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SEED-IF_4-5氏_31

Last-modified: 2008-10-16 (木) 20:05:52

「ほんとに、よろしいんですか?」
議長とのお茶会の後、ルナマリアは弾んだ声を出した。
こんな高級なホテルに泊まっていいと言う。
「ええ、休暇なんだし。議長のせっかくの御厚意ですもの。お言葉に甘えて今日はこちらでゆっくりさせていただきなさい。確かにそれくらいの働きはしてるわよ、あなた方は」
「そうさせていただけ。ルナマリアもマユも。艦には俺が……」
アスランがそう言いかけると、レイが遮った。
「艦には私が戻ります。隊長もどうぞこちらで」
「いやそれは……」
「褒賞を受け取るべきミネルバのエースは隊長とルナマリアです。そしてマユは女性ですので。私の言っていることは順当です」
「レイ、俺達を忘れるな」
「あ、ショーン、ゲイル!」
「明日の休暇も合わせて交代だ。じゃんけん!」
「いいから、お前達ここで休め」
「いや、じゃんけんだ。そーれ……」
「アスラン!」
その時、廊下の向こう側から声が聞こえた。
「「ん?」」
「あはは」
「ミーぁ……」
ミーアと言いそうになりアスランは慌てて口を閉じる。
ミーアはデュランダルの前で止まるとお辞儀する。
「これはラクス・クライン。お疲れ様でした」
「ありがとうございます」
そう言うとミーアはルナマリアを押しのけアスランに飛びつく。
「ぁっ!」
押しのけられたルナマリアはむっとして睨む。
「ホテルにおいでと聞いて急いで戻って参りましたのよ」
「な……ミー……ァはぁ……」
「今日のステージは?見てくださいました?」
「え? あぁまぁ……」
「本当に!? どうでしたでしょうか?」
「ぁ……ああええ……ま……」
「ふん」
露骨にうろたえるアスランが気に入らなくてルナマリアは横を向く。
「彼等にも今日はここに泊まってゆっくりするよう言ったところです」
デュランダルが言う。
「どうぞ久しぶりに二人で食事でもなさってください」
「ま〜! ほんとですの! それは嬉しいですわ! アスラン、では早速席を」
アスランは引きずられていった。

 

「あーあ。アスランさんはラクスさんと食事か。いいなー」
マユがぼやく。
「しょうがないじゃない。久しぶりに会った婚約者だもん。さ、私達も食べよ?」
「しかし、ゲイルに悪いな」
レイが言う。じゃんけんは結局ゲイルが負けた。
「レイ、あんたもしっかり食べないと。あんたってほっとくと熱糧食とサプリメントで済ませそうな感じで心配なのよねぇ」
「そんな事はない。……前にもそんな事言ってなかったか? んー。じゃあ、俺はニンニクラーメン、チャーシュー抜きで」
「そんな物ここにある訳ないでしょ! コースよ。議長が頼んでってくれたんだからね、フルコース」
「やっぱりゲイルに悪いな」
「じゃあ、明日、交代の時に私が朝食弁当を何か作ってもらって持って行こう。レイ、お前は街でなにかお土産でも買ってやれ。それでいい」
ショーンが言った。
「決まりね。フルコース、楽しみー!」

 

「ねぇ、ルナ、起きてる?」
食事が終わり、ホテルの探検も済み、ルナマリアとマユは寝床に着いた。
「……うん」
「アスランさんってさぁ……」
「アスランが何?」
「ラクスさんと婚約者なんだよねぇ、悲しいよう……」
「マユ……泣いてるの? 馬鹿ねぇ」
「だって……」
「……アスランに、あの人は似合わない」
「えっ?」
「似合わないわ、絶対」
力強く、天井を見上げてルナマリアは言った。
ぎらっと、暗闇で、ルナマリアに向けてマユの目が光った。

 
 

「さぁ、ラミアス艦長」
ノイマンが眠る前のマリューに薬を持ってきた。
「ああ、いつもすまないわね。この薬がないと眠れないのよ」
「調子が悪いようですので、栄養剤を入れておきました」
「あら、ありがとう」
「では、おやすみなさい」
「はい、おやすみ」

 

ノイマンが出て行ってからしばらくたって。扉が開いた。
ラクスが現れた。
ラクスが見たのは、ベッドで目を虚ろに開けているマリュー。唇からよだれが垂れている。
「助けて、助けて、ここは地獄……寒い……」
マリューは完全なバッド・トリップに入っていた。但し故意の。今回の精神薬剤は見た目こそ違え、成分が違う。そして、通常使用量を超えた幻覚剤が混ぜられていた。
「そう、ここは地獄。あなたは逃げ惑っています。空は黒く、悪魔があなたを襲ってきます」
ラクスが低い声で言う。
「いや、いや」
マリューは、目の前を手で払うしぐさをする。
「大丈夫。上の方から光が差してきましたわ。光の天使が降りてきて、悪魔を追い払ってしまいました。その光の天使があなたを救いました。ほら、もう大丈夫」
ノイマンがマリューの汗を拭き、バスタオルで低くなった体温を保温するように厚く包む。
ラクスは、哺乳瓶から飲み物をマリューに飲ませる。チョコレートと幻覚剤の緩和剤が入った物だ。
「ああ……」
マリューは幻覚剤の作用量がちょうど良くなったのだろう。プラスに効いた時の幸福感溢れた、安らいだ顔になった。そして赤ちゃんのように哺乳瓶の乳首から一心に飲み物を吸い続ける。
「光の天使、その顔は誰でしょう?」
「その声……ラクスさん……天使はラクスさんの顔をしてます」
「そう、あなたの光の天使はラクス・クラインなのです。あなたはラクス・クラインの事を信じれば大丈夫。すべてうまくいくのです」
「はい……」
その時、ノイマンが小声で口を出した。
「ラクス様、契約どおり、私の事も……」
「ええ。これからやります」
そう言うとラクスはマリューに向き直った。
「さぁ、光に包まれて幸せなあなた。ここはあなたの結婚式です。隣にいるのはノイマン。あなたは彼の事をとても愛しています」
「え……違う! 結婚式で隣にいるのは……。違う! ノイマンじゃない! 骸骨よ! 彼は死んだわ、私を愛した彼は死んだ! モビルアーマーの中で! 死んだ! あはは! 死んだ! 私を好きだったムゥは死んだ! ローエングリンで! 跡形も残らず! 死んだ! 死んだ! あはは! 私は死に神だわ!」
マリューは暴れだした。ノイマンが押さえつける。
「恋愛の事は、まだ予想以上に心の抵抗が強いようです。続きはまたで。今は、抵抗感を弱めるに留めます」
ラクスはノイマンに言った。
「しかたありませんね」
「さぁ、全てあなたを悲しませるものは消えてしまいました。何も怖くありません。過去の恋愛は過去の事。彼らは幸せな光に包まれてあなたの幸福を祈りながら消えていきます。いつかあなたには素敵な恋人が現れます。あなたはそれを知っています。未来が見えます。あなたと彼は二人、幸福な生活をしています。あなたはただ幸せな光に包まれています。光の天使があなたを見守っていますよ」
マリューは再び落ち着いた様子で哺乳瓶の飲み物を飲み続ける。
ラクスは優しくマリューを抱きしめる。
「大丈夫。大丈夫よ。全てラクス・クラインに任せれば大丈夫……」
全部飲ませたところで、ノイマンは手馴れた様子でマリューの腕を縛り血管を浮き立たせると睡眠薬を注入する。
マリューはすぐ安らかな眠りにつく。
ラクスはマリューの身体の汗を拭いてやると、厚手の寝巻きを着せてやる。
そうして、二人はマリューの部屋をそっと出て行った。

 
 

翌朝――
「おはようございます、アスランさん」
マユは、アスランの部屋の扉をノックした。隣にルナマリアも一緒だ。
結局けん制しあいながら二人でアスランを迎えに来た。
「お目覚めでいらっしゃいますか? よろしければダイニングにご一緒にと思いまして」
「ぁぁあーあー、ぇっと……えぇ? ぁ……」
扉の向こうから焦ったような声が聞こえる。
「アスラン?」
ルナマリアも声をかける。
「あ……ああ!……え? ぁあこら……」
扉が開いた。
「「ぁ……」」
そこには、下着姿のラクス・クラインがいた。
「ありがとう。でもどうぞお先にいらしてくださいな。アスランは後からわたくしと参りますわ」
「ぁぁ……」
「え……あぁの……ぇ……ぁはい…………」
ルナマリアとマユは黙って閉じられていくドアを見つめるしかなかった。

 

「うーんふふ」
「どういうつもりだ!」
アスランはミーアに怒鳴った。
「え? だってあの子……」
「あの子じゃない! 一体どうして! いつ! 何でこの部屋に……」
「うふふ、お部屋に行くって約束してたのに寝ちゃったみたいってフロントに行って……」
「はぁ?」
「そしたらほんとに寝ちゃってるしぃ」
「あー、だから何でこんなことするんだ! 君は!」
「え? だって久しぶりに婚約者に会ったら普通は……」
「ラクスは、そんなことはしない!」
「え?」
「……」
「しないの? 何で?」
「……」
アスランは沈黙する。
いきなりミーアの両肩を掴むとふいに湧き上がった乱暴な感情のままベッドに押し倒す。
「え? ちょっと!?」
ミーアが狼狽した声を上げる。
それにかまわずアスランはミーアに唇を重ね、塞ぐ。
右手でミーアのふくよかな乳房をもみしだく。
「……ぁ」
ミーアが洩らしてしまったと言う様に小さな声を上げる。そして、ミーアの身体から力が抜ける。
アスランはその動きで我に返ったかのようにミーアから身体を離す。
「……ぁ……え?」
「くそっ! だめだ! 掲示板のみんなを裏切る事はできない!」
うろたえるミーアの声を後ろに聞きながら、アスランは壁に拳を叩き付けた。
やっぱり違うのだ。ラクスとは……。
右手に残るラクスではありえない、ふくよかな乳房の感触が、残酷にもその事実を告げていた。
実はアスランは某掲示板ではフラット派の大物だった。
自作のつるぺた少女のイラストを貼りまくったりもした物だ。ハロから定期的に送られてくるラクス・クラインの隠し撮り写真を巧妙にコラージュに見せかけて貼り、「ネ申」と崇められた事もあった。
だが、あの感触は……。くそう、理想は現実の前に斯くも脆いと言うのか!?
「巨乳なんか……」
つぶやいたその声は弱々しかった。
アスランは今まで築き上げてきた自分が崩れ去るかのような恐怖感を感じた。
人生で最大の恐怖だった。

 
 

「調子、悪そうね、どうしましょう」
おろおろと、ラクスがカガリに声をかける。
カガリは壁に手を着きながらゆっくり歩いていた。身体がつらい。身体中の関節に走る疼痛。発汗している。しかし熱いのか寒いのかわからない。吐き気もする。
おそらく、離脱症状。
身体のつらさから、カガリはラクスに渡された痛み止めは、ラベルだけは医療用薬剤でその実、ヘロインを強化した物を投与されたのではないかと疑っていた。
当たり前だ! お前が盛ったモルヒネのような物の効果が切れたんだよ!
そんな心の声はカガリは口に出さず。
「あ、ああ。今日、ちょっと女の子の日の前兆らしくてな」
と壁に手を着きながら答える。
「まぁ!」
ラクスの表情が明るくなる。
「わたくしも重い時があって、でもノイマンがいい薬この艦には揃えてあるって! わたくしもすぐに回復しましたのよ! すぐ持って来させましょう」
「い、いや……」
……ためらうカガリをよそに、薬はすぐ持って来られた。
なんだ、これは。またモルヒネのようなもんじゃないのか?
持って来られたのは粉剤だった。
これでは後から、それらが何か調べる事も出来ない。
「さあ、飲んでくださいな」
薬を差し出し、邪気のない顔でラクスが笑う。
「あ、ああ……」
一回ぐらいなら!
覚悟を決めてカガリは飲み干す。
身体のつらさがすーっと消えていく。頭が冴えて行く。
これは……モルヒネじゃない! いや、モルヒネも入っているかもしれないが別の何かだ! しかし。
「ああ、楽になった。疲労がポンと取れたようだ」
思わず声が出た。
「うふふ、よかった」
ラクスが笑う。
「それを、食事毎に摂って下さいな。ああ、それから……」
ラクスが言った。
「食事毎にこれを飲んだ方がいいですわよ」
渡されたのは、酸化マグネシウムの顆粒包装一束だった。
一瞬にしてカガリの気持ちは冷やされ、カガリは背中に冷や汗をかいた。
カガリは知っていた。それが下剤だと言う事を。
そしてヘロインなどアヘンの仲間の副作用は便秘だと言う事を。

 

ラクスと別れてすぐ、カガリはトイレへ駆け込んだ。
そして飲んだ物すべて吐いた。水を飲んで更に吐いた。
もう薬物の成分は身体に吸収されてしまっているかもしれない。
無駄な行為かもしれない。
だが、カガリは吐いた。胃洗浄くらい吐いた。
身体がつらい位なんだ! 耐えてやるさ! ラクスになんか負けはしない!
涙と鼻水を流しながらカガリは誓った。
便秘は嫌だったので一応酸化マグネシウムは飲んでおいた。

 
 
 

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