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SEED-IF_CROSS POINT_第14話

Last-modified: 2010-02-18 (木) 13:53:36
 

第14話 『傷を舐め合う愛でいい』

 
 

オーブ港の軍用ドック。
そこではお互いに異なる白い軍服を着た2人の男性が、敬礼を交わしあっていた。

 

「ミネルバ艦長のアーサー=トラインです。貴国からのご好意、感謝致します」
「オーブ軍少将、アスラン=ザラです……お久し振りですね、トライン艦長」

 

彼らがこんな場所で挨拶を交わしているのは、かねてより話に上がっていた
ザフト・オーブによる共同作戦のためである。
ちなみにアスランがアーサーと会うのはメイリンとの結婚式以来だ。
あれからしばらく会っていなかったのに、彼の外見はあまり変わっていない。

 

「そちらもお元気そうで何よりです、ザラ少将」
「敬語はやめてください。今は足並みを揃えなければならない時ですし、昔みたいに呼び捨てで結構ですよ」
「わかりました。ただ公の場ではそれに応じた態度を取らせていただきます。
 ………久し振りだね。思ったよりも元気そうで安心したよ、アスラン」
「はい。でも、またこの艦に乗って一緒に戦う日が来るとは思いもしませんでしたが」

 

敬語は止めてくれたものの、アーサーのアスランへの態度は少しよそよそしかった。
引っかかったのは最後の言葉か。無理もない。
自分がこの艦にFAITHとして乗り込んで戦っていた時期といえば
現在の妻であるメイリンとの出会いという良い事もあったが、
キラやシンに撃墜されたりと悪かったこともあった。
結局自分の曖昧な態度が仇となってシンやレイとは溝ができ、最終的にはデュランダル議長と袂を別ち。
そして前大戦のおり、彼らの家とも言えるミネルバを航行不能になるほど破壊したのは自分なのだ。
懐かしさに気が浮かれて、自分は少し考えが足りていなかったかもしれない。

 

「………すいません、自分にこのような事を言う資格はなかったですね」
「僕からは何も言えないな。君がミネルバを落としたのは否定しようもない事実だし。
 けど元気そうで安心したというのは本当だ。僕は君の奥さんの上司でもあったわけだしね。
 ……そういえば彼も君に会いたがっていたよ。知り合いなんだろ?」
「彼?誰のことです?」
「ほら、今来た」

 

アーサーが指を指すその先に、見覚えのある男がいる。
逆立った金髪に褐色の肌。しかも何故か黒服。
今はカメラマンやってる筈のこの男が、どうしてここにいるんだろう。

 

「よ、アスラン。おひさし」
「ディアッカ……お前、こんな所で何をしてるんだ?」
「見りゃわかんだろ? パイロットに戻ったんだよ。
 正確にはシンと同じく議長代行どのに頼まれてな。用心棒としてこの戦いの間だけ雇われたんだ」

 

シンがザフトに合流したのは聞いていた。
だがそれに続いてディアッカまでも復帰するとは思っていなかった。
確かに人選は間違ってはいないし、相応の実力の持ち主であることは否定しない。
だが民間人をこんな重要な作戦に何人も組み込むほどとなると、
どうやら本当にザフトは人材が足りていないようだ。
イザークの苦労している様が目に浮かぶ。

 

「今は彼が乗船してくれて此方も助かってるよ。
 ブリッジもパイロットも整備士も人員が不足気味でね。特にベテランが。
 だからここオーブに少し滞在して、地上部隊から補充する予定なんだ。
 議長もいろいろと頑張ってるみたいだけど、果たしてどれだけの戦力が確保できるやら」
「イザーク、いや今はジュール議長か。あいつも頑張ってるんだな」
「まあな。それよりお前、本当に戦場に戻れるのか? キラにやられた傷はまだ治っちゃいないんだろ?」
「ああ。だが、そうも言ってられないから」

 

きしむ脇腹をそっと押さえる。確かに傷はまだ完治していない。
だが今、仕留め損なった自分の代わりにシンが戦おうとしているのだ。
そんな状況で自分だけのうのうとベッドでゆっくりしているわけにもいかない。
不意に横で話を聞いていたアーサーがくすくすと笑い出す。

 

「……あの、何か?」
「ああいやなんでもない。ただ、議長代行は君のそういう性格を分かってるみたいだったからね。
 だから君にあれを持って来たんだ。おーい、ヨウラン!!」
「はい、アレですね!! 1番奥のやつです!!」
「アレとは?」

 

どこかで見たことがある、ヨウランと呼ばれた整備士の指す方向をアーサーと共に見つめる。
そこには何機も並ぶザクに混じって、メタリックグレーに染まった1機のMSがあった。
Gタイプか。いや、この機体には見覚えが―――

 

「これは、セイバー?」
「そう。ジュール議長代行から君にね。
 改良はされているけど、武装や基本的な操縦の仕方は変わらないそうだよ。
 グフやムラサメでストライクフリーダムとやり合うよりはマシだろう、だってさ」
「イザーク、あいつ……」

 

セイバー。救世主の意を持つ、かつて自分が乗っていた機体だ。
おそらく性能はジャスティスに及ばないだろう。だがムラサメなどより遥かに上であることは間違いない。
あの時これに乗っていた自分は、キラを止められなかった。
でも今なら、この機体ならばまだ自分にもできることがある。
荷物を預けてしまったあいつのために、何かができる。

 
 

「よし、これなら……」
「戦力アップで万々歳ってところかしら。でも、勝つための手は多いほうが良いんじゃない?」
「この声、君は!?」

 

後ろを振り向く。目に映ったのは3人の女性。
バッグを抱えた赤い髪。
懐かしそうに船内を眺めるポニーテール。
そしてニヤニヤと面白そうに笑う自分の妻。
お前が連れて来たのか。

 

「ルナマリア!? それに君はコニール……。メイリン、いったい何故こんな所に連れて来た!?」
「だってぇ。恋する乙女は止められるものじゃないでしょ?」
「なにその理由」
「ま、野暮なことは言いっこなし。それよりも知りたい事があるんだけど」

 

夫婦の会話を遮り、ルナマリアがアスランに詰め寄る。
内容を予想するのは簡単だ。彼女らが知りたい事と言えば1つしか思い当たることは無い。

 

「シンの居場所か。あいつなら今、宇宙でボルテールに乗って―――」
「それはメイリンから聞いたわ。私が聞きたいのは、この船の予定よ」

 

この船の予定? そんなもん聞いてどうすると言うのか。

 

「予定? 準備が済み次第宇宙に上がって、ザフト宇宙軍と合流するという流れだが」
「なるほど、やっぱりね。―――――トライン艦長、さっき人員が不足してるって言ってましたよね。
 それが本当なら、MSの数にも余裕があると考えて良いんですか?」

 

いつになく真剣な目のルナマリア。
いきなり話を振られたアーサーが戸惑いながらも隣の青年に尋ねる。

 

「え? えーと、どうなんだいヨウラン? 僕まだそっちの書類は目を通してないんだけど」
「そりゃ予備機体ならいくつか準備してますが……っておい、お前まさか」
「そのまさかよ。ねえ、艦長」

 

その言葉を聞いて彼女が一歩進み出る。耳に掛かった髪を掻き上げ、不敵に言い放った。

 

「腕のいいパイロットが此処にいるんだけど、使ってみる気は無い?」

 
 

腕のいい? いや引っ掛かるところはそこじゃなくて。
今彼女は何て言った?

 

「何考えてるんだ君は!? メイリン、お前も止めないか!!」
「いいじゃない別に。ねえトライン艦長、お姉ちゃんもやる気だし連れて行ってやって下さいよ。
 今ならサービスで、美少女オペレーターが付いてきますよ?」
「え? あ、え〜と。……頑張ります」

 

背後からコニールにメイリンが抱きつく。
『美少女』 という言葉に反応したのか彼女の頬が少し赤くなった。
微笑ましい光景ではあるが、今メイリンも聞き捨てならない事をさらりと言わなかったか。

 

「コニールは素人だぞ? できるわけないだろう!!」
「大丈夫よ。だって、私が傍に付くし」
「な、お前まで!? 姉妹揃って一体何を考えて………」
「もう、貴方ったら。
 いくらあのアーサー=トラインが傍にいるからってそこまでリアクションに力を入れなくても。
 そんなにCE最高のリアクション芸人の座が欲しいの?」
「別れてやろうかお前」

 

何故このシリアスな場面でボケに走るのかこの嫁は。
大体リアクションの才でアーサー=トラインに勝てるか。キラでも無理だ。

 

「ははは……まあまあアスラン、落ち着いて。
 君は確かガルナハンで僕たちに協力してくれた……コニールさん、だったよね。
 どうして一緒に行きたいんだい?」

 

夫婦漫才を始める自分たちをスルーして、アーサーはコニールに問いかける。

 

「あら艦長、家出した男の子を迎えに行くのは家族の役目に決まってるじゃないですか。ねえコニール」
「それが理由なのかい?」
「えーと、まあ、大体合ってます。……こんな理由じゃ納得出来ませんか?」
「まさか」

 

横から割り込んできたルナマリアの言葉に同調するコニール。
大人であるアーサーは否定していたが、はっきり言って自分はそんな理由では納得できない。
自分の手を血で染めるのは、力を持たない一般人の平和な生活の為。災いを自分の所で止める為。
それこそが、人を手にかける軍人がそんな自分を肯定できる数少ない理由なのだ。
彼女たちの行動はそんな自分たちの思いに相反してしまう。

 

「君の意思を否定する権利は僕には無いよ。
 ……ただ、分かっているつもりなのかもしれないけど一言言っておく。
 君が今から行きたいと言っている場所は、何もかもを平気で切り捨ててしまう場所なんだ。
 ミサイル1発、いや機銃の弾1つで簡単に吹き飛ばすような、ね。
 結果的に君がその手を汚すこともあるかもしれない。
 それによって誰かの恨みを買うこともあるかもしれない。
 傷ついて、元の暮らしに戻れなくなった人だっている。……それでも?」
「………それは」

 

彼女の心を揺さぶりに行くアーサー。だが言っていることは正論だ。
いくら過去紛争中のガルナハンに居たとはいえ当時の彼女はレジスタンス所属、つまりは民間人だったのだ。
彼らが戦闘を行っていたとしても小規模なもので、今回の作戦とは比較になるわけがなかった。
それに、失う可能性があるのは自分の命だけじゃない。
彼女が動くことによって、誰かの命が左右されることになるのだ。味方だけではなく敵も。
そして人を殺したという罪も、死者の家族の憎しみも、受け止めなくてはならない。
戦場に出るとはそういうことだ。
巻き込まれたなんて言い訳はできないし、仲間が行くからと連れション感覚で行くものでもない。

 
 

「私あんまり頭は良くないけど、貴方の言ってることは分かります。
 戦場なんて生半可な気持ちで行ける場所じゃないってことくらい、私にだって」

 

自分たちの想いを感じ取ったのだろう、コニールの表情は真剣だ。
自分の心の中を確かめるように、言葉がきちんと伝わるように、ゆっくりと話し出す。

 

「距離を取られたから追いかけるとか、傍にいたいって想いだけじゃ駄目なんだ。
 伝えたい言葉はあるけど、きっとあいつに逢えても何を言って良いかわからないと思う」
「君たちまで戦場に出てくるなんて知ったら、あいつは悲しむだろうな。
 それにきっと、君たちに戦う姿を見せたくもないだろう」
「それは予想つくよ。アスランが言いたい事はわかるよ。……わかるけど!!」

 

誰が自分にとって大切な人間に、己が人を殺す様を見せたいというのか。しかも民間人に。
そんなことを暗に含めたアスランの言葉に、少女は首を横に振りながらも抗う。
もう、言葉遣いを気にする余裕も無くなっていた。

 

「でも、シンだってそんな場所に戻っちゃったんだ。そんな場所にいて傷つかないわけないんだ。
 そんなあいつをただ待ってるだけなんていやだ。
 もう戻ってこないかもしれないのにぼんやり待ってるなんていやだ。
 あいつがこれから苦しむって言うんなら。これから負う苦しみを、少しでも良いから共有したいんだ。
 だって私は……私にとってあいつは、家族だから」

 

「………」
コニールの独白に言葉を返す事が出来ない男性陣。
その傍らでは自分の妻が、ええ子や、この子はほんまええ子やと言いながらハンカチで目元を押さえていた。
頼むから空気読め我が妻よ。絶対その涙は嘘だろうが。
だがその感想に異議は無い。
鈍感な自分にすら、彼女がどれだけシンの事を想っているか十分すぎるくらいわかったのだから。
傷の共有。彼女が望んでいるのはそういうことか。

 

シンには悪いが、これは止められないかもしれない。

 
 

「ルナマリア、君は?」

 

コニールの言葉に頷いた後、アーサーはルナマリアに話を振った。
彼女の意思が固い以上、ルナマリアを介して引き取ってもらうという考えなのか。

 

「私? 私はね……自分で言うのもなんだけど、私って最高の女じゃない?」

 

真面目な話をしてた筈なのに、なんかいきなり話が飛んだぞオイ。
今そんな事は関係ないだろと口を開きかけたアスランの腕を誰かが掴む。
手の主はディアッカ、言わせてやれよとその目が語っていた。ちくしょうかっこつけやがって。
はいはい、どうせ俺も空気読めませんよ。

 

「容姿も良いし、軍での実績も十分。家事だって結構なレベルでこなせるし。
 パーティーの度に議員の息子から芸能人にスポーツ選手まで言い寄ってきて、男なんてよりどりみどり。
 でもね、あいつと再会してからわかった事があるんだ」
「何がだよ」

 

軽く問うたヨウランに視線を向け、ルナマリアはその問いに答える。
口元に浮かぶのは不敵な笑み。力強く、そして美しい。

 

「答えは簡単よ。―――――あいつが隣にいないと、最高でいる甲斐がないの」

 

「あー………」

 

肩の力が抜ける。なんというか、返答に困る理由だなぁほんとに。
結局2人にのろけられてただけかよ俺たちは。

 
 

「そっか。わかった」

 

苦笑いを噛み殺しながら、アーサーが2人に話しかける。
もう彼も2人を止める気はなさそうだった。
いや、もしかしたら最初からそんな気は無かったのかもしれない。

 

「トライン艦長、良いんですか?」
「いいんじゃないのかな、ここまでの決意聞かされちゃ。
 それに実のところキラとの戦いに尻込みする人間が多くてね。
 さっきも言ったけど、人員もオーブで補充する予定だったんだ。
 その間メイリンが彼女に教え込むっていうのなら僕には言うことはないよ。本人も望んでる事だし。
 ただ、最低限の仕事ぐらいはできるようになってもらわないといけないけどね」
「フフ、とーぜん」
「あ、ありがとうございます!!」

 

胸を張るルナマリアと頭を下げるコニール。まあ仕方が無いか。
もう自分も彼女らを止める気は無い。これ以上止めようとするのは無粋というものだ。
シン、腹を括った方が良いぞ?
お前が惚れさせた女の子たちは、どうやら俺以上に諦めが良くなさそうだからな。

 

「ああ、それと大した問題じゃないんだけど」

 

喜ぶ女性陣に向かって、アーサーはなんでもないことのように話しかける。
これ以上無いというほどの笑顔だが、何を言うつもりなのか。

 

「君たち3人に関しては、軍から給料、出ないからね?」

 

経費削減、と嬉しそうな艦長。
この忙しい中で長時間話を聞いていた事を疑問に思わないでもなかったが、どうやらそれが狙いだったのか。
確かにルナマリアとコニールの2人は熱心に志願してきたわけだから文句が言える立場じゃないし、
自分に内緒で勝手に動いた妻に対してはこれも良い薬になるだろう。

 

役者が違ったなと肩をすくめるディアッカ。
あいたー、と額を押さえるヨウラン。
ま、しょうがないよねと頭を掻くコニール。

 

「「ちょ、ええーーー!!?」」

 

驚愕する姉妹の声だけが、MSデッキの中に響いた。

 
 

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