオーブの安全に関わる問題なのです、国は貴方の玩具ではない!」
 カガリが一気にまくし立てると、ユウナが嗜めるように声を上げた。
「ならばプラントと組む! デュランダル政権となら安全保障協定も可能だろう、カーペンタリアも近い」
「なんですと!?」
 ウナトが、素っ頓狂な声を上げた。
 誰もが信じられないようなモノを見る目で、カガリを見た。カガリはプラントと同盟をするといったのだ。それはこれまで彼女が固執してきた、ウズミの理念に反するものだった。
「本気で言っているのですか!?」
 ユウナが問い質す。
「当たり前だ! 大体、前大戦で大西洋連邦はオーブを焼いたんだぞ!」
「だが、復興させたのも彼らです」
 ウナトが即座に言い返す。
「焼いたんだから当たり前だ! あの戦争で、オーブは一貫して中立だったのに、問答無用で攻め込んできたんだからな! そんなものに恩義を感じる必要が、何処にある!?」
 正確に言うと、モルゲンレーテが連合のMSコンペティションに割り込んだ時点で政治的に中立とは言いがたいのだが、それを言ってしまえば、むしろ連合寄りであると言える。
「大体、オーブが独立国家に戻れたのは、プラント側の交渉団のおかげみたいなものじゃないか! 彼らが退くといったから、連合もオーブから退いたんだ! そうだろ? これで 連合を信用して条約なんか、どうやったら結べるって言うんだ!」
「それは……」
 ウナトは言葉に詰まる。
「代表、いや、カガリ」
 ユウナが、真摯な顔でカガリに迫る。
「君は本当に、プラントと積極的に組んでも良い、そう考えているのか?」
「ああ、そうだ。中立が許されないのなら、まだしも道義を重んじて、プラントにつく。
オーブは決して、大西洋連邦の走狗にはならない!」
「地上の人の救済は?」
「プラントだって、地上の支援は推し進めているんだろう? オーブがそれに協力すれば、より救える人は多くなるはずだ」
「そうか……」
 カガリの言葉を聴くと、ユウナは頷いたようにして前に出て、カガリの傍らに立ち、他の閣僚と向かい合った。
「父上、いえ、ウナト・エマ閣下。私はプラントと積極的に安全保障協定を約定することを前提に、代表を支持することにします」
 ユウナの離反に、他の閣僚からどよめきが起こる。
「ユウナ……」
 カガリは、熱気を帯びて潤んだ瞳で、ユウナの顔を見上げた。
「…………」
 ウナトは軽く目を閉じ僅かに沈黙した後、
「全員聞いたな」
 と、静かに、しかしはっきりと言った。
「アスハ代表の強い御意志だ。ならば従わぬわけには行くまい」
 ウナトは“アスハ”の部分を強調して、そう言った。
「大西洋連邦との交渉は引き伸ばしを図れ。プラントと極秘裏に交渉をセッティングしろ」
「は、はい」
「軍に準戦時動員をかけろ。いつ連合がプラントと始めるか、わからないからな」
 ウナトの号令で、閣僚達が慌しく動き始めた。
「ウナト」
 カガリの声に、ウナトは振り返る。
 そこには、興奮状態が急速に冷め、いささか気弱になったように見えるカガリがいた。
「すまない、ユウナも」
「さて。何のことやら。代表はこの国のあり方を決めただけのこと。我々はそれに、従っただけに過ぎまぬ」
 とぼけたように、ウナトは言った。
「そうだよ、カガリ」
 ユウナは言って、カガリに向かってウィンクして見せた。

 
 

「私です」
 他の閣僚と共に、連合代表執務室を出たタツキは、人気の無い物陰に隠れると、携帯電話を取り出し、連絡を取った。
「まずいことになりました。代表の説得に失敗しました。あろうことか、プラントと同盟を組む話になっています。このままでは……」
 周囲を気にしつつ、タツキは困惑した表情で、電話の相手にそう伝える。
「は……」
 しかし、その表情は一転、怪訝そうなものになる。
「しかし……はぁ、なるほど、そうすれば……なし崩し的に、ですか」
 相手に何かを説明され、タツキはにやりと笑う。
 それから少し、相手と言葉を交わしてから、携帯電話を切ると、先程までとは一転、軽い足取りで、その場を後にした。

 
 

 翌朝。
 代表官邸で、カガリが行政府に出勤する準備を整えていると、そこへアスランがやってきた。
「おはよう」
「アスラン!」
 突如訪問したアスランに、カガリは軽く驚いたように声を上げると、思わず視線を逸らした。
「?」
 アスランはカガリの態度を怪訝に思い、近寄って訊ねる
「オーブ政府の状況は、よくないのか?」
「いや、そんなことは無い。むしろ吹っ切れた、そんな感じだ」
「吹っ切れた?」
 カガリの表現に、アスランは意図がわからず、鸚鵡返しに聞き返してしまう。
「ああ」
「?……まぁ、カガリにとって好ましい方向に動いてるのなら、それで構わないけどな」
 結局、アスランはその言葉を完全に理解できなかったが、カガリの様子に問題は無いのだと感じ、そう言って笑顔を向けた。
「しかしすまなかった。昨日は結局、ずっと行政府で……」
「いや、こんな情勢だ、仕方ないさ」
 アスランはそう言って、一区切りつけてから、
「それで、だ」
 と、切り出した。
「俺はプラントに言ってくる」
「え?」
 アスランの言葉に、今度はカガリの方が一瞬、キョトン、としてしまう。
「オーブがこんなときにすまないが、ここで俺が出来ることは限られている」
「アスラン、でも、そうしたらお前は……」
 カガリは困惑気な表情を浮かべた。
「デュランダル議長なら、よもや最悪の選択はしないと思うが、未だに父に、父の言葉に踊らされている人達がいるんだ。プラントで……俺が、アスラン・ザラが出来ることがあるなら、やれるだけのことはしたい」
「…………」
「それに、俺は……」
 ────マユを止めたい。彼女は人の弱さを知りすぎている。戦ってはいけない人間だ。
 その言葉を、アスランは飲み込んだ。
「なんでもない」
「そうか……まぁ、わかった」
 アスランが言葉を濁したことに、残念そうに眉を下げるカガリだったが、穏やかに苦笑して、そう言った。
「私としては、さびしくなるが仕方ない。お前はお前の、出来ること、やりたいことを果たせ」
「ありがとう、すまない」
 アスランはカガリに礼を言いつつ、早くも宇宙に浮かぶ故郷へ思いを馳せていた。