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SEED DESTINY × ΖGUNDAM 〜コズミック・イラの三人〜 ◆1do3.D6Y/Bsc氏_第03話

Last-modified: 2013-06-08 (土) 00:57:20
 

 第三話「シャアの出撃」

 

 それは、シャアが知っているものとは別物だった。
しかし、確かにモビルスーツであり、ザクと呼ばれているものであった。
この世界が、歴史のどこかで分岐した平行世界なのかもしれないという思いが、一層強まった。
ビリジアンが、いかにも量産機であるという印象を与えてくる。
出来ればジオン公国軍時代のパーソナルカラーであった赤に塗り直したいという思いが強かったが、
そこは我慢した。

 

 ザク・ウォーリアと呼ばれるこのザクには、“ウィザード”という換装システムがあると説明を受けた。
F型やJ型のような違いかと思ったが、もっと大胆に性格が変わることを知って、シャアは感心した。
いくつかのタイプを提示された。機動力を好むシャアは、
その中から最もオーソドックスなタイプを選択した。
 コックピットに乗り込み、ハッチを閉める前に簡単にレクチャーを受けた。
多少の違いはあるが、基本的な操作はかつて扱っていたものとさして変わらなかった。
触ってみて、慣らしさえ済ませれば十分に動かして見せる自信はあった。
 「本当に出来るのか?」
クレーンに乗ってザク・ウォーリアのハッチに身を乗り出しているメカニック主任の
マッド・エイブスが、操作確認を続けるシャアに疑いの目を向けてくる。
シャアは手早く一通りの確認を済ませると、そんなマッドに不敵な笑みを返した。
「問題ない」
「裏切るとかは、勘弁してくれよ」
不審者に釘を刺すように言って、マッドはクレーンを移動させるように命じた。
クレーンが離れるとシャアはハッチを閉じ、ハンガーのロックが外れた事を確認すると、
ザク・ウォーリアをカタパルトデッキへと向かわせた。

 

シャアの操るザク・ウォーリアが、滑らかにモビルスーツデッキを移動していく。
「あれで初めてかよ」
その無駄のない動きに、若いメカニックたちが囁き合う。
マッドはその様子を複雑な面持ちで見渡しながら、半ばやけくそ気味に叫んだ
「ザクの三番機が出るぞ! 奴さんはブレイズウィザードをご所望だ! 用意してやれ!」  
カタパルトデッキへと移動すると、ロボットアームが服を着せるようにザクに装備を施した。
それが終わると、ゆっくりと前方のハッチが開いていった。
メインの三面スクリーン越しに、ビームや爆発の光芒が見える。
その上部には通信回線用のサブスクリーンが二つ設置されていて、
周りは計器や操縦系の機器に囲まれている。
全天マルチスクリーンとリニア・シートに慣れたシャアには、多少、窮屈に感じられはしたものの、
それも一年戦争時代の感覚を思い出すまでの僅かな間の辛抱だった。
 「ブリッジへ、ザク三番機、出るぞ!」
 シャアはカタパルトを進み、ミネルバの甲板へと躍り上がった。
そこでは、レイとルナマリアのザクが空中のウインダムの群れに必死に抵抗している姿があった。
被弾こそしていないが、苦戦している様子は見て取れた。

 

「本当に出てきたの!?」とシャアのザクを見たルナマリアが声を上擦らせた。
「艦長から正式に要請を受けて、許可を貰った。加勢させてもらう!」
シャアはそう言うなり、上空から襲い来る敵機に向けてビームライフルを連射した。
そして、そうしながら、傍らでは二人の対応を分析したりもした。
(彼の方は問題ないが……)
 レイの白いザク・ファントムは、敵を散らすようにビームライフルを撃っていた。
だが、一方で問題なのがルナマリアだった。敵の数に焦りがあるのか、
ルナマリアは長い砲身の巨砲オルトロスを、闇雲に連射しているだけのように見えた。

 (そんな狙いでは……!)
 シャアはウインダムの群れに対応しながら、それとなくルナマリアの照準にも気を配った。
そうしてルナマリアの狙いを絞ると、シャアはそちらに向かってビームを散らした。
標的にされたウインダムが、シャアの撃ったビームに晒されてバランスを崩した。
そして、そこへ待っていたかのように大口径のビームが襲い掛かり、ウインダムを粉砕した。
「やった! 当たった!」
ようやくの成果にルナマリアは快哉を上げた。実質的にはシャアに当てさせてもらっただけなのだが、
それに気付くことなくルナマリアは喜んでいた。
 だが、シャアはそれに構うことはしなかった。
 (反応速度、命中精度……大体こんな感じか……)
シャアの本懐は、そちらにあった。ザク・ウォーリアの性能試験である。
そして、まだザク・ウォーリアの性能の全てを把握したわけではない。
シャアは上空を仰ぎ、比較的敵機が接近していることを確認した。
 「よし、試してやる……!」
 シャアはバーニアの使用限界を示すメーターの位置を確認すると、
一挙にザク・ウォーリアを飛び上がらせた。
ミネルバ付近は激戦区となっていた。敵味方の弾が入り乱れ、さながらビームと弾丸の嵐となっていた。
シャアはそこへ飛び込んだのである。

 

 誰もが目を疑った。レイやルナマリアは勿論、ブリッジのタリアやアーサー、
その他クルーの面々も目を見張ってその様子に仰天していた。
誰もが、シャアを自殺志願者のように見ていた。ただ一人、ハマーン・カーンを除いては。
自由飛行が出来ないザク・ウォーリアに、滞空中の機動力は皆無と言ってよかった。
ウインダムに比べれば、その機動力差は月とすっぽんほどの違いがある。言わば、カモ同然。
当然、ファントムペイン側はそう思っていた。
 だが、それは誤った認識であると、すぐに思い知ることとなる。
バーニアを限界近くまで使って飛び上がったところで、シャアは上昇を止めた。
そして、直下に見えた手近なウインダムに照準を合わせ、素早くライフルを連射した。
油断していたウインダムは咄嗟に反応できず、右肩の辺りに被弾し、バランスを崩した。
シャアはそのまま自由落下に任せて被弾したウインダムの上から襲い掛かり、
それを踏みつけて再び上昇した。バーニアを使わない、ザク・ウォーリアの脚力のみでの上昇である。
チラと見やったバーニアのメーターは、四分の三程度にまで回復していた。
踏みつけたウインダムは、そのままバランスを取り戻すことなく海へと沈んだ。
そのあっという間の出来事に動揺した数瞬の間隙を縫って、シャアは更に二機のウインダムに
ビームを散らして撃墜した。
 「ザクで空中戦をやるの!?」
ルナマリアは悲鳴を上げるように叫んだ。その一瞬、手を休めた瞬間を狙って、
一機のウインダムがビームサーベルをかざして接近戦を挑んできた。
ルナマリアは辛うじてその一撃をかわし、レイにそのウインダムの頭部を撃ち抜いてもらって
事なきを得たが、「余所見をするな!」と怒鳴られてしまった。
 「ゴメンだけど……!」
 目を奪われるなと言う方が無理だった。シャアのテクニックは、セオリーを完全に無視している。
アカデミーで習ったような模範的な動きとは、白と黒ほどの違いがあった。
 レイもそれは実感していた。しかし、だからこそ目に毒だと思った。
 誰しもができるような動きではない。そして、それ以上に、今、ルナマリアが示したように、
非常に興味を惹かれる刺激的な動きでもあった。
しかし、それに触発されるのは、大きなミステイク。
真似をしようと思っても易々と出来ることではない。
レイは、そのことは深く肝に銘じなければならないと思っていた。

 

 高空から自由落下するシャアのビリジアンのザク・ウォーリアは、
葉が落ちるようにゆらゆらと揺れていた。
弾幕を避けるために、シャアが細かくバーニアを噴かしているのだ。
シャアはメーターを何度も細かく見やりながら、オーバーヒートを起こすギリギリの境界をキープし、
ミネルバに向かって落下を続けていた。
そこへ、接近戦を仕掛けてくるウインダムがいた。当然、シャアはビームライフルで迎撃したが、
ウインダムはそれを被弾しながらも潜り抜け、ビームサーベルを叩きつけてきた。
シャアはそれをシールドで防ぎ、ビームライフルでコックピットを射抜いたが、
バランスは大きく崩すこととなった。
「むっ……!」
背後からの警戒を告げるアラームが鳴る。
カメラをそちらに向けると、もう一機のウインダムが、同じようにビームサーバルを手に肉薄していた。
シャアは咄嗟にビームトマホークを抜き、それに対応した。
切り結んだビーム刃が強い光を放ち、スクリーン越しにシャアのサングラスをビカビカと照らした。
「コイツは……!」
シャアは唸った。カラーリングの違いを見るまでも無い。
刃を弾こうとするシャアに合わせて、そのウインダムは絶妙な力加減で柔軟に対応し、巧みに放さない。
他の青系統のカラーリングとは一線を画する紫系統のカラーリングのウインダムは、
確実にパイロットの質が違った。
「面白い動きをするな?」
「ん……!」
接触回線から聞こえてきた声に、シャアは眉を顰めた。
「少し、俺と遊んでもらうぜ!」
そのウインダムのパイロット――ネオ・ロアノークは、一方的にそう伝えると、
蹴りをザクの腹に入れて突き放した。そして、左手に持たせてあったビームライフルを構え、
落下するザクに照準を合わせた。

 

 「……っ!?」
 だが、ネオがトリガーを引くより先にザクのバックパックが開き、無数の小型ミサイルが発射された。
ネオは急加速を掛け、それをかわした。
ミサイルの煙が、煙幕になった。一瞬、見失ったザク・ウォーリアは、次にネオが視認した時には、
既にミネルバにかなり接近していた。
しかし、今の一連の攻防で、シャアもバーニアを使い切っていた。
ミネルバの甲板への落下軌道には入っているが、最早シャアには攻撃をかわす手段は残されていなかった。
ネオは、そこへ素早く照準を合わせた。タイミングはギリギリ。
予測では、ザク・ウォーリアがミネルバの甲板に降り立つ前に狙撃できる寸法だった。
「貰った!」
 だが、ネオが確信の声を上げた瞬間、またしても邪魔が入った。
ネオの眼前を、轟音のように巨大なエネルギーの奔流が掠めていったのである。
その強烈なビーム攻撃に目をそばめ、ネオは咄嗟にウインダムを飛び退かせていた。
「これは……!」
ネオは、同時に強い不快感のようなものも流れて行ったような感覚を味わっていた。
不思議なことに、目が自然とそれを追っていた。ミネルバの甲板に、紅いザク・ウォーリアの大砲を
無理矢理にこちらに向けさせている白いザク・ファントムがいる。
「あの坊やか……!」
何者かは知らない。しかし、ネオには何故か相手が少年であるということだけは分かっていた。
「アーモリー・ワンを脱出した時といい……アイツは一体、何者なんだ?」
 しかし、白いザク・ファントムに気を取られている暇はなかった。
ネオのウインダムを攻撃する更なるビームが、今度は別方向から一閃したのである。
ネオがミネルバを牽制しながらカメラを向けると、そこにはインパルスが迫っている姿が目に入った。
 「チッ!」
ネオは舌打ちをし、ミネルバから間合いを取った。

 

 シャアの加勢によって、事態は動きを見せた。ミネルバの両舷での戦闘が激しくなると、
正面からの火力が弱くなったのである。タリアは、これを好機と踏んだ。
 「タンホイザー起動!」
号令が掛かると、火器管制担当クルーのチェン・ジェン・イーから「はっ!」と声が上がった。
ミネルバの艦首の装甲が持ち上がり、そこから巨大な砲塔が浮かび上がった。
ネオは、それを見逃さなかった。ビームライフルでインパルスを牽制すると、
「ザムザザーの準備は出来ているな!」とJ・Pジョーンズに向かって叫んだ。
 タリアの起死回生の一撃。タンホイザーはチャージを始め、発射可能な出力にまで上がる時を待った。
「タンホイザー出力上昇。49、52、55――」
チェンが声に出して出力をカウントアップしていく。そして、「出力60%、発射OKです!」
とチェンが振り返った瞬間、タリアは手を掲げた。
「タンホイザー、発射!」
号令を掛けると、副長のアーサーがそれを復唱し、チェンが「了解!」と言って
タンホイザーの発射スイッチを押した。
刹那、タンホイザーの砲口から、オルトロスとは比較にならないほどの巨大なビームが放たれた。
それは海水を巻き上げ、射線上に存在する全てのものを飲み込んで、一直線に
ファントムペイン旗艦のJ・Pジョーンズを目指した。
 タンホイザーのインパクトのある光は、一瞬、戦闘を硬直させた。
ネオの目も、タンホイザーの光の先を追っていた。
「……聞こえるか、イアン!」
タンホイザーの光が消えると、ネオはすぐさま回線を繋ぎ、呼び掛けた。
そして、通信機から返事が来ると、ふぅと口の端を吊り上げたのだった。

 

 他方、ミネルバのブリッジは騒然となっていた。
メイリンが告げた「敵旗艦、健在しています!」という報告に、戦慄が走った。
「確かなのか!?」
 動揺したアーサーが思わず立ち上がって、メイリンに確認を取る。
「間違いありません!」と返されると、拳を握って唸り声を上げた。
「原因究明、急げ!」
ヒステリック気味な声でアーサーがクルーに号令を掛ける。
タリアはその様子を見やりながら、ふと背後のハマーンに振り返った。
氷のような青い瞳が、戦闘を映す正面の大画面を見つめていた。
タリアの視線に気付いたのだろう。ハマーンはチラリとタリアを一瞥すると、
徐にモニターに向けて人差し指を突きつけた。
「……あれだな」
ハマーンが指し示す先に、タリアも目を凝らす。
戦闘の様子を遠景で映す大画面の中に、海の反射光とは違う不自然な光が見えた。
タリアは手元の小型スクリーンにその画像を表示させ、その光を拡大した。
「モビルアーマーか」
 いつの間にか傍らまで来ていたハマーンが、タリアの手元の画面を覗き込んで言った。
タリアはそれを一瞥すると、手元の画面に目線を戻して「“アルテミスの傘”ね」と呟いた。
「この光の感じ、二年前の大戦の資料で見た覚えがある」
厄介なことになったと、タリアは眉を顰めた。
“アルテミスの傘”の絶対的な防御性能は、タンホイザーを無効化して見せたことでも明らか。
本来は宇宙基地などの巨大な建造物にしか搭載できないようなシステムを、連合軍はこの二年で小型化し、
モビルアーマーに搭載できるレベルにまで発展させてきたのだ。
バリアを持つモビルアーマーが存在する限り、タンホイザーは通用しない。
タリアはインパルスのシンに、モビルアーマーの撃墜を命じた。

 

 
 メイリンより命令を伝え聞いたシンは、任務遂行に躊躇いを見せた。
隊長機と思しきウインダムを放置してミネルバを離れることに、不安を覚えたからだ。
 だが、そんな時、シャアのザク・ウォーリアが颯爽と戦闘に介入してきた。
「隊長機は、私が抑える!」
そう言って上昇してきたシャアのザク・ウォーリアはビームライフルを連射し、
ネオのウインダムを牽制した。
「モビルアーマーにアタックを掛けられるのは、自由飛行が出来る君のガンダムだけだ! 行ってくれ!」
ネオのウインダムがシャアの牽制で間合いを離す。
その間隙を縫ってビームライフルのカートリッジを交換するシャアのザク・ウォーリアは、
再接近してくるネオのウインダムに向けて更に腰のグレネードを投擲して掣肘を加えた。
その間にも、他のウインダムがシャアに襲い掛かってくる。
だが、シャアの操縦テクニックは更に冴えを見せ、先ほど以上に効果的にバーニアを使い、
サーカスのように攻撃をかわして見せた。

 

 (何なんだよ、コイツ……!)
ふと敵艦隊の方にカメラを向けてみると、先ほどのモビルアーマーが接近しているのが見えた。
深緑色のカニのような巨大モビルアーマーは、大型のクローと強力なビーム砲でミネルバに迫っていた。
タンホイザーが防がれたミネルバは、敵の圧力によって少しずつ後退させられていた。
背後には、それを観戦しているかのようにオーブ艦隊が存在する。
そして、領海の境界線付近での戦闘は、ミネルバの再入国を認めないオーブ海軍からの威嚇射撃を招いた。
ミネルバは前後からの板ばさみにあい、退路を断たれつつあった。
 そこへ、追い打ちを掛けるかのように巨大モビルアーマーは迫る。
シンに、判断を迷っている時間はなかった。
「アンタを信用したわけじゃないからな!」
シンは叫ぶと、ザムザザーの迎撃に向かった。

 

 
 ミネルバはダメージを受けながらも敵の攻撃を凌いでいた。
しかし、背後にはオーブ領海の境界線が、すぐそこまで迫っていた。
(この状況でオーブにまで参戦されたら……!)
ミネルバの命脈が尽きるという危機感が、シャアにはあった。
(ハマーンは、まだ動かないのか……?)
ミネルバに振り返る。しかし、ハマーンの力を当て込んでいる自分に気付くと、
それは酷くナンセンスな思考だと思えた。
それが、かつて“赤い彗星”と綽名された男の思考なのかと。
「余所見をしてる場合かい?」
弱気になりかけたシャアを見透かしたかのように、挑発的な言葉で敵の隊長機が迫ってくる。
シャアは落下を続けながら、ネオが撃つビームを細かく左右に機体を振りながら避けた。
 そこへ、下方から別のウインダムがシャアを狙う。シャアはバーニアを一瞬だけ全開にし、
その下方のウインダムに向けて落下軌道を変更して急接近した。
ビームをかわして肉薄すると、シュートをするようにウインダムの顎を蹴り上げた。
顎の下にザク・ウォーリアの爪先が入り、ウインダムの頭部はサッカーボールのように青空に弧を描いた。
シャアはウインダム踏みつけて再び上昇し、シャアを追って下降していたネオのウインダムの上に出た。
しかし、ネオの切り替えも早い。シャアがビームライフルを向けるよりも早く、
頭部のバルカン砲をばら撒いて牽制していた。
 「チィッ!」
 シャアは止むを得ずバーニアを使い、横に逸れる。
ネオはそれを先読みして、シャアのザク・ウォーリアに追随した。
光り輝くビームサーベルが、ザク・ウォーリアの腰部を狙う。
シャアは咄嗟に機体をコントロールし、辛うじて直撃を避けたが、ネオが振るったビームサーベルは
ザク・ウォーリアの胸部装甲を抉っていた。
 ネオの突撃による勢いがあまって、二機は空中で衝突した。一度はその衝撃で二機は離れかけたが、
シャアは咄嗟に腕を伸ばして、再びネオのウインダムに組み付いた。
バランスを崩しかけたシャアの隙を突いて、ネオがビームサーベルを突き立てようとする
意図を察知したからだ。
空中戦では、自由飛行が出来るウインダムに圧倒的な分がある。ネオはそれを分かっていた。
「そのモビルスーツじゃ、俺とはまともに戦えないぜ」
「むう……!」
図星であるだけに、シャアは反論が出来なかった。
「見てみな」
「何……?」
ネオに促され、シャアはカメラをそちらに向けた。
「お前たちの頼みの綱であるあのGでさえ、ザムザザーを相手にあのザマだ」
拡大を掛けた画面には、ザムザザーの大型クローに片足を挟まれているインパルスの姿があった。
赤化するクローはインパルスの足に食い込み、やがて噛み砕いてしまった。
その瞬間、インパルスはフェイズシフトダウンを起こした。
機体色がフェイズシフト装甲展開前の石灰色に戻ったということは、
フェイズシフト装甲を維持できないほどにエネルギーが消耗してしまったことの証左だった。
「素直に投降してりゃ、捕虜くらいにはなれてたかもしれないのにな」
勝ち誇るネオの嘲りの声が聞こえてくる。
その間にもザムザザーは、海面に落下するインパルスに止めを刺そうと、ビーム砲を向けていた。

 

 だが、変化が起こったのはその時だった。
 インパルスは、海面に激突する寸前にバーニアを全開にし、そのまま海面を滑るように
ミネルバに直進したのである。
流れもあった。ザムザザーの撃ったビームが海面を叩き、大きな水柱を上げていたこともあって、
ザムザザーはインパルスを一瞬見失っていた。
それが、インパルスの逆転の契機となった。ミネルバ付近にまで戻ったインパルスは、
ミネルバから照射されるデュートリオンビームによってエネルギーを回復。
再びフェイズシフト装甲を展開して本来のトリコロールカラーに戻ったインパルスのそこからの動きは、
まるで次元の違うものだった。

 「変わった……!?」
 シャアは思わず驚嘆していた。インパルスは、急加速と急旋回でザムザザーを翻弄すると、
一瞬にして上に取り付き、ビームサーベルを突き立てて切り裂いたのである。
 コックピットを貫かれたザムザザーは、インパルスが離脱すると同時に爆散した。
それは正しく秒殺だった。

 

 「あっ……!」
刹那、ネオは戦慄した。ミネルバの巨砲の存在を思い出したのである。
「イアン――っ!」
ネオが通信回線に向かって叫んだ瞬間であった。
自機を縛っていた力が突然、張り詰めた糸がぷっつりと切れたかのように抜けた。
 「くっ……!」
 ネオの視界に、切り飛ばされた腕が宙を舞うのが見えた。ネオのウインダムの右腕だ。
シャアのザク・ウォーリアが、ビームトマホークを振り抜いていた。
しかし、それを気にしている場合ではない。ネオは頭部バルカン砲でシャアに掣肘を加えると、
一目散に後退した。
 「全艦、散開しろ! 第二射が来るぞ!」
 ネオが叫んだ直後、ミネルバの艦首の砲台から、タンホイザーの光が走った。
それは一直線にファントムペイン艦隊に伸び、数隻の船を掠めて、彼方に着弾した。
数瞬後、見るも恐ろしい水柱が立ち上がり、やがて大きな波が押し寄せてきた。
いくつかの小型の艦船は転覆し、退艦者を出した。直撃でなくとも、それだけの被害が出たのだ。
ネオは形勢不利と判断し、全軍に撤退命令を出した。
「イアンが、俺が気付くよりも先に艦隊を下げてくれていたからこの程度で済んだが……」
ネオはそう呟きつつ、後方に遠ざかっていくミネルバを忌々しげに睨み付けた。

 
 

 この戦闘の後、大西洋連邦を中心とした地球連合は、今回のミネルバ隊とファントムペインの衝突を、
プラント側の一方的な侵略行為として非難する共同声明を発表した。
だが、プラントもそれに即座に反応し、反論の声明を出した。
これにより、地球連合とプラントの対立は先鋭化し、一触即発の事態へと推移していった。

 
 

 「助けられたな」
 昇降ワイヤーでコックピットから降りるシャアに、そう呼び掛けたのはマッド・エイブスだった。
マッドはシャアが床に足をつけると、手に持っていた飲料の容器を投げ渡した。
シャアはそれを受け取ると、軽く微笑んでボトルの蓋を開けた。
「色々と疑って悪かったな。俺たちはコーディネイターなもんでね」
「分かっている。その辺の事情は理解してるつもりだ」
シャアはあっという間に飲み干すと、目線をモビルスーツデッキの一角へと向けた。
「ああ、すまないな」
マッドがシャアの目線に気付いて、代弁して詫びた。シャアの目線の先には、人だかりがある。
その中心にいるのは、インパルスのパイロット、シン・アスカである。
「若い連中には、アイツの活躍が嬉しいのさ」
「そうだろうな」
カーニバルのように湧き上がる若者たちの活気が、微笑ましかった。
 (しかし……)
 シャアにはシンのことが気になっていた。
(モビルアーマーを一瞬で葬ったあの力……それまで手を抜いていたようには思えんのだが……)
突然、シンのインパルスがそれまでとは質の違う動きを見せた。
それが、どういう理屈なのかが、シャアには分からなかった。
話し声の中から、微かにシンの声が聞き取れた。
「こんな所で死んで堪るかって思ったら、急に頭の中がクリアになって――」
たったそれだけで、果たしてあれほど急激に強くなれるものなのだろうか――
いつしかマッドがザク・ウォーリアの点検作業に入っているのを見て、
シャアはモビルスーツデッキを後にした。

 

 激戦で消耗したミネルバは、大洋州連合領内にあるカーペンタリア基地へと向かった。
 大洋州連合は戦前からのプラントの友好国で、それは戦役を経た今も変わっていなかった。
そして、カーペンタリア基地はユニウス条約締結後も地球上に存在することを許された
二つの基地の内の一つである。
そこで今回の戦闘で受けたダメージの修理と、配備が遅れていたセイバーの受領を行うことになっていた。

 

 
 一方、ファントムペイン艦隊も、カーペンタリア基地に程近い、
新設されたばかりの基地にて補給を行っていた。

 

「何故、出撃が無かったんです?」
咎めるような質問に、ネオの仮面の下の目が険しくなった。
「だって、僕のは使えたんでしょ?」
「今回は様子見だったからだ。次は出てもらう」
ネオは一方的に話を打ち切ると、去っていった。
「あの体たらくで様子見だってよ」
ネオの姿が見えなくなると、水色の髪をした少年が嘲って言った。
「大人の面子って奴だろうさ。ネオの奴、俺たちに手柄を奪われるのが嫌だったもんで、
 あんなこと言ってんだぜ」
短髪で緑色の髪をした、長身の少年も続いた。
「それで失敗してたら世話ねーってのにな。ま、いいさ。次は出してくれるって言ってんだからさ」
「次、あるの……?」
柔らかな髪質のブロンドの少女が、首を傾げた。
「そうだといいんだけど。どうも胡散臭いんだよな、あの被り物がさ」
少年少女たちはネオを指して、まるで友達の噂をするように笑った。