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SEED-IF_30years_06

Last-modified: 2009-06-08 (月) 02:07:19

―東京・西麻布―

深夜2時
禿髪の袈裟姿の男が一軒の家を訪ねていた。
国中が奉祝の中に包まれているなか、男はその場に似合わない顔つきをしていた。
不意にドアが開き白髪の男が出てきた。
よほど眠たかったのであろうか、寝ぼけた顔を擦りながら出て来た
「こんな遅くに誰?」
「俺だ。シン」
「何だよ、え、アスラン……兄さん?」
寝間着姿の女が出てきた。白髪頭の妻であろうか……
「なによ、夜に騒いで」
「起こしてしまったか、ルナマリア」
「アスラン……」
「ま、中に入ってくれよ。寒いし、何だし」
アスランは中に入るなり呟いた。
「そうする。しかしこう寒いとなんだか小腹が空くな。
出前でも取ってくれないか」
「出前?何時だと思ってるんだよ。夜中の2時だぞ」
「シン、お前やたら怒りっぽくなったな。老けたせいもあるのか?
随分見ない内に白髪だらけになったな」

その怒っている男はシン・アスカだった。
かつての烏のような髪も真っ白になり、顔には深い皺が刻まれていた
彼はつい我を忘れてこう言ってしまった。
「あんただって頭つるっぱげじゃないか。もっともザフト抜ける前から毛は薄かったけどな
そんなにホイホイいろんなの抜けるのが巧いのは頭の毛がスルスル抜けるせいか?
え、違うのかよ」
「なんだと。10年ぶりにあってその言いぐさは何だ、シン!
だからお前はあの頃から進歩すらもしてないじゃないか?
失敗を教訓にしてればいいものを。 まったく反省してないじゃないか!」
ルナマリアが止めに入って
「アスラン、それより何が食べたいの」
「ピザ頼めるか。トッピングも豪華な奴があるか?
なるべく大きい方がいい。
うん、そうだな。一番大きいやつにしろ。
な、みんなで食える」

二人はそうやってテーブルにつき、話を始めた。
茶を淹れながら、ルナマリアが聞いてきた
「灰皿は?」
「ああ済まない。ライターも取ってきてくれ」
ルナマリアが灰皿を並べ、ライターを用意すると、シンは煙草を取り出し、火を付け、ゆっくり吹かした。
そして話を始めた。
「で、いきなり10年ぶりにきて、話ってのは。何なの?」
アスランは熱い茶を一息に飲むと
「俺とザフトへ来い」
「はあ?悪い冗談でも言ってるの?本気で?」
「俺と一緒に来てお前達の夢を叶えようじゃないか」
「今更。あと20年早ければ乗ったかも知れないけど、俺達夫婦にだって生活はあるんだからさあ」
「子供、欲しいって言ってたろう。その夢だってかなう。
今やってる塾やら学校やらの真似事だって向こうでやればいい」
「何を言うんだ、あんたは?
俺たちがどんだけ苦労してここまでの生活を築いたと思ってるんだ。
大体そうだ。あんたは何でも分かったつもりで話を持ってくる。
俺達の気持ちも考えてくれよ。それにこの歳だ。
もう俺もルナも子供は無理だよ。諦め付いてることに変な希望持たせないでくれよ!」

シン達夫婦には子供がいなかった。いや、出来なかったのだ。
それはコーディネーター第2世代、第3世代特有の不妊が原因だった。
シン自身には問題がなかったがルナマリアは無理な体だった

「もうその話は止そう。俺じゃなくてルナがかわいそうになる」
アスランは涙ぐみながら天を仰いで
「あの時、あの時、メイリンが死ななければなあ……
お前たちに3番目をやれたんだがなあ
男の子、欲しかったんだろ?
随分俺達の約束を守ってた、お前達には……って思ってたんだけど…
あんなことになっちまって……
後で判ったんだけどな、男の子だったんだよ
メイリンの腹ん中にいたのは!」
アスランは知らない間にシンの襟首を掴んでいた。
「なんでこんなことになっちまったんだろ、なんでこんなことになったんだと
教えてくれよ!おい。
こんなことは絶対におかしい。おかしいよ。
な、だから、俺と一緒にプラントへ来てくれ。
俺も一人モンだ。何かと寂しい……」
齢五十近い一人身の男の偽るざる心情の吐露であった
家族という物との縁が薄かった男の、男しか知りえない囁き……
14歳まで幸せな家族生活を知っていて、今、妻との平穏な生活を送っている赤目の男には理解できなかった
今更、総てを捨てて宇宙に浮かぶ鳥籠に住めという、意見は受け入れられないものだった。
いくら子供が欲しいからと、欲しかったからと言っても今更行く気には為れなかった
今まで30年近くも自分勝手に生きておいて、今更老後が寂しいから来いとはなんて勝手な意見だろうか……
シンは、そんなアスランの言い分に激怒していた
「何自分勝手なことを一方的に聞かされて、はいそうですかって納得する馬鹿が何処にいるって言うんだよ!
人の気持ちも知らないで勝手に言いたいことばかり言いやがって!
あんたは俺達の今の生活すら考えられないのかよ!この……」
「自分が、今何を言ってるのか、お前、本当に解ってるのか。
甘ったれるじゃない!」
パン!
大きな音が響き、左頬に平手打ちが飛んだ。
「俺がこの10年どれだけ悩んだことか。
どんな気持ちか汲み取ることも出来なかったくせに何、いい加減なことを言ってるんだお前は!
こんな国にいてもしょうがないだろ。俺と来い。いやな思いはさせん。
イザーク達も世話して呉れるそうだから。な、来いよ」
そういうと、襟首を掴み、なおも強くシンを揺さぶった。
シン・アスカが流され易い性格だったら乗ったであろう。
しかし彼はすでにアスラン・ザラの性格を熟知していた。
―自分勝手で、且つ信念もなく他人に流され易い―
齢五十にもなる義兄の醜態にシンは呆れてしまった。
「あんた、いい年こいて自分で判断できないのかよ。呆れたよ
イザークさんだか誰だか知らないけど、その人たちの呼ばれてるって、あんた、早い話パシリやらされるだけなんじゃないのか
情けないねぇ」
「お前はそうやって口だけで努力しないからダメなんだ、シン。
だから子供が出来ない、出来ないといっても努力しなかったから20年も棒に振ってしまったわけだ。
解るだろ。生憎俺はお前ら夫婦の事情やら都合とやらを考えてやれはしない」
そのそっけない一言がシンの逆鱗に触れた。
シンは机を叩いて、立ち上がり
「人の気持ちも分かんないで!人の事情も知らないくせに!なんだよ、あんたは。
いきなり現れて、ザフトへ戻ろうなんて話を誰が賛成できるかよ。
いい加減にしてくれ。さっさとどこか、行ってくれ。
もうあんたとは絶交だ!義兄弟の縁もお終いだ!」
……もうついていけない……
それがシンの正直な気持ちだった。
だがアスランにはただの義弟の我儘にしか見えなかった……
アスランは立ち上がり、去り際にこう言った。
「後で使いを送る。その時まで熟慮しておけ」
シンは灰皿を持って、投げた。
「人の気持ちも知らないくせに、いい加減なこと言うなよ!」
灰皿は閉まりかけたドアにぶつかり、落ちた。
ドアは閉まり、そこには静寂が訪れた……

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