Top > SEED DESTINY “M”_第17話
HTML convert time to 0.007 sec.


SEED DESTINY “M”_第17話

Last-modified: 2010-07-07 (水) 06:28:53

『勇敢なるZAFT軍兵士のみなさーん! 平和の為、わたくし達も頑張りま〜す。どうかお気をつけて!』
 メインディスプレィにテレビの画像が映し出される。それはプラントの海外放送だった。
 ラクス・クラインのZAFT慰問ライブ、なるものを流している。
 コーディネィターにしかありえないピンク色の長髪と、露出度を増した衣装に身を包んだ抜群のスタイル、あどけなさを残す快活そうな顔。
 アップテンポの曲にあわせて、会場のボルテージも上がっているのが、中継越しにもわかる。
「向こうは、楽しそうでいいですわね……」
 その画面を見ていた、ラクス・クラインは呟く。
「出来れば何とかしたいところだがねぇ、下手に動けばこちらの居場所が割れる。そいつは上手くないだろ、匿ってくれているスカンジナビアに対してもさ」
 バルトフェルドが、ぼやく様に言った。
「でも、デュランダル議長の姿勢は紳士だわ。確かにユニウス7の落下は地上に大きなダメージを与えたけど、カガリさんの言う通り、ZAFTが動かなければもっと酷いことになっていたでしょうしね……それを難癖つけて開戦した連合がバカよ」
 マリューがため息混じりに言う。
「でも、それなら、誰がラクスを殺そうとしたの?」
 険しい表情のキラが、低い声で問いただすように言う。
「…………」
「…………」
 バルトフェルドとマリューは、困惑気な表情で押し黙ってしまう。
 ラクスも、まだ、何も言わない。
「そしてこれじゃあ、僕には信じられない。そのデュランダルって人は」
「キラ……」
 ラクスはキラを落ち着かせるように、穏やかな口調で名前を呼びかける。だが、キラのトーンは落ちない。
「みんなを騙してる」
「政治なんてもんは、大なり小なり騙し合いだがね」
 ふっ、と短くため息をついて、バルトフェルドが言った。
「今の状況を見てる限りじゃ、どっちかって言うとZAFTに味方して、連合を討ちたくなっちゃうけど」
「お前は反対なんだろう? それには」
 マリューの言葉を受けて、バルトフェルドがキラに訊ねる。
「ええ」
 キラは険しい表情で、画面の中の“ラクス・クライン”────ミーアを睨みつけるようにしつつ、はっきりと言った。

 

機動戦士ガンダムSEED DESTINY “M”
 PHASE-17

 

 アークエンジェル・格納庫。
「…………よし」
 カガリは周囲の人の目を確認すると、気配を殺すようにして、ストライクルージュの足元に駆け寄った。タラップを上がり、コクピットハッチを開く。
 手の中に忍ばせていたイグニッションキーを差し込んでONに倒し、起動スイッチを押す。

 

 General
 Unilateral
 Neuron - link
 Dispersive
 Autonomic
 Maneuver
 ___Synthesis System

 

 MBF-02 STLIKE ROUGE

 

 PS装甲が作動し、赤と薄いピンクに染まる。
 だが、その事でストライクルージュが起動したことに、コジロー・マードック整備長が気付いた。
「ん?」
 突然、PS装甲の作動したストライクルージュに、マードックが声を張り上げる。
「誰だ! 勝手に何をしている!?」
「っ…………」
 カガリは、マードックの声に顔をしかめてから、観念したように、一度コクピットハッチを開いて、身を乗り出した。
「班長、悪い、見逃してくれないか?」
「カガリさん」
 コクピットから身を乗り出してきたカガリに、マードックは目を円くして驚く。
「悪い」
 カガリは、苦笑を装って、マードックに拝むようなポーズをとる。
「…………すまないが、艦長の指示なしに発進させるわけには行かない。今は……居場所を突き止められる可能性もあるし」
 マードックは申し訳なさそうな顔で、カガリに向かってそう言った。
「…………そうか」
 マードックの表情に、カガリも毒気を抜かれ、脱力したようにシートにもたれかかる。
 起動スイッチを押し、電源を落とした。

 

 ガルナハン。
 カスピ海南端の沿岸に位置するこの地は、元は敬虔なムスリムの街であった。
 だが、コズミック・イラの世になって、石油資源が枯渇し始めたとき、この地には比較的多くの埋蔵量を残す油井が残っていたことで、この街の運命は激しく揺れ動くことになる。
 世界再構築戦争に伴い、この地には後にユーラシア連邦の東部となる、旧・独立国家共同体(CIS、旧ソ連構成国からなる国家共同体)の連合部隊が展開してその勢力圏に収めた。
 だが、旧CISの構成国にはイスラム国家も存在するが、もっとも影響力が強いのはロシア正教、すなわちキリスト教である。その為この地の支配に当たっては、イスラームに否
定的な政策が採られた。
 それが原因となり、支配者であるユーラシア連邦政府と、この街の住人との間には元々軋轢が生じていた。
 反政府レジスタンスが結成され、有形無形の妨害活動が始められたのは、地球連合が成立するよりも以前のことである。
 とは言え、それもしばらくは小規模なテロ組織に過ぎず、街の治安も落ち着いていたのだが、それを覆す事態が起きた。
 エイプリル・フール・クライシスである。
 核分裂炉によるオーソドックスな原子力発電が使えなくなった結果、ユーラシア連邦は貴重な油井と火力発電所をもつこの地を、重要軍事拠点に拡張し、改良型陽電子砲を備える要塞ローエングリンゲートを建設した。
 それに伴って、ムスリムの街に対する支配も過酷なものへと転じていった。
 そして、それに比例するようにレジスタンス組織は拡大し、反政府活動も激化していく。緒戦におけるZAFTの優位に裏付けされ、激しい抵抗活動が起こった。
 だが、アラスカにおけるZAFT地上軍の壊滅により、分離と。独立あるいは汎ムスリム連合への参加を目指したこの活動の機運は一気に萎んでいく。ユニウス条約締結時には、元の零細テロ組織が残るのみとなってしまった。
 だが、ユーラシア連邦は、レジスタンスの活動員を逮捕拘束し、街の治安を回復しただけでは飽き足らず、街に報復とも言える、さらに過酷な支配を敷いた。
 そこへ持ってきて、ブレイク・ザ・ワールド、そして連合・プラント再戦である。積もり積もった住民の反ユーラシア連邦主流感情は再び爆発し、前にも増して激しい内乱状態になった。
 それでも当初は、軍事的にユーラシア連邦正規軍が圧倒していた。
 だが、自らは宗教に否定的とは言え、異教徒が我が物顔で暴虐を振るうこの惨状に見かねて、遂にスエズのZAFTがこの地に向けて軍を動かしたのである。

 

「と、言うのが現状です」
 ガルナハンの目と鼻の先、ローエングリンゲートの設置される渓谷を挟んで反対側のマハムールに展開したZAFT部隊の司令官、ヨアヒム・アドルが言う。
 ミネルバからは、FAITHの3人、タリア、アスラン、そしてマユ。それに副官としてアーサーが列席してる。
「しかしここを突破するのは難しい。従前の戦闘では我々が優位に立ちましたが、それ故に地球軍もここの守りに必死です。敵はモビルスーツの他に、陽電子リフレクターを装備した多脚型のモビルアーマーを配置して守りに備えている」
「陽電子リフレクター?」
 アスランが、聞きなれぬ単語に聞き返した。
「ビームシールドの強化拡大版と思ってくれれば良いと思います。詳しいデータは後で渡しますが……陽電子砲でも跳ね返す」
「なんと」
「ずいぶん厄介なものがあるのね……」
 アーサーが間抜けな声を出し、タリアがため息混じりに言った。
「我々も独力で突破を試みたのですが、結果は散々でして」
「ふむ……」
 アスランがあごに手を当てて、短く声を出す。
「けれど、戦略陽電子砲があるとなると、ここを潰してしまわない限り、スエズ運河の安全な航行に支障が出る……ミネルバとしても、無視して通れない、か」
 タリアが、どこか感心したように言った。
「まぁ、早い話がそうなります。それに、黒海のディオキアも干上がってしまう。まぁ、そっちの方はいざとなれば、宇宙からの投下でも間に合わせられますが、それにしても量は確保できませんし」
「つまり、その道作りをしろってことね、まったく。誰がこんなこと考えたのかしら」
 タリアは言いつつも、その苦笑にはどこか楽しそうな色があった。
「ですが、我々が加わったとしても、戦力的には……」
 アーサーが、困惑気な表情で、弱音を出す。
「そこなんですが、今回、ガルナハンのレジスタンスからの協力者が訪れていまして、そのーぉ……」
 そう切り出したアドルだったが、急に言葉の歯切れが悪くなる。
「その者が持っているデータがあるんですが、ミネルバ隊であればそれを生かせるかと」
 アドルはそこまで言うと、ちらりとマユを見た。
「?」
 アドルの視線の意味がわからず、マユはキョトンとした。
「とにかく、ガルナハンの街も相当悲惨な状況になっていまして……その為にも、今度こそここを突破しなければなりません」
「体良く押し付けられたって感じですねぇ……」

 

 アドルの旗艦でもある、レセップス級陸上戦艦『ヘズモンド』の司令部公室を出たミネルバ一行。
 アーサーが振り返る仕種をしつつ、そうぼやいた。
「仕方ないでしょう、私達にとっても無視することの出来ない存在ではあるのだし。それに……」
「それに?」
 タリアの言葉に、アーサーは反射的に聞き返す。
「アドル司令の言葉の濁し方は、別のところにあったような気がするけど」
 タリアはそう言うと、後ろからついてくるマユを振り返った。アーサーもそれに倣う。
「?」
 突然、タリアに視線を向けられて、マユはキョトン、とした。
「マユ」
 アスランが、マユに声をかけてきた。
「すまなかった……この前は。かっとなってしまって……」
 すまなそうに、アスランはそう言った。
「っ!……私こそ、すみません。感情的に判断していたところもあったから……」
 マユは気まずそうに視線を逸らしてしまいつつ、そう答える。
「感情的?」
 マユの言葉に、アスランは反射的に聞き返す。
「あの基地で労働させられていた人達が……その、私も多分、ミレッタお姉……ミレッタさんと同じ行動をとってしまったと思うんですよ」
「…………」
 マユの言葉を聞いて、アスランは少し逡巡する。
「君の家族は、オーブで死んだって聞いたけど……」
「はい、オノゴロでの戦闘に巻き込まれて、避難する途中に」
「…………」
「私が、わがままを言ったせいで……」
「君の、わがまま?」
 自嘲気味な笑顔を浮かべるマユに、アスランは聞き返す。
「あの時、私は買ってもらったばかりの携帯電話を落としちゃって。それを失くすのが嫌で……よく考えれば、そんなことやってる状況じゃないことぐらい、私の歳でもわかったはずなのに……」
「…………」
 アスランは返す言葉が見つからず、目を細める。
「それで、拾いに行ってくれた兄も、両親も、フリーダムの砲撃の流れ弾で」
「フリーダムの!?」
 それを聞いて、アスランは素っ頓狂な声を出してしまった。
「間違いじゃないのか? カラミティの方じゃ」
「えっと……アスランさんには悪いと思うんですけど……間違いなくフリーダムのでした」
 3隻同盟の経緯を知っているマユは、気まずそうに言う。
「…………」
 アスランは絶句する。
「そんな……俺は…………」
「え?」
 歩みを止め、立ち尽くしかけたアスランを、マユは軽く驚いたように振り替える。
「あ、あの、すみません、変な時に、変なことを言ってしまって」
「あ、いや!」
 マユの言葉で、アスランは我に返る。
「君が気にすることじゃない」
 アスランはそう言ってから、タリアとアーサーを追いかけて小走りに駆けた。マユもそれを追う。
「キラ、ラクス……俺は、どうすれば…………」

 

「現地協力者、ね……」
 ミネルバ、ブリーフィングルーム。
 その姿を見て、ゲイルはため息混じりに言った。
「まだ子供じゃない」
「マユより年上だそうだけど……」
 ゲイルの呟きに、ルナマリアが苦笑ながら言う。
「けど、ナチュラルでしょ? ガルナハンはそんなに酷いことになってるってことなのかな?」
 ゲイルは小首をかしげる仕種をしながら、その協力者を見る。
 コニール・アルメタ。そう名乗る協力者とやらは、まだ幼さの残る少女だった。
「データを持ってきてもらったのはいいんだが……」
 アスランはブリーフィング・ルームの大型ディスプレィに映し出された地形図を見つつ、気まずそうに唸った。
「これを活用すると言っても……」
 ちらり、と、末席に加わるステラを見た。
 ステラは、境遇がわかっているのかいないのか、緊張感の乏しい表情で椅子に座っている。
「無理すればセイバーやバビでも通れないことになさそうですよね」
 マユはニュートラルな表情で言った。
「えっ!?」
 アスランが驚いたような声をあげる。
「ちょ、ちょっとそれはないよ、マユちゃん。ちょっとでもぶれたらぶつかってオシャカだよ」
 ミレッタが慌てて、そう言った。
「冗談だよ、じょーだん。MAでここは抜けられないって」
 マユは、苦笑しながら軽くそう言った。
 すると、
「冗談だってぇ!?」
 と、コニールが怒りに満ちた形相で、マユやアスラン達を見る。
「お前たちは冗談やってる余裕もあるかもしれないけどな! こっちはそれどころじゃないんだぞ! このデータだって必死で、もし今回失敗したら、マジで街はやばいんだからな!!」
 怒声を上げ、まくし立てる。
「え……あ、ご、ごめんなさい、そんなつもりじゃ……」
 マユはコニールの突然の怒声に驚き、戸惑いながら謝罪の言葉を口にする。
「落ち着くんだ。俺達だって真剣に考えていないわけじゃない」
 アスランが仲裁するように割って入り、コニールに向かってそう言った。

 

「けど、じゃあ、一体どうするんだよ!」
 コニールはアスランにまで食って掛かるように言う。
「正面突破でいけるんじゃないかな」
 状況表示の加わった地形図を見ながら、マユはそう言った。
「正面突破って、それじゃ何で今まで突破できなかったんだよ!」
 コニールはマユに噛み付く。
「レセップス級の火力と、ゲイツFが半分も占める部隊じゃきついよ」
「ミレッタにしてもマユにしても……ここにF型乗りがいるってこと多少は気遣ってよね」
 ゲイルが不機嫌そうに、マユをひくつかせた笑顔でツッ込む。
「ごめんごめん」
 マユは、苦笑しながらそう言ってから、
「でも、相手は多脚型のMAな訳だし。ガイアやバビの機動力にはついてこれないんじゃないかな」
 アドルから与えられた、陽電子リフレクターを装備しているというMAのデータを、ディスプレィに表示させる。
 それは蜘蛛のような6脚歩行の大型MAで、MSの上半身が上に生えているという、見た目かなり恐ろしげなMAだが、確かに俊敏な動きが期待できるような形態ではない。
「待て、ガイアやバビって……今回も、自分が先行するつもりなのか、君は!」
 アスランが驚いたように声を上げた。
「はい」
 マユは笑みまで交えて、はっきりとそう答えた。
「あ……ミレッタお姉……ミレッタさんが嫌なら、ガイア1機だけでも何とかするけど……」
 はっと気付いて、ミレッタの方を見ながら困惑したように言う。
「ちょっと、それじゃボクがいやだって言ってるみたいじゃないか」
 ミレッタはムッとしたような表情で、ふざけ混じりに言い返す。
「なら、決まり。アスカ隊が先鋒で正面突破。MAと陽電子砲を何とかするから、ザラ隊はその援護。で、いいでよね? アスランさん?」
 マユはそう言って、アスランに視線を向けた。
「ああ……」
 アスランは苦い表情で、もう一度ちらり、とステラに視線を向けた。
「いや、俺も先鋒に加わる」
「えっ?」
 アスランが言うと、マユは軽く驚いたように聞き返した。
「セイバーも高機動機だ。こういう任務で援護に徹していても仕方がない」
 アスランはそう言って、視線をマユから移し、レイとルナマリアを見る。
「レイ、ルナマリア、援護は2人が中心になって行ってくれ」
「はい!」
「了解しました」
 ルナマリアは妙にはしゃいだように、レイは淡々と、それぞれ答えた。
「よし、一旦解散だ。各自出撃に備えろ。以上だ」
 アスランが言う。
 その脇で……

 

「コニールさん、コニールさん」
 と、マユがコニールに声をかける。
「なんだよ」
 不機嫌そうにしていたコニールは、ぶっきらぼうに、マユに返事をした。
「お願いがあるんですけど……あ、ミレッタお姉ちゃんも」
 マユはいい、コニールとミレッタを傍に呼び寄せる。
「それで、なんなんだよ」
 不機嫌そうなままのコニールに、マユはそれを告げた。
「あー、なるほどね」
 それを聞いたミレッタは、納得したような声を上げる。
「わかった。出来るだけ努力してみる」
「お願いします。コニールさんも、複雑だとも思いますけど……」