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SEED-IF_CROSS POINT_第16話

Last-modified: 2010-03-03 (水) 02:14:16
 

「ねえねえ、どうなのよ最近。愛しの王子様との関係は」

 

作戦開始を明後日に控えたボルテール。
現在ザフトの宇宙ドックにて補給中だが仕事が無いわけではなく、当然ブリッジは勤務時間だった。
画面を見過ぎて疲れた目に目薬をさしていたオペレーターの少女に同僚が声をかける。
声をかけられた少女は目薬をさし終わるのを待ってから相手に視線を向けた。
どうでも良いが、何故目薬をさす時って口が開いてしまうのだろう。

 

「王子様……ってアスカさんの事?」
「他に誰がいんのよ。傍から見ててあんだけ分かりやすいのもそうはないわよ、ホント」
「そうそう。作戦の開始までもうそんなに時間は無いし、このままじゃ時間切れじゃない。
 いいのそれで?」

 

そうなのである。
現在討伐の準備はほぼ整っており、後はキラの情報を待つのみといった状況だ。
そして彼が勝つにせよ負けるにせよ、戦いが終わればもう会うこともないだろう。

 

「だって、私は別に……それにどうしようも……」

 

その様子に周囲にいた女性クルーたちが集まってくる。
自分が関与しない恋話が女の子の大好物なのは今も昔も変わらない。
そんな周囲の声に芳しくない現状を再確認したのか、少女の声が段々と小さくなっていく。
しかし彼女に対して吐かれる同僚たちの言葉は、とても優しいと言えるものではなかった。

 

「この反応、解説者としてはどう見ますか?」
「日和見とは論外ですなぁ。周りを飛び交うだけで深い所まで攻めず、相手の行動を待つのみ!
 このままでは悲しい思い出、恋愛の敗者になるだけですよ!!」
「傷つくのを恐れて、かあ……ありがちなパターンだよねぇ。哀しい、まったくもって哀しい」
「みんな人事だからって強気な発言ばっか。
 アンタも怒っちゃって良いと思うよ? ま、確かにこのままじゃ負けは見えてるけどね」
「あう………」

 

周囲に味方はいない。四面楚歌。言われ放題のフルボッコである。
だが待って欲しい。彼と自分が出会ってからそんなに日は経っていない。
とりあえず毎日顔を見にデッキまで行ったりして頑張ってはいるものの、
お互いの内面を知るには流石に短過ぎる。
缶コーヒー飲みながら談笑することもたまにあるし、
自分としてはそれだけでもよくやってる方だと思うのだが。

 

「大体みんな、話が極端過ぎるよ。私はこのままでも別に」
「何言ってんのよ。
 このままボケーっとしてて、あの人がわざわざあなたを抱き締めに来てくれるとでも思ってんの!?」
「う……でも」
「まず無いわね。相手は今本国じゃ救世主扱いされてる 『運命の魔剣』 よ?
 女なんてよりどりみどりだろうし」
「そういえばウチの看護婦さんがミネルバ時代に傷物にされたとか言ってたような。
 責任とって貰うんだって」

 

傷物って何されたのかしら。
ほらパイロットってストレス溜まるからアブノーマルな趣味に奔るんじゃない?
いやいやDVとかもありうるわよと下世話な話を始める友人たち。
だが自分にはあの優しい彼が、そんな事をするとは思えない。
おそらく噂話が変な方向に広がったのだろう。きっとそうだ。

 

「そ、そんな筈ないよ、すっごい優しい人だもん。……でも、やっぱりモテるんだね、アスカさん」
「んで恋に敗れたあんたは結局妥協して、身体目当てのどうしようもない男と付き合って後悔しちゃうのよ。
 あのエース気取りの金髪みたいな」
「それはやだなぁ……」
「言うほど悪いとは思わないけどな、彼。
 天狗の鼻を折って10年もじっくりと寝かせれば、きっと良い男に」
「なんて大人な……あんた絶対、年齢誤魔化してるでしょ」

 

そのままボルテールの男性クルーについて話し込む友人たち。このまま有耶無耶にしてしまおう。
そんな淡い期待を抱いた少女だったが敵はそんなに甘くは無かった。
画面に視線を戻そうとした少女にあっさりと気付き、再び問い詰める。
いい加減逃げたいところだが、今は仕事中なので席を立つことができない。

 

「正直女としては最低な手段だけどさ。夜に部屋に行ったら?
 胸押し付けて目でも潤ませれば、既成事実のひとつやふたつ」
「うーんこの際それも有りかなぁ。実際、手段選んでる余裕は無いもんねー。
 アンタの武器なんかその年齢に見合わない脂肪のカタマリくらいだし。
 遺伝子の相性良いか調べてみたら?」

 

自分にあの伝説の 『あててんのよ』 をやれというのか。
確かにリターンは大きそうだが……ってちょっと待て。
他のクルーもいるこんな場所で、しかもそんな内容の話を大きな声で話してしまっては自分の立場がない。

 

「な、なんでそんな方向に話が進むの!? 大体私はまだ15なのに」
「甘い、昨日の夕食のパフェよりも甘い!!」
「そうよ、ゴール狙わずにパスだけ廻して満足したって仕方ないでしょ? 死ぬ気で攻めなさい!!」
「そんな!?」
「青春じゃのー」

 

「君たち、今は仕事中なのだが」

 

追い込まれた少女を助ける為か、それとも仕事の手が止まっている女性陣に辟易したのか。
それまで黙っていた艦長が背後から彼女らに声をかける。
しかし

 

「艦長は黙っててください!! 女の子の一世一代の大勝負なんですよ!?」
「そう、これはこの子の人生の岐路なんです!! 仕事に引けはとらないくらい大事な事だと思います!!」
「そうそう。それにもしかしたら艦長も他人事じゃなくなるかもしれないんだし。最後にする挨拶とか」

 

「………私が悪かった」

 

あっさりと一蹴される。
強面の艦長も、恋話中の女の子には勝てなかった。

 
 

第16話 『綺麗なお兄さんは、好きですか?』

 
 

「あ〜、疲れたなぁ……」

 

腰をさすりながら通路を歩くオペレーターの少女。
無理もない。今日は仕事が多かったため、1日中座りっぱなしでキーボードを叩いていたのだ。
少ない休み時間はずっと、同僚との雑談ばっかりだったし。
この仕事を選んだのは自分の意思だが、こんな時後悔してしまうのは仕方のないことだろう。
早く部屋に帰ってシャワーを浴びて寝よう。食欲はないから夕食は抜きでいいや。
どうせ夕食の献立はガーリックステーキ。食べた後の口臭といい脂肪分といい乙女の大敵なのだから。
そう思いながら居住区に向かって歩いていく少女。
だが自販機の立ち並ぶ休憩室の区画に差しかかった時、彼女の目に1人の男性の姿が映った。
着崩した紅服と少し長めの黒髪。自分の記憶の中では該当する人物は1人しかいない。

 

「なにしてるんだろ?」

 

疲れてはいたが、好奇心の方が勝ったので近付いてみる。
座り込んでコップを握ったまま動かない男性。傍に近付いても反応はない。
そっと顔を覗き込んで―――寝てる。
この人寝てるよこんなとこで。しかもコップの中コーヒー残ってるし。
僅かに彼が動くたび、コップの中のコーヒーが回っている。
ぎりぎり縁で治まってはいるが、次はどうなるかわからない。
見た感じホットのようだし、こぼれたら彼が火傷してしまうかも

 

 「んっ…」

 

って言ってるそばからあぶなー。
別に秋名の下りを攻めているわけではないのだから、これはもう起こした方が良いだろう。
というか今まで誰も起こしてくれなかったんだろうか。
そう思いつつ周囲を見回すが、休憩室には彼の他に人の姿はない。ぶっちゃけ2人っきりだ。
……もしかしてこれは恋愛ゲームのCGイベント的なものだろうか。 『NO.17 伝説のエースの寝顔』 とか。
ならばなんとしてもここでフラグの1本でも建てて―――って何考えてるんだ私は。
ああもう仕事中に友人たちがあんな事言うから。
そんな思考に流されそうになりつつも彼の肩を揺らし、

 

「アスカさん、コーヒーこぼれちゃいますよ」
「ん? ……あぶね」

 

現在、自分の気になる人ランキング第1位 (ぶっちぎり) 。
シン=アスカに声をかけた。

 
 

眠気より色気という訳ではないが、彼を目の前にしたらなんとなく目が冴えてしまった。
温かい紅茶の缶を買ってシンの対面の席に座る。
彼も今までシュミレーションをしていたらしい。その瞼はまだ重そうだ。

 

「今まで頑張ってたのか。大変だな、ほんと」
「これも仕事ですから。一応私、軍人ですし。
 アスカさんこそ今は民間人なのに、こんなことに巻き込まれちゃって」

 

缶から口を離して答える。大変なのはむしろ彼の方だ。
ザフトのエリートから民間人になる際に、いろいろな葛藤があったことだろう。
切り捨てたものもあるかもしれない。
それなのに彼はこの戦場に戻ってきた。正確にはキラ=ヤマトのせいで戻らざるを得なかった。
それはとても辛いことなのではないだろうか。

 

「自分で選んだ道だから仕方がないさ。それに、これも仕事だからな」

 

自分の口調を真似る彼の様子に思わず顔が綻ぶ。
気を使おうとしている自分に対し、逆に気を使ってくれているのか。自分を見つめる視線は優しかった。
……あれ、これもしかして手応えあるんじゃないだろうか。
今が攻めるタイミングなんだろうか。誰か教えて欲しい。
ええい、何故今この時に限って友人たちはいないのだ。

 

「なあ。1つ聞きたいことがあるんだけど、良いかな」
「え? ししし質問ですか?ど、どうぞ」

 

向こうから来た!!
いきなりチャンス到来? 質問って何だろう? 趣味? 好きな食べ物? 好みのタイプ?
スリーサイズならちょっと自信はあるんだけれども。
もしかして本当に 「今夜部屋に来ないか」 とか? それはその…イヤじゃないんだけど。
そのへんは節度もってというか、安い女と思われたくないというか。

 

「なんで君は軍人になったんだ?」
「お友達からっていうのは飛ばしてもいいですけど、最初はデートの後、ムードを高めてっていうか……」
「は?」
「え!? って違う違う違うんです。……えーと、軍人になった理由ですか?」
「差し支えなければでいいんだけど」

 

彼が聞いてきたのは真面目な質問だった。そりゃそうだ、話の流れからいって自分の思考の方がおかしい。
舞い上がった自分が段々と恥ずかしくなってきた。いや、そんなことよりも今は彼との会話だ。
軍人になった理由か。そりゃあ自分にもそれなりの理由があるけれども。
でもどうしよう。そんな良い話でもないし、できたらもっと楽しい話がしたいんだけど。
まあいいか。

 

「私の両親が軍人だったんですけど。……母が亡くなったんです。前大戦の終わりに」
「………レクイエム、か?」
「はい。後方勤務だったのが災いして……。
 でも別に私は、連合やブルーコスモスを滅ぼしたいって訳じゃないんです。
 父さんは一時期そう思ってたみたいですけど。
 お母さんは喧嘩とか出来ない人でしたし、誰かを憎むような人でもなかったですから。
 だからお母さんの代わりに、お父さんとプラントを守ろうって。
 もう私みたいな子供を増やしたくないですから」
「……すごいな、君は」

 

その言葉は嬉しいが、そんなに感心されることでもない。
母さんが死んでしまった背景を想像するよりは、笑顔と楽しい思い出を思い出した方がよっぽど建設的だし、
母さんを殺した誰かを憎むより、落としてしまったバトンを拾って走った方が母さんも喜んでくれるだろう。
そう思っただけのこと。

 

誰かを長い間憎み続けるのは疲れるし、辛い。

 

「それになってみてから分かったんですけど、軍も思ってたほど悪くないです。
 思ったより女性の方はいますし、使う暇ないですけど給料は良いし。
 ……それに、アスカさんにも会えましたから!!」

 

彼はそう言った自分を眩しそうに見ながら目を細める。
そして頭を掻きながら苦笑しつつ、小さな声で呟いた。

 

なんだかなぁ。なんで俺の周りの人間、こうも俺より強いんだろう。

 

「あの、独り言を言うなら人がいないときの方が良いと思いますよ?」
「え? はは、以後気をつけるよ。……なんだろう、君のこと見てるとなんだか妹のことを思い出すな」
「妹さん、ですか……」
「なんとなく似てる。俺を会話でリードするとことか」

 

それは何か。妹としてしか見られてないってことか。女としては見れないってことか。
いや待て逆に考えるんだ 『妹としてしか見られてない』 ではなく
『妹を思い出すくらい距離が近くなった』 と考えるんだ。
そう思考をポジティブに持って行こうとする自分をよそに、妹トークは続く。

 

「女の子の癖にわんぱくっていうか元気なやつでさ。よく追いかけっことかしてたよ」
「追いかけっこですか? へえ……」
「さすがに思春期近くになってくると恥ずかしかったんだけどな。まあ、喜んでくれたから」

 

シン=アスカが妹と追いかけっこ。正直今の彼からは想像できない。
妹相手にキャッキャウフフは無いだろうから、純粋に遊び相手になってあげていたのだろうけど。

 

「妹さんの為に付き合ってあげてたんですか。良いお兄さんだったんですね」
「どうだろうな」

 

追従ではなく本音で言ったのだが、あっさりと否定された。
彼の表情は僅かに暗い。何かあったのか――――まて。
確かシン=アスカには現在家族はいなかった筈だ。と言う事は。

 

「あの子が川に落ちて溺れた時、俺は怖くて飛び込めなかった。
 だから強くなろうと思った。強くなって皆を守ろうと思った。
 でも連合のオーブ侵攻で戦火から逃げた時、俺は少しだけ妹から離れちまった。
 ……結果、目の前で両親とマユは死んだ」

 

マユとは妹さんの名前なのだろう。遠くを見つめながら寂しそうに話す。
そこには英雄や戦士としての顔はみつけられない。
大事なものをただ奪い取られた被害者のそれ。そうか、

 

「結局、守るどころか俺1人生き残っちまったし、
 軍に入って平和を目指しても沢山の命を無駄に奪っただけだった。
 あの時決意した 『大切なものを守る』 っていう誓いも今は捨てちまった。
 今の俺はあの子と何も繋がっていない。
 その隙間がぽっかり空いたまま――――何言ってんだ俺は。すまん、忘れてくれ」
「いえ……」

 

この人も自分と同じなんだ。
なら、私が言ってあげる事ができる言葉は。

 

「いっぱい戦って傷ついて、それでもまだ妹さんの事を忘れずに考え続けているんですよね。
 ……ならその想いはきっと、妹さんに届いていますよ」
「あ? ……いやそう言ってくれるのは嬉しいけどさ。死んじまった人間の思いなんて他人にわかるわけ」
「絶対そうです。断言しても良いです。
 以前父さんが 『母さんはお前のそんな顔は見たくないだろう』 って言ってくれたんですけど、
 今のアスカさんにもそれはあてはまると思います。
 大好きなお兄ちゃんの悲しい顔なんて、いつまでも見ていて嬉しいものじゃないと思いますし。
 アスカさんだって立場が逆で妹さんがずっと引き摺ってたら、あの世で笑うなんてできないでしょ?」

 

少なくとも私は無理だし。

 

「……そんなもんなのか?」
「そんなもんです。だからアスカさんも、あんまり引き摺らない方が良いと思います。
 だって本人から責められているわけでもないのに自分だけ後ろ向きでいるのって、疲れるじゃないですか」

 

悲しんで、悔やんで、憎んで。
首謀者が死んだら死んだで今度は自分への怒りを収める事ができずにもがく。
あんなのは昔のお父さんだけで十分だ。

 

「結構ハッキリと言ってくれるんだな。まあ、それで生き方変えられたら苦労はしないけど。でも」

 

溜息の後、少しだけ彼は頬を緩めた。
いつもの大人びた表情から年齢相応の (と言っても自分より年上だが) それが僅かに零れる。
それを見てなんとなく思った。彼は誰かに言って欲しかったんじゃないだろうか。
今の貴方も、きっと妹さんは大好きですよと。

 

「ありがとな」

 

優しい笑顔。これがゲームのキャラなら思わず顔を赤く染めてドキドキするところだろう。
だが甘い。あまりにもタイミングが露骨過ぎる。
確かにクるものはあるが、私はニコッでポッと落ちるような頭の悪い女じゃない。
私を落としたければ不意打ちで頭を撫でるくらいってそれナデポじゃないか迂闊私

 

「眠たくなってきたな俺」

 

ってわー馬鹿ぁー。
トリップしてアスカさんを無視しちゃったじゃないか。まずいこんなとこ見られて何て思われただろう。
恐る恐る彼の様子を窺うが、彼はめっちゃ眠そうでこっち見てなかった。
ちょい待てなんだそれ。いや今確かに眠たくなってきたとか言ってたけれども。
ここ普通は私の変化する表情とか焦る様を見て、可愛いとか思うもんじゃないのだろうか。
私の演説に少しだけ異性として意識するとかするもんじゃないのだろうか。
なにこのフラグブレイカー。

 

「ん? ………悪い、ちょっと聞いてなかった」

 

見ればわかる。
なんだかなぁ。真面目な話はちゃんと続くのに、
少しでも欲を出すと邪魔が入ったり空振ったりするのはなんでだろう。
正直ここまで空振りが続くと、近付こうとする気が少し萎えて

 

「ゴメンな」

 

わざとやってるのか畜生。
優しい目で見るなぁー。真っ直ぐみつめるなぁー。惚れてまうやろー。
ごめん、ちょっとネタが古すぎた。

 

「……すみません。休んでたんですよね。
 私のことはお気になさらず、寝てていいですよ。できれば部屋に戻った方がいいとは思いますけど。
 私も残ってるの飲み干したら、部屋に戻りますから」
「………ごめん」

 

手に持った缶を振って見せながら優しく微笑んでみると、彼からは申し訳なさそうな声が返ってきた。
そのまま彼は腕を組んで背もたれに体重を預ける。そのすぐ後にがくりと落ちる頭。
意識が落ちたのが傍目からでも分かった。
お休み3秒か。本当に疲れていたのだろう、もう寝息までたてている。
前髪越しに穏やかな寝顔が見えた。
なんていうかその、年上の癖に可愛い……と言っても良いのだろうか。
母性本能とやらにビシビシくるのだが。

 

「無防備だなぁ……」

 

缶を机の上に置きながら彼女はそっと呟いた。実は中身は既に無くなっている。
自分とて年頃のおんなのこ。ちょっとくらいこの胸に宿る微妙な感情を楽しんでもいいだろう。
周囲に誰もいないのを再確認して、彼の方へ寄った。肩や太腿がそっと触れ合うが、彼が起きる様子はない。
シンに顔を向ける。目に映ったのは彼の唇。思わずごくりと唾を飲み込んだ。
いやいや今のは無し。確かにどきりとしたけれども今のはキャンセルで。
大体唇見て興奮だなんてどこのオッサンだ。
これはマズい、いつもの自分に戻らねば。
素数を数えてこの間見た父親の怖い顔や今日したミスを思い出して―――よし復活。
今の自分なら再び彼の顔を見たところで

 

「うわぁ………」

 

無理でした。

 

ああもう認めよう。彼の存在がどんどん自分の心の中に侵食していくことを。
だけどここまで。本当にここまで。既に手遅れのような気がかなりするが絶対にここまで。
確かに体が触れているのは嬉しいし彼の髪を手で梳いてみたいし
ほっぺた突付きたいしキスくらいなら全然OKかなって思うけれども。
今は作戦中だしそれが終わればお別れだし彼は英雄で遠い存在だし。
何よりファンだったとは言え出会って数日で落とされるというのは乙女のプライドが……。
だからこれ以上近づかない方が良い、と固く決心した。

 

したのだが。

 

「もうちょっとだけ……もうちょっとだけ、こうしててもいいよね……」

 

つんつん。すりすり。くんくん……むう、大人のニオイ。クラクラしてきた。

 

自分の身体は、しばらく言うことを聞きませんでした。

 
 

――――――綺麗なお兄さんは、好きですか?

 
 

子供産みてぇ。

 
 
 

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