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SEED DESTINY × ΖGUNDAM 〜コズミック・イラの三人〜 ◆1do3.D6Y/Bsc氏_第24話

Last-modified: 2013-10-30 (水) 03:01:58

 一点突破作戦による速攻を目論んでいたザフトの思惑は、ラクス派の介入によって大
きく当てが外れる状況になっていた。尚も押し込んでいるザフトではあるが、洋上の防衛
線を攻略する目処が立たない上、ヤラファスに上陸した突入部隊が徐々に孤立し始め
ていた。作戦に時間が掛かり過ぎているのである。
 戦況はオーブ側に好転する気配を見せていた。ザフトの作戦を見抜き、早々に司令本
部をタケミカズチに移して時間稼ぎに徹したカガリの判断が、ラクス派による増援を間に
合わせ、反転攻勢への足掛かりを築いていた。
 そのカガリとの合流を求めて、アスランはラクスを伴ってタケミカズチへと向かってい
た。そして僥倖なことに、その途中で運良くカガリと接触できたのである。
 しかし、アカツキの存在を知らないアスランは最初、それにカガリが乗っていることに
気付けなかった。更に、一緒に行動していたウェイブライダーの姿を見て、敵と勘違いし
てしまったのである。
 「こんなところに何で連合のモビルスーツが?」
 アスランは怪訝に思いながらも、すぐさま攻撃を仕掛けた。ロゴス麾下のファントムペ
インに所属していたウェイブライダーを見て、ジブリールの暗躍を疑ったのだ。
 「ラクス、少し我慢してくれ」
 「どうぞ」
 アスランが言うと、ラクスはギュッとシートにしがみ付いた。
 背後からビームライフルで攻撃すると、ウェイブライダーはアカツキを振り落とし、モビ
ルスーツ形態へと瞬時に変形した。アスランにとっては、始めて目にするモビルスーツ
形態のΖガンダムである。
 Ζガンダムはこちらの存在を認識すると、反撃のビームを撃ってきた。アスランはそれ
をビームシールド兼用のシールドで防ぎ、シャイニングエッジを投擲した。そして、自身
は別の軌道からΖガンダムに迫った。
 思惑通り、Ζガンダムはシャイニングエッジをかわした。アスランはその回避動作の隙
を突いて高速で肉薄し、ビームサーベルで切りかかる。
 しかし、Ζガンダムは体勢を崩しながらも初撃をかわしてみせた。アスランは、軽く舌
打ちをした。
 「――だが、これで!」
 蹴り上げる足。脛に仕込まれたビームブレイドが牙を剥く。
 だが、Ζガンダムはそれも凌いで見せた。咄嗟にビームサーベルを取り出し、それで
ビームブレイドに対抗したのである。
 アスランは目を見張った。隠し武器の色合いが濃いビームブレイドを、初見でこのよう
に防がれるとは予想だにしていなかったのである。
 動揺の隙に、逆にキックを貰った。コックピットを衝撃が襲い、ラクスが悲鳴を上げた。
 「すまない!」
 「いえ、わたくしは大丈夫です。構わずに」
 口先では謝るものの、アスランはラクスの了承を得る前に既に攻撃を仕掛けていた。
 しかし、どうにも攻撃が当たらない。ウェイブライダーとの交戦経験はあるアスランだっ
たが、モビルスーツに変形したとはいえ、Ζガンダムはパイロットが変わったかのように
明らかに以前とは動きの質が変わっているように見えた。
 ラクスはそんなΖガンダムの動きに、不思議と目を奪われていた。その、相手の思考
を見透かすかのような動きの中に、記憶の中の女性の影がチラついたような気がしたの
だ。
 「かわすのが上手い!」
 「こちらの狙いが読まれているのでしょう」
 思わず零したアスランの愚痴に、ラクスは咄嗟に答えていた。
 「……あっ」
 慌てて口を押さえる。しかし気付いた時には、怪訝そうな顔のアスランがこちらを凝視
していた。
 「分かるのか?」
 「いえ、何となくそう見えるのです、ああいうステップの刻み方は……」
 ラクスは取り繕うように答えて、乗り出した身を引いた。
 Ζガンダムにハマーンの幻を見てしまったなどと、言えるわけが無かった。況してや自
分がハマーンに惹かれているなどと言ったところで、理解を得られるわけが無い。それ
に、ハマーンのことは、新たな組織とは無関係なのだから。
 しかし、Ζガンダムのパイロットには興味があった。ハマーンと同じ香りがするその人
物を、一目見てみたいという欲求があった。
 その望みはすぐに叶えられた。先ほどウェイブライダーから振り落とされていた金色
のモビルスーツが突然間に割って入ってきて、それにカガリが乗っていることが判明し
たのだ。それでΖガンダムが、現在カガリの護衛になっていることも判明して、同士討ち
は回避されたのだった。
 一同は合流し、岩場の影に移動して、一先ずモビルスーツを降りた。
 「全く、雇い主を放り捨てる奴があるか!」
 「代表を庇ったんじゃないですか」
 「アカツキの装甲が金色であることの意味は分かってるだろ! それなのに、お前はだ
な――」
 カガリは叱り付けながら、Ζガンダムから降りてきた少年にヘルメットを押し付けた。
少年は不服そうにしながらも、カガリには逆らえないらしく、渋々とメットを受け取ってい
た。
 「ご無事で何よりで」
 「そっちこそ、よく来てくれた」
 カガリに語り掛けながらも、ラクスの目はチラチラと少年の姿を追っていた。
 その少年を、カガリが改めて紹介してくれた。
 「ああ……カミーユ・ビダンだ。元連合軍で、フラガ少佐の部下だった男だ。今は私の
ボディーガードをやってもらっているんだが、こいつの勘は凄いぞ。潜伏していた暗殺者
を一目で見抜いて、殺されそうになった私の命を救ってくれたんだからな! まあ、腕っ
節の方はちょっと――だけど」
 「だから、空手はやってたって言ってるじゃないですか! それに、スティングたちと比
べるのは間違ってます! フェアじゃない!」
 「……と、こんな感じの奴なんだが、モビルスーツの腕はかなりのものだし、私のこと
もよく守ってくれる頼り甲斐のある奴だよ」
 そう言って、カガリは得意気に説明した。カガリにしてみれば、ブランド物のバッグを自
慢するのと同じ感覚だったのだろうが、それを受けたアスランがあまり面白くなさそうだ
ったのが、ラクスには興味深かった。
 ラクスは、それとなく視線をカミーユに向けてみた。
 カミーユ・ビダンは同年代らしき少年で、中性的な顔立ちをしていた。一見、少しだけ癇
の強そうな何の変哲も無いハイスクールの学生のようだが、その印象は目を合わせた
瞬間に覆った。
 「……? 何でしょう?」
 ラクスの視線に気付いたカミーユが顔を振り向けた。髪の色と同じ、海のように青い瞳。
それは、宇宙から見る地球の姿に似ていた。
 (やはり、似ていますわ……)
 ハマーンとは似ても似つかないカミーユの目――ラクスが感じたのは、その視線が持
つ雰囲気だった。見つめられると、心を見透かされるような不思議な感覚したのだ。
 しかし、何故かカミーユの視線にはそれほどの魅力を感じなかった。カミーユの視線は、
優し過ぎるのだ。ハマーンのように刺激的でないのが、ラクスにとって物足りなく思えた。
 ラクスはカガリとアスランの様子を一瞥した。そして二人が話し込んでいることを確認
すると、カミーユを少し離れたところに誘った。
 「付かぬことをお訊ねしますが、カミーユさんは、もしやハマーン・カーン様をご存知で
はないでしょうか?」
 思い切って聞いてみた。すると睨んだとおり、途端にカミーユは顔色を変えた。
 「どうしてあなたがハマーンを……?」
 「目の雰囲気が似てましたから、もしやと思って」
 カミーユは露骨に嫌そうな顔をした。ラクスには、そのカミーユの反応が理解できなか
った。
 「僕とハマーンは似てませんよ」
 「そうでしょうか? でも、言われてみればそうかもしれませんわね」
 冗談とも本気とも付かないラクスの発言に、カミーユは眉を顰めた。からかわれている
と思ったのだ。
 しかし、ラクスがハマーンと知り合いであることを打ち明けた意味は、何とはなしに分か
るような気がした。ラクスには、おぼろげにニュータイプの雰囲気を判別できるのだろう。
 「でも、どうしてそんなことを?」
 少し、ラクスに対して興味が出てきた。見た目通りの、ただのお嬢さまではないような気
がしてきたのだ。
 ラクスは、カミーユの問いに対して少し間を置いた。その佇まいは、綺麗だと思った。
 「……わたくしは、ハマーン様と友人になりたいと思っているのです」
 「えっ?」
 不意に飛び出してきた驚愕の答えに、カミーユは思わず間抜けな声で聞き返していた。
そんなことを思いつく人間が存在しているなんて、俄かには信じられなかったのだ。
 ハマーンを知っている人間なら、誰でもカミーユと同じ反応を見せるだろう。だが、ラク
スはまるで心外だと言わんばかりに微笑んで見せた。
 「あら? わたくしは本気ですのよ。孤独は一人では埋められませんもの。そういう人
間が、自分と似た他人を求めるのは自然なことではないでしょうか?」
 「孤独……なんですか?」
 カミーユが聞くと、ラクスは一瞬だけ表情を曇らせた。にこやかな笑顔は、心に隠した
孤独を悟られないようにするためのカモフラージュ。ラクスは寂しいのだ、とカミーユは
感じた。
 「……すみません」
 「いえ、いいのです。それは、あの方も同じだからこそ、わたくしを色々と気に掛けてく
ださるのだと思いますから」
 カミーユには分かる気がした。ハマーンは、自らを鉄の女にすることで他人を拒絶し続
けていた女傑である。それは、ニュータイプ同士として感応し合ったカミーユさえも拒む
ほど強固だった。
 そんなハマーンを慕うラクスである。随分な物好きだと思ったが、それはラクスにとって
自然な感覚なのだろう。茨の道を覚悟しているラクスの表情には、一点の曇も見られな
いのだから。
 「……そういう人なんですね、あなたは。納得しました」
 言うと、ラクスは秋波を送るような目でカミーユを見た。アイドルをやっていただけあって、
少し心を動かされた。
 「あの、理解をいただけたのは嬉しいのですけど……」
 「何です?」
 「見かけによらず、いやらしい方なのですねカミーユさんは? そうやって、初対面にも
かかわらず、すぐ人の心を覗こうとなさる……」
 そう言われて気付く。それは流し目などではなく、軽蔑の眼差しだったのだと。
 「す、すみません!」
 ラクスには、そういうことを識別できる能力でもあるのだろうか。カミーユが慌てて取り
繕う様を、ラクスはころころと悪戯っぽく笑った。
 「そんなとこで何やってんだ、二人とも?」
 打ち合わせが終わったらしく、カガリが話し掛けてきた。カミーユは誤魔化すようにパ
イロットスーツの襟を直し、平静を装った。
 カガリが歩み寄ってくる。何かを訝しがっている顔つきだ。
 「ん? お前……」
 嫌な予感がした。カガリは前までやって来ると、カミーユの胸に指を突きつけた。
 「ラクスは駄目だからな」
 「……狙っちゃいませんよ、別に」
 案の定な指摘に、カミーユは目をそばめつつため息をついた。傍らのラクスがクスク
スと笑う。身に覚えの無い濡れ衣は、実に不愉快だった。
 「こんな時に、何を馬鹿なことを言ってるんだ」
 アスランは生真面目な性格なのだろう。冗談を言うカガリを引っ込めると、アスランは
入れ替わってカミーユの前にやって来た。
 「カミーユ君。先ほどは仕掛けてしまって申し訳なかった。……それで、その上で君に
頼みたいことがあるんだが、ラクスも一緒に連れていってくれないか? キラ一人にいつ
までも前線を任せておくわけにはいかないもんだから、俺も戻りたいんだ」
 「分かった。ザフトが後退する気配はまだ無いみたいだし、そういうことなら」
 「ありがたい。――ラクス」
 アスランが目配せをすると、ラクスは一つ頷いた。
 カガリが、そのアスランに向き直る。
 「アスラン……」
 アスランの名を呼ぶカガリの声は、彼女にしては珍しくしおらしかった。女性的というか
何と言うか、そういうカガリを目にするのは初めてで、カミーユは少し意外に思ったので
ある。カガリと言えば、男勝りなイメージしか無かったからだ。
 その時、不意にラクスがカミーユの肩を持って、無理矢理にその場を離れるように促し
た。かなり強い力だ。本気で後ろを向かせたいらしい。
 「無粋ですわよ」
 「え? ――ああ」
 それでカガリのしおらしさに合点がいった。つまり、アスランとはそういう関係なのだ。
 カガリたちに背を向けて、カミーユとラクスは暫し待っていた。後ろで行われていること
の予想は、大体つく。
 「カガリさんのことも、諦めてくださいましね」
 ラクスはまたしてもからかうようなことを言う。どうにも大いなる誤解を持たれているよう
な気がして、居心地が悪く感じられた。
 カミーユはラクスを横目で見やって、「あのねえ」と口を尖らせた。
 「人を“たらし”みたいに言うの、止めてくれません?」
 「だって、人の心を覗く目をお持ちのカミーユさんですもの」
 「誤解です。僕にはそんなエスパーみたいな真似はできません」
 「うふっ。言い訳は、用意しておかなくてはいけませんものね?」
 ラクスは後ろを見やりつつ、カミーユをからかう。そうしながら、肩を叩いて二人の抱擁
が終わったことを教えてくれた。
 ラクスはしなやかに振り返って歩き出した。翻った髪がカミーユの鼻を掠め、甘い香り
を運んだ。
 「いいにおいだ……捕らえどころの無い人なんだろうか?」
 ラクスに対するそんな感想を呟きながら、カミーユもそれに倣って振り返る。
 カガリもアスランも、既に自らのモビルスーツに向かっていた。
 「大体、男と女が一緒にいたからって、必ずしもそうなるわけ無いじゃないか。女って奴
は――!」
 言いながらも、間近で見るカガリの美しい顔は、ちょっといいなと思ってしまったことを
思い出す。そのことを忘れるように髪を掻き毟り、カミーユはΖガンダムへと向かった。
 
 
 カグヤ島のマスドライバー施設である。ユウナは、最初からこの場所に目を付けていた。
 ネオたちを引き連れ、そこまでやって来ると、ユウナたちを阻もうとする輩が現れた。ウ
ナトの息が掛かった親衛隊である。
 外で待ち受けていた数体のモビルスーツをアウルのアビスに任せ、ユウナは施設の中
に足を踏み入れた。中にも特殊部隊が潜んでいて行く手を阻もうとしてきたが、ネオの華
麗な銃技と、スティング、ステラによる人間離れした身体能力で並み居る敵を排除し、奥
へと突き進んだ。
 そして、最奥部に辿り着いた。そこには一機の脱出用シャトルが待機していて、ちょうど
ジブリールが乗り込むところだった。
 「奴を止めろ!」
 ユウナが咄嗟に叫ぶ。ネオがその声に反応して、急ぎシャトルに乗り込もうとするジブ
リールに照準を合わせ、トリガーを引いた。しかし、弾丸は寸前で間に入った護衛に当た
り、ジブリールはまんまとシャトルに乗ってしまった。
 ジブリールの護衛が、襲い掛かってくる。しかし、スティングとステラがそれらをたちどこ
ろに返り討ちにすると、戦闘はあっという間に終息した。
 敵が全滅したことを確認すると、ユウナは懐から銃を抜き出しながら前に歩み出た。そ
して素早く構える。照準の先には、父ウナトの姿があった。
 「ここまでだよ、パパ」
 「ほお、躊躇い無く親に銃を向けるか。いつもの猿芝居は、しないのだな?」
 言われると、ユウナは一寸言葉に詰まった。
 「……国賊を許すわけにはいかない」
 「ふっふっふ」
 ウナトは不敵に笑う。ユウナの奥歯がギリッと軋んだ。
 「言うようになった。しかしな……ふっふっふ! 手が震えている」
 言われて、ユウナは気付いた。銃を持つ自分の手が、カタカタと音を立てて震えていた。
 それでもユウナはキッとウナトを睨み、震える手に力を込めた。
 「今すぐにシャトルの発進を止めてよ。そうすれば、親殺しをしなくて済むだろう」
 「親殺しか……」
 ウナトは一寸、ユウナを見る目を細めた。
 「お前に、それができるのか?」
 「できるさ……国や民を守るのが政治家の務めだ……!」
 「フン……」
 ウナトは、震えて照準を合わせられないユウナの銃を見て、無理だな、と思った。
 「だから、シャトルを止めてよ。本気で僕に引き金を引かせるつもりなの?」
 「撃ちたければ撃て。私には、ジブリールに受けた恩を返す義務があるのでな」
 「恩……だって?」
 ユウナはカッと頭に血が昇るのを感じた。
 「ロゴスから金を流してもらっていたことが恩だって言うのかよ!」
 罵るような大声で叫ぶ。無性に感情的になっていた。
 「そうだ」
 しかし、ウナトは動じない。取り乱す息子を、神妙な眼差しで睨みつける。
 「結果、オーブは短期間で奇跡的な復興を遂げた」
 「でも、それは奴らがオーブを戦争に巻き込む口実を作るためだった! 闇金より性質
の悪い連中の口車に、パパは乗ってしまったんだ!」
 「それは、そうだろうがな」
 あっさりと認めたウナトが、ユウナには許せなかった。ウナトの口振りを聞いていると、
確信犯的に亡国の策を取ったのではないかとすら思えてきたのだ。
 「だが……」と、ウナトは言葉を繋げる。目には、怯まされるような力があった。
 「ロゴスの力が無かったら、今頃オーブはどうなっていた? 生活苦に喘ぎ、心が荒ん
だ民はやがて国を見捨てる。それこそ亡国の道だ。そして、その事態を回避するには、
一刻も早い復興策は喫緊の問題だった。しかし、戦後のオーブには、そのような力は残
されていなかったのだぞ? 良き国でなければ良き民は育たぬ。だからこそ、ロゴスの
力は不可欠だった。例え、それが劇薬と分かっていても、頼らざるを得なかったのが戦
後のオーブだ」
 「違うだろ! 良き民が良き国を築くんだ! だからこの素晴らしい国はできたんだ!
金の力に頼らなくたって、オーブの民ならばあの難局を乗り切れたはずだ! それなの
に、パパはロゴスを利用したつもりになって、容れモノ(国)の見た目ばかりに現を抜か
した! その結果がこの有様だよ! この国は二年前と同じ轍を踏んでしまったんだ! 
主権を踏みにじられようとしているんだよ! パパ! いくらパパが正論を並べ立てても、
パパのやっていることはこの国に対する背信行為だ!」
 ユウナは言い切った。ウナトは一寸驚いたような表情を浮かべたが、それを誰にも悟ら
せること無く消し、そして、フフッと笑った。
 「愚にもつかぬ幼い論理だな、ユウナよ? 政治をやるには辛い性分だ」
 「僕には無理だって言うのかよ!」
 「そうだな。本当にお前が向いていないのなら、それを止めてやるのも父親としての責
務だろう」
 ウナトは懐に手を差し入れた。ネオがサッと銃を構える。
 「しかし、最早お前は私に銃を向けた。その瞬間に、親子の縁は断ち切られたと思え」
 「パパ!」
 「これが何か分かるか?」
 ウナトは箱型の機械を取り出した。ネオがそれを目にして、「まさか……」と呟いた。
 「分かっているのなら、直ちにここを出ることをお勧めする。私にこのスイッチを押させ
たくなかったらな」
 「そうは!」
 ネオは銃の照準を合わせ、ウナトが手に持っているものを撃ち落そうとした。しかし、そ
の瞬間に、ウナトが容赦なくボタンを押してしまった。
 「あっ!」
 「さあ、これでスイッチが入った。間もなくここは爆破される」
 ウナトの言葉を証明するように、施設内にけたたましい警報のような音が鳴り始めた。
地響きのような音も重なって、いよいよ爆発の予感を高めた。
 「血迷ったか!」
 激昂するネオに、ウナトは不敵な笑みを見せた。
 「本気なのか、パパ!」
 ユウナは前のめりになってウナトに駆け寄ろうとする。しかし、それをネオが後ろから羽
交い絞めにして抑えた。
 そうこうしている内に、とうとう振動が起こり始めた。
 「パパもやるのか!? ウズミ様みたいに! 全てを巻き添えにして!」
 「愚者は目障りだ。早くその青二才を連れて行け」
 ウナトはユウナを無視してネオに言う。ユウナはネオに抵抗したが、軍で鍛えたネオの
腕力に敵うはずも無く、あえなくドアの近くまで引き摺られていった。
 「早く早く!」と、ステラが急かす。スティングがドアのロックを解除して開くと、尚も抵抗
するユウナを引き摺り、一同はドアをくぐった。
 「ユウナ」
 けたたましい警報の中、ウナトは呟くように名を呼んだ。ユウナは、その口の動きでウ
ナトが何かをしゃべっていることを知った。
 「青は藍より出でて藍より青し。私を否定したのなら、お前はお前なりのやり方で、出藍
の誉れを手に入れて見せよ」
 「パパ!? 何を言ってるんだ、パパ!」
 ユウナはウナトの言葉を殆ど聞き取れていなかった。読唇術で、僅かに言葉の断片を
拾ったのみである。
 刹那、シャトルのブースターに火が点いた。ユウナとネオが悟ったのは、その時だった。
ウナトが持っていた箱型の機械は爆破装置などではなく、シャトルの発進を遠隔操作す
るための機械だった。
 そして、ネオは更に気付いていた。ウナトのスーツの内ポケットには、まだL字型の硬質
な物体が収められていることに。
 「年寄りの石頭では、こうするしかなかった……カガリ様、この度の戦禍の原因は、全
て私めにあります。その責任につきましては、死を以ってお詫び申し上げる次第です」
 ドアが閉まった。ユウナが最後に見たウナトの表情は、幼き日に見た優しい父の素顔
だった。
 数泊後、パァンという銃声が一度だけ鉄の壁の向こうで響いた。
 ユウナはがっくりと膝を折り、その場にへたり込んだ。ネオは、そんなユウナに掛ける
言葉が見つからなかった。
 ユウナは、やがて徐に口を開いた。
 「伝えるんだ……マスドライバーからジブリールが出てくる。そうザフトに教えてやれ…
…」
 ユウナは廃人のように力なく呟いた。
 
 その情報は電光石火の速さでザフトに伝わった。そして、全軍に攻撃目標の変更が告
げられたのである。目標、カグヤ島のマスドライバー施設――シンがその命令を受け取
ったのは、疲労がピークに達しようとしていた時だった。
 フリーダムとの戦闘はレイと共に優勢に進めていたものの、途中から介入してきたジャ
スティスの出現で、一転劣勢に回ることになってしまった。キラとアスランの熟練したコン
ビネーションに、疲弊したシンとレイは対抗できなかったのである。
 作戦目標の変更が告げられると、後退を余儀なくされた。ドム・トルーパー部隊を相手
に苦戦が続いていたシャアやルナマリアなどの上陸部隊もヤラファスからの撤退を開始
し、趨勢は完全にオーブ側へと傾いた。
 しかし、ジブリールを乗せたシャトルは一足早くマスドライバーを発し、ザフトが駆けつ
けた時には既に対流圏を抜けようとしていた。ザフトはそれでも追い縋ったが、流石に成
層圏までは追い切れず、またしてもジブリールに逃亡を許してしまったのである。
 これに対し、ザフトの旗艦セントへレンズは、オーブの対応に強い不満を表明。オーブ
をロゴスに与する不穏分子と断定し、戦闘の継続を宣言した。
 その発表を受け、オーブも強く反発した。そして、損害をこれ以上増やさないための策
として、ドム・トルーパーを中心とした鉄壁の防衛線を敷き、一方で最強の矛であるフリ
ーダムとジャスティスをカウンターとしてザフト陣営に派兵。旗艦であるセントへレンズの
撃沈を指示した。
 ミネルバ隊が補給の為に一時帰還していたザフトに、それを阻止することはできず、あ
えなくセントへレンズは沈黙。旗艦としての機能を果たせなくなったセントへレンズに代わ
り、艦隊総指揮を引き継いだミネルバのタリア・グラディスは、ジブリールの確保失敗と
戦況の不利を悟って全軍の撤退を指示。ザフトは公海上へと後退したのである。
 
 シンは、ラウンジで遠くなっていくオーブを見つめていた。結局、シンの気合は空回り。
戦闘は無駄に長引き、カガリの覚悟に屈し、復活したフリーダムにさえ敵わなかった。
 力無くソファに座り込む。ルナマリアがそれとなく隣に腰掛けて、横に倒れそうなシンの
身体を抱くように支えた。
 身体がだるい、瞼も意識も重い。シンは、そのままルナマリアの柔らかさに身を委ねた。
 「いっぱい疲れたものね……」
 故郷を攻めなければならなかったシンの辛さを、ルナマリアは分かってあげたいと思っ
た。オペレーション・フューリーに複雑な思いを抱きながらも、シンはザフトとしての責任
を最後まで果たそうとしていた。だからルナマリアは、ボロボロに疲れ果てたシンを、せめ
て女として癒せるだけのことはしてあげたかった。
 シンはそのルナマリアの慰めを受け入れた。周囲に人の目があることは分かっている。
それでも、今はただルナマリアの優しさに甘えたかった。シンはルナマリアの胸に顔を埋
め、少し泣いた。
 (ゴメン、父さん、母さん、マユ……)
 周囲の面々は、誰もそんなシンの姿を見ようとはしなかった。
 
 
 オペレーション・フューリー後、ジブリールを匿ったオーブを非難する論調が立つ一方
で、ザフトのオーブ侵攻はやり過ぎだったという非難の声も少なからず上がっていた。オ
ペレーション・ラグナロクで轡を並べた東アジア共和国でさえも、オペレーション・フュー
リーには懸念を表明。打倒ロゴスのムーブメントで、一時的に下火になりつつあったコー
ディネイター脅威論が再燃する気配を見せていた。
 ジブリールを捕まえられていたなら、結果はまた違ったものになっていただろうとデュ
ランダルは思う。しかし、現実にはジブリールに遁走を許し、行方を見失った。フリーダム
とジャスティスに加え、かつてミレニアムシリーズのコンペで落選したはずのドムの改良
機で構成された謎の部隊の介入があったとはいえ、やはり何一つとして成果を上げられ
ずに悪印象だけを残す結果となってしまったのは痛かった。
 それに、オーブは既にジブリールの逃走を幇助した人物を公表し、粛清を済ませた旨
を発表していた。そして、それに乗じる形でオペレーション・フューリーが明確な侵略行為
であったことを主張し、プラントを痛烈に批判する声明も併せて発表していた。この主張
に、再燃する気配を見せつつあったコーディネイター脅威論が後押しをして、世論が反コ
ーディネイターに靡きつつあった。
 プラント最高評議会は、その対抗策を迫られていた。
 「何も焦る必要はない。我々は、我々の正当性を主張すれば良いだけの話だ」
 デュランダルが投げ掛けた視線の先には、ラクスの姿があった。
 評議会議員の中には懸念を示す声もあったが、デュランダルの主張は概ねで了承さ
れた。
 そして、全世界に向けたデュランダルの演説が始まった。
 「全世界の皆様、プラント最高評議会議長のギルバート・デュランダルであります。こ
れから少しの間、我々の主張に耳を貸していただきたく、お願い申し上げます。地球の
皆様におかれましては、過日、ザフトが遂行したオペレーション・フューリーに対する様
々な見解や憶測をお持ちになられていることかと存じます。しかし、ご理解をいただきた
いのは、我々は常にロゴスの打倒を目標に行動しているのだということであります。これ
は、声を大にして言いたい! 我々は世界の安寧を目指して行動しております。それ以
上の目的はありません。地球の皆様方が抱いていらっしゃる不安や懸念が、全くの杞憂
であることを、最高評議会議長の名に懸けて保障いたします。我々は世界から戦争を無
くすために戦っているのですから。そして、その先にはコーディネイターとナチュラルが
共存していける輝かしい未来が待っているはずなのです。ですから、強くお願い申し上
げたいのは、我々が地球を侵略しようとしているなどという、そういったつまらないゴシッ
プには惑わされないよう、ご注意いただきたいのです」
 「私たちの主張がゴシップだと!」
 スタジオにカガリの甲高い怒声が轟く。デュランダルの演説放送を観ていたカガリは、
その言い回しに強い憤りを示した。
 「平和的解決もできない男が、何を根拠に!」
 「落ち着きなよ、カガリ。みっともないよ」
 取り乱すカガリを、ユウナが窘める。
 オーブ内閣府では、政見放送の準備が進められていた。カガリはそのスタンバイ中だ
った。
 「あんな勝手なことを言われて、お前は悔しくないのか!」
 「そのための電波ジャックだろ? 安い挑発なんかに乗るんじゃないよ」
 食い下がるカガリを、ユウナは軽くあしらう。その時ドアが開いて、一人の少女が機材
の間を縫ってカガリたちのところにやって来た。しゃなりしゃなりと歩くその姿には、気品
が溢れている。
 「弟子入りでもしたらどうだい?」
 少女を指差して嫌味っぽく言うユウナに、カガリの怒りのローキックが炸裂した。
 「――残念ながら」
 腿を押さえて悶絶するユウナを尻目に、カガリは視線を画面へと戻した。画面の中のデ
ュランダルは、何食わぬ顔で演説を続けている。
 「オーブにジブリールが潜伏していたことは事実であります。そして、結果的に彼はオ
ーブのマスドライバーを使い、宇宙へと逃亡を果たしました。その行方は未だ掴めず、
現在も八方手を尽くしている最中であります。――オーブの主張によれば、閣僚の中に
内通者がおり、その者が独断で逃走の手引きをしていたとのことですが、そのような理
屈が果たしてまかり通るものでありましょうか? 既にその者は粛清されたと聞きます。
しかし、これはそれで済む話ではありません。ジブリールを逃がしてしまったのですから。
オーブの国家元首カガリ・ユラ・アスハ氏は、つい最近まで誘拐事件に巻き込まれてお
り、事実上、その地位は空位状態にありました。では、その愚かな閣僚をのさばらせた
元首の責任は、それ以前に国家元首の誘拐などという前代未聞の失態を犯した国の責
任はどうなるのでしょう? これは、一個人の独断によるものとして処理して済む問題で
はないのです。付け加え、ジブリールの引き渡しの要求をしたザフトに対するオーブ側の
対応にも疑問が残ります。何故、オーブは自らの力だけで問題の解決に当たろうとした
のでしょうか? 我々には、ジブリール確保のために協力する準備がありました。しかし、
オーブは何の根拠も無く我々の行動を侵略行為と決め付け、あろうことか攻撃を仕掛け
てきたのです! 戦闘行為は止む無く起こりました。そして、その結果、ご周知の通りジ
ブリールの逃亡を許してしまったのです。私は、これらを鑑みる限り、オーブという国そ
のものがジブリールに加担していたのではないかと疑わずにはいられないのです」
 カガリは堅く拳を握り、歯を食いしばっていた。そんなカガリの肩に、ユウナは手を置い
た。
 「調子に乗って大きく出過ぎたね。奴の主張には見え透いた嘘がある。カガリ、君はど
っしりと構えているんだ。デュランダルのメッキを剥がしたいのならね……」
 「しかし、お前……」
 世界放送でオーブを侮辱されただけでなく、肉親を愚かと罵られて虚仮にされたのに、
ユウナはどうしてこんなに落ち着いていられるのだろうと思った。悔しくは無いのだろうか。
 「タイミングがある。奴の化けの皮を剥がすのに最も適したタイミングというものがね…
…」
 カガリの肩を掴む手に力が入る。歪なユウナの笑みが、彼の怒りがいか程であるかを
カガリに思い知らせた。悔しくないはずが無いのだ。ユウナはただ、為政者としての姿勢
を保っているだけだ。
 そして、そのタイミングがやって来る。デュランダルの傍らに、ラクスが現れたのである。
 スタジオの空気が、一瞬にして張り詰めた糸のような緊張感に支配された。
 「出てきたな――電波ジャック、いつでも行けるね?」
 ユウナはカガリの肩から手を離し、スタッフに合図を送った。
 画面の中では、ラクスが朗々とした声で滔滔と言葉を紡いでいた。声も調子も、よく研
究してある。殆どの人は彼女の素性に疑いを持っていないだろう。そして、その柔らかく
説得力のある語りに、人々は一時的に魅了されることだろう。
 「だが、デュランダル議長、そろそろ馬脚をあらわしてもらうぞ」
 カガリは傍らに控えている陣羽織の少女に目線をくれた。その少女は、画面の中の自
分をジッと見詰めていた。
 「――思い起こしてください。二年前にも、わたくしたちは悲惨な戦争を経験しました。
父を、母を、兄弟を、友人を、恋人を失いました。わたくしたちは、同じことをこれからも繰
り返していくのでしょうか? ――いいえ。わたくしたちはもう、その無限回廊からは抜け
出さなければなりません。人々が悲しい思いをする戦争は、未来永劫なくすべきです。
平和な世界を、平和な時代を求める皆様の声を聞かせてください。こちらにいらっしゃる
ギルバート・デュランダル議長が、それをして下さいます。ですから皆様、最後までデュ
ランダル議長を信じて――」
 ラクス――ミーアが言葉を締めようとした時だった。突如画面が乱れ、俄かに撮影スタ
ッフたちが騒ぎ始めた。ミーアはその様子に動揺して、思わず言葉を切ってしまった。
 「何事だ!」と、デュランダルがディレクターを呼んで確認を取った。だが、次の瞬間、
急に画面が回復したかと思いきや、何故か自分たちが小さなワイプの中に追いやられ
て、代わりにメイン画面の方にはカガリと陣羽織の少女の姿があった。
 「何故、今頃……」
 デュランダルが誰にも聞こえない声で呟く。
 ミーアはその姿に激しく動揺し、絶句した。自分はもう終わりだと思った。
 本物のラクス・クラインが、長き沈黙を破って遂に表舞台へと返り咲いたのである。
 「その者の言葉に惑わされてはなりません」
 そのたった一言が、ミーアにとっては死刑宣告に等しかった。
 演説を見守っていた人々の間から、一斉に戸惑いが広がった。同じ時間、違う場所に
二人のラクスが存在しているのである。録画じゃないのか、と疑う人もいた。しかし、大部
分はそれがリアルタイムの映像であることを分かっていた。
 どちらかが偽者なのだ。そして、それは明らかに狼狽しているデュランダル側のラクス
を見れば、一目瞭然だった。
 デュランダルはミーアに堂々としているように言ったが、ミーアは動揺を抑えきれず、落
ち着きの無い様子であちこちに救いを求めるように首を振っていた。
 「ここまでか……」
 デュランダルは仕方なく放送を打ち切るようにスタッフに指示した。
 画面からはすっかり自分たちの姿は消えた。デュランダルが仕掛けた世界演説は、今
やラクス・クラインの独壇場となってしまっていた。
 「わたくしの偽者を弄するデュランダル議長の言葉に、どれだけの真実がありましょうか。
偽りを弄する者の言葉は、やはり偽りでしかないのです。それを証明するように、議長の
お言葉には偽りが含まれておりました。先に仕掛けたのはオーブではありません。ザフト
なのです。そして、ザフトはロード・ジブリールが脱した後も、オーブをロゴスの茶坊主と
貶め、攻撃を続けたのです」
 画面にはオペレーション・フューリーの開戦当初の様子が映され、ラクスの言葉の根拠
となった。
 カガリが後を継ぐような形で口を開く。
 「こちらのラクス・クラインが本物であることは、カガリ・ユラ・アスハの名に懸けて保証す
る。デュランダル議長が彼女の偽者をでっち上げたのは事実であり、現に既に画面から
消えていることからも明白だ。そのようなデュランダル議長の言葉に、どれほどの正当性
があるのか、聡明なる視聴者諸氏にはお分かりいただけるものと思っている」
 柔らかくもはっきりした口調で話すラクスに続き、少し熱のこもった力強い語り口でカガ
リが視聴者に呼び掛ける。
 そして、再びラクスが口を開く。
 「デュランダル議長の志は立派なものかもしれません。しかし、偽りを弄するようなやり
方が、果たして本当に世界に平和をもたらしてくれるのでしょうか? プラントはわたくし
の故郷ではありますが、今の最高評議会には疑問を抱かざるを得ません。現に、世界
は今、荒廃しつつあります。一部の人間を悪役に仕立て上げ、それを打倒することを目
標にして結束を煽った結果が、この退廃的な風潮の世の中なのです。省みましょう。皆
様が望む平和は、どのような世界ですか? その世界は、このような暴力で得られる世
界ですか? 暴力によって生まれた憎しみは、いつ消えるのですか? 憎しみはあなた
を幸せにしてくれますか? ――もう一度、考えましょう。わたくしも一緒に考えます。そ
して、本当に皆様が幸せになれる世界を……わたくしは、そのために戦いましょう」
 ラクスは、そう言葉を結んだ。
 暴かれたミーアの正体とデュランダルの手口。地球側のプラントに対する不信感を払
拭するために行ったはずの演説は、カガリとラクスの乱入によって、余計にその不信感
を煽っただけという皮肉な結果に終わってしまったのであった。
 
 「――確かに、最近雰囲気が変わったとは思ってたけど、まさかなあ……」
 ミネルバでも波紋が広がっていた。中にはオーブにいた方が偽者ではないのかと言う
者もいたが、そう主張する人間はほんの一握りだった。
 そして、俄かにデュランダルに対する不信を口にする者も現れた。偽者を捏造したの
は、何かやましいことをしようとしているからではないかと言い出したのだ。
 「ラクスが本物かどうかなんて、関係ない」
 そんな中、一人声を張り上げる人物がいた。レイである。
 「ラクスが言うことは絶対に正しいのか? ラクスが言うことだから、間違い無いのか?」
 一同は驚いて固まっていた。これほど大きな声ではっきりと皆に呼び掛けるレイは、見
たことが無かったからだ。
 レイは、驚く一同を見回して続けた。
 「デュランダル議長は間違っているのか? その命令で動いている俺たちは、間違った
戦いをしているのか? 俺たちは、地球を侵略するために戦っているのか? ――違うは
ずだ。俺たちは世界から戦争をなくすために行動している。そして、デュランダル議長も
そのために骨を折ってくれているのを、みんなも知っているはずだ!」
 「じゃあ、ラクス・クラインの偽者をでっち上げたのも、何か考えがあってのことなのか
よ?」
 ふと、ヴィーノが訊ねた。レイはヴィーノに「勿論だ」と答えると、再び一同に目を配った。
 「そもそも、何故ラクスはオーブに与しているんだ? オーブがジブリールを匿い、逃が
したのは事実だ。なら、そのオーブに肩入れするラクスこそ、真に軽蔑すべき対象じゃな
いのか?」
 ラウンジは静まり返っていた。ラクスに対する辛辣な評価に対してではない。
 「ちょっと、言い過ぎなんじゃねえの……? 言ってることは分かるけど……」
 遠慮がちなヨウランの声に賛同する者もいたが、レイの言葉を否定する者は誰もいなか
った。言い過ぎでも、それは正しいものの見方であると皆が納得しているからだ。
 だが、戸惑いが消えることは無かった。当然だろう。それまで本物だと信じて疑わなかっ
たラクスが偽者で、しかも本物のラクスは敵対関係にあるオーブに与しているのである。
その衝撃はなまじではなかった。
 しかし、レイにとってはこれで十分な成果だった。デュランダルに対する不信は、ラクス
に対する嫌疑に転化されたのだから。
 シャアは、普段は大人しいレイが、なぜ急に雄弁に語り出したのかは分からなかったが、
それ以上に画面が消える直前に映っていた酷く狼狽した様子のミーアのことが気掛かり
だった。
 (自暴自棄に陥らなければ良いのだが……)
 ジブラルタル基地で自らの正体を打ち明けた時の涙が、忘れられなかった。ラクスに成
りすましていることで自分が勘違いしていくことに強い恐怖を抱いていたミーアである。今
回のショックで、情緒不安定に陥るのではないかと心配していた。
 しかし、地球とプラントとで離れていては、シャアは何もできない。そして、例え会えたと
しても、気の利いた台詞を言うこともできそうに無い。
 (情けないことだ……)
 シャアは、そんな自分の甲斐性の無さを恨めしく思った。