Top > SEED-IF_CROSS POINT_第12話
HTML convert time to 0.006 sec.


SEED-IF_CROSS POINT_第12話

Last-modified: 2010-02-12 (金) 08:08:04
 

「ねえ早くしなさいよ、急がないと通り過ぎちゃうかもしれないでしょ」
「わかってるわよ、焦らせないで。あと、すこし……」

 

休憩室のパソコンの前に集まるザフトの女性陣。画面に映る映像を見ようと顔を寄せ合っている。
そんな周囲に押されながら座席に着いてキーボードを滑らかに叩いていた茶髪の少女が、
細長い指でリターンキーを押す。
すると次の瞬間、コンピューターの画面にバッグを担いだ紅い瞳の青年が浮かび上がった。
同時に女性陣の中からおお〜という感嘆とも驚きともとれない声が上がる。
どうやら彼女たちのお目当てはこの青年の映像だったようだ。

 

「来た来た、ホントにこの艦に来たよ! あのシン=アスカが」
「へえ、写真よりも良い男じゃない。そういえばあんたこの人が好きなんだっけ?」
「好きだなんてそんな、会ったこともないのに。ただ、私が勝手に憧れてるだけだよ」
「お〜、それじゃその憧れの人を誘導することができるのね。ツイてるじゃん」
「えへへ……がんばる」

 
 

「やれやれ、気楽なもんだな」

 

休憩室のコンピューターを監視カメラに繋げ、画面の前に集まって来訪者を物色する女性クルーたち。
その騒がしい様子を周囲の男性たちはほんのり苦い顔で見つめる。
まったく、美形だからってすぐコレだ。女性陣は気楽で良い。
外見だとか過去の戦歴だとか、今此方が気にしなければならないのは
そんなものじゃない筈だというのにな。
そんな言葉を呟きながら。

 

「まあ女共は放っておくとしてさ。どう思うよ」
「シン=アスカ、か。その実力、本当に当てにできるんだろうな?」
「さてな。多少名のしれた奴がプロバガンダとして過剰に評価されるってのは良くあるけど」
「せっかく高性能の機体をわざわざ用意したんだし、時間稼ぎくらいはやって貰いたいとこだな」

 

言葉から分かるように、ここにいる者たちはシン=アスカの来訪を快く思っていない。
クライン派が主流 (最近はキラのせいで少し肩身が狭いが) となっている昨今
デュランダル派だった彼の印象は悪く、しかも当時のザフト軍人の憧れである
『ラクス=クラインのFAITH』 という職をあっさりと捨てて自分からただの民間人になったことが
拍車をかけた。
かつての英雄と言われてはいるものの、所詮はキラ=ヤマトやアスラン=ザラの
引き立て役にしかすぎない。そんな男が来たところで何になるというのか。
つまりは彼の存在を嫌ってそんな考えを持つ者が多いわけだ。

 

「つかアンタも行かなきゃマズいんじゃないの? ブリッジ勤務は挨拶するんでしょ?」
「ああ、そう言えば!? ごめん私もう行くね!!」
「おー、行ってこーい。よく話す様になったら私を紹介すんの忘れちゃだめよー」
「憧れの王子様によろしく〜。あ、写真とる機会があったら私にも頂戴」

 

「………チッ」
「ハッ、所詮は顔だけだろ」

 

まあ、そんな理由ばかりでもないのは否定できないが。

 
 

第12話 『ボルテールにて』

 
 

地上ではルナマリアとコニールがオーブへ向かっていた頃、シンは既に宇宙に上がっていた。
乗船した艦の名はボルテール。現プラント議長代行イザーク=ジュールの旗艦だったこともある艦である。
そのブリッジでは白服の男性がシンを待っていた。以前ベルリンに勧誘に来た軍人の男。
サングラスを外してシンに話しかける。

 

「よくぞいらっしゃいました。シン=アスカさん、我々は貴方を歓迎します」
「久しぶり、かな。やっぱりアンタが、じゃなかった貴方が艦長か」
「はい。そしてこの作戦の最高責任者でもあります。……何かご不満でも?」
「まさか。願ってもない」

 

握手をする両者。力強いその手にシンは、彼のこの任務への決意を感じた。
気後れしていないというのは頼もしい。オーブ軍の惨敗を見てなおこの覇気ならば尚更だ。

 

「ゲストではありますが私服というわけにもまいりませんので、
 貴方には赤服を着ていただくことになります。
 用意した部屋に準備しておりますので、これが終わってから着用して下さい」
「……どうも」

 

断る理由も無いので受け入れる。
緑服でも構わなかったし、そもそも何を着るかという事に興味は無かった。
だが別に赤服に思い入れがないわけじゃない。
それを身に纏っていたころの日々は自分にとって今でも大切な思い出だ。
ただこの後の戦いを考えると、そんな事にこだわっていられないというだけで。

 

「もうすぐこの艦に、議長からの通信が届く筈なのですが―――来たか」
「スクリーンに繋ぎます」

 

通信士からの声に応え指示を出す艦長。画面に銀髪の男が映る。
イザーク=ジュール。プラントの現最高責任者自らの通信とは恐れ入る。

 

『シン=アスカ。ひさしぶりだな』
「そうですね、ジュール議長」
『議長ではない、議長代行だ。今の俺は代わりが居ないからやっているに過ぎん。
 それよりも今回の依頼、よく引き受けてくれた。礼を言う』

 

代わりが居ないから、か。そう思っているのは本人だけだろう。
ラクスの死後議会を取り纏めて動揺するプラントを落ち着かせ、
混乱に付け込もうとした地球の連中と五分にやりあったほどの男だ。
現在の彼の役職から代行の2文字が消えるのは、そう未来の話ではないというのが世間の評価だった。

 

『お前を戦場に戻すことになってしまって申し訳ないとは思っている。
 だがアスランが敗れた今、他に手が無いのが現状だ。キラの存在を受け入れるわけにもいかないのでな。
 無論成功した場合の報酬は十分払うし、お前が動きやすいよう便宜も図る。さしあたっては』

 

画面の中のイザークが目で合図をする。
それを受けた艦長は手にした小箱を開き、シンに向かって差し出した。
中に入っていたのは徽章。かつて、自分が2回に渡って着用していたもの。

 

『シン。略式ではあるが、お前をFAITHに――――』
「いらない。この赤服だけで十分だ」

 

目の前の小箱を軽く押し返して、シンは申し出を断った。周囲からざわめきが起こる。
気持ちはありがたいものの、数ヶ月で裏切ったアスランや貰った後直ぐに軍を辞めた自分の例もあった。
いくら自分に少なからずネームバリューがあるとはいえ、
民間人を容易く命令権のあるFAITHに任命するのは他の者にとっても悪影響しかないだろう。
ごぼう抜きというのはされた方にとっては良いものではない。当たり前の話だが。

 

『いらないのか』
「ああ。どうせ指揮なんかしないし、軍にいるのはキラを倒すまでだ。俺には必要ない」

 

シンの言葉を大言壮語だと判断したのか、彼に周囲から
『それができれば苦労しないんだよ』 といった視線が向けられる。
だが画面の中のイザークは特に気にした様子も無いようだった。

 

『フン。まあ貴様のことだ、そう言うとは予想していたがな。
 作戦については彼に聞いてくれ。後はお前に任せる。……何か他に聞いておくことはあるか?』
「特には。……いや、一つだけ聞いておきたいことがある」

 

会話を終えるつもりだったのだろう。少しだけ意外そうにイザークは問い返した。

 

『なんだ』
「アンタはどう思っているんだ?
 プラント議長としてではなく、ただのイザーク=ジュールは今のキラ=ヤマトの事を」

 
 

その言葉に周囲が息を呑む。2人が親友だったことはその場にいる大半の人間が知っていたからだ。
プラント議長に対して無礼とも言えるその質問にシンを諌めようと
黒服の軍人 (おそらく副艦長) が近付くが、それよりも早くイザークが口を開いた。

 

『何故、そんな事を聞く?』
「なんとなくだ。言いたくなければそれで構わない」
『………俺にかつての仲間を討つ覚悟があるか、疑っているのか?』
「まさか。なんとなくだって言ってるだろ。他に聞く機会も無いしな」
『ふむ……』

 

周囲の反応の方が正解だし、ここで聞くことではないというのはシンにも分かっている。
だけど今の2人の立場には差が出来すぎているため、他に話す機会は無いだろう。聞くなら今しかない。
聞かないという選択肢は自分には無かった。
人を戦いの場へ誘 (いざな) うのだ。本人の腹の中を少しは見せて貰わないと納得できない。
相手が依頼主の親友ともあれば尚更だ。

 

『これからそいつと戦う者を前に、こんな事を言うのは不謹慎だが』

 

シンの考えを感じ取ったのか、それとも迷う時間が惜しいと判断したのか。おそらく後者だろう。
イザークは少し考えるような表情を浮かべた後、シンに向き直って言った。

 

『今でも親友だ。これまでもこれからも、それは変わらん。俺にとってのキラ=ヤマトはな。
 だが今の俺は代理とは言えプラントを統べる者。奴を討つのに迷いは無い。
 貴様がどう思うかは知らんが、それだけは確かだ』
「………わかった。すまない、変な事を聞いて」
『別に構わん。後は頼む』

 

その言葉と共に通信が切れる。ブリッジではしばらく沈黙が続いた。
そんな場の空気を変えるかのように、艦長がシンに話しかける。

 

「それではクルーを紹介します。彼が副艦長の――――」

 

艦長によって副艦長やMS部隊の隊長などを紹介される。
男性陣からは訝しげな視線が多かった。いや多いどころじゃない、艦長以外の男全員だ。
それも仕方がないことなのだろう。
民間人がいきなり来て議長と対等に話した挙句
『今日からコイツがお前らのエース』 とか言われて喜ぶ奴はいないだろう。
まあいいや、嫌な目をする奴は相手にしなければいい。

 

どうせこいつら名無しのモブキャラで、この先出てこないことだし。

 
 

「あ、あの!」
「ん?」

 

そんなプレッシャーを掛けるかのように目をギラつかせるブリッジクルーの中、
違う意味で目を輝かせて自分に近付いてくる者が1人。女の子か。

 

「シン=アスカさんですね!? あの、その、お会いできて光栄です!!」
「君は?」
「わ、私はですね、えっと……」

 

茶髪のショートカットに垂れ目が印象的な、子犬のような少女が自分の前に立っている。
若いというより幼い。おそらくはアカデミーを卒業したばかりか。
だが新米でこのボルテールのオペレーターを勤めるという事は
相当優秀もしくは見所があるということなのだろう。
今は結構テンパってるみたいだけど。

 

そんな彼女の様子を見かねたのか、傍にいた艦長がフォローを入れる。

 

「少し落ち着きなさい。アスカさん、彼女がこの艦のオペレーターをやっています」
「ということはこれから顔を合わすことが多くなるってわけですか。……シン=アスカだ」
「よ、よろしくお願いします!!」

 

手を差し出すとガチガチになりながらも握ってきた。
戦場には不釣合いなくらいの小さな手。緊張がピークに達したのか彼女の笑顔が引き攣っていく。
とりあえず安心させる為にこちらも笑顔にしてみた。

 

「いろいろ迷惑をかけるかもしれないけど、よろしく頼むな」
「は、はい!! 私も足を引っ張らないように頑張ります!!」
「ああ」

 

効果があったとは思えないが、緊張は少しほぐれたみたいなので良しとしとこう。
つかこの娘、子犬チックでなんか可愛い。ステラやマユと感じが似てるし。
頬を染めて自分を見上げるその仕草に、この子は天性の年上キラースキルを持っているなとシンは思った。
深い意味は無いけど。

 

「それで、現在の状況は?」
「先日のあの放送以来動きがあったのはザラ派の壊滅だけで、その他の動きは確認されていません」

 

いつまでも女の子と手を繋ぐというのは悪くはないが、ずっとそうしているわけにもいかない。
オペレーターの女の子が離れてからは他に自分に近付いてくる者もいないので、
紹介を打ち切って現状を聞いたのだが……
動きが確認されてない、 か。
どうやらザフト諜報部はキラがベルリンに来た事に気付かなかったようだ。
いやクライン派の隠蔽工作が上だったのか。
それに気付いたところで対処法は無いので、余計なことは言わないけれど。

 

「ただ地球へ降下した様子も無いので、まだ宇宙に上がったままでしょう。
 キラの行為を誘発するような海賊やテロリストたちの動きも無いようです。あくまで現時点は、ですが」
「そりゃそうでしょう。あれは強烈だったからな……」

 

そのあたりはキラの目論見通りのようだ。だがそれも一時的なものに過ぎまい。
人の負の感情というものは、押さえつけてもいつかは暴発するものだ。
その形が怒りか恐怖であるかの違いはあっても。
彼もそれを理解しているのか、まあ再開も時間の問題でしょうと呟いた。

 

「それで、これから俺は具体的に何をすれば」
「情報が入っていませんし、まだ出撃準備も整っていません。
 アスカさんはその間にブランクを取り戻して欲しいと思います。
 今のデスティニーに搭乗するには、生半可な腕では振り回されるだけだと思いますので」
「デスティニー? まさか、あいつが俺の乗機ですか」
「ええ。ただし届いたばかりですので、現在調整中ですが」

 

それを聞いた途端、シンの口元が僅かに笑みの形を作る。
アイツとまた戦えるのか。
どんな機体にも乗るつもりだったが、あれならば文句は無い。
性能・武器共に自分が乗った中で最強の機体だったのだから。
まあ、それでもキラやアスランには傷一つ付けることができずに負けたわけだけれど。

 

「わかりました。作戦開始までには必ず腕を取り戻します」
「宜しくお願いします。
 ああ、それとは別にもう一つ。個人的に言っておくことがあるのですが」
「?」

 

艦長の視線に誘導されるように、シンは離れた場所にいる先ほどの少女に目を向ける。
まだ頬を紅くしたまま少女はシンをみつめていた。溜息を吐き、艦長は小さな声で呟く。

 

「あまり、うちのクルーをからかったりしないように」
「………」

 

女ならベルリンに2人もいるだろと言わんばかりの艦長の視線。
シンは溜息を吐きながら思った。それはシンプルな、たった一つの疑問。

 
 

何だと思ってんだ、俺を。

 
 
 
 

 戻る