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Last-modified: 2009-04-24 (金) 18:17:01

地球の人々が覚悟を決めたその時――
その時――地球に住む全ての人々の頭に、『声』が響いた――
『みんな! 少しずつでいい、地球を救うためにワシに力を貸してくれ! 祈ってくれ!』

 

「神様! まさか!?」
テレビ等の宗教説教番組で、その声に常日頃から馴染んでいたエドワード・ハレルソンは、驚きと共にすぐさま胸元から十字架を取り出し、ひざまづくと祈りだした。
ハレルソンの周囲の人々も次々にそうしている。
日本の麻生総太郎首相もひざまづいてロザリオを取り出す。
『声』に応じて祈りを捧げる人々は、南米に、イタリアに、フランスに、アイルランドに――そして全世界へと広がっていった。
全ての人々が、その『声』に一筋の希望を見出し、祈った。

 

そして――イタリア、ローマ――バチカンに、一点の染みの様に黒い点が出現した。
それは、見る見る内に広がり、地球を包み込み、黒い球になると、地球に落下してくるプラントを粉砕・消滅させながら、宇宙へと拡散した――

 

「やったか……」
――老魔法王ベネディクトは力を使い果たしてばったりと倒れこんだ。
その眼前に、ふいに影が射した。
「貴様か……マルキオ! いやさ、這い寄る混沌――ナイアルラトホテップ!」
マルキオと呼ばれたその男は、静かな雰囲気をたたえ、その閉じられた両眼でベネディクトを見下ろしていた。
「……人の身でここまでやるとはな」
感慨深そうにマルキオは言った。
「……なぜ、邪魔をせんかった? この混乱はお主がもたらした物だろうに」
「いや、私にも予想外だったよ。人類が滅びそうになると言うのはね」
マルキオは、いや、ナイアルラトホテップは言った。
「こうなったら、自らの力を持って人類滅亡を防がねばならんかと思った位だ」
「……お主がそんなに人類に対して優しいとは思わなかったな」
「何、人間は面白いからね」
ナイアルラトホテップは嗤った。
「滅びてしまっては、私がつまらないだけさ。……だいぶ苦しそうだな」
「ダーク・ギャラクシー・エンド――生命と引き換えに全てを破壊するエネルギーを放つ技だ。さすがにこのワシも、そろそろおさらばじゃ……さらばだ、ナイアル……」
ベネディクトの声が小さくなってゆく。
「そうか。じゃあ、おさらばだ、友よ。まったく君は大したものだ。まさか人間風情にこれほどの芸当ができるとは思わなんだ。君こそは真の天才の名を冠するにふさわしい存在だ。 だが……残念だ、もはや二度と会うことはできんとは。いかに君が希代の人物とはいえ所詮は人間。これで死ぬか。……もう一度君と矛を交えてみたかった物だが……何にせよ、それは叶わぬ望み……君に敬意を表し、君が守ろうとした人類がもう少し復興するまでしばらくは大人しくしてやるよ……面白かったよ……本当に……」
その声はまるで泣いているように聞こえた。

 

その時、その空間が霧がかかったようにぼんやりとし始めた。
そこに、いきなり三人の人影が登場した。
「タイムパトロール、両澤千晶よ!」
「同じく、福田己津央だ! 時間犯罪を目論んだ罪によりおとなしく両手を上げて……」
「動くな、フリーズ……あ……」
タイムパトロール、竹田菁滋は見てしまった。マルキオの閉ざされた眼が開くのを。
いきなり銃を構えて登場した彼らは、彼らは見た。マルキオの閉ざされた目が開いてしまうのを。
マルキオの炯炯と紅く光った目に言葉を失い、彼らは身体のコントロールを失った。。
「友との別れの最中だと言うのに無粋な……。己の次元世界の歴史のみを正しいと信じ込み、他の次元の歴史を一方的に改ざんする愚か者どもよ。その驕りにふさわしい結末を用意してやろう。次元世界の狭間には、お前らが想像もしないような化け物がいる事を思い知らせてやる!」」
「おぅ! 身体が!」
「助けてくれ!」
「いやーーー!」
マルキオの言葉とともに、タイムパトロールと名乗った三人の身体が、変形していく。
「心配するな。君らの同僚も同じようにしてやる」
マルキオの声が冷酷に嗤う。
そして、ふいに、もはや言葉すら発せられない名状しがたき形態に変わった三人が部屋から消える。
しかし、今後彼らの心配はする事はないだろう。これから三人は、三人をサポートしていたタイムパトロールの同僚共々、人間とは似ても似つかぬ姿に変わり、おぞましきものへの供物として奉げられるのだから。

 

「うわぁー! なんだ!?」
次元の向こうで上げられる悲鳴をマルキオは聞き取った。
マンス・エヴァラードが、ヴィンス・エヴェレットが、ジュリ・ムギンガが……。己の歴史のみを正しいと信じ込み無数に分岐した平行世界の存在などしらず、多々の次元世界の歴史をねじ曲げその流れを途絶えさせ、思うがままにしてきた傲慢なるタイムパトロール員達が次々におぞましい姿に変えられていく。

 

「さぁ、邪魔者は消えた。友よ……。逝ってしまったか」
マルキオはベネディクトを抱え、仰向けに寝かしつけ、クロスを持たせた両手を胸の前で組ませてやる。
「さらばだ」
其の声が途絶えた時、出現した時と同様に、一瞬にして人影は消えた。

 

「猊下! 猊下!」
ドアを叩く音がする。
「あ、開いたぞ!」
入って来た者達は、寝かされているベネディクトを発見した。
「猊下!」
彼らは慌てて駆け寄る。
……ベネディクトの脈は永遠に止まっていた。だが、その顔には静かなる微笑を湛えていた。
「猊下は、地球を救ってお亡くなりになったのだ。皆、その事を忘れるでないぞ」
そう告げたベルットーネ枢機卿の頬に、涙が止め処なく流れた。

 
 

『こちらは、ザフトのフェイス、アスラン・ザラである。一時的に全軍の指揮を取る事を宣言する。戦闘は終結した。無事な艦、救命艇はL5宙域、アプリリウス1跡に集結せよ。余裕のある艦は救命行動に当たれ。繰り返す。こちらはアスラン・ザラである……』
生き残ったザフトの者達は皆、パトリック・ザラの息子、アスラン・ザラの名を覚えていた。この事態に、どうしたらいいのかわからないままだった彼らは指示してくれる者を得、行動を開始した。
同時に、アスランの呼びかけに答え、地球軍第3、5、6、8艦隊が軍事ステーションより進出。生き残ったザフト軍と協力して救命行動にあたる事になる。
この戦争が終わった事を感じさせる光景であった。

 

「じゃあ、後は任せた」
服部はコバヤカワヒデアキの忍者SPクルーに言った。
服部が鍛えた、少ない人員で艦を操れる忍者SPは人員の少ないラクス軍の貴重な要員として強奪した各艦に配属されていたのである。
「ええ!?」
副長は驚いた。
「どうするんですか?」
「面倒な事にならん内におさらばさせてもらうよ」
そう、服部には戻らねばならない場所があるのだった。

 
 

地球上で異変に気づいたのは車を運転していた一人の少年だった。
『……政府の指示に従って……危機は去りました! 落ち着いて政府の指示に従ってください!』
「まさか! 周波数417がこんなに遠くで聞こえるなんて!」
少年は驚いた。
周波数417は少年がよく聞いているコミュニティラジオ局のチャンネルだった。エイプリルフール・クライシスからこっち、かなり基地局の近くへ行かないと聞こえなかったのに……
「もしかしたら!」
少年は興奮してダイヤルを回し始めた。
「聞こえる! ここも! ここも!」
全世界で、同じような喜びの声が沸き上がった。
そう、ダーク・ギャラクシー・エンドが地球を包み込んだ時、すべてのニュートロン・ジャマーを破壊していったのである……

 
 

プラント地球落下未遂事件から一ヵ月後。
ジブリールは再び、ロゴスの面々と会合をしていた。
今回の議題は、プラントの生き残りをどう処分するかだ。
「100万か」
「ええ、プラントの生き残り、約100万人」
そう。プラントの生き残りは100万人まで数を減らしていた。残りは砕け散るプラントと共に宇宙にその命を散らしていた。若い者が多いのが幸いと言った所だろうか。
「……ずいぶん減ってくれたが、今更皆殺しと言う訳にもいかんかな」
「しかし、まさかアイリーン・カナーバがとはな。しかし、アイリーン・カナーバとラクス・クラインの最後を世界に発信したのは誰だったのだ?」
「さぁな」
それは、情報屋ルキーニの仕掛けだった。特定方向へのみデータを発信するはずが、故意か否か、アイリーンとラクスの会話を全方位で発信したのである。
ちなみに、映像の最後はレクイエムの光に包まれて終わっていた。
「ともかく戦争犯罪者は収監するとしてあとはどうする」
「どこかに隔離してしまえ!」
「ユダヤ人のようにマダガスカルとかか」
「馬鹿な! あんな大きな島を奴らにくれてやるなど!」
「再教育して社会に戻す、と言うのは? ほら、ブーステッドマンに使っていた揺り篭。あれで記憶操作して……」
「国民が許さんよ。そんな金と手間があるならブレイク・ザ・ワールドの被害救済に使えとな」
「IMF管理になっている半島国家がありましたな。借金を棒引きにしてやると言う事で、押し付けてしまうのは? 100万位人口が増えても大丈夫でしょう」
「そう言う訳にも行くまい。人口2000万で人類を滅ぼすような事を3度も出来たのだ。奴らと一緒にまとめておくなどとんでもない! どんな化学反応が起こるか!? どんな大火事が起こっても知らんぞ?」
「我が国としてはごめんこうむりたい。絶対。とにかくやめて! 頼むから! 大陸と半島だけで充分なんだよ!」
日本の財界代表が喚いた。地球連合の運営資金16%を拠出している日本の声は無視できるものではなかった。
「では、こうしたら如何です?」
ジブリールは口を挟んだ。
「家族単位で、世界各国へ散らばせるのです。公式にはコーディネーターと言う事は秘匿させます。そうして常に動静を監視させます。なに、1世代も経てば純粋コーディネーターの数なんて激減しますよ。そうしてコーディネーターをナチュラルへと帰還させるのです」

 

プラントの生き残りは地球連合の提案を受け入れた。
受け入れざるを得なかった。
地球連合はこの度のプラントコロニー群の地球への落下未遂事件に対し、情報を一切隠し立てしなかった。
自分達の評議会議長――アイリーン・カナーバが為した暴挙を知るに、プラントの生き残りの者達は反抗する気力も失っていた。
もう一つ。自然とプラント生き残りのリーダーの役割を果たすようになっていたアスラン・ザラが地球連合の提案を受け入れる姿勢を示したのも大きいだろう。

 

一ヵ月後――
二人の客を乗せた船が桟橋に着いた。
「本当にいいのか? 君はオーブ国民として生きる事も出来たはずだ。一生監視されて生きるなど……」
アスランはルナマリアに尋ねた。
「いいのよ。私はあなたと一緒がいいの! 私、どの道一人ぼっちだから」
ルナマリアは両手を広げるとくるりと回って微笑んだ。
「それに、いい所じゃない? このプリンスエドワード島って!」

 
 

「これで……終わったのかな?」
カガリは信じられないように呟いた。
「そうだねぇ。プラントもきれいさっぱり無くなっちゃったし」
ユウナが、のんびりした口調で答えた。
「だけど、はじまりは今、だよ。オーブがはじまるのは。忙しくなるぞぉ! 大西洋連邦もユーラシアも、まずはこの戦争で受けた被害を立て直さなきゃいけない。人類の宇宙開発はオーブの双肩にかかっている」
「ヘリオポリス、再建しないとな」
「ああ、一基だけじゃない。いっぱい作ろう。ヘリオポリスと言う大仰な名前も変えよう。そう、ビレジがいいな、うん。一歩一歩着実に進む感がある。もう、呼び方も決めてあるんだ。住所は、ルフトアイステイ――アレクタウ――ヘリオビレジ。それにマクティービレジも作るぞ。そしてベルビレジ、ベツレビレジ……」
空を見上げてしゃべるユウナの顔を見て、カガリは微笑んだ。
「ああ! それから! やっとかなきゃいけない大切な事があった!」
「ん? なんだ? ユウナ?」
ユウナはカガリに正対するとひざまづいた。
「そう言えば、ちゃんと申し込んだ事がなかったね。……結婚してくれ、カガリ。人生を共に歩んで欲しい」
カガリの頬が赤く染まった。

 
 

「……と、言う訳だ」
あの戦いで辛くも生き残ったマリューとバルトフェルドはカガリの前に出頭した。
マリューはドラッグの禁断症状でだいぶ苦しんだらしいが。いや、今でも苦しんでいる。治療は一生続くかもしれない。
カガリとて、時々フラッシュバックが襲い、完全に回復したわけではないのだ。
カガリの机の前で全てを話し終えたバルトフェルドは清々した顔をした。
「カガリさん、例え、洗脳されていたとしても、知らなかったとしても私にも罪はあるわ。謝って済む問題じゃないのはわかっているけど。本当にごめんなさい」
マリューは深々と頭を下げた。バルトフェルドも頭を下げる。
「銃殺されても文句は言わんよ」
「……」
「……」
「…………長期休暇でリフレッシュできたか? マリア・ベルネス」
「え?」
長い沈黙の後、カガリが発したのはマリューの思いもよらない言葉だった。
「さっさと工廠へ戻れ。工廠長が怒っているぞ。ああ、無断の長期休暇の分の給料は出ないからそのつもりで」
「ああ! カガリさん!」
「ところで、アンドレイ・バルアミー」
カガリはバルトフェルドの方へ顔を向けた。
「へ? 俺の事?」
「他に誰がいる。オーブでは今度宣伝省を作る事になってな。ポストに空きがある。広告はお前の専門だろう? そこで働け。人間暇を持て余すと碌な事を考えないからな」
「痛い所を突くなぁ。だが、いいのか? それで?」
カガリは無言で頷いた。
マリューとバルトフェルドは頭を下げると、部屋を出て行った。
後年、バルトフェルドはリディアと言う子役をめぐってラドモーズと言う男とちょっとした騒動を引き起こすのだが、それはまた別の話である。

 

「……」
二人が出て行った執務室に、ユウナが入ってきた。
「あれでよかったのか? ユウナ?」
「いいさ。オーブにとって人材は宝だ。使える物は使わなきゃぁもったいない。きっと生きていたら父もそうしてたよ」
「そうか……お前がいいなら、いいんだ」
カガリはほっと溜息をついた。
飛行機かなにかの飛ぶ音がする。
二人は、誘い合わせたかのように、窓から高い空を見上げた。
オーブ近衛軍の機体だった。

 

「さあ、今日の訓練も終わりだ」
「はい!」
ガルドの言葉にサースが答える。
「明日も頼むぞ、相棒」
ガルドは頼もしそうに飛行ユニットをつけたシャペリンを見上げつぶやいた。
オーブ近衛軍は、本土防衛軍とは別に、完全にカガリ一人に忠誠を誓う部隊だ。救国軍事会議のクーデターがそうさせた。粛清のリストはいまだ粛々と消化され続けている。
相対的にガルド達の地位が上がっている。サースの望み、家の再興も、そう遠くはなさそうだった。
近衛軍は、度重なる実験の後、シャペリンを主力機種に選定した。但し、デチューン物である。偽装ではなくデチューン物を設計しなおしたのには、情報の秘匿と言う訳がある。
もっともデチューンされたと言っても最新鋭のビームシールドを装備し、大気圏はストライカーのように飛行ユニットをつけなければ飛行できない……とは言ってもその性能はすばらしい物だったが。
最も近衛軍で主力として考えられているのはライセンス生産されたユークリッドだろうか?
そして、一般オーブ軍の主力機はあくまでムラサメである。
オーブ本土奪還戦に使われた各種新型モビルスーツ達はアメノミハシラに封印されている。
何故か。それは三ノフスキー物理学による三ノフスキー・イーヨ・ネス湖型熱核反応炉を初めとする各技術。それによるオーブの地位の向上を狙ったのである。
但し、今、世に出すのは得策ではないとカガリ達は判断した。
オーブが、宇宙に再び拠点をを築き、他国と肩を並べられるだけの国力を得、三ノフスキー物理学を完全に使いこなせるようになれば、その時初めて、宇宙での覇権を確立するために世に出す予定だった。

 
 

「あーあ。アスランとルナはカナダに行っちゃうかぁ」
マユはぼやいた。
「いいのぉ? アスラン、狙ってたんでしょう? 僕も義兄さんって呼びたかったのに」
「いいのよ。あんなキスシーン見せ付けられちゃあねぇ」
ルナマリアがブリッジに入った後、マユも送れてブリッジに入り、濃厚なアスランとルナマリアのキスシーンを見せ付けられたのだった。
「ま、私ならいい男もいくらでも捜せるってもんよ!」
「おい、マユ・アスカ」
「あ、ハイネさん」
「俺の、連絡先だ。よかったら連絡してくれ! じゃあな!」
そう言ってメモを渡すとハイネは去って行った。
「……お姉ちゃん、顔赤いよ? 惚れっぽいんだからもう!」

 
 

「俺も早く成長したいものです」
レイはクルーゼに言った。
「死なない事ができるとなると、気が焦る。前は、死など怖くなかったのに」
クルーゼは、地球連合に対し、自分が先の戦役で地球連合のスパイであったと主張したのである。その発言は確認され、先の戦役でクルーゼがニュートロンジャマーキャンセラーの情報を地球連合に流した事が非公式に評価され、自由の身となったのである。レイも、クルーゼが保護者となる事で自由の身となった。
だが、クルーゼはポーの町に帰る事を避けていた。十字架や聖書は慣れる事である程度苦手を克服できるが、十字架そのものよりも、それに込められた信仰が彼らにとっての脅威となるからである。プラント落下時の奇跡によって、フランスはカトリックの力が強くなっていた。
「そう焦るな」
「しかし、便利ですね。『バンパネラ』と言うのは」
「まぁ、一所に長く留まれないのがやっかいだが。また仮面でも付けるか? はは。嫌になって死のうと思えば死ねるしな」
「俺が大きくなった時には、ポーの町のバラはさぞ増えている事でしょうね」
「ああ。だが……カトリックの力が強くなって行きにくくなったな。……そうだ! 東アジアにでも行くか? そこの奥地で桃源郷のようなバラの園を作るんだ。そしてバラだけで生きるんだ。ロマンチックだろう?」
夢見るようにクルーゼは言った。

 
 

「いやよ、嫌! あなたが死ぬなんて!」
タリアは泣きわめいた。
「しょうがないさ、誰かが責任を取らねばこの世界は収まらん」
強化プラスチックの向こうで、デュランダルは静かに微笑んだ。
戦後、デュランダルは軍事裁判を受ける事になった。
ユニウス条約後のプラントが真っ先に作った新規コロニーが農業用でも工業用でも資源採掘用でも新規移民用の居住用でもなく、軍事兵器生産コロニーだったという点、運用環境が地球環境である新型量産機・局地戦対応型(ガイア、アビス、セイバー)の開発、幾らでも保有数のごまかしが聞く機体(インパルス)の開発、対核攻撃迎撃用兵器の開発、ジェネシスの改良、月軌道への要塞建造、大気圏突破可能なモビルスーツ運用艦、ユニウス7落下にまぎれた都合の良すぎる潜水艦基地(ラガシュ基地)降下、etc……
デュランダルは、ユニウス7落下及び今回の戦役の発端に責任ありとして死刑を宣告されたのだった。
「せっかく、せっかく傷が治ったのに、なんで死ななきゃならないのよ……地球連合は殺すためにあなたを治したって言うの!?」
「……ジェイクの事をよろしく頼む。おかしなものだな。すっかり自分の息子のようだ。強い子に育ててくれ」
「さぁ、時間だ」
係員はタリアの退出を促した。
タリアはあふれる涙を抑えながら部屋を出て行った。

 

「目隠しはいるかね?」
「いらん」
「そうか」
壁の前に立たされたデュランダルは、前方の銃を構えた地球軍兵達をまっすぐ見つめた。
――銃声が立て続けに響き、彼はその場に崩れ落ちた。
ふいに地球軍兵達がざわめく。
不思議な事に、デュランダルのその骸は霧となって、跡形もなく消えていたのである……

 
 

「ああ、そう言えばラミアス艦長っと、この呼び方も変えなきゃいけんか」
「そうね。ふふ」
オーブに帰ったマリューとバルトフェルトは、カガリとの会見の後、また一緒に暮らしていた。
マルキオは行方不明だったが、また、その邸宅を与えられている。子供達も帰ってきていた。
カリダ・ヤマトも釈放され、ハルマ・ヤマトも回復傾向にあり病院を退院していた。
「マリア、どうだろう?」
「……ああ、私の事ね。何が?」
「新しく人生をやり直すんだ。お互い過去にこだわらなくても、そろそろいいんじゃないかってね」
「……?」
「ええと、つまりだな、その……」
バルトフェルドは言いよどんだ。
「僕は君をだましていた立場だし、生活人として欠けたところもあるし、その他にも欠点だらけだし、いろいろと顧みてこんなことを申し込む資格があるか疑問だし……」
色々言い訳じみた事を言った後、バルトフェルドは勇気を振り絞って言った。
「要するに……要するに、結婚してほしいんだ」
バルトフェルドの顔は赤らんでいた。
ふふ、とマリューは笑った。
全てを赦したい気になっていた。全てを受け入れたい気になっていた。薬のフラッシュバックだったのかも知れない。
だが、マリューはそれらを含めて赦した。受け入れた。
「ええ、いいわよ」
二人の影が、重なっていった。

 
 

「お前さん、まだ落ち込んでるのか」
ジェスがミリアリアに聞いた。
「んー。なんか、アークエンジェルの雰囲気変ったのは感じてたし。元々ラクスさんは昔からの知り合いじゃなかったし、ノイマンさん以外はアークエンジェル乗員も助かったし、なんて言うのかな? キラが死んだ事にこれほどショックを受けてる自分にショックを受けてるのよ。キラの事、それほど、どうでもよかったし」
「ん……複雑だな」
「私……意外とそんなにキラの事好きだったのかなって。トールに比べれば、ディアッカも小さく思えた。どうでもいいやと思った。なのに何でよ、キラごときに」
「さぁな。恋愛以外でも好きってあるだろう? さぁ、次の取材場所行くぞ。仕事に集中で忘れろや。俺やカイトなんかなぁ、何度失恋したか……」
ジェスは失恋した昔話を面白おかしく話しながら、バックホームにミリアリアを乗せて、アウトフレームを立ち上がらせる。
「ジェス……」
「ん?」
「ありがとね……」
「いいって事よ。……付け込む様で悪いが、俺、最初に会った時から、気になってた。お前の事好きみたいだ」
「ふふ。ありがとう。私もあなたの事、最上級 I like you よ」
「なんだそりゃ。liveじゃないって事は振られたって事か? はっきり言ってくれ」
「ふふ。恋人でもなくて、友達だけでもないわ。ただ守っていたいの。失くしたくない」
「恋か?」
「違うわ。あなたが悲しい時、どこにいても、私、祈るわ。あなたが嬉しい時、どこにいても私、必ず喜べる……。恋ってはじまった瞬間から終わりに向かうでしょ?」
「ああ」
「だから、いつか二人が愛を語れるようになるまで。『最上級 I like you』よ」
これじゃまるで恋じゃなくて愛の告白じゃないか……
ジェスの頬は紅潮していた。」

 
 

日本――三重県・伊賀忍者村――
「あー!」
受付の女性職員が大声を上げた。
「村長! どこへ行ってたんですか!」
「え、村長?」
その声を聞いて他の職員も集まってきた。
「ほんとに?」
「ほんとに村長だ!」
「ははは。みんな元気だったか!?」
服部正吾は大きく手を上げた。
「客の入りはどうだ? ちゃんと忍術の修行はしてるか?」
「たまに金持ちの道楽者が来るぐらいで……赤字ですぅ」
「まぁ、このご時世だからな。だが! きっと今に娯楽が必要とされる時代が来る!」
「そうですよね!」
「忍者が受ける時代が必ず来ます!」
「実はな、ちょっと出稼ぎしてきたんだ。当分金には困らないぞう!」
そう言って服部は片眼をつぶった。
「ほら、忍者村の口座の残高証明書だ!」
「わぁ、こんなに!」
「これで忍者村はあと十年は戦える!」
「はっはっは。伊賀忍法に不可能はない!」
服部は胸を張った。

 
 

「スウェン、これからどうすんだ?」
シャムスが聞いた。
「ん。DSSDに行こうと思ってる」
「げ。難しいんじゃなかったか? あそこ? 確かナチュラルだと7年勉強しなきゃなれないとか……」
「贅沢をしなければその位食えるさ。夢のためだ」
結局スウェンはネオ・ロアノークのコネですぐにDSSDの警備員に採用され、そこで勉強をしながら正規職員を目指す事になる。そこでセレーネ・マクグリフと言う女性と運命的な出会いをするのだがそれはまた別のお話である。

 

「なぁ、ミューディー。お前は、これからどうすんだ?」
「うーん、軍縮で解雇って言われてもねぇ。コーディネーターにも勝っちゃったし気が抜けちゃった」
「じゃ、やる事無いんだな?」
「うん」
シャムスはニヤリと笑った。
「じゃあ、俺を手伝えよ」
「ん? 何かやんの?」
「プールバーを開こうと思ってさ。ちょうど人手が足りなかったんだ」
シャムスが開いたこのプールバーは、シャムスが趣味に走り過ぎそうになるとミューディーがストップをかけるという具合で、それなりに繁盛しているようである。

 

「なんじゃ、デイカーか」
大官寺はつまらなそうに言った。
「あちゃー! せっかくの休暇に大官寺艦長に遭うとは!」
デイカーは額に手を当てて嘆く。この人と出会うと、とんでもない事になる方が多かったのだ。
「あちゃーとはなんじゃい! 上官に向かって! お、おぬし、面白いもんもっとるのう?」
大官寺はさっと手を伸ばしてデイカーの持っていた小さなナイフの鞘を抜く。
「あ、ちょ!」
「な、なんじゃ!」
大官寺が鞘から小さなナイフ『暁の剣』を抜くと、それが光りだした!
そして――その光が消えた時、大官寺とジョン・デイカーの姿はこの世から消えていた。
「……ここは、どこだ?」
「いや、私にもさっぱり……」
ジョンが目覚めた時目にしたのは、まったく見知らぬ光景である。いつのまにか手には黒い剣を握っている。父からもらった小さなナイフ『暁の剣』はどこに行ったのだろう? 見当たらない。
「まぁいいわい。ほれ、行くぞ!」
「お、驚かないんですか〜!?」
「馬鹿もん! いちいち驚いてなんぞおれるかい!」
この後、ジョン・デイカーはエレコーゼと言う名前をはじめ様々な名前を持ち、数々の異世界を冒険するのだが……なにしろ大官寺も一緒なのである。
英雄的な冒険譚になるはずが、デイカーはどこの世界に行っても大官寺のわがままにため息をつきながら付き合う羽目になるのだが、それはまた別のお話である。

 

ナイトハルト・ミラーは戦後、その腕を買われてモビルスーツの教官になる。
ミラーの戦方は防御を最優先にしてまず自分が生き残る事、そして相手が隙を見せたら一気にそこを突く事である。
海賊対策にも出撃した。ある時は相手の数に圧倒され、次々に乗機を壊される事になるが、ミラーは乗機を取替え戦闘指揮を取り続け、とうとう戦闘を勝利に導いた。
この事から彼は『鉄壁ミラー』と言う異名を尊敬を込めて呼ばれるようになる。

 

原田左之助は戦後も軍に残り、最終的には一艦を率いる中佐にまで出世した。但し、自分で出撃をする癖が治らず、ネオ・ロアノークの弟子と言われた。
29歳で退役。その後の消息は不明。
ただ、後年、動乱の東アジアを訪れたジェス・リブルとミリアリア・ハウが原田左之助と名乗る馬賊の頭目と出会っているが本人であるかは定かではない。

 

「あなた達は火星に帰っちゃうのねぇ。なんか寂しいなぁ」
まほりんはナーエにぼやいた。
「私もですよ、まほりん。でも、約束しましょう。アグニスは責任ある立場ですのでどうかわかりませんが、私はまた必ず地球に来ますよ? あなたに会いにね?」
「本当?」
「本当ですよ。ところでまほりんはこの後どうするのですか?」
「ん。退役して、医科大学に行くわ」
井沢真秀はその言葉どおり、退役後、医科大学に進学、卒業後は日本の総合病院に脳外科医として勤務する。
そして、2年後中学生の時から付き合っていた12歳年上の恋人、貴志優介と結婚する事となる。
その婚礼の席には火星からの使節団として地球を再び訪れたナーエの姿もあった。

 
 

ショーン・ホワイトは戦後、世界各地を放浪し、日本に落ち着いた。そこで偶然出演した『ウノレトラマンマックス』と言う作品で日本DASH唯一の外国人隊員として、英語と日本語が入り混じった妙な言葉を喋り、主にメカニック・装備開発を担当して、糸のこぎりとハンマーで戦闘機を修理する脅威の腕を持つと言う役をこなし、それなりに俳優として人気が出たようである。

 

ゲイル・リバースはニュージーランドに渡り、傭兵、工作員、経営者、作家と様々な仕事を経験した。最近は傭兵を引退し、航空輸送会社の経営、および特殊用途用の武器販売を手がける。 著書は日本語訳もなり、それなりに人気が出たようである。

 
 

ネオ・ロアノークは戦後、ジブリールによってムウ・ラ・フラガとしての記憶を戻された。
ネオは戻った記憶を落ち着いた態度で受け入れた。
そして真っ先に知りたがったのはかつての恋人、マリュー・ラミアスの事であった。
ジブリールからマリューがバルトフェルドと結婚した事を知らされると、20本のウイスキーを抱え込んで部屋に閉じこもった。皆が心配したが、3日後部屋から出てきた時は、いつもと変わらぬ態度であった。

 

「ねぇ、私の作ったサンドイッチおいしいですか?」
「ん、うまいよ」
「良かった! 私挟む物は得意なんです」
「ふむ」
そう言いながらネオは書類をめくった。
「ほら、食べながら書類見てたら汚れますってば。食べる時ぐらいゆっくりなさったら?」
「むぅ」
ネオは椅子を横に回すと、書類を汚さないように、食べる。
その様子をアンネローゼはにこにこ見つめている。
記憶が戻ってからのネオはまるで仕事場が憩いの場であるかのように仕事に精勤している。
それに付き合って副官のアンネローゼもネオの元に日参する事になる。
だが、二人がくっつくのはまだ先になりそうだった。

 
 

戦争が終わってから一年後、ジブリールとセトナは結ばれた。
この時初めて、セトナが火星人(マーシャン)であると知った者も多かった。
「お兄様……いえ、もうお兄様じゃありませんわね? ええと、あ、あなた」
セトナは頬を赤らめた。
「いいよ。好きなように呼んでくれ」
ジブリールは微笑んだ。
「はい。でもアグニスに結婚式に出てもらえなかったのが残念ですわ。仕方の無い事ですけど」
そう言えば、宇宙の各地にビームの拠点を作ってそのビームを宇宙船の帆で受けて進む計画があったな、とジブリールは思い出した。あれなら相当火星と地球との往復時間を短縮できるはずだ。確か3ヶ月で往復できるんじゃなかったか?
資金がかかりすぎると言う事で否決したはずだが……
やってやろう。セトナのために。ジブリールは心に決めた。

 
 

……プラント落下事件からちょうど3年が経つ。
人々は、奇跡が起こった事に感謝し、教会で祈りを捧げる。カトリックでない人も、家々で祈りを捧げる。

バチカンでは、前戦役の犠牲者を追悼する儀式と共に、死後一向に腐敗の兆候を見せない前老魔法王ベネディクトを正式に聖人に加える儀式の準備で奇妙な活気に包まれていた。
「見えますか、アナキン。あの星々が」
儀式を抜け出してきたアンデルセンはアナキンに語りかけた。
アナキンは無言で頷いた。
「ベネディクト猊下の行きたがっていた所です。いつか、我らはあの星々に満ち、正しき教えを広げ、そして……」
ふいに込み上げてきた感情が、言葉を止めた。だが、アンデルセンの思いはアナキンにも伝わってきた。
アナキンは、満天の星空を振り仰いだ。

 
 

「あなた、手紙よ」
ルナマリアが一通の手紙を持ってきた。
宛名は、アスラン・ホーク。
アスランは、知られすぎているザラ家の名前を名乗る事を遠慮し、ホーク姓を名乗っている。
「ん……。へえ! 懐かしいなぁ。ジブラルタルで会ったケビン・ラッドさんからだ」
ケビンは地球への移住の際、アスラン達と同じ、カナダに割り振りされていた。
プラント崩壊から5年、元プラントコーディネーターへの締め付けも緩み、ケビンは移住した土地の市会議員になっていた。
アスランは手紙を開く。
手紙には、近況とアスランに、引きこもっていないで政治の世界に進むように勧める文章が連ねてあった。
「引き篭もっているつもりは無いんだけどな」
アスランは苦笑した。アスランは地元の青年団の団長を引き受けていた。プリンス・エドワード州の議員にならないかと言う誘いもある。

 

夜になり、アスランは返信の筆を取る。

あなたは一年で、つるはしと三本の鍬だけで七畝ほどの荒地を開墾する事ができますか?

それは僕達宇宙育ちからみればとんでもない能力なんです。

でもそれは"進化"したわけではなく人間がもともと持っている力――

"環境"にあわせて身につく人間自身の力――

僕達は人間のコーディネイトと言う力を手に入れ、それに酔っていた様に思います。

今は、僕は人間の自然の力を感じて生活したいのです――

 

手紙を書き終えると、アスランは娘のマーヤを抱え、家の外へ出る。
空には、満天の星々――

 

「パパ」
「え? マーヤ?」
「パパ!」
もう一度、マーヤが言葉を発した。
「おおい!」
アスランは家の中へ声をかけた。
「マーヤが言葉をしゃべったよ!」
「まぁ、ほんと?」
ルナマリアが慌てて外に出てきた。
「ママ!」
マーヤがむずかるようにルナマリアに手を伸ばす。
「まぁまぁ!」
プラントが、そして多くの友人、知り合いが失われた悲しむべき日は、彼らにとって喜ばしい色彩を加える事になりそうだった。
ふいに、何かの思いに突き動かされたかのように、マーヤは上に手を上げ、星空を掴もうとした。
それは、人類誰もが持つ宇宙への憧憬かも知れなかった。

 
 

――二十年後――そして、星へ行く船――

 

『じゃあ、パパ、ママ行ってきます!』
マーヤはモニターの向こうで明るく言った。
ジョージ・グレンの木星往還船『ツィオルコフスキー』以来、人類の宇宙開発は地球、及び火星近辺に留まり、戦乱の残した傷を癒す事に力を注いでいた。
だが、ついに、第二次木星往還船『フォン・ブラウン』が発進する時が来たのだ。
マーヤはその乗組員に志願し、見事に合格した。
「身体に気をつけるのよ」
ルナマリアは心配そうに言う。
いくら木星往還船開発計画責任者ウェルナー・ロックスミス博士の作り上げた『フォン・ブラウン』が新型エンジンにより、『ツィオルコフスキー』程の時間は掛からないとはいえ、地球〜木星間の往復の期間は年単位だ。
だが、マーヤはそれを気にもしないようだった。
「元気でやれよ」
とだけアスランは言った。
『じゃあ、時間だから。またね! 時々連絡するから!』
慌ただしく、マーヤとの通信が切れた。
「ほら、あなた、早く! テレビを」
ルナマリアが急かす。
『……とうとう『ツィオルコフスキー』から84年ぶりの木星往還船が発進しようとしています!』
応接間の大型モニターからアナウンサーが興奮した様子で実況している声が聞こえ始める。
『ここで乗組員の皆さんに地球を離れる前の最後のインタビューをしたいと思います! まず、船長のアナキン・スカイウィーカーさん!……』
ふとアスランは思った。
自分の世代は、地球の周りで無駄に戦争に明け暮れてしまった世代だったと。
ネビュラ勲章か……
タンスに放り込んである勲章を思い出した。
戦争で伝説の英雄と持てはやされた所で、そんな物は時間が経てば忘れ去られるに決まってる。もう今ではアスラン・ザラの名前を聞いてもわからない人の方が多いだろう。……うん、それよりは、やはり宇宙飛行士だな。現実に木星を間近に見る方が素晴らしいに決まっている。
きっとすばらしい光景だろう。
自分にはできない。だが、マーヤが代りに見てくれるだろう。
マーヤの世代の前には星の世界へと進む道が拓けているのだ。
そう、星へ行く道が……

 
 

――伝説が終わり、歴史が始まる――

 
 
 

<FIN>

 
 
 

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