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SEED DESTINY “M”_第9話

Last-modified: 2009-02-28 (土) 00:36:20

「抜けた!!」
 ビリビリと不快に振動するコクピットの中で、マユは計器盤を見たままそう言った。
 大気の層が厚くなり、ガイアと、抱きかかえているゲイツFの速度が、一気に落ちる。
 それに伴って、赤熱していたガイアの背面の温度が下がり、VPS装甲の鮮やかな色が戻る。
 メインカメラが作動、ツインアイにゲイツFのモノアイが捉えられた。
「アスランさん、大丈夫ですか!?」
 マユはゲイツFに乗っている筈のアスラン呼びかける。
『ああ、大丈夫だ。異常はない』
 電離層干渉によるEMP効果も無く、明瞭な応答がアスランから返ってくる。
「腕、離しますから」
『了解』
 ここまで来たら、各々逆噴射をかけて着地に備える。
 ガイアもゲイツFも飛行能力は無いが、降りるだけならスラスターで姿勢制御し、減速できる。
 ガイアがゲイツFを抱きかかえていた腕を解く。2機はスカイダイビングの要領で離れていき、その後各々スラスターを噴射して、姿勢を整える。
 地表が見える。無毛と思われる砂漠地帯。人家の気配は無い。遠慮なくスラスターを噴射して制動し、2機は大地に降り立った。

 
 

機動戦士ガンダムSEED DESTINY “M”
 PHASE-09

 
 
 

 地上の状況が芳しくないことは、空を見上げているだけで解った。
 ミネルバはガイアとアスランのゲイツFを回収すると、太平洋上に出た。
 戦闘も無く、手すきの者は上甲板に出ていた。
「うへー、太平洋って言うんだろ? うわー、でっけー」
 ヴィーノが興奮したように、手すりに身を乗り出し、あたりを見回している。彼に限らず、プラントで生まれて育ち、地上とは縁の無い者がほとんどだった。
 プラントにも人工的な水場はあるが、海の広大さには及ぶべくも無い。
「でも、なんかイメージとちがくない? テレビや写真の海って、もっと鮮やかな青じゃなかった? なんかちょっと、緑色っぽくて濁ってるよ」
 ゲイルが腕組みをしたまま、怪訝そうに言った。
「空のせいだよ」
 その声に、ヴィーノとゲイル、それにヴィーノの傍らにいたヨウランが振り返る。
「マユちゃん」
 ヴィーノがその名前を呼んだ。
「海の青は、空の青を写しているんだよ。だから空が晴れていない時は、海の色もくすんじゃうの」
 マユは浮かない顔をして、甲板に出てきながら、そう説明した。
「そういや、空もこんな感じのって見たことないなぁ……」
 ゲイルは空を見上げて、呟くようにそう言った。
 緑色に濁った雲が、辺りの空一面を覆っていた。
「おそらく、ユニウス7落下の影響だろうな」
 今度はマユが振り返る。マユのさらに背後から、レイが出てきて、そう言った。
「砕いたとは言え、あれだけの質量が一気に大気圏に突入したんだ、地上にはかなりの影響があったはずだ。被害も少なくないだろう」
「そりゃまぁ、そうだろうねぇ」
 ため息混じりにゲイルが言う。
 ヴィーノとヨウランは、ちらちらとマユの方を伺っている。
 当のマユは、物憂い気に軽くうつむいていた。

 

「マユ」
 やや重い声で、レイが声をかけた。
「ミネルバはオーブへ向かうそうだ」
「!」
 その言葉に、マユは姿勢はそのままで、一瞬、凍りついたように目を円くした。
「それホントかよ」
 ヴィーノが、好奇心交じりの表情と声で、レイに聞き返す。
「でも何だってわざわざ」
 ゲイルが、怪訝そうな表情で訊ねる。
「議長は一刻も早くプラントに戻らなければならないし、オーブの代表もいい加減載せっぱなしというわけには行かないだろう。それに、ここからカーペンタリアまで、最短距離だとどうしてもオーブ領海を横切ることになるしな」
 レイは3人に向かって、そう説明した。
「…………」
 マユは目を少し細めると、沈黙したまま、重い表情をしていた。
 僅かに沈黙が流れた後、
「……けどホントに驚いた。心配したぞ、モビルスーツで出るなんて聞いていなかったから」
 と、そんな声がマユとレイの背後から聞こえてきた。
 仏頂面のアスランが甲板に上がってきて、それにカガリが続いていた。
 心配した、と言ってはいるが、カガリの表情は明るい。それは、純粋に喜びと安堵からのものだった。
「すまなかった、勝手に」
 対するアスランは暗めの雰囲気で、憂い気な表情のままで言う。
「いや、そんなことはいいんだ。お前の腕は知ってるし。私はむしろ、お前が出てくれて良かったと思ってる」
 カガリは笑顔のまま、アスランに言う。
「…………」
 マユは、カガリを一瞥してから、アスランに視線を向けた。
「ほんとにとんでもないことになったが、ミネルバやイザーク達のおかげで被害の規模は格段に小さくなった。そのことは地球の人達も感謝してくれる」
 カガリはそう言った。アスランは相変わらず物憂い気な表情のままだった。
 マユはレイと顔を見合わせる。マユは軽くため息をついた。
「…………そうだろうか?」
「え?」
 アスランは、重々しく口を開く。
「ユニウス7の突入は自然現象じゃなかった。犯人がいるんだ。コーディネィターのな」
「あ、ぁぁ……だが、それは……」
 カガリの表情が急に曇った。
「あそこで家族を殺された連中が、ナチュラルなんか滅びろと言ってユニウス7を突入させたんだ」
「それは……それは解ってるさ! でも、お前達はそれを止めようとしてくれたじゃないか! お前だけじゃなくて、ZAFTの人間も」
 カガリは必死に言うが、アスランの顔は晴れない。
「だが、それでも止め切れなかった……破片が地上に降り注いで、被害が出た……」
「…………それは」

 

「一部の人間がやった事だと言っても、俺達コーディネィターのした事に変わりは無い。許してくれるのか、それでも……」
 アスランは言い、重々しく短いため息をついた。
「それは、人によるんじゃないでしょうか?」
「えっ?」
 言葉に詰まったカガリに代わって、そう口を挟んだのは、マユだった。
「アスランさんこそ、ナチュラルとコーディネィターという括りに囚われ過ぎていませんか? 私達、デュランダル議長の下でのZAFTと、あの連ちゅ……あの人達が違うように、ナチュラルがみんながみんな、私達を憎んだり、そうしなかったりするはずは無いと思います」
「マユ……君は」
 アスランはマユに視線を向けると、何かを告げようとしたが、
「そうだよ!」
 と、カガリが希望を見出した明るい顔で、それを遮るように声を上げた。
「犯人がコーディネィターだと言っても、ZAFTはそれを阻止する為に動いてくれたんだ!きっとわかってくれる人だって、たくさんいるはずさ!」
 事実、既にデュランダル議長の指示で、ユニウス7突入はZAFTを脱走したテロリストが起し、ZAFTは被害を最小限に抑えるために活動したと、映像付で発表されている。
 ジンもZAFT系の機体だが、旧式の機体であり、正規のZAFTでは第一線を退いて久しい。
 現用のゲイツD・ゲイツFとの対比が、彼らがテロリストである一定の根拠を与えてくれるはずだ。
「それは……そうかも知れないが」
 逆にカガリに勢いを呑まれかけたアスランは、目を白黒させながら声を出してから、落ち着きを取り戻す。
「ただ、彼らのリーダーが言っていたんだ。パトリック・ザラの採った道がコーディネィターにとって唯一正しい物だってな……」
 カガリと正対したまま、アスランはそう言って、またため息をついた。
「アスランさん」
 マユに呼ばれ、アスランは軽く驚いたようにマユを見る。
「あの連ちゅ……人達の言うことが、正しいとでも思ってるんですか?」
 キョトンとした表情で、マユはアスランを見ながら、そう訊ねた。
「え……? い、いや、そんなことは無いが……」
 アスランは面食らったように、目を円くして答える。が、すぐに再び声のトーンを落とした。
「ただ、まだ父の言葉に惑わされている人間がいるのかと思うと……」
「だからってあんなやり方が許されるって言うんですか?」
 マユの眉間に、軽く皺がよった。
「そ、そんなことは無い! 当たり前だろ!!」
「だったらしっかりしてください! お父さんのやり方が間違っていると思ったから、アスランさんはそれを正そうとしたんでしょう?」
「それは……」
「アスランさんがしっかりしなかったら、それこそこの後もズルズルとそういう人達が出ることになりますよ。それに……」
「それに?」
 マユが一旦言葉を区切り、アスランはその間に聞き返す。
 マユはすっと息を吸い込んでから、
「女性が褒めてくれているのに、うじうじした態度とってる男の人なんて、かっこ悪いですよ!」
「え…………」
 アスランは三度、面食らったように目を円くする。ちらりと背後に視線を向けると、カガリの視線とぶつかった。
「わ、私とアスランは、そんなんじゃない!!」
 ムキになって言い返したのは、カガリの方だった。
 カガリの剣幕に、逆に軽く驚いたように目を円くしたマユだったが、
「…………アスランさん」
 と、僅かに間をおいてから、口調を穏やかにして、アスランに声をかける。
「間違いを犯してしまった方が、生き残ってしまったら、それこそ……辛いですよ」
「え?」
 アスランは、マユの言葉が理解できず、聞き返してしまう。だが、マユは直接意味を説明することはせず、
「だから、アスランさんは胸を張っていて良いんです。少なくとも、他人の前では」
「あ、ああ……」
 アスランは、呆気に採られたような表情をしつつ、マユを見つめた。
 マユは笑っていたが、どこか哀しげな笑みだった。
 ────マユ、君は……俺は……

 

「にしても、あたしはちょっと気にかかることがあるんだよねー」
 僅かに沈黙が流れた後、腕組みをしたゲイルが、おどけ混じりに首をかしげながら、言う。
「あいつらの使ってた機体……試作で落ちたジンの改修型でしょ? それをあんな数、連中どっから調達したのかねー」
「それは、ZAFT脱走するときに乗り逃げしたとかじゃねーの?」
 ヴィーノが後頭部に手を回したポーズで、何気無しに言う。
「それで説明つくような数か? あれ。大体連中全員同じ機体乗ってたし」
「それは……確かに」
 ゲイルが言い返すと、ヴィーノも言い、腕を組んで唸ってしまった。
「その辺りは、プラントの方でも調査すると思うが……」
 レイも言ったが、その表情は浮かない。
「生産設備を持っている組織があると言うことか?」
 カガリが単純にそう考え付く。
「可能性は排除できませんね」
 レイが頷き、そう言った。
「だとしたら、くっそー、何処のどいつが……」
「いや」
 1人で義憤を募らせるカガリに、アスランはそれを否定するような声を出した。
「彼らはユニウス7を落とせれば自分達も死んでも良いような発言をしていた。もしそんなバックアップ体制を持っている組織なら、そんなことは無いはずだ」
「うーん…………」
 その場にいた全員が頭を捻る。
「ま、その辺りの難しいことはお偉いさんが考えてくれるんだろうけど、次から次へとああいう手合いが出てこられたらやってられないね」
 肩を竦めて、ゲイルが言った。
 この中で唯一、その“お偉いさん”の範疇に含まれるであろう1人が、頷いた。

 

「ZAFTの戦闘艦とはな。姫もまた面倒なもので帰国される」
 オーブ連合首長国・オノゴロ島、軍港。
 ミネルバの寄港の要請を受けて、その準備が整えられていた。
 その様子を見ながら、宰相ウナト・エマ・セイランと、その息子ユウナ・ロマ・セイランが話し合っていた。
「今のところ我々は中立を保っていますから。でもどうします父上。その間に連合が動いたら」
「まだ正式に同盟を締結したわけでもないし、言い訳は何とでもできるさ。それに、我々の動きを無視して、事を始めるほど連合も間抜けではあるまい」
 ウナトは冷静な表情で言ったが、ユウナの表情からは不安が払拭されていない。
「どうでしょう。今ブルーコスモスを牛耳っている男、アズラエルと違って、プロパガンダの演出の為に、そう言った打算が後回しになりそうな人物ですから」
「それならそれで、オーブはまた様子見をすれば良い。重要なのは、土壇場で前大戦の過ちを繰り返さないと言うことだ」
「そうか……そうですね」
「それに、わざわざわが国の代表を届けて下さったのだ。無碍に扱うわけにもいくまい」
「最低限の補修、それに食料と推進剤の補充程度なら、さすがに連合もどうこうは言ってこないでしょう」
 2人が話し合っている間にも、入港の準備が整えられた桟橋に、ミネルバが入港してくる。
 湾内で着水すると、タグ・ボートの力を借りず、自力でゆっくりと接舷を始める。
「全推進器停止。速力0。機関アイドルです」
 ミネルバの艦橋で、男性オペレーターがそう告げる。
「OK。私とアーサーは議長と共に、オーブ側へ挨拶に行ってきます。よろしくお願いね」
 タリアはミネルバの停止を確認すると、そう言ってから、制帽を被りなおし、アーサーを伴って艦橋を後にした。
 桟橋から、ミネルバのメインデッキ左舷側にタラップが寄せられる。気密扉が開き、まず姿を現したのは、デュランダルだった。
 それに続く形で、カガリとアスランが出てくる。最後にタリアとアーサー、それにデュランダルの護衛役の兵が降りてくる。
「カガリぃ〜」
 先程までとは一転、ユウナは甘ったるい声を出すと、タラップから降り立ったカガリに駆け寄っていき、抱きついた。
「あ、ユウナ……っておい、ちょっと待て」
 表情の緩んだユウナとは対照的に、カガリは露骨に不快そうな顔をしながら、ユウナを解こうとする。
「これ、ユウナ。気持ちは解るが場を弁えなさい。ZAFTの方々が驚かれておるぞ」
「あ、ウナト・エマ」
 ウナトがユウナを制すると、ユウナはカガリを離してウナトの傍らに立った。その際、ちらりと挑戦的な視線をアスランに送る。
「…………?」
 だが、アスランはそれに何の反応も示さなかった。ユウナは拍子抜けして、アスランを見つめてしまう。
「大事の時に不在ですまなかった。留守の間の采配、ありがたく思う。被害の状況はどうなっている?」
「沿岸部などはだいぶ高波にやられましたが、幸いオーブには直撃は無く」
 カガリに訊ねられ、ウナトはそこまで答えてから、ちらりとデュランダルを見た。
「詳しくは後ほど、行政府で。急ぎ御報告しなければならない事案もありますので」
 ウナトはそう言い、軽くカガリに礼をしてから、デュランダルと向き合った。
「ようこそオーブへ。ギルバート・デュランダル閣下」
「歓迎を感謝します、ウナト・セイラン閣下。火急の事態に余計な手間を増やしてしまい申し訳ありません」
 デュランダルは笑顔で言い、ウナトと握手を交わした。
「いえ、こちらこそ、代表の帰国にこのような取り計らいをして頂き、まことに感謝いたします」
 ウナトも、少なくとも表面上は屈託の無い笑みで、そう答えた。
「いえ、不測の事態とは言え、代表を連れまわす形になってしまったのは我々の方ですので。それに、この度の災害につきましても、お見舞いを申し上げますと共に、我々の努力の至らなかった事を謝罪いたします」
 手を下ろした後、デュランダルはそう言って、深く頭を下げた。
「いえ。こちらも事情は把握しております。どうか頭をお上げください」
 ウナトが言い、ようやくデュランダルは頭を上げた。
「ありがとうございます。せっかくオーブを訪れたと言うのに、まったく申し訳ないことですが、私は急ぎプラントへと戻らねばなりません」
「事態は逼迫していますゆえ。理解いたします。早速シャトルを手配いたしましょう」
「お気遣い、重ね重ね感謝いたします」
 デュランダルは再度、軽くだが頭を下げた。
「紹介します。この艦の艦長、タリア・グラディス」
 デュランダルが紹介すると、タリアは直立不動で敬礼した。
「それから、副長のアーサー・トラインです」
 アーサーも、タリアに倣う。
「ようこそオーブへ。クルーの方々もお疲れでしょう。まずはゆっくりとお休みください。補給と整備に関しましては、後ほど責任者の方を寄越しますので」
「お気遣い、感謝いたします」
 ウナトが言い、タリアはそう答えた。
「お互い取り込んでいるようですゆえ、社交辞令はこの辺りで」
 ウナトはデュランダルを見て言う、デュランダルは頷いて肯定した。
「代表、早速ですが行政府の方へ」
「あ、ああ……」
 それまで、ウナトにデュランダルとのやり取りを任せきりにしていたカガリは、はっと我に返ったように声を漏らした。
 カガリは、一度、デュランダルを振り返る。
「議長、グラディス艦長、短い間だが世話になった。礼を言う」
「いえ。こちらこそ、お手間を取らせて申し訳ありませんでした」
 カガリとデュランダルが握手を交わし、オーブとプラントの首脳陣は別れた。
「あー、君も本当にご苦労だったねぇ、アレックス。報告書なんて後で良いから、まずはゆっくりと休んでくれ給え」
 わざと嫌味な態度を作り、牽制するように、ユウナはアスランにそう言った。
「あ……ええ、はい、ありがとうございます……」
 しかし、当のアスランは、ユウナへの返事は上の空で、後ろ髪を惹かれるように、ミネルバをちらちらと振り返っていた。
「?」
 ユウナの方も毒気を抜かれて、首を傾げるばかりだった。