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SEED-IF_CROSS POINT_第15話

Last-modified: 2010-02-26 (金) 02:11:54
 

漆黒の宇宙を、真紅のザクが駆け抜ける。
右手に抱えるのは無骨な長銃。傍らには緑のザクが3機。
その前に、敵の群れが姿を現した。

 

散開する両軍。ダガーの数は10機。数の不利は言うまでも無い。
だがザクは動きを止めることなく、オルトロスを連射した。
3つ、4つ、5つ。紅い閃光が奔る度に、宇宙に花火が上がる。

 

「狙いは―――――」

 

戦場を支配する真紅のザク。そのまま次の獲物に向けて銃口を向けた。
だがその隙を突いて、背後からダガーがビームサーベルを抜きながら迫る。
ザクのパイロットに気付いた様子は―――

 

「――――完璧よ!!」

 

振り向きざまオルトロスを放つ。再び紅い閃光が奔り、背後を突こうとしていたダガーを貫いた。
いやダガーだけではない。ダガーを貫いた光は衰えることなく、他に3機ほど一緒に撃墜した。
偶然か。いや、狙っていたのだろう。でないとこの状況を説明できない。
合計4機が並んだ一瞬を見逃さず撃ち抜く。それもただの一撃で。
生半可な技量ではないことだけはよく分かった。

 
 

「もういい、ルナマリア。……もう、十分だ」

 

シミュレータの後ろから、アスランは疲れた顔で呟く。
言葉に嘘は無い。確かにもう十分。
流石にあれだけの技術を見せつけられては何も言えない。やってる意味はわからんが。
隣に視線を向けると、傍にいたディアッカも困った顔をして頭を掻いていた。

 

「2人とも私の腕を見た? ブランクはあっても、まだまだ全然戦えるんだから!!」
「お前が強いのは十分承知しているさ」

 

確かに彼女は強い。
前大戦ではシンのお下がりとはいえ高性能機であるインパルスを託された程のパイロットではあるし、
今見せた技術もその辺の赤服など足元にも及ばないほどだ。
無論シンの本音を聞いているアスランとしては戦わせたくないという想いもある。
だが彼女らも同行すると決まった今となってはそうも言ってられない。
キラという強大な相手もそうだが、敵軍にはディーヴァの大きさから言って相当数のMSがあるはず。
彼らと戦うためにも少しでも精鋭を揃えたい軍人の自分としては、
彼女の力は喉から手が出るほど欲しいものだった。

 

欲しいもの、なのだが。

 
 

「だけど…だけどな? 1つだけ確認しておきたいことがあるんだが……」
「何よ。復帰に反対っていうのなら認めないけど」
「あ〜、俺も質問。お前が出撃するのってさ。……ガナーで?」

 

自分の言葉にディアッカが口を挟む。己が出した言葉を否定して欲しいような、そんな声。
だが現実は非情だった。

 

「もちろんガナーで。私の射撃の腕、落ちてないし」
「「………………あ」」
「あ?」

 

「「アホかァァァァ!!!!!」」

 

「な、何よいきなり!!」

 

何よ? 何よと来たかこの女。自分のやったことの判断もできんのか。
それなら言ってやろうじゃないか。

 

「誰がお前をガナーなんぞに乗せるかァァァ!! 誤射しまくりやがってこの誤射マリア!!!
 お前がガナーに乗せたら勝てる戦いも勝てんようになるわ!!!」
「つかなんでザクやグフまで落とすんだよ!? さっきの一撃だってダガー1機にザク3機だぞ!?
 お前ザフトに恨みでもあんのかよ!?」
「―――フッ、私の後ろに立つからよ」

 

「「帰れ!!」」

 
 

「……相変わらずだな、あいつ」

その光景を遠くから眺めながら、ヨウランはくたびれた声で呟く。
流石はルナマリア。誤射マリア・必中30・先に愛覚えた等の異名は伊達では無い。
むしろアカデミー時代にシンの愚痴を聞き続けた自分としては、これぐらい想定の範囲内だ。
というか何故ミネルバ時代、彼女はガナーに乗っていたのだろう?

 

「ケント主任、ホークさんのウィザードは何を選択することになるんでしょうか?」
「え? え〜っと……」

 

いつのまにか側に来ていた部下の質問の声に考えを巡らせる。
ガナーは絶対駄目だ。一撃の威力が大きすぎて誤射1発で命取りになる。
シンやアスラン、ディアッカはともかく他のパイロットでは避けれまい。視界の外から来るからなぁアレ。
残ったのはミサイルを有するブレイズか、格闘戦に特化したスラッシュのどちらかだが―――

 

「スラッシュで」
「はい」

 

まあ、妥当な判断だった。

 
 

第15話 『違うでしょそこは笑うトコロ』

 
 

整備主任を名乗る男から、デスティニーのチェックの準備ができたとの連絡が入った。
ちょうど昼寝でもしようかというタイミングだったのだが、こればかりは怠るわけにもいかない。
シンは急いで制服を着込み、MSデッキへと向かうことにした。
ボルテールの中は結構広い。居住区からデッキまではそこそこ時間がかかる。
となると当然、道中いろんな人を見るわけで。現に今も視界の端に人の集まりが映っている。
休憩時間なのだろう。制服の上着を脱いでバレーに興じる少女達や、
キャッチボールをしている少年兵士の姿があった。
軍艦の中は密閉されているうえに娯楽が少ない。
部屋で疲れを取るのも良いが、身体を動かさないとやってられない時がある。昔の自分もそうだった。
同室のレイを誘うと大抵訓練に連れて行かれるので、ヨウランやヴィーノとスポーツとかしていたっけ。
まあそんな回想よりも今はしなきゃならん事があるし、それを早く終わらせて寝よう。

 

「あ、アスカさ〜ん!!」

 

通り過ぎようとした瞬間、バレーをしていた少女のうちの1人がこちらに手を振ってくる。
誰だったか。そう、確かこの間握手したオペレーターの娘だ。
無視するのも可哀想なので軽く手を上げると、少女はバレーボールを抱えたままこちらに走って来た。
残った子たちに渡してから来ればいいのに。

 

「お疲れ様です。どちらに行かれるんですか?」
「ああ、デスティニーのチェックの準備ができたらしいから、ちょっと格納庫にね」
「へえ……あ、あの、私も御一緒していいですか?」

 

MSを見たいとは物好きな。まあブリッジ勤務じゃMSデッキなんかそうは行く機会が無いんだろうけど。

 

「君も? 別に良いけど、面白いものは何も無いと思うぞ?」
「アスカさんさえ良ければぜひ。オペレーターとして機体のことを知っておきたいっていうのもありますし」
「まあ俺は構わないよ。それよりボールは……」

 

抱えたボールに視線を落とす。同時に胸元も視界に入った。
おや、これは?

 

「ボール……?」

 

凄い。ステラやルナ以上だ、これ。
白いTシャツのせいで、バレーボールが3つあるように見える。

 

「着やせするタイプだったのか……」
「え?」
「ああいや、なんでもない。それより皆待ってるみたいだから、ボールは返した方が」
「あ、そうですね。私ったらつい」

 

謝りながら友人の許に駆けていく少女。ボールを渡し、投げ捨てていた緑の上着を拾う。
緑服に覆われていく2つのバレーボールに若干の未練を残しながら、シンは部屋の入り口に振り返る……
……いた。

 

先刻から感じていた視線は3つ。自分が相手を認識したと分かる今でも止める気配が無い。
それはクライン議長の下で働いていたときによく受けていたのと同じ、あまりよろしくない類のもの。
ザフトレッドの少年が3人、鋭い目で自分を見つめていた。

 

「やれやれ、ここでもか」

 

嫉妬に嫌悪、腫れ物に触れるような扱い。
軍にいたころはいつもそうだった。今更気にしても始まらない。

 

「お待たせしました、アスカさん! それじゃ行きましょう」
「ああ」

 

嬉しそうに自分に寄って来る少女。2人肩を並べて部屋から出る。
だが赤服3人の脇を通り過ぎた後、背後から聞こえよがしな陰口が聞こえてきた。

 

「かつてのスーパーエース様か。まったく、女はべらせて良いご身分だよな」
「馬鹿やめろよ、聞こえてんぞ」
「スーパーエースつってもな……俺映像で見たことあるけど、敵が雑魚すぎただけだろありゃ。
 アスラン=ザラにもやられてるし、周りが言うほどの腕じゃねえよ絶対」

 

立ち位置や言葉遣いに雰囲気から察するに、最後の台詞を吐いた金髪の少年がリーダーなのだろう。
シン……ではなくその隣の少女を少し気にしながら、言葉を吐き捨てる。

 

「所詮は英雄もどき、成り損ないだろ。
 そんなのがプラっと戻ってきてどうにかなるほど、MS戦は甘くないさ」

 

まったくもって同感だ。初陣も済ませてなさそうな奴に言われたくは無いが。
てかさっきから視線がチラチラと自分の隣に動いているんだけど。わかりやすいわぁ、この子。
流石にこんな子供にいい気になられてムカつかないわけではないが、
隣にいる少女の怒りのボルテージの方が気になってそれどころではない。
現に今立ち止まっちゃったし。

 

「ちょっと、さっきから黙って聞いてれば言いたいことばっかり言っちゃって……!!
 大体偉そうにしてるけど貴方誰よ!?」

 

オペレーターがそれ言っちゃまずいと思うんだ。
彼女の声に一瞬傷付いた表情を浮かべた少年だったが、すぐにそれを消して少女に突っかかる。

 

「な、なんだと!? 俺たちは赤でMS部隊の……」
「何が赤よ、どうせ私と同期の新米でしょ!? 大物ぶりたいなら初陣くらい済ませてから」
「―――はいそこまで、少し落ち着いて。
 ……聞こえなかった事にしてやるから、お前らもあっちに行きな」
「………チッ」

 

少女の肩に手を置いて口喧嘩を止める。僅かに頬を染めて自分を見上げる彼女。
それを見た少年たちは舌打ちと共に去っていった。

 

「何よあれ!! アスカさんは私たちを助けに来てくれたのに……あんな事言う!?
 特にあの真ん中の金髪、かっこつけて前髪少しだけ垂らしちゃって!!
 オールバックかそうでないかはっきりすれば良いのに……!!」

 

怒りすぎ。あと外見を否定するのは言いすぎ。
いじめ、かっこ悪い。

 

「はいはいストップ、やめよう。君が気にすることじゃないから。……それより、行こうか?」
「で、でも」
「いいから。来ないなら置いてくからな」
「あっ、ちょっと待ってくださいよぅ!!」

 

言葉が終わらないうちに歩き出すと少女は小走りで付いて来た。
遠くから悪意のこもった視線が自分の背中に突き刺さる。やれやれ、悪いの俺じゃないだろが。
背後を振り向かないまま隣の少女に呟いてみた。

 

「随分と俺は嫌われてるようだな。まあ、理由はなんとなくわかるけど」
「すみませんアスカさん。きっと嫉妬してるんですよあの人たち。
 実績とか、デスティニーの事とか。本当にプライドだけは高いんだから!!」
「………どうやら、それだけってわけじゃなさそうだけど」
「へ?」

 

不思議そうに見上げてくる少女。幼い表情に思わず頭を撫でてしまいたくなる。
可愛い童顔。それにに不釣合いの大人顔負けの身体。おまけにブリッジの花形であるオペレーター。
どう考えても原因は彼女だ。
若いオスたちが怒る理由など、時代が変わってもそうそう変わるもんじゃない。
ミネルバ時代のヨウランなんか、アスランへの嫉妬で本当にセイバーの部品ぶっこ抜いていたらしいし。
違う理由でアスランに突っかかってた俺がおかしいだけだ。

 

「まあ別に気にしてないし、昔の俺もあんなもんだった。彼らの気持ちはわかるよ。
 だからもう、この事で君が謝るのは禁止な。」
「はい」

 

素直でいいな。これが若さか。
いやまあ、自分もまだ二十歳いってないんだけれども。

 
 

ようやく目的の場所であるMSデッキへ辿り着いた。だがそこで整備士の1人と遭遇。
伝言を伝えに来た彼の話によると、設定に不備が見つかったのでもう少し待っててくれとの事。
まあ仕方の無いことではあるし、頭を下げる彼に当たってもしょうがない。
邪魔にならない程度にデッキ内の見物でもしよう。
そう結論を出してデッキ内をぶらつこうとした2人に近づく影が一つ。

 

「ということは、今アスカさんはお暇ってことなんですね?」

 

後ろから声を掛けられ振り返る。さっきの3人組のうちの1人、リーダーの金髪だ。
取り巻きは今はいないらしい。
隣の少女に冷たい視線を向けられた際に少し苦い顔をしたが、彼は構わず言葉を続ける。

 

「デスティニーのチェックをする前に、自分に少し付き合って頂きませんか?
 アスカさんはMSに乗るのは久し振りと聞いています。
 ならいきなりデスティニーに乗るよりも、カンを取り戻すためにこっちで
 シミュレータをやってみるというのはどうでしょう?
 自分も貴方の操縦テクニックが見たいですし」

 

先刻とは打って変わって丁寧な言葉。だが言葉には棘がある。
要するにどれほどのもんだか腕を見せてみろと言う事らしい。
断る理由は特に無い。自分もそこまで大人じゃないし、いい加減ムカついてきたのも事実だ。

 

「そうだな。んじゃ、お言葉に甘えようか」

 

目を再び吊り上らせた少女を押さえ、シュミレータの座席に座り込む。
端末を弄ると画面に機体のデータが映った。
ゲイツ、ザク、グフ……懐かしい名前ばかりだ。

 

「ザフトの機体は全部データ入ってるんだな。
 ま、さすがにデスティニーやセカンドシリーズは入っていないか」
「貴方がザフトを去ってから新型は開発されていませんから、その中で知らない機体はないでしょう?
 お好きな機体でどうぞ。なんなら、俺のグフのデータ使いますか?
 条件は五分の方が実力差がはっきりするでしょうし」
「ちょっと貴方、本当に……」
「あ〜、俺は気にしてないから喧嘩しないでくれ。さて、何にするかな……」

 

実は軍人になってから特別な機体ばかりに乗っていたので、あまり汎用機に乗ったことがない。
そして今回のデスティニーも特別な機体だ。
おそらくこの中のどの機体も、デスティニーに乗るシミュレートとしては役に立たないだろう。
ならグフやスラッシュ、ガナーザクウォーリアの様な近接や砲撃のどちらかに偏りがある機体を使うよりも
オールマイティな機体で基本をチェックするくらいでいいか。
どれにしよう。できたら昔乗ったことがあって、軍で習ったことを思い出せる機体がいいのだが。
あ、一個みっけ。

 

「これにするか」

 

その中から一つの機体を選ぶ。自分にとってはかつてよく乗っていた懐かしい機体。
だが、2人の見物人は思わず顔を見合わせる。

 

「アスカさん、その機体って…」
「ちょ、アンタ馬鹿にしてんのか!?なんだってそんな機体を選ぶんだよ!?
 スコアで負けた時の言い訳にでもするつもりか!?」
「別に言い訳も馬鹿にするつもりもないし、そもそもお前なんかと勝負するつもりもない。
 ただ本当にしばらくぶりだから、操縦の基本をチェックしときたいだけだよ俺は。
 それに軍人目指してから今までで、1番長く乗ったMSはこれだしな」
「だからって……」
「これはいくらなんでも……」
「静かに。これよりシミュレーションを開始する」

 

画面に映像が映る。敵として出てきたのは連合軍のダガーやウインダム。ザフトの機械だから当たり前か。
敵のライフルをステップで苦も無く避けながら、傍らの少年に声を掛けた。

 

「ちなみにスコアはどこに出るんだっけ?」
「……右上に表示してますけど。なんですか、スコア気にして。
 やっぱ機体変えたほうがいいんじゃないですか?」
「いや、なんとなく聞いてみただけだ……やべ、この機体シールド無かったの忘れてた。
 まあいいや、当たらなければどうということはないし」
「ほんとに大丈夫なのかなぁ……」

 

心配そうな顔でモニターをみつめるオペレータの少女。だが、

 

「嘘……すご」
「シュミレーションなら剣も折れたりしないし、まあ1対1なら時間は掛かるけど
 デストロイ相手でもなんとかなるさ。
 デストロイのフェイズシフト装甲は無視されてるデータだから、
 間違いなく実戦ではこうもいかないだろうけど」
「……………」

 

その顔が驚きのそれに変わるまで、大した時間はかからなかった。

 
 

「すみません、こちらでお呼びしておいて待たせるなんて。どうかもう少しだけ……」
「ああ、別に構いませんよ。お気になさらずゆっくりどうぞ」

 

シミュレーションが終わっても、まだ作業の方は終わっていなかった。
仕方が無いので未だに付いて来ているオペレーターの少女と共に、現在機体を見ながら雑談中である。
目の前にいるのはかつての相棒。人相の悪いのは相変わらずか。
だが隣の少女の感想は違うようで。

 

「やっぱり格好いいですよね、デスティニー。こう、ダークヒーローって感じで」

 

この子は将来悪い男に引っ掛かりそうな気がする。なんとなく。
言っとくけど、捨て猫に餌やる実は優しい不良なんて現実にはそうはいないんだからな?

 

「重要なのは外見じゃないけどな。どれ、中身の方は……
 一部武装に変化があるものの、操縦方法は特に変更なし。性能は大幅アップ…ってマジか。
 あの性能からさらに大幅にアップって、ありえないよな……」

 

単機で艦隊でも壊滅させるつもりなのだろうか。なんとなく出来そうな気はするけど。

 

「大丈夫ですか? アスカさんが凄いのは十分わかりましたけど、これ今じゃ凄い機体らしいですよ?
 文字通り暴れ馬みたいで、テストじゃ誰もまともに扱えなかったって話を耳にしましたし」
「何だよそれ。俺が乗らなけりゃどうするつもりだったんだ」
「さあ?」

 

機体を見上げる。確かに何かやばそうな気配をデスティニーから感じた。
強い機体特有のオーラと言えば良いのだろうか。

 

「まあ、それくらいじゃないとストライクフリーダムには勝てないんだろうけど……」

 

その言葉と同時に、デスティニーのツインアイが輝いた。
シンを見つめるかの様にしばらく光った後、静かに消える。

 

おそらくは作業中に起こったただの偶然。
だがシンにはデスティニーが 『お前は俺を操れるのか』 と言った気がした。
どうやら自分の力を疑っているらしい。
この野郎、しばらく会わないうちに態度がでかくなりやがって。

 

「―――上等だよ」

 

こちらを見ながら両手で○のサインを作る整備主任。
それを見てシンは機体に向かって歩き出した。
傍らで自分を見上げる少女の存在にも気付かずに、シンはデスティニーを睨みつける。

 

誰が自分の主だったかを思い出させてやる。今すぐ。

 
 
 
 

2人がいなくなったシミュレーター機。そこには今、赤服の少年が1人で呆然と座っている。
心配して近付いてきた友人にも気付かず、焦点の定まらない目でうな垂れていた。
タイトルを付けるなら、 『燃え尽きた灰』 というところだろうか。

 

「何でお前魂抜けたようなツラしてんだよ」
「……何でだ…」

 

少年は友人の声に答えない。仕方がないので、シミュレータの画面を覗き込む。
2位のスコアは彼の名前。そして1位は―――

 

「S・Aか…危なかったなお前。もうちょっとでダブルスコアやられるトコじゃねーか」
「………嘘だ…」
「まあ、相手は英雄だ。ダブルスコアやられなかっただけでも良しとしろや。
 確かお前アカデミーじゃ操縦トップだったろ? たぶん才能には差は無いんだ。
 これから実戦の経験を積めば、そのうち追いつけるよ、きっと」
「………」

 

やはり少年は何も答えない。
焦れた友人は、すぐ傍にいた整備士に声を掛ける。

 

「なあ、何でコイツこんななんだ?」
「さてね。そういやオペレーターの娘もいたから、その娘の前で完敗したんじゃね?
 ほら、あっち見てみ。今も嬉しそうにアスカさんの横をキープしてるじゃん。
 確かそいつ、あの娘狙ってなかったっけ」
「オペレーター……? ああ、あの胸のでかい娘ね。
 可哀想に、技量も恋も完敗とあってはそりゃ呆然とするわな」

 

同情した目で視線を横に向ける。
やっぱり動かない少年の肩に手を回し、ふざけ半分慰め半分で話掛けた。

 

「いいか、ふられたって気にするな。
 女なんて星の数だ。いつかお前にもいい女と巡り合う日が来る。ああ、きっと来るともさ!!」
「……」
「まあ今は悪い夢見たと思って、元気出せや」
「……」
「じゃ、俺は行くぜ」

 

言いたい事を言って去っていく友人。少年はそれを気にする事もなくうな垂れたまま。
だが時間が経って精神が回復してきたのか、目の焦点が合ってきた。
吐き出すように呟く。

 

「ふざけんなよ……ここまでの、差が…」

 

そして嫌そうに画面に目を向け、再びぼそりと呟いた。

 
 

「プロトジンって………」

 
 
 

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