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SEED-IF_笑う仮面の英雄氏_第05話

Last-modified: 2009-05-28 (木) 10:20:42

PHASE-05「“●●は■■かと思ったけど、そんな事は全然なかったぜ!”で全て説明できる最終回ってどうよ!?」

 

「時代はこの男を必要としているのか……」

 

 TVを見ながら呟くこの男は、今は予備役であるハルバートン元提督である。
 クーデター未遂で逮捕されたが、MSの登場で自らの戦略戦術が一切通じなかった事で錯乱し、心身喪失状態にあったとして罪は問われなかった。
 当然予備役に回らざるを得なかったが、現役だったとしても若い連中の盾になる程度しか出来なかったからいいよね、結果生き長らえたし。
 そんな老兵が見るのは新たな時代のヒーロー=クルーゼであり、彼はオーブでこれからの地球権の平和を考えると言う講演会を行っている。
 これが連合・ザフトを含む地球圏へ向けた平和へのメッセージなのは、彼の隣に座っている“連合の裏番”ことアズラエルの姿からも明白で、2人はこれからの地
球圏の平和に向けた歩みや、どうするべきかを公演し合い、最後はしっかりと握手したのだ。
 だが、無論それだけでは済まないのが汚れた大人の世界、クルーゼが平和などこれっぽっちも考えていないアズラエルをワザワザ呼び出したのには理由がある。
 別れ際にクルーゼがアズラエルに渡したのは……ニュトロン・ジャマー・キャンセラー(NJC)の構造設計図だったのだ。
 なにせ無駄に有名になり過ぎたクルーゼはその一挙一動全てが注目され、例えば捕虜にNJCを渡して連合に帰す…といったことすら不可能な状態。
 そこで堂々と本人を呼び寄せ、直接手渡す為にこの茶番を実行。
 今や英雄クルーゼの言葉はネ申にも等しく、提案は満場一致で可決され実行されるという人気っプリだ……本人は嫌がってるけど。

 

「クルーゼの奴め……茶番に付き合わせる代りにプレゼントがあると聞いて付き合ったが……NJCだったとは……」

 

 帰りの連合が用意した航空機の中、ノートPCで手渡されたメモリの中の情報を確認したアズラエルは大喜び……する訳でもなくため息を付いた。

 

「アズラエル様、NJCと言えばあのいまいましいNJを無効化できる物ですよね、嬉しくは無いんですか?」
「サザーランド君、だから君は無能なのだ、無能は罪悪だよ!」
「(くそっ、いつか殺してやる)……ですがNJCさえ手に入れば……」
「なんに使うのかね?」
「それはもちろん……ええと…MSに搭載すれば核エネルギーでビーム打ちたい放題・PS使いたい放題の無敵のMSが……」
「少しは頭を使いたまえ、敵がくれたNJCだぞ…罠では無いとは限らん。
 もしNJCを停止させる毒電波を敵が既に開発していたら……その最強MSを前線に展開させた瞬間それを使われてみろ、いきなりゴミだ。
 金も時間も資材も大量に使ったMSが使えませんでした、なんて可能性のある真似ができるか」
「では現在停止中の核発電所に設置して、更に生産性を高めて物量でザフトを押し潰せば……」
「それもな……もしNJCを探知する機械があったら、NJCを作動させている場所が重要な施設だと知らせているようなものだ。
 そこを攻撃されたら、今は停電で停止しているだけの生産施設が根こそぎ破壊されるか、奪われるかされてしまう」
「それじゃNJCの使い道は、単発で瞬間しか作動しない、使い捨てに出来る場所ってことに……核弾頭にでも装備しますか?」
「僕も考えたんだが、それぐらいしか思い当たらないよ……まぁ核なんて宇宙じゃちょっと大きな爆弾程度だから、とりあえず100個程度作ってみるか?」
「実は核も直前に暴発させ、こちらがダメージを負う装置が完成しているのかも……」
「NJCを渡したってことは、その可能性もあるんだよな……」
「これが罠でなければ、ありがたくって感涙物なんですが」
「相手の技術開発状況が判ってれば使えるんだが……プラントのスパイ網はズタズタでちっとも情報がない。
 あのクルーゼから直接渡されたんじゃ何か考えがあるとしか思えん、NJCはしばらく放置だな」
「それが良さそうですね」

 

 こうして疑心暗鬼にかかった2人の連合の大物はNJCを有効利用することも出来ず、結局は今までどおりに戦力を増やして物量戦で圧倒する方法を選んだ。
 核ミサイルに搭載するNJCも作られたが試験運用の域を出ず、ピースメーカー隊みたいな核兵器運用部隊は最後まで編成すらされなかったのである。
 もちろん連合やブルコスのスパイ網をズタズタにしたのはいつぞやのクルーゼ当人だ。
 こうしてまたクルーゼは『大量殺戮兵器を使い合って人類滅亡』という自らの計画を未然に防いだのであったが……それが判るのは戦後であった。

 
 

「ふっふっふ……ギル、私は運命に打ち勝ったのだ!」
「唐突に何を言い出すかと思えば……で、どうやって英雄の運命から逃れたのかね、ラウ?」
「うむ、今の私は機嫌がいいから教えてやろう……神や宇宙や運命に打ち勝ったその方法とは……そう、私は何もしなかったのだ!
 何もしなければ行動が裏目に出たり、誤解されたり、いいように解釈されようが無いのだからな!」
「ああ、どうりで最近君のニュースを聞かないと思ったよ……確かに何もしなければ誤解すらされない、英雄に祭り上げられることも無い、か。
 ……その変わり我が軍が押されっぱなしじゃないのかね? 今ビクトリア宇宙港が連合に奪還されたってニュースが入ってきたぞ」

 

 あれ(10行前)から何の説明も無いが数ヶ月は経っていた。
 人類絶滅を企むものの、歴史上稀に見る大英雄に祭り上げられたクルーゼ、それでも自らの野望の成就に努力は怠らない。
 しかし、悪い事をしても常に逆に作用し彼の名声を上げてくれる……虐殺や人殺しをしようとすれば倒したのはテロリストや放置するとヤバイ組織、建物を壊せばガスが充満していて死に掛けた人達を救出し、電線をMSで引っ掛けてちぎればその先の電線に子供が引っかかって感電の危機がどーのこーの。
 文字通り汚名挽回・名誉返上を試みてもやることなすこと全て逆になり、じゃぁいいことをしてやろうと善行をすればそれには何の邪魔も入らない。
 もはや八方塞りのクルーゼ、いわれの無い栄誉に押し潰されていっそ狂ってしまえば楽だったかもしれないが、幸か不幸か彼の精神は限りなくタフであった。
 そりゃぁクローンとして生まれ、破棄されかけても生き延び、プラントに渡って空間把握能力者とはいえナチュラルでMSを乗りこなすぐらいだし。
 ともかく、最後の手段としてクルーゼが取ったのが、何もしないという方法だった。
 確かに何もしなければ何も起こらない、その為彼はジェネシスの警備という何も起こらないであろう職についており、実際何も無かった。
 その間に連合はMSの大量配備を行い、無駄な戦力を消耗していないとはいえザフト以上の戦力を揃え、物量による正面突破という軍事作戦を開始。
 作戦ともいえないただの力押しだけど、数倍の戦力で責めればそりゃぁ上層部が無能でも勝てるよね。
 こうしてジブラルタル、カーペンタリアが相次いで陥落、そして宇宙への足がかりを得た連合は宇宙へ進軍し、気が付くとボアズ要塞も落ちてたりなんだり。
 だがこうしている間にもクルーゼは悪巧みをしていなかった訳ではない、否、悪巧みの為に何もしなかったというのが真相だ。

 

「……ふっふっふ、これでいい、これでいい! 戦いが激化すればする程、人類はその本来の凶暴性を表す!
 この戦いに投入された多くの兵士達は敵を憎み、敵陣営を皆殺しにする事を望み、破壊と殺戮と狂気が世界を支配するのだ!!」

 

 クルーゼの目論見では、戦いが激化するだけで人類の凶暴性が露になり、憎しみが憎しみを呼び、破滅の坂道を転がるように落ちていく……筈である。
 だ が 、 人 類 は そ う は な ら な か っ た !
 ザフトの兵は『英雄クルーゼ』が指揮する軍として、その英雄の名に恥じないよう襟を正し、紳士たるべく行動するよう心がけ、規律は守られていた。
 また連合も『救星主クルーゼ』に幾度となく助けてもらったという思いがあり、敵軍とは言えその彼が率いる兵士を殺すのは躊躇わられたのだ。
 もちろんクルーゼが活躍する前の戦いや被害で、怒りや憎しみを持って敵を殺そうと考える兵士はたくさんいた。
 だが、個人の怒りを相手にぶつけるのが理性のある人間のすることであろうか? 憎しみを憎しみで晴らし、その憎しみの輪を広げるだけでいいのか?
 人類の歴史は戦いの歴史、血で血を洗う抗争は脈々と続き、死山血川を築いてきたが……そろそろ人類は次の段階に進むべきではないのか?
 そう人々に訴えるように行動した男がいたのだ…その男こそ、みんなの英雄ラウ=ル=クルーゼ!
 ……と、人々はそんな風に英雄クルーゼを見出してしまったのだ……実際に人類を救っているし、間違いじゃ無いと思い込んだ。
 こうして多くの兵士が英雄クルーゼに憧れ、その行動を模倣した為、敵とは言えむやみに殺さず、捕虜を取っても虐待する事無く誠意を持って対応した。
 いや別にクルーゼが敵を見逃したりもして無いし、攻撃をすんドめして未熟な敵を見逃してないし、不殺していた訳じゃないんだけどね。
 英雄という名前が一人歩きして、それぞれがなんかカッコ良さそうな英雄像をかってにクルーゼに重ねて目指し、ある意味暴走していた。
 また両軍の主力兵器がMSというのもそれを助長した、有視界で遭遇する人型兵器故に、旧世紀の騎士同士の戦い……を連想させるに十分だったのだ。
 電動騎士に乗ったヘッドライナー気取りかよ、おめでてーな。
 まぁ目に見える人型だと、レーダーに映る光点に攻撃を撃ち込むより人の存在を確認できて、思わず引き金も緩むしね。
 それに、連合のMSの性能がどんどん上昇し、始めは集団戦法を取らざるを得なかったが、今では1対1でも技量次第では対抗できるようになっていた。
 ……その影には、技術者達の絶え間ない努力――特にOSを開発した民間人の更なるOSのグレードアップ作業――があったのだがそれは別の話し。
 こうしてMSが1対1で正々堂々勝負する戦いが主になったのだ。 MSは手足や頭さえ狙えば無力化は簡単で、コクピットは案外丈夫に出来ているし。
 戦場は主に相手を無力化する、不殺に徹する奇妙な騎士道精神と言うかスポーツマンシップが支配し、人が死ぬのが珍しい場所になってしまった。
 もちろん都市や市民を攻撃するなんてもってのほか、そんな発言した奴は恥を知れと周囲から叱責され、後方や予備役に回されたのだ。
 こうなると俄然頑張り出すのがイザークその人、元々無駄に騎士道と言うか武士道精神旺盛だったので、1対1で決着を付けられるというのがいいらしい。
 もうPS装甲は卑怯だとか言い出して、フェイズシフトダウン状態で出撃する始末、まぁ追加装甲に色付いてるからいいんだけれど。
 逆に立場が悪化したのはディアッカ……1対1の格闘戦が支配する戦場じゃ砲撃戦用MSは立場無いよね、バスターを改造するとか何とか言ってるらしい。
 もう完全に『英雄クルーゼ』が理想化され、一人歩きしていて本人が否定しようがその流れは止められなかったのだ、実際全てが善行になった訳だし。
 クルーゼも不殺などというまるで子供お遊びのような戦争には色々言いたい事もあった……だが何も言わなかった、またそれが変な誤解を生まない為に。

 

 そしてヤキン・ドゥーエ……眼前の宇宙には連合の大艦隊がびっちりと並び、偵察のザフト兵が『敵が7で宇宙が3だ!』と言ったとか言わないとか。
 戦力は軽くザフトの5倍、このままぶつかればザフトは敗北必死、プラント最大の危機が訪れていた。
 だが……ザフトもプラントの人々も絶望はしていなかった……クルーゼなら…クルーゼなら何とかしてくれる……っ!
 そして今まで表立って活動してこなかったクルーゼが、数ヶ月の沈黙を破ってザフトの全権を議会より預けられ、決戦に挑む。

 

「諸君、ラウ=ル=クルーゼである。 私はプラント最終防衛線、ヤキン・ドゥーエを守る為に最初の命令を下そう。
 ジェネシス、地球へ向けて発射っ!!」
『えええ!?』

 

 クルーゼが命令した瞬間ザフトに震撼走り、それと同時に今まで姿を消していた元星間航行用外部推進器な最終兵器が禍々しい姿を現す。

 

『クルーゼ隊長、それヤバくないですか!?』
『敵艦隊じゃなく、地球その物を撃つんですか!?』
『まだ味方の兵士も地上にいるんですよ!?』
『ジェネシスの原理は判りませんが、なんかいかにも最終兵器で撃ったらマズいって形してますよ!?』
『非グゥレイト!?』
「ええい、全員フヌケているぞ! これはプラントの未来を賭けた戦争だ、や(殺)らなければならないことなのだ!
 この一撃で人類がどんな物であったかを思い出させてやる! 構わん撃ちまくれぇっ!」

 

 ジェネシスからほとばしるヤバそうな光の奔流は一直線に地球を目指し、見事に直撃してた…命中した地表から、月面からでも見える衝撃波が広がって行く。
 ヤキン・ドゥーエを前にどうしようかと止まっていた連合の艦隊は度肝を抜かれる、あんなの撃たれたら全滅だったね。
 大混乱の連合艦隊では、状況を把握しようとしたり、逃げ出そうとしたり、攻撃しようとしたりで、人々は右往左往し混乱しきっていた。

 

「何が起こった、状況を報告しろ!」
「敵の攻撃だ、反撃しろ!」
「いや、転進だ!」
「すさましいエネルギ−っポイ物が感知されましたが……詳細不明!」
「地球は…地球はどうなった!?」
「現在確認中です!」
「くそぉ、ザフトめ! 敵わぬと悟って先に地球を滅ぼすつもりか……!」
「アズラエル様、大変です!」
「そんなの見れば判る! いったい地上はどうなったのだ!?」
「はっ、命中した北米周囲に被害はまるで無し、雲が吹き払らわれ快晴になったおかげで洗濯物が良く乾くと、ご近所の主婦に大好評です!」
「近所の主婦などどうでもいい! それより……本当に地上は無事なのか!? なんともないのか!?」
「何かの強力な電波を観測しただけのようで…ご老人達が血行が良くなって体が楽になったとの報告が入っています」
「主婦も老人もどうでもいい!誰だそんな報告してきた奴は!!首にしろっ!!!
 ……ディスティニー計画でEMP対策されていたから効果が無かったのか? 他に影響は無いのか!?」
「それが……怪光線が命中した周辺で……ニュートロン・ジャマーの効果が消失したとのことです」
『なっ、なんだってーっ!』
「それは本当かサザーランドぉーーーっ!!!」
「ああ、間違いない!」

 

 ジェネシスは確かに地上に向けて照射された。
 だが、照射された怪光線は大気圏とかオゾン層とかの影響で地上に到達する前に変貌し、人が北斗神拳喰らったように膨れてポン! にはならなかった。
 あれって宇宙服とか着ていたからああいう表現だったけど、生身だったらさぞグロくてやばかったろうね。
 変貌した怪光線は、生物に無害になっただけではなく、ある波長の電波となって地上に降り注いだのだ……その波長とは、NJへの停止信号である。
 元々NJは戦略兵器であり、使用者が操作できなければ意味が無い。 もちろん大量に散布されたNJも、外部から無線コントロールできるようになっていた。
 そりゃぁ占領した地域はNJ止めた方が、原子力発電できたり通信障害起こら無いから止めるのが普通だよね。
 しかし、あまりにも大量に地上にばら撒かれ地中深く潜ったNJは、お互い干渉しまくって予想以上の電波障害を起こしてしまっていた。
 これによりリモートコントロールできる筈のNJに電波が届かないという事態が起こり、地上に降りたザフトすらその影響を受け、色々と苦労してたりなんだり。
 ところが、膨大なジェネシスのエネルギーから変換された電波は電波障害に負けないぐらい強力で、地中深くのNJにも到達したのだ。
 こうしてザフトの凄い科学力で作られたNJは、一年以上経っていても設計通りに動いた……停止信号を受信し、自らの動きを止めたのだ。

 

「どういうことだザフトめ……今更NJを止めるなんて……」
「勝ち目が無いと知って、NJを停止させてゴメンナサイと謝るつもりでは?」
「いや、これは地上へ無差別核攻撃する兆候なのでは!?」
「だが地球周囲の制宙圏は我々が握っている、核ミサイルを発射しても全て撃ち落せる!」
「それぐらいザフトだって判っていよう。 一体どうするつもりなんだ!?」
「既に地上主要エリアには核兵器を持ち込んでいるとか!?」
「ともかく、地上の警備を密にしろ!」
「地球上空の警備もだ! いや、プラントから出るもの全ても! もう何でもかんでも警戒しろ! 警戒に警戒を重ねろ! 殺られる前に警戒しろ!!」

 

 連合上層部はこの事態に対して困惑した……そりゃそうだ、地上の状況を知ったら発射した当人も困惑するだろう。
 こうして意見がまとまらないまま会議は踊り、ジェネシスの第二射、第三射が地上に打ち込まれ、NJの無効化したエリアは広がって行く……。
 なにせ地上の情報は簡単にはザフトに入って来ないから、クルーゼは地上の阿鼻叫喚を妄想しつつ、予定通り嬉々としてじゃんじゃん打ち込んでいた。
 そうして両軍にらみ合ったままジェネシスは発射され続け、とうとう地球を一回りして地上すべてのNJは停止したのである。
 ジェネシスは反射ミラーを全て使い果たして使用不能になっていたが、クルーゼの予定では怒れる連合にプラントが殲滅される筈なので、これでいいのだ。
 こうなると連合上層部は完全にザフトの意図が判らず、混乱した……24時間経っても、NJを停止させた後のザフトに動きが無かったからだ。

 

「……そういえば、奴らのあの怪光線兵器の防衛責任者は……確かあのラウ=ル=クルーゼ殿だったな……」
「ああ、ザフトの最終防衛ラインの総指揮を取るのも彼だった筈だ……」
「……もしかして、あの英雄クルーゼのやることですから……本当に和平へ向けての行動なのでは?」
「確かに、彼ならありえる」
「そうだ、きっと最終兵器を発射すると偽り、NJから地上を開放したのではないか?」
「そうか、まずは戦争の被害で一番苦労しているであろう地上の一般の人々を解放する……その民意で和平にたどり着こうと?」
「……確かに彼ならありうる。 だがそれだけでは我々連合も、ザフトも、お互い向け合った剣を納めるには至らないのでは無いか?」
「彼のことだ、まだ手を残しているに違いない!」
「ここは様子見した方がいいようですね……警戒はより密にする必要がありそうですが」
『報告します! 敵要塞から出撃する艦を確認……ピンク色の気色悪い船です!』

 

 これのピンクの艦はもちろんエターナル、今はザフトの英雄クルーゼの艦であった。 乗っているのはクルーゼと、彼直属の部下達。
 少し前までクルーゼは、司令室で地上が阿鼻叫喚の地獄図になっていることを妄想し、危うくエクスタシーに達しそうになっていた。
 ようやくザフトにも地上の情報が入ってきたが、それはNJが停止して喜ぶ地上の人達と、それを行ったであろうクルーゼを称える数々の声だった。
 またもやクルーゼが何かしたのだと期待に満ちた視線を向ける人々を、まるで盗んだバイクで走り出すように司令部を飛び出して振り切り、エターナルで出陣。
 クルーゼは気が付いてしまったのだ……また神という名の、気まぐれで、無茶で、いたずら好きな魔物に、自分がもてあそばれたということを……。
 そして何事かと状況を見守って動かないザフトと連合の丁度中間地点に来て、地球圏全通信域帯に向け回線を開き、本当の最後の最後の勝負に出たのだ。

 

「聞け、人類共よ! 私を英雄などと勘違いして崇める愚かな人間共よ!!
 この私、ラウ=ル=クルーゼはナチュラルであり、コーディネイターなどではない! プラント全ての人間は私に踊らされていたのだ!
 そして私はある人物のクローン、実験の為に生み出されたのだ! それ故に私の命は残り少ない、だから私は憎悪した、人間を、命をもてあそぶ人類を!
 私は私のもう僅かな命が尽きる前に、全ての人間を道連れにする為、さまざまに暗躍してきたのだ!
 血のバレンタインが起こるよう情報を流し、NJを地上に投下させてエイプリールクライシスを引き起こし、数々の悲劇を引き起こしたのは私なのだ!
 もうS2型インフルエンザを流行らせたのも俺!マンデルブロー号を破壊したのも俺!コペルニクスの悲劇も俺!3丁目の爺さんの入れ歯を壊したのも俺!
 ……なんか途中からやること成すことおかしくなって貴様らは誤解していたようだが、全てはより多くの人を殺す為にやったことだ!
 そして今、ジェネシスを地上に照射して人類を皆殺しにしようとした! 失敗したけどな!!
 プラントは俺にコーディネイターと騙されて人類滅亡の片棒を担がされていたアホの集団! ナチュラルもそんな俺を英雄と誤解したバカの集団だ!!
 貴様らは私に騙されていたのだ、私は常に人類の滅亡を願い、実行してきたのだ……その思いは今でも変わらない!
 今、ジェネシス計画が失敗し、全ての計画は水泡と帰した……だが私は只では死なぬ!
 もはやザフトも連合も関係無い、大量殲滅MSであるフリーダムとジャスティス、その武装強化機ミーティア、そして私専用MS
“ ス ー パ ー プ ロ ヴ ィ デ ン ス ガ ン ダ ム ”
 で、ここに居る全ての人間を殺して殺して殺しまくってやる!連合の艦隊とプラントの後は地球だ!殺ると言ったら殺る!!
 滅びよ人類、ふはははははははははっ!」

 

 その声と共に現れたのは、全長50mにも及ぶMSであった……どこから出たかは不明だけども。
 “スーパープロヴィデンスガンダム”……その厨ニ病臭いネーミングの通り、普通のMSの倍の身長を持ち、全てが通常の2倍! 体積に至っては8倍!
 腕の数も脚の数も2倍の4本づつ! ついでにモノアイも2倍装備し、まるで目のようになってます!
 ドラグーンだってびっちりと100機搭載して100機の敵も一瞬で落せます! PS装甲はNJCを搭載した核動力炉の凄い出力でビームも弾くぜ!
 腕は武器を持てないから指がなく、たくさんのビーム砲と、ミーティア並のビームサーベルが腕の先にあって100mのビームサーベルでどんな戦艦も真っ二つ!
 もう『ぼくのかんがえたさいきょうがんだむ(ふくだ やすお君、64年前は7歳)』って感じの超厨MSだ!
 これにミーティアつきのフリーダムとジャスティスがあればどんな艦隊でも殲滅されかねない、ザフトと連合、大ピンチである。
 思わぬ強敵に両軍からは声一つ無く、静寂に満ちた宇宙空間はクルーゼの狂気に満ちた笑い声が響き渡っていた……真空だから電波でね。

 

 だがその声とは裏腹に、クルーゼは内心焦っていた。
 既に人類滅亡の万策は尽き、いくらうそ臭いMSがあるとは言えテストして無いし、どこまで戦えるか判りやしない。
 艦隊とか、プラントとか、それだけじゃない…彼が目指すのは全人類抹殺なのだ……これじゃ地上の人類まで皆殺しできるかどうか……。
 だから最後の手段、壮大な心理戦を全人類へと仕掛けたのだ。
 無駄にやることなすこと全てが善行になってしまい、ナチュラルやコーディネイターに拘らず英雄視されたが、そんな彼が諸悪の権化だったとしたら?
 この衝撃は並ではあるまい、英雄に騙されていたと人は疑心暗鬼になり、世界は乱れ、人々は再び憎しみ合い、殺し合う。
 クルーゼはそう思った、いや、そう願ったといってもいい。
 そして待った、地球圏全てから彼に向けて沸きあがるであろう、憎悪と怒りと憎しみを……だが……。

 

『……もういい、もういいんだ、クルーゼタン!』
『明らかに君の仕業じゃない事まで…全て自分の罪にする気か!』
『そうだクルーゼタン、君一人が罪を被らなくったっていいんだ!』
『全ての責任を自分で被り、自分が討たれる事で世界平和を成そうと言うのか!』
『そんな嘘をついてまで……そこまで人類全ての事を考えてくれていたとは!』
『なんと言う世界平和へのメッセージと覚悟! 君の自らを捨てて世界の平和を願う心に正直感動した!』
『もう人間同士で争っている時代じゃない、そういいたいんですね、判ります』
『目が覚めたぜ……君の世界平和へのメッセージと行動、しかと受け取った!』
『人に出来ない事をやってのける……そこに痺れる憧れるぅっ!!』

 なまじ全世界へ回線を開いていた為、彼の言葉は全世界に伝わったのだが……あまりに胡散臭い事まで自分の罪だと吹かしたので誰も信じてくれなかった。
 人々は逆に、何故英雄である彼がそんな事を言い出したかを考え、全ての罪を自分で被り、そして討たれる事で世界に平和をもたらそうとしたのだと考えたのだ。
 誰しも一度得た地位や名誉を手放すのは嫌だ……だがそれを捨て、それどころか全ての悪行を背負い、そして死ぬ、その後に訪れるであろう平和を祈って。
 クルーゼの放送を聞いた世界中全ての人がそう思い、そして崇高なクルーゼの意志を理解(誤解)したのである。
 誰しもがこの英雄的自己犠牲行為に涙し、自ら武器を持ち相手を撃とうとしていたことを恥じた。
 多くの人々がクルーゼの行為に強く心を打たれ、新たな人類の道程を見出したのだ……その思いは直ちにLOVE&PEACSへの動きとなった。
 連合とプラントは直ちに戦闘を停止(元から始まってなかったが)、その場で停戦への同意と、その後の交渉へ入るというスピード和平。
 プラントからはオーブ占領政策で実績を上げたデュランダル執政官が召還され、クルーゼと共に停戦交渉へ望んだ。

 

「……はっ!? 私は一体ナニを!?」
「ラウ……気が付くのが遅いよ……ここはヤキン・ドゥーエの中、あの扉の向うには連合の高官達が和平交渉すべく、英雄クルーゼを待っているよ」
「わ…わへいこうしょう? なんだそれは、いつの間にそんな所まで話が進んだんだ!?」
「君が茫然自失していた間にさ。 惜しかったネェ、最後の演説はなかなか狂人めいていて良かったが、あまりにも胡散臭過ぎだ。
 何でもかんでも自分の罪にし過ぎだよ…あれでは疑ってくれといわんばかりだったよ、君が思う以上に、民衆という物ははしっこい物なのだよ」
「くそっ、こうなったら連合の高官共を皆殺しにしてでも……」
「武器はさっき預けたから何も無いよ、それともそのヘルメットを外して殴って回るかい?」
「うぬっ…………ん?待てよ……。 交渉の場、か……フフフっ、まだ手はある!」
「やれやれ、もういい加減諦めたらどうだい?」

 

 事の成り行きに茫然自失としていたクルーゼであったが、和平交渉の場でも悪巧みを考え、実行に移した。
 そう、停戦条件を思いっきりプラントの不利なように仕向けたのだ、その不利っぷりは連合のオブザーバーとして同席していたアズラエルも思わず聞き返す程。
 その内容は
1:連合各国へ対しての器物・人的損害の国家賠償として莫大な戦争賠償金を支払う
2:各プラントはコロニーの製造費を出資した理事国に支払い、コロニーを買い取った上で国土とする
3:それによりプラントは独立した国家として各国より承認される
4:プラントの領土はL5コロニー群のみとし、占領地域や資源衛星はすべて元国に返却する
5:プラントの国防軍としてのザフトの所持を認める(武力の制限等の交渉は後日改めて条約を締結する)
 というものであり、戦争の終結と共にプラントは莫大な借金を背負い、国庫は空どころかマイナスになる可能性もあった。
 これがクルーゼの陰謀であった……プラントにとって不利な状況で無理矢理停戦し、プラント国民に貧困を強いれば不満は高まり、戦争が再び起きる。
 戦争が起こればまたクルーゼが暗躍しやすくなり、人類滅亡できるチャンスや、大量破壊兵器が出現する筈……そう考えたのだ。
 これら不利な条件に対し、プラント評議会や国民は反発し、デュランダル和平交渉委員長及びクルーゼも批判を受けた……が、ここでデュランダルが演説を打つ。

 

『親愛なるプラントの国民諸君、この和平案に対しては不満も多いであろう、特に他国へ支払う賠償金は国家予算の数十倍にも及ぶ。
 だがこれは我々が一つの国として各国に平和裏に認められる為に必要な金額なのだ…確かにこの金額は長期間我々の経済を圧迫し、貧困に喘ぐ事になるだろう。
 しかし、プラントの生産力を持ってすれば払えない額では無いと私は信じる。
 そして耐え難き貧困に、苦しみ難き屈辱に見舞われた時、プラントの国民諸君、思い出して欲しい……我らが英雄、ラウ=ル=クルーゼの事を!
 彼はナチュラルの身でありながら厳しい訓練を経てMSを乗りこなし、数々の戦いの中でも自分と人類の未来を信じ、不可能と思われる平和を成し得たのだ。
 どれだけの艱難辛苦の道のりだったろうか…ある時彼は私に話してくれた『私がここまで来れたは、友と、部下と、そして逆境のおかげだった』と。
 コーディネイトされて生まれた我々にとって、ナチュラルを上回るのは当たり前であり、努力の結果だけでは無いのだ!
 今我々に必要なのは緩慢な勝利では無い! 歯の喰いしばりと血の滲みが、艱難辛苦を乗り越える努力と根性が、力を会わせて乗り切る逆境こそが必要なのだ!
 その事を我らが英雄、ラウ=ル=クルーゼは、それを混沌とした世界に平和と自由と正義をもたらすことで、身を持って教えてくれたのだ!
 プラントの国民諸君、今こそその教えを実践する時なのだ!
 この条件を喜んで迎え、そして完遂し、胸を張って世界に我々が平等な立場で国家を樹立したと宣言しよう!
 英雄クルーゼに恩返しをしようではないか!』

 

 もちろんクルーゼがデュランダルにそんな話した事は無い、全てはデュランダルの捏造であったが、クルーゼ=英雄という世界の認識から疑われる事は無い。
 プラントに足りないのは逆境だ!と言い切ったこの演説は“逆境演説”と呼ばれ、クルーゼをうまく絡めた為プラント国民に拍手を持って受け入れられた。
 こうして地球連合とプラントは停戦、プラントは莫大な戦争賠償金と引き換えに独立を果たし、続いて各国と平和条約を締結。
 地上には今だ地域紛争の残り火がくすぶっている所もあったが、多くの人々は英雄クルーゼの生き様に考えを改め、ここに平和な世界が訪れたのである。

 

 こうして訪れた平和……クルーゼは自らの野望である人類絶滅を達成する事無く、その絶好の機会を失ってしまった。
 平和に沸く人々を他所に、クルーゼは一人失意の日々を送っていた……場末のバーで酒を飲み、繰り返し放送される“逆境演説”に『坊やだからさ』と言う程に。
 戦後、その働きによりプラントの議長に、とのプラント国民の声の高まりもあったが、既にそんな気力も無かった……が。
 とある計画の閃きにより失意の縁から立ち上がったクルーゼは、再び人類滅亡の為の計画を練り始めたのだ。
 まず議長の座は辞退するが、強くデュランダルを議長に薦め、それまでの執政官や和平交渉委員長としての働きと、何よりクルーゼの薦めとあって彼が就任。
 そしてデュランダル議長の進める政治を強くバックアップしたのだ……デュランダルの企む『ディスティニー計画』を行わせる為に。
 デュランダルの『ディスティニー計画(既に連合が同じ作戦名を発表していた為、“運命計画”に変更)』は、遺伝子により全人類の職業を決め打ちする計画。
 この遺伝子至上主義で押し付けがましい、まるで見合い話を強引に決めてくる親戚のオバちゃんのような計画は成功する筈が無い、必ず世は乱れる……。
 そこに人類抹殺の隙が生まれる筈、とクルーゼは読んだのだ……きっと真の自由とか言い出して反対する勢力が出てくるに違いないさ!
 デュランダル議長は内政を整え、ザフトを軍として再編成し新兵器が行き渡った所を見計らって『秘密結社ロゴス』について声明を出す。
 ……本当は戦争や虐殺や大破壊等で人々が不安になってから発表したかったが、クルーゼのおかげで世界が平和になってしまったのでこのタイミングだ。
 ロゴスを“死の商人”“人類が戦うべき世界の真の敵”と断言、平和の影に彼らの存在がある限りいつか戦争が起こる、これを殲滅しなければならないと発表。
 そのような組織は許しておけないと世論も沸騰!
 そう、誰もが望んでいた、クルーゼのようになりたいと、クルーゼのようでありたいと! そして許されていたのだ、英雄クルーゼという存在は!
 誰しもが英雄クルーゼのようにありたいと願い、そのチャンスを狙っていた為、人々は燃え上がる炎のようにロゴス糾弾を始めた。
 ちなみにデュランダルは、ロゴスは地球のほぼ全ての企業に関与していると知っており、ロゴス壊滅後、地球圏の経済界は大混乱に陥り、空前のインフレーションが起こるであろうと考えていた……そのタイミングこそ、“運命計画”を発表し、実行すべき最良のタイミング。
 そして人々はロゴスのメンバーを襲撃し、暴徒と化した人々により私刑の据えにロゴスは壊滅……のような流れにはならなかった。

 

 まず、ザフトのオーブ占領の時にモルゲンレーテが世界中に武器を輸出していた事を発端に、死の商人的軍産複合体が争いをコントロールして利益を貪る組織を、調査していたマスコミや個人が数多く存在し、ロゴス参加者に、ロゴスに関わり世界平和への妨げと見なされれば、立場が危うくなりかねないと思わさせたのだ。
 そういう身の危険には敏感なのがロゴスに関わるほどの経営者や実力者達。
 ロゴスを発表した時点で既に多くのロゴス関係者が身を隠していたり、ロゴスを抜けたり、ロゴスと関係のある企業はそれら人事を一新していたりしていたのだ。
 いくつかのまだ利潤や組織にしがみ付いていたロゴス関係者もいたが、程なくして民衆の力で流血する事無く、退陣させられたり企業が解体された。
 人々はクルーゼの見せた行動で、争いがいかに虚しい事か、例え正義と思っていても暴力を振るうのは良くない事だと知っていたのだから。
 ……もちろんクルーゼは一言もそんなこと言って無いのだが……クルーゼの世界平和をもたらした行動はそう捕らえられていたのだ。
 クルーゼのオーブ占領にともない、マスコミが行った記事の捏造が今効いて来たとは……サブマリンアッパー的なこの流れはデュランダルも読めなかった。
 もちろん極めて小規模な混乱しかなかったので、クルーゼの見込みも大外れだ、何がどう影響してこうなるかまるで判らない……これがバタフライ効果って奴?
 そしてデュランダルは“運命計画”を発表し、新たな試みとして先ずプラントが実施する運びとなるのだが……これも大きな混乱は無い。
 クルーゼが押すデュランダルの計画だから、やってみようという風になったのだ……とりあえず受け入れられたが、内心デュランダルは複雑な思いだった。
 反対する組織(例:歌姫の騎士団)が真の自由がどーのとかで襲い掛かってくるかと期待していたクルーゼは、またしても期待を外されたのである。

 

「……“運命計画”、何一つ混乱も無く普通に受け入れられたな……」
「ああ、全ては君のおかげだ」
「私は何もしていない!」
「いや、君のおかげだよ。 君は“運命計画”の発表で世界が乱れる事を祈った、だから何も起こらずに受け入れられたのだよ」
「くそっ、人類はまるで、闘争本能を失い府抜けた羊にでもなったようじゃないか……っ!
 私を作り出した時ような、己の欲望とかエゴとか他人を憎み憎悪する心とか人を妬み嫉妬する感情とか疑心暗鬼で信じられない不信感とかは無いのかよ!!」
「無くなった訳では無いだろう……だがそれより大切な物を、自己犠牲や崇高な心を、憎むより怨んだり嫉妬するより信じる道を、人は見出したのだよ……。
 ……君の行動によってね、例えそんな意図が全然無かったとしても、人は見たい物しか見えない、聞きたい物しか聞こえないのだから」
「く……っ、ここでも神とか悪魔とか宇宙の意志か……っ!!
 ……なぁギル、私はこの先どうやって生きて行けばいいんだろう……この憎しみの眼と、心と、引き金を引く指しか持たぬ私が……」
「そうだな……成るように成るしか無いんじゃないのかな……」
「そうか……まぁどうせこの先短い身だ……あと何年か、成り行きに身を任せて生きて行くのもいいかもしれない……」

 

 とうとうクルーゼは観念した……どうせ我慢しても残り数年、かえって彼が何もしない方が無いか起こるかもしれない、そうなったら笑ってやろうと心に誓って。

 

 こうして十数年の月日が流れ……CE世界は今、どうなっているであろうか?
 まず人は生まれると遺伝子を含めて詳しく調査が行われ、遺伝病等、病気は治療され、遺伝子等のステータスは全て記録され一括に厳重管理されていた。
 だから世界の中心で愛を叫ばなくても、骨髄移植はドナーに確認するだけで簡単にできるし、臓器移植も相手に提供意思があればできるようになってます。
 そしてロゴス壊滅時にロドニア研究所等からエクステンデッドの精神洗浄の為の“ゆりかご”が押収されていたのだが……これが精神洗浄や洗脳だけではなく、改良して睡眠学習等に使えることが発覚。
 これにより人々は“ゆりかご”で必要な知識を誰でも覚えられるようになり、知識の差はナチュラルとコーディネイターの間には無くなったのだ。
 こうして子供も学校に入ってから15歳で卒業するまで、誰でも今で言う大学卒業レベルの知識を平等に得られ、そして今まで授業として詰め込んでいた時間は、道徳やモラルといった情操教育に振り分けられ、富や欲望ではなく世の為人の為になるように、理性的で理知的な人間性の向上に主眼を置いた教育が行われた。
 そうして“運命計画”により、一人々に向いた職業があらかじめいくつか提示され、その中から自分で選んで将来の為の準備ができるようになっていたのだ。
 これは攻略本を読みながらキャラクターを育てているような物…これにより個人の才能が埋もれると言う事は無くなったと言ってもいい。
 例えば、もしサッカーで日本代表になっていればWC日本優勝も狙える筈の選手が、サッカーに興味なく育ってただの鉄オタになり、才能が発揮されなく終わる……なんて事は無く、最初からサッカーの才能ありと教えられるのだ。
 本人にとっても周囲にとっても、発揮される才能が良い方向に行くのであれば双方幸せであろう。
 もちろん“運命計画”で記されない職業を目指す子供もいる。だがそれを成し得るには相当の努力が必要とあらかじめ判っているのだ、努力せずにはいられない。
 例えば“運命計画”で示される将来の中にコンピュータ技師があって、それを選んだ子供がいた。 彼は一般教養と共にコンピュータの学習をし将来に備えた。
 ……もっとも“裏運命”を調べると宇宙海賊が向いていたので、卒業後は宇宙海賊船のコンピュータ技師をしているのだが。
 こうしてデュランダルの“運命計画”と、元ロゴスの“ゆりかご”を組み合わせた人間教育は地球圏に定着。
 高い教養とモラルを持ち、自分にあった技術や職業を持つ新世代の子供達と、クルーゼの英雄行為を目にしそれまで旧世代的な人間の業から目覚めた人々。
 2つの世代の力によって、人々は見た目や無知から来る偏見や差別も存在しない社会を構築し、人類はますます繁栄を高めていった。
 これら人類の革新が無ければ、プラント独立戦争後にも訪れた数々の災悪……宇宙怪獣の襲来を始め、巨人型宇宙人同士の星間戦争に巻き込まれたり、大量の隕石衝突の危機があったり、トカゲ型やニワトリ型や鳩型や小動物型の宇宙人の侵略や和平、銀河系の他惑星の異星人達との邂逅や交流と、惑星連邦の創立と他の星間国家との外交や駆け引き……これらを乗り越え、地球が宇宙へ他の種族と共に進出する事はできなかったであろう。
 もちろんそれらの戦いの先頭には、常に仮面の英雄…ラウ=ル=クルーゼの姿があったのは言うまでも無い。

 

「……あれから20年近く……人類の進歩には驚きだな」
「ぬかせ、その手綱を握って人々を導いたのはお前だろ。
 ……それよりギル、お前あの時、メンデルで私の遺伝子を調べた時、嘘を言ったな……私の寿命が短いなんて……」
「いいやラウ、私は嘘は言っていないよ、私はあくまで『君のテロメアはオリジナルより短い』と言っただけで、寿命が短いとは言って無い」
「だが、細胞のテロメアは分裂の度に短くなって、この長さによって分裂の回数が制限されるから、テロメアが短いと寿命も短い筈では……!?」
「テロメアの長さ=寿命だなんて、どっかのエロゲー……誰●じゃあるまいし、そんな訳無いだろ。
 分裂の周期はあくまでホルモンバランスの問題であって、テロメアの長さとは関係ないし、テロメアの長さを回復するテロメアーゼという酵素だってある。
 つまり、テロメアが短いから、老化が早く来てすぐ寿命が来ることには因果関係は無い、元遺伝子学者の私が言うんだから間違い無い」
「じゃぁ私のテロメアが短かったのは……」
「たまたま採取したサンプルが短かったんだろ、大体身体全てのテロメア調べるなんて不可能だし、比較したオリジナルの細胞サンプルも1つしかなかったしね」
「じゃぁじゃぁ、この私の醜く老化した皺だらけの顔は……」
「それなんだが……レイ、来たまえ」
「はい、ギル」
「彼は……まさか私と同じ……!?」
「そうだ、彼もアル=ダ=フラガのクローンの一人だが……綺麗な顔をしているだろ、君よりおよそ10ぐらい年下かな」
「なっ…何故だ…私には顔にこんなに皺があるのに……そうか、私より若いのならば、遺伝子改良も進んで……っ!」
「いや、君と彼の遺伝子を比較したんだが……まるで同じ、同一人物だったよ……性格は随分違うがね、レイはどっちかと言うと無表情キャラで通っている」
「馬鹿な、全て同じであればなぜこんな…こんなに普通に歳を取っているように見えるんだ!?」
「その事なんだが……なぁラウ、ナチュラルである君がMSを操縦するのは大変な苦労があっただろうねぇ」
「そりゃそうだ、パイロット養成学校では、血反吐を吐いて血尿を出しながら、歯を喰いしばり人の3倍訓練する血の滲むような努力でようやく手足のように……」
「レイ、君はどうだったかな? やはり歯を喰いしばって訓練に耐えたのかな?」
「はいギル、私も血の滲むような苦労を長時間続けましたが……別に歯は喰いしばりませんでした、基本的にこの顔のままです」
「だそうだよ」
「……そうか……そうだったのか……っ! この醜い皺は、MS訓練の時に歯を喰いしばり続けてたからできた皺かっ!!
 私も……私も無表情で訓練すればよかった……っ!!!」
「いや、それまで表情ありまくりだった君が突然無表情キャラには成れないだろ」
「じゃぁじゃぁじゃぁ、お前がくれた老化を抑える薬って……」
「皺が気になっていたようだからね、コラーゲンとかヒアルロン酸とかの錠剤を……」
「化粧品かよ! それじゃ時々私を襲うあの痛みは……」
「そういえば当時、君は忙しくってメディカルチェックの結果とか見てなかったみたいだが……私が見た君のカルテにはストレスから胃に来てるって……」
「胃炎かよ!! 大体私に、短い命であるなら、やるべきことがあるとか何とか…そういって目標を持てといったのはお前じゃなかったのか……!?」
「人間僅か50年、大宇宙の営みに比べたら一瞬の流れ星のような我々人の命、そのような命であれば有意義に使いたいよね…という一般的な話をしたまで。
 当時君は何か悩んでいると言うか絶望していた様子だったのでね、何かうまく力付けることを助言しようと……」
「はっ……謀ったな……っ、ギルーーーっ!!!」

 

 こうして惑星連邦会議に出席する地球代表のデュランダルを乗せ、ワープドライブエンジンを積んだ“エターナルB”は太陽系を抜け出そうとしていた。
 艦長はこれまで幾度と無く地球を救った稀代の英雄、ラウ=ル=クルーゼである、彼は今日も“エターナルB”にあり、無限の宇宙で活躍しているのだ。

 

「艦長、太陽系ワープ規制エリアを抜けました、現在20パーセクまで障害物無し」
「各種兵装、及び搭載MSに問題無し」
「ワープドライブ、異常無し」
「現在、艦内に問題ありません、全て順調です」
「よろしい。 これより本艦は、惑星連邦本星に向けてワープ5に入る……“エターナルB”、ワープ開始!!」

 

―― * ―― * ―― * ―― * ―― * ―― * ―― * ―― * ―― * ―― * ―― * ――

             お し ま い

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】【

 
 
 

【あとがき】
366 笑う仮面の英雄 sage 2008/07/03(木) 17:02:15 ID:???
>>362
 支援サンクス!
 150行で書いていた、直す時間も無かった、すまない

 おしまい
 総行数1000に収まってよかった
 最後は飛躍し杉たけど、これぐらいハッチャケてもいいよね、最後だし
 4月から一月怒号の研修後、昇進して忙し杉てもう書く暇が無い、一月離れて書き方忘れてたし、これに2ヶ月かかった、もう限界
 これで2chに入れるのは多分最後、完結できてよかった
 付き合ってくれてありがとう、そして永遠にサヨナラだ!

 
 

【レス】
367 通常の名無しさんの3倍 sage 2008/07/03(木) 17:04:54 ID:???
>>366
いままでお疲れ様!!
というかなんという平和すぎて素晴らしすぎる社会。
これはもうクルーゼが愛覚えてますかを歌ってヤックデカルチャー!!

 

なんか時間があったら気まぐれでいいからその後が見たいというのは贅沢かなw

 

368 通常の名無しさんの3倍 sage 2008/07/03(木) 17:23:15 ID:???
GJ!!完結お疲れ様でした!

 

369 通常の名無しさんの3倍 sage 2008/07/03(木) 17:59:19 ID:???
>「テロメアの長さ=寿命だなんて、どっかのエロゲー……誰●じゃあるまいし、そんな訳無いだろ。
言った!ついに言った!言いやがった!

 

370 通常の名無しさんの3倍 sage New! 2008/07/03(木) 18:12:14 ID:???
すげぇ、竹本泉のネタがw
考えてみれば、洋物SFとかにはコンピューターが仕事を決めるってのが結構あるよな

 

371 通常の名無しさんの3倍 sage New! 2008/07/03(木) 18:20:20 ID:???
>汚名挽回・名誉返上
素で吹いたw
完結お疲れ様&おめでとうございます!
ニヤニヤが止まらなかったぜw

 

372 通常の名無しさんの3倍 sage New! 2008/07/03(木) 18:50:19 ID:???
GJ!
そうか、サヨナラなのか・・・
楽しい作品をありがとう
アンタ、本当の英雄だったよw

 

373 通常の名無しさんの3倍 sage New! 2008/07/03(木) 19:21:02 ID:???
>>366
完結お疲れ様でした&昇進おめでとーヽ(*⌒∇⌒)ノ::・'゜☆。.::・'゜★。.::・'゜☆。

 

374 通常の名無しさんの3倍 sage New! 2008/07/03(木) 20:09:33 ID:???
最高でした!!超展開のはずなのに、筋が通っていると思わせる面白さ。
ある意味SSの鑑といえますね。

 

375 通常の名無しさんの3倍 sage New! 2008/07/03(木) 20:10:54 ID:???
GJ!
クルーゼすげーw
そして昇進オメ!

 

376 通常の名無しさんの3倍 sage New! 2008/07/03(木) 23:05:16 ID:???
こんな所で○彼の名を見ようとはw
作者乙
最後もきっかり笑わせて貰ったぜ

 

377 通常の名無しさんの3倍 sage New! 2008/07/04(金) 01:20:18 ID:???
笑う仮面の英雄氏超GJでした、どうしたらこんな面白い文章が書けるのか見習いたいところです(`・ω・´)

 

379 通常の名無しさんの3倍 sage New! 2008/07/04(金) 13:59:54 ID:???
勢いだけで走り出すのはよくあるけど、走りきるヤツは稀。
笑う仮面の英雄氏、GJっした!