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SEED DESTINY “M”_第12話

Last-modified: 2009-03-01 (日) 09:04:20

 そのニュースは、電撃的に世界を駆け巡った。

 

 タツキ・マシマを首班とする、オーブ臨時連合政府は、宰相の地位にあったウナト・エマ・セイランを外患誘致の罪で逮捕拘束し、その全権を剥奪したと発表した。
 セイラン親子はカガリ・ユラ・アスハ代表に奸言を呈し、オーブとプラントの同盟を成立させ、オーブを安全保障上きわめて危険な状態に置いた。そう報道されていた。
 そして、ウナト内閣の下で進められていたプラント・オーブの安全保障協定を一方的に白紙撤回すると、再び大西洋連邦の呼びかける世界条約への参加を表明したのである。
 一方の大西洋連邦は、一度オーブに世界条約参加を事実上拒否されていたにもかかわらず、タツキ臨時政権に対しては歓迎の意向を伝えるとともに、テロリストによって誘拐されたカガリ・ユラ・アスハ代表の捜索に出来る限り協力する事を確約した。

 
 

機動戦士ガンダムSEED DESTINY “M”
 PHASE-12

 
 
 

「見ろ! お前らが勝手な真似をしたせいで、オーブはメチャクチャにされてしまったじゃないか!」
 “元”地球連合大型特装戦闘艦『アークエンジェル』。
 公海上を行くその艦橋で、カガリは激昂して怒鳴った。
 正面のスクリーンディスプレィに、オーブと大西洋連邦の海外向けテレビ放送が流されていた。
「でも、僕達が止めに入らなければ、オーブはプラントと同盟していたんでしょう? セイランの思い通りにさ」
 キラは悪びれた様子も無く、手振りを加えながらそう言った。
「違う! プラントとの同盟は、私が決めたことだ!」
「えっ!?」
 感情的な怒声で、カガリが言い返す。すると、キラは軽く驚いて、目を円くした。
「ウナトとユウナも、最初は大西洋連邦との同盟を進めていたんだ! だが、私の言葉に理解してくれて、プラントとの同盟を認めてくれたんだ!」
 カガリはさらに、まくし立てた。
「で、でもプラントは、ZAFTはラクスを殺そうとしたんだよ!?」
「要領を得ない言い方をするな。一体何があったんだ?」
 カガリはいくらか声のトーンを落とし、キラに問いただした。
 するとようやく、キラは事の次第を詳しく、カガリに説明し始めた。

 

 キラやラクス達が生活していた、マルキオ導師の孤児院を、突然モビルスーツを装備した一団が襲ってきたこと。
 彼らの目的がラクスの殺害にあったこと。
 戦う為にフリーダムとアークエンジェルの封印を解き、彼らを撃退したこと。
 撃退した一団が使用していたモビルスーツが、ZAFTの最新鋭水陸両用MS、UMF/SSO-3、
『アッシュ』だったこと。
「おいこら、待て」
 キラの説明が終わったところで、カガリは不機嫌そうな口調でツッ込んだ。
「そいつらがZAFTだって客観的証拠が無いじゃないか! それとも誰か捕まえて、聞き出したのか?」
「そうじゃないけど……でも、ZAFTの最新鋭MSを装備してたんだよ!?」
 キラは困惑気な表情をしつつ、そう言い返した。
 それを聞いて、カガリは頭を抱えた。
「あのなぁ、キラ。いまやテロリストがMSを横流ししたり密造したりは、日常茶飯事なんだよ。ユニウス7を地球に落とした奴らも、密造MSを使っていたんだぞ! それに、私は目の前で、MSが強奪されるのを、2度も見ているんだからな! 大体、ヘリオポリスのときは、お前だって一緒だったじゃないか!」
「そっ……それは、そうだけど……」
 カガリの指摘に、キラは言葉を詰まらせる。
「カガリさん、落ち着いてください」
 艦橋へ入ってきたラクスが、キラを問い詰めるカガリの背後から、穏やかに声をかけた。
「この際、わたくしが狙われたと言う事は、置いておいて頂いて構いません。重要なのは、セイラン親子が、カガリさんの意向を無視して、国を動かそうとしていた事ですわ」
「だが、あの2人は私の言葉を解ってくれたぞ!」
 ラクスは静かに、しかしはっきりとした口調で言う。それに対し、カガリは荒く声を上げて言い返した。
「本当にそうでしょうか?」
 ラクスは軽く眉を下げ、問いかける。
「何が?」
「そもそも、カガリさんが守りたかったのは、お父上の、ウズミ様の理念だったのではないのですか?」
 聞き返すカガリに、ラクスはそう指摘した。
「それが理想だとは思ってる。でも、今の状況じゃ、それは無理だろ」
 カガリは、軽くラクスを睨むようにしながら、低い声で言い返す。
「まず、決める。そして、やり通す。一度決めた事、望んだ理想を、簡単に、手放してしまっても良いのですか?」
「その為に国民を犬死させろと言うのか!?」
 ラクスはカガリに説いて聞かせるが、カガリも即座に言い返す。
「そんな事はさせないよ、カガリ」
 そう言ったのは、キラだった。
 カガリが振り返り、ラクスもキラに視線を向ける。
「その為に、僕はフリーダムに乗ったんだ。もう誰も、失いたくないから」
 次の瞬間、カガリはキラを殴り飛ばしていた。
 本来ならナチュラルであるカガリより、運動能力ははるかに高いはずのキラだったが、想定外の出来事に、綺麗に右ストレートをくらい、後ろに吹っ飛ばされた。
「カガリさん!?」
「カガリ!?」
 尋常ではない事態に、艦長席のマリュー、司令官席のバルトフェルドが、驚いて声を上げた。
「誰も失いたくないだって!? ユウナを殺しておいて、良くそんな事が言えるな!」
 カガリはさらに激昂し、へたり込んだキラに向かってそう怒鳴りつけた。
 ユウナの絶命を確認してはいなかったカガリとキラだが、メディアはユウナが“事故死”したと報じていた。
「あれは……仕方なかったじゃないか。そもそもは彼が悪いんだし、それに、いつまでもカガリを離さないから……」
「国家元首が連れ去られようとしてるんだぞ! 必死に止めようとするに決まってるじゃないか!」
 うじうじと言い訳をするキラに、カガリは怒鳴りつけた。
「カガリさん」
「何だ!」
 ラクスに声をかけられ、カガリは乱暴に答える。
「過ぎた事を今言っても始まりません。これからどうやってオーブを取り戻すか、オーブをあるべき姿に戻すのか、それを考えるべきなのです」
 ラクスはそう、カガリに向かって説いた。
「簡単だ、私をオーブに戻せ。そうすれば、お父様の頃からの支持者がいる。タツキなんかに好きなようにはさせない」
 カガリは険しい表情のまま、声のトーンは抑えて、そう言った。
「ですが、それでは何の解決にもなりません」
「は? 何でだよ!」
 ラクスの言葉に、カガリは一瞬呆気にとられ、そして聞き返す。
「今カガリさんが戻ったとしても、オーブの立場は変わらない……大西洋連邦との同盟を続けるか、プラントと新たに同盟を結び直すかのどちらかになるのでしょう?」
「当然、今の条約は無効だ。デュランダル議長も、そのことは解ってくれるだろう」
「それではいけないのです。オーブのあるべき姿を取り戻さなければ、意味が無いのです」
「カガリだって、本当はオーブの理念を守りたいんでしょ?」
 ラクスの言葉に、キラが追従した。
「ああ、本当のところはな」
 カガリは険しい顔のまま、そう言った。
「でしたら……」
「だが、お前たちの力を借りる気はまったく無いぞ!」
 ラクスの言葉を遮り、カガリは声を上げて断言した。
「どうして!?」
 キラが驚き、心外だというような声で聞き返す。
「当たり前だ! お前たちはユウナを殺して、私を拉致して、勝手放題やっているだけだからだ! そんなお前たちと一緒に戦うなんて、アスハの名にかけて絶対にしない!!」
「困りましたわね……」
 子供にわがままを言われた母親のような、緊張感に乏しい表情で、ラクスは言った。
「カガリさんは少し、疲れているのかもしれませんね。少し休んで落ち着いて考えてください。カガリさんとオーブのために、本当に何をすべきなのかと」
「私は冷静だぞ!」
「バルトフェルドさん、カガリさんをお部屋にお連れしてあげてください」
 カガリの反論を無視するかのような態度で、ラクスはバルトフェルドに向かって、そう言った。
「あ、ああ……」
 バルトフェルドは気まずさを感じつつも、指揮官席から立ち上がると、カガリの腕を取った。
「まぁ、いろいろあるだろうけど、今は休むといいよ。疲れが取れれば、いい考えも浮かぶよ」
「休んでる暇なんかあるか……こら、離せ馬鹿虎! 私はオーブに戻るんだ、このままじゃオーブが!!」
 なおも抵抗するカガリを、しかしバルトフェルドは軽々と引き、アークエンジェルの士官室へと連れて行った。

 

 ミネルバは、オーブを出航し、カーペンタリア基地に向けて南下していた。
 開戦時、連合はミネルバをオーブ沖で捕捉することを目論んでいたが、オーブが交渉の引き伸ばしを図った為、準備が整わず、結局ミネルバは追撃を受ける事も無く、平穏な航行を続けていた。
 第1医務室。
 マユはステラに会うために、ここへやって来ていた。
「ステラさん、会いに来たよ」
 カーテンのパーティションの隙間から顔を見せ、そう言った。
「マユ!」
 ニコニコと笑顔のマユを見ると、ステラの顔もぱっと輝くように綻んだ。
 地球に降下して、さらにオーブにいる間も、マユは軍医長からの勧めもあり、定期的にステラを訪問していた。
「ステラさん、元気?」
「うん、ステラ、だいぶ元気になったよ」
 パーティションの中に入ってきたマユが聞くと、ステラは満面の笑顔でそう答えた。
「でも……」 
 ステラは、じっとマユを見つめる。
「マユは、元気ないみたい?」
「え……!?」
 ギクッ、とマユは一瞬身体を硬直させる。
「そ、そんな事無いよ? 私も元気、元気」
 そう言って、おどけてガッツポーズをして見せた。
「そう、なら、いい」
 ステラは笑顔に戻って、そう言った。
 それから、マユはベッドに腰掛け、ステラを抱き締める。
「ん」
 母親か歳の離れた姉のように、穏やかにステラを抱き締めて、ゆっくりと背中を撫でる。
「大丈夫、だからね」
「うん……大丈夫。マユ、いてくれるから」
 ステラの正確な年齢はわからないが、どう見ても本来はマユの方が年下である。だが、 ステラは妹の様にマユに懐き、マユは年長者の様に振舞って、ステラに安堵を与える努力をした。
 それは確実に功を奏して、ステラは精神的に落ち着いていった。
「……では、あるのですが」
 ステラを宥め終えてから、マユは診察室で、軍医長にそう切り出された。
「どうしても薬物に……それも強いものに頼らざるをえませんし、ここまでの成長期に神経にかなりの負荷をかけられていますから……一時的に人並みに戻ったとしても」
「……長くは、生きられない、って事ですね……?」
 軍医長の言葉を先読みして、マユはそう言った。
「はい。少なくとも人並みの寿命はまっとう出来ないでしょう」
「…………」
 マユは沈痛な面持ちで俯き、軍医長と向かいあってスツールに腰掛けたまま、その膝の
上でぎゅっ、と拳を握った。

 

 1人きりの士官食堂で、マユは思いをめぐらせる。
 ……再び現れたフリーダム。家族の仇。
 勝てないまでも、もう少し粘れると思っていた。だが、コクピットへの直撃を絶対に避けなければならないという制約がついたとは言え、実際にはほとんどまともに相手にもされず、良いようにあしらわれてしまった。
 ……ステラ。
 回復傾向にはあるものの、削られた寿命は元に戻せないと言う。
「はぁ……」
「こらこら、そんな重いため息ついてると、幸せ逃げてっちゃうよー?」
 軽い笑顔を見せながら、声をかけてきたのは、ゲイルだった。
「んー、プラント生まれの人って、神様とか信じないんじゃないの?」
 マユは覇気の無い声で、そう言った。
「信仰と縁担ぎは別だよ」
 ゲイルはそう言って、苦笑した。
「まぁ、オーブがあんな状態で……しかもプラントの敵になっちゃって、気が重いのはわかるけどさ」
 ゲイルは訳知りを気取って、そう言った。
「別に。今の私はプラントの人間で、ZAFTの一員だもん。オーブが敵になっても、戦うよ」
 相変わらず覇気のない様子で、マユはそう答えた。
「へぇ、マユ、達観してるねぇ」
 笑顔のまま、ゲイルは意外そうにそう言った。
「そう? ミレッタお姉ちゃんもそう言うと思うけど」
「もう言われてきました」
 マユが言うと、ゲイルはおどけ気味にそう答えた。
「怒られちゃった。オーブに未練なんか無いって」
「私も……そうかな。あんまり執着はない、と思う」
 ゲイルがルームメイトの事を話すと、マユはそれに同調するように言った。
「でも……それなら、なんでそんなに元気ないの?」
 ゲイルは軽くキョトン、として、マユに訊ねた。
「とりあえずは、フリーダムかな」
「ああ……」
 マユが言うと、ゲイルの顔から笑顔が消えた。
「あたしも結構、信じられなかったかな。確かに、ヤキン・ドゥーエの伝説の機体って言われてるけど、マユのガイアからあんな簡単に逃げられるとは思わなかった」
「はぁぁ……」
 ゲイルが言うと、マユはまた、深くため息をついた。
「でも、そんなに気にしてもしょうがないんじゃない? マユにはハンデがあったんだし、機体の性能だって、あっちは核エンジンでしょ? あんなもの、何処に隠していたのか知らないけど……」
「うん……まぁね……」
 マユの言葉は、相変わらず気の抜けたものだった。
「アスハ代表、無事でいて欲しいね」
 ゲイルは重々しい声で、そう言った。
「うん……」
 実のところ、アスハにあまり良い印象は持っていないマユだったが、ひとまずはゲイルの言葉を肯定した。
「…………そうだね」
 マユが軽く、身体を起しかけたとき。
「あっ」
 と、マユに向かって声が聞こえてきた。
「マユ、こんなところに居たんだ」
 そう言って近寄ってきたのは、ルナマリアだった。
「何よ、2人して辛気臭そうな顔しちゃって」
 ルナマリアは、覇気のない2人を見て、やれやれといったようにそう言った。
「そういうルナは、悩みなんかなさそうで良いよねぇ、うらやましいよ」
 ゲイルは意地悪そうに苦笑して、そう返した。
「ちょっと、それ、どういう意味よ!」
 ルナマリアはむっとして、言い返す。
「まぁまぁ、2人とも」
 マユが割って入って、手振りを加えて2人を宥める。
「って、そうそう、マユちゃん」
 ルナマリアははっと思い出したように、マユの方を見た。
「エイブス班長が探してたわよ。部屋にいないから」
「エイブス班長が?」
 マユは思わず、鸚鵡返しに聞き返していた。

 

「ゲイツの腕のストリッピングなんざ、教練で何度もやってるだろうが! グズグズしてると太平洋たたっこむぞ!」
 マユがエレベーターから格納庫に降り立つと、マッド・エイブス整備班長の怒鳴り声が聞こえてきた。
 キャットウォークの踊り場に出ると、目の前に、使用されていない“新型機”の、換装システムの牽引機が引き出されてきていた。
 そこに、ヴィーノとヨウランが取り付いている。メインスラスターのカバーを外し、クリップボードに書き付けて確認しながら、部品を外している。解体しているようにも見えた。
「あ、マユ」
 裸になったメインスラスターを覗き込んでいたヴィーノは、不意に顔を上げると、キャットウォークにいるマユに気がついた。
「おーい、マユー」
「あ、ヴィーノお兄ちゃん」
 ヴィーノがマユに向かって手を振った。それから、エイブスのがなり声が聞こえてきた方を向いて、声を上げる。
「班長〜、マユ、来ましたよー!!」
「よーし、マユ・アスカ、ちょっとこっち来てくれー!!」
「あ、はーい」
 エイブスの呼ぶ声に従って、マユはキャットウォークから格納庫のデッキに下りる階段を下り、指示を出しているエイブスの所にまで小走りに駆けていく。
「マユ・アスカ、来ました」
 一度直立不動になり、敬礼する。
「よし」
 返礼してから、エイブスは小脇に抱えていたファイルを広げた。
「実は上の方からの命令で、カーペンタリアに到着次第、ガイアを改修する事になってな」
「改修? ガイアを、ですか?」
 エイブスの言葉に、マユはキョトン、として、聞き返した。
「そうだ。命令とは言っても、パイロットの意向はとらなきゃならないからな」
「でも、特に今のところ性能には不満は……」
 ガイアがハンガー形クレーンに吊られて格納されている方を向き、覗き込むような仕種をしながら、そこまで言いかけて、急に表情を苦いものにする。
「まぁ、フリーダムには手も足も出ませんでしたけど……」
「いやぁ、あれは相手と条件が悪かったとしか言えないだろ」
 エイブスも苦笑して、マユを慰めるようにそう言った。
「マユはガイアをよく使いこなしていると思うぜ」
「あ、ありがとうございます」
 エイブスの言葉に、マユは彼に向き直って姿勢を正し、少し緊張してそう言った。
「だが、地上で使うには、足りない機能があるだろ?」
「えっ?」
 マユは狐につままれたように、キョトン、とした。
「本来それをカオスが補う予定だったわけだが……今、ここにはないからな」
 エイブスは言い、苦い顔をした。
「すみません」
 マユは申し訳なさそうに言った。アーモリー1からミネルバに乗り強奪犯を追撃したものの、ガイアを与えられておきながら、結局カオスとアビスの奪還には失敗した。
「お前さんだけのせいじゃないし、謝る必要なんかないだろう」
 そう言いつつ、ファイルに閉じられていた計画書を見つけると、ファイルをひっくり返して、それをマユに見せた。
 マユはそれを一瞥して、目を円くした。
「え……こ、これは……!!」
 引き込まれるように、計画書を凝視する。
「その顔は、その気になったってことだな」
 エイブスはにやりと笑ってそう言った。
 マユの表情は、年相応の少女が、好奇心に目を輝かせているものになっていた。