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SEED-IF_30years_16

Last-modified: 2009-11-05 (木) 13:45:00

アスラン・ザラの扱いは格別だった。
通常ザフト軍では、いや近代軍隊というものでは一度たりとも思想検査や軍事裁判を受けなくてはならない。
他国での生活経験がある場合や捕虜・抑留生活を受けた身であるならば。
しかしながら彼はそのようなものを受けなかった。
そして数度の軍籍の移動によってそれが当たり前だと思っていた。
二重国籍を国籍法で定めているオーブや全てにおいて出鱈目なザフトでなければ、そうはなかったろう。
厳格な軍隊であれば、彼の階級は中隊長になったかは怪しい。

 
 

ところで、アスランは船の持ち主から夕食に誘われた。
質素ではあるがテーブルには様々な種類の魚や野菜が並んでいた。
テーブルに着くと果汁酒を注がれ
「旦那、一杯いかがですか」
彼の前に次々に主菜が並べられる……
「!」
「アンタ、ロールキャベツ嫌いなのか」
アスランの目から熱い雫が零れ落ちた。
少し唸った後
「涙を流しても何も戻りはしないし、戻れないけど、妻と母を……
親友(とも)だった、戦友(とも)だと信じていた男の、養母(はは)が俺に作ってくれたんだよ
このロールキャベツを……」
アイザック・マウはアスランの激情に感化されて、思わず箸を落としてしまった。
ロウの妻も思わずもらい泣きしてる……
「それを俺が何が思い出なんて……」
「ザラ隊長、冷めますから早く召し上がりましょう。樹里さんの折角の料理が台無しに為って仕舞いますよ」
「ああ……」

 

料理に舌鼓を打った後、ちょっとした酒席が設けられた。
アスランについてきた護衛兵とボーディガード―アイザック・マウと風花・アージャ―はヘロヘロになって寝てしまった。
「ミスターギュール、アンタ、その、叢雲劾って男は、なに者なんだ」
「旦那、水臭えな。俺はロウで構いはしねえよ」
「判った。ロウ」
スッと立ち上がると古びたアルバムの様な物を持ってきた
手に水を付けてペラペラ捲ると或るページを開いて見せてきた
それは叢雲劾が日本の司直に死刑判決を受けたという新聞の切り抜きであった
「劾は、詰まんねえ事件に巻き込まれ散った訳さ」
「詰まらない事件?なんだそれは」
「一寸した政治のゴタゴタに手を突っ込んちまっただけなんだが」
「つまり、それに参加なきゃ、彼は確かに優秀な傭兵だったろう、でなきゃ唯の馬鹿だろうな」
「!」
「もっとも俺は、ソイツの様な、政治の為に戦う機械には成れない」
「……」
アスランはとびきり運に恵まれていた!
「アンタ!」
ロウはドアのほうを向いた。
ちょうど女が顔をドアから出してロウを呼びに来たのだった。
「樹里!」
そういうとロウの脇によって何か耳打ちをしている。
(何を話してるんだろう……)
「ザラさん、休まれたらどうです」
「寝させて貰うよ、お休み。奥さん!」

 

 

2月21日、地球連合軍の大部隊は朝鮮半島の仁川に上陸した。
支那大陸最大の港である上海と北方に位置する大連や天津がザフト軍と東アジア政府軍に因って占拠されて居る為である。
4万になる連合軍の主力は日本軍であったが最高司令官は大西洋連邦の元帥。
キラ達、オーブ軍4500人は日本軍と大西洋連邦軍の指揮下に入る形で参加した。
それでもキラの階級的地位は上位2位だった。
京城ってずいぶん北にあるんだな……寒い
京城で軍の編成をし直してから攻めるというが、そもそも京城がどこであるか兵達には知らなかった。
英語と日本語で済むだろうと通訳を連れて来なかった事が悔やまれる……
何しろオーブ兵の殆どは日本と陸続きだと思って居たらしい。南国育ちの兵たちには厳しすぎる
ラクスが用意して呉れた厚手のフェルト地のコートが無かったらどうなった事だろうか。
アスランが、アスランが生きているって本当だろうか?)
コートのマフポケットから手を出して、顔の前に手を近付ける。
吐く息が白い……肺を清める様な寒くて、新鮮な空気……
キラはふと数日前のことを思い起こしていた

 

 

何時もの様に執務から帰って来て、軍服から部屋着に着替えてジュースを飲んで椅子で黄昏ていると電話が掛って来た。 見た事の無い番号で、電話帳を調べると湾岸警備隊(コーストガード)からだった。
電話し直して、数分待つと所長から飛んでもない話があった。
アレックス・ディノという男についての身元照会だった。
キラは適当な理由をつけて電話を丁重に切ると、保安警察に電話して事実か確認した。
事実らしいことを知ったが、なぜか煮え切らなかった……
気がつくと部屋が騒がしい。男の声がする……
目を開けると愛息たちがいる……
何があったんだ?
「オヤジ、アレックス・ディノおじさんって何者なんだい?」
急に17年前に死んだ親友のことを聞く息子のほうを向いた。
「一言では簡単に言いつくせないけど、良い所を挙げれば一途な男。
自分の信じた道をずっと歩み続けていた誠実な男かな?僕みたいに色々な所をフラフラする様な人じゃなかったし。一寸朴念仁だけど」
「へえ、そうなんだ」
「なんで、急にそんなことを聞くのかな」
「今日さあ、アレックス・ディノとか名乗るさ、変な坊様を見たんだよ。小汚いオレンジ色の袈裟を着た爺を」
そういうとショウがカバンから紙とフロッピーを取り出した。
「何?これ」
「ここにその爺の写真が入ってるんだけどさ」
キラはPCにフロッピーを入れて画像を出す
そこには紛れもないアスラン・ザラの姿があった
多少髪は薄くなり、オーブにいた頃よりは痩せたが
「これどうしたの!」
「それは置いといて。これさ、ディノおじさん本当になの」
「え!」
キラは一瞬言葉に詰まった
アスランが?
氷が解けて温くなったジュースを取って流しこむと
「本当さ。いや本当だと思うんだ。墓場で一緒に君達と埋めるのを見てたけどさ、まだ僕の中では死んだ気がしないんだよ」
それにあのとき埋めた遺体は顔が判別できないような状態だったし……)
「戦争中、彼は何度も生きて帰って来た」
ジェネシスの中で核の光を放った時も、ジブラルタルのザフト軍基地からメイリンとともに追撃された時も……
「なんか本当にコッソリ帰って来そうな感じがしないでもないんだ」
死んだ筈の男が何故、戻って来ようか?
「オヤジ……」
「ちょっと昔話をしてもいいかな」

 

すっと椅子から立ち上がると、ゆっくり部屋の中を歩いて話し始めた。
「君達にね、いつか本当のことを話して於かなくちゃいけないとは思ってはいたんだけど……
こんな形で話す日が来るとはね……
僕とアレックスは親友なのは本当さ、だけどね彼の名前も経歴もみんな嘘ばかりなんだよ」
「え」「!」「マジ!」
「本当さ。彼の本当の名前はアスラン・ザラ。黄道同盟の創始者の息子なんだ。」
目の前でオヤジが狂い出したかのように変なことを話し始めている……ショウにはそう見えた
「オヤジ、悪い冗談はよしてくれよ」
「本当はもうこんなこと話したくないんだ。でも聞いてくれないかな」
「いきなりそんなわけわかんない話されても」
「そうだろうね」
何を考えてたんだろう……

 

 

「ヤマト閣下!」
キラはふと男の掛け声で現実に引き戻された。
―ここは仁川。寒くて淋しい海辺の町、暖かくて心地いいオーブの私邸ではないのだ―
地球連合のベージュ色の制服にグレーの略帽を被った兵が敬礼をして来た。
返礼すると兵士は手紙のようなものを渡した。
開けるとディナーパーティの招待状だった。
「もうそんな時間?」
ポケットから時計を取り出して見るとまだ午後3時だ。
「料理は何?僕もうフランス料理は飽きちゃったなあ」
「簡単な、食べやすくて旨い、熱々のジャガイモとソーセージでも喰いたいですな」
兵士と話しながら行くと、アマギが駆け寄る。
「アマギさん、どうかしたの?」
「しかしキラ様、どこにも大西洋連邦の連中はいません。本当に来るんでしょうな、彼等」
「何とかなるよ。まさか司令官が戦死して僕が最高司令官代理って訳でもないし」
キラはそう笑いながらディナーの主宰されてる部屋へ向かった
これから降りかかる悪夢の予兆を知らずに……

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