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SEED-IF_4-5氏_17

Last-modified: 2008-07-04 (金) 21:09:33

アスランは階段を駆け上がった。
「ならもう一回確認できますわね」
向こうに見えるのは……。
「ラクス!」
「ぁ……ぁ……あぁ……アスラン!」
「ぁ……あぁ?」
これは……ラクス? いや、最近のラクスはこんな笑顔を見せた事など……
「あー嬉しい! やっと来て下さいましたのね」
ラクス? は、待ち望んでいた恋人を迎えるかのような笑顔で、こちらに駆け寄ってきた。
「ぁ……ぇぇ? ……ぁ……」
抱きつかれた? 何が起こっているんだ!?
「うふ」
「君がどうしてここに?」
こいつはラクスじゃない。
理性ではわかっている物の、アスランは、つい尋ねてしまう。
「ずっと待ってたのよ、あたし。貴方が来てくれるのを。うふ」
ラクスの姿をした少女は再び微笑んだ。

 
 

「なんですと!?」
ジブリールは届いた知らせに驚愕した。
「ですから全滅です。核攻撃隊は一機残らず跡形もなく全滅したんですよ。一瞬のうちに。地球軍は一旦全軍、月基地へ撤退しました」
「そんな……馬鹿な!?」
一体何が、起きたのだ?
ジブリールは混乱しながらも情報の収集と分析を命じた。

 

「おいおい、なんだよこれは」
ネオは報告される状況に思わずぼやいた。
「核攻撃隊が全滅ってどう言う事だ? まさか前大戦のフリーダムを量産して隠し持ってた訳じゃないだろうな?」
「艦艇も短時間に一気にやられています。その可能性は低いかと」
「やれやれ、だな。艦長。これで片がついてれば楽が出来たのに」
「はぁ……」

 

「どいてくれ!」
シャムスは人込みを掻き分けながら走った。
撤退してきた艦隊から怪我人が降りてくる。
「ごほごほ……」
咳き込む音に視線をやると、血を吐いている男がストレッチャーに乗せられていた。
「オキタ!」
シャムスはその男に駆け寄った。ファントムペインで顔見知りの友人だ。
「大丈夫か、オキタ!」
「ああ、シャムス……。大丈夫だ。ちょっと肋骨を骨折しちまった。面目ない」
「そうか……。ともかく無事でよかった。しかしお前がやられるなんて」
オキタはファントムペインの中でも腕が良い事で知られていた。
「……だが、作戦は失敗したようだな」
「ああ」
率直にシャムスは言った。今気休めを言った所でしょうもない。
「ザフトが、新兵器を使ったらしい。別働隊は……」
シャムスはうなだれた。
「おいオキタ、何をしている。怪我人はさっさと行かんか」
二人に声がかけられた。
「コンドウ隊長!」
厳つい顔をした男が立っていた。
オキタに隊長と呼ばれたその男も怪我をしたようで片腕を三角巾で吊っていた。
「コンドウ大佐!」
「おお、シャムス。敵に一機データに無いモビルスーツが居ってなぁ、これが機動性が高いの何の。ワシもオキタもこのざまよ」
「ザフトの新型でしょうか?」
「かもしれん。やはり油断ならん奴らよ。……ヤマナミがやられた」
「――!」
シャムスは絶句した。ヤマナミは彼の面倒をよく見てくれた先輩だった。誰からも好かれていた男だった。
「ちょっ」
コンドウは舌打ちした。
「さっさとザフトの奴らを砂時計から引きずり落とさねば安心して眠れぬわ。……にしても奇襲隊だ」
コンドウはぎょろりと目を光らせた。
「セリザワの隊もニイミの隊も、絶望的だそうだ」
「あのセリザワ大佐も……」
コンドウが挙げた名前の二人とも、シャムスやオキタにとってファントムペインの上官である。
シャムスはセリザワの剛胆さを懐かしく思い浮かべた。反面、医術に詳しく、シャムスも看護をしてもらった事があるのを思い出した。そして。懐かしいと思ってしまった事に愕然とし、セリザワ大佐達が死んでしまった事があらためて思い知らされるのだった。
「おおい、別働隊のモビルスーツが帰って来たぞぃ!」
向こう側で、声が聞こえた。
「――! オキタ、お前は早く医務室に行け!」
そう言うとコンドウは駆け出す。シャムスも後を追う。

 

「ハットリ! トウドウ!」
目が血走った男が二人、ストレッチャーで運ばれてきた。
「おう、コンドウ大佐、シャムス!」
大柄な男――ハットリが答えた。モビルスーツの腕前はファントムペインでも随一――おそらくオキタよりも――と言われる男だ。
「俺達のほかには帰ってきたか? イトウ隊のみんなは? 隊長はどうなった?」
小柄な美男子――トウドウが聞いた。
「……いや。お前達だけだ」
コンドウが答えた。
「いったい何が起こった?」
シャムスは聞いた。
「わからん。とにかく核ミサイルは撃ったんだ。しばらくしたら、いきなり周囲が爆発の嵐だ。揉みに揉まれて、モビルスーツはぼろぼろよ。よくまぁ助かったもんだと思うわ」
ハットリがぼやくように言った。
「おおい、別働隊の艦だ!」
「ぼろぼろじゃないか」
声がした。
はっとハットリはその方向を注視する。
だが、しばらくしてイトウ隊の艦では無いとわかり、ため息をつくとトウドウと二人で運ばれていった。

 
 

「ラクス様」
ラクス? のマネージャーらしき男が声をかけてきた。
「ああ、はいわかりました。ではまた。でも良かったわ。ほんとに嬉しい。アスラン」
ラクス? はアスランの前から去って行った。
「ぁぁ……」
何がなんだかわからない。
「ん? アレックス君」
その時、後ろから声をかけられた。
デュランダル議長だった。
「ああ君とは面会の約束があったね。いや、たいぶお待たせしてしまったようで申し訳ない」
「あ……いえ……ぁぁ……」
アスランは混乱から立ち直ろうとする。
「ん? どうしたね?」
「いえ、なんでもありません……」

 

議長室に通されたアスランは、そこで初めてプラントが核攻撃された事実を知った。
「核攻撃を!?」
「ああ」
「そんな……まさか……!」
「と言いたいところだがね、私も。だが事実は事実だ」
デュランダルはテレビを付けた。
『繰り返しお伝えします。昨日午後、大西洋連邦をはじめとする地球連合各国は我等プラントに対し、宣戦を布告し、戦闘開始から約1時間後、ミサイルによる核攻撃を行いました。しかし防衛にあたったザフト軍はデュランダル最高評議会議長指揮の下、最終防衛ラインで此を撃破。現在地球軍は月基地へと撤退し攻撃は停止していますが、情勢は未だ緊迫した空気を孕んでいます』
テレビは、緊急ニュースでプラントが核攻撃を受けた事実を伝えている。
「ああ……」
アスランは、絶望的な思いを感じた。
「君もかけたまえ、アレックス君。ひとまずは終わったことだ。落ち着いて」
「はい……」
「しかし……想定していなかったわけではないが、やはりショックなものだよ。こうまで強引に開戦されいきなり核まで撃たれるとはね。この状況で開戦するということ自体、常軌を逸しているというのに。その上これでは……これはもうまともな戦争ですらない」
「はい……」
「連合は一旦軍を引きをしたが、これで終わりにするとは思えんし。逆に今度はこちらが大騒ぎだ。防げたとはいえ、またいきなり核を撃たれたのだからね」
「くぅぅ……」
アスランは歯噛みをした。祖国の危機に……自分は……。これから世界は……。
「問題はこれからだ」
「それでも、プラントは……この攻撃、宣戦布告を受けてプラントは……今後どうしていくおつもりなのでしょうか」
「んー……。我々がこれに報復で応じれば、世界はまた泥沼の戦場となりかねない。わかっているさ。無論私だってそんな事にはしたくない。だが、事態を隠しておけるはずもなく、知れば市民は皆怒りに燃えて叫ぶだろう。許せない、と」
「……」
「それをどうしろという。今また先の大戦のように進もうとする針を、どうすれば止められるというんだね。既に再び我々は撃たれてしまったんだぞ、核を」
「しかし……でもそれでも、どうか議長! 怒りと憎しみだけでただ撃ち合ってしまったら駄目なんです! これで撃ち合ってしまったら世界はまたあんな何も得るもののない戦うばかりのものになってしまう……。どうか……それだけは!」
アスランの脳裏に、キラと憎しみ合い、殺しあった過去が甦る。
「アレックス君……」
「俺は……俺はアスラン・ザラです!」
アスランは、アレックス、と呼ばれた事を訂正した。
「ん?」
「二年前、どうしようもないまでに戦争を拡大させ、愚かとしか言いようのない憎悪を世界中に撒き散らした、あのパトリックの息子です! 父の言葉が正しいと信じ、戦場を駈け、敵の命を奪い、友と殺し合い、間違いと気付いても何一つ止められず、全てを失って……なのに父の言葉がまたこんなっ!」
「アスラン……」
「もう絶対に繰り返してはいけないんだ! あんな……!」
「アスラン!」
「ぅ!」
自分の言葉が感情の昂ぶりを呼んでしまったようだ。
アスランは我に返る。
「ユニウス7の犯人達のことは聞いている」
「ぅ……」
「君もまた、辛い目に遭ってしまったな」
「いえ違います。俺はむしろ知って良かった。でなければ俺はまた、何も知らないまま……」
「いや、そうじゃない、アスラン。君が彼等のことを気に病む必要はない。君が父親であるザラ議長のことをどうしても否定的に考えてしまうのは、仕方のないことなのかもしれないが。だが、ザラ議長とてはじめからああいう方だったわけではないだろう?」
「いえそれは……」
厳しい、だが、優しい父でもあったのだ。……母が生きていた時は。
「彼は確かに少しやり方を間違えてしまったかもしれないが、だがそれもみな、元はといえばプラントを、我々を守り、より良い世界を創ろうとしての事だろう。想いがあっても結果として間違ってしまう人は沢山居る。またその発せられた言葉がそれを聞く人にそのまま届くともかぎらない。受け取る側もまた自分なりに勝手に受け取るものだからね」
「議長!」
「ユニウス7の犯人達は行き場のない自分達の想いを正当化するためにザラ議長の言葉を利用しただけだ」
「……!」
天啓を受けたように、アスランの頭に電流が走った。
「自分達は間違っていない。何故ならザラ議長もそう言っていただろ、とね」
「ぁぁ……」
「だから君までそんなものに振り回されてしまってはいけない。彼等は彼等。ザラ議長はザラ議長。そして君は君だ。例え誰の息子であったとしても、そんなことを負い目に思ってはいけない。君自身にそんなものは何もないんだ」
「議長……」
アスランは、ずっと心に背負っていた荷物が降ろせた気がした。
「今こうして、再び起きかねない戦火を止めたいと、ここに来てくれたのが君だ。ならばそれだけでいい。一人で背負い込むのはやめなさい」
「ぁぁ…」
「だが、嬉しい事だよ、アスラン」
「……」
「こうして君が来てくれた、と言うのがね」
「ぁ……ぁぁ……」
「一人一人のそういう気持ちが必ずや世界を救う。夢想家と思われるかもしれないが私はそう信じているよ」
「……議……長……」
いつしか、アスランは涙を流していた。
「おや。だいぶ、溜まっていた物があるようだね。泣きたまえ、泣いてすべて出してしまうといい」
アスランは、議長の胸に顔を埋めて、泣いた。泣いた。

 

『わたくしはラクス・クラインです』
「ぁぁ……?」
ふいに飛び込んできたラクス? の声で、アスランは、我に返った。
「すみません、みっともない所を……」
「いいのだよ。男も泣かねば成らない時ぐらいある」
テレビのラクス? は語り続ける。
『皆さん、どうかお気持ちを沈めて、わたくしの話しを聞いて下さい。この度のユニウス7の事、またそこから派生した昨日の地球連合からの宣戦布告、攻撃。実に悲しい出来事です。再び突然に核を撃たれ、驚き憤る気持ちはわたくしも皆さんと同じです!ですがどうか皆さん!今はお気持ちを沈めて下さい。怒りに駆られ想いを叫べばそれはまた新たなる戦いを呼ぶものとなります」
「議長、これは……?」
デュランダルは、微笑むとテレビに視線を向けた。
『最高評議会は最悪の事態を避けるべく、今も懸命な努力を続けています。ですからどうか皆さん、常に平和を愛し、今またより良き道を模索しようとしている皆さんの代表、最高評議会デュランダル議長をどうか信じて、今は落ち着いて下さい』
ラクス? は、話し終わり、静かな歌を歌い始めた。

 

「笑ってくれて構わんよ」
「ぅ……」
「君には無論判るだろう」
「ぁ……」
アスランは、自己嫌悪に駆られた。カガリともなかなか会えない。ラクスはもうキラの恋人だ。だが……こうあって欲しいと言う恋人像を、先程のラクス? の中に見ていた。一瞬でも信じた……いや、信じたかったのだ。こんな風な恋人がいたらと。
「我ながら小賢しいことだと情けなくもなるな。だが仕方ない。彼女の力は大きいのだ。私のなどより、遥かにね。評議会のお偉方があれこれ言うより、彼女の一言の方が有効なのだ。馬鹿な事をと思うがね。だが今私には彼女の力が必要なのだよ。また、君の力も必要としているのと同じにね」
「私の?」
「一緒に来てくれるかね」
デュランダルは先に立って歩き出した。
アスランも後に続く。

 

デュランダルはエレベーターを上がり港湾部へと入っていく。
何重ものセキュリティを通過して、辿り着いたのは格納庫。
扉が開かれる。
闇の中にあるそれは、ガンダムヘッドのモビルスーツだった。
「ぁぁ……」
「ZGMF-X56S インパルスだ。性能は異なるが例のカオス、ガイア、アビスとほぼ同時期に開発された機体だよ。この機体を君に託したい、と言ったら君はどうするね?」
「……どう言う事ですか? また私にザフトに戻れと」
「んー……。そう言う事ではないな。ただ言葉の通りだよ。君に託したい」
「……」
「まあ手続き上の立場ではそう言う事になるのかもしれないが。今度の事に対する私の想いは、先ほど私のラクス・クラインが言っていた通りだ。だが相手は様々な人間、組織。そんなものの思惑が複雑に絡み合う中では、願う通りに事を運ぶのも容易ではない。だから想いを同じくする人には共に立ってもらいたいのだ。出来る事なら戦争は避けたい。だがだからと言って銃も取らずに一方的に滅ぼされるわけにもいかない」
「……」
「そんな時のために君にも力のある存在でいてほしいのだよ。私は」
「議長……」
「先の戦争を体験し、父上の事で悩み苦しんだ君なら、どんな状況になっても道を誤ることはないだろう。我等が誤った道を行こうとしたら君もそれを正してくれ。だが、そうするにも力が必要だろ。残念ながら」
「……」
「急な話だから、直ぐに心を決めてくれとは言わんよ」
「ぁ……」
「だが君に出来る事。君が望む事」
「ぁぁ……ぁ……」
「それは君自身が一番よく知っているはずだ」
そう言うと、デュランダルは身を翻し、アスランを残し去って行った。
俺は……どうすれば……。
だが、アスランは気づいていた。自分の心がとっくに答えを決めている事を。

 
 
 

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