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SEED-IF_1-735氏_第01話

Last-modified: 2008-01-22 (火) 12:59:53

第一話「うごめく宇宙」

 

 血のバレンタイン……
 プラントに住む者なら誰しもが知っていることだ。
 元はひとつであるはずのナチュラルとコーディネーターの確執。
 それが決定的となり、地球圏を巻き込んだ全面戦争へと発展したその最たる事件である。

 

 24万人以上が犠牲となったそのコロニーの名はユニウスセブン。
 核攻撃によって半壊した砂時計は現在、地球から遠く離れたところで安定軌道にあった。
 誰にも邪魔されることなく。
 ただひっそりと暗闇の中で死した者達の墓標となり続けるはずだった。

 

「……ん?」

 

「どうした?」

 

 ユニウスセブンからやや離れたところ。
 この巨大な遺骸で、ようやく哨戒任務の半分が終わるという二機のMSがいて。
 ―ZGMF−600―
 前大戦の末期になってようやくロールアウトした“ゲイツ”だ。
 その内の一機が、何かを見つけたようで僚機に通信を送っていた。

 

「いや、今なんか光ったような……」

 

「気のせいだろ。こっちじゃ何も確認しちゃいないぜ?」

 

「そうか?」

 

「そうだよ。疲れてデブリの反射を見間違えたんだろ」

 

「……まぁ、ここんとこ働き詰めだしなぁ」

 

「ああ。平和になった途端忙しくなるってどういうことだろうな」

 

「まったく、『訓練の一環だ』なんて言って下っ端の俺達に何でも押しつけるんだからよ」

 

「自分たちが楽したいだけだろ、結局」 
 
 そうやって日頃の不満を愚痴る彼らは、見落としていたことに気づかない。
 デブリに隠れてユニウスセブンへと接近する複数の機影のことを。

 

 だがそれも無理のないことだ。
 いったい誰が、この巨大な質量を「地球へ落とす」などと考えるだろうか。
 ジェネシスという兵器はあっても、この最も直接的で確実な手段はとられなかったのだ。
 だから哨戒任務中の彼らが、いつも通りだとして小さな異変を見過ごしたのも無理はない。

 

「甘いな。そしてその甘さが、我らを敗北へと導いたのだ」

 

 徐々に離れていくテールノズルの光を見ながら、サトーはひとり苦々しく呟いた。
 見つかれば計画の露見も十分にあり得た。
 よって見つからなかったのは喜ぶべきことだろう。
 しかし曲がりなりにも同胞である者達の、怠慢とも言えるその姿勢に苛立ちは隠せない。
 いや、むしろこの矛盾にサトーは苛立っていた。
  
「……申し訳ありませんでした、隊長」

 

 と、ミスを犯した部下から通信が入る。

 

「いや、いい。あぁしなければより大事になっていただろうからな」

 

 慣性移動中にスラスターを噴かしてしまったのは、接近するデブリを避けるため。
 本来ならば編隊を組んでいる周りの機体がフォローすべきところだが、間が悪かった。
 それに作戦の要である装置を持った機体が、慎重に慎重を重ねるのは当然でもある。

 

「だが作戦時間に変更はきかん」

 

 そしてこれもまた当然で。

 

「シン達の回収が上手くいくかどうかはこちらの動きにかかってるからな」

 

 こちらとは別に動いている仲間がいるのだ。
 どちらもが陽動であり、またどちらもが本命でもある。
 すなわち、どちらが欠けてもこの作戦は成立しない。

 

「よし、各機警戒を怠らず引き続き任務を続行しろ」

 

『はっ!』

 

 目標であるユニウスセブンは、もう目の前だった。

 
 

 
 

 タリア・グラゥディスは“新しいモノ”というのがどうも好きになれなかった。
 その独特の匂いや雰囲気もそうなのだが、何より汚れがないというのが気に入らない。
 いや、気に入らないというのは言い過ぎか。
 しかしとにかく、生理的に受け付けられるものではなかった。
 それはもちろん、戦争の道具たる鉄の船であろうと例外ではない。

 

 磨き上げられた外装。
 まったく使い込まれていない内装。
 たとえばブリッジのディスプレイやコンソールパネルには傷一つ無く。
 効率性と利便性を追求した艦内はしかし、どうしてか美しい。

 

「もしかしたら、その矛盾のためかもね……」

 

 一段高い位置に作られた艦長席からブリッジを見下ろしながら、タリアは呟いた。

 

 式典を控えた今、現在ブリッジはタリアを含めた四人を残したのみで閑散としている。
 それはブリッジだけに限らず、艦内クルーには半舷上陸が許可されていた。
 むろんタリア自身の判断だ。
 クルーの半数以上は新米であり、そのため大きな式典を前に緊張はやむを得なかった。
 だがそんな状態を、タリアはよしとしない。

 

「それにしても平和ですねぇ……」

 

 と、四人の内のひとり、アーサー・トライン副長の呑気な声が静かなブリッジに響き渡る。
 ベテランとも新米ともつかない凡庸な人物……というのがタリアの正直な評価だ。
 もっとも、副官にそういう人間が就いてくれたことは喜ばしい。
 うまい具合に温度差のあるクルーの緩衝材となってくれることだろう。
 少しおしゃべりなのが玉に瑕ではあるが。

 

「まったく、兵の士気もあったもんじゃないですよ」

 

「えぇ……」

 

「まぁ、ピリピリとした雰囲気よりは全然いいんでしょうが……」

 

「好きこのんで戦争を望む者なんてそうはいないわ」

 

 そう、ある一部を除いて大方の人間の意見は一致している。

 

「……そのための式典ですか、やはり」

 

「牽制には、なるわね……」

 

 戦争終結から早二年。
 プラント新体制の下、世界は確かに変わっていた。
 あまりに深い傷跡は、ほんの少しずつではあるが埋められていて。
 だが、それでも残り火は燻り続けている。
 その証拠がこの式典だ。

 

「力が争いを収める……か」

 

 ギルバート・デュランダルのその言葉に嘘はないだろう。
 過去の歴史から鑑みても、強すぎる力は抑止力となり得る。   
 あくまで強い手綱によってしっかりと引き絞られるのが前提の話ではあるが……

 

「武力で話をつけるというのは、穏やかな話じゃないですけどね」

 

「そうも言ってられないでしょう。相手は普通の話し合いが通じる相手じゃないのだから」

 

「ブルーコスモス……まだあんな組織がのさばっているのが不思議でなりませんよ」

 

 表舞台で堂々と主張はしないものの、コーディネーター排斥を謳うかの組織の根は深い。
 あの青い地球の至る所に、彼らは存在するのだ。
 明らかな火種でありながら、こちらにはそれを摘みとる手段はなかった。
 何より一度凝り固まった人の心というのは、中々溶きほぐせるものではない。

 

「違うところなんて何もないんですけどねぇ……」 

 

「どうしても受け入れられないモノは誰しもあるものよ」

 

「え?」

 

「だけど、それを我慢するのが大人でしょう?」

 

「はぁ……まぁ……」

 

 思わず口を突いて出た言葉に、タリア自身も驚いていた。
 やはりこの男と一緒にいると少々おしゃべりが伝染してしまうようだ。
 と同時に、そんな考えで納得してしまう自分に、タリアは苦笑する。
 結局、寂しがり屋なのかもしれない。
 確かにひとりで大丈夫だとの自信はあった。
 だけど心のどこかではそうじゃないと叫ぶ自分がいて。
 嘘は好きではないけど、下手ではなかったから。
 そういえば、あの子は今年でもう7歳になるのだ……
 
 突然生まれたあまりに私的な感情。
 しかし、次の瞬間には新造戦艦の艦長として相応しい表情へと切り替わっていて。

 

「式典まであと一時間を切ったわ。総員には引き続き警戒怠らないよう徹底させて」

 

「は、はっ!」  
 
 その時ふと、脳裏を過ぎった嫌な予感にタリアの表情が曇る。
 二年前のあの時と、この状況が重なるのだ。
 五機の新型MS。
 コロニーで進宙式を迎える新造戦艦。

 

「何事もなければいいのだけれど……」

 
 

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