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SEED-クレしん_15-950

Last-modified: 2009-03-31 (火) 18:44:34
 

 ……私はその時自分に向けられた憎しみに燃える目が見えた。鋼鉄の装甲に遮られて相手の顔すら見えないのに。
 締め付けられる私の身体。どんなにもがいてももう逃げられない……助からない。
 私は認識した。私はここで死ぬんだと。
 スローネを締め上げるこの鋼鉄の爪に挟まれて、コクピットごと押し潰されるんだ。
 そう悟った瞬間、無意識に叫んでいた。

 
 

「ちくしょおおおおおおおッ!」

 

 ・・・・・・・・・
 ・・・・・・
 ・・・

 

「……………はッ!?い、いたたた……!」

 

 気が付くと、私は体中包帯まみれのみっともない姿でべッドに寝かされていた。
 あわてて飛び起きて周囲を見渡す……どうやら艦艇や基地の中ではないらしい。一般的な住居の一室といった感じ。
 そのときドアの外からコンコンという音が聞こえた。どうやらノックしているようだけど………ノック?

 

「お邪魔しま〜す。着がえをもって………」
「あ……」

 

 衣類を手に部屋に入ってきた……小学生くらい?の少女とばったり目があった。
 こっちもびっくりだけど、向こうも相当びっくりしたみたいで……おもいっきり固まってる。

 

「あ……あのね、ちょっと聞きたい事が」
「………ふ」
「ふ?」
「フレイお姉ちゃ―――ん! 行き倒れの女の人、目を覚ましたよ―――――ッ!」

 

 その子はそのまま部屋を飛び出してどこかに行ってしまった………なんなのよ一体……

 

   ※   ※   ※

 

 聞いた所によると………私はある日、傷だらけで道端に倒れていた。
 その私を見つけて病院に連れていってくれた人が、このフレイ・アルスターという人で……
 さっきの少女、マユ・アスカちゃんはフレイの妹分で同居人だとか。
 で、応急手当はしたけれど、本来なら入院しなければならないほどの大怪我だった。
 でもフレイは入院だけは断固反対して結局自分の部屋に私を引きとった……とまあこんな感じ。
 ちなみに入院に反対した理由は、そこの病院の先生の素行に問題があるからだとか。

 

「もうだいぶ良くなったみたいね?」
「……どうも」

 

 当然、傷を治しながら私はこの人からいろいろな事を聞いた。
 私が今いるのは日本の『カスカベ』という町だということ。
 ここが私たちの住む世界や歴史とは異なる場所であること。
 なぜ死んだはずの私がここに来たのか? それはフレイ達にも分からないらしい。
 ただ………この土地はなぜか……その、そういう類の人間(?)を引きつけるんだとか。なんかよくわかんないわね……

 

「あんたは……私のことは何も聞かないのね」
「話さないという事は話したくないって事でしょ? 無理に聞き出そうとするほど野暮じゃないわ」

 

 しばらく沈黙が流れて……その雰囲気に耐えられなくなったかのように、私はふと洩らした。

 

「なんで……こんな事になっちゃったんだろ」
「うん?」
「私はただ幸せになりたかっただけなのに……戦わされる為だけに育てられて、戦って。兄ィ達は殺されて。モノ扱いされていいように利用された挙句、どこの誰とも分からない奴に仇と呼ばれて殺されて……」
「……」
「ただ普通に生きたかっただけなのに……」

 

「……自分が幸せになる為だったら………他の誰かを犠牲にしてもいい?」
「ッ!?」
「大切な人を殺した奴は自分の手で殺して復讐したい?」
「な、何が言いたいのよ……!」
「その為にはなんだってやる? 憎くてたまらない仇に自分の身体を差し出すことだって……」
「やめてッ! やめなさいよッ! あんたに私の何がわかるっていうの!」

 

 そのとき。私はフレイに『あの目』を見た。
 心の奥底から絶望したことがある目。マグマのような熱く煮え滾る憎悪で「人を殺したい」と渇望した事がある目。

 

「う、うああ………」
「なにが分かるか、ですって?」
「こ、来ないで……」

 

 怖い……!
 数多の戦場に舞い、数限りない命を奪い続けた私が心底そう思った……
 人から本気で憎まれるという事がこんなにも恐ろしいことだっただなんて……

 

「分かるわけないじゃない、そんな事」
「……え?」

 

 重苦しい緊張感が一瞬にして去った。
 目の前にいるのはいつものフレイ、だ。

 

「ネーナの事、ネーナが今までしてきた事……そんなの私には分からないわ。ただ、それとなく察する事はできるけど」
「フレイ……」
「私もね、昔いろいろあったから」
「いろいろ……って、どんな?」
「それはちょっと……思い出すとつらいから言いたくないな。ただ、この町にはね、結講シビアな過去をもってる人間が多いの。ネーナと似たような境遇の連中も知ってるわ」
「……」

 

「自分を救うのはいつも自分しかいないのよ。他の誰かにお前は間違ってるー!なんて説教されたりしたってムカつくだけだし」
「自分……?」
「時間はたっぷりあるんだし、考えてみれば? たぶん………私が思うに、ネーナは今まで少し急ぎすぎてた気がする」
「急ぐ? そう、ね………そうかもしれない……」

 

 その日、なにかが私の中で少しだけ変わった…………そんな気がした。

 

   ※   ※   ※

 

 数日後。
 傷がほぼ癒えた私は、荷物をもってフレイのマンションを出た。
 あれからいろいろ考えて……私は自分を見つめなおす旅に出る事に決めたんだ。

 

「行くの? 私の部屋にあのまま居てくれてもよかったのに」
「なんていうか……その、たぶん……刹那たちとかは向こうで頑張ってると思うんだ。
 『生き残った者には義務がある』とか言ってそうだし」
「……」
「でもね。死んだ者……と言うのも変だけど、死んだ人間にも義務はあると思うんだ」
「義務?」

 

「幸せになること。死んだら幸せになれないなんてそんなバカな事ないでしょ?」
「ぷ……ははは! そうね、死ぬのが不幸なんて押し付けがましいわよね」
「だから私幸せになる方法を見つけてくる。今度こそ……誰の命も幸福も奪わない方法で」
「……うん」
「ついでに兄ィたちも見つけてこなきゃ。どうもこのカスカベにはいないみたいだし」
「この世界にいるかしら?」
「いるよ。ううん絶対いる。2人とも草の根分けても見つけ出してまたこの町に帰ってくる。そのときはフレイ……」
「ん?」

 

「友達に……なってくれるかな? 私と」
「ええ。いいわよ」
「じゃあ…………行く」
「いってらっしゃい!」

 
 

 こうして、ネーナ・トリニティは春日部を旅立っていった。まだ見ぬ明日に向かって……
 なお、ネーナが秋田県を訪れた際、シンの実家で農作業の達人と化したヨハンとミハエルに再会するのは、また別の話である。

 
 

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