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SEED-IF_CROSS POINT_エピローグ

Last-modified: 2011-03-22 (火) 01:06:19
 

「うわ、こっちはこんなに降ってたのかよ……」

 

話すだけ話して彼女に別れを告げ。今は駅からの帰り道。
夕方から降り始めた雪は夜になって少しずつ強さを増してきていたようだ。
傘なんて気の利いたものは持ってない。街外れの細い道に、雪をしのげるような場所も無い。
そんな事を考えるよりは早く帰ったほうが良いだろう。あの2人を待たせるのもなんだし。
携帯の電源を切っていたのを思い出し、ポケットを漁る。
電源を着けると案の定メールが来ていた。
車の通りも無いので事故を気にする必要は無い。視線を携帯に向けたまま歩く。
なんかいつもより多いな。

 

『見てよシン、僕のラクスの可愛さを! この白いドレス、今度幼稚園で白雪姫の劇をやるんだって。
 あ、でもいくらラクスが可愛いからってフラグ立てようとか考えちゃダメだよ?』

 

思うか馬鹿が。

 

『ごめんなさい、おとうさんがごめいわくをおかけしてます』

 

いえいえ。劇の練習頑張りな?
あと王子様役の子には逃げろって言っとけ。腕を捻られるから。

 
 

『なあうちの娘なんだけど、幼稚園は公立と私立どっちが良いかな?
 俺としては、娘は俺に似て才能に溢れてるのは間違いないだろうから私立が良いと思うんだが……。
 ちなみに5歳以降になったらお前には逢わせないのでそのつもりで。おじさまとか呼ばせると思うなよ?』

 

テメーもか馬鹿2号が。つかまだ生まれてからそこまで時間経ってねーだろーが。
気が早いのも大概にしとけ。

 

『私は公立で普通に育てた方が良いと思うんだけどね』

 

なんで俺経由? せめて俺じゃなくて姉に相談しろよ。
つかお前らそういうナイーブな問題は直接話し合いなさい。

 
 

『やあシン、元気にしてるかい? こっちに来たらまた酒でも飲もう。最近のミネルバは暇なんだ』

 

すいません、俺まだプラントに入ったらヤバいんです。
飲むならこっちに来て貰うしかないんで。申し訳ない。

 
 

『ヴィーノが近く結婚するってさ。逆玉で年上美人だぜ羨ましい……。
 来れないのはわかってるけど、匿名で花束ぐらい贈ってやれよ?』

 

変装しても駄目だろうしな。ルナに頼むことにするわ。
しかし年上美人か……ありだと思います。

 
 

『ルナマリアに頼んでいらなくなったナース服貰えねえかな?
 コニールのじゃミリィにサイズ合わないしさぁ。主にバストサイズの問題で』

 

そのままコニールとミリアリアさんのメアドに転送。

 
 

『あとちょっとで休暇です! ベルリンに行くの今から楽しみだなぁ。
 そう言えば確か、前行った時に建設中だったレジャー施設、あれ完成したんですよね?
 温水プールとかあるって言ってたし、水着もっていこ。当然きわどいやつですようふふ。
 シンさん、もうすぐ愛に生きますので待っててくださいね!』

 

またコニールが悔し泣きするわけですね、わかります。
あと最後のやつ誤字だよね?

 

他にもサトーや看護婦さん、ジュールさん (嫁の方) にアスハまで来てる。
新着メールの山に思わず溜息を吐いた。いくらなんでも多すぎだろコレ。
皆きっと、誰かさんたちから今日俺がステラに逢いに行くと聞いたのだろう。
おせっかいな奴らめ。別にもう落ち込んだりしないってのに。

 

携帯を閉じて徒歩に意識を戻す。
ベルリンの寒さにはある程度慣れたが、好きかと言われるとそうでもない。
首筋に雪が入り思わず肩をすくめる。空を見上げると粉雪が勢い良く舞っていた。
まるで漆黒に染まりそうな空を、白い粒が必死に阻んでいるかのように。
その光景はどこか、この世界の現状に似ていた。

 

もう、俺が気にすることではないけれども。

 

「………」

 

力に対する未練が無いと言えば嘘になる。
かつての自分の夢は 「自分の手で世界を平和にする」 だったから。
けれど英雄の座を捨てたのもまた自分だ。その手に取らなかった物の事を考えても意味は無い。
これまで自分の選んできた道が、今の場所まで運んできてくれたのだ。
そして自分は今の場所を心から楽しいと言える。此処まで来たことに対して胸を張れる。
ならば悩むことなんてないだろう。

 

大切なものは今、この手の中にある。
それでいいじゃないか。

 

歩みを止めて耳を澄ます。気が付けば風は止んでいた。
道は静かで、雪の降る音すら聞こえてきそう。

 
 

「――――黄昏るのも程ほどにって、朝言わなかったかしら?」

 
 

唐突に声を掛けられ意識を戻す。気付けば目の前に傘を差した紅い髪の女性が1人。
呆れた目で自分を見ているのは同居人の片割れ。

 

「……ルナ」
「随分と帰るのが遅かったわね。頭の雪くらい掃いなさいよ、もう……」

 

頭に積もった雪を優しく掃うルナマリア。白く染まった吐息が顔に掛かる。
自分の悩みも存外いいかげんだった。彼女の顔を見ただけでいつの間にか消え失せている。

 

「すまない」
「はい、これで良し。それじゃ帰りましょ」
「なあ。もしかして俺を迎えに来てくれたのか?」
「もしかしなくてもそうよ。外見たら雪降ってたからね。寒いんだから早く帰ろ」
「……サンキュな。んで俺の傘は?」

 

ん、と自分が差している傘を押し付けてくる。思わず反射的に受け取った。
見たところ彼女は他に傘を持ってきていないようだ。ならばする事は一つである。
2人肩をくっつけて帰路につく。相変わらず人通りは無く、車も通っていない。
街灯が、白い雪を僅かに照らしている。

 

「雪。綺麗だね」
「……そう、だな」

 

呟く声に答える。
今までその発想は無かったが、確かに綺麗だった。

 

「昔からね。雪、あんまり好きじゃなかったんだ」
「なんで」
「まあ昔って言っても此処で暮らし始めてからだけどね。ほら、私寒いの嫌いだし。
 冬よりは夏の方が開放的な気分になれて好きだし。
 ――――どっかの誰かさんは雪の日にいなくなるしね」
「……」

 

聞くんじゃなかっただろうか。でもとりあえず黙っておく。
今は言葉の続きが聞きたかったし、そうするべきなのは知っていた。

 

「でも今はそうでもないんだ。寒くても、雪が降っても、イヤじゃない。
 それどころか素直に綺麗だって言える………なんでかな?」
「お前に分からないものが、俺に分かるかよ」

 

嘘だ。答えなら持ち合わせている。
だがシンはそれを言おうとはしなかったし、ルナマリアも言うつもりはないのだろう。
答えというのはいつだって無粋なものだ。

 

遠くに自分たちの家が見えた。診療所も兼ねているこの建物、大きさはそれなり。
現在3人で同居中。からかわれるのももう慣れた。
ちなみに 「ナース2人相手のハーレム御殿か」 と羨ましがっていたディアッカは、
自らの恋人の手によって現在入院中である。
勿論ヤツの見舞いに行く気は無い。さっきのメールで止め刺されてるだろうし、邪魔しちゃ悪いし。

 

「今日の夕食は?」
「コニールがやってるわ。結構張り切ってるみたいだけど」
「……大丈夫なのか?」
「大丈夫でしょ。しっかり教えてあげたしね。それに」

 

シンの問いに、ルナマリアは笑いながら言った。

 

「お腹こわしたら、美味しいお粥つくってあげるから楽しみにしてて。それと付きっ切りの看病もね」
「楽しみに……しとくとこなのか? それって」

 

ひどい物言い。だが彼女の優しい笑顔にただ笑うことしかできず。
不意にポケットの中の携帯が鳴る。
噂をすればなんとやら。当のコニールからだった。

 

「もしもし?」
『もしもしじゃないだろバカ! 今何処だよ?』
「今家が見えてきたとこだ。あと数分ってとこか」
『なら料理が冷める前に早く帰って来い! 走れ!!』
「おい……」

 

一方的に電話が切られた。2人は顔を見合わせる。

 

「やれやれ、走れってさ。料理が冷めるからって」
「聞こえてたわよ。んじゃ急ぎますか」

 

そう言うや否や唐突に走り出すルナマリア。
笑顔で振り返り、シンに向かって叫ぶ。

 

「家まで競争ね!!」

 

子供じゃないんだから。そう思いながら傘を閉じ、シンは彼女を追いかけた。
耳に触れる冷たい風。吐き出される白い息。緩やかに舞う白い粒。
部分部分はあの時とそっくり。だけど、確実にあの時とは違う。

 

走るスピードを少しだけ落とす。もう少しの間だけ、この光景を見ていたかった。
ルナが笑顔で振り返る。玄関でコニールが手を振っていた。
周囲には白い雪。街灯の灯りで白く輝いている。

 

――――雪、綺麗だね

 

確かに。今では素直にそう思えた。
これまでの自分は雪が嫌いだった。
思い出すのはステラの死か、ルナマリアとの別れだったから。
だけどこれからは違う。
雪を見てもきっと、今の光景をを真っ先に思い出すだろう。

 

悲しいことを忘れてしまうわけじゃない。
彼女のことを忘れてしまうわけじゃない。
ただ、綺麗な光景を心の中に強く焼き付けることができただけ。

 

舞い降りる白い粒と、大事な人たちが笑っていてくれるその光景を。

 
 
 

ああ。俺は。
やっと、雪が好きになれそうだ。

 
 
 

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